説明

農作業機の拘束・解除装置

【課題】作業部のロック、ロック解除操作が煩わしくなく、且つ忘れ難い農作業機の拘束・解除装置の提供。
【解決手段】後フレーム45に設けられた回動軸52に、先端位置に作業部50を支持した伝動フレーム51を回動自在に設け、伝動フレーム51の回動により、作業部50を前進作業位置Pfと後進作業位置との間で回動自在な農作業機1において、伝動フレーム51の回動支点側に回動自在に設けられ、伝動フレーム51と共に回動する回動プレート121と、作業部50に設けられたピン部材123と、回動プレート121に取り付けられ他端側にピン部材123が挿通する長孔部122aを有し、作業部50の回動に伴ってピン部材123が長孔部122aに沿って移動可能なロック操作部材122を有した回動ロック機構部120を備える。長孔部122aの両端部に、長孔部122aに沿ったピン部材123の移動を規制する移動規制孔122bを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業部を通常作業時とは反対側のオフセット位置に移動させると共に、その前後関係を反転(反転リバース)させて走行機体を後進させながらオフセット作業が可能な農作業機の拘束・解除装置に関するものであり、特に小型の走行機体に装着される農作業機に適する。
【背景技術】
【0002】
このようなオフセット作業機には、走行機体の後部に装着される装着部に取り付けた支持フレームに作業部を水平方向に回動可能に設けて、走行機体の進行方向に沿って圃場を畦塗りする畦塗り機がある。
【0003】
このような畦塗り機は、機体幅方向に延びる支持フレームの中央部から後方側へ張り出した張出部分の先端側に、整畦部及び前処理部を支持するとともに動力伝達機構を内装した伝動フレームを水平方向に回動自在に支持したものがある(特許文献1参照)。整畦部及び前処理部からなる作業部は、張出部分に対する伝動フレームの回動支点を中心として、作業部が走行機体の走行位置に対して一方側のオフセットした位置(前進作業位置)と、作業部が走行機体の走行位置に対して他方側のオフセットした位置(後進作業位置)との間を移動自在である。
【0004】
この畦塗り機、前進作業位置、後進作業位置及び走行機体の後方の格納位置に移動した作業部を各位置においてロックするためのロック装置が設けられている。このロック装置は、伝動フレームの基端部に回動自在に設けられたフック部と、張出部分の上部及び下部に固着された支持板に突設されてフック部と係合可能な係合ピンとを有してなる。
【0005】
係合ピンは、前進作業位置、後進作業位置、格納位置の各位置に対応した位置に配設され、フック部に係合ピンを係止させることで、作業部は各作業位置又は格納位置において固定される。フック部は、その回動支点と同軸上に取り付けられてフック部と一体化されたフックレバーを回動操作することで、フック部7回動支点を中心として回動して係合ピンに係止・係止解除可能である。
【0006】
このように構成された畦塗り機の作業部を前進作業位置から後進作業位置に移動させる場合には、作業者は作業部の回動支点の近くに配設されたフックレバーを解除操作した後に、作業部先端側に移動して作業部の先端側を直接に持って回動させる。作業部の先端側を持つのは、モーメントの関係で作業部を回動させる力を小さくするためである。そして、作業者は作業部を後進作業位置まで回動し、再び回動支点側に移動してフックレバーを係止操作する。
【0007】
【特許文献1】特開平10−4706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来の畦塗り機では、作業部の作業位置を変更する場合、回動支点の近くに設けられたフックレバーの位置と作業部を回動操作する作業部の先端側の位置とが離れているので、作業部の作業位置を変更する際に、作業者はこれらの間を移動する必要があった。このため、作業者にとって作業部のロック状態を解除したりロックしたりするレバー操作は煩わしく、さらに各作業位置でのこれらのレバー操作が忘れ易いという課題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に答えるためになされたものであり、作業部の作業位置を変更する場合に、作業部のロック状態を解除するレバー操作が煩わしくなく、また作業部をロック状態にするレバー操作が煩わしくなく、さらにこれらのレバー操作が忘れ難い農作業機の拘束・解除装置を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の農作業機の拘束・解除装置は、走行機体の後部に装着される装着部を有する前フレームと、この前フレームに揺動自在に連結される複数本のリンク部材と、この各リンク部材の移動端側に連結される後フレームと、この後フレームに突設された回動軸に回動自在に連結され、先端位置に作業部を支持した伝動フレームを有し、
