説明

車載用バスバー及びその製造方法

【課題】狭い隙間を通して、電気機器同士を効果的に電気的に接続することが出来る、配設作業が容易で、且つ低コストな車載用バスバーを提供する。
【解決手段】所定幅のアルミニウム板12をベースとして、このアルミニウム板の電気機器との電気的接続部位を除く他の部位の表面にプライマー層14を設け、更にこのプライマー層の上に、ポリアミド12樹脂材料を用いて電気絶縁性の被覆層16を形成して、自動車の電気機器同士を電気的に接続するためのバスバー10を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用バスバー及びその製造方法に係り、特に、ハイブリッド車等の自動車における、モーターとインバータとの間や、バッテリとコンバータ、コンバータとインバータ、インバータとジェネレータ等の間を電気的に接続する通電部品と、それを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や大気汚染等の問題に鑑み、環境保護の観点から、自動車メーカーにおいては、ハイブリッド自動車(HEV)の開発が活発に進められている。そして、そのようなハイブリッド車では、車輪駆動用に数十キロワットのモーターが搭載されて、数百ボルトの電圧にて駆動されるようになっている。また、そのようなハイブリッド車等の自動車においては、例えば、横置きエンジンとモータージェネレータによるハイブリッドパワーユニットや、パワーコントロールユニット(インバータ)、電動コンプレッサーユニット等は、銅線を中心とした複数の素線を縒り合わせてなる構造のケーブルを用いて、電気的に接続されているのである(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、かかるハイブリッド車においては、今後、更なる車両のハイパワー化が要望され、また、モーターの小型化も必要となるところから、モーターの高速回転化が進み、システム電圧の高電圧化が予想されている。而して、そのような高電圧化を図るためには、制御機器と共に、給電に必要なケーブルにも、その対策が必要となるのであるが、現在用いられているケーブルは、銅線を中心とした複数の素線を縒り合わせてなる構造とされ、その表面には、耐熱性・耐磨耗性の高い絶縁樹脂が被覆されて、被覆層が構成されていることに加えて、その太さや縒り数は使用電圧により異なることとなるものであるために、ハイブリッドパワーユニット等の高電圧・高電気容量の電気部品には、直径が15mm以上の太いケーブルとして用いられているのである。
【0004】
このため、かかる太いケーブルの採用は、自動車部品の小型化や省スペース化に伴なって、車両内部の限られた場所に種々の部品を配置する場合において、ケーブルの配設が困難となったり、ケーブルの取り回しが複雑となったりして、ケーブルの配設作業が面倒となる等の問題を惹起するようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−80706号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「SEIテクニカルレビュー」第167号(2005年9月発行 )第26〜28頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、自動車の電気機器がスペースの限られた空間内においてコンパクトに配置されても、狭い隙間を通して、それら電気機器同士を効果的に電気的に接続することが出来る、配設作業の容易な車載用バスバーを提供することにあり、また、そのような車載用バスバーを有利に製造する方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、かくの如き課題を解決するために、自動車の電気機器同士を電気的に接続するためのバスバーにして、所定幅のアルミニウム板と、該アルミニウム板の前記電気機器との電気的接続部位を除く他の部位の表面に施されたプライマー層と、該プライマー層の上に、ポリアミド12樹脂材料を用いて更に形成された電気絶縁性の被覆層とから構成されてなることを特徴とする車載用バスバーを、その要旨とするものである。
【0009】
なお、かかる本発明に従う車載用バスバーの望ましい態様の一つによれば、前記被覆層は、0.1mm〜3mmの厚みで形成されている。
【0010】
また、本発明に従う車載用バスバーの他の好ましい態様の一つによれば、前記プライマー層は、数平均分子量が20000〜60000の、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又は変性エポキシ樹脂を用いて、形成されている。
