説明

軸封部材の漏油量測定装置

【課題】 測定装置自体の大きさが測定する製品の大きさに左右されないばかりでなく、軸封構造に加える軸力を変えての漏油量の測定が可能な漏油量測定装置を提供する。
【解決手段】 軸封部材11を載置する下側部材12と、この軸封部材11を覆う上側部材13と、上記軸封部材11を貫通して上側部材13及び下側部材12を互いに接離可能に連結する連結部材14とを備え、上記上側部材13には軸封部材11に当接すると共に、連結部材14の作動状態に連繋してこの軸封部材11に加える軸力を調整可能とする軸力調整部33aと、軸封部材11の漏油を流出させる漏油流出部34とを設け、上記下側部材12には軸封部材11へ作動油を供給する圧油供給部30を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧緩衝器等の油圧機器に使用する軸封部材の漏油量を測定するための漏油量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の軸封部材の漏油量測定装置としては、特許文献1に示す漏油量測定装置を例示することができる。
【0003】
即ち、図3に示すように、油圧機器を構成するシリンダ体1の上端に固定的に当接される上端側ブロック3と、上記シリンダ体1の下端に固定的に当接される下端側ブロック4とを有し、上記油圧機器を構成するロッド体2の先端側が上端側ブロック3を軸封構造5下に貫通しながら上記シリンダ体1内に出没可能にされると共に、上記上端側ブロック3が軸封構造5部分における漏油を流出させる漏油流出部3bを有し、且つ、下端側ブロック4がシリンダ体1内への圧油の供給を許容する圧油供給部4aを備えている。
【0004】
従って、上端側ブロック3に形成された漏油流出部3bに流量計Sを接続した状態でシリンダ体1に対してロッド体2を出没させることで、所謂作動中となる油圧機器における軸受構造5部分の漏油量及び変化状態を検出することができる。
【特許文献1】特開2004−052983号(図1,2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように構成された漏油量測定装置においては、特に問題がある訳ではないが、以下に示す課題の発生が考えられる。
【0006】
即ち、実際の製品を用いてその作動中における漏油量を検出するので、例えば、測定される油圧機器が長尺状のシリンダ体1を備えている場合には漏油量測定装置自体も長尺状となり、スペース効率が悪い。
【0007】
又、シリンダ体1の上端に上端側ブロック3を固定的に当接させることで軸封構造5部分における漏油を検出するので、この軸封構造5に加える諸条件を変えた漏油量の測定、例えば、軸力を変更したときの漏油量の測定ができない。
【0008】
そこで、本発明は、上記の問題点を解決するために創案されたものであって、その目的は、測定装置自体の大きさが測定する製品の大きさに左右されないばかりでなく、軸封構造に加える軸力を変えての漏油量の測定が可能な漏油量測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、軸封部材を載置する下側部材と、この軸封部材を覆う上側部材と、上記軸封部材を貫通して上側部材及び下側部材を互いに接離可能に連結する連結部材とを備え、上記上側部材には軸封部材に当接すると共に、連結部材の作動状態に連繋してこの軸封部材に加える軸力を調整可能とする軸力調整部と、軸封部材の漏油を流出させる漏油流出部とを設け、上記下側部材には軸封部材へ作動油を供給する圧油供給部を設けたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軸封部材が載置された状態の下側部材を上側部材で覆い、軸封部材を貫通する連結部材を用いて上記上側部材及び下側部材を連結すると共に、圧油供給部から圧油を軸封部材に供給すると、この軸封部材からの漏油が漏油流出部に流出し、漏油量の測定ができる。
【0011】
従って、この漏油量測定装置を用いれば、実際の製品の軸封部材のみを用いて測定できるので、測定する製品の大きさによって測定装置自体が大きくなることはなく、この測定装置自体の大きさが測定される製品の大きさに左右される従来構造のものに比較し、スペース効率を上げることができる。
【0012】
