説明

透明導電膜用組成物、及びこれを用いた透明導電体

【課題】導電性高分子を含む透明導電膜用組成物であって、透明基板に対する密着性に優れた透明導電膜を形成できる組成物、及びこれを用いた透明導電体を提供する。
【解決手段】導電性高分子及び溶媒を含む透明導電膜用組成物であって、当該組成物が、更に下記式(I):


(式中、Rは炭化水素基を表し、分子中のRの少なくとも1個は水素原子である)で表される構造を含むポリマーを含むことを特徴とする透明導電膜用組成物、及びこれを用いた透明導電膜を有する透明導電体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子、有機発光素子、無機電界発光素子、タッチパネル、電子ペーパー等の電子デバイスに用いることができる透明導電膜の形成に用いられる透明導電膜用組成物に関し、特に、導電性高分子を含み、透明基板との密着性に優れた透明導電膜を形成することができる透明導電膜用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は液晶表示素子、有機発光素子、無機電界発光素子、タッチパネル、電子ペーパー等の電子デバイスの透明電極や電磁波シールド材等に用いられている。
【0003】
透明導電膜としては、従来から、例えば、錫ドープ酸化インジウム(ITO)やアンチモンドープ酸化錫(ATO)等の金属酸化物が用いられている。一般に、金属酸化物を用いた透明導電膜の作製は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の気相製膜法が用いられる。気相製膜法は真空環境が必要なため、大型装置を用い、且つ大量のエネルギーを消費するため、製造コストや環境負荷が大きくなるという問題がある。
【0004】
一方、導電性高分子を用いた透明導電膜の開発も行われている。導電性高分子を含む導電膜は塗工法によって低コストで形成が可能な点で有利である。そして、導電性高分子を含む導電膜の機能を向上するため、様々な改良が行われている。例えば、特許文献1においては、耐水性及び耐溶剤性の向上を目的として、スルホン酸基及び/又はカルボン酸基を有する導電性高分子と、架橋性化合物を含む導電性組成物が開示されている。また、特許文献2では、導電性の向上を目的として、導電性高分子と、親水化されたフラーレンとを含む透明導電性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3722839号公報
【特許文献2】特開2006−253024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、導電性高分子を含む組成物を透明基板上に塗工して形成した透明導電膜は、透明基板との密着性が不十分な場合があり、使用時の導電膜の損傷の原因となる。また、更に導電性に優れた透明導電膜も望まれている。
【0007】
従って、本発明の目的は、導電性高分子を含む透明導電膜用組成物であって、透明基板に対する密着性に優れた透明導電膜を形成できる組成物を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、導電性高分子を含む透明導電膜用組成物であって、透明基板に対する密着性に優れ、更に導電性に優れた透明導電膜を形成できる組成物を提供することにある。
【0009】
更に、本発明の目的は、この透明導電膜用組成物を用いた透明導電体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、導電性高分子及び溶媒を含む透明導電膜用組成物であって、当該組成物が、更に下記式(I):
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、又は置換基を有していても良い炭化水素基を表し、分子中のR1又はR2の少なくとも1個は水素原子である)で表される構造を含むポリマーを含むことを特徴とする透明導電膜用組成物によって達成される。この組成物を透明基板に塗工して透明導電膜を形成すると、透明導電膜を透明基板表面に強固に密着させることができる。この要因として、式(I)の構造を有するポリマーは、各ポリマー分子中に少なくとも1個存在する−NH基により、透明導電膜を形成した際、ポリマー同士の分子間、ポリマー分子と導電性高分子との間、及びポリマー分子と透明基板表面との間において、水素結合等による相互作用が生じ、透明導電膜と透明基板との密着性が向上するものと考えられた。
【0013】
本発明の透明導電膜用組成物の好ましい態様は以下の通りである。
(1)前記ポリマーが、更に、ヒドロキシ基を含む。これにより、溶媒中、特に水含有溶媒中におけるポリマー分子の分散性が向上し、組成物の安定性が向上することで、更に、本発明の効果を高めることができる。
(2)前記ポリマーの少なくとも一部が、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物と、1分子中に1級又は2級のアミノ基を1個以上有する化合物との重合物からなる。この重合物からなるポリマーであれば、より十分な数の式(I)の構造を有するポリマーとすることができ、更に透明導電膜と透明基板との密着性を向上できる組成物とすることができる。
(3)前記1分子中に1級又は2級のアミノ基を1個以上有する化合物が、更にヒドロキシ基を1個以上有する化合物である。これにより、ヒドロキシ基を容易に導入できる。
(4)前記ポリマーの数平均分子量が、100〜50000の範囲である。
