説明

転写型インクジェット記録方法および転写型インクジェット記録装置

【課題】多種多様な記録媒体を用いても描画部と非描画部とにおける光沢感の違いが少なく、商品価値の高い印刷物を作製可能な転写型インクジェット記録方法および装置を提供すること。
【解決手段】明細書中に定義される中間画像形成工程と、転写工程とを有する転写型インクジェット記録方法であり、該中間画像形成工程において、中心線表面粗さがいずれも異なる複数の中間転写体の中から記録媒体の中心線表面粗さと最も近い値の中心線表面粗さを有する中間転写体を選択して、選択した中間転写体表面に中間画像を形成することを特徴とする転写型インクジェット記録方法。及び転写型インクジェット記録装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写型インクジェット記録方法およびその方法に用いることのできる転写型インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転写型インクジェット記録方法は、典型的には以下の工程を有する。即ち、インクを中間転写体表面にインクジェットデバイスを用いて付与することにより中間画像を形成する中間画像形成工程と、中間画像が形成された中間転写体に記録媒体を圧着してその中間画像を記録媒体へ転写する転写工程とを有する。転写型インクジェット記録方法に用いられる画像形成装置は、中間画像を担持する中間転写体を具備している。
【0003】
ここで従来提案されている転写型インクジェット記録方法に供される中間転写体として、表面に凹凸層を有するものがある。
【0004】
特許文献1には、材料としては四フッ化エチレンを用い、表面粗さ計(RST/PLUS WYCO社製)により測定される表面粗さRaが0.2μm〜2.5μmの凹凸層を有する中間転写体が例示されている。この例では適正な範囲の表面粗さをもった転写型インクジェット記録方法用中間転写体を提供することで、良好な転写性が得られるとされている。
【0005】
特許文献2には、凹凸形成手段を備え、中間転写体表面に、転写時にはつぶれて平滑化する凹凸層を形成する画像形成装置が例示されている。この例では中間転写体表面の凹凸層が転写時につぶれて平滑化するので、表面粗さの異なる各種記録媒体に対しても良好な転写性が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−370442号公報
【特許文献2】特開2009−078391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは上述の技術を詳細に検討した結果、このような転写型インクジェット記録方法に用いる画像形成装置においては、以下のような課題があることを初めて見出した。即ち、転写後の記録媒体において、インクによる中間画像が転写された部分(描画部と称する)と、転写されず元の記録媒体表面が露出している部分(非描画部と称する)との間で、見た目の風合いに大きな違いが発生する場合があるという課題である。
【0008】
課題についてさらに具体的に述べる。この記録方法に用いられる記録媒体は紙、樹脂フィルム、布帛など様々な物があり、それらの記録媒体の表面の風合いは様々である。さらに最も良く用いられる紙の中にもコート紙、マット紙、グロス紙、上質紙、等と多種多様な種類がありそれらの記録媒体の表面の風合いも様々である。
【0009】
特に印刷物としての価値を決定する際に極めて重要な風合いの1つに光沢感がある。印刷物の光沢感はその商品価値を左右する重要なファクターとして扱われており、記録媒体が目的に添った光沢感を得るために適しているかどうかで選択されることも多い。
【0010】
翻ってみるに、転写型インクジェット記録方法によって得られる描画部はその中間転写体の転写時の形状が文字通り転写されるため、元の記録媒体の光沢感とは無関係な光沢感を呈する。言い換えれば1つの印刷物の画面の中に光沢感の高い部分と低い部分とが混在する場合があるということである。本発明者らはこのような課題を初めて見出したのである。
【0011】
特許文献1の発明においては、この課題に対する一切の言及は見られない。また、特許文献2の発明においても、この課題を解決するための技術は開示されていない。
【0012】
従って本発明の目的は、多種多様な記録媒体を用いても描画部と非描画部とにおける光沢感の違いが少なく、商品価値の高い印刷物を作製可能な転写型インクジェット記録方法および転写型インクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、インクを中間転写体表面にインクジェットデバイスを用いて付与することにより中間画像を形成する中間画像形成工程と、該中間画像が形成された該中間転写体に記録媒体を圧着して該中間画像を該記録媒体へ転写する転写工程とを有する、転写型インクジェット記録方法であって、
該中間画像形成工程において、中心線表面粗さがいずれも異なる複数の中間転写体の中から該記録媒体の中心線表面粗さと最も近い値の中心線表面粗さを有する中間転写体を選択して、選択した中間転写体表面に該中間画像を形成することを特徴とする転写型インクジェット記録方法である。
【0014】
また、本発明は、インクを中間転写体表面にインクジェットデバイスを用いて付与することにより中間画像を形成する中間画像形成機構と、該中間画像が形成された該中間転写体に記録媒体を圧着して該中間画像を該記録媒体へ転写する転写機構とを有する、転写型インクジェット記録装置であって、
中心線表面粗さがいずれも異なる複数の中間転写体と、
該記録媒体の中心線表面粗さを計測する機構と、
計測した記録媒体の中心線表面粗さと最も近い値の中心線表面粗さを有する中間転写体を前記複数の中間転写体の中から選択し該中間画像形成機構に供給する機構と、
を具備することを特徴とする転写型インクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多種多様な記録媒体を用いても描画部と非描画部とにおける光沢感の違いが少なく、商品価値の高い印刷物を作製可能な転写型インクジェット記録方法および転写型インクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】支持部材上に形成された中間転写体の断面構造を模式的に表す図であり、(a)は2つの部材(凹凸層および表層部材)、(b)は1つの部材からなる中間転写体の断面構造を模式的に表す図である。
【図2】(a)、(b)いずれも、共通の支持部材上に配され、共通の表層部材を有する中心線表面粗さが異なる複数の中間転写体の構造を模式的に表す図である。
【図3】ドラム状の支持部材上に、1種類の中間転写体が形成された構造を模式的に表す図である。
【図4】本発明に係る転写型インクジェット記録装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は先述した背景技術の有する課題を鋭意検討した結果、上記に示す本発明の構成が転写型インクジェット記録方法および転写型インクジェット記録装置として課題に対し優れた性能を有することを見出し、本発明を成すに至った。
