説明

車両用窓ガラスの給電構造及び車両用窓ガラス並びに車両用窓ガラスの製造方法

【課題】本発明は、車両用窓ガラスの給電構造及び車両用窓ガラス並びに車両用窓ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、半田による接合に代えて、導電性接着剤26による端子18の接着を実施する。この導電性接着剤26は、常温で硬化して導電及び接着機能を発揮する特質を持つ。つまり、本発明のウインドシールド10は、まず、ウインドシールド10の面上に導電体14を形成し、次に、導電体14の給電点16に端子18を導電性接着剤26によって接着し、次いで、端子18を粘着テープ28によってウインドシールド10に接着することにより製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用窓ガラスの給電構造及び車両用窓ガラス並びに車両用窓ガラスの製造方法に係り、特に自動車用窓ガラスに形成された導電体に電流を供給するための車両用窓ガラスの給電構造及び車両用窓ガラス並びに車両用窓ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のリアガラスやサイドガラスにはガラスの曇りを防止する防曇用ヒータが備えられている場合が多く、さらに、寒冷地仕様の車両には、ウインドシールドのワイパーブレードの凍結を防止するためにワイパーブレードの待機位置付近のガラスを加熱する導電体(電熱線)がウインドシールドに形成されているものがある。これらの防曇や加熱用の導電体は、TV放送波の電波の受信、AM/FM放送波の電波の受信、及びPHSなどの広帯域な電波を送受信するアンテナなどの微弱電流が供給される導電体と比較して、大電流(1A以上)が供給される。
【0003】
導電体には給電点が形成されており、この給電点に通電のための端子が接合されることにより、この端子を介して電流が車体側の電源部から供給される。
【0004】
給電点に対する端子の接合には、一般にPbを含む半田、例えば、Pb−Sn−Bi−Ag系の半田が用いられてきたが、廃棄処分時にPbを含む半田を処理するのに手間がかかること、及び欧州でのELV(廃棄自動車)指令、WEEE&RoHS(廃棄電気電子機器)指令など各国でPbを含んだ半田の使用に対する規制が検討され始めていることから、車両用窓ガラスの端子の接着においても半田による接合以外の接着方法が要望されてきている。
【0005】
一方、特許文献1には、導電成分と緩衝成分とを含みPbを含まない半田を使用して端子を給電点に接合する技術が開示されているが、この技術が適用されるガラス板は、熱的衝撃(サーマルショック)を与えても強度がさほど低下しにくい強化ガラスを対象としている。つまり、強化されていない2枚のガラス板を、中間膜を介して加熱圧着して構成される合わせガラスに特許文献1の技術を適用すると、半田が塗布されるガラス板の一部に、高温の半田に起因するサーマルショックによる残留応力が発生するため、合わせガラスのガラス板の強度が低下し、ガラス板が破損するという問題があった。よって、特許文献1の技術は、車両のウインドシールドである合わせガラスには適用することができなかった。
【特許文献1】WO 2006/016588 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、半田を用いることなく導電体の給電点に端子を良好に接着することができる車両用窓ガラスの給電構造及び車両用窓ガラス並びに車両用窓ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、前記目的を達成するために、車両用窓ガラスの面上に導電体が形成されるとともに、該導電体の給電点に端子が接続され、該端子を介して電流が前記導電体に供給される車両用窓ガラスの給電構造において、前記端子は、常温で硬化させて導電及び接着機能を発揮する導電性接着剤によって前記給電点に接着されるとともに、接着部材によって車両用窓ガラスに固定されることを特徴とする車両用窓ガラスの給電構造を提供する。
【0008】
本発明によれば、前記目的を達成するために、本発明の車両用窓ガラスの給電構造が搭載されたことを特徴とする車両用窓ガラスを提供する。
【0009】
