説明

車両用自動変速機の油圧制御装置

【目的】 シフトレバーが後進走行レンジへ操作されてから後進ギヤ段が成立されるまでに遅れのない車両用自動変速機の油圧制御装置を提供する。
【構成】 シフトレバー72が前進レンジへ操作されているときには、切換弁140によって油圧アクチュエータB3aとB3アキュムレータ96との間が連通させられるので、所定の第2速ギヤ段の成立に際してクラッチツウクラッチ変速作動が円滑に実行される。また、シフトレバー72が後進レンジへ操作されたときには、切換弁140によって油圧アクチュエータB3aとB3アキュムレータ96との間が遮断されることから、油圧アクチュエータB3aへ供給される作動油がB3アキュムレータ96にて消費されることがなく、シフトレバー72が後進走行レンジへ操作されてから後進ギヤ段が成立されるまでの遅れが解消される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両用自動変速機の油圧制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】複数の油圧式摩擦係合装置が選択的に作動させられることにより複数の前進ギヤ段および後進ギヤ段のうちの1つが選択的に成立させられる自動変速機において、所定の前進ギヤ段と後進ギヤ段とをそれぞれ成立させるための共通の油圧式摩擦係合装置を係合させる油圧アクチュエータに作動油を供給する形式の油圧制御装置がある。このような形式の油圧制御装置では、通常は、上記共通の油圧式摩擦係合装置を係合させるための油圧アクチュエータにはアキュムレータが接続されていない。
【0003】ところで、上記所定の前進ギヤ段を成立させる際において例えば他の油圧式摩擦係合装置の開放作動に続いて前記共通の油圧式摩擦係合装置の係合作動が行われる変速作動が必要とされる場合がある。このような場合には、上記共通の油圧式摩擦係合装置を係合させるための油圧アクチュエータにアキュムレータが接続されるとともに、必要に応じてそのアキュムレータの背圧が制御されることにより、上記所定の前進ギヤ段の成立に際しては円滑な変速作動が得られるようにされる。たとえば、特願平3−344123号の明細書に記載された装置がそれである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記のような場合には、シフト操作手段が前進走行レンジ或いはニュートラルレンジから後進走行レンジへ操作されると、前記共通の油圧式摩擦係合装置を係合させる油圧アクチュエータへ供給される作動油の一部がアキュムレータにより消費されることから、後進ギヤ段の成立に遅れが発生して運転者に違和感を与える欠点があった。
【0005】本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、シフト操作手段が後進走行レンジへ操作されてから後進ギヤ段が成立されるまでに遅れのない車両用自動変速機の油圧制御装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、複数の摩擦係合装置を選択的に作動させることにより複数の前進ギヤ段および後進ギヤ段のうちの1つが成立させられる車両用自動変速機において、所定の前進ギヤ段と後進ギヤ段とを成立させるための共通の油圧式摩擦係合装置を係合させる油圧アクチュエータに作動油を供給する一方、該所定の前進ギヤ段を成立させる際には該油圧アクチュエータの作動油の立ち上がりをアキュムレータにより制御する形式の油圧制御装置であって、(a) シフト操作手段と、(b) 前記共通の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータと前記アキュムレータとの間に設けられ、前記シフト操作手段が前進レンジへ操作されているときには該油圧アクチュエータとアキュムレータとの間を連通させるが、該シフト操作手段が後進レンジへ操作されているときには該油圧アクチュエータとアキュムレータとの間を遮断する切換弁装置とを、含むことにある。
【0007】
【作用】このようにすれば、シフト操作手段が前進レンジへ操作されているときには、切換弁装置によって油圧アクチュエータとアキュムレータとの間が連通させられるので、所定の前進ギヤ段の成立に際して変速作動が円滑に実行される。また、シフト操作手段が後進レンジへ操作されているときには、切換弁装置によって油圧アクチュエータとアキュムレータとの間が遮断されることから、油圧アクチュエータへ供給される作動油がアキュムレータにて消費されることがない。