又、軸封部材に当接する軸力調整部を用いた軸力の調整が、上側部材と下側部材を連結する連結部材の作動状態に連繋して行えるので、この連結部材の操作のみで簡単に軸力の変更ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を自動車のサスペンション装置に使用する油圧緩衝器の軸封部材の漏油量を測定する漏油量測定装置に具体化した実施の形態を図に基づいて説明する。
【0014】
この漏油量測定装置10は、軸封部材11を載置する下側部材12と、この軸封部材11を覆う上側部材13と、上記軸封部材11を貫通して上側部材13及び下側部材12を互いに接離可能に連結する連結ボルト14とを備え、上記上側部材13には軸封部材11に当接すると共に、連結ボルト14の作動状態に連繋してこの軸封部材11に加える軸力を調整可能とする軸力調整部と、軸封部材11の漏油を流出させる漏油流出ポート34とを設け、上記下側部材12には軸封部材11へ作動油を供給する圧油供給ポート30を設けており、以下に詳細に説明する。
【0015】
先ず、この漏油量測定装置10を用いて漏油量の測定をする軸封部材11について説明する。
【0016】
この軸封部材11は、複筒型油圧緩衝器のシリンダ開口端部(図示なし)に設けられるものであり、図2に示すように、ピストンロッド(図示なし)を摺動自在に案内するロッドガイド17と、このロッドガイド17の上面に載置されてロッドガイド17とピストンロッドとの摺動隙間からの漏油が外部に流出するのを防止するオイルシール18とから構成されている。
【0017】
上記ロッドガイド17は、その中央に挿通孔19が穿設されており、この挿通孔19には内周面で上記ピストンロッドを摺接自在に案内するブッシュ20が圧入固定されている。
【0018】
上記ロッドガイド17の下面には円筒状をなす取付突部21が設けられており、この取付突部21の外周に上記シリンダ開口端部が挿入されるようになっている。
【0019】
又、ロッドガイド17の上面には環状をなす隆起部22が形成されており、この隆起部22の上面には上記オイルシール18が載置されている。
【0020】
上記隆起部22には斜め下方へ延びるリターンポート22aが形成されており、このリターンポート22aを介して漏油が流出するようになっている。
【0021】
上記オイルシール18は、ピストンロッドの外周面に摺接する大気側に形成のダストリップ24a及び油室側に形成のオイルリップ24bとからなる内周リップ24と、この内周リップ24に一体形成されたインサートメタル25と、このインサートメタル25の外周側及び内周側下面に夫々一体形成された外周リップ24c及びチェックリップ24dとから構成されている。
【0022】
上記チェックリップ24dは、その先端部がロッドガイド17の上面に常時当接しており、ブッシュ20の上方に溜まった漏油をこのリップ24d及びリターンポート22aを介して図示しない油圧緩衝器のリザーバ室へ戻すようになっている。
【0023】
次に、上記のように構成された軸封部材11を測定するための本件発明の漏油量測定装置10について説明する。
【0024】
図1に示すように、上記下側部材12は、その中央に筒状をなす載置部27が突出形成されており、その先端部内周に上記ロッドガイド17の取付突部21の外周を挿入することでロッドガイド17が位置決めされた状態で載置されるようになっている。
【0025】
尚、載置部27の先端部内周にはOリング28が設けられており、載置部27内周と上記取付突部21外周との隙間から圧油が漏れないようになっている。
【0026】
上記載置部27の底部の中央には上記連結ボルト14を螺入する下側ねじ孔29が設けらており、この下側ねじ孔29に近接した部分には圧油供給部としての圧油供給ポート30が穿設されている。
【0027】
圧油供給ポート30には外部の油圧源Pが接続されており、この油圧源Pからの圧油が上記圧油供給ポート30を介して載置部27内に供給されるようになっている。
【0028】
上記上側部材13は、その中央に上記ロッドガイド17及びオイルシール18が載置された状態の載置部27を完全に覆う円柱状の凹部31を供えている。
【0029】
この凹部31は、その中央に縮径された第1の段差部32と、その上部に更に縮径された第2の段差部33とを備えており、第1の段差部32の側面32aでロッドガイド17の径方向への位置決めを行うようになっている。