【0018】
このように優れた性能を有する理由は明確ではないが、本発明者らは以下のように推測している。
【0019】
転写型インクジェット記録方法では、上述したように中間転写体表面に形成された中間画像の最終画像面に、その中間転写体表面の形状(例えば凹凸層)に対応した形状(例えば凹凸)が形成される。
【0020】
中間画像の最終画像面とは、中間画像を構成するインク層の対向する2つの面のうちの中間転写体に触れている側の面であり、転写時に記録媒体に触れる側の面に対向する面でもある。結果として、中間転写体の表面形状に対応した形状を表面に有する画像が記録媒体表面に形成されることになる。つまり、中間転写体表面の形状により印刷物の描画部の光沢感を制御することが可能となる。
【0021】
特に、記録媒体の中心線表面粗さと近い値の中心線表面粗さを有する中間転写体を用いることで、描画部と非描画部との光沢感の違いを低減することができ、商品価値の高い印刷物を得ることができる。
【0022】
しかし、従来の方法では、1種類の中間転写体を用いて画像を形成していたため、その中間転写体の中心線表面粗さと、用いる記録媒体の中心線表面粗さとの差が非常に大きい場合、描画部と非描画部との光沢感の違いが顕著となる場合があった。
【0023】
一方、本発明では、中心線表面粗さがいずれも異なる複数の中間転写体を用いるため、多種多様な記録媒体に印刷を行う場合に各々の非描画部の光沢感に適した中間転写体を選択することができる。これにより、従来の方法と比較して、描画部と非描画部との光沢感の違いを少なくすることができ、商品価値の高い印字物を得ることができ、極めて好適である。
【0024】
また、複数の中間転写体の中心線表面粗さ(Ra)の差は、いずれも0.5μm以上であることが好ましい。なお、複数の中間転写体の中心線表面粗さの差がいずれも0.5μm以上とは、以下のように言い換えることができる。その複数の中間転写体の中から1つ中間転写体を選択し、その中間転写体の中心線表面粗さと、それ以外の複数の中間転写体の中心線表面粗さとを1つずつ比較する操作を、各中間転写体に対して行った場合に、2つの中間転写体の差が必ず0.5μm以上となることである。例えば、図2に示すように4つの中間転写体21a〜21d(表層部材12は共通)では、4つの中間転写体の中から2つを選択する全ての組み合わせ(6通り)のうちのどの組み合わせにおいても、両者の中心線表面粗さの差が0.5μm以上となる。これにより、非常に多種類の中間転写体を使用しなくても、ほとんど全ての記録媒体に対して充分商品価値の高い印刷物を容易に得ることができる。また、本発明の効果を十分に発揮させるためには、この差がいずれも3.0μm以下である中間転写体を用いることが好ましい。中心線表面粗さの差が3.0μm以下であると、Ra値が高い方の中間転写体の中心線表面粗さが非常に高くなることを容易に防ぐことができる。この結果、印刷物上での描画部と非描画部での光沢感の違いが大きくなることを容易に防ぎ、印刷物の価値が低下することを容易に防ぐことができる。
【0025】
また、本発明の転写型インクジェット記録装置は、記録媒体の中心線表面粗さを計測する機構と、その計測結果と最も近い値の中心線表面粗さを有する中間転写体を複数の中間転写体の中から選択して、中間画像形成機構に供給する機構とを具備する。これにより、多種多様な記録媒体に対して連続的に印刷を行う時にも自動的に最も適した中間転写体表面が適用されるため、使用者の作業負荷が少なく済み極めて好適である。
【0026】
以下に本発明の転写型インクジェット記録方法および転写型インクジェット記録装置の一実施形態の概略を、図4を用いて詳しく説明する。図4は、本発明の転写型インクジェット記録方法に用いるのに適した転写型インクジェット記録装置の一例を示す模式図である。
【0027】
<<インクジェット記録方法およびインクジェット記録装置>>
本発明の転写型インクジェット記録方法は、中間画像形成工程と、転写工程とを有し、上記複数の中間転写体を用いる。中間画像形成工程は、インクを中間転写体表面にインクジェットデバイスを用いて付与することにより中間画像を形成する工程である。
【0028】
また、この中間画像形成工程では、複数の中間転写体の中から記録媒体の中心線表面粗さと最も近い値の中心線表面粗さを有する中間転写体を選択して、その中間転写体表面に、中間画像を形成する。転写工程は、この中間画像が形成された中間転写体に記録媒体を圧着して中間画像を記録媒体へ転写する工程である。
【0029】
なお、本発明の転写型インクジェット記録方法は、これらの工程の他に、後述する凝集液付与工程、水分除去工程およびクリーニング工程を有することができる。
【0030】
本発明の転写型インクジェット記録装置は、上記転写型インクジェット記録方法に用いることができ、以下のものを有する。即ち、中心線表面粗さがいずれも異なる複数の中間転写体、後述する中間画像形成機構、転写機構、記録媒体の中心線表面粗さを計測する機構、および中間転写体を選択し中間画像形成機構に供給する機構(中間転写体選択供給機構)を有する。さらに、凝集液付与機構、水分除去機構およびクリーニング機構を有することもできる。
【0031】
なお、図4の記録装置は、以下のものを有する。支持部材11上に配される中間転写体21a〜21d。中間画像形成機構としてインクジェットデバイス15。記録媒体18への転写機構として加圧ローラ19。記録媒体の中心線表面粗さを計測する機構としてRa計測機構10。中間転写体選択供給機構(不図示)。凝集液付与機構としてローラ式塗布装置14。水分除去機構として送風装置16および加熱ヒータ17。クリーニング機構としてクリーニングユニット20。
以下にこれらを説明する。
【0032】
<支持部材>
支持部材11は、その搬送精度や耐久性の観点からある程度の構造強度が求められる。支持部剤11の材質としては金属、セラミック、樹脂などが好適である。中でも特に、転写時の加圧に耐え得る剛性や寸法精度のほか、動作時のイナーシャを軽減して制御の応答性を向上するために要求される特性から、以下の材料を支持部材11に用いるのが好ましい。例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス、アセタール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリウレタン、シリカセラミクス、アルミナセラミクス等である。またこれらを組み合わせて用いるのも好ましい。
【0033】
なお、支持部材11は、適用する記録装置の形態ないしは記録媒体への転写態様に合わせ、例えばローラ状、ベルト状の物も好適に使用することができる。ドラム状の支持部材やベルト状の無端ウエブ構成の支持部材を用いると、同一の中間転写体を連続して繰り返し使用することが可能となり、生産性の面から極めて好適な構成となる。
【0034】
<中間転写体>
本発明の転写型インクジェット記録方法では、上述したように、中心線表面粗さが異なる複数の中間転写体を用い、本発明の転写型インクジェット記録装置は、これらの複数の中間転写体を具備する。そして、用いる記録媒体の中心線表面粗さに応じて、好適な中間転写体を1つ選択して中間画像の形成に用いる。
