説明

転てつ機

【課題】異なる伝達トルクの転てつ機を低コストに実現すること。また、望むらくはメンテナンス性に優れ、トルクを自在に設定可能なマグネットクラッチを持つ転てつ機を実現すること。
【解決手段】マグネットクラッチ300は、駆動軸202のピニオンギア122に噛み合うベベルギア124と一体で、回転軸回りに上向き開口の有底円柱空間を有するロータハウジング304を備える。当該空間内には、平環状のヒステリシス材376と減速ギア126とを備えたロータ部370が枢支され、ヒステリシス材376と対向する平環状の永久磁石350を敷設した調整板340が、ロータハウジング304の開口部に螺合される。調整板340の止め位置によって、永久磁石350とヒステリシス材376とを接近/離間させて対向間隔を増減し、マグネットクラッチ300の伝達トルクの大きさを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用線路の分岐器を定位/反位に転換させる転てつ機に関する。
【背景技術】
【0002】
電気転てつ機は、一般的に、駆動モータと、クラッチと、減速歯車群からなる減速機構と、転換鎖錠機構とを有する。駆動モータで発生した動力は、クラッチを経て減速機構に伝えられ、適切なトルクに変換されて転換鎖錠機構を作動させる。転換鎖錠機構の最終段階には、動作桿と、分岐器の2本の可動レールを連結した転てつ棒とが連結されており、駆動モータの駆動を制御することによって分岐器を転換させることができる。
【0003】
ここで、クラッチが滑り始めるトルク、すなわちクラッチの伝達トルクに着目すると、伝達トルクは、電気転てつ機が転換不能を起こさない転換力を確保しつつも、基本レールと可動レールとの間に異物の介在があった場合にはきちんと転換不能となることで異常が検知できる程度に適切に設定されることが望まれる。
【0004】
摩擦クラッチの場合は、摩擦板を積層し、それをばねで圧力を加えて摩擦力を発生させるので、ばね圧を可変することでクラッチが滑り始めるトルクを調節することになる。しかし、摩擦クラッチは、温度による伝達トルクの大きさの変化が大きいため季節の変化に応じてクラッチを調整する必要がある。そのため、定期検査に係わる工数が多くなりメンテナンス性に好ましくない一面があった。そのため、近年では、摩擦クラッチよりも温度による伝達トルクの大きさの変化が小さいマグネットクラッチが採用されるケースが多くなっている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
例えば、マグネットクラッチのある構成では、駆動モータのロータ軸に回転円板を取り付け、回転円板上に相互に磁極の異なる永久磁石を並べて配置し、クラッチの出力側軸に、永久磁石に対して所定距離離してヒステリシス材を対向配置させる。駆動モータが回転しない状態では伝達トルクはゼロであるが、駆動モータの回転とともに永久磁石側がヒステリシス材に対して相対運動を始めると、ヒステリシス材でうず電流が発生して永久磁石の回転に対して連れ回りを始める。伝達トルクは、駆動モータの回転が高速になるほど増え、やがて所定の回転数に達すると、うず電流が飽和状態となって所定値で安定する。これによって、電気転てつ機の最大転換力を得ることが可能となる。電磁的にトルクを伝達するので、温度による伝達トルクの大きさの変化が小さく、マグネットクラッチを採用することにより、摩擦クラッチでは季節の変化時に行っていたクラッチトルクの調整が不要となる。
【0006】
また、マグネットクラッチの配置については、例えば、駆動モータからの出力軸と噛み合うようにして減速機構に組み入れる方法も知られるところである(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平2−5401号公報
【特許文献2】特開2010−36804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気転てつ機にかかる負荷は分岐器の種類や使用状態、敷設状態等によって大きく変わる。電気転てつ機にかかる負荷が大きい程、マグネットクラッチも大容量化せざるを得ない。そのため、マグネットクラッチの容量に応じた様々な種類の電気転てつ機が必要となる。
製造コストの観点からすると、例えばマグネットクラッチのみを載せ替えるだけで、様々な分岐器に対応できる電気転てつ機を実現できれば理想である。しかし、特許文献2のように永久磁石をロータの外周面に配置する一方でヒステリシス磁化材をそれと対向させるように円筒状に配置する構成では、マグネットクラッチを大容量化するには円筒軸方向への長尺化を余儀なくされる。そのため、マグネットクラッチの容量に応じた各種の部品を専用に作成する必要があり、製造コストが高くなってしまう。また、機能面でも、ロータの大型化に伴って慣性が増加するため、起動性にも不利となる。
本発明は、こうした事情を鑑みてなされたものであって、異なる伝達トルクの転てつ機を低コストに実現することを目的とする。また、望むらくはメンテナンス性に優れ、トルクを自在に設定可能なマグネットクラッチを持つ転てつ機を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の形態は、減速機構部によってモータの駆動力を減速させて動作桿の転換動力とする転てつ機において、
前記モータ側からの駆動力を受ける受動歯車部と一体に前記減速機構部に設けられてなるマグネットクラッチであって、永久磁石及びヒステリシス材の何れか一方のクラッチ部材が回転力を前記動作桿側に伝達する出力歯車(例えば、図2の第1減速ギア126)に接続されたロータ部(例えば、図3のロータ部370)に設けられ、他方のクラッチ部材が前記一方のクラッチ部材と対向配置されたマグネットクラッチを備えた転てつ機である。
【0010】
第2の形態は、前記ロータ部が、永久磁石及びヒステリシス材の何れか一方の部材でなる第2の一方クラッチ部材(例えば、図14の第2のヒステリシス材376B)を有し、
前記受動歯車部は、前記第2の一方クラッチ部材に対向する第2の他方クラッチ部材(例えば、図14の第2の永久磁石350B)を有する、第1の形態の転てつ機である。
【0011】
第3の形態は、前記ロータ部が、永久磁石及びヒステリシス材の何れか一方の部材でな