【0008】
【発明の効果】したがって、本発明によれば、シフト操作手段が後進走行レンジへ操作されてから後進ギヤ段が成立されるまでに遅れが生じることがなく、シフト操作手段が後進走行レンジへ操作された際に運転者に違和感を与えることがない。
【0009】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】図1は、本発明の一実施例の油圧制御装置により変速制御される車両用自動変速機を示す骨子図である。図において、エンジン10の出力は、トルクコンバータ12を介して自動変速機14に入力され、図示しない差動歯車装置および車軸を介して駆動輪へ伝達されるようになっている。
【0011】上記トルクコンバータ12は、エンジン10のクランク軸16に連結されたポンプインペラ18と、自動変速機14の入力軸20に連結されたタービンランナー22と、それらポンプインペラ18およびタービンランナー22の間を直結するロックアップクラッチ24と、一方向クラッチ26によって一方向の回転が阻止されているステータ28とを備えている。
【0012】上記自動変速機14は、ハイおよびローの2段の切り換えを行う第1変速機30と、後進ギヤ段および前進4段の切り換えが可能な第2変速機32を備えている。第1変速機30は、サンギヤSo、リングギヤRo、およびキャリヤKoに回転可能に支持されてそれらサンギヤSoおよびリングギヤRoに噛み合わされている遊星ギヤPoから成るHL遊星歯車装置34と、サンギヤSoとキャリヤKoとの間に設けられたクラッチCoおよび一方向クラッチFoと、サンギヤSoおよびハウジング41間に設けられたブレーキBoとを備えている。
【0013】第2変速機32は、サンギヤS1、リングギヤR1、およびキャリヤK1に回転可能に支持されてそれらサンギヤS1およびリングギヤR1に噛み合わされている遊星ギヤP1から成る第1遊星歯車装置36と、サンギヤS2、リングギヤR2、およびキャリヤK2に回転可能に支持されてそれらサンギヤS2およびリングギヤR2に噛み合わされている遊星ギヤP2から成る第2遊星歯車装置38と、サンギヤS3、リングギヤR3、およびキャリヤK3に回転可能に支持されてそれらサンギヤS3およびリングギヤR3に噛み合わされている遊星ギヤP3から成る第3遊星歯車装置40とを備えている。
【0014】上記サンギヤS1とサンギヤS2は互いに一体的に連結され、リングギヤR1とキャリヤK2とキャリヤK3とが一体的に連結され、そのキャリヤK3は出力軸42に連結されている。また、リングギヤR2がサンギヤS3に一体的に連結されている。そして、リングギヤR2およびサンギヤS3と中間軸44との間にクラッチC1が設けられ、サンギヤS1およびサンギヤS2と中間軸44との間にクラッチC2が設けられている。また、サンギヤS1およびサンギヤS2の回転を止めるためのバンド形式のブレーキB1がハウジング41に設けられている。また、サンギヤS1およびサンギヤS2とハウジング41との間には、一方向クラッチF1およびブレーキB2が直列に設けられている。この一方向クラッチF1は、サンギヤS1およびサンギヤS2が入力軸20と反対の方向へ逆回転しようとする際に係合させられるように構成されている。
【0015】キャリヤK1とハウジング41との間にはブレーキB3が設けられており、リングギヤR3とハウジング41との間には、ブレーキB4および一方向クラッチF2が直列に設けられている。この一方向クラッチF2は、リングギヤR3が逆回転しようとする際に係合させられるように構成されている。
【0016】以上のように構成された自動変速機14では、たとえば図2に示す作動表に従って後進1段および前進5段のギヤ段が切り換えられる。図2において○印は係合状態を示し、●印はエンジンブレーキ時の係合状態を示し、空欄は開放状態を示している。この図2から明らかなように、ブレーキB3は、第2速ギヤ段を成立させる場合および後進ギヤ段を成立させる場合の摩擦係合装置のひとつであり、第2速ギヤ段から第3速ギヤ段への変速に際しては、ブレーキB3が開放されると同時にブレーキB2が係合させられる、所謂クラッチツウクラッチ制御が行われる。