本発明によれば、前記目的を達成するために、車両用窓ガラスの面上に導電体を形成する工程と、前記導電体の給電点に端子および/または導電体上に導電性接着材を塗布する工程と、前記端子と前記導電体とを導電性接着材を介して仮保持する工程と、前記端子を接着部材によって車両用窓ガラスに固定する工程と、前記導電性接着材が常温で硬化する工程と、を備え、前記導電体の給電点に端子を、硬化後の前記導電性接着材が導電及び接着機能を発揮し、前記導電性接着剤によって接着されるとともに前記接着部材によって、前記端子が車両用窓ガラスに固定されることを特徴とする車両用窓ガラスの製造方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、半田による接合に代えて、導電性接着剤による端子の接着を実施する。この導電性接着剤は、常温で硬化して導電及び接着機能を発揮する特質を持つ。つまり、本発明の車両用窓ガラスは、まず、車両用窓ガラスの面上に導電体を形成し、次に、導電体の給電点に端子を前記導電性接着剤よって仮保持し、次いで、端子を接着部材によって車両用窓ガラスに固定させることにより製造される。
【0011】
前記接着部材は、導電性接着剤の接着力の補強と硬化するまでの端子の保持を目的としたものであり、粘着テープを例示できる。これにより、端子を給電点に十分な接着力で接着することができる。
【0012】
以上の如く本発明によれば、半田を用いることなく導電体の給電点に端子を良好に接着することができ、また、半田を用いることなく導電体の給電点に端子を良好に接着した車両用窓ガラスを提供できる。
【0013】
本発明の車両用窓ガラスとしては、強化ガラス、合わせガラスを適用することができる。合わせガラスの場合は、中間膜を介して2枚のガラス板を加熱圧着した後、上記製造方法の手順で給電構造を製造する。
【0014】
本発明によれば、前記導電性接着剤は、常温で硬化する公知の導電性接着材が利用可能であるたが、導電性エポキシ系接着剤または導電性アクリル系接着剤であることが好ましく、導電体としてAgやNiを含むものが好ましい。また、二液型エポキシ系導電接着剤で、80℃以下で硬化するものがさらに好ましい。これにより、常温で硬化して導電及び接着機能を発揮する導電性接着剤を提供することができる。なお、本発明において接着剤とは、恒久的に接着性能を発揮する汎用の接着材に加え、再剥離性を備えた粘着(感圧接着)剤や接着時点では粘着剤的な性質を示す粘接着剤なども含むものとする。また、本発明で常温とは、20℃±15℃(5〜35℃)の範囲(JIS Z 8703)を指すものとする。
【0015】
本発明によれば、前記端子、及び前記接着部材は、防水加工部材によって前記車両用窓ガラスに封着されることが好ましい。具体的には、端子及び接着部材が取り付けられているガラス板側にプライマーを塗布し、シーリング材であるシリコーンシーラントを打設する。このシリコーンシーラントは室温にて15時間〜5日で硬化する。これにより、給電点、端子、及び接着部材の防水性が向上する。なお、端子に接着部材を取り付け、この接着部材にシーリング材を粘着したものを同時にガラス板側に取り付けるようにしてもよい。また、ホットメルトなどの熱硬化性の樹脂により封着することもできる。また、ここでは接着部材と防水加工部材が異なる構成を例示したが、接着部材が水封機能を備え防水加工部材をかねることも可能である。
【0016】
本発明によれば、前記端子に給電される電流値が1〜30Aに設定することができ、前記端子の通電側に接着された給電線と前記給電点に接着された導電体との間の電気抵抗値が100mΩ以下であることが好ましい。給電部に通電して防曇や所望の加熱性能を得るための電流を確保し、同時に給電点の加熱を防止して接着強度や導電性を担保できるからである。
【0017】
本発明によれば、10Aの電流を前記端子に30分間供給した時の該端子の温度が80℃以下であり、該端子の前記給電点に対する接着強度が79N以上であることが好ましい。
【0018】
一般に強化ガラスを用いる車両のリアガラスには、防曇用ヒータが形成される。一方で合わせガラスは主に車両のウインドシールドに適用され、ウインドシールドには、防曇用に加えてワイパーブレートの加熱用熱線としての導電体が形成されることがある。これらの加熱用熱線は、アンテナなどの微弱電流が供給される導電体と比較して、大電流が供給されるため、端子と給電点との間の電気抵抗によって端子が昇温する。この端子の昇温を抑制しなければ、ガラス板自体にサーマルショックを与えるおそれがあるとともに、その近傍に配置された回路部品または樹脂部品に悪影響を与える。このため、端子の昇温に関し一定の評価基準が設定されている。その評価基準は、10Aの電流を端子に30分間供給したときの端子の温度が80℃以下というものである。また、その温度(80℃以下)を達成するには、前記端子の通電側と前記給電点に接着された導電体との間の電気抵抗値が100mΩ以下であることが好ましい。また、回路の大きさと発熱量を考慮して未強化のガラス板を用いる合わせガラスに供給される電流値は1〜10Aに設定することが好ましく、強化ガラスの場合には10〜30Aに設定することが好ましい。