る第2の一方クラッチ部材(例えば、図17のヒステリシス材376C)を有し、
前記受動歯車部は、前記調整機構部の装着位置調整に関わらず、前記第2の一方クラッチ部材に対する相対位置が保たれる位置に設けられた第2の他方クラッチ部材(例えば、図17の永久磁石350C)を有する、第1の形態の転てつ機である。
【発明の効果】
【0012】
第1の形態によれば、永久磁石及びヒステリシス材の何れか一方のクラッチ部材をロータ部に設け、他方のクラッチ部材をその一方のクラッチ部材に対向させるようにしてマグネットクラッチを構成することができる。マグネットクラッチの容量違いの仕様を、例えば永久磁石とヒステリシス材との離間距離を変えることにより対応できるので、転てつ機のケース高さを変えると言った大がかりな仕様変更の必要はない。また、永久磁石とヒステリシス材の大きさを変更する等して対向面積を変更することで、マグネットクラッチの容量違いの仕様を実現することも可能である。
したがって、従来の転てつ機に比べて、マグネットクラッチの容量違いのモデルを低コストで実現することができるようになる。
【0013】
第2の形態によれば、一方のクラッチ部材と他方のクラッチ部材とが対向する箇所が複数箇所となるのでクラッチ部材の面積を増加させることができる。
【0014】
第3の形態によれば、調整作業による伝達トルクの大きさの可変幅を有しつつも、必須の伝達トルクの大きさを調整作業如何に関わらず維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態における電気転てつ機の使用形態を説明するための鉄道線路用ポイントの周辺を示す平面図。
【図2】第1実施形態における電気転てつ機の内部機構の構成例を示す上面図であって、ケースの蓋を外した様子に相当する図。
【図3】図2のA−A断面における部分拡大断面図。
【図4】マグネットクラッチのロータハウジングの構成例を示す上面図。
【図5】マグネットクラッチのロータハウジングの構成例を示す断面図。
【図6】マグネットクラッチのロータハウジングの構成例を示す下面図。
【図7】マグネットクラッチの調整板の構成例を示す上面図。
【図8】マグネットクラッチの調整板の構成例を示す断面図。
【図9】マグネットクラッチの調整板の構成例を示す下面図。
【図10】マグネットクラッチのロータの構成例を示す上面図。
【図11】マグネットクラッチのロータの構成例を示す側面図。
【図12】クラッチ調整工具の構成例を示す斜視外観図。
【図13】第1実施形態における電気転てつ機のクラッチ調整方法を説明するための図。
【図14】第2実施形態におけるマグネットクラッチの構成例を示す断面図。
【図15】アジャスタの構成例を示す断面図。
【図16】第2実施形態におけるロータの構成例を示す断面図。
【図17】第3実施形態におけるロータの構成例を示す断面図。
【図18】第3実施形態におけるロータの別構成の例を示す図。
【図19】第4実施形態におけるマグネットックラッチの構成例を示す断面図。
【図20】第4実施形態におけるマグネットクラッチのロータハウジングの構成例を示す上面図。
【図21】第4実施形態におけるマグネットクラッチのロータハウジングの構成例を示す断面図。
【図22】第4実施形態における調整板の構成例を示す断面図。
【図23】第4実施形態における調整板の構成例を示す下面図。
【図24】第4実施形態の変形例の構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1実施形態〕
図1は、本実施形態における電気転てつ機の使用形態を説明するための鉄道線路用ポイントの周辺を示す平面図である。本実施形態における電気転てつ機100は、鉄道用線路のポイント2の分岐器4に対して所定位置に固定され、分岐器4に接続して使用される。
【0017】
分岐器4は、連結板8により一体に連結された可動レール10を、基本レール6の間で、枕木12に固定した床板14の上で枕木長手方向に横スライド自在に支持している。可動レール10の先端部付近の枕木は、通常の枕木12よりも長尺な転てつ機用枕木12Bとされ、基本レール6の外側に延びた部分には床板14に連結された鉄製の敷板18が設置されている。
【0018】
電気転てつ機100は、この敷板18に固定される。そして、動作桿102には転てつ棒16を介して連結板8が連結され、鎖錠桿104には接続桿20を介して可動レール10の先端部が連結される。そして、モータ250が発生させた回転動力を、内蔵する転換機構部でもって動作桿102の直線運動に変換して分岐器4を定位/反位に転換動作させるとともに、内蔵する鎖錠機構部によって固定することで可動レール10の定位/反位の状態を固定し、鉄道車両通過時の外力により分岐器4の状態が変わらないようにする。
【0019】
電気転てつ機100は、開閉式のケース101内に、回路制御器110と、制御リレー112と、外部端子板114と、を内蔵する。
【0020】
電源や外部装置(例えば連動装置等)との信号に必要なケーブル類は外部端子板114に集約されたのち信号ケーブル束109としてケース101から纏めて引き出される。連動装置から転換指令信号を受信すると、制御リレー112からモータ250に電力供給され、モータ250の回転力がクラッチ、減速歯車、転換機構と伝わり、転換機構によって電気転てつ機100の解錠、転換、鎖錠の一連動作が行われる。そして、転換終了付近で回路制御器110がモータ電源を遮断すると共に鎖錠機構部の鎖錠状態を確認し、転換完了信号を連動装置に送信する。
【0021】
図2は、本実施形態における電気転てつ機100の内部機構の構成例を示す上面図であって、ケース101の上蓋を外し、当該ケースの内部、すなわちメンテナンス空間103が見える状態に相当する。なお、内部機構の理解を容易にするために、回路制御器110、制御リレー112、外部端子板114等の図示を省略している。
【0022】
本実施形態の電気転てつ機100は、ケース101の外側面(図2に向かって左側面)にモータ250を備える。モータ250の駆動軸202は、ケース101の側部を貫通して、内部に設けられた減速機構部120に接続されている。モータ250で発生された回転動力は、減速機構部120で適切なトルクに変換されて、転換鎖錠機構部140に伝達される。
【0023】