【0035】
中間転写体は、インクを保持し、画像を形成する基材となる。中間転写体は、典型的には、中間転写体をハンドリングする際に必要な力を伝達するための支持部材11上に形成される。
【0036】
図1に、本発明に用いることのできる中間転写体21の模式的断面図を示す。支持部材11上に配される中間転写体21は、図1(a)に示すように、2つの部材(表層部材12および凹凸層13)から構成されても良く、図1(b)に示すように、1つの部材から構成されても良い。表層部材12は、中間転写体の表面層ではなく、中間層として機能する。
【0037】
なお、中間転写体21の表面(凹凸層13の表面)を平面(後述する中心線表面粗さRaを0)とすることもできる。
【0038】
また、支持部材11と、中間転写体21とは、均一の(同じ)部材からなっていても良いし、図1に示すように各々独立した複数の部材からなっていても良い。
【0039】
なお、少なくとも表層部材12および凹凸層13が均一の部材からなる場合の凹凸層13は、凹凸の上端(出っ張っている部分)から下端(凹んでいる部分)までの範囲のことを意味する。図1(b)では、表層部材12および凹凸層13が均一の部材から形成されており、凹凸の上端から下端までの範囲が凹凸層13であり、それ以外の部分が表層部材12となる。
【0040】
また、中間転写体の配置については、図3に示すように1つの中間転写体が1つの支持部材上に配されても良く、あるいは複数の中間転写体が共通の支持部材上に配されても良い。また、図2(a)および(b)に示すように、この複数の中間転写体(21a〜21d)が、共通の表層部材12を有し、中心線表面粗さがいずれも異なる複数の凹凸層(13a〜13d)により構成されていても良い。凹凸層13の中心線表面粗さは、中間転写体21の中心線表面粗さとして考えることができる。
【0041】
中間転写体の全体的な形状としては、シート形状、ローラ形状、ドラム形状、ベルト形状、無端ウエブ形状等が挙げられる。また中間転写体のサイズは、目的の印刷画像サイズに合わせて自由に選択することができる。
【0042】
また、図4に示すように、表層部材12と、4つの凹凸層13a〜13dとからなるシート形状の4つの中間転写体21a〜21dを、回転可能なドラム状の支持部材11、の外面に固定して用いることもできる。そして支持部材11は軸Aを中心として矢印方向に回転駆動し、その回転と同期して、周辺に配置された各デバイスが作動するようにすることができる。
この中間転写体の構造は図2の(a)で表されるものと同様である。
【0043】
(表層部材)
中間転写体の表層部材12は、紙などの記録媒体に中間画像を圧着させて中間画像を転写させるため、ある程度の弾性を有していることが望ましい。例えば記録媒体として紙を用いる場合には、中間転写体表層部材12はデュロメータ・タイプA(JIS K 6253準拠)硬度が10°以上100°以下であることが好ましく、特に20°以上60°以下であることがより好適である。
【0044】
表層部材12の材質としては樹脂、セラミックなど各種材料を適宜用いることができるが、前記特性および加工特性より、各種エラストマー材料、およびゴム材料が好ましく用いられる。これらの材料としては、例えばシリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、天然ゴム、スチレンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン/プロピレン/ブタジエンのコポリマー、ニトリルブタジエンゴム等が挙げられる。特に、シリコーンゴム、フルオロシリコーンゴム、フェニルシリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴムは寸法安定性、耐久性、耐熱性等の面から極めて好適に用いることができる。
【0045】
また表層部材12は複数材料を積層して形成された物も好適に用いることができる。例えばポリウレタンベルトにシリコーンゴムを薄く被膜させた積層材料は極めて好適に表層部材12として用いることができる。
【0046】
また表層部材12は適当な表面処理を施して用いることができる。表面処理の例として、フレーム処理、コロナ処理、プラズマ処理、研磨処理、粗化処理、活性エネルギー線照射処理(UV・IR・RFなど)、オゾン処理、界面活性剤処理が挙げられる。またこれらを複数組み合わせて施しても良い。
【0047】
また、表層部材12と支持部材11との間にこれらを固定および保持するための各種接着材や両面テープが存在していても良い。
【0048】
(凹凸層)
本発明に用いる中間転写体は、表層部材12上に凹凸層13を有する構成とすることができる。この凹凸層は先にも述べたように、表層部材12および支持部材11と同一部材であっても良いし、別部材であっても良い。
【0049】
また、複数の中間転写体(表層部材が共通の場合、複数の凹凸層)がそれぞれ異なる材料を用いて形成されていても良いし、同じ材料を用いて形成されていても良い。なお、この複数の中間転写体は、いずれも中心線表面粗さが異なる。即ち、複数の中間転写体表面の凹凸層は、いずれも中心線表面粗さが異なる。なお、本発明の製造方法および製造装置において、中間転写体の数は、交換による生産性低下の観点から、2以上が好ましく、7以下が好ましい。
【0050】
これらの凹凸層13の硬さ(弾性率)は、中間画像形成工程において中間転写体表面に形成される中間画像層よりも硬いことが好ましく、具体的には、転写時の温度における弾性率が、300MPa以上であることが好ましい。
【0051】
中間画像層よりも硬ければ、転写時に中間転写体の表面形状をあたかもエンボス加工のように中間画像層の最終画像面に形成する際に、中間転写体の表面形状が変形することを容易に防ぎ、最終画像面に中間転写体の表面形状を容易に形成することできる。具体的に300MPa以上であると様々な条件においても中間転写体の表面形状を最終画像面に容易に形成可能であり好適である。
【0052】
凹凸層13を形成する材料は、結果として、中心線表面粗さがいずれも異なる複数の中間転写体を形成できれば特に制限はないが、加工性とインク画像の転写性等の観点からシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、金属、セラミクス等が好適に用いられる。
【0053】
また上記複数の中間転写体の表面形状(凹凸層13の凹凸形状)は、いずれも中心線表面粗さ(Ra)が0.0001μm以上3.0μm以下であることが好ましい。鏡面(Raが0)でも良いが、0.0001μm以上であると、中間転写体表面上でインクが動きやすくなることを容易に防ぐことができ、画像の乱れが発生することを容易に防ぐことができる。一方、3.0μm以下であると、転写時における中間画像と紙の接触面積が小さくなることを容易に防ぎ、転写性が低下することを容易に防ぐことができる。
【0054】
本発明に用いる中心線表面粗さ(Ra)は、JIS B0601に規定された方法により定義されるものであり、例えば、カラー3Dレーザ顕微鏡VK−9700(商品名、キーエンス社製)を用いて測定することができる。以降、中心線表面粗さをRaと称する。