【0019】
一方、接着強度とは、端子の引張強度であり、給電点に対して端子をガラス面内方向に引っ張って、端子が給電点から剥離したときの引張強度である。具体的には、導電性接着剤が硬化した端子をガラス板の面内方向にプッシュプルゲージを介して引っ張り、端子が給電点から剥離したときの数値をプッシュプルゲージにより測定した値である。この評価基準として、79N以上であることが設定され、本発明の車両用窓ガラスの給電構造は、その評価基準を上回ることができる。
【0020】
本発明によれば、前記車両用窓ガラスの給電点近傍の破壊強度が60MPa以上であることが好ましい。具体的には、車両用窓ガラスの給電構造部の裏面に錘を落下させ、車両用窓ガラスが破損したときの錘の落下高さから破壊強度を評価する。本発明の車両用窓ガラスの給電構造は、その評価基準を上回ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る車両用窓ガラスの給電構造、及び車両用窓ガラスの製造方法によれば、破壊強度の高くないガラス板に対して半田を用いることなく導電体の給電点に端子を良好に接着することができ、また、半田を用いることなく導電体の給電点に端子を良好に接着した車両用窓ガラスを提供できる。その結果、Pbを含有した半田や半田付けに用いる酸化性のフラックスを用いないため有害物質を使用することなく取り付けが可能で取付時や使用中にVOCの発生も少ない、環境にやさしい端子取付構造を実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面に従って本発明に係る車両用窓ガラスの給電構造及び車両用窓ガラス並びに車両用窓ガラスの製造方法の好ましい実施の形態を詳説する。
【0023】
図1は、実施の形態の車両用窓ガラスが適用された車両用ウインドシールド(以下、ウインドシールドと略称する)10の平面図、図2は、図1のA−A線に沿う断面図であり、実施の形態の給電構造を示した拡大断面図である。なお、実施の形態では、車両用窓ガラスとして合わせガラスであるウインドシールド10を例示するが、ウインドシールドに限定されるものではなく、リアガラス、サイドガラス、ルーフガラスにも適用できる。また、合わせガラスに限定されるものではなく、ガラスの破壊強度を一般の強化ガラスよりも低く設計したガラス板(所謂半強化ガラス)、1枚のガラスで構成されガラス板に機能性フィルムなどを貼着したフィルム付きガラス(所謂バイレイヤーガラス)にも適用することができる。また、本願発明の給電構造は、給電点近傍の破壊強度の十分高い強化ガラスに適用してもその有害物、VOCの削減などの本願の効果を損するものではない。
【0024】
本発明に用いられるが1枚の板ガラスの厚さは、1〜6mmが車両用のガラスに用いられるガラス基板として望ましい。さらに1〜2.3mmであれば車両用合わせガラス用の基板として好適であり、1.8mm以下であれば、さらに合わせガラスの軽量化にも寄与する。2.3〜6mmであれば強化ガラスの基板として適用が可能あり、また給電点近傍の破壊強度も維持しやすい。さらに2.5〜3.5mmであれば汎用の車両用の強化ガラス製造装置にて製造できてコスト的に有利である。また、3mm以下であれば強化ガラスの軽量化への寄与が大きい。
【0025】
図1に示すようにウインドシールド10の周辺部には、所謂「黒セラ」と称される遮蔽層12が帯状に形成されている。この遮蔽層12は、黒セラ印刷用インクをガラス面に塗布し、これを焼き付けることにより形成される。この遮蔽層12によって、ウインドシールド10の周辺部に黒色不透明層が形成され、この黒色不透明層によって、ウインドシールド10をその周辺で保持しているウレタンシーラントの紫外線による劣化が防止されるとともに、ウインドシールド10の周辺に取り付けられている導電体14の図2に示す給電点16、及び端子18などが車外から透視できないようになっている。
【0026】