減速機構部120は、例えばモータ250の駆動軸202に取り付けられたピニオンギア122と、これに噛み合うベベルギア124と、当該ベベルギア124の回転軸に設けられた第1減速ギア126と噛み合う中間ギア128と、当該中間ギア128の回転軸に設けられた第2減速ギア130と噛み合う最終歯車である転換ギア132とを含んで構成される。
【0024】
転換鎖錠機構部140は、減速機構部120で減速された回転動力を動作桿102の直動運動に変換するとともに、鎖錠桿104の鎖錠/解除を行う機構部であって、公知の転てつ機と同様に実現できる。
例えば、転換に関しては、転換ギア132の下面に突設された転換ローラ142と、動作桿102の動作方向と交差方向に向いて動作桿102に刻設された転換カム溝144との係合により実現される。また、鎖錠に関しては、転換ローラ142と係合する略半円状の鎖錠カム溝が刻設された第1鎖錠プレート153及び第2鎖錠プレート154が設けられ、各鎖錠プレートにはそれぞれ鎖錠桿104へ向けて延設されて貫通するロックピース155,156が延設されている。
【0025】
[マグネットクラッチの説明]
図3は、本実施形態におけるマグネットクラッチの構成例を示す拡大断面図であって、図2のA−A断面図である。なお、構造の理解を容易にするために、中間ギア128の図示を省略している。
【0026】
本実施形態のマグネットクラッチ300は、
(1)モータ250側からの回転動力を受けるベベルギア124と一体で、その回転軸A1に沿って有底円柱状の内部空間を形成するロータハウジング304と、
(2)ロータハウジング304の有底円柱状内部空間の上向き開口部に回転軸A1と同軸に螺合されるとともに、当該内部空間に収まるように回転軸A1と直交する面(面法線が軸方向を向く軸方向面)に沿って、回転軸A1を中心とする有孔平環状に永久磁石350が敷設された調整板340と、
(3)当該クラッチ自身及びベベルギア124の回転軸を兼ねるとともに、ロータハウジング304の内部空間に配置された永久磁石350に対向するようにヒステリシス材376を支持するロータ部370と、
を備える。
【0027】
図4〜図6は、ロータハウジング304の上面図、断面図(図2のA−A断面)、下面図である。また、図7〜図9は、調整板340の上面図、断面図(図2のA−A断面)、下面図である。
【0028】
先ず、ロータハウジング304の構成について説明する。
図4〜図6に示すように、ロータハウジング304は、有底円筒部305の上端開口部外周に、鍔状にベベルギア124を備える。有底円筒部305の回転軸はベベルギア124の回転軸と一致するように形成されており、ベベルギア124は有底円筒部305より大径に設定されている。つまり、ベベルギア124のはす歯は、有底円筒部305より外側にある。
【0029】
有底円筒部305は、開口部側の大内径部306と、当該大内径部よりも底部側で小径の小内径部308とを有する。つまり、有底円筒部305は、開口部側から底に向けて段階的に内径が縮小されており、上向きに開口する段付の有底円柱状空間を形成している。
【0030】
大内径部306の内壁面には、開口端側から調整ネジ310が形成されている。この調整ネジ310は、調整板340の外周に設けられる調整ネジ344(図8参照)と適合する。
【0031】
有底円筒部305の段付部分の開口部向きの面には、調整ネジ310に螺合された調整板340を、開口方向に付勢するための調整バネ360(図3参照)の一端を嵌着させるための調整バネ受け溝312が凹設されている。なお、調整バネ360の内径は、永久磁石350の外径よりも大きく、大内径部306(図5参照)の内径よりも小さく設定されている。具体的には、調整バネ受け溝312に嵌るように設定されている。
【0032】
小内径部308は、ロータ部370が支持するヒステリシス材376を収容するロータ収容部314となる。そして、小内径部308の底には、ベベルギア124の回転軸と同軸にロータ部370を枢支するためのロータ軸受部316が設けられている。なお、ロータ軸受部316の内周部には、適宜、軸受材318を配置するものとする。図の例では、すべり軸受としているがベアリングなどでもよい。
【0033】
また、ロータハウジング304は、小内径部308の外側、大内径部306との径差部分に、ロータハウジング304と調整板340との相対位置を固定/解除する連結部として機能するロック機構部320を備える。
【0034】
ロック機構部320は、止めピン322と、当該止めピンを有底円筒部305の開口部方向に付勢する圧縮バネ324と、それら(止めピン322及び圧縮バネ324)を、止めピン収容部326に封入する止めピン蓋328とを備える。
【0035】
止めピン322は、円柱断面のロッドの中程に拡径された顎部322bを備える。
止めピン収容部326は、ケース101の底面側からベベルギア124の回転軸と平行に形成された下向き開口の有天井円柱状の小空間である。止めピン収容部326の中心軸は、ベベルギア124の回転軸(ロータハウジング304の中心軸でもある)から距離Lだけ外側に設定される。
【0036】
止めピン収容部326の天井部分には、天井面の内径より小径のピン先端挿通孔326aが有底円筒部305の段付部分に貫通する。ピン先端挿通孔326aの中心軸も、ベベルギア124の回転軸、すなわちロータハウジング304の中心軸から距離Lだけ外側となる。このピン先端挿通孔326aの内径は、止めピン322の先端部分322aが遊嵌可能に設定されているが、止めピン322の顎部322bの径よりは小さく設定されている。また、止めピン収容部326の下端開口部には、止めピン蓋328をネジ込みできるようにネジが切ってある。
【0037】
止めピン蓋328は、止めピン収容部326の下端開口部から、止めピン322及び圧縮バネ324が抜けるのを防止するために螺合される蓋である。その中央には、止めピン322の下端部分322cが挿通するピン下端挿通孔328aが設けられている。
【0038】
ロック機構320の組み立ては、止めピン収容部326に、止めピン322の先端部分322aを上に向けて挿入し、次いで圧縮バネ324を挿入し、最後に止めピン蓋328をねじ込んで成される。組み立てられた状態では、止めピン322の先端部322aはピン先端挿通孔326aに遊嵌し、ロータハウジング304の名部空間の開口部向き、つまり上向きに突出する。止めピン322の下端部322cは、止めピン蓋328のピン下端挿通孔328aに遊嵌し、ピン先端挿通孔326aの遊嵌と相まって止めピン322の倒れを規制しつつガイドする機能を果たす。