【0017】図3に示すように、車両のエンジン10の吸気配管には、アクセルペダル50によって操作される第1スロットル弁52とスロットルアクチュエータ54によって操作される第2スロットル弁56とが設けられている。また、エンジン10の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ58、エンジン10の吸入空気量を検出する吸入空気量センサ60、吸入空気の温度を検出する吸入空気温度センサ62、上記第1スロットル弁52の開度θthを検出するスロットルセンサ64、出力軸42の回転速度などから車速Vを検出する車速センサ66、エンジン10の冷却水温度を検出する冷却水温センサ68、ブレーキの作動を検出するブレーキスイッチ70、シフトレバー72の操作位置を検出する操作位置センサ74などが設けられており、それらのセンサから、エンジン回転速度Ne 、吸入空気量Q、吸入空気温度THa 、第1スロットル弁の開度θth、車速V、エンジン冷却水温THw 、ブレーキの作動状態BK、シフトレバー72の操作位置Pshを表す信号がエンジン用電子制御装置76および変速用電子制御装置78に供給されるようになっている。また、必要に応じて、自動変速機14のクラッチCoの回転速度を検出するCo回転センサ86が設けられ、クラッチCoの回転速度Ncoを表す信号が変速用電子制御装置78に供給されるようになっている。
【0018】エンジン用電子制御装置76は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェースを備えた所謂マイクロコンピュータであって、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って入力信号を処理し、種々のエンジン制御を実行する。たとえば、燃料噴射量制御のために燃料噴射弁80を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ82を制御し、アイドルスピート制御のために図示しないバイパス弁を制御し、トラクション制御のためにスロットルアクチュエータ54により第2スロットル弁56を制御する。
【0019】変速用電子制御装置78も、上記と同様のマイクロコンピュータであって、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って入力信号を処理し、油圧制御回路84の各電磁弁或いはリニアソレノイド弁を駆動する。たとえば、変速用電子制御装置78は、第1スロットル弁52の開度θthに対応した大きさのスロットル圧Pthを発生させるためにリニアソレノイド弁SLT を、アキュム背圧を制御するためにリニアソレノイド弁SLN を、ロックアップクラッチ24のスリップ量およびクラッチツウクラッチのシフトを制御するためにリニアソレノイド弁SLU をそれぞれ駆動する。また、変速用電子制御装置78は、予め記憶された変速線図から実際のスロットル弁開度θthおよび車速Vに基づいて自動変速機14のギヤ段やロックアップクラッチ24の係合状態を決定し、この決定されたギヤ段および係合状態が得られるように電磁弁S1、S2、S3を駆動する。
【0020】図4は、油圧制御回路84の要部を示している。図において、油圧アクチュエータC2aはクラッチC2を係合させるためのものであり、油圧アクチュエータB2aはブレーキB2を係合させるためのものであり、油圧アクチュエータB3aはブレーキB3を係合させるためのものである。それら油圧アクチュエータC2a、B2a、B3aに作動油を供給するために、2−3シフト弁90、B3コントロール弁92、B2アキュムレータ94、B3アキュムレータ96、アキュムレータ背圧制御弁98が設けられている。
【0021】B3コントロール弁92は、2−3シフト弁90から油圧アクチュエータB3aに到る油路100および102においてチェック弁付オリフィス104と並列な状態に設けられており、大径オリフィス106を介して上記油路100に連通する給排ポート108と、上記油路102に連通する給排ポート110と、油路100に連通する供給圧入力ポート112と、リニヤソレノイド弁SLU から出力される圧PSLU が供給される入力回転信号ポート114、3速信号圧入力ポート116、ドレン連絡ポート118と、スプール弁子120とを備えている。スプール弁子120は、給排ポート110を給排ポート108またはドレン連絡ポート118に連通させるランド122、124と、小径ランド126とを備えており、ランド124側に一端はスプリング128を介して受圧ピストン130に当接させられている。ランド122の端面は供給圧入力ポート112に作用する供給圧の受圧面を構成し、受圧ピストン130の外側の端面は入力回転信号ポート114に作用するPSLU の受圧面を構成し、受圧ピストン130の内側の端面は3速信号圧の受圧面を構成している。上記のように構成されたB3コントロール弁92は、リニヤソレノイド弁SLU からの出力圧PSLU に従って、油圧アクチュエータB3a内の油圧を制御し、2−3変速時のブレーキB3の係合トルクを制御する。