【0011】
さらに、本発明に従う車載用バスバーにおいて、前記アルミニウム板は、好ましくは、純アルミニウム又はJIS−A−6101アルミニウム合金を材質としている。
【0012】
加えて、本発明に従う車載用バスバーにあっては、前記被覆層は、有利には、400MPa〜1500MPaの引張弾性率を有するポリアミド12樹脂材料を用いて形成されている。
【0013】
そして、本発明に係る車載用バスバーを構成するアルミニウム板は、有利には、前記した電気機器との電気的接続部位において、スズ又はニッケルにて被覆されていることが望ましい。
【0014】
また、本発明にあっては、上記した本発明に従う車載用バスバーを有利に製造すべく、自動車の電気機器同士を電気的に接続するためのバスバーを製造する方法にして、(a)
所定幅のアルミニウム板の前記電気機器との電気的接続部位を除く他の部位の表面にプライマー層を形成する工程と、(b)かかるプライマー層の形成されたアルミニウム板を成形型の成形キャビティ内にセットする工程と、(c)該成形型の成形キャビティ内に、加熱溶融されたポリアミド12樹脂材料を射出充填し、前記アルミニウム板のプライマー層の上に、該ポリアミド12樹脂材料からなる電気絶縁性の被覆層を所定厚さで成形する工程と、(d)前記成形型から取り出された、前記被覆層が形成されてなるアルミニウム板において、それの前記電気機器との電気的接続部位に対して、スズ被覆又はニッケル被覆を施す工程と、を含むことを特徴とする車載用バスバーの製造方法をも、その要旨とするものである。
【0015】
なお、このような本発明に従う車載用バスバーの製造方法の好ましい態様の一つによれば、前記プライマー層の形成されたアルミニウム板を、前記成形型のキャビティ内にセットするに先立って、110℃〜190℃の温度に加温する工程を、更に有している。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明に従う車載用バスバーにあっては、従来の高電圧ケーブルの如く、高価な銅線を用いるものではなく、有効な電気絶縁性を確保しつつ、安価なアルミニウム板をベースとして構成されているところから、電気機器同士の電気的接続部材(通電部品)の低コスト化を効果的に図ることが出来ることとなったことに加えて、太いケーブルから、アルミニウム板からなる長尺な板状の電気的接続部材とすることにより、同一断面積であっても、薄くすることが出来るところから、狭い隙間を通して電気機器同士を電気的に接続することが容易に可能となるのであり、以て、自動車において要請される電気機器の配置スペースのコンパクト化も容易と為し得ることとなったのである。
【0017】
しかも、本発明に従う車載用バスバーは、長尺な板状形態を呈するものであるところから、狭い部分(隙間)の存在形態に対応して、バスバーの折り曲げ加工をすることが可能となるのであり、以て、バスバーを細かく曲げて、その配設経路に沿った高電圧用通電部品として用いることにより、その配設作業性の向上にも有利に寄与し得ることとなるのである。
【0018】
また、本発明に従う車載用バスバーの製造方法によれば、ポリアミド12樹脂材料の射出充填によって、アルミニウム板に設けたプライマー層の上に、かかるポリアミド12樹脂材料からなる被覆層を、所定厚さで一挙に形成し得ると共に、そのようにして形成される被覆層とプライマー層との間の接合一体化も有利に実現され得、更に、電気機器との電気的接続部位に対するスズ被覆又はニッケル被覆により、バスバーと接続対象となる電気機器との間の電気的接続も、効果的に行うことが出来るようになるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に従う車載用バスバーの一例を示す平面説明図である。
【図2】図1におけるA−A断面拡大説明図である。
【図3】図1に示される車載用バスバーをその配設形態に折り曲げ加工してなるものの斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0021】
先ず、図1には、本発明に従う車載用バスバーの一例が、平面形態において示されており、また、そのようなバスバーのA−A断面の形態が、図2に示されている。そして、それらの図において、バスバー10は、所定幅の長尺なアルミニウム板をベースとして、その表面に、プライマー層14と被覆層16とが一体的に積層、形成されている一方、その両端には、所定の電気機器に対して接続される円環板形状の接続部18,18が、それぞれ、一体的に設けられている。なお、かかるアルミニウム板12の両端の接続部18,18を含み、アルミニウム板12の中間部を覆うように設けたプライマー層14及び被覆層16に至るアルミニウム板12の表面には、所定のスズ被覆又はニッケル被覆が施されて、電気的に接続せしめられる電気機器に対する高い導電性が確保され得るようになっている。