【0039】
圧縮バネ324は、止めピン322の顎部322bと、止めピン蓋328との間で圧縮状態で収容され、止めピン322を上向き、すなわち調整ネジ310にネジ込まれる調整板340の方向へ付勢する。但し、止めピン322の顎部322bが止めピン収容部326の天井に当接するので、止めピン322の先端部322aは、有底円筒部305の内部には規定長さ以上には突出しない。
【0040】
図7〜図9に示すように、調整板340は、円板状の基板342の下面に、円板の中心軸を囲むようにして永久磁石350が環状に敷設されて構成される。
【0041】
具体的には、基板342は、ロータハウジング304の有底円筒部305(図5参照)の開口部に螺合される円板体であって、外周側面には、ロータハウジング304の調整ネジ310に適合する調整ネジ344が設けられている。
【0042】
また、基板342の中心軸に沿って、ロータ部370の軸を挿通するロータ軸挿通孔346が貫通されている。
また更に、基板342の中心軸に対して半径rの同心円状に、止めピン322の先端部322aが挿通できる複数の止めピン孔348が貫通されている(図7参照)。本実施形態では、基板342の中心軸周りに45°刻みで止めピン孔348を設けているが、設置数、設置角度はこれに限らず適宜設定することができる。なお、半径rは、止めピン収容部326及びそのピン先端挿通孔326aと、ロータハウジング304の中心軸との距離L(図5参照)と一致する。
【0043】
そして、基板342の下面には、基板の中心軸に対して同心円状に、ロータ軸挿通孔346の回りを囲むようにして、複数の平扇型の永久磁石350が、隣接するもの同士が磁極の向きを交互に違えながら環状に配列されている。調整板340を下面からみると、図9に示すように、複数の永久磁石350が、全体としてドーナツ状の有孔平環状に配置されているのが分る。
【0044】
また、基板342の下面、環状配置された永久磁石350の外周部には、調整ネジ310に螺合された調整板340を、開口方向に付勢するための調整バネ360の上端部を嵌着させるための調整バネ受け溝354が凹設されている。
【0045】
次に、ロータ部370について説明する。
図10及び図11は、本実施形態におけるロータ部370の構成例を示す図であって、前者は上面図、後者は側面図に相当する。
ロータ部370は、回転軸本体部372の中央付近に、当該回転軸本体部よりも径が大きいヒステリシス材支持部374を備える。
【0046】
回転軸本体372は、ケース101のケース筐体90に固定されたベアリング92に嵌合し上下に枢支される円柱体である(図3参照)。ヒステリシス材支持部374を境にして、回転軸本体372一方の側には、キー溝372aが設けられるとともに段付372bが設けられている。この段付372bには、第1減速ギア126が突き当てられて、キー96を用いて固定される(図3参照)。
【0047】
ヒステリシス材支持部374は、回転軸本体372の拡径部分である。その外径は、ロータハウジング304のロータ収容部314の内径よりも小さく設定されている。そして、ヒステリシス材支持部374の軸方向面(法線がロータ部370の回転軸に沿う面)に、ドーナツ状のヒステリシス材376が固定されて構成される。ヒステリシス材376の外径は、ヒステリシス材支持部374の外径と同じ或いは僅かに小さく設定されている。
【0048】
次に、マグネットクラッチ300の組み立て及び転てつ機への組み付け手順について説明する。尚、ロータハウジング304には、ロック機構部320が予め組み付けられているものとする。また、ロータ部370には、第1減速ギア126は組み付けられていないものとする。
【0049】
(手順1)ロータハウジング304のロータ軸受部316(図5参照)に、ロータ部370のキー溝372aの無い側の回転軸本体372(図11参照)を差し込む。
(手順2)調整バネ360を、ロータハウジング304の調整バネ受け溝312にはめ込む。
(手順3)調整板340のロータ軸挿通孔346(図8参照)に、ロータ部370のキー溝372aのある回転軸本体372を通しつつ、調整板340をロータハウジング304の調整ネジ310にネジ込む。このとき、調整板340をロータハウジング304に相対回転させると、止めピン孔348が止めピン322の上方に達する都度、止めピン322が止めピン孔348に挿入され、調整板340とロータハウジング304との相対位置関係を固定する。もし、調整板340のネジ込みを続けたい場合には、止めピン孔348に挿入されている止めピン322を押し込みつつ、調整板340を回すことでネジ込みを継続できる。
【0050】
調整板340を適当なところまでネジ込むと、マグネットクラッチ300が組み立てられたことになる。
(手順4)ロータ軸受部316から突出したロータ部370の回転軸本体372の先端を、下側のケース筐体90のベアリング92(図3参照)に嵌合させる。
(手順5)キー溝372aにキー96を入れ、第1減速ギア126をロータ部370に固定する。これに伴い、中間ギア128なども適宜組み付けるものとする。
(手順6)着脱自在な上側のケース筐体90の梁部91を、当該梁部に予め嵌着されているベアリング92にロータ部370の回転軸本体372の上端を嵌合させるようにして取り付ける。
【0051】
すると、図2及び図3で示すように、マグネットクラッチ300が、電気転てつ機100に組み付けられた状態となる。
この状態では、止めピン322が調整板340の何れかに突入して回り止めとして機能し、調整板340とロータハウジング304が連結され一体となる。永久磁石350とヒステリシス材376は、法線がクラッチの回転軸A1を向いた軸方向面に沿って対向配置されるとともに、軸方向に間隔D1だけ離して対向配置される(図3参照)。
【0052】
そして、駆動軸202が回転すれば、ピニオンギア122と噛み合うベベルギア124が受動される。ベベルギア124と一体のロータハウジング304、及びこれに止めピン322により回り止めされている調整板340が、クラッチの回転軸A1で一体となって回転する。
