説明

転落防止装置

【課題】車両ドアとプラットホームとの間の隙間を覆うステップを出没させる新しい転落防止装置を提供すること。
【解決手段】可動ステップ装置100は、プラットホーム2の軌道側端部を掘り下げた凹部10を覆うメインステップ142,144,146を、ヒンジ140で上下に揺動自在に固定する。メインステップ144の裏面には、ガイドレール150とスライダ152が設けられ、可動ステップ156をキャリッジ154ごと軌道方向にスライド自在に支持する。キャリッジ154のラック160に係合する駆動ピニオンギア162を駆動させる減速機164と駆動モータ166、及び可動ステップ156の進退動を制動するブレーキ172は、メインステップ144の裏面に垂下するように設けられている。メインステップ144は、天板としての機能と、駆動モータ166等を支持する基礎としての機能を果たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道等のプラットホームの側縁に沿って設置され、車両への乗降時に車両ドアとプラットホームとの隙間へ可動ステップを出現させて、当該隙間への転落を防止する転落防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラットホームから軌道側への転落を防止するための手段の1つとして、可動ホーム柵が知られている(例えば、特許文献1参照)。可動ホーム柵、特に腰高式の可動ホーム柵は、プラットホームに固定される戸袋部にて引き戸式の乗降扉を支持し、通常は乗降扉を戸袋部より押し出した状態を維持して、乗降口を塞ぎプラットホームの側縁沿いに柵を形成する。そして、車両への乗降タイミング時には乗降扉を戸袋部へ引き戻して乗降口を開放する。
【0003】
また近年では、車両への乗降時の安全性をより高めるために、可動ホーム柵に加えて、車両への乗降タイミング時にプラットホームと車両ドアとの間の隙間を覆うように、プラットホーム側から出没される可動ステップと呼ばれる転落防止装置が配置される場合もある(例えば、特許文献2参照)。こうした転落防止装置によれば、乗降者が車両ドアとプラットホーム間の隙間に足を取られて転倒したり、軌道へ転落することを防ぎ、スムーズで安全な乗降を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−131008号公報
【特許文献2】特開2005−14805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、車両ドアとプラットホームとの間の隙間を覆うステップを出没させる新しい転落防止装置を提供することを目的とする。
【0006】
望ましくは、更に第2の目的を達することである。すなわち、特許文献2で示したような構成の転落防止装置は、厚く大型化しがちである。そのため、例えば従来の転落防止装置を既存のプラットホームに追加工事で設置しようとした場合、プラットホームの大規模な掘削工事が必要となったり、場合によっては掘り下げ工事に伴うプラットホームの強度低下を補う補強工事が必要となったりする。本発明は、敷設面積が比較的小さく、より簡単な工事で設置可能な転落防止装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の形態は、プラットホーム沿いに設置された可動ホーム柵とともに、前記プラットホームの軌道側端部に設置されて、車両への乗降時に車両ドアとプラットホームとの隙間へ可動ステップを出現させて当該隙間を覆う転落防止装置であって、
前記軌道側端部に前記転落防止装置を収容するために形成された凹部を覆うメインステップと、
前記メインステップの裏面に設けられ、当該裏面に沿って、前記可動ステップを軌道方向へ進退可能に支持するスライド機構部(例えば、図7及び図9のガイドレール150、スライダ152、キャリッジプレート154)と、
前記メインステップの裏面に垂下するよう設けられ、前記スライド機構部に係合して前記可動ステップを進退動させる駆動部(例えば、図9のラック160、駆動ピニオンギア162、減速機164、駆動モータ166)と、を備えた転落防止装置である。
【0008】
従来、スライド機構部と駆動部は凹部内、より具体的には、凹部の底全域に広がって固定された基礎フレームや底部フレームなどと呼ばれる平らで強固な基礎部材に固定される場合が一般的であった。しかし、第1の形態によれば、スライド機構部と駆動部がメインステップの裏面に設けられるという、新しい構成の転落防止装置を実現できる。つまり、メインステップが、乗客がその上面を往来する天板としての機能と、スライド機構部及び駆動部を取り付けるための基礎部材としての機能とを兼ねる構成となる。これにより、凹部内に要求される深さを、従来に比べて少なくできる。よって、敷設工事がより簡単になる。