【0022】
ところで、このような本発明に従う車載用バスバー10を構成するアルミニウム板12は、公知の良導電性のアルミニウム材質からなるものであって、その中でも、本発明にあっては、特に、JIS−A称呼で1000系の純アルミニウム又はJIS−A−6101アルミニウム合金からなる材質が、好適に採用されることとなる。なお、このアルミニウム板の板厚や板幅は、自動車の電気機器間の電気的な接続のために与えられる隙間の大きさや、必要とされる通電量等に応じて、適宜に選定されることとなるが、一般に、板厚としては0.2mm〜8.0mm程度、板幅としては6mm〜25mm程度の範囲内において、折り曲げ加工性等の特性を保持しつつ、適宜に選定され得ることとなる。
【0023】
そして、このようなアルミニウム板12の、所定の電気機器との電気的接続部位を除く他の部位に対して、具体的には、図1に示される如く、アルミニウム板12の両端部を除く中間部位の全面に対して、プライマー層14が、所定厚さにおいて形成されている。このプライマー層14は、ポリアミド12樹脂材料からなる被覆層(16)を直接にアルミニウム板(12)上に形成した場合に、折り曲げ加工時における割れや剥離、更には、スズ又はニッケルの被覆をめっきで行う場合に、めっき時におけるめっき溶液の浸入による剥離等の問題が惹起されるところから、そのような問題を避けるべく、形成されるものであって、アルミニウム板12に対する被覆層16の一体的な接合を図り得る公知のプライマー材料を用いて、目的とするプライマー層14が、形成されることとなる。
【0024】
特に、そのようなプライマー層14は、数平均分子量が20000〜60000のビスフェノールA型エポキシ樹脂、或いは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を予め架橋剤を用いて高分子化して得られた、数平均分子量が20000〜60000の変性エポキシ樹脂を主成分として形成されていることが望ましく、これによって、被覆層16との密着性をより一層向上せしめることが出来る。なお、それらエポキシ樹脂の数平均分子量が20000未満となると、プライマー層14の上に形成される被覆層16の密着性を充分に確保するためには、かかるプライマー層14を設けたアルミニウム板12を予め200℃を超えるような高温に加熱した後に、被覆層16を形成するためのポリアミド12樹脂材料を射出成形して、被覆層16を形成するようにすることが必要となるのであり、また、かかる数平均分子量が60000を超えるようになると、アルミニウム板材12と形成されるプライマー層14との間の密着性が充分でなくなり、曲げ試験後に剥離する恐れが生じたりする。
【0025】
そして、かくの如きプライマー層14は、アルミニウム板12の所定の部位(非電気的接続部位)に対して、適宜の厚さにおいて形成されるものであるが、一般的には、2μm〜35μm程度、好ましくは3〜30μm程度の厚さにおいて形成されることとなる。このプライマー層の厚さが薄くなり過ぎると、被覆層16をアルミニウム板12に対して密着性良く形成せしめることが困難となるからであり、また、その厚さが厚くなり過ぎると、成形時のポリアミド12の射出圧に負けて、プライマーが剥離するという問題が惹起されるようになる。
【0026】
そして、本発明にあっては、かくの如く、アルミニウム板12の上に形成されたプライマー層14の上に、更に、ポリアミド12樹脂材料を用いて、電気絶縁性の被覆層16が所定厚さで積層形成されるのであるが、そこでは、ポリアミド12樹脂材料を用いることによって、電気絶縁性が高く、且つ折り曲げ加工性に優れた被覆層16が、有利に形成されることとなるのである。なお、ここで用いられるポリアミド12樹脂材料は、良く知られているように、ラウリルラクタムを開環重縮合して得られるポリアミドを主成分とし、これに、可塑剤や酸化防止剤、ポリアミド系エラストマー等を配合してなる公知の樹脂材料であって、一般に、ポリアミド12乃至はナイロン12として市販されているものが、適宜に用いられることとなる。
【0027】