(5)前記導電性高分子の、前記ポリマーに対する質量比(導電性高分子/ポリマー)が、0.1〜10の範囲である。これにより、更に、得られる透明導電膜の導電性を向上することができる。これはポリマーが適度に存在することで、透明導電膜における導電性高分子同士の密着性がより向上するものと考えられる。
(6)前記導電性高分子が、下記式(II):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子若しくは任意に置換されていても良い炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、又はR1及びR2が相互に結合して任意に置換されていても良い炭素原子数1〜4のアルキレン基を形成し、nは50〜1000の整数を表す)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体である。上記のポリチオフェン誘導体は導電性が高いので本発明における導電性高分子として好適である。
(7)前記溶媒が水含有溶媒である。導電性高分子をより分散し易い溶媒である。
【0016】
また、上記目的は、透明基板と、本発明の透明導電膜用組成物を、前記透明基板表面に塗工後、乾燥及び/又は硬化させて形成した透明導電膜とを有することを特徴とする透明導電体によって達成される。本発明の透明導電膜用組成物により形成された透明導電膜は、上述の通り、透明基板との密着性に優れるので、本発明の透明導電体は導電膜が損傷し難く耐久性に優れた透明導電体である。
【0017】
本発明の透明導電体において、前記透明基板が、透明プラスチック基板であることが好ましい。これにより本発明の透明導電膜用組成物の効果が得やすく、より透明導電膜が損傷し難く耐久性に優れた透明導電体とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の透明電極膜用組成物によれば、透明基板に導電性高分子を含む透明導電膜を形成した際、上記ポリマー分子中に存在する−NH基により、ポリマー同士の分子間、ポリマー分子と導電性高分子との間、及びポリマー分子と透明基板表面との間において、水素結合等による相互作用が生じ、透明導電膜と透明基板との密着性が向上する。従って、本発明の透明導電膜用組成物を用いた透明導電体は、透明導電膜が損傷し難く耐久性に優れた透明導電体であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の透明導電膜組成物の効果の一考察を説明する模式図である。
【図2】図2は本発明の透明導電体の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の透明導電膜用組成物は、少なくとも導電性高分子及び溶媒を含み、その組成物が、更に下記式(I):
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、又は置換基を有していても良い炭化水素基を表し、分子中のR1又はR2の少なくとも1個は水素原子である)で表される構造を含むポリマーを含んでいる。R1及びR2において、炭化水素基の置換基は、本発明の効果を阻害するものでなければ、制限は無い。例えば、ヒドロキシ基、オキシアルキレン基、カルボニル基、アミノ基、イソシアネート基等が挙げられる。このようなポリマーとしては、ウレア樹脂やポリウレタンウレア樹脂等に属するものが挙げられる。この透明導電性膜組成物を透明基板に塗工して透明導電膜を形成すると、後述する実施例で示すように、透明導電膜を透明基板表面に強固に密着させることができる。
【0023】
この要因について図面を用いて考察する。図1は、本発明の透明導電膜組成物の効果の一考察を説明する模式図である。図1においては、透明基板表面に、本発明の透明導電膜用組成物を用いて塗工法により透明導電膜が形成されている。透明導電膜には、導電性高分子及びドーパントからなる導電性高分子の複合体と、それに隣接する複数の式(I)の構造を含むポリマー分子とが存在している。各ポリマー分子は、分子中に少なくとも1個存在する−NH基によりポリマー分子間等で水素結合を形成することができる。従って、図示のように、透明導電膜におけるポリマー同士の分子間、ポリマー分子と導電性高分子との間、及びポリマー分子と透明基板表面との間で水素結合やファンデルワールス力等による相互作用が生じる。これにより透明導電膜と透明基板との密着性が向上するものと考えられた。
【0024】
また、本発明の透明導電膜用組成物は、溶媒中、特に水含有溶媒中におけるポリマーの分散性を向上するため、ポリマー分子が、更にヒドロキシ基を含むことが好ましい。これにより、組成物の安定性が向上して均一に水素結合等による透明導電膜の密着性の向上効果が高められる。
【0025】
本発明において、ポリマーとしては、式(I)で表される構造を含めばどのようなものでも良い。尿素とホルムアルデヒドとの反応により得られるウレア樹脂やその誘導体でも良く、イソシアネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物の反応により得られるウレア結合を含むポリウレア樹脂又はポリウレタンウレア樹脂でも良い。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、これらの樹脂の構造を含む、ブロック共重合体やグラフト共重合体としても良い。
【0026】
ウレア樹脂は、例えば、分子内に下記式(III):
【0027】
【化4】

で表される構造を含むもので、分岐した炭化水素基は、他の基と環状構造を形成していても良い。
【0028】