【0030】
又、第1の段差部32,載置部27及びロッドガイド17で囲まれた空間部Rにはロッドガイド17に設けた上記リターンポート22aが連通しており、上側部材13の側面にはこの空間部Rに連通する漏油流出部としての漏油流出ポート34が設けられると共に、この漏油流出ポート34には油量計Sが接続されている。
【0031】
上記第2の段差部33は、軸力調整部としてのその下面33aがオイルシール18のインサートメタル25の外周部分と当接してロッドガイド17に載置されたオイルシール18の上下方向の位置決めを行うと共に、上方から押圧されることでオイルシール18及びロッドガイド17に加わる軸力を調整できるようになっている。
【0032】
本実施例では、第2の段差部33の下面33aの長さを実際の油圧緩衝器に組付けられたときに力が加わる部分と同じ長さに設定してあり、実際の製品と同じ状態を再現できるようになっている。
【0033】
又、上側部材13にはこの凹部31を貫通して上面に連通する上側ねじ孔36が設けられており、この上側ねじ孔36には連結部材としての連結ボルト14がワッシャ−37を介して螺合されている。
【0034】
このボルト14は、上記ねじ孔36と対向する部分に上側ねじ部38が形成されており、その下方のオイルシール18と摺接する軸部40は、上記ピストンロッドと同様の表面状態に形成されると共に、その下方は縮径されており、下側部材12の下側ねじ孔29に螺合する下側ねじ部39が形成されている。
【0035】
従って、連結ボルト14を上側部材13の上側ねじ孔36から挿入してオイルシール18及びロッドガイド17を貫通し、下側ねじ部39を下側部材12の下側ねじ孔29に螺合させることで上側部材13と下側部材12とを接離可能に連結すると共に、この連結ボルト14の締め込み具合を調整することで第2の段差部33の下面33aがオイルシール18のインサートメタル25を押圧する力を調節して軸力を変えられるようになっている。
【0036】
尚、上記凹部31の下端側内周にもOリング28が設けられており、載置部27外周と凹部31内周との隙間から圧油が外部へ漏れないようになっている。
【0037】
このように構成された漏油量測定装置10を用いて上記のロッドガイド17及びオイルシール18の漏油量を測定するには、載置部27に上記ロッドガイド17及びオイルシール18を載置した状態の下側部材12を上側部材13の凹部31に挿入する。
【0038】
この状態で上側部材13の上側ねじ孔38に連結ボルト14を螺合させ、その先端の下側ねじ部39がロッドガイド17及びオイルシール18を貫通して下側部材12の下側ねじ孔29へ螺合し、上側部材13及び下側部材12が連結するまで締め込む。
【0039】
このとき、上側部材13の第2の段差部33の下面33aでオイルシール18のインサートメタル25を押圧しているので、連結ボルト14の締め込み具合を調節することで軸力の調整を行う。
【0040】
軸力の調整が終了した後、油圧源Pからの圧油を圧油供給ポート30を介して載置部27内に供給する。
【0041】
この状態で、油圧源Pからの供給圧力を上げていくと、連結ボルト14の軸部40とブッシュ20との隙間を介してオイルシール18とロッドガイド17との間に圧油が侵入し、やがてチェックリップ24dを押し開いてリターンポート22aに流出する。
【0042】
そして、リターンポート22aに流出した漏油は上記空間部Rを介して漏油流出ポート34へ流れるので、この漏油流出ポート34に接続された油量計Sを見て漏油量を測定する。
【0043】
又、この測定時にロッドガイド17及びオイルシール18に加わえる軸力を変更し、そのときの漏油量を測定する場合には、上記連結ボルト14を締め込み具合を調整する。
【0044】
こうすると、上側部材13の第2の段差部33の面33aがオイルシール18のインサートメタル25を押圧する力を調節できるので、上記連結ボルト14の操作のみで簡単に軸力の変更ができ、油圧源Pを作動させれば漏油量の測定を続いて行うことができる。
【0045】
以上のように、本実施の形態によれば、漏油量の測定が簡単にできるばかりでなく、オイルシー18及びロッドガイド17に加わる軸力の変更も連結ボルト14のみを回動させることで簡単にできる。
【0046】