【0009】
第2の形態は、前記メインステップを上下に揺動自在に枢支するヒンジを更に備え、前記ヒンジを軸に前記メインステップを起立させた縦姿勢でメンテナンス可能な、第1の形態の転落防止装置である。
【0010】
第2の形態によれば、第1の形態の転落防止装置と同様の効果を奏するとともに、通常時にはメインステップを、凹部を覆うように伏せた状態(寝かせた状態)にして使用し、メンテナンス時には、ヒンジを軸にメインステップを起立させてその背面を整備し易いように露出させることができる。よって、メンテナンス性が向上する。
【0011】
第3の形態は、前記凹部には、前記プラットホームの上面に貼設されたタイルと当該タイル固定用の敷モルタル層とを合わせた厚さより浅い深さで前記軌道側端部に形成されるとともに、当該凹部の底に前記駆動部を収容するための収容孔(例えば、図8のモータ収容孔112)が形成されてなり、前記メインステップを前記凹部上に寝かせた横姿勢で、前記メインステップの裏面に支持された前記スライド機構部及び前記駆動部が稼働する、第1又は第2の形態の転落防止装置である。
【0012】
第3の形態によれば、第1又は第2の形態と同様の効果を奏するとともに、当該転落防止装置を例えば追加工事で設置する際、凹部を作るためにプラットホームを削る深さを、上面から敷モルタル層までの極浅い範囲で収めることができる。一般的なプラットホームでは、敷モルタル層の更に下には基礎にあたるコンクリート層(床版)が存在する。このコンクリート層は、場合によっては多数の鉄筋や大型のH型鋼などを内在しており、敷モルタル層を越えて深く削る場合には、強度低下を補う補助工事が追加発生する場合がある。しかし、本形態によればそれを回避し設置工事をより簡単にできる。
仮に、要求出力に応じた比較的大型の駆動部が必要となった場合であっても、駆動部を収容する部分について局所的に収容孔を設けるだけで対応できるので、従来に比べて凹部を設置する工事が簡単であることには変わりない。
【0013】
第4の形態によれば、前記メインステップの裏面に垂下するよう設けられ、前記スライド機構部に係合して前記可動ステップの進退動を制動する制動部(例えば、図7及び図10のブレーキ172)を更に備えた第1〜第3の何れかの形態の転落防止装置である。
【0014】
第4の形態によれば、制動部を設ける場合でも、当該制動部をメインステップの裏面に垂下するように設置することで基礎部材を省略した構成をそのまま適用し、第1〜第3の何れかの形態の転落防止装置と同様の効果が得られる。
【0015】
第5の形態は、前記駆動部の駆動を制御する制御部(例えば、図1の可動ステップ制御装置190)を、前記可動ホーム柵内に設けた第1〜第4の何れかの形態の転落防止装置である。
【0016】
第5の形態によれば、第1〜第4の形態の何れかと同様の効果を得られるとともに、転落防止装置に隣接して設置される可動ホーム柵内に駆動制御部を設けることで、転落防止装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】可動ステップ装置の収容状態を示す軌道側斜め上から見た斜視外観図。
【図2】可動ステップ装置の作動状態を示す軌道側斜め上から見た斜視外観図。
【図3】凹部に可動ステップ装置の基礎部分を取り付けた状態を示す上面図。
【図4】図3のA−A断面図。
【図5】基礎プレート上に各種台座部分を取り付けた状態を示す上面図。
【図6】図5のB−B断面図。
【図7】メインステップを立てたメンテナンス姿勢(縦姿勢)を示す可動ステップ装置の正面図。
【図8】図7のC−C断面図。
【図9】図7のD−D断面図。
【図10】図7のE−E断面図。
【図11】収容状態における可動ステップ装置を示すC−C断面図。
【図12】作動状態における可動ステップ装置を示すC−C断面図。
【図13】(1)収容状態及び(2)作動状態におけるスライド機構部、駆動部並びにロック部の様子を示すメインステップの部分下面図。
【図14】(1)収容状態及び(2)作動状態における規制部並びに状態検知部の様子を示すメインステップの部分下面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第1実施形態〕
先ず、本発明が適用された転落防止装置である可動ステップ装置100の構造について説明する。図1は、本実施形態における可動ステップ装置100の収容状態(待機状態)を示す軌道側斜め上から見た斜視外観図である。図2は、同作動状態を示す斜視外観図である。