前記伝動フレームが前記後フレームの回動軸の回りに、前記作業部が前進作業姿勢になる前進作業位置と、後進作業姿勢になる後進作業位置との間を回動自在な農作業機において、
前記伝動フレームの回動支点側に一端が回動自在に設けられ、前記伝動フレームの回動に連動して前記伝動フレームの回動方向と同一方向に回動する回動プレートと、
前記作業部に設けられ、前記作業部の回動と共に移動するピン部材と、前記回動プレートの他端側に一端が回動自在に取り付けられ、他端側に前記ピン部材が挿通する長孔部を有し、前記作業部の回動に伴って前記ピン部材が前記長孔部に沿って移動可能なロック操作部材とを有した回動ロック機構部を備え、
前記長孔部の両端部に、前記長孔部に連通して前記ロック操作部材の回動方向と同一方向に延びて前記ピン部材の前記長孔部に沿った移動を規制する移動規制孔が設けられていることを構成要件とする。
【0011】
伝動フレームの回動操作を手動で行う場合には、伝動フレームの回動支点の付近に回動ロック機構部を設ける。具体的には、回動ロック機構部は伝動フレームの回動支点側に一端が回動自在に設けられ、伝動フレームの回動に連動して伝動フレームの回動方向と同一方向に回動する回動プレートと、作業部に設けられ、作業部の回動と共に移動するピン部材と、回動プレートの他端側に一端が回動自在に取り付けられ、他端側にピン部材が挿通する長孔部を有し、作業部の回動に伴ってピン部材が長孔部に沿って移動可能なロック操作部材とを有する。長孔部の両端部には、長孔部に連通してロック操作部材の回動方向と同一方向に延び、ピン部材の長孔部に沿った移動を規制する移動規制孔が形成される。
【0012】
回動プレートはロック操作部材の長孔部に対し、作業部に設けられたピン部材を作業部の回動に伴って長孔部に沿って移動させるものであればよく、回動プレートの回動支点を作業部の可動支点と異なる位置に設け、作業部の回動に伴って回動プレートの回動支点とピン部材との距離が漸次大きくなるように回動プレートを構成することができる。
【0013】
伝動フレームの回動操作が手動で行われる場合には、前記前フレームに連結された一対のリンク部材の一方に形成された連通孔部と、前記後フレームから張り出した張出部に設けられた孔部あるいは前記後フレームが前記前フレームから距離を置いた格納状態のときに、連通状態にある前記孔部及び前記連通孔部に挿通されるロックピンを有する揺動ロック機構部を備えた農作業機の拘束・解除装置を用いる(請求項2)。
【0014】
この揺動ロック機構部は手動でロックピンを連通状態にある孔部及び連通孔部に挿通することで、平行リンクの揺動をロックするものであり、モータやリンク機構等の部品を省略でき、農作業機のコストをより安価にすることができる。
【0015】
またリンク部材の揺動規制を解除する他の方法として、前記後フレームに回動可能に設けられ前側に形成されたフック部が前記一対のリンク部材のいずれかに設けられた係止ピンに係止して前記リンク部材の揺動を規制する係合部材と、前記係止ピンの中心軸線と同軸上に回動自在に設けられた回動部材と、該回動部材に突設されて前記回動部材の回動によって前記係合部材に当接して該係合部材を回動させる押圧ピンと、基端側が前記係止ピンの中心軸線と同軸上に回動自在に設けられ先端側に操作部を有し前記回動部材と一体となって該回動部材を回動させる操作ハンドルとを有する揺動ロック解除機構部を備えた農作業機の拘束・解除装置を用いる(請求項3)。
【0016】
係止ピンは、リンク部材に突設されたものやリンク部材を軸支する回動軸から延出した軸部でもよい。操作ハンドルはこれを回動操作すると、回動部材も連動して回動させることができればよく、操作ハンドルと回動部材が直接的に結合されたり、間接的に結合されてもよい。また誤操作や振動等によってリンク部材の揺動規制を解除する方向に回動部材が容易に回動しないようにするために、押圧ピンが係合部材から離反する側に回動部材を常に付勢するばねを設けてもよい。