【0055】
本発明に用いる中間転写体の表面形状を作製する方法としては特に定められた方法はなく、旧来知られた方法をいずれも好適に用いることができる。具体的にはサンドブラスト加工、エンボス(型押し)加工、型抜き加工、コロナ放電などの活性エネルギー線加工、また光硬化樹脂を用いたフォトリソ加工などを好適に用いることができる。
【0056】
本発明の転写型インクジェット記録装置は、複数の中間転写体を具備し、その複数の中間転写体の中心表面粗さ(Ra)はいずれも異なる。またその複数の中間転写体のRaの差がいずれも0.5μm以上であれば、実質的にほとんど全ての記録媒体に対し描画部と非描画部での光沢差を容易に無視できるため極めて好ましい。
【0057】
凹凸層13の下に設ける支持部材11および表層部材12は、複数の中間転写体において共通であっても良いし、異なっていても良い。支持部材11および表層部材12が共通の複数の中間転写体は、例えば円筒形状(ドラム形状)の支持部材11の側面に一様に表層部材12を被覆したものに、Raの異なる凹凸層を複数配置することにより得ることができる。図2にその形状を模式的に示す。図2においては、4つの中間転写体21a〜21dは、それぞれ表面に凹凸層13a〜13dを有しており、これらの凹凸層のRa、即ちこれらの中間転写体のRaは、いずれも異なる。なお、本発明においては、中心線表面粗さがいずれも異なる中間転写体が複数存在していればよく、例えばこれら複数の中間転写体以外に中心線表面粗さが同じ中間転写体が存在していてもよい。
【0058】
<<中間画像形成工程および機構>>
本発明の記録装置には、以下のRa計測機構10と、中間転写体選択供給機構(不図示)とが設置される。また、本発明の記録方法では、これらの機構を用いることにより、複数の中間転写体から記録媒体のRaと最も近い値のRaを有する中間転写体を選択して中間画像形成工程に用いることができる。
【0059】
本発明の記録装置では、図2および4に示すように、共通の支持部材11上に異なるRaを持つ複数の中間転写体21a〜21dを予め設置する形態とすることができる。また、図3のような形態の場合には、支持部材11のみを予め設置しておき、中間転写体選択供給機構により、複数の中間転写体から選択された1つの中間転写体のみをその支持部材上に装着させる形態とすることもできる。この場合は、支持部材上の全範囲を中間転写体として使用することができるため、1種類の紙で大部数の印刷を行う場合には生産性の観点から好ましい。
【0060】
<Ra計測機構および中間転写体選択供給機構>
上述したように、本発明の転写型インクジェット記録装置は、用いる記録媒体のRaを計測する機構と、その計測結果と最も近い値のRaを有する中間転写体を複数の中間転写体の中から選択し中間画像形成機構に供給する機構とを具備する。記録媒体のRaを計測する機構により、記録媒体がこの記録装置に供給される際にRaを計測する。この値と最も近い値のRaを有する中間転写体を選択し中間画像の形成に使用することで、使用者は特に意識することなく常に描画部と非描画部との間に光沢感の違いが少ない印刷物を連続的に得ることができる。最も近い値のRaを有する中間転写体が2つ以上ある場合には、そのいずれを選択してもよい。なお、中間画像形成機構とは、中間転写体表面にインクを付与し、画像を形成するデバイスを意味し、例えばインクジェットデバイス15を挙げることができる。
【0061】
Raの計測機構としては公知の物をいずれも好適に用いることができる。例えば、JIS B0601にはRaの計測機構の一例について詳細に記載されている。
【0062】
また、中間転写体選択供給機構としては、例えば、Ra計測機構から送られた紙のRaデータを、あらかじめ入力された中間転写体のRaデータと比較し、最も近いRaを持つ中間転写体を選択して信号を出す制御デバイスと、該中間転写体を格納所から取り出し、支持部材上に装着させるデバイスとが連動したシステムを用いることができる。
【0063】
<凝集液付与工程および機構>
なお本発明の記録方法および記録装置は、選択された中間転写体表面にインクを付与する前にインク中の色材成分と接触して高粘度化インク画像を形成する凝集液を予め中間転写体表面に付与する凝集液付与工程および機構を有していても良い。図4では、凝集液を付与するデバイス(凝集液付与機構)としてローラ式塗布装置14が配置されている。これにより凝集液が中間転写体の表面に連続的に付与される構造となっている。
【0064】
本発明に用いる凝集液は、インク高粘度化成分を含有する。ここで、インク高粘度化成分とは、インクを構成する色材や樹脂等と接触することによって、これらの色材や樹脂等を化学的に反応させ、あるいは物理的に吸着させ、これによってインク全体の粘度を上昇させる成分を表す。なお、インク高粘度化成分とは、接触により色材などインクの一部を凝集させることにより局所的に粘度上昇を生じさせる成分も含む概念である。
【0065】
この成分は中間転写体上でのインクの流動性を低下させて(インクの一部の粘度を上昇させて結果的にインクの流動性を低下させる場合も含む)、画像形成時のブリーディング、ビーディングを抑制する効果がある。すなわちインクジェットデバイスを用いた画像形成においては単位面積当たりのインク付与量が多量となる場合があり、そのような時にはインクの滲みや混じり合いであるブリーディング、ビーディングが起こりやすい。しかし凝集液が中間転写体上に付与されていることによって、インクにより画像が形成される時に流動性を容易に低下させることができるためブリーディングやビーディングがより起こりにくくなる。この結果、良好な画像を容易に形成および保持することができる。
【0066】
使用するインク高粘度化成分は、画像形成に使用するインクの種類によって適切に選択するのが望ましい。例えば、染料系のインクに対しては高分子凝集剤を用いることが有効であり、微粒子が分散されてなる顔料系のインクに対しては、多価の金属イオンを含有する液体や、酸緩衝液などのpH調整剤を用いることが有効である。また別のインク高粘度化成分の例として、カチオンポリマーなど複数のイオン性基を有する化合物を用いるのも良い。また、これらの化合物を2種類以上併用するのも有効である。
【0067】
具体的にインク高粘度化成分として使用できる高分子凝集剤としては、例えば、陽イオン性高分子凝集剤、陰イオン性高分子凝集剤、非イオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤等が挙げられる。
【0068】
なお、凝集液に多価の金属イオンを含有する液体を用いる場合、その金属種及び濃度は適宜条件に応じて変更可能である。
具体的にインク高粘度化成分として使用できる金属イオンとしては、以下のものが挙げられる。例えばCa2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+等の二価の金属イオンや、Fe3+、Cr3+、Y3+およびAl3+等の三価の金属イオンである。そして、これらの金属イオンを含有する液体を選択された中間転写体表面に塗布する場合には、金属塩水溶液として塗布することが望ましい。金属塩の陰イオンとしては、Cl-、NO3-、CO32-、SO42-、I-、Br-、ClO3-、HCOO-、RCOO-(Rはアルキル基)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