【0022】B2アキュムレータ94は、油圧アクチュエータB2aに通じる油路132にオリフィス134を介して接続されており、油圧アクチュエータB3aのためのB3アキュムレータ96と同様に、排圧中であっても背圧制御弁98によってドレーン圧の調圧が可能となっている。なお、B2オリフィスコントロール弁136は、油圧アクチュエータB2aへの油圧供給をその初期において速やかとするように流量制御するものである。また、2−3タイミング弁138は、第2速ギヤ段から第3速ギヤ段へのシフトに関与し、油圧アクチュエータB2aからの排圧をリニヤソレノイド弁SLU から出力圧PSLU に従って調圧する。
【0023】切換弁140は、図示しない3−4シフト弁からのC2係合圧PC2が供給されるC2係合圧入力ポート142と、シフトレバー72が後進レンジへ操作されたときにマニアル弁143から出力される後進レンジ圧PR が供給される後進レンジ圧入力ポート144と、前記油路102に接続されて2−3シフト弁90からのB3係合圧PB3が供給されるB3係合圧入力ポート146と、油圧アクチュエータB3aに接続されたB3ポート148と、油圧アクチュエータC2aに接続されたC2ポート149および150とを備えている。上記B3係合圧PB3は、第2ギヤ段を成立させるに際し、1−2シフト弁160が第2速ギヤ段および第3速ギヤ段側に位置させられ且つ2−3シフト弁90が第1速ギヤ段および第2速ギヤ段側に位置させられたときに発生させられる。
【0024】スプール弁子152は、シフトレバー72が後進レンジへ操作されておらず後進レンジ圧PR が発生させられていない状態では、スプリング室154に収容されたスプリング156の付勢力に従って図4に示す前進側位置に常時位置させられているが、シフトレバー72が後進レンジへ操作されて油室158に後進レンジ圧PR が作用させられると、スプリング室154側へ向かって移動させられて後進側位置に位置させられる。また、上記後進レンジ圧PR に対抗してソレノイドS2からのリバースインヒビット圧PINがスプリング室154に供給されるようになっており、この場合には後進レンジ圧PR が油室158に作用されてもスプール弁子152は前進側位置に保持されて後進ギヤ段の成立が阻止される。切換弁140はリバースコントロール弁としても機能しているのである。
【0025】切換弁140は、そのスプール弁子152が図4に示す前進側位置に位置させられている状態では、B3係合圧入力ポート146とB3ポート148との間およびC2係合圧入力ポート142とC2ポート149との間を連通させて第3速ギヤ段を成立させるとともに、油圧アクチュエータB3aとB3アキュムレータ96との間も連通させてクラッチツウクラッチ制御を可能とする。また、スプール弁子152がスプリング室154側の後進側位置に位置させられている状態では、後進レンジ圧入力ポート144とB3ポート148およびC2ポート150との間を連通させるので、油圧アクチュエータB3aとB3アキュムレータ96との間が遮断される一方、後進レンジ圧PR が油圧アクチュエータB3aおよびC2aへ供給されて後進ギヤ段が成立させられる。
【0026】上述のように、本実施例によれば、シフトレバー72が前進レンジへ操作されているときには、切換弁140によって油圧アクチュエータB3aとB3アキュムレータ96との間が連通させられるので、所定の第2速ギヤ段の成立に際してクラッチツウクラッチ変速作動が円滑に実行される。また、シフトレバー72が後進レンジへ操作されたときには、切換弁140によって油圧アクチュエータB3aとB3アキュムレータ96との間が遮断されることから、油圧アクチュエータB3aへ供給される作動油がB3アキュムレータ96にて消費されることがない。