特に、そのようなポリアミド12樹脂材料の中でも、引張弾性率が400MPa〜1500MPaであるものを用いることにより、折り曲げ加工性や密着性に優れた、且つ耐めっき液性の良好な被覆層16を有する、ポリアミド12被覆アルミニウム板(バスバー)を有利に得ることが出来るのである。なお、かかる引張弾性率が400MPa未満となると、プライマー層14との密着性が悪くなり、曲げ試験後にプライマー層14と被覆層16との間に剥離が生じる恐れがあり、また、そのような引張弾性率が1500MPaを超えるようになると、曲げ試験により、被覆層16に亀裂が生じる恐れがある。
【0028】
このように、アルミニウム板12の所定の非電気的接続部位において、プライマー14を介して、その上に、一体的に積層形成される被覆層16は、一般に、0.1mm以上、3mm以下の厚さを有していることが望ましい。かかる被覆層16の厚さが薄くなり過ぎると、絶縁性が不足するようになるからであり、また、その厚さが厚くなり過ぎると、性能上は問題ないものの、コストが高くなるという点から、実用的ではなくなるからであり、中でも、被覆層16のより望ましい厚さとしては、0.2mm以上、2mm以下の範囲内の厚さが選定されることとなる。
【0029】
そして、かくの如く、プライマー層14及び被覆層16が一体的に形成されてなるアルミニウム板12において、その両端部に設けられた電気機器との電気的な接続を行うための接続部18には、通常の導電処理を施して、かかる電気機器に対する電気的な接続を高めることが望ましく、そのために、本発明にあっては、かかる接続部18をスズ又はニッケルにて被覆処理することが、有利に採用されることとなる。なお、そのスズ又はニッケルによる被覆処理には、めっきなど、公知の手法をそのまま適用することが出来る。
【0030】
かくの如くして得られた、アルミニウム板12に対して、被覆層16がプライマー層14を介して一体的に形成されると共に、両端の接続部18に対してスズ又はニッケルによる被覆処理が施されてなるバスバー10には、自動車に装備される電気機器同士の電気的な接続のために、それら電気機器同士を接続するべく設けられる隙間の配置形態に応じて、必要に応じて、折り曲げ加工が施されて、図3に示される如き所定の形状に成形されてなる形態において、目的とする電気機器同士の電気的接続作業に用いられることとなるのである。
【0031】
ところで、このような本発明に従うバスバーの製造に際しては、先ず、アルミニウム板12の電気機器に対して接続されない部位の表面の全体にわたって、プライマー層14が通常の塗装手法によって形成された後、そのようなプライマー層14の上に、被覆層16が、ポリアミド12樹脂材料を用いた射出成形操作にて、一体的に積層形成されることとなる。
【0032】
そして、そのような被覆層16の射出成形操作においては、アルミニウム板12の存在下において、目的とする被覆層16の厚さに対応するスペースの成形キャビティを有する成形型を用い、その成形キャビティ内に、プライマー層14の形成されたアルミニウム板12をセットした状態下において、かかる成形キャビティ内に、加熱溶融されたポリアミド12樹脂材料を射出充填せしめることによって、アルミニウム板12のプライマー層14上にポリアミド12樹脂材料からなる電気絶縁性の被覆層16が、所定厚さで、有利に一体的に成形せしめられるのである。
【0033】
なお、このような被覆層16の射出成形操作においては、プライマー層14の形成されたアルミニウム板12を、成形型の成形キャビティ内にセットするに先立って、所定の温度に加熱しておくことが望ましく、これによって、プライマー層14とその上に射出成形される被覆層16との一体的な接合性の向上を、効果的に図ることが出来る。なお、そのような接合性の有利な向上のために、加熱温度としては、110℃〜190℃の温度が有利に採用されることとなる。
【0034】
そして、かかる射出成形操作の後、成形型から取り出された、被覆層16が一体的に形成されてなるアルミニウム板12には、それの電気機器との電気的接続部位に対して、公知の手法により、スズ被覆又はニッケル被覆が施されるのであるが、そのようなスズ又はニッケルによる被覆処理に先立って、或いは、そのようなスズ又はニッケルによる被覆処理の後に、折り曲げ加工が施され、目的とする配設間隙に対応した、図3に示される如き形状に成形されて、電気機器間の電気的接続に提供されるのである。
【0035】