金属塩水溶液の金属塩濃度は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。また、20質量%以下が好ましい。
【0070】
また具体的にインク高粘度化成分として使用できるpH調整剤としてはpHが7未満の酸性溶液が好適に用いられる。例としては塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、ホウ酸等の無機酸、蓚酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸等の有機酸が挙げられる。またこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩の溶液も同様に好ましく用いることができる。
【0071】
またpH緩衝能を有する酸緩衝液(バッファー)は、インクにより見かけ上の凝集液濃度が低下してもpHの変動が少ないためインクとの反応性が特に衰えないので、極めて好適に凝集液として用いられる。pH緩衝能を得るためには、凝集液中に緩衝剤を含有させることが好ましい。用いることのできる緩衝剤の具体例としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム等の酢酸塩、りん酸水素塩、炭酸水素塩、および、フタル酸水素ナトリウム、フタル酸水素カリウム等の多価カルボン酸の水素塩を用いることができる。更に、多価カルボン酸の具体例としては、フタル酸以外にも、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ピロメリット酸、トリメリット酸等が挙げられる。これ以外でも、添加することによってpHに対して緩衝作用を発現させる従来公知の化合物は、いずれも好適に用いることができる。
【0072】
また、本発明に係る凝集液は適量の水性媒体や有機溶剤を含有させてもよく、上記インク高粘度化成分を水性媒体、有機溶剤に溶解させた溶液を凝集液として用いることができる。水性媒体の例としては、例えば、水、および、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。インク高粘度化成分を溶解させる溶媒の具体例として以下のものを挙げることができる。即ち、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのアルカンジオール類。ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテルなどのグリコールエーテル類。エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第2ブタノール、第3ブタノールなどの炭素数1以上4のアルキルアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのカルボン酸アミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オンなどのケトン、又は、ケトアルコール。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類。グリセリン。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのアルキレングリコール類。チオジグリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体などの多価アルコール類。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物などが好適に用いられる。また、これらの中から2種類以上を選択して混合したものを用いることもできる。
【0073】
凝集液には、必要に応じて所望の物性値を持つ凝集液とするために、上記の成分のほかに、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤などを適宜に添加することができる。また、凝集液には、転写性を向上させるために、もしくは最終的に形成された画像の堅牢性を向上させるために、各種樹脂を添加することもできる。樹脂を添加しておくことで転写時の被記録体への接着性をより良好にすることが可能となり、インク被膜の機械強度をより高めたりすることが可能となる。また樹脂の種類によっては画像の耐水性の更なる向上も見込める。樹脂に用いられる材料としてはインク高粘度化成分と共存できるものであれば制限は無い。例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの有機ポリマーを好適に用いることができる。またインクに含まれる成分と反応し架橋するような樹脂も好適である。例としては、インク中での色材分散のために頻繁に用いられるカルボン酸と反応し架橋する、オキザゾリンやカルボジイミドが挙げられる。
【0074】
これらの樹脂は凝集液に溶解させてあっても良いし、エマルション状態やサスペンション状態で凝集液に添加してあっても良い。
【0075】
また、凝集液は界面活性剤を加えてその表面張力を適宜調整して用いることができる。界面活性剤としては、イオン性、非イオン性、カチオン性、アニオン性等の公知の界面活性剤を必要に応じて適宜選択し使用することができる。
【0076】
上記のような凝集液を、インクジェットデバイスによりインクが付与される前に中間転写体上に付与して用いる。
【0077】
凝集液を付与する方法としては、従来知られている各種付与機構を凝集液付与機構として適宜用いる手法を挙げることができる。付与機構としては、例えば、ダイコーティング、ブレードコーティング、グラビアローラー、またこれらにオフセットローラーを組み合わせた物などが挙げられる。また高速高精度に付与できる機構としてインクジェットデバイスを用いるのも極めて好適である。
【0078】
後述するインクがインクジェットデバイスを用いて凝集液が付与された中間転写体の画像形成面に付与されると、表面で凝集液とインクとが接触し、高粘度化したインク画像が中間画像として形成される。このようにすることで中間画像のブリーディングやビーディングをより低減させることができより好適である。
【0079】
続いて、選択された中間転写体表面に、必要に応じて上記凝集液が付与された後、中間画像形成機構であるインクジェットデバイス15を用いてインクが画像様に付与される。
【0080】
本発明に適用されるインクジェットデバイスとしては、例えば電気−熱変換体によりインクに膜沸騰を生じさせ気泡を形成することでインクを吐出する形態、電気−機械変換体によってインクを吐出する形態、静電気を利用してインクを吐出する形態等がある。本発明では、インクジェット液体吐出技術で提案される各種インクジェットデバイスをいずれも用いることができる。中でも特に高速および高密度の印刷の観点からは電気−熱変換体を利用したものが好適に用いられる。