【発明の効果】
【0017】
長孔部の両端部に設けられ、長孔部に連通してロック操作部材の回動方向と同一方向に延びる移動規制孔を備えたロック操作部材を備えることで、作業部の作業位置を変更する場合に、作業部のロック状態を解除するレバー操作が煩わしくなく、また作業部をロック状態にするレバー操作が煩わしくなく、さらにこれらのレバー操作が忘れ難い農作業機の拘束・解除装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。図面では伝動フレームに支持された作業部50が畦塗り作業部であり、農作業機1が畦塗り機である場合を示しているが、農作業機1(作業部50)の形態は一切問われず、オフセット作業が可能な農作業機1全般を含む。
【0019】
図1は走行機体100の後部に装着される装着部10を有する前フレーム13と、前フレーム13に揺動自在に連結され、平行リンク40を構成する複数本の平行なリンク部材41、42と、各リンク部材41、42の移動端側に連結される後フレーム45と、後フレーム45に突設された回動軸53(回動中心)に回動自在に連結される伝動フレーム51を有する農作業機1を示す。伝動フレーム51の先端位置には作業部50が支持され、伝動フレーム51は後フレーム45の回動軸53の回りに、作業部50が前進作業姿勢になる前進作業位置Pfと、後進作業姿勢になる後進作業位置Pb(図3参照)との間を回動自在となっている。以下では農作業機1として畦塗り機の例を説明する。
【0020】
農作業機(畦塗り機)1は図1に示すように走行機体100からの動力が入力される入力軸を有する前フレーム13の装着部10において走行機体100に接続されると共に、走行機体100の後部に設けられた三点リンク連結機構(図示せず)に連結されることにより走行機体100に装着され、走行機体100の前進動及び後進動に応じて畦塗り作業を行う。
【0021】
装着部10は走行機体100の三点リンク連結機構に連結可能な連結フレーム11と連結フレーム11の後方側に、走行機体100の幅方向に並列する一対の支持アーム12、12'を介して接合された前フレーム13からなり、連結フレーム11の長さ方向(走行機体100の幅方向)の中央下部に入力軸が配置される。入力軸には走行機体100のPTO軸(図示せず)からの動力を図示しない伝動軸を介して伝達される。
【0022】
連結フレーム11の後端側には連結フレーム11の長さ方向に所定間隔を有して後方側へ突出する一対の支持アーム12、12'が上下方向に回動可能に連結され、一対の支持アーム12、12'の後端部に前フレーム13が接合されている。前フレーム13はリンク部材41、42を、所定の間隔を置いて支持するのに十分な長さを有する。前フレーム13にはこれを補強すると共に、走行機体100からの動力を受ける前進用駆動軸22と後進用駆動軸23を装着し、リンク部材41、42を連結するための取付フレーム15が前フレーム13を包囲する形で固定されている。
【0023】
取付フレーム15は並列するリンク部材41、42間に、特に入力軸の背面(後方)側に位置する出力軸である前進用駆動軸22と後進用駆動軸23の背面(後方)側に、伝動フレーム51の回動中心部分を格納するための空間を確保するために、入力軸に対して走行機体100の幅方向にずれている。詳しくは入力軸の同一線上に前進用駆動軸22を配置する関係で、前進用駆動軸22と後進用駆動軸23との間の距離の半分だけ、回動軸53(回動中心)が入力軸4の同一線上より、走行機体100の前進の向きに対して左側へシフトしている。
【0024】
取付フレーム15の長さ方向の両側位置からはそれぞれ後方(伝動フレーム51)側へ向かってリンク部材41、42を支持するための箱形のブラケット16、17が張り出し、それぞれの後方側の端部位置にリンク部材41、42を軸支する支持軸18、20が突設される。ブラケット16、17の内、リンク部材41、42の折り畳み側(前進作業位置側)、すなわち走行機体100の前進の向きに対して右側に位置するブラケット17の取付フレーム15からの張り出し長さは反対側(後進作業位置側)の左側に位置するブラケット16の取付フレーム15からの張り出し長さより小さい。リンク部材41、42の折り畳み状態で両リンク部材41、42間の距離を大きく確保し、後フレーム45の回動中心軸となる回動軸52の周辺に位置する従動軸30(図4参照)等を両リンク部材41、42間に納めながら、後フレーム45を取付フレーム15(前フレーム13)に接近させるためである。