調整板340の回転により、永久磁石350がヒステリシス材376に対して相対移動することとなり、間隔に回転磁場が発生することとなる。そして、ヒステリシス材376は永久磁石350の移動につれられて回動を始める。結果、ロータ部370が回動し、モータ250より出力された回転力は、第1減速ギア126を介して減速機構部120の他のギアへ伝搬され、転換鎖錠動作に利用される。
【0053】
[マグネットクラッチの調整方法の説明]
次に、マグネットクラッチ300の調整方法について説明する。
図12は、クラッチ調整工具400の構成例を示す斜視外観図である。
クラッチ調整工具400は、丸棒状の工具であって、一端から順に、先端部402と、突き当て部404と、把持部406とを備える。先端部402は、止めピン孔348と嵌合するのに適当な直径と、少なくとも止めピン孔348の深さ以上の長さを有する。突き当て部404は、先端部402よりも径が大きい。把持部406は、調整作業者が握る部位である。
【0054】
では、具体的な調整作業について説明する。
調整作業者は、先ずケース101の上蓋を外してメンテナンス空間103を確保する。メンテナンス空間103に露出した調整板340の止めピン孔348の何れかには、止めピン322が下から突入した状態になっている(図3参照)。
【0055】
そこで、図13に示すように、上方から、クラッチ調整工具400の先端部402を、止めピン322が挿入されている止めピン孔348に対して、圧縮バネ324が止めピン322を押し上げる付勢力に抗して差し込む。この際、クラッチ調整工具400の突き当て部404に、調整板340の上面が突き当って工具が固定される。すると、止めピン348は押し戻されて止めピン孔348から抜けるので、調整作業者は、ロータハウジング304を固定した後、クラッチ調整工具400を握ったまま、クラッチの回転軸A1を中心にして時計回り又は反時計回りに回す。
【0056】
クラッチ調整工具400を回すと、押し戻された止めピン322は、クラッチ調整工具400の先端部402から外れ、再び圧縮バネ324の付勢力により上方へ突出するが、調整板340の下面に突き当たる。クラッチ調整工具400を回し、調整板340が調整ネジ310に沿って回る間、止めピン322は調整板340の下面に突き当たったまま滑るので、回り止めとしては機能しない。しかし、やがて次の止めピン孔348が、止めピン322の上方に到達すると、当該次の止めピン孔348に止めピン322が突入し、再び回り止めとして機能する。もし、調整板340を更に回転させたければ、クラッチ調整工具400を抜いて、現在止めピン322が挿入している止めピン孔348に差し込み直して、再び回り止めを解除してクラッチ調整工具400を回す。
【0057】
結果、調整板340は、調整ネジ310によってロータハウジング304に対して上方又は下方に平行移動する。これに伴い永久磁石350とヒステリシス材376との相対距離、すなわち間隔D1が増減する。つまり、永久磁石350とヒステリシス材376との対向距離が変化し、伝達トルクの大きさが変更される。
【0058】
換言すると、ロック機構部320及び調整板340は、ロータ部370に設けられた一方のクラッチ部材(ヒステリシス材376)に対する他方のクラッチ部材(永久磁石350)の間隔を変化させる方向に装着位置を調整可能に受動歯車部(本実施形態では、ロータハウジング304を兼ねるベベルギア124)に装着された調整機構部301として機能する(図3参照)。
【0059】
以上、本実施形態によれば、クラッチの出力回転軸に対して垂直な面(ロータ370の軸方向面)に沿って永久磁石350とヒステリシス材376とを対向させてマグネットクラッチ300を構成した。このため、伝達トルクの大容量化が必要になっても、永久磁石350及びヒステリシス材376を拡径等して大きさを大きくすることにより対応可能であり、マグネットクラッチ300の高さ方向の長さを変えずに済む。これにより、伝達トルクの容量が異なる複数種類の電気転てつ機において、大部分の部品を共通化できるため、製造コストを低減できる。
【0060】
更に、本実施形態では、メンテナンス性に優れ、転換力性能と異物検知性能が両立する伝達トルクの大きさを設定できるマグネットクラッチを持つ電気転てつ機を実現できる。
【0061】
また、本実施形態の電気転てつ機100は、モータ250の駆動軸202がケース101の側面から内部に貫通し、上下方向の異なる高さでギアを噛み合わせる減速機構部120のベベルギア124に噛み合う構成である。そして、本実施形態のマグネットクラッチ300によれば、このベベルギア124と一体に構成され、且つ、高さ方向においてベベルギア124とケース101の底面と間に収まるように構成できる。よって、本実施形態のマグネットクラッチを設置するために、特別なスペースを要しない。既存の電気転てつ機100のベベルギア124を、本実施形態のベベルギア124一体型のマグネットクラッチ300にそのまま換装すれば、本発明の効果を即座に得ることができる。また、モータ250にマグネットクラッチを設けた構成と比べると、電気転てつ機の長手方向の寸法(図1の左右幅)を小さくできる。
【0062】
また、止めピン孔348が、上向きに露出する構成となっているので、図2に示すように、電気転てつ機100の上蓋を開けると、クラッチの調整板340や止めピン孔348が見え、調整板340を調整できる。調整板340を回転させるとマグネットクラッチ300の伝達トルクが調整できるので、分岐器の転換状態に合わせて転換不能を起こさないように、且つ異物検知ができるように、クラッチのトルクを適切な状態に容易に設定できる。電気転てつ機100の保守点検動作においてケース101の上蓋を外す作業によって、すぐにクラッチの調整作業が可能になる高い作業性を備える。
更には、トルク設定した後は、外気温の変化を受けにくいので、急激な気温変化に対応する必要が無い。
【0063】
本実施形態が実現可能となった背景には、この数十年間により強力な磁力を持つ希土類磁石やより優れたヒステリシス材が次々と出現し、より強力な伝達トルクを持つクラッチの製作が可能になったことが挙げられる。
【0064】
〔第2実施形態〕