【0081】
またインクジェットデバイス全体の形態としては特に制限はない。中間転写体の進行方向に対して垂直にインク吐出口を配列してなるラインヘッド形態のインクジェットヘッドや、中間転写体の進行方向と垂直にヘッドを走査しながら記録を行うシャトル形態のヘッドを用いることもできる。
【0082】
<インク>
本発明に用いるインクは、インクジェット用インクとして広く用いられているインクから適宜選択して用いることができる。具体的には染料やカーボンブラック、有機顔料といった色材を溶解または分散、あるいは溶解および分散させた各種インクを用いることができる。中でも特にカーボンブラックや有機顔料インクは、耐候性や発色性の良い画像が得られるため好適である。
【0083】
また環境に対する負荷や、使用時の臭気の観点から、インクとしては、水を含む水性インクが好適である。特にインク中に水分を45質量%以上含み、溶媒の主成分が水であるインクが非常に好ましい。さらにインク中の色材含有量が0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。また、インク中の色材含有量が15.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以下であることがより好ましい。色材としては染料やカーボンブラック、有機顔料、及びそれに付随する樹脂等が含まれ、例えば、特開2009−256599号公報に示すものが使用可能である。
【0084】
また、最終的に形成された画像の堅牢性を向上させるために、水溶性樹脂や水溶性架橋剤をインクに添加することもできる。水溶性樹脂や水溶性架橋剤として用いられる材料としてはインク中の他の成分と共存できるものであれば制限は無い。水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが好適に用いられる。水溶性架橋剤としては、オキザゾリンやカルボジイミドがインク安定性の面で好適に用いられる。またポリエチレングリコールジアクリレートやアクリロイルモルフォリンのような反応性オリゴマーも好適に用いることができる。
【0085】
また、中間転写体を用いる転写型インクジェット記録方式においては記録媒体に転写するときのインクはほぼ色材と高沸点有機溶剤とだけとなる場合があるので、転写性向上のために適量の有機溶剤をインク中に含有させることも有効である。使用する有機溶剤としては、高沸点で蒸気圧の低い水溶性の材料であることが好ましい。例えば、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのアルカンジオール類。ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテルなどのグリコールエーテル類。エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第2ブタノール、第3ブタノールなどの炭素数1以上4以下のアルキルアルコール類。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのカルボン酸アミド類。アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オンなどのケトン、又は、ケトアルコール。テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類。グリセリン。エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのアルキレングリコール類。チオジグリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体などの多価アルコール類。2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルモルホリンなどの複素環類、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物等が好適に用いられる。また、これらの中から2種類以上の物を選択して混合して用いることもできる。
【0086】
また、本発明に係るインクは上記成分以外にも必要に応じて、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、水溶性樹脂の中和剤、塩などの、種々の添加剤を含有してもよい。また、インクに界面活性剤を適宜添加して表面張力を調整することもできる。
【0087】
インクを構成する成分の配合比については限定を受けることなく、選択したインクジェットヘッドの吐出力、ノズル径等から吐出可能な範囲で、適宜に調製することが可能である。
【0088】
インクがインクジェットデバイスを用いて必要に応じて上記凝集液が付与された中間転写体の画像形成面に付与されると、表面でその凝集液とインクとが接触し、高粘度化したインク画像が中間画像として形成される。
【0089】
なお当然であるが、中間画像形成時には、中間転写体上に所望の画像が反転した画像(ミラー画像)を形成する。
【0090】
<水分除去工程および機構>
本発明の転写型インクジェット記録方法および記録装置には、前記中間画像から中間画像を構成するインク等の液体分を減少させる水分除去工程及び機構を設けることも好ましい。水分除去工程および機構を設けることにより、中間画像を構成する液体分が非常に多い場合に、次の圧着転写工程において余剰液体のはみ出しや、あふれ出しを容易に防ぎ、画像の乱れや、転写不良の発生を容易に防ぐことができる。図4では、水分除去機構として送風装置16および中間画像の裏面側から加熱を行う加熱ヒータ17が配置されている。この他にも以下に示す水分除去手法に用いる装置を水分除去機構として用いることができる。
【0091】
なお水分除去の手法としては旧来用いられている各種手法がいずれも好適に適用できる。例えば、加熱による方法、低湿空気を送風する方法、減圧する方法、吸収体を接触させる方法、またこれらを組み合わせる手法をいずれも好適に用いることができる。また、水分除去工程を自然乾燥により行うことも可能である。
【0092】
<転写工程および機構>
その後、中間画像に記録媒体を圧着してその中間画像を中間転写体上から記録媒体へ転写することで、画像印刷物を得る。この際、本発明では、記録媒体のRaに近い値のRaを有する中間転写体表面に、中間画像を形成する。このため、上述した中間画像層の最終画像面にはその中間転写体表面に対応した形状が形成されている。この結果、中間転写体を1種類のみしか用いない従来技術と比較して、描画部の表面は制御された光沢感を呈することとなり、非描画部との違いを減少できるため、違和感の少ない、商品価値の高い印刷物を作製可能となる。
【0093】
転写する際には、図4に示すように支持部材11と、転写機構である加圧ローラ19とを用いて、中間転写体21(表層部材12および凹凸層13)、中間画像ならびに記録媒体18を、両側から加圧することにより、効率良く画像を転写形成できるため好適である。また多段階に加圧することも転写不良の軽減に効果が有り好適である。転写機構としては、この他に熱でインクを溶解させて加圧する熱転写法等を挙げることができる。