【0019】
本実施形態における可動ステップ装置100は、プラットホーム2上に設置される可動ホーム柵20の乗降口の主に軌道側を掘り下げて形成された凹部10内に、メインステップ142,144,146が周囲のプラットホーム2の上面とほぼ同じ高さの面を形成するように埋設される。そして、入線中の車両への乗降開始に合わせて、凹部10の底部と当該凹部10を覆うメインステップ142,144,146との間から可動ステップ156(156a、156b、156cの3枚構成)を軌道方向に進出させて車両の乗降口からプラットホーム2までの隙間を覆い、乗降終了時に、可動ステップ156を引っ込めて収容する装置である。
【0020】
可動ホーム柵20は、プラットホーム上の乗客が入線・通過する車両と接触するのを防いだり、乗客がホームから軌道側へ転落するのを防止する腰高式の可動式ホーム柵である。可動ホーム柵20は、略水平方向にスライド移動自在な乗降扉22と、乗降扉22を開閉駆動する駆動部を内蔵した戸袋部24と、乗降扉22の開閉を電気・電子制御するための可動ホーム柵制御装置26とを備える。可動ホーム柵20は、通常は乗降扉22を閉じた待機状態を維持し(図1)、入線した電車への乗降開始時に乗降扉22を左右に開き(図2)、乗降終了時には閉じて元の待機状態へ戻る。
【0021】
可動ステップ装置100は、プラットホーム2の端部を切削することで掘り下げて形成された凹部10(切削部)内に納めるようにして設置される。具体的には、プラットホーム2の端部は、プレキャストコンクリートブロックや鉄筋コンクリート層により形成された床版4上に、厚さ30〜60mm程度の敷モルタル6を形成し、更に厚さ30mm程度のノンスリップタイル8が貼設されている。可動ステップ装置100は、ノンスリップタイル8の上面から敷モルタル6の層の下端までの厚さよりも小さい範囲を削って形成された凹部10内に設置される。
【0022】
では、可動ステップ装置100の具体的な構成について、基礎部分の構築から順に説明する。図3は、凹部10に可動ステップ装置100の基礎部分を取り付けた状態を示す上面図である。図4は、図3のA−A断面図である。
【0023】
凹部10は、ホーム2の軌道側端面に沿って横長の上面視矩形を成している。凹部10の底部には、ホーム中央側端部に背部基礎プレート102が固定され、左右両端にそれぞれ左端基礎プレート104、右端基礎プレート106が固定される。そして、これら左端・右端の基礎プレートの間には、左中央基礎プレート108と右中央基礎プレート110とが固定される。これらの基礎プレートは、例えば鋼板により形成され、可動ステップ装置100を取り付けるための土台となる。そして、これらの基礎プレートにより、凹部10内には、各々左右に基礎プレートに挟まれる3つの領域が区画される。
【0024】
また、本実施形態では、左中央基礎プレート108と右中央基礎プレート110との間の領域の底面には、局所的に他より深く掘り下げられたモータ収容孔112とブレーキ収容孔114とが設けられている。尚、これらの収容孔の位置や大きさ、形状は後述される可動ステップ装置100の駆動系の構成に合わせて適当に設定されるものであり、図示された位置や大きさ、形状に限る物ではない。また、凹部10には、可動ステップ装置100への電源ケーブルや制御信号用ケーブル等を通すためのケーブル挿通孔116が適当に設けられるものとする。
【0025】
図5は、基礎プレート上に各種台座部分を取り付けた状態を示す上面図である。図6は、図5のB−B断面図である。
これらの図に示すように、各種基礎プレート上には、凹部10内に機構部を収容するための空間を形成する柱や壁となり、その上面に板状のステップを取り付けるための各種台座部が取り付けられる。具体的には、背部基礎プレート102の上には、背部ステップ用台座122が取り付けられる。更にこの背部ステップ用台座122の上には、背部ステップ132が固定される。背部ステップ132は、可動ステップ装置100のプラットホーム2の最も中央寄りの上面化粧材であり乗降客が往来する床面の一部を形成する板材である。背部ステップ用台座122の高さは、背部ステップ132の上面が周囲のプラットホーム2の上面とほぼ同じ高さの面を形成するように設定されている。
【0026】
同様に、左端基礎プレート104の上には補助ステップ用台座124が固定され、その上には補助ステップ134が固定される。右端基礎プレート106の上には補助ステップ用台座126が固定され、その上には補助ステップ136が固定される。また、左中央基礎プレート108及び右中央基礎プレート110の上には、補助ステップ用台座128が固定され、その上には補助ステップ138が固定される。
