説明

農業用紙マルチシート

【課題】目的とする農作物の苗が少なくともある程度大きく生育するまでの期間、雑草の発生を抑制し、その後は速やかに生分解することにより、農業従事者が回収処理する手間の必要がない農業用紙マルチシートを提供する。
【解決手段】
短繊維と長繊維のセルロ−スパルプより成る農業用紙マルチシ−トにおいて、紙の表面に寒天及び/又は焼酎粕を含む成分からなるコーティング層を有することを特徴とする農業用紙マルチシートである。前記焼酎粕を含む成分においては、焼酎粕腐敗防止用微生物資材をさらに含むことが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農業に用いられる紙マルチシートに関し、さらに詳しくは農作物育成中の雑草の生育を抑制するための農業用紙マルチシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から農業分野においては、目的とする農作物を生育する際に、雑草の防除や土温上昇効果のためにポリエチレンフィルムや塩化ビニルフィルムなどの化学製品が使用されてきた。しかし、これらのフィルムマルチシ−トはほとんど生分解性が無いため、収穫後に使用済みのフィルムの回収、処分が必要となり、この回収作業が農業従事者の負担となっている。
【0003】
また、使用後のフィルムマルチシ−トを廃棄処分する段階で、環境に大きな負荷が掛かってしまう。例えば、塩化ビニルフィルムであれば、焼却時に有毒なダイオキシンが発生する可能性が指摘されている。
【0004】
一方、より環境への負荷が少ないマルチシ−トが提案されている。例えば、土中で腐敗、分解する紙製マルチシ−トに関する多くの提案がされている。紙製マルチシートは土中の微生物による分解が早く耐候性に乏しいので、雑草の防除等のために強度を保持する方法が考えられている。特許文献1および特許文献2にはセルロ−スパルプにフミン酸およびフミン酸塩を含有させて紫外線の吸収および耐水性を向上させ、さらにその表面に乾性油を含有させることにより耐生分解性を向上させる方法が提案されている。その結果、撥水性が向上するが、一方で、紙本来の吸水時の柔軟性が低くなってしまうので、農業用紙マルチシートと土表面との密着性が期待できなくなり、風圧によって捲れ上がり、そのうちに破れてしまう。また、各種の副資材費が必要となり、更にスラリ−原料の調整や排水処理費用等が必要となるので、結果としてマルチシ−トの製造コストが高くなってしまう。
【0005】
一方、マルチシートに地温上昇効果を持たせるための方法も考えられている。特許文献3には紙の表面にラテックスとワックスからなる防湿層を設けて透湿度を小さくし、水分蒸発による地温低下を抑制する方法が提案されている。他にも前記の特許文献1および特許文献2では乾性油による防湿層の方法が提案されている。また特許文献4では紙の表面にポリビニルアルコ−ル系重合体と顔料よりなる防湿層を設けることが提案されている。しかし、防湿層により紙本来の吸水時の柔軟性が低くなってしまうので、農業用紙マルチシートと土表面との密着性が期待できなくなり、風圧によって捲れ上がり、そのうちに破れてしまう。また、最近では、作物の栽培場所および時期によっては、地球温暖化の影響で土中温度が高くなり過ぎ作物の生育に悪影響も出始めており、一概に地温上昇効果のあるマルチシートが望まれている訳ではない。
【0006】
また、特許文献5では焼酎粕の繊維質を生分解性樹脂に混入した生分解性プラスチックフィルムも開発されている。しかし、このフィルムを製造する過程で焼酎粕由来の有機酸等機能性成分は除去され、単に繊維質だけを利用しているだけであり、しかも、実際に使用すると分解にかなりの時間が掛かり、分解の途中で千切れたフィルムが風で畑の周辺に散乱し景観が悪くなってしまうので、現場では評判が良くない。また、有機JAS規格には適合しないので、今後増えることが予想される有機農産物の栽培には利用し難い。
【0007】
また、特許文献6では焼酎粕に古紙等を混ぜて焼酎粕中の水分を吸収させた後、成型加工によりシート等を製造する方法が提案されている。この方法では焼酎粕中の機能性成分が残るものの、幅の広いロール巻きの農業用マルチシートを製造することは難しい。
【0008】