【0094】
なお、本明細書において「記録媒体」とは、一般的な印刷で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック、フィルムその他の印刷媒体、記録メディアも含めて言う。なお、記録媒体の搬送方式としては、図4に示すように、コンベアーベルトを用いた搬送方式の他に加圧ローラ19に記録媒体18を巻き付けて搬送ドラムとして用いる形態も好適である。
【0095】
<クリーニング工程および機構>
以上で画像形成は完了するが、中間転写体は生産性の観点から繰り返し連続的に用いることがあり、その際には、本発明の記録方法において、次の画像形成を行う前に中間転写体表面を洗浄再生するクリーニング工程を有することが好ましい。
【0096】
洗浄再生を行う手段としては、旧来用いられている各種手法がいずれも好適に適用できる。中間転写体表面にシャワー状に洗浄液を当てる方法、濡らしたモルトンローラを中間転写体表面に当接させ払拭する方法、洗浄液面に接触させる方法、またワイパーブレードで掻き取る方法、各種エネルギーを付与する方法など、いずれも好適に用いられる。無論、これらを複数組み合わせる手法も好適である。上述したように、図4では、クリーニング機構として、クリーニングユニット20が配置されている。クリーニングユニット20としては、例えばイオン交換水により常時湿潤されるモルトンローラを間欠的に表面に当接する構成を用いることができる。なお、この他にも上述したクリーニング方法に用いる装置をクリーニング機構として用いることができる。
【0097】
以上より、多種多様な記録媒体を用いても描画部と非描画部における光沢感の違いが少なく、商品価値の高い印刷物を作製可能な転写型インクジェット記録方法および転写型インクジェット記録装置を提供することができることを本発明者らは初めて見出した。
【0098】
また本発明の態様を取ることで、さらに中間転写体の長寿命化や転写性の向上といった効果も発現する場合がある。
【実施例】
【0099】
以下に本発明にかかる転写型インクジェット記録方法および転写型インクジェット記録装置の実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。もちろん、本発明は下記実施例に限られるものではない。
【0100】
〔実施例1〕
実施例1では、図4に示す転写型インクジェット記録装置を用いた。この記録装置の構成等を以下に具体的に説明する。
【0101】
・支持部材および中間転写体
共通の表層部材12と、表層部材12の表面に形成された凹凸層13a〜13dとからなる4つの中間転写体21a〜21dを、回転可能なドラム状の支持部材11の外面に固定して用いた。なお、他の実施例に用いた凹凸層および中間転写体と区別するために、この4つの凹凸層を符号13a−1〜13d−1で、4つの中間転写体を符号21a−1〜21d−1でそれぞれ表す。
【0102】
支持部材11には、アルミニウム合金からなる円筒形のドラムを用いた。表層部材12はシリコーンゴムからなる層であり、両面粘着テープにより支持部材11に固定した。支持部材11は軸Aを中心として矢印方向に回転駆動し、その回転と同期して、周辺に配置された各デバイスが作動する。なお、この中間転写体の構造は模式的に図2中の(a)で表されるものと同様である。
【0103】
上記凹凸層13a−1〜13d−1は光硬化性のフッ素系エポキシ樹脂を表層部材12全面に被膜し、部分的に露光した後に非露光部を4−メチル−2−ペンタノンにて現像することにより形成した。また別途、上記フッ素系エポキシ樹脂の光硬化物(表面に凹凸形状は形成していない)を作製し、この光硬化物の25℃における弾性率を、測定したところ、2900MPaであった。なお、この弾性率は、粘弾性スペクトロメータ(エスアイアイ・ナノテクノロジー製、商品名;EXSTAR DMS6100)を用いて、JIS K 7181に従って測定した。上記方法により形成した凹凸層13a−1〜13d−1、即ち中間転写体21a−1〜21d−1はいずれもRaが異なっている。これら4つの中間転写体のRaを表1に示す。中心線表面粗さ(Ra)は、カラー3Dレーザ顕微鏡VK−9700(商品名、キーエンス製)を用いて測定した。
【0104】
【表1】

【0105】
・Ra計測機構および中間転写体選択供給機構
また、この装置には、以下の機構を設置した。まず、記録媒体18を供給する前にその中心線表面粗さ(Ra)を測定できるRa計測機構10(レーザ顕微鏡)を設置した。また、その計測結果と最も近いRaを有する中間転写体を複数の中間転写体21a−1〜21d−1の中から選択して信号を出す制御デバイスからなる中間転写体選択供給機構(不図示)を設置した。この装置では、後述のドラム形状の中間転写体のプロセス開始位置を制御し、計測結果と最も近いRaを有する中間転写体表面で中間画像の形成が行われるようになっている。
【0106】
・凝集液付与機構
この装置には、凝集液を付与するデバイス(凝集液付与機構)としてローラ式塗布装置14を配置した。これにより凝集液が中間転写体の表面に連続的に付与される。凝集液としては、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)の10質量%水溶液に、界面活性剤を添加して使用した。
【0107】
・中間画像形成機構
中間画像形成機構として、電気熱変換素子を用いオンデマンド方式にてインク吐出を行うタイプのインクジェットデバイスを使用した。
【0108】
インクとしては、以下に示す組成の樹脂分散型顔料インクを調製して用いた(「部」は質量部を表す)。
顔料色材:C.I.ピグメントブルー15 3部、
分散樹脂:スチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体(酸価240、重量平均分子量5000) 1部、
非水溶剤1:グリセリン 10部、
非水溶剤2:エチレングリコール 5部、
水(イオン交換水): 81部。
【0109】
・水分除去機構
中間転写体上の画像を構成するインク中の液体分を減少させる目的で、水分除去機構として送風装置16を配置した。また同時に、水分除去機構として、中間画像の裏面側から加熱を行う加熱ヒータ17も配置した。
【0110】
・転写機構
この記録装置には、中間転写体上に形成されている中間画像に記録媒体18を接触させ、画像を転写形成させるための加圧ローラ19を配置した。この装置では支持部材11と加圧ローラ19とで、中間転写体と中間画像と記録媒体18とを一気に挟み込むように線状に加圧することで、効率の良い画像転写と凹凸の形成を容易に実現している。
【0111】
・クリーニング機構
さらに、この記録装置には、インク画像を記録媒体に受け渡した後、即ち転写工程後の中間転写体を繰り返し次の画像形成に用いるため、クリーニング機構として、クリーニングユニット20を配置した。このクリーニングユニット20は、イオン交換水により常時湿潤されるモルトンローラが間欠的に表面に当接する構成となっている。