このように、本発明に従う車載用バスバー10にあっては、自動車の電気機器同士の電気的な接続に際して、従来の円形の太いケーブルから、アルミニウム板をベースとしたことにより、同一断面積であっても、薄くすることが出来るところから、狭い隙間を通じて電気機器同士を効果的に接続することが出来ることとなり、以て、電気機器配設領域のコンパクト化を有利に図り得るのであり、しかも、折り曲げ加工が容易であるところから、所定の形状に折り曲げてなる車載用バスバーを用いることによって、その配設作業性も効果的に向上せしめることが出来るのである。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明のいくつかの実施例を示し、本発明の特徴を更に明確にすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
【0037】
先ず、公知の高電圧用ケーブル(直径:15mm)に相当する通電量の車載用バスバーを得るべく、アルミニウム板として、JIS−A−6101アルミニウム合金を材質とし、板厚:2.0mm、幅:20mm、長さ:70mmの板材を準備する一方、プライマー材料及びポリアミド12樹脂材料として、市販品の中から、それぞれ、下記表1及び表2に示されるものを準備した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
そして、上記で準備されたアルミニウム板を、n−ヘキサンを用いて洗浄した後、上記表1に示される各種のプライマーを用いて、常法に従って塗装し、その後加熱乾燥することにより、下記表3に示される、各種の塗膜厚さを有するプライマー塗装アルミニウム板を得た。
【0041】
次いで、かかる各種のプライマー塗装アルミニウム板を、それぞれ、表3に示される温度に予熱した後、射出成形機(菱屋精工株式会社製30トン縦型射出成形機)における被覆層形成用成形キャビティ内に、セットした。その後、前記表2に示される市販の各種のポリアミド12樹脂材料を用いて、それらを、下記表3に示される温度で加熱溶融して、かかる射出成形機の成形キャビティ内に射出充填せしめることにより、下記表3に示される、被覆層厚さを有する各種の射出成形品を得た。なお、この射出成形品は、図1に示される如く、アルミニウム板の両端部を残して、その中間部位に、プライマー層を介して、ポリアミド12樹脂材料からなる被覆層が射出成形されて、かかる中間部位が一体的に積層被覆されてなるものである。
【0042】
その後、かかる各種の射出成形品を、それぞれ、pH12のアルカリ液に、50℃の温度で、450秒間浸漬することにより、アルカリ脱脂を施した後、水洗し、更にその後、シアン化銅(I)70g/L、シアン化ナトリウム25g/Lの混合液に、55℃の温度で浸漬して、800A/m2の条件下で30秒間銅めっきを行った。次いで、この銅めっきを行ったものを水洗した後、硫酸スズ(II)22g/Lと、硫酸100mL/Lと、クレゾールスルホン酸100g/Lの混合溶液に、25℃の温度で浸漬し、200A・m2の通電条件下で、330秒間電気めっきすることにより、スズめっきを行った。その後、そのスズめっき品を水洗し、90℃で450秒間乾燥することにより、両端部がスズめっきされてなる各種の供試材(バスバー)を得た。なお、かかるスズめっきの厚さは、それぞれ10μmとした。
【0043】
【表3】

【0044】
かくして得られた各種の供試材について、それぞれ、下記の試験方法に従って、加工性及び絶縁抵抗性の評価を行い、更に、耐熱試験及び耐湿試験を行った後の加工性及び絶縁抵抗性についても評価し、それぞれの結果を、下記表4に示した。
【0045】
(1)加工性
各供試材を、内面側の曲率半径が2mmとなるように、90度の折り曲げ加工を実施して、その折り曲げ部の外面側の被覆層(樹脂)の割れやはがれの有無等の状態を、目視観察した。そして、割れ及びはがれがなく、樹脂表面につやがある状態を◎とし、また割れ及びはがれはないが、樹脂表面のつやがなくなっている状態を○とし、更に割れ又ははがれが生じている状態を×として、評価した。
【0046】
(2)絶縁抵抗性
各供試材を、その長手方向中央部においてU字形に曲げ、ポリアミド12樹脂材料にて被覆層が形成されている部分を、温度:70℃(±2℃)の水中に2時間浸漬する。その後、供試材の水中に浸漬されていない、被覆層が形成されていない部分と、接地した水中との間に、100V以上の直流電圧を1分間以上加えて遮断し、直偏法又は高絶縁抵抗計にて、絶縁抵抗を測定する。そして、その測定した絶縁抵抗値を基に、下式(1)を用いて体積固有抵抗を算出する。そして、その得られた体積固有抵抗が、109Ω/mm以上であるときは◎、また体積固有抵抗が108Ω/mm以上、109Ω/mm未満であるときには○、更に体積固有抵抗が108Ω/mm未満であるときには×として、評価した。

Qd=2.725×LR/log(D/d) ・・・・・ 式(1)
Qd:絶縁体の体積固有抵抗(Ω/mm)
L:供試品水中部分の線長(mm)
R:測定した絶縁抵抗(Ω)
D:絶縁体外径(mm)