【0027】
補助ステップ134,136,138は、それぞれ可動ステップ装置100の上面化粧材であり乗降客が往来する床面の一部を形成する。補助ステップ134,136,138の奥行長(図5で言うところの上下方向の長さ、図6で言うところの左右長さ)は、可動ステップ装置100の奥行長よりも短く、且つそれぞれを載せる補助ステップ用台座124、126、128の奥行長よりも短く設定され、且つホーム中央側の端を背部ステップ132に寄せて固定されている。また、補助ステップ134,136,138の横幅(図5で言うところの左右方向の長さ)は、それぞれを載せる補助ステップ用台座124、126、128の横幅よりも狭く設定されている。よって、補助ステップ用台座124,126,128の上面には、補助ステップ134,136,138が載っている部分と、載っていない部分とで段違い面が形成されている。
【0028】
補助ステップ134,136,138が載っていない部分には、背部ステップ用台座122に対してヒンジ140(図1及び図2参照)で揺動自在に支持された3枚のメインステップ142,144,146の各左右端が載り、補助ステップ用台座124,126,128を柱や壁としてその重量を支える。3枚のメインステップは、凹部10を覆う天井となり、凹部10は横広がりの薄い収容空間となる。そして、この収容空間に可動ステップ156と、可動ステップ156(156a、156b、156c)をスライド支持し駆動する構造等が収められる。
【0029】
図7は、メインステップ142,144,146を立てたメンテナンス姿勢を示す可動ステップ装置100の正面図である。図8はC−C断面図である。図9はD−D断面図であり、図10はE−E断面図である。
【0030】
図1〜図2及び図7に示すように、本実施形態における可動ステップ装置100は、乗降客が往来する床面となる3枚のメインステップ142,144,146を、ホーム長手方向に沿った左右横並びに備える。何れのメインステップも、ホーム中央側端でヒンジ140によって背部ステップ用台座122に対して取り付けられ、上下方向に揺動自在である。具体的には、背部ステップ132の軌道側上端の近傍位置にて、背部ステップ132の長手方向(装置左右方向、ホーム長手方向)に沿った回転軸で揺動自在に支持されており、メインステップ142,144,146は、図1や図2に示すような凹部10を覆った横姿勢から、図7や図8に示すような略垂直に立ったメンテナンス姿勢(縦姿勢)まで揺動させることができる。
【0031】
そして、メインステップ142,144,146の何れかの下面(裏面)に、(1)各々に対応づけられた可動ステップ156(156a,156b,156c)を軌道方向へ進退可能に支持するスライド機構部と、(2)可動ステップ156を進退動させる駆動部及び制動部と、(3)可動ステップ156が凹部10内へ引き戻され収容された状態を維持するためのロック部と、(4)可動ステップ156の進退位置(前進後退の限界位置)を規制する規制部と、(5)可動ステップ156の作動状態/収容状態を検知する状態検知部と、が取り付けられている。
【0032】
具体的には、図2及び図7に示すように、本実施形態の可動ステップ156は、メインステップ142の下から軌道側へ出現する可動ステップ156aと、メインステップ144の下から軌道側へ出現する可動ステップ156bと、メインステップ146の下から軌道側へ出現する可動ステップ156cとの3枚で構成される。可動ステップ156a,156b,156cは、左右横一列に配置され、進退方向に交差する係合面を形成するカギ型連結部158により係合している。
【0033】
このカギ型連結部158に対応して、メインステップ142,144,146にも同サイズのカギ型形状部143が設けられている。このカギ型形状部143は、可動ステップ156が収容状態であるときに、カギ型連結部156の折れ曲がりが丁度上下に重なるように配置位置と形状が設定されている。従って、例えば、3つのメインステップ142,144,146の何れかのみをメンテナンスしたいと考えた場合、当該メインステップのみをメンテナンス姿勢に立てることができるので便利である。
【0034】
一方、可動ステップ156のスライド機構部としては、図7及び図8に示すように、メインステップ142,144,146の各下面に、それぞれ、当該下面沿いに軌道〜ホーム中央方向に向いたガイドレール150と、このガイドレール150にスライド自在なスライダ152と、スライダ152の下面に固定されたキャリッジプレート154とを備える。