また、ポリウレア樹脂は、例えば、下記式(IV):
【0029】
【化5】

【0030】
[式中、R3及びR4はそれぞれ独立して、置換基(例えば、ヒドロキシ基、オキシアルキレン基、カルボニル基、アミノ基、イソシアネート基等)を有していても良い炭化水素基を表す]に表されるように多価アミン化合物(1分子中に1級又は2級のアミノ基を2個以上有する化合物をいう)と多価イソシアネート化合物(1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう)との反応により得られる。
【0031】
更に、ポリウレタンウレア樹脂は、分子内にウレア結合(−NH−CO−NH−)とウレタン結合(−NHCO−O−)を有する重合体で、例えば、下記式(V):
【0032】
【化6】

【0033】
[式中、R5、R6及びR7はそれぞれ独立して、置換基(例えば、ヒドロキシ基、オキシアルキレン基、カルボニル基、アミノ基、イソシアネート基等)を有していても良い炭化水素基を表す]に表されるように多価イソシアネート化合物と多価ヒドロキシ化合物から得られたウレタン結合を有するプレポリマーと多価アミン化合物との反応により得られる。ポリウレタンウレア樹脂は、多価イソシアネート化合物と、アミノ基及びヒドロキシ基の両方を有する化合物との反応によっても得ることができる。この場合、1分子中にアミノ基は1個でも良い。
【0034】
ポリウレア樹脂又はポリウレタンウレア樹脂は、ポリマー分子中に、十分な数の式(I)で表される構造を導入するとともに種々の置換基を導入できる点で有利である。即ち、本発明において、式(I)で表される構造を含むポリマーは、少なくとも一部が、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物(多価イソシアネート化合物)と、1分子中に1級又は2級のアミノ基を1個以上有する化合物(アミン化合物)との重合体からなることが好ましい。上記アミン化合物において、特に1分子中のアミノ基が1個の場合は、更に1個以上のヒドロキシ基を有することが好ましい。
【0035】
本発明において、多価イソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネ−ト、2,6−トリレンジイソシアネ−ト、p−フェニレンジイソシアネ−ト、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネ−ト、m−フェニレンジイソシアネ−ト、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、テトラメチレンジイソシアネ−ト、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネ−ト、1,5−ナフタレンジイソシアネ−ト、2,6−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネ−ト、4,4’−ジイソシアネ−トジフェニルエ−テル、1,5−キシリレンジイソシアネ−ト、1,3−ジイソシアネ−トメチルシクロヘキサン、1,4−ジイソシアネ−トメチルシクロヘキサン、4,4’−ジイソシアネ−トシクロヘキサン、4,4’−ジイソシアネ−トシクロヘキシルメタン、イソホロンジイソシアネ−ト、ノルボルナンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、4,4’−ジフエニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、エチリジンジイソシアネート等の二官能イソシアネート化合物;4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート、2,4,6−トルエントリイソシアナート、リジントリイソシアネート等のトリイソシアネート、上述のジイソシアネート化合物とトリメチロールプロパンをジイソシアネート過剰の条件で反応させた後、未反応のジイソシアネート化合物を除去したアダクト体、及び上述のジイソシアネート化合物の三量体等の三官能イソシアネート化合物;4,4’−ジメチルジフエニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアナート等の四官能ソシアネート化合物;又はこれらの多価イソシアネート化合物を多価アミン化合物、多価カルボン酸、多価チオール化合物、多価ヒドロキシ化合物、エポキシ化合物等の化合物に付加させたもので、1分子中にイソシアネート基を2個以上残存する化合物が挙げられる。
【0036】
本発明において、アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1,3−プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族アミン化合物;o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ジアミノナフタレン等の芳香族アミン化合物;モノエタノールアミン、N−メチルモノエタノールアミン、N−エチルモノエタノールアミン、N−t−ブチルモノエタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、イソプロパノールアミン、4−アミノ−1−ブタノール、6−アミノ−1−ヘキサノール、o−アミノベンジルアルコール、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、5−アミノ−ビス(2−ヒドロキシエチル)イソフタレート等のヒドロキシ基を1個以上含有するアミン化合物等が挙げられる。