【0025】
走行機体100の前進の向きに対して右側に位置するブラケット17の支持軸18に、前進作業位置にあるときの作業部50側に位置する第1リンク部材41の前端部が連結され、左側に位置するブラケット16の支持軸20に後進作業位置にあるときの作業部50側に位置する第2リンク部材42が連結される。両リンク部材41、42の後端部(移動側端部)に後フレーム45の両端部が連結される。
【0026】
左側のブラケット16からはこれを貫通する支持軸20が上下方向に突出し、その上端部に上記の第2リンク部材42が連結され、下端部に第2リンク部材42と平行に配置され、第2リンク部材42と共に伝動フレーム51を支持する第3リンク部材43が連結される。平行リンク40は互いに平行な取付フレーム15(前フレーム13)と後フレーム45、及び互いに平行な第1リンク部材41と第2リンク部材42及び第3リンク部材43から構成されている。
【0027】
第2リンク部材42と第3リンク部材43の後端部間に同軸の回動軸52、53が配置され、上側の回動軸52に第2リンク部材42と後フレーム45が回動自在に連結され、下側の回動軸53に第3リンク部材43と伝動フレーム51が回動自在に連結される。手動によって全リンク部材41〜43が回動したときには、後フレーム45が回動軸52の回りに回転して取付フレーム15(前フレーム13)から遠ざかる。全リンク部材41〜43が折り畳み状態のままで、伝動フレーム51が回動軸53の回りに回動する。作業部50が前進作業位置Pfにある図1の状態から後進作業位置方向に回動すれば伝動フレーム51は回動軸53を回動中心Oとして回動し、図3に示す後進作業位置Pbまで180°回転する。伝動フレーム51はこれらの中間の格納位置Phにも移動可能である。
【0028】
伝動フレーム51は内部に、作業部50まで動力を伝達する動力伝達機構を格納するために箱形の形状をし、回動軸53から作業部(畦塗り作業部)50側へ張り出すように架設され、先端部分に作業部(畦塗り作業部)50が接続される。動力伝達機構は後述の前進用受動クラッチ31、または後進用受動クラッチ32からの動力を作業部50に伝達する。
【0029】
作業部(畦塗り作業部)50は図1に示すように圃場の周辺に沿って形成された旧畦を切り崩して土盛りを行なう前処理部55と、盛られた土を切り崩された旧畦上に塗り付ける整畦部57とを備えている。前処理部55は回転可能に支持された耕耘ロータを備え、耕耘ロータは伝動フレーム51に連結されて支持される。整畦部57は回転可能に支持された多面体ドラム58を備え、多面体ドラム58は伝動フレーム51に連結されて支持される。耕耘ロータと多面体ドラム58には伝動フレーム51内の動力伝達機構を介して従動軸30(図4参照)からの動力が伝達される。
【0030】
前フレーム13(取付フレーム15)の長さ方向中間部には、長さ方向に所定距離を置いて配列する前進用駆動軸22と後進用駆動軸23が装着され、前フレーム13(取付フレーム15)から後フレーム45側へ突出している。前進用駆動軸22は入力軸と同一軸線上に位置し、入力軸4からの動力がユニバーサルジョイント24等を介して前進用駆動軸22に伝達される。
【0031】
後進用駆動軸23には前進用駆動軸22に伝達された動力が前進用駆動軸22及び後進用駆動軸23に装着されたギアを介して伝達される。前進用駆動軸22に動力が伝達されれば、後進用駆動軸23にも動力が伝達され、両駆動軸22、23が回転する。前進用駆動軸22の先端部には前進用駆動クラッチ27が接続され、後進用駆動軸23の先端部には後進用駆動クラッチ28が接続される。前進用駆動軸22と後進用駆動軸23の前フレーム13からの突出長さは等しく、前フレーム13からの、前進用駆動クラッチ27及び後進用駆動クラッチ28先端までの距離も等しい。
【0032】