なお、図2において遮蔽層12は省略しているが、この遮蔽層12は、ウインドシールド10を構成する車外側のガラス板20の周辺部に形成され、この遮蔽層12の表層に導電体14が形成されている。この導電体14は、ウインドシールド10のワイパーブレード(不図示)を加熱する電熱線であり、車体側の電源部であるバッテリから大電流(1A以上)が供給される。また、この導電体14は、導電性銀ペーストを遮蔽層12上にスクリーン印刷したり、導電性トナーを電子印刷したりして塗布した後、焼き付けることにより形成される。
【0027】
図2において、符号22は、ウインドシールド10を構成する車内側のガラス板であり、このガラス板22とガラス板20とでPVBなどの樹脂からなる中間膜24を挟み込み、これをオートクレーブ装置にて加熱圧着(加熱条件:130℃、15分)することによりウインドシールド10である合わせガラスが構成される。また、符号26は、給電点16に端子18を接着する導電性接着剤(後述する)であり、符号28は、端子18をガラス板20に接着する粘着テープ(接着部材)、符号30は、端子18及び粘着テープ28を封止するシリコーンシーラント(防水加工部材)である。このシリコーンシーラント30は、図3に示す車内側のガラス板22に予め形成された円弧状の切欠部23、すなわち、車外側のガラス板20に形成された給電点16を露出するために形成された切欠部23による凹部を埋めるように接着される。これにより、給電点16、端子18、粘着テープ28がシリコーンシーラント30によって封着されるので、給電点16、端子18、粘着テープ28が隠ぺいされて給電構造の防水性が向上されている。
【0028】
ところで、実施の形態の導電性接着剤26は、常温で硬化して導電及び接着機能を発揮する特質を持つ。一例として、株式会社ケムトロニクス社製の商品名「CW2400」(エポキシ/Ag系2液:硬化条件25℃、1日)を例示できる。
【0029】
図4には、ウインドシールド10の製造工程が示されている。
【0030】
この製造工程によれば、まず、ウインドシールド10のサイズに切断加工された曲げ成形前のガラス板20(22)を洗浄部32によって洗浄する。なお、車内側のガラス板22は、この時点で切欠部23が既に形成されている。
【0031】
次に、洗浄されたガラス板20(22)を曲げ成形炉34に搬入し、ここで曲げ成形可能な温度にガラス板20(22)を加熱するとともに、プレス装置、又は自重によりウインドシールドの曲面に沿った曲率に曲げ成形する。なお、車外側のガラス板20は、曲げ成形前に遮蔽層12、及び導電体14が予め塗布されており、曲げ成形炉34の熱により遮蔽層12、及び導電体14がガラス板20に焼き付けられる。
【0032】
次いで、曲げ成形されたガラス板20(22)を、洗浄部36によって洗浄した後、中間膜挿入部38において、車外側のガラス板22に車内側のガラス板22を、中間膜24を介して重ね合わせる。これにより、車内側のガラス板22の切欠部23から給電点16が露出する。
【0033】
そして、オートクレーブ装置40による加熱圧着工程で、中間膜24を挟んだガラス板20、22を130℃、15分の加熱条件で加熱圧着する。これにより、合わせガラスであるウインドシールド10が製造される。
【0034】
そして、常温まで冷却されたウインドシールド10の切欠部23から露出している給電点16に、端子18を導電性接着剤26によって接着し、更に、端子18を粘着テープ28によってガラス板20に接着する。
【0035】
そして、次工程で、粘着テープ28の表面にプライマーを塗布し、その上からシリコーンシーラント30を、切欠部23の凹部を埋めるように打設する。このシリコーンシーラント30は室温にて15時間から5日で硬化する。これにより、給電点16、端子18、及び粘着テープ28の防水性が向上される。なお、端子18に粘着テープ28を取り付け、この粘着テープ28にシリコーンシーラント30を粘着したものを同時に切欠部23の凹部に取り付けるようにしてもよい。
【0036】
粘着テープ28は、導電性接着剤26の接着力の補強と硬化するまでの端子18の保持を目的としたものであり、例えば、綜研化学株式会社製の商品名「J−7710」を例示できる。これにより、端子18を給電点16に十分な接着力で接着することができる。
【0037】
したがって、実施の形態の給電構造によれば、半田を用いることなく導電体14の給電点16に端子18を良好に接着することができる。また、半田を用いることなく給電点16に端子18を良好に接着したウインドシールド10を提供できる。