【0035】
このキャリッジプレート154は、例えば金属板で作られている。そして、メインステップ142のキャリッジプレート154には可動ステップ156a、メインステップ144のキャリッジプレート154には可動ステップ156b、メインステップ146のキャリッジプレート154には可動ステップ156c、という対応関係で軌道側端部上面に一枚ずつ可動ステップが着脱自在にボルト等で固定されている。
【0036】
また、図7〜図9に示すように、3枚のメインステップの内、中央のメインステップ144の下面(裏面)には、駆動部として、キャリッジプレート154に設けられたラック160と係合する駆動ピニオンギア162を支持する駆動ピニオンケース163と、減速機164を介して駆動ピニオンギア162を駆動させる駆動モータ166とが備えられている。
【0037】
本実施形態における、減速機164と駆動モータ166は、ともに回転軸方向に長い円筒状の外形を有する。そして、減速機164と駆動モータ166は2つで一本の円筒状を成すように同軸状に連結され、メインステップ144の下面から円筒の軸を略垂直下向きに固定されている。つまり、円筒の長手方向を下に向けてメインステップ144の下面から垂下された格好で取り付けられている。そして、駆動モータ166には、可動ステップ制御装置190(図1、図2参照)から図示されない電源ケーブルや信号ケーブルが接続されており、可動ステップ制御装置190により駆動制御される。
【0038】
また、図7及び図8,図10に示すように、中央のメインステップ144の下面(裏面)には、制動部として、ラック160と係合する従動ピニオンギア170を支持する従動ピニオンケース171と、従動ピニオンギア170を回転軸に連結したブレーキ172とが備えられている。
【0039】
ブレーキ172は、従動ピニオンギア170が回転軸に連結され当該回転軸の回転を減速させる電磁ブレーキなどで実現される。本実施形態のブレーキ172の外形もまた円筒状の外形を有しており、メインステップ144の下面から円筒の軸を略垂直下向きに固定されている。そして、ブレーキ172は、収容状態から作動状態への変化、及び作動状態から収容状態への変化をする際には、電力がOFFにされて制動力が作用しないように制御され、作動状態になると電力がONにされて制動力が作用し、乗降客の乗降による外力で可動ステップ156がズレるのを防止する。
【0040】
また、ブレーキ172の回転軸のメインステップ側端部には、非常用手動ハンドル174を着脱自在に嵌着できるハンドル取付孔176が設けられている。メインステップ144は、このハンドル取付孔176の上方に当る部分に手動で開閉できるキャップ178を設けている(図1参照)。駆動モータ166が駆動しない非常時にはこのキャップ178を取り外して非常用手動ハンドル174を取り付け、従動ピニオンギア170を人力で回転させることで、可動ステップ156を軌道側へ進出させたり、凹部10側へ引き戻して収容させることができる。
【0041】
また、ブレーキ172の取り付け部近傍には、キャップ178の取り外しに応じて揺動する揺動片180と、当該揺動片の変位を検知するキャップ取り外し検知センサ182とが設けられている。キャップ取り外し検知センサ182は、例えば揺動スイッチや接触検知スイッチ、近接センサなどで実現され、検知信号を可動ステップ制御装置190に出力する。可動ステップ制御装置190は、当該スイッチからの検知信号を受信すると、所定の非常用の制御パターンで可動ステップ装置100を制御する。
【0042】
また、図7に示すように、ロック部として、キャリッジプレート154の左右何れか向いた側面にロック溝184を設けるとともに、メインステップ144の下面には、このロック溝184へ向けて前後動自在に支持されるとともに前進方向へ付勢されたロックシャフト186と、可動鉄心の突出端がロックシャフト186の端部に連結された電磁ソレノイド188と、ロックシャフト186のロックの作動状態/解除状態を検知するロック状態検知センサ189とを備える。
【0043】
電磁ソレノイド188は、通電時に可動鉄心を固定鉄心内へ引き戻し、非通電時に可動鉄心を突出させる。可動ステップ156が引き戻され収容されているときには、可動ステップ制御装置190により非通電状態とされる。ロックシャフト186はスプリング187によりロック溝184へ前進し、両者が嵌合して可動ステップ156を収容状態位置(後退位置)で固定する。ロックを解除する場合には、電磁ソレノイド188は通電される。すると、可動鉄心が引き戻され、ロックシャフト186をロック溝184から遠ざけ、ロック解除状態となる。
【0044】