d:導体外径(mm)
【0047】
(3)耐熱試験
各供試材を、150℃の温度で、240時間保持した後、上記の(1)及び(2)の試験方法に従って、耐熱試験後の加工性及び絶縁抵抗性の評価を行った。
【0048】
(4)耐湿試験
各供試材を、恒温恒湿槽において、温度:85℃(±3℃)、湿度:85%(±5%)の条件下で、1000時間保持した後、上記の(1)及び(2)の試験方法に従って、耐湿試験後の加工性及び絶縁抵抗性について、評価した。
【0049】
【表4】

【0050】
かかる表4の結果から明らかなように、本発明に従って、アルミニウム板にプライマー層とポリアミド12樹脂材料からなる被覆層とが形成されてなる供試材1〜20は、何れも、良好な加工性、絶縁抵抗性、並びに耐熱試験後や耐湿試験後の加工性、絶縁抵抗性を示すものであったが、特に、その中でも、所定のエポキシ樹脂又は変性エポキシ樹脂を用いてプライマー層を形成したり、所定の引張弾性率を有するポリアミド12樹脂材料を用いて被覆層を形成したり、更には、被覆層の射出成形に際して、アルミニウム板を所定の温度に加熱したりした場合にあっては、加工性や絶縁抵抗性、更には、耐熱特性や耐湿特性において、優れた結果が得られることが認められた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の電気機器同士を電気的に接続するためのバスバーにして、所定幅のアルミニウム板と、該アルミニウム板の前記電気機器との電気的接続部位を除く他の部位の表面に施されたプライマー層と、該プライマー層の上に、ポリアミド12樹脂材料を用いて更に形成された電気絶縁性の被覆層とから構成されてなることを特徴とする車載用バスバー。
【請求項2】
前記被覆層が、0.1mm〜3mmの厚みで形成されている請求項1に記載の車載用バスバー。
【請求項3】
前記プライマー層が、数平均分子量が20000〜60000の、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又は変性エポキシ樹脂を用いて、形成されている請求項1又は請求項2に記載の車載用バスバー。
【請求項4】
前記アルミニウム板が、純アルミニウム又はJIS−A−6101アルミニウム合金を材質としている請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の車載用バスバー。
【請求項5】
前記被覆層が、400MPa〜1500MPaの引張弾性率を有するポリアミド12樹脂材料を用いて、形成されている請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載の車載用バスバー。
【請求項6】
前記アルミニウム板の前記電気機器との電気的な接続部位が、スズ又はニッケルにて被覆されている請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載の車載用バスバー。
【請求項7】
自動車の電気機器同士を電気的に接続するためのバスバーを製造する方法にして、
所定幅のアルミニウム板の前記電気機器との電気的接続部位を除く他の部位の表面にプライマー層を形成する工程と、
かかるプライマー層の形成されたアルミニウム板を成形型の成形キャビティ内にセットする工程と、
該成形型の成形キャビティ内に、加熱溶融されたポリアミド12樹脂材料を射出充填して、前記アルミニウム板のプライマー層の上に、該ポリアミド12樹脂材料からなる電気絶縁性の被覆層を所定厚さで成形する工程と、
前記成形型から取り出された、前記被覆層が形成されてなるアルミニウム板において、それの前記電気機器との電気的接続部位に対して、スズ被覆又はニッケル被覆を施す工程と、
を含むことを特徴とする車載用バスバーの製造方法。
【請求項8】
前記プライマー層の形成されたアルミニウム板を、前記成形型の成形キャビティ内にセットするに先立って、110℃〜190℃の温度に加熱する工程を、更に有している請求項7に記載の車載用バスバーの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−169215(P2012−169215A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31035(P2011−31035)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【出願人】(308014639)真和工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】