伝動フレーム51の回動中心O付近の、回動軸53よりも作業部50側に寄った位置には前進用駆動軸22及び後進用駆動軸23の軸線と平行な軸を有する従動軸30(図4参照)が支持されている。従動軸30は伝動フレーム51を貫通して装着され、軸方向の両端部は伝動フレーム51の側面から突出している。伝動フレーム51の各側面から従動軸30の各先端までの距離は等しい。本実施形態では従動軸30が前進用の従動軸と後進用の従動軸を兼ねているが、従動軸30は前進用と後進用に分離し、それぞれが前進用駆動軸22と後進用駆動軸23に接続されることもある。従動軸30が前進用と後進用に分離している場合も、それぞれの軸は同一線上に配列する。
【0033】
作業部50が図1に示す前進作業位置Pfにあるときに、前進用駆動クラッチ27に前進用受動クラッチ31が接続され、作業部50が図3に示す後進作業位置Pbにあるときに、後進用駆動クラッチ28に後進用受動クラッチ32が接続される。伝動フレーム51の各側面からの、前進用受動クラッチ31及び後進用受動クラッチ32先端までの距離も等しい。
【0034】
伝動フレーム51の回動中心Oとなる回動軸53は前進用駆動軸22を通る直線と後進用駆動軸23を通る直線の中点を通る直線上に位置し、前進用受動クラッチ31と後進用受動クラッチ32は回動軸53から、前進用駆動軸22と後進用駆動軸23との間の距離の1/2の距離をおいた位置を通る直線上に位置している。この結果、リンク部材41〜43が折り畳まれた状態にある限り、伝動フレーム51の回動に関係なく、従動軸30(前進用受動クラッチ31と後進用受動クラッチ32)の軸線を前進用駆動軸22(前進用駆動クラッチ27)、または後進用駆動軸23(後進用駆動クラッチ28)の軸線上に位置させることが可能になっている。
【0035】
従ってリンク部材41〜43が折り畳み状態にあり、図1に示す作業部50が前進作業位置Pfにあるときには、前進用駆動軸22(前進用駆動クラッチ27)の軸線に従動軸30の前進用受動クラッチ31の軸線が合致し、互いに接続可能な状態にあり、図3に示す作業部50が後進作業位置Pbにあるときには、後進用駆動軸23(後進用駆動クラッチ28)の軸線に従動軸30の後進用受動クラッチ32の軸線が合致し、互いに接続可能な状態にある。
【0036】
以上の駆動軸22、23と従動軸30の、前フレーム13の長さ方向の位置関係に加え、リンク部材41〜43が折り畳み状態にあるときの前フレーム13と伝動フレーム51との間の距離が調整されることで、図1のときには前進用駆動軸22(前進用駆動クラッチ27)に従動軸30の前進用受動クラッチ31が接続されており、図3のときには後進用駆動軸23(後進用駆動クラッチ28)に従動軸30の後進用受動クラッチ32が接続されている。
【0037】
前フレーム13と伝動フレーム51との間の距離は、伝動フレーム51が回動軸53の回りを回転し終え、前進用駆動軸22(前進用駆動クラッチ27)に従動軸30の前進用受動クラッチ31が対向しようとするときに、前進用受動クラッチ31と前進用駆動クラッチ27が相対的に回転しながら対向した時点で接続できる距離となるように設定される。この両クラッチ31、27が相対的に回転しながら接続される距離となるよう、リンク部材41〜43が折り畳み状態にあるときの、走行機体100の走行方向とのなす角度が設定されている。
【0038】
なお、前進用受動クラッチ31と前進用駆動クラッチ27が互いに角度を持った状態から対向した(角度がない)状態に移行するときには、少なくともいずれか一方の軸に接続されているコイルスプリング等の付勢部材が互いの相対変位と相対回転変位を吸収するため、角度を持った状態で互いに接触を開始しても接続は円滑に行われる。
【0039】
装着部10と作業部50との間に、前フレーム13に対する平行リンク40の揺動を手動でロックし、且つ後フレーム45に対する作業部50の回動を手動でロック可能なロック装置110が設けられている。
【0040】
図1〜図3はロック装置110の構成例を示す。図1は作業部50が前進作業位置Pfにあり、作業部50の回動がロックされると共に、平行リンク40の揺動がロックされている状態を示す。図2は前進作業位置Pfにおいて平行リンク40の揺動がロックされた状態を維持したまま、作業部50の回動のロックを解除し、後進作業位置Pbに移動する途中におけるロック装置110の状態を示す。図3は作業部50が後進作業位置Pbまで回転し、作業部50の回動がロックされると共に、平行リンク40の揺動がロックされている状態を示した説明図である。なお、説明の便宜上、図1〜図3中、ロック装置以外の機構等については、構成を一部省略して示してある。