また、図7に示すように、可動ステップ156の進出(前進)を規制する規制部として、3枚のメインステップの内、正面から見て左右のメインステップ142及び146の下側(裏側)には、それぞれのキャリッジプレート154より延設された前進規制腕部220と、この前進規制腕部220の移動軌跡前方のメインステップ142,146の下面に立設された前進規制突起222と、が設けられている。可動ステップ156a,156c及びキャリッジプレート154が前進し軌道側へ進出すると、やがて前進規制腕部220が前進規制突起222に突き当たり、可動ステップ156全体の前進位置を規制する。
【0045】
同様に、メインステップ142及び146の下側(裏側)であって、それぞれのキャリッジプレート154の移動軌跡上の後方所定位置に、可動ステップ156の引き戻し(後退)を規制する規制部となる後退規制突起224が立設されている。可動ステップ156a,156c及びキャリッジプレート154が後退すると、キャリッジプレート154のホーム側端面(図7の例では下端面)がこの後退規制突起224に突き当たり、可動ステップ156全体の後退位置、つまりは収容位置を規定する。
【0046】
また、可動ステップ156の作動状態(進出状態)/収容状態(待機状態)を検知する状態検知部として、メインステップ142,146の下側には、それぞれのキャリッジプレート154の側面より左方に凸設された作動状態検知用突起230と、当該突起の移動軌跡前方に設けられた作動状態検知センサ232とを備える。作動状態検知センサ232は、例えば、接触子が揺動する揺動スイッチや、接触検知スイッチ、近接センサなどで実現され、可動ステップ156a,156cが前進位置まで移動すると、作動状態検知センサ232が作動状態検知用突起230の接近を検知し、検知信号を可動ステップ制御装置190へ出力する。
【0047】
また、メインステップ142,146のキャリッジプレート154の側面より右方に凸設された収容状態検知用突起234と、当該突起の前進移動時の軌跡沿いに設けられた収容状態検知センサ236とを備える。収容状態検知センサ236は、例えば、接触子が揺動する揺動スイッチや、接触検知スイッチ、近接センサなどで実現され、可動ステップ156a,156cが後退位置まで移動すると、収容状態検知センサ236が収容状態検知用突起234の接近を検知し、検知信号を可動ステップ制御装置190へ出力する。
【0048】
また、収容状態検知用突起234は、可動ステップ156の連結部分の異常検知にも使うことができる。すなわち、可動ステップ156が作動状態にあるにもかかわらず収容状態検知センサ236が検知状態のままである場合、対応する可動ステップ156a又は可動ステップ156bが、中央の可動ステップ156bとともに移動できなかった、すなわちカギ型連結部158の折損や連結ハズレが起きたと判断できる。
【0049】
図1に示すように、本実施形態の可動ステップ装置100の動作を電子・電気制御する可動ステップ制御装置190は、隣設された可動ホーム柵2の戸袋部24内に設けられている。そして、可動ステップ制御装置190には、図示されない信号ケーブルや電力線などによって、前出の駆動モータ166や電磁ソレノイド188、キャップ取り外し検知センサ182、ロック状態検知センサ189、作動状態検知センサ232、収容状態検知センサ236などが電気的に接続されている。
【0050】
次に、本実施形態における可動ステップ装置100の動作について説明する。
図11は、収容状態における可動ステップ装置100を示すC−C断面図である(図7参照)。図12は、作動状態における可動ステップ装置100を示すC−C断面図である。また、図13は、(1)収容状態及び(2)作動状態におけるスライド機構部、駆動部並びにロック部の様子を示すメインステップ144の部分下面図。図14は、(1)収容状態及び(2)作動状態における規制部並びに状態検知部の様子を示すメインステップ142の部分下面図である。
【0051】
図11に示すように、可動ステップ装置100は、メインステップ142,144,146を寝かせた横姿勢で、凹部10を塞ぐようにして使用される。
図11及び図13(1)に示すように、車両への乗降が行われない待機時においては、可動ステップ156及びキャリッジプレート154は後退位置まで引き戻された収容状態にある。この時、電磁ソレノイド188には通電されておらず、ロックシャフト186が付勢力によりロック溝184へ嵌合し、可動ステップ156及びキャリッジプレート154を収容状態で維持する。また、図14(1)に示すように、キャリッジプレート154のホーム側端面が後退規制突起224に突き当たった状態であり、収容状態検知用突起234が収容状態検知センサ236に当接或いは接近し、当該センサから検知信号が可動ステップ制御装置190へ出力されている。