【0038】
実施の形態の導電性接着剤26の組成は、エポキシ樹脂に硬化剤と導電体である銀粒子を含む二液型エポキシ−銀系導電接着剤である。これにより、常温で硬化して導電及び接着機能を発揮する導電性接着剤を提供することができる。
【0039】
また、実施の形態では、端子18に給電される電流値が1〜30Aであり、端子18と給電点16との間の電気抵抗値、すなわち、硬化した導電性接着剤26の電気抵抗値が100mΩ以下であることが好ましい。このとき、電流値は直流電源装置(高砂製作所製)の設定値である。このときの端子の接着面積は、4mm角(16mm)であり、導電性接着材の厚みは0.1〜0.3mmとなるように固定した。また、電気抵抗値は、端子の通電側に接着された給電線と前記給電点に接着された導電体との間の値を給電構造の抵抗値として測定している。電気抵抗値は公知の方法で測定することができるが、ここでは、ミリオームハイテスタ(日置エンジニアリングサービス株式会社製)によって測定を行った。
【0040】
更に、10Aの電流を端子18に30分間供給した時の端子18の温度が80℃以下であり、端子18の給電点16に対する接着強度が79N以上であることが好ましく、さらに好ましくは120N以上である。
【0041】
実施の形態の導電体14は、防曇用ヒータやアンテナなどの微弱電流が供給される導電体と比較して、大電流が供給されるため、端子18と給電点16との間の電気抵抗によって端子18が昇温する。この端子18の昇温を抑制しなければ、ガラス板20、22自体にサーマルショックを与えるとともに、その近傍に配置された回路部品または樹脂部品に悪影響を与えるおそれがあるため、一定の評価基準が設定されている。その評価基準は、10Aの電流を端子に30分間供給したときの端子の温度が80℃以下というものである。また、その温度(80℃以下)を達成するには、端子と給電点との間の電気抵抗値が100mΩ以下であることが好ましく、さらに好ましくは50mΩ以下である。
【0042】
実施の形態の給電構造によれば、端子18に10Aを30分間供給したときの端子18の温度は50℃であり、評価基準を満足した。比較例であるが、導電性接着剤として、株式会社スリーボンド製の商品名「TB3381」(アクリル/Ni系2液:硬化条件25℃、15時間)では、10Aの電流を端子に30分間供給したときの端子の温度が100℃であった。なお、サーマルショックを考慮して合わせガラスに供給される電流値は1〜10Aが好ましく、強化ガラスの場合には10〜30Aであることが好ましい。
【0043】
一方、接着強度とは、端子18の引張強度であり、給電点16に対して端子18をガラス面内方向に引っ張って、端子18が給電点16から剥離したときの引張強度である。
【0044】
具体的には、導電性接着剤26が硬化した端子18をガラス板20の面内方向にプッシュプルゲージを介して引っ張り、端子18が給電点16から剥離したときの数値をプッシュプルゲージにより測定した値である。このときの端子は、前述の抵抗値の測定時と同様に固定した。この評価基準として、79N以上であることが設定され、実施の形態の給電構造では210Nであり、評価基準を満足した。
【0045】
また、このとき給電点近傍の車外側のガラス板20の破壊強度が60MPa以上であることが好ましい。
【0046】
本願において給電点の近傍とは以下の評価方法で測定される範囲を指すものとする。具体的には、ウインドシールド10の給電構造部の裏側に錘を落下させ、車外側のガラス板20が破損したときの錘の落下高さから破壊強度を評価する。実施の形態のウインドシールド10の給電点近傍の破壊強度は70MPaであり、評価基準を満足した。
【0047】
図5に本発明の他の態様として、本発明をバイレイヤガラスに適応した例を示した。バイレイヤガラスはサンルーフなどウインドシールド以外の部位に好適に用いられる。単板ガラス50の表層には飛散防止フィルム52が貼着されており、給電部周辺は導電体14を露出するように飛散防止フィルム52が切り欠かれている。単板ガラス50の給電部表層には導電体14が形成され、さらに導電性接着剤層26を介して端子18が接着されている。端子18はさらに、粘着テープ(接着部材)28によりガラス板20に固定される。端子18及び粘着テープ28は、シリコーンシーラント(シーリング材)によって、されに封着されてもよい。