次に、本発明を適用した第2実施形態について説明する。本実施形態は、基本的には第1実施形態と同様に実現されるが、クラッチ材の対向箇所を2箇所にした点が異なる。なお、本実施形態の説明では、第1実施形態と同様の構成要素については同じ符合を付与して説明は省略するものとし、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。
【0065】
図14は、本実施形態における電気転てつ機100のマグネットクラッチ300Bの構成例を示す部分拡大断面図である。
本実施形態のマグネットクラッチ300Bでは、第1実施形態の調整板340に相当する要素として、内部に円柱状内部空間を有するアジャスタ340Bを備える。そして、本実施形態のロータ部370Bが、ヒステリシス材を2箇所に備え、その一方をアジャスタ340Bの内部空間に収容するように支持し、他方をカップ体341の底部(下面)でロータハウジング304の底面と対向するように支持する。
【0066】
図15は、アジャスタ340Bの構成例を示す分解断面図である。アジャスタ340Bは、上向きに開口する有底円柱状の内部空間を形成するカップ体341と、当該カップ体の開口部に嵌着されるカップ蓋343とを備える。
【0067】
カップ体341は、第1実施形態の調整板340と同様に、外周部に調整ネジ344を備え、更に表裏に貫通する複数の止めピン孔348を備える。なお、有底円柱状の内部空間の開口部は、複数の止めピン孔348より内径側に開口する。
カップ体341の円柱状内部空間の底には、アジャスタ340Bの中心軸と同軸にロータ軸挿通孔346が設けられている。また、その下面に第2の永久磁石350Bが固定されている。
【0068】
カップ蓋343は、ドーナツ状の円板体であってカップ体341の開口部に嵌着・固定される。図の例では、抜け止めリング375で挟んでカップ蓋343をカップ体341に固定しているが、軽圧入やセレーション、第1実施形態のロータハウジング304と調整板340のように外周部に設けたネジで螺合させ固定するとしても良い。
そして、カップ蓋343には、第1実施形態の調整板340と同様に、円板の中心軸と同軸にロータ軸挿通孔346を備え、またその下面(裏面)には第1実施形態の永久磁石350と同様の第1の永久磁石350が固定されている。
【0069】
図16は、本実施形態におけるロータ部370Bの構成例を示す側面図である。
ロータ部370Bは、上部ロータ372uと、下部ロータ372dとが、セレーション373(オスセレーション373a及びメスセレーション373b)で結合されて、一体の回転軸として使用される。
【0070】
上部ロータ372uは、第1実施形態の上方の回転軸本体372(図11参照)と同様に、キー溝372aや、段付372bを備え、セレーション373からやや上がった部分がフランジ状に拡径されてヒステリシス材支持部374を形成する。ヒステリシス材支持部374の上向き面には、第1実施形態と同様にヒステリシス材376が固定されている。
【0071】
下部ロータ372dは、上端部がフランジ状に拡径され、第2のヒステリシス材支持部374Bを構成する。そして、第2のヒステリシス材支持部374Bの上向き面に、第1実施形態のヒステリシス材376と同様の第2のヒステリシス材376Bが固定されている。
【0072】
なお、上部ロータ372uと下部ロータ372dを連結すると、ヒステリシス材支持部374の底面と、第2のヒステリシス材支持部374Bの第2のヒステリシス材376Bの上面との間には、(1)カップ体341の底部の厚さと、(2)永久磁石350の厚さと、(3)調整ネジ310での調整幅と、の合算値よりも大きい距離が形成されるものとする。
【0073】
マグネットクラッチ300Bの組み立て手順は次の通りである。
なお、ロータハウジング304には予めロック機構部320が取り付けられているものとする。
【0074】
(手順1)ロータハウジング304のロータ軸受部316(図5参照)に、下部ロータ372dを差し込む。
(手順2)調整バネ360を、ロータハウジング304の調整バネ受け溝312にはめ込む。
(手順3)カップ体341をロータハウジング304の調整ネジ310にネジ込む。このとき、カップ体341をロータハウジング304に相対回転させると、止めピン孔348が止めピン322の上方に達する都度、止めピン322が止めピン孔348に挿入され、カップ体341とロータハウジング304との相対位置関係が固定される。もし、カップ体341のネジ込みを続けたい場合には、止めピン孔348に挿入されている止めピン322を押し込みつつ、カップ体341を回すことでネジ込みを継続できる。
【0075】
(手順4)上部ロータ372uの下端を、カップ体341のロータ軸挿通孔346に通しつつ、オスセレーション373aを、ロータハウジング304のロータ軸受部316に差込済の下部ロータ372dのメスセレーション373bへ結合させる。
(手順5)カップ蓋343のロータ軸挿通孔346に、上部ロータ372uを通しつつ、カップ蓋343をカップ体341の開口部に嵌着し、抜け止めリング345を取り付けて抜け止めする。
これで、本実施形態のマグネットクラッチ300Bが組み上がったことになる。
(手順6)ロータハウジング304の下端から突出している下端ロータ372dの軸下端を、下側のケース筐体90のベアリング92(図14参照)に嵌合させる。
【0076】
(手順7)キー溝372aにキー96を入れ、第1減速ギア126をロータ部370Bに固定する。これに伴い、中間ギア128なども適宜組み付けるものとする。
(手順8)着脱自在な上側のケース筐体90の梁部91を、当該梁部に予め嵌着されているベアリング92にロータ部370Bの上部ロータ372uの上端を嵌合させるようにして取り付ける。
【0077】
手順1〜手順8をもって、本実施形態のマグネットクラッチ300Bが電気転てつ機100に取り付けられたこととなる。
【0078】
以上、本実施形態では、永久磁石とヒステリシス材とが対向する箇所が複数箇所となるのでクラッチ部材の面積を増加させることができる。それでいて、カップ蓋343とカップ体341とは一体であるので、第1実施形態の調整板340に対する調整作業と同様にアジャスタ340Bを調整作業する(より正確には、この場合カップ体341に対する調整作業となる)ことによって、2箇所の対向距離が同時に増減する。具体的には、永久磁石350とヒステリシス材376との間隔D1、及び第2の永久磁石350Bと第2のヒステリシス材376Bとの間隔D2とが同時に増減し、伝達トルクの大きさを調整することができる。永久磁石とヒステリシス材とが対向する箇所が複数箇所となっても、伝達トルクの調整作業は一度で済む。