【0052】
車両への乗降が行われる作動時には、可動ステップ制御装置190が、電磁ソレノイド188へ通電させる。電磁ソレノイド188の可動鉄心は引き戻され、ロックシャフト186はロック溝184から離間し、ロックが解除される。ロック状態検知センサ189は、ロック解除状態の検知信号を可動ステップ制御装置190に出力する。
【0053】
可動ステップ制御装置190は、ロック解除の検知信号を受信したならば、キャリッジプレート154が軌道側へ前進するように、つまりは可動ステップ156(156a,156b,156c)が軌道側へ進出するように駆動モータ166を前進駆動制御する。
この時、可動ステップ制御装置190は、ブレーキ172への電力をOFFとして非制動状態にする。よって、駆動モータ166の駆動力により、可動ステップ156b及びキャリッジプレート154がガイドレール150に沿って軌道側へ前進する。可動ステップ156bと、その左右にある可動ステップ156a及び156cは、カギ型連結部158の有する進退方向に交差する面で係合するので一緒に移動し、やがて図13(2)に示す状態になる。
【0054】
この時、図14(2)に示すように、前進規制腕部220が前進規制突起222に突き当たり、可動ステップ156(156a,156b,156c)及びキャリッジプレート154がそれ以上前進できないようになる。そして、この状態になると作動状態検知用突起230が作動状態検知センサ232に当接或いは近接し、当該センサから作動状態の検知信号が出力される。可動ステップ制御装置190は、作動状態の検知信号を受信すると、駆動モータ166の前進駆動制御を中止する。そして、可動ステップ制御装置190は、ブレーキ172への電力をONとして制動状態にする。
【0055】
車両への乗降が終了すると、可動ステップ制御装置190は、キャリッジプレート154がホーム中央側へ後退するように、つまりは可動ステップ156(156a,156b,156c)を凹部10内へ収容するように駆動モータ166を後進駆動制御する。後退後、可動ステップ制御装置190は再びブレーキ172への電力をOFFとして非制動状態にする。
【0056】
キャリッジプレート154が後退し、やがて図14(1)のように、キャリッジプレート154の収容状態検知用突起234が再び収容状態検知センサ236に当接或いは近接し、収容状態の検知信号が可動ステップ制御装置190へ出力される。可動ステップ制御装置190は、収容状態の検知信号を受信すると、電磁ソレノイド188への通電を中止してロックを作動させる。よって、図11や図13(1)の状態に戻る。
【0057】
以上に述べた構成及び動作により、本実施形態における可動ステップ装置100は、スライド機構部と駆動部をメインステップの裏面に設けた新しい転落防止装置を実現することができる。
【0058】
そして、本実施形態の可動ステップ装置100は、従来のようにスライド機構部と駆動部を凹部の底全域に広がって固定された平らで強固な基礎部材に固定するのではなく、メインステップの裏面に設ける構成とした。これにより、メインステップは乗客がその上面を往来する天板としての機能と、スライド機構部及び駆動部を取り付けるための基礎部材としての機能とを兼ねるようになる。よって、凹部10の全域において必要な深さが従来より小さくなり、敷設工事がより簡単になる。
【0059】
そして、本実施形態では、減速機164や駆動モータ166、ブレーキ172など、それぞれ単体又は結合した大きさが凹部10の深さを越える場合でも、凹部の底部にモータ収容孔112やブレーキ収容孔114のような収容部を局所的に設けることで柔軟に対応できる。凹部10の全域において従来より浅く掘った後、追加的に一部を深く掘れば良いことになるので、従来より敷設工事がより簡単になることに変わりはない。
【0060】
更に、局所的な収容部にかかる工数に着目すれば、本実施形態では、減速機164と駆動モータ166とを一体の円筒状となるように連結し、メインステップ144から垂下する構成により、駆動部の収容孔(モータ収容孔112)を一つとしている。加えて、減速機164、駆動モータ166を含む駆動部と、ブレーキ172を含む制動部を近接させ、モータ収容孔112とブレーキ収容孔114とを一体化させるレイアウトとしている。よって、局所的な収容部に係わる工数も少なくて済む。
【0061】
〔変形例〕