【0041】
このロック装置110は平行リンク40の揺動をロックするための揺動ロック機構部111と、作業部50の回動をロックするための回動ロック機構部120とを有している。
【0042】
本発明の農作業機(畦塗り機)1は前述したように、後フレーム45が前フレーム13と平行なまま、右側前方に移動すると共に、前側受動クラッチ31が前側駆動クラッチ27に接近移動して前側駆動クラッチ27に接続されたときに、作業部50が前進作業位置Pfに移動する。作業部50が前進作業位置Pfに移動すると、図1に示すように揺動ロック機構部111により平行リンク40の揺動がロックされる。
【0043】
具体的には揺動ロック機構部111は後フレーム45に前方に張り出して固設された張出部112の前方側に形成された孔112aと、第1リンク部材41の略中間位置から先端側に張り出して設けられた円弧状部113の一端側に形成された孔113aと、L字型ロックピン114とを有し、連通状態にしたこれらの孔112a、113aにL字型ロックピン114を挿入することにより第1リンク部材41と後フレーム45とを固定し、平行リンク40の揺動をロックする。
【0044】
なお、図4に示すように作業部50が格納状態にあるときには、揺動ロック機構部111のL字型ロックピン114が、第1リンク部材41に形成された略円弧状部の他端側に設けられた孔113b側に挿入することにより平行リンク40の揺動をロックしている。
【0045】
回動ロック機構120は図1に示すように一端が伝動フレーム51の基端側に回動自在に軸支された平面視略C形状の回動プレート121と、回動プレート121の拡幅した他端側の先端部に回動自在に軸支された棒状のロック操作部材122と、畦塗り作業部50に固設されたピン部材123とを有する。ピン部材123はロック操作部材122の先端側に形成された長孔部122aに沿って移動可能に嵌め込まれている。長孔部122aの両端部には長孔部122aに連通してロック操作部材122の回動方向と同一方向に連続し、ピン部材123の長孔部122aに沿う方向の移動を規制する移動規制孔122bが形成されている。ロック操作部材122は例えばスプリングなどの付勢手段(図示せず)により作業機の前方に付勢されることによりピン部材123が移動規制孔122bから長孔部122aに移動して畦塗り作業部50の回動ロック状態の解除をし難くしている。
【0046】
また回動プレート121の拡幅部分には長孔121aが設けられており、長孔121aには後フレーム45の下面から突設されたガイドピン124が挿入されている。
【0047】
作業部50を前進作業位置Pfから後進作業位置Pbに移動させる場合には、先ず、図10に示す回動ロック機構120を操作して後フレーム45に対する作業部50の回動ロック状態を解除する。すなわち、作業者は図1に示すようにロック操作部材122に形成された長孔部122aの一端側に設けられた移動規制孔122bに係止しているピン部材123を、ロック操作部材122を回動操作することにより長孔部122a側に移動させて、畦塗り作業部50の回動ロック状態を解除する。
【0048】
次いで、回動支点Oを中心として作業部50を前進作業位置Pfと反対側に回動させると、前側受動クラッチ31は回動支点Oを中心とし畦塗り作業部50の回動方向と同一方向に回動して前側駆動クラッチ27から脱着され、図2(平面図)に示すようにピン部材123が長孔部122aの長手方向に移動すると共に、ガイドピン124も長孔121aの他端側に向かって移動する。作業部50を反対側に更に回動させ、後進作業位置Pb側に移動すると、図3に示すように作業部50はその前後関係が反転された状態となり、後側受動クラッチ32は前方側に向いた状態となって後側駆動クラッチ28に接続される。
【0049】
これと同時に、ピン部材123は長孔部122aの長手方向の他端側まで移動し、ピン部材123が移動規制孔122bまで移動して係止し、作業部50の回動がロックされる。なお、ガイドピン124は長孔部122a内を移動して前進作業位置Pfと同じ位置に復帰する。
【0050】