又、軸封部材11を構成するオイルシール18及びロッドガイド17のみを用いて漏油量を測定するので、実際と同様の状態を再現できるばかりでなく、従来構造のように実際の製品の大きさに測定装置自体の大きさが左右されることはなく、スペース効率が良い。
【0047】
又、連結ボルト14にオイルシール18及びロッドガイド17を貫通する実際のピストンロッドの機能を持たせたので、余分な部品を不要とし部品点数を減らして製造コストを低減できる。
【0048】
又、下側部材12の下側ねじ孔29に螺合する連結ボルト14の下側ねじ部39を、オイルシール18及びロッドガイド17を貫通する部分よりも小径としたので、連結ボルト14をこのオイルシール18及びロッドガイド17に貫通させる際に上記下側ねじ部39がこれらを傷付けて測定誤差を発生させるのを防止することができる。
【0049】
尚、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、例えば、次のように変更して具体化することも可能である。
【0050】
1)本実施の形態では、油圧緩衝器の軸封構造の漏油測定装置10に具体化したが、これに限定されるものではなく、他の油圧機器の軸封構造の漏油測定装置に具体化しても良い。
【0051】
2)本実施の形態では、上側部材13の漏油流出ポート34に油量計Sを接続したが、これに限定されるものではなく、上側部材13内に油量計Sを組み込んでも良い。
【0052】
3)本実施の形態では、下側部材12の圧油供給ポート30に油圧源Pを接続したが、これに限定されるものではなく、下側部材12内に油圧源Pを組み込んでも良い。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明を油圧緩衝器の軸封構造の漏油測定装置に具体化した断面図である。
【図2】図1の上側部材を外した状態を示す断面図である。
【図3】従来の漏油量測定装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 漏油量測定装置
11 軸封部材
12 下側部材
13 上側部材
14 連結ボルト(連結部材)
17 ロッドガイド
18 オイルシール
24d チェックリップ
30 圧油供給ポート(圧油供給部)
34 漏油流出ポート(漏油流出部)
33 第2の段差部(段差部)
33a 下面(軸力調整部)
38 上側ねじ部
39 下側ねじ部
40 軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸封部材を載置する下側部材と、この軸封部材を覆う上側部材と、上記軸封部材を貫通して上側部材及び下側部材を互いに接離可能に連結する連結部材とを備え、上記上側部材には軸封部材に当接すると共に、連結部材の作動状態に連繋してこの軸封部材に加える軸力を調整可能とする軸力調整部と、軸封部材の漏油を流出させる漏油流出部とを設け、上記下側部材には軸封部材へ圧油を供給する圧油供給部を設けたことを特徴とする軸封部材の漏油量測定装置。
【請求項2】
上記軸封部材は油圧緩衝器のシリンダ開口端部に設けられてピストンロッドを摺動自在に案内するロッドガイドと、このロッドガイドに載置されたオイルシールとから構成されている請求項1記載の軸封部材の漏油量測定装置。
【請求項3】
上記オイルシールは上記ロッドガイドとの間を開閉可能にシールするチェックリップを備え、このチェックリップを介して流出した圧油が上記漏油流出部に流れる請求項2記載の軸封部材の漏油量測定装置。
【請求項4】
上記連結部材は上側部材と螺合する上側ねじ部と、軸封部材と摺接する軸部と、下側部材と螺合する下側ねじ部とを備え、上側ねじ部よりも下側ねじ部の直径を小さく設定している請求項1記載の軸封部材の漏油量測定装置。
【請求項5】
上記軸力調整部は軸封部材の上面に当接するよう上側部材に設けた段差部の下面である請求項1記載の軸封部材の漏油量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−17162(P2006−17162A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193049(P2004−193049)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】