尚、本発明を適用した転落防止装置について説明したが、本発明の形態がこれに限られるものでは無く、発明の主旨を逸脱しない限りにおいて適宜構成の追加・省略・変更を施す事ができる。
【0062】
例えば、上記実施形態では、可動ステップ制御装置190を可動ステップ装置100の専用として可動ホーム柵20の戸袋部24内に設置する構成としたが、可動ホーム柵制御装置26と共用化する構成としても良い。すなわち、可動ホーム柵制御装置兼可動ステップ制御装置を戸袋部24内に設け、当該装置一つで上記実施形態で説明した可動ホーム柵制御装置26の機能と可動ステップ制御装置190の機能の両方を実現させる。
【0063】
その場合、可動ホーム柵制御装置兼可動ステップ制御装置は、可動ステップ装置100の駆動モータ166や各種センサとの信号線を接続することのできる端子を備える。そして、可動ホーム柵制御装置26の単独での機能を実現する第1モードと、可動ホーム柵制御装置兼可動ステップ制御装置としての機能を実現する第2モードとを搭載し、スイッチやプログラムで何れのモードを適用するか切り換え可能とする。そして、可動ホーム柵20単独で設置する場合には第1モード、可動ステップ装置100とともに設置する場合には端子に駆動モータ166や各種センサとの信号線を接続し、第2モードを選択して使用するものとする。
【0064】
また、上記実施形態では、メインステップ144をヒンジ140で揺動する構成としたが、メインステップ144を水平に上方に持ち上げて、その背面をのぞき込むようにしてメンテナンスする構成としても良い。
【0065】
また、キャリッジプレート154の駆動方式は、上記実施形態のラック&ピニオン形式に限らず、例えばボールネジで駆動する方法としても良い。凹部10内のボールネジに係る部分について局所的に深さが不足する場合には、当該部分について局所的に凹部10を掘り下げればよい。
【符号の説明】
【0066】
2 プラットホーム
4 床版
6 敷モルタル
8 ノンスリップタイル
10 凹部
100 可動ステップ装置
112 モータ収容孔
114 ブレーキ収容孔
122 背部ステップ用台座
140 ヒンジ
142、144、146 メインステップ
143 カギ型形状部
150 ガイドレール
152 スライダ
154 キャリッジプレート
156 可動ステップ
158 カギ型連結部
160 ラック
162 駆動ピニオンギア
164 減速機
166 駆動モータ
170 従動ピニオンギア
172 ブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットホーム沿いに設置された可動ホーム柵とともに、前記プラットホームの軌道側端部に設置されて、車両への乗降時に車両ドアとプラットホームとの隙間へ可動ステップを出現させて当該隙間を覆う転落防止装置であって、
前記軌道側端部に前記転落防止装置を収容するために形成された凹部を覆うメインステップと、
前記メインステップの裏面に設けられ、当該裏面に沿って、前記可動ステップを軌道方向へ進退可能に支持するスライド機構部と、
前記メインステップの裏面に垂下するよう設けられ、前記スライド機構部に係合して前記可動ステップを進退動させる駆動部と、
を備えた転落防止装置。
【請求項2】
前記メインステップを上下に揺動自在に枢支するヒンジを更に備え、
前記ヒンジを軸に前記メインステップを起立させた縦姿勢でメンテナンス可能な、
請求項1に記載の転落防止装置。
【請求項3】
前記凹部は、前記プラットホームの上面に貼設されたタイルと当該タイル固定用の敷モルタル層とを合わせた厚さより浅い深さで前記軌道側端部に形成されるとともに、当該凹部の底に前記駆動部を収容するための収容孔が形成されてなり、
前記メインステップを前記凹部上に寝かせた横姿勢で、前記メインステップの裏面に支持された前記スライド機構部及び前記駆動部が稼働する、
請求項1又は2に記載の転落防止装置。
【請求項4】
前記メインステップの裏面に垂下するよう設けられ、前記スライド機構部に係合して前記可動ステップの進退動を制動する制動部、
を更に備えた請求項1〜3の何れか一項に記載の転落防止装置。
【請求項5】
前記駆動部の駆動を制御する制御部を、前記可動ホーム柵内に設けた
請求項1〜4の何れか一項に記載の転落防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−184021(P2011−184021A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54545(P2010−54545)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】