【0037】
上述のように、溶媒中におけるポリマーの分散性の向上に有効なヒドロキシ基を、ポリマーに容易に導入することができる点で、アミン化合物としては、ヒドロキシ基を1個以上含有するアミン化合物が好ましい。
【0038】
本発明において、式(I)で表される構造を含むポリマーは、どのように調製されても良い。上述の通り、尿素とホルムアルデヒドとを反応させても良く、イソシアネート基を有する化合物とアミノ基を有する化合物とを反応させても良い。更に、これらの反応により得られたウレア結合を含む樹脂をプレポリマーとして、他のモノマーやプレポリマーとブロック共重合体やグラフト共重合体を調製しても良い。
【0039】
例えば、多価イソシアネート化合物と、1級又は2級のアミノ基を1個有し、更に1個以上のヒドロキシ基を有する化合物(アミノ基ヒドロキシ基含有化合物)とを反応させて、ポリマーを得る場合、多価イソシアネート化合物とアミノ基ヒドロキシ基含有化合物を化学量論量で、溶剤中で適当な触媒とともに反応させる。反応条件は、使用する原料に応じて適宜設定する。溶剤としてはトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶剤、あるいはこれらの溶剤の混合物を用いることができる。触媒としては、ウレタン樹脂の硬化剤として使用される有機金属化合物等を使用することができる。
【0040】
本発明において、式(I)で表される構造を含むポリマーの分子量は特に制限は無い。分子量が大きすぎると溶媒中での分散性が低下する場合があるため、ポリマーの数平均分子量は、100〜50000が好ましい。なお、数平均分子量は、テトラヒドロフランを溶剤として、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によりポリスチレン換算値として測定した値とする。
【0041】
本発明の透明導電膜用組成物において、式(I)で表される構造を含むポリマーの含有量は、特に制限は無いが、前記導電性高分子の、前記ポリマーに対する質量比(固形分)(導電性高分子/ポリマー)として、0.05〜20が好ましい。この範囲でポリマーが存在していれば、得られる透明導電膜の導電性を確保し、密着性を向上することができる。また、前記導電性高分子の、前記ポリマーに対する質量比(固形分)(導電性高分子/ポリマー)は、0.1〜10が更に好ましい。これにより、後述する実施例で示すように、得られる透明導電膜の密着性を十分に向上するとともに、導電性を向上することができる。これは、導電膜中にポリマーが適度に存在することで、透明導電膜における導電性高分子同士の密着性がより向上するものと考えられる。
【0042】
本発明の透明導電膜組成物において、導電性高分子の種類は、特に制限は無い。導電性高分子は、一般に共役型の二重結合を基本骨格に有する有機高分子で、具体的にはポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフラン、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、これらの誘導体、及びこれらを構成する単量体の共重合物から選ばれた導電性高分子のいずれか1種又は2種以上の混合物が好ましく挙げられる。中でも、水又はその他の溶媒に対して可溶性、又は分散性を有し、高い導電性及び透明性を示す、ポリチオフェン誘導体が好ましい。特に、下記式(II):
【0043】
【化7】

【0044】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子若しくは任意に置換されていても良い炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、又はR1及びR2が相互に結合して任意に置換されていても良い炭素原子数1〜4のアルキレン基を形成し、nは50〜1000の整数を表す)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体が好ましい。
【0045】
式(I)において、R1及びR2が相互に結合して形成される、置換されていても良い炭素原子数1〜4のアルキレン基としては、具体的にはアルキル基で置換されたメチレン基、任意に炭素原子数1〜12のアルキル基又はフェニル基で置換されたエチレン−1,2基、プロピレン−1,3基、ブテン−1,4基を形成する基等が挙げられる。
【0046】
式(II)におけるR1及びR2として、好ましくはメチル基又はエチル基であるか、R1及びR2が相互に結合して形成するメチレン基、エチレン−1,2基又はプロピレン−1,3基である。特に好ましいポリチオフェン誘導体としては、下記式(VI):
【0047】
【化8】

【0048】
(式中、pは50〜1000の整数を表す)で示される繰り返し単位、即ち、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)単位を有するポリチオフェン誘導体である。
【0049】
導電性高分子は、更にドーパント(電子供与剤)を含むことが好ましい。ドーパントとしては、例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリビニルスルホン酸が好ましく挙げられる。特に、ポリスチレンスルホン酸が好ましい。これらにより導電性高分子の導電性を向上することができ、熱線反射層14の近赤外線遮蔽効果を高めることができる。ドーパントの数平均分子量Mnは、好ましくは1,000〜2,000,000であり、特に好ましくは2,000〜500,000である。