【0079】
また、クラッチ部材の面積を増加させることができるので、伝達トルクが第1実施形態と同じ程度であれば、より安価な磁石材料を採用できるので、製造コストの低減も可能となる。
【0080】
〔第3実施形態〕
次に、本発明を適用した第3実施形態について説明する。本実施形態は、基本的には第1実施形態と同様の構成により実現できるが、マグネットクラッチの構造が異なる。尚、第1実施形態と同様の構成要素については同じ符合を付与して説明は省略するものとし、主に第1実施形態との差異について述べる。
【0081】
具体的には、図17に示すように、本実施形態のマグネットクラッチ300Cは、上記第1実施形態をベースにして、ヒステリシス材376を回転軸本体部372に対してフランジ状に直接固定する。そして、ロータハウジング304のロータ収容部314の底面に、第2の永久磁石350Cを配置して、永久磁石とヒステリシス材との対向距離D3が変化しない第2の対向部を設けた。
【0082】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果が得られるとともに、永久磁石とヒステリシス材とが対向する箇所が複数箇所となるのでクラッチ部材の面積を増加させることができる。クラッチ部材の面積を増加させることができるので、伝達トルクが第1実施形態と同じ程度であれば、より安価な磁石材料を採用できるので、製造コストの低減も可能となる。
【0083】
また、永久磁石350Cは、第1実施形態の永久磁石350のように調整板340には連結されてはいない。第2の永久磁石350Cとヒステリシス材376Cとの間隔D3は固定であり、当該部位による伝達トルクの大きさは固定となる。すなわち、下部のクラッチ部材による伝達トルクが固定で、上部のクラッチ部材による伝達トルクが可変できる。調整板340を同じ角度回転させた場合に可変される伝達トルクが、第1実施形態に比べて小さくなるので、より微調整がし易くなっている。
トルク設定に当っては、例えば、電気転てつ機100に組み合わせが想定される分岐器のうち、最も小さい分岐器の負荷に余裕を加えた分を下部のクラッチ部材による伝達トルクに設定し、上部のクラッチ部材により、想定される分岐器のうち最も大きな分岐器で要求される伝達トルクと、最も小さな分岐器で要求される伝達トルクとの差を担うように設定すると好適である。
【0084】
尚、本実施形態は、図18に示すマグネットクラッチ300Dのように、第1実施形態の構成をベースとして、ヒステリシス材指示部374の裏面側に第2のヒステリシス材376Dを設けることで実現するとしても良い。
【0085】
〔第4実施形態〕
次に、本発明を適用した第4実施形態について説明する。
上述のように第1〜第3実施形態では、ロック機構部320を有しているので、伝達トルクを設定現場にて調整することができる。しかし、設置条件によっては必ずしも調整が必要なケースばかりとは言えず、製造段階で所定の伝達トルクに設定したままで使用できるケースもある。第4実施形態は、こうした事情を鑑みた実施形態である。製造段階で特定の伝達トルクに設定したまま使用することを前提とすることで、構造を簡素化し、製造コストの低減を図ることを目的としている。
【0086】
第4実施形態は、基本的には第1〜第3実施形態の何れかと同様の構成を有するが、ロック機構部320を省略した構成となっている。尚、第1〜第3実施形態と同様の構成要素については同じ符合を付与して説明は省略するものとする。
【0087】
図19は、本実施形態におけるマグネットクラッチの構成例を示す断面図である。
本実施形態のマグネットクラッチ300Eは、ロータハウジング304Eに上向き開口で凹設されたロータ収容部314内に、上向き面にヒステリシス材376を環状に配置したロータ370を枢支する。そして、ロータ収容部314の開口端で、ヒステリシス材376と対向する永久磁石350を備えた調整板340Eをねじ込み固定するとともにボルト380で固定する。
【0088】
図20と図21は、それぞれ本実施形態におけるロータハウジング304Eの上面図及び縦断面図である。ロータハウジング304Eの有底円筒部305は、開口部側の大内径部306と、当該大内径部306よりも底部側で小径の小内径部308とを有する。
【0089】
本実施形態における大内径部306の段付き面には、調整板340Eを固定するためのボルト380のネジ穴386が適当数上向きに開口している。
そして、本実施形態における小内径部308の上端部にはネジ部382が形成されている。このネジ部382は、調整板340Eをねじ込み固定するのに用いられる。つまり、小内径部308の内部空間がロータ370を収容するロータ収容部314として機能する。
【0090】
図22と図23は、それぞれ本実施形態における調整板340Eの縦断面図及び下面図である。本実施形態の調整板340Eは、ロータ軸挿通孔346を中心に備えた有フランジの円板体である。フランジ部には、ボルト380の挿入口390が適当数設けられている。本実施形態では、180°毎に2つとしているが、適宜増設することができる。
【0091】
フランジ部より下方部の外周には、ロータハウジング304Eのネジ部382と対応するネジ部392が設けられている。そして、調整板340Eの下面には、永久磁石350が固定されている。
【0092】
そして、調整板340Eは、フランジ部より下方部の高さHが複数種類用意されており、高さHが異なる調整板340Eをロータハウジング304Eに取り付けると、永久磁石350とヒステリシス材376との間隙D1(図19参照)を変えることができるようになっている。つまり、調整板340Eとボルト380とで本実施形態における調整機構部301を構成していることになる。
【0093】
本実施形態におけるマグネットクラッチ300Eの伝達トルクの調整は、高さHの異なる仕様の調整板340Eに交換することにより実現できる。もし、高さHを1種類のみとする場合には、ボルト380を抜き、ボルト挿入孔390に別途工具を差し込んで調整板340Eをネジ部382,392に沿って回して、間隙D1を調整し、再度ボルト380をねじ込み固定する方法で調整しても良い。