また、特許文献7では紙シート全面にエンボス加工による凹凸を設けて柔軟性を付与する方法が提案されているが、土との密着性が悪いために、風圧によって捲れ上がり、そのうちに破れてしまう。また、特許文献8では、機械パルプと化学パルプおよび浸透助剤を用いた農業用マルチシートが提案されているが、強度を維持するために坪量50g/平方メートル以上必要であり、バージンパルプを用いているのでコストがかなり高くなってしまう欠点がある。また、特許文献9では、坪量50g/平方メートル以上必要であり、全面に凹凸加工を施した紙を原紙とした農業用紙マルチシートが提案されているが、凹凸があるために土との密着性が悪く、風圧によって捲れ上がり、そのうちに破れてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−116249号公報
【特許文献2】特開2000−116250号公報
【特許文献3】特開平8−205693号公報
【特許文献4】特開2003−116371号公報
【特許文献5】特開2008−259463号公報
【特許文献6】特許第2926080号公報
【特許文献7】実用新案第3024124号公報
【特許文献8】特許第3331594号公報
【特許文献9】特許第2879650号公報
【特許文献10】特開2007−29079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、目的とする農作物の苗が少なくともある程度大きく生育するまでの期間、雑草の発生を抑制し、その後は速やかに生分解することにより、農業従事者が回収処理する手間の必要がない農業用紙マルチシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、紙が水分を吸収して柔らかくなると、畑の土の表面に密着し、その後乾燥しても密着性が維持される現象をもとに鋭意研究した結果、紙の表面に寒天及び/又は焼酎粕を含む成分からなるコーティング層を有することを特徴とする農業用紙マルチシートの完成に至った。
【0012】
すなわち、前記の課題を解決する農業用紙マルチシートは、農業用紙マルチシートにおいて、寒天及び/又は焼酎粕を含む成分からなるコーティング層を有することを特徴とする農業用紙マルチシートである。前記焼酎粕を含む成分においては、焼酎粕腐敗防止用微生物資材をさらに含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明による農業用紙マルチシートを用いると、紙の吸水性により水分を吸った農業用紙マルチシートは短繊維のセルロ−スパルプの柔軟性により、凹凸のある畑の土壌表面に密着し、乾燥した後も密着しているので、風によって土壌表面から剥離し難い特徴がある。しかし、濡れると紙の繊維同志の水素結合が弱くなり、分解が早いので、その表面に寒天を含む成分をコ−ティングして補強する。また、焼酎粕を含む成分をコーティングした農業用紙マルチシートは、特に酸性土壌に強いサツマイモやとうもろこし栽培に好適な農業用紙マルチシ−トとして利用できる。
【0014】
また、本発明による農業用紙マルチシートは、セルロ−スパルプを主成分とするので生分解に優れており、苗がある程度大きく生育するまでの期間、雑草の発生を抑制した後は速やかに分解する。このため、従来のように、収穫後に使用済みのフィルムを回収処理する作業も必要なく、分解にかなりの時間が掛かり、分解の途中で千切れたシ−トが風で畑の周辺に散乱し景観を悪くすることもないので、環境保全にも大いに貢献するものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の農業用紙マルチシートは短繊維と長繊維によるフィブリル構造のセルロ−スパルプを主原料としている。さらに詳しくは、短繊維の再生回収古紙と長繊維のクラフトパルプを混ぜて湿式抄紙機で抄紙して得られる紙シートを用いる。この紙シートは短繊維のセルロースパルプにより吸水すると柔らかくなり、また長繊維のセルロースパルプで補強されたシートの表面にクレ−プ加工等をすれば伸度を高くすることができる。
【0016】
本発明の農業用紙マルチシートは、その表面に水に溶かした寒天を含む成分をコ−ティングして得られる。一般的に紙は濡れると繊維同志の水素結合力が弱くなり、分解が早いが、このコ−ティングをすることにより、農業用紙マルチシートの分解を遅くすることができ、物理的に雑草の生育を抑制することができる。本目的で使用されるコーティング成分は寒天に限定されず、水分によりゲル状となるものカラギーナン、グルコマンナン等の多糖類を用いることもできる。
【0017】
(多糖類を含む成分からコーティング層を有する農業用紙マルチシートの製造方法)