作業部50を後進作業位置Pbから前進作業位置Pfに移動させる場合も、作業部50を前進作業位置Pfから後進作業位置Pbに移動させる場合と同様に、回動ロック機構120によるロック状態を解除して、後フレーム45に対して作業部50を回動させるだけでよく、この作業は前述した前進作業位置Pfから後進作業位置Pbに移動させる作業に準じるので、その説明は省略する。
【0051】
このように畦塗り作業部50を前進作業位置Pfから後進作業位置Pbに、逆に後進作業位置Pbから前進作業位置Pfに移動させるときには、作業部50の後フレーム45に対する回動操作のみで、前側受動クラッチ31を前側駆動クラッチ27に又は後側受動クラッチ32を後側駆動クラッチ28に接続することができる。併せて作業部50を容易に反転させることができるため、作業部50の反転作業の習熟を不要にすることができる。
【0052】
なお、図5には、平行リンク40の揺動ロックを解除可能な揺動ロック解除機構部を備えた農作業機1が記載されている。この揺動ロック解除機構部70は、後フレーム45に回動可能に設けられ前側に形成されたフック部71aが第1リンク部材41の前側を軸支する支持軸18から上方へ延びる係止ピン19に係止して第1リンク部材41の揺動を規制して平行リンク40の揺動をロックする係合部材71と、係止ピン19の中心軸線と同軸上に回動自在に設けられた回動部材72と、回動部材72の上面に突設されて回動部材72の回動によって係合部材71の先端部に当接して係合部材71をロック解除方向に回動させる押圧ピン73と、基端側が係止ピン19の中心軸線と同軸上に回動自在に設けられ先端側に操作部74aを有し回動部材72と一体となって回動部材72を回動させる操作レバー74とを有してなる。
【0053】
回動部材72の回動中心と反対側の回動部材72の端部には、第1リンク部材41に突設されたピン部材41bを挿通する長孔部72aが前後方向に延びて設けられて、回動部材72の回動範囲を規制している。長孔部72aは、係止ピン19に係止された係合部材71に押圧ピン73が接触した状態になると、長孔部72aの後端部にピン部材41bが当接した状態になるように形成されており、この状態で操作レバー74を後方側へ回動すると、押圧ピン73によって回動部材72を時計方向に回動させて回動部材72の係止状態を解除するとともに長孔部72aが後方側に移動してピン部材41bが長孔部72aの前端部に当接して操作レバー74のロック解除方向の回動操作を規制する。
【0054】
また回動部材72の回動中心側端部と第1リンク部材41との間には引っ張りばね75が設けられている。この引っ張りばね75によって回動部材72を介して押圧ピン73を係合部材71から離反する方向に移動させるようにしている。このため、振動等によって平行リンク40の揺動規制が解除される虞を防止している。
【0055】
また操作レバー74は、これを時計方向に回動して平行リンク40の揺動ロックを解除した状態でさらに時計方向に回動すると、平行リンク40を揺動させることができ、平行リンク40を揺動させる操作部材としての機能も有している。
【0056】
なお、前述した実施の形態では農作業機の一例として畦塗り機を対象とした場合を示したが、溝掘機を対象としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】手動式のロック装置によって作業部が前進作業位置でロックされた状態の農作業機を示した平面図である。
【図2】手動式のロック装置によって作業部の回動がロック解除された状態で、作業部を反転させる移動途中の状態にある農作業機を示した平面図である。
【図3】手動式のロック装置によって作業部が後進作業位置でロックされた状態の農作業機を示した平面図である。
【図4】手動式のロック装置によって作業部が格納位置でロックされた状態の農作業機を示した平面図である。
【図5】平行リンクの揺動ロック解除が可能な手動式の揺動ロック解除装置を備えた農作業機を示した平面図である。
【符号の説明】
【0058】