【0027】したがって、本実施例によれば、シフトレバー72が後進走行レンジへ操作されてから後進ギヤ段が成立されるまでに遅れが生じることがなく、シフトレバー72が後進走行レンジへ操作された際に運転者に違和感を与えることがない。
【0028】また、本実施例の自動変速機14によれば、本出願人が平成3年4月9日付で出願した「自動変速機の制御装置」の明細書に記載された自動変速機に比較して、第1速ギヤ段においてエンジンブレーキ作用を発生させるためのブレーキB4が除去されるとともに、後進時にリングギヤR3の反転を許容するために一方向クラッチF2と直列にブレーキB4が新たに加えられている。このため、従来のような第1速ギヤ段においてエンジンブレーキ作用を発生させるブレーキの引きずり損失がなく、また上記新たなブレーキB4は、一方向クラッチF2を介してリングギヤR3に接しているため、前進走行中の摩擦板の引きずり損失には影響せず、動力損失が軽減される。
【0029】また、本実施例の自動変速機14において加えられた新たなブレーキB4は、一方向クラッチF2が係合する第1速ギヤ段のみにおいて係合させられればよいのであるが、本実施例では、図2に示すように、前進走行時において常時係合させられている。このため、前進走行中の変速に関連してブレーキB4を制御する必要がなく、変速制御性が容易となって信頼性が高められる。
【0030】また、本実施例の自動変速機14において加えられた新たなブレーキB4は、シフトレバー72がニュートラル(N)レンジへ操作されたときでも係合するように油圧制御回路84が構成されているため、シフトレバー72がニュートラルレンジから前進レンジ(たとえばDレンジ)へ操作されたときのシフトショックが好適に逓減される。
【0031】また、本実施例の自動変速機14では、ブレーキB3の係合によって後進ギヤ段が成立させられるので、ブレーキB4にて後進ギヤ段を成立させる従来の場合に比較して、後進時の変速比が1.8乃至2程度に適切となって変速比が最適化できる利点がある。また、このように後進時の変速比が適切に小さくなることから、後進時に受け持つ反力が小さくなるので、ブレーキB3の摩擦容量すなわち摩擦板の枚数が少なくてよくなり、前進時の動力損失が一層小さくできるとともに、自動変速機14内のスラストベアリングを半分程度とすることができる。
【0032】図5は、変速用電子制御装置78のブレーキB4のフェイルにより非係合となったときの処理を示すフローチャートである。図において、ステップS1では入力信号が読み込まれた後、ステップS2およびS3においてシフトレバー72が前進(D)レンジへ操作されているか否かおよび自動変速機14が第1速ギヤ段であるか否かが判断される。上記ステップS2およびS3の判断の少なくとも一方が否定された場合には本ルーチンが終了させられるが、両方の判断が肯定された場合には、ステップS4においてCo回転センサ86および車速センサ66がともに正常であるか否かが判断される。このステップS4の判断が否定された場合には本ルーチンが終了させられるが、肯定された場合にはステップS5およびステップS6において車輪のブレーキが作動しているか否かおよびスロットル弁開度θthが予め設定された値Aより大きいか否かが判断される。それらステップS5およびS6の判断は車両の加速操作状態を検出するためのものである。上記ステップS5およびS6の判断の少なくとも一方が否定された場合には本ルーチンが終了させられるが、両方が肯定された場合にはステップS7においてクラッチCoの回転速度Ncoが予め設定された値αよりも大きいか否かが判断される。この値αはクラッチCoの回転の有無を判定するためのものであり、たとえば数t、r、p、wに設定される。上記ステップS7の判断が否定された場合には正常であるので本ルーチンが終了させられる。しかし、ステップS7の判断が肯定された場合には、ステップS8において車速センサ66によって検出される出力軸42の回転速度Noが零であるか否かが判断される。このステップS8の判断が否定された場合には本ルーチンが終了させられるが、肯定された場合にはブレーキB4が非係合フェイル状態であるので、続くステップS9において第2速ギヤ段へシフトアップが行われ、ステップS10においてフェイル表示が行われ、ステップS11において変速パターンの変更が行われた後、本ルーチンが終了させられる。この変速パターンの変更は、以後において第1速ギヤ段の使用を禁止するように通常の変速パーンの第1速ギヤ領域を除いて第2速ギヤ段とする。