【0050】
ドーパントの含有量は導電性高分子100質量部に対して、通常20〜2000質量部であり、好ましくは、40〜200質量部である。例えば、式(VI)のポリチオフェン誘導体を導電性高分子とし、ポリスチレンスルホン酸をドーパントとして使用する場合はポリチオフェン100質量部に対して、ポリスチレンスルホン酸100〜200質量部が好ましく、特に120〜180質量部が好ましい。
【0051】
本発明の透明導電膜組成物において、溶媒は、導電性高分子及びポリマーの種類によって適宜好適なものを選択することができる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;アセトフェノン、メチルエチルケトン等のケトン類;四塩化炭素及びフッ化炭化水素等のハロゲン化炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素等が挙げられる。特に、導電性高分子をより分散しやすい点で、水を含む水含有溶媒が好ましい。水含有溶媒としては、水が好ましく、水と水溶性の有機溶媒の混和溶媒でも良い。水溶性の有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類等が挙げられる。
【0052】
図2は、本発明の透明導電体の一例を示す概略断面図である。図示の通り、本発明の透明導電体20は、透明基板12と、本発明の透明導電膜用組成物を、透明基板12の表面に塗工後、乾燥及び/又は硬化させて形成した透明導電膜11を含んでいる。透明導電膜11は、本発明の透明導電膜用組成物により形成されているので、上述の通り、透明基板12との密着性に優れている。従って、本発明の透明導電体20は、透明導電膜11が損傷し難く耐久性に優れる透明導電体である。なお、上述の通り、透明導電膜用組成物のポリマーの含有量によって、更に透明導電膜の導電性が向上された透明導電体とすることができる。透明導電膜の膜厚には特に制限はなく、導電性高分子の種類、必要な表面抵抗率等に応じて自由に設定できる。一般に、透明導電性と表面抵抗とのバランスが良いことから、10〜3000nmが好ましい。
【0053】
本発明の透明導電体における透明基板12は、透明(「可視光に対して透明」を意味する。)な基板であれば特に制限は無く、透明プラスチックフィルム等の透明プラスチック基板、ガラス板等が挙げられる。透明プラスチック基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンブチレート、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)等からなる透明基板が挙げられる。ガラス板としては、グリーンガラス、珪酸塩ガラス、無機ガラス板、無着色透明ガラス板等が挙げられる。本発明の効果が得易い点で、透明プラスチック基板であることが好ましい。特に、加工時の熱、溶剤、折り曲げ等の負荷に対する耐性が高く、透明性が高い点で、PET製の透明プラスチック基板が好ましい。
【0054】
なお、透明プラスチック基板表面には、透明導電膜を形成し易くするために、予めコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、プライマー層コート処理などの接着処理を施してもよく、共重合ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂等の易接着層を設けてもよい。特に易接着層を設けることは、本発明の透明導電膜用組成物中のポリマーとの相互作用が生じ易い点で好ましい。
【0055】
本発明の透明導電体の製造方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、まず、本発明の透明導電膜用組成物を塗工液として、透明基板11の表面にバーコーター法、ロールコーター法、カーテンフロー法、スプレー法など適当な方法を用いて塗工し塗工液層を形成する。透明導電膜を透明電極とする場合(図示していない)は、印刷法を用いてパターニングすることもできる。この場合は、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、インクジェット印刷等を用いることができる。その後、塗工液層を乾燥及び/又は硬化処理し、透明導電膜12を形成する。乾燥及び/又は硬化処理は40〜150℃、好ましくは60〜130℃で加熱することで行うことができる。加熱時間は、一概には決められないが、数分〜数時間程度である。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例を示し、本発明についてさらに詳述する。
【0057】
[実施例1〜5、比較例1]
1.透明導電体サンプルの作製
(1)ポリマーの調製
ガラスフラスコにトルエン;30g、シクロヘキサノン;30g、ジメチルホルムアミド;30gを投入し、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、N−メチルモノエタノールアミン;7gとコロネートHX(ヘキサメチレンジイソシアヌレートの三量体(日本ポリウレタン社製));53.4gを共に0.01mol/minの速度で滴下して反応させた。滴下終了後、10分後に反応触媒としてジブチルチンラウレート;0.02gを加え、80℃、4時間反応させた。その後、ろ過することで式(1)の構造を含むポリマー(ポリウレタンウレア樹脂)を得た。ポリマーの数平均分子量は2000であった。