【0112】
続いて、この装置を用いて以下の操作を行った。まず、Ra計測機構10における記録媒体のRa測定結果と、その計測結果と最も近いRaを有する中間転写体を複数の中間転写体の中から選択し中間画像形成工程に供給する機構とによって中間転写体を選択した。
【0113】
ついで、その選択された中間転写体の表面(凹凸部)にローラ式塗布装置14を用いて凝集液を付与した。その後、インクジェットデバイス15から画像形成用のインクを吐出し、送風装置16および加熱ヒータ17を用いて乾燥を行い、中間転写体上に中間画像(ミラー反転している画像)を形成した。続いて、この中間画像を、加圧ローラ19を用いて記録媒体18に転写した。そして、次の画像形成に備えて、クリーニングユニット20により中間転写体表面の洗浄を行った。
【0114】
なお、記録媒体としては、表2に示す4種類の印刷用紙(コート紙イ〜ニ)を用いた。これらの印刷用紙のRaを表2に示す。各記録媒体の搬送方式はコンベアーベルトにて搬送する形態とした。なお、記録媒体の中心線表面粗さ(Ra)も、カラー3Dレーザ顕微鏡VK−9700(商品名、キーエンス製)を用いて測定した。
【0115】
【表2】

【0116】
なお、コート紙イ〜ニは、以下に示す印刷用紙である。
コート紙イ:王子製紙製キャストコート紙(グロス)、
コート紙ロ:三菱製紙製上質コート紙(マット)、
コート紙ハ:王子製紙製微コート紙(グロス)、
コート紙ニ:三菱製紙製微コート紙(マット)。
【0117】
上述の操作により、各記録媒体に形成した画像について、目視による画質の評価(光沢感)を複数の評価者による以下の基準に基づいた官能評価で行った。評価結果を表3に示す。
【0118】
画質評価(光沢感)の基準
5:好ましいと評価した評価者が8割以上。
4:好ましいと評価した評価者が6割以上8割未満。
3:好ましいと評価した評価者が4割以上6割未満。
2:好ましいと評価した評価者が2割以上4割未満。
1:好ましいと評価した評価者が2割未満。
【0119】
〔比較例1〕
4つの中間転写体(21a−1〜21d−1)の代わりに、中間転写体21d−1のみを用いた以外は、実施例1と同様にして各記録媒体に画像を形成し、その画質を評価した。評価結果を表3に示す。
【0120】
【表3】

【0121】
表3からわかるように、中心線表面粗さRaの異なる紙に対して、それぞれRaの近い中間転写体を用いた実施例1では、全て同じRaの中間転写体を用いた比較例1の場合に比べて常に同等以上の画質を得ることができた。
【0122】
〔実施例2〕
実施例2では、実施例1の4つの中間転写体(21a−1〜21d−1)を表4に示す4つの中間転写体(21a−2〜21d−2)に変更した。なお、支持部材11および中間転写体の表層部材12は実施例1と同様である。中間転写体(21a−2〜21d−2)の凹凸層(13a−2〜13d−2)は、光硬化性のウレタン変性アクリル樹脂(東亜合成製)を実施例1と同様にフォトリソ加工することにより形成した。また、実施例1と同様に、別途上記ウレタン変性アクリル樹脂の光硬化物を作製し、弾性率を測定した。この光硬化物の25℃における弾性率は、330MPaであった。それ以外は、実施例1と同様にして各記録媒体に画像を形成し、その画質を評価した。評価結果を表4に示す。
【0123】
〔比較例2〕
4つの中間転写体(21a−2〜21d−2)の代わりに、1種類の中間転写体21b−2のみを用いた以外は実施例2と同様にして各記録媒体に画像を形成し、その画質を評価した。評価結果を表4に示す。
【0124】
【表4】

【0125】
表4より、実施例1よりも弾性率の低い材料を用いた実施例2においても、中心線表面粗さRaの異なる紙に対して、それぞれRaの近い中間転写体を用いることで常に良好な画質特性を得ることができた。
【0126】
〔実施例3〕
実施例3では、実施例2の4つの中間転写体(21a−2〜21d−4)のうち、2種類の中間転写体(21b−2および21d−2)を用いた以外は、実施例1と同様にして各記録媒体に画像を形成し、その画質を評価した。
比較例として、1種類の中間転写体21b−2のみを用いた上記比較例2の評価結果もあわせて、表5に示す。
【0127】
【表5】

【0128】
表5からわかるように、中心線表面粗さRaが異なる2種類の中間転写体を用いた実施例3においても、1種類のみの中間転写体を用いた比較例2に比べて、幅広い紙種に対して常に同等以上の画質特性を得ることができた。
【0129】
以上の結果から明らかなように、本発明によれば、多種多様な記録媒体を用いても描画部と非描画部とにおける光沢感の違いが少なく、商品価値の高い印刷物を作製可能な転写型インクジェット記録方法および転写型インクジェット記録装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0130】
10・・・Ra計測機構
11・・・支持部材
12・・・表層部材
13a〜d・・・凹凸層
14・・・ローラー式塗布装置
15・・・インクジェットデバイス
16・・・送風装置
17・・・加熱ヒータ
18・・・記録媒体
19・・・加圧ローラ
20・・・クリーニングユニット
21a〜d・・・中間転写体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを中間転写体表面にインクジェットデバイスを用いて付与することにより中間画像を形成する中間画像形成工程と、該中間画像が形成された該中間転写体に記録媒体を圧着して該中間画像を該記録媒体へ転写する転写工程とを有する、転写型インクジェット記録方法であって、
該中間画像形成工程において、中心線表面粗さがいずれも異なる複数の中間転写体の中から該記録媒体の中心線表面粗さと最も近い値の中心線表面粗さを有する中間転写体を選択して、選択した中間転写体表面に該中間画像を形成することを特徴とする転写型インクジェット記録方法。
【請求項2】
該複数の中間転写体の中心線表面粗さの差が、いずれも0.5μm以上である請求項1に記載の転写型インクジェット記録方法。
【請求項3】
インクを中間転写体表面にインクジェットデバイスを用いて付与することにより中間画像を形成する中間画像形成機構と、該中間画像が形成された該中間転写体に記録媒体を圧着して該中間画像を該記録媒体へ転写する転写機構とを有する、転写型インクジェット記録装置であって、
中心線表面粗さがいずれも異なる複数の中間転写体と、
該記録媒体の中心線表面粗さを計測する機構と、
計測した記録媒体の中心線表面粗さと最も近い値の中心線表面粗さを有する中間転写体を前記複数の中間転写体の中から選択し該中間画像形成機構に供給する機構と、
を具備することを特徴とする転写型インクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−101433(P2012−101433A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251676(P2010−251676)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】