【0033】本実施例によれば、ブレーキB4のフェイルが発生して第1速ギヤ段での動力伝達が不能となるような場合でも、第2速ギヤ段が成立させられて走行が可能となる利点がある。
【0034】以上、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は他の態様で実施することもできる。
【0035】たとえば、前述の実施例では、切換弁140は後進レンジ圧PR が供給されるとそのスプール弁子152が後進側位置に位置させられていたが、前進レンジ圧PD が供給されるとスプール弁子152が前進側位置に位置させられるように構成されてもよい。この場合には、スプリング156が油室158に収容されるとともに前進レンジ圧PD がスプール弁子152をスプリング156の付勢力に抗して移動させるようにスプール弁子152に作用される。
【0036】また、上記切換弁140は、シフトレバー72に機械的に連結され、シフトレバー72が前進レンジへ操作されたときにはスプール弁子152が前進側位置に位置させられ、後進レンジへ操作されたときにはスプール弁子152が後進側位置に位置させられるようにしてもよいのである。
【0037】また、前述の図5において、ステップS8の判断は、複数回同じ結果が出た場合に最終判断が決定されるようにしてもよいし、信号処理やクラッチC1の係合完了遅れを考慮してN→Dシフト操作後において所定の遅延処理を経てからステップS7およびS8の判定を実行するようにしてもよい。
【0038】また、車両が正常である状態で第1速ギヤ段が成立されているならば、車速センサ66によって検出される出力軸42の回転速度Noの変速比(第1速ギヤ段)はi1st 倍であるから、図5のステップS7の設定値αをそのような正常な関係にあるか否かを判断するためにNo×i1st よりも僅かに大きい値に決定してもよい。このようにすれば、ステップS8は不要となる。
【0039】その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の油圧制御装置によってギヤ段が制御される車両用自動変速機の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の自動変速機における、複数の摩擦係合装置の作動の組合わせとそれにより成立するギヤ段との関係をしめす図表である。
【図3】図1の自動変速機を制御する油圧制御回路および電気制御回路を含むブロック線図である。
【図4】図3の油圧制御回路の要部を説明する図である。
【図5】図3の変速用電子制御装置78の作動の要部を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
14:自動変速機
72:シフトレバー(シフト操作手段)
96:B3アキュムレータ
140:切換弁
B3:ブレーキ(共通の摩擦係合装置)
B3a:油圧アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の摩擦係合装置を選択的に作動させることにより複数の前進ギヤ段および後進ギヤ段のうちの1つが成立させられる車両用自動変速機において、所定の前進ギヤ段と後進ギヤ段とを成立させるための共通の油圧式摩擦係合装置を係合させる油圧アクチュエータに作動油を供給する一方、該所定の前進ギヤ段を成立させる際には該油圧アクチュエータの作動油の立ち上がりをアキュムレータにより制御する形式の油圧制御装置であって、シフト操作手段と、前記共通の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータと前記アキュムレータとの間に設けられ、前記シフト操作手段が前進レンジへ操作されているときには該油圧アクチュエータとアキュムレータとの間を連通させるが、該シフト操作手段が後進レンジへ操作されているときには該油圧アクチュエータとアキュムレータとの間を遮断する切換弁装置とを、含むことを特徴とする車両用自動変速機の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平6−249330
【公開日】平成6年(1994)9月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−63164
【出願日】平成5年(1993)2月26日
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)