(2)透明導電膜用組成物の調製
導電性高分子分散液(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)及びポリスチレンスルホン酸の混合物の水分散液(固形分1.3質量%)(FE PH−750(ヘレウス社製))と、(1)で調製したポリマーとを表1に示した固形分質量部になるようにガラスビーカーに投入し、マグネチックスターラーを用いて、6時間撹拌することで実施例1〜5及び比較例1の透明導電膜用組成物を調製した。
(3)透明導電膜の形成
PETフィルム(三菱樹脂社製:T680−U76)(厚さ;100μm)表面に、ワイヤーバーコーターを用いて、各透明導電膜用組成物を塗工し、オーブン中で120℃、30分間乾燥させて透明導電膜(厚さ300nm)を形成した。
【0058】
2.評価方法
(1)表面抵抗率
各透明導電膜用組成物を用い作製した透明導電体サンプル(6×4cm)の表面抵抗率を、抵抗率計ロレスタMCP−T610(三菱化学アナリテック社製)用いて測定した。
(2)密着性
碁盤目試験法(JIS K5400に準拠)により、100マス中の残存したマスの数を比較することで評価した。
(3)全光線透過率
ヘーズメーターNDH2000(日本電色工業社製)を用いて測定した。
【0059】
3.評価結果
各透明導電体の評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示す通り、導電性高分子、及び式(1)の構造を含むポリマーを配合した実施例1〜5の透明導電体は、ポリマーを配合していない比較例1の透明導電体に比べて、透明導電膜の密着性が向上したことが認められた。更に、導電性高分子の、前記ポリマーに対する質量比(導電性高分子/ポリマー)が、0.1〜10である実施例2〜4の透明導電体は、透明導電膜の密着性がより向上し、且つ表面低効率が低下しており、導電性が向上されたことが認められた。
【0062】
なお、本発明は上記の実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
液晶表示素子、有機発光素子、無機電界発光素子、タッチパネル、電子ペーパー等の電子デバイスに用いることができる耐久性に優れた透明導電膜を有する透明導電体を低コストで提供することができる。
【符号の説明】
【0064】
11:透明基板
12:透明導電膜
20:透明導電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子及び溶媒を含む透明導電膜用組成物であって、
当該組成物が、更に下記式(I):
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、又は置換基を有していても良い炭化水素基を表し、分子中のR1又はR2の少なくとも1個は水素原子である)
で表される構造を含むポリマーを含むことを特徴とする透明導電膜用組成物。
【請求項2】
前記ポリマーが、更に、ヒドロキシ基を含む請求項1に記載の透明導電膜用組成物。
【請求項3】
前記ポリマーの少なくとも一部が、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物と、1分子中に1級又は2級のアミノ基を1個以上有する化合物との重合物からなる請求項1又は2に記載の透明導電膜用組成物。
【請求項4】
前記1分子中に1級又は2級のアミノ基を1個以上有する化合物が、更にヒドロキシ基を1個以上有する化合物である請求項3に記載の透明導電膜用組成物。
【請求項5】
前記ポリマーの数平均分子量が、100〜50000の範囲である請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明導電膜組成物。
【請求項6】
前記導電性高分子の、前記ポリマーに対する質量比(導電性高分子/ポリマー)が、0.1〜10の範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明導電膜用組成物。
【請求項7】
前記導電性高分子が、下記式(II):
【化2】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子若しくは任意に置換されていても良い炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、又はR1及びR2が相互に結合して任意に置換されていても良い炭素原子数1〜4のアルキレン基を形成し、nは50〜1000の整数を表す)で表される繰り返し単位を含むポリチオフェン誘導体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の透明導電膜用組成物。
【請求項8】
前記溶媒が水含有溶媒である請求項1〜7のいずれか1項に記載の透明導電膜用組成物。
【請求項9】
透明基板と、請求項1〜8のいずれか1項に記載の透明導電膜用組成物を、前記透明基板表面に塗工後、乾燥及び/又は硬化させて形成した透明導電膜とを有することを特徴とする透明導電体。
【請求項10】
前記透明基板が、透明プラスチック基板である請求項9に記載の透明導電体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87202(P2013−87202A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229379(P2011−229379)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】