1……農作業機(畦塗り機)、10……装着部、13……前フレーム、41……第1リンク部材(リンク部材)、42……第2リンク部材(リンク部材)、43……第3リンク部材(リンク部材)45……後フレーム、50……作業部、51……伝動フレーム、52,53……回動軸、70……揺動ロック解除機構部、71……係合部材、71a……フック部、72……回動部材、73……押圧ピン、74……操作レバー、74a……操作部100……走行機体、111……揺動ロック機構部、112……張出部、112a……孔(孔部)、113a、113b……孔(連通孔部)、114……L字型ロックピン、120……回動ロック装置、121……回動プレート、122……ロック操作部材、122a……長孔部、122b……移動規制孔、123……ピン部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の後部に装着される装着部を有する前フレームと、この前フレームに揺動自在に連結される複数本のリンク部材と、この各リンク部材の移動端側に連結される後フレームと、この後フレームに突設された回動軸に回動自在に連結され、先端位置に作業部を支持した伝動フレームを有し、
前記伝動フレームが前記後フレームの回動軸の回りに、前記作業部が前進作業姿勢になる前進作業位置と、後進作業姿勢になる後進作業位置との間を回動自在な農作業機において、
前記伝動フレームの回動支点側に一端が回動自在に設けられ、前記伝動フレームの回動に連動して前記伝動フレームの回動方向と同一方向に回動する回動プレートと、
前記作業部に設けられ、前記作業部の回動と共に移動するピン部材と、前記回動プレートの他端側に一端が回動自在に取り付けられ、他端側に前記ピン部材が挿通する長孔部を有し、前記作業部の回動に伴って前記ピン部材が前記長孔部に沿って移動可能なロック操作部材とを有した回動ロック機構部を備え、
前記長孔部の両端部に、前記長孔部に連通して前記ロック操作部材の回動方向と同一方向に延びて前記ピン部材の前記長孔部に沿った移動を規制する移動規制孔が設けられていることを特徴とする農作業機の拘束・解除装置。
【請求項2】
走行機体の後部に装着される装着部を有する前フレームと、この前フレームに揺動自在に連結される複数本のリンク部材と、この各リンク部材の移動端側に連結される後フレームと、この後フレームに突設された回動軸に回動自在に連結され、先端位置に作業部を支持した伝動フレームを有し、
前記伝動フレームが前記後フレームの回動軸の回りに、前記作業部が前進作業姿勢になる前進作業位置と、後進作業姿勢になる後進作業位置との間を回動自在な農作業機において、
前記前フレームに連結された一対のリンク部材の一方に形成された連通孔部と、前記後フレームから張り出した張出部に設けられた孔部と、前記リンク部材が前記前フレームに接近した折り畳み状態のときあるいは前記後フレームが前記前フレームから距離を置いた格納状態のときに、連通状態にある前記孔部及び前記連通孔部に挿通されるロックピンを有する揺動ロック機構部が備えられていることを特徴とする農作業機の拘束・解除装置。
【請求項3】
走行機体の後部に装着される装着部を有する前フレームと、この前フレームに揺動自在に連結される複数本のリンク部材と、この各リンク部材の移動端側に連結される後フレームと、この後フレームに突設された回動軸に回動自在に連結され、先端位置に作業部を支持した伝動フレームを有し、
前記伝動フレームが前記後フレームの回動軸の回りに、前記作業部が前進作業姿勢になる前進作業位置と、後進作業姿勢になる後進作業位置との間を回動自在な農作業機において、
前記後フレームに回動可能に設けられ前側に形成されたフック部が前記一対のリンク部材のいずれかに設けられた係止ピンに係止して前記リンク部材の揺動を規制する係合部材と、前記係止ピンの中心軸線と同軸上に回動自在に設けられた回動部材と、該回動部材に突設されて前記回動部材の回動によって前記係合部材に当接して該係合部材を回動させる押圧ピンと、基端側が前記係止ピンの中心軸線と同軸上に回動自在に設けられ先端側に操作部を有し前記回動部材と一体となって該回動部材を回動させる操作レバーとを有する揺動ロック解除機構部が備えられていることを特徴とする農作業機の拘束・解除装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−41926(P2010−41926A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206424(P2008−206424)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(390010836)小橋工業株式会社 (198)
【Fターム(参考)】