短繊維の再生回収古紙と長繊維のクラフトパルプを混ぜて湿式抄紙機で抄紙して得られた紙シートの表面に、水に溶かした0.1〜10重量%の寒天をシート1平方メートル当たり0.5〜5キログラム塗布した後、素早く乾燥する。その後、マルチャーで畑に敷設する際に破れないように、最終的にクレープ加工により伸度を大きくし、本発明の農業用紙マルチシートを製造することができる。
【0018】
また、本発明の農業用紙マルチシートは、その表面に焼酎粕を含む成分をコーティングして得られる。芋焼酎粕を用いる場合は、芋の長繊維によりコーティング斑が発生し易いので、予めその長繊維を切断するためにミキサー等を用いて湿式粉砕処理しておく。焼酎粕には有機酸が多く含まれているので、土壌が酸性になり、雑草の生育を抑制する効果もある。従って、この農業用紙マルチシートは酸性土壌に強い、焼酎の原料であるさつまいもやとうもろこし等の栽培に適している。
【0019】
(焼酎粕を含む成分からコーティング層を有する農業用紙マルチシートの製造方法)
短繊維の再生回収古紙と長繊維のクラフトパルプを混ぜて湿式抄紙機で抄紙して得られた紙シートの表面に、湿式粉砕処理した焼酎粕をシート1平方メートル当たり0.5〜5キログラム塗布した後、素早く乾燥する。その後、マルチャーで畑に敷設する際に破れないように、最終的にクレープ加工により伸度を大きくし、本発明の農業用紙マルチシートを製造することができる。
【0020】
焼酎粕腐敗防止用微生物資材をさらに含む形態においては、焼酎粕と微生物資材とを混合してコーティングする。微生物資材の製造方法は、第一工程:バチルス菌、酵母および乳酸菌等から構成される土着微生物群を、米ぬかとその他の成分(昆布等の海産物、キャベツおよび豆等の農産物)と混合し10℃〜30℃の好気状態で2ヵ月間発酵、第二工程:発酵した微生物群、籾殻及び食品残渣(野菜屑および魚アラ等)を、重量比1:50〜200:10〜100で混合し10℃〜30℃の好気状態で1週間さらに発酵、及び第三工程:発酵後に水を混ぜて濾過、を経て得ることができる。この微生物資材を焼酎粕に対して1〜30重量%混合し、コーティング原料とすることができる。
【0021】
本発明の農業用紙マルチシートは、寒天からなる成分と焼酎粕からなる成分を混合してコーティングすると、両成分による効果が発揮される。この形態による農業用紙マルチシートは、前記水に溶かした0.1〜10重量%の寒天と湿式粉砕処理した焼酎粕を混合し、シート1平方メートル当たり0.5〜5キログラム塗布した後、素早く乾燥する。その後、マルチャーで畑に敷設する際に破れないように、最終的にクレープ加工により伸度を大きくし、本発明の農業用紙マルチシートを製造することができる。この時、焼酎粕の腐敗を防止するため、微生物資材をさらに含むことが望ましい。
【0022】
本発明の農業用紙マルチシートにコーティングする焼酎粕は栄養分が豊富なので、短時間で雑菌により腐敗し易い。一方、コーティング液の品質管理のためには焼酎粕の短時間での腐敗を防止する必要がある。そこで焼酎粕が雑菌により腐敗することを抑制する目的で、微生物資材を混合することが好適である。ここで用いる焼酎粕腐敗防止用微生物資材には、バチルス菌、酵母、乳酸菌、特許文献7及び10記載の液肥及び他の乳酸発酵液等を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の多糖類および焼酎粕をその表面にコーティングした農業用紙マルチシートは、吸湿することにより畑の土壌表面に密着して風で吹き飛ぶこともなく、物理的および化学的な効果により雑草の生育を抑制する一方、その役割が終了すると速やかに分解するので、農業用生分解性マルチシートとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天及び/又は焼酎粕を含む成分からなるコーティング層を有することを特徴とする農業用紙マルチシート
【請求項2】
前記焼酎粕を含む成分において、焼酎粕腐敗防止用微生物資材をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の農業用紙マルチシート

【公開番号】特開2010−239954(P2010−239954A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108427(P2009−108427)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、重点地域研究開発推進プログラム(シーズ発掘試験)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(509119614)山▲崎▼製紙株式会社 (1)
【Fターム(参考)】