【0094】
このように、本実施形態におけるマグネットクラッチ300Eを用いることで、伝達トルクを調整できる。第1〜第3実施形態と比べると、ロック機構部320を省略した分、更なる転てつ機の小型化・軽量化を実現できる。また、第1〜第3実施形態に比べても更にロータ部分の慣性を小さくすることができるとともに、構成部品が減ることで、製造コストの低減が図れる。また、第1〜第3実施形態のロック機構部320を省略した分、低コストに電気転てつ機100を提供することが可能となる。なお、ボルト380を割りピンなどに変更することで、更にコスト低減を図ることができる。
【0095】
尚、永久磁石350とヒステリシス材376との対面箇所は、複数箇所とすることができる。例えば、図24に示すように、ロータハウジング304Eのロータ収容部314の底面にもう一つの永久磁石350を設ける一方、ロータ370ヒステリシス材支持部374の下面側にもう一つのヒステリシス材376を設けることができる。
【0096】
〔変形例〕
以上、本発明を適用した実施形態について説明したが、本発明の適用形態はこれらに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない限りにおいて適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0097】
例えば、上記実施形態における永久磁石とヒステリシス材との位置関係は、例示された構成と反対であってもよい。つまり、永久磁石の位置にヒステリシス材を設け、ヒステリシス材の位置に永久磁石を設ける、クラッチ部材の一方と他方を入れ替えたレイアウトである。
【0098】
また、上記実施形態では、マグネットクラッチ300を、減速機構部120がモータ250から最初に受動する歯車(ベベルギア124)と一体に設けた構成としているが、ケース101の内部構造や、減速機構部120のギア構成によっては、必ずしも最初に受動する歯車に限るものではなく、適宜、減速機構部120の中間のギア(例えば、図2の例では、中間ギア128など)と一体に設ける構成としてもよい。
【0099】
また、永久磁石350や、ヒステリシス材376の固定構造は、上記実施形態のように、調整板340やロータ部370などに直接取り付ける構造に限らず、適宜金属以外の変形し難い材料を介して取り付けるとしても良い。
【符号の説明】
【0100】
2…ポイント
4…分岐器
6…基本レール
8…連結板
10…可動レール
12…枕木
12B…転てつ機用枕木
14…床板
16…転てつ棒
18…敷板
20…接続桿
90…ケース筐体
91…梁部
92…ベアリング
96…キー
100…電気転てつ機
101…ケース
102…動作桿
103…メンテナンス空間
104…鎖錠桿
109…信号ケーブル束
110…回路制御器
112…制御リレー
114…外部端子板
120…減速機構部
122…ピニオンギア
124…ベベルギア
126…減速ギア
128…中間ギア
130…減速ギア
132…転換ギア
140…転換鎖錠機構部
142…転換ローラ
144…転換カム溝
153…鎖錠プレート
154…鎖錠プレート
155…ロックピース
202…駆動軸
250…モータ
300,300B,300C,300D,300E…マグネットクラッチ
301…調整機構部
304,304E…ロータハウジング(受動歯車部)
305…有底円筒部
306…大内径部
308…小内径部
310…調整ネジ
312…調整バネ受け溝
314…ロータ収容部
316…ロータ軸受部
318…軸受材
320…ロック機構部
322…止めピン
322a…先端部分
322b…顎部
322c…下端部分
324…圧縮バネ
326…止めピン収容部
326a…ピン先端挿通孔
328…止めピン蓋
328a…ピン下端挿通孔
340,340E…調整板
340B…アジャスタ
341…カップ体
342…基板
343…カップ蓋
344…調整ネジ
345…リング
346…ロータ軸挿通孔
348…止めピン孔
350…永久磁石
354…バネ受け溝
360…調整バネ
370…ロータ部
372…回転軸本体部
372a…キー溝
372b…段付
372d…下部ロータ
372u…上部ロータ
373…セレーション
373a…オスセレーション
373b…メスセレーション
374…ヒステリシス材支持部
375…抜け止めリング
376…ヒステリシス材
380…ボルト
382…ネジ部
386…ネジ穴
390…ボルト挿入孔
392…ネジ部
400…クラッチ調整工具
402…先端部
404…突き当て部
406…把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機構部によってモータの駆動力を減速させて動作桿の転換動力とする転てつ機において、
前記モータ側からの駆動力を受ける受動歯車部と一体に前記減速機構部に設けられてなるマグネットクラッチであって、永久磁石及びヒステリシス材の何れか一方のクラッチ部材が回転力を前記動作桿側に伝達する出力歯車に接続されたロータ部に設けられ、他方のクラッチ部材が前記一方のクラッチ部材と対向配置されたマグネットクラッチを備えた転てつ機。
【請求項2】
前記ロータ部は、永久磁石及びヒステリシス材の何れか一方の部材でなる第2の一方クラッチ部材を有し、
前記受動歯車部は、前記第2の一方クラッチ部材に対向する第2の他方クラッチ部材を有する、
請求項1に記載の転てつ機。
【請求項3】
前記ロータ部は、永久磁石及びヒステリシス材の何れか一方の部材でなる第2の一方クラッチ部材を有し、
前記受動歯車部は、前記第2の一方クラッチ部材に対する相対位置が保たれる位置に設けられた第2の他方クラッチ部材を有する、
請求項1に記載の転てつ機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2013−79020(P2013−79020A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220675(P2011−220675)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】