【0048】
導電体14は、防曇や氷雪の融解を目的とした電熱線でもよく、ガラス表面に形成されたアンテナ線、防盗センサー、ITSに用いられる各種センサーでもよい。さらに、開口部に設けられた調光ガラスの制御や電子部材などの回路でもよい。また、この導電体14は、導電性銀ペーストを遮蔽層12上にスクリーン印刷したり、導電性トナーを電子印刷したりして塗布した後、焼き付けることにより形成される。単板ガラス50の周縁部には図2において遮蔽層12が形成されてもよい。
【0049】
シリコーンシーラント30は、単板ガラス板50に形成された給電点16を覆うように接着される。これにより、給電点16、端子18、粘着テープ28がシリコーンシーラント30によって封着されるので、給電点16、端子18、粘着テープ28が隠ぺいされて給電構造の防水性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施の形態の車両用窓ガラスが適用されたウインドシールドの平面図
【図2】図1のA−A線に沿う断面図
【図3】実施の形態のウインドシールドの給電構造を示した斜視図
【図4】実施の形態のウインドシールドの製造工程を示した説明図
【図5】他の実施の形態のバイレイヤガラスの給電構造を示した断面図
【符号の説明】
【0051】
10…ウインドシールド、11…バイレイヤガラス、12…遮蔽層、14…導電体、16…給電点、18…端子、20…車外側のガラス板、22…車内側のガラス板、23…切欠部、24…中間膜、26…導電性接着剤、28…粘着テープ、30…シリコーンシーラント、32…洗浄部、34…曲げ成形炉、36…洗浄部、38…中間膜挿入部、40…オートクレーブ装置、50…単版ガラス、52…飛散防止フィルム(樹脂フィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用窓ガラスの面上に導電体が形成されるとともに、該導電体の給電点に端子が接続され、該端子を介して電流が前記導電体に供給される車両用窓ガラスの給電構造において、
前記端子は、常温で硬化して導電及び接着機能を発揮する導電性接着剤によって前記給電点に接着されるとともに、接着部材によって車両用窓ガラスに固定されることを特徴とする車両用窓ガラスの給電構造。
【請求項2】
前記導電性接着剤は、導電性エポキシ系接着剤または導電性アクリル系接着剤である請求項1に記載の車両用窓ガラスの給電構造。
【請求項3】
前記端子、及び前記接着部材は、防水加工部材によって前記車両用窓ガラスに封着される請求項1、又は2に記載の車両用窓ガラスの給電構造。
【請求項4】
前記端子に給電される電流値が1〜30Aであり、前記端子と前記給電点との間の電気抵抗値が100mΩ以下である請求項1、2又は3のいずれかに記載の車両用窓ガラスの給電構造。
【請求項5】
10Aの電流を前記端子に30分間供給した時の該端子の温度が80℃以下であり、該端子の前記給電点に対する接着強度が79N以上である請求項1、2又は3のいずれかに記載の車両用窓ガラスの給電構造。
【請求項6】
前記車両用窓ガラスの給電点近傍の破壊強度が60MPa以上である請求項1、2、3、4又は5のいずれかに記載の車両用窓ガラスの給電構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の車両用窓ガラスの給電構造を備えることを特徴とする車両用窓ガラス。
【請求項8】
車両用窓ガラスの面上に導電体を形成する工程と、
前記導電体の給電点に端子および/または導電体上に導電性接着材を塗布する工程と、
前記端子と前記導電体とを導電性接着材を介して仮保持する工程と、
前記端子を接着部材によって車両用窓ガラスに固定する工程と、
前記導電性接着材が常温で硬化する工程と、
を備え、前記導電体の給電点に端子を、硬化後の前記導電性接着材が導電及び接着機能を発揮し、前記導電性接着剤によって接着されるとともに前記接着部材によって、前記端子が車両用窓ガラスに固定されることを特徴とする車両用窓ガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−70414(P2010−70414A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239236(P2008−239236)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】