説明

透明樹脂板の連続製造方法

【課題】活性エネルギー線透過性フィルムを用いた透明樹脂板を連続的に製造する方法において、うねりが小さく、熱収縮に異方性がない光学材料への適応も可能な透明樹脂板を製造する。
【解決手段】可撓性を有する活性エネルギー線透過性フィルム1の上に、粘度が100〜1,000,000mPa・sである重合性モノマー組成物5を供給し、供給された重合性モノマー組成物上に別の活性エネルギー線透過性フィルム1’を被せ、前記フィルムの少なくとも一方のフィルムを介して前記重合性モノマー組成物に照射装置2により活性エネルギー線を照射し、前記重合性モノマーを重合してモノマー含有率が1〜50重量%である板状組成物5’とする工程と、前記板状組成物から前記活性エネルギー線透過性フィルムを剥離し、前記板状組成物を熱風炉10にて加熱して重合を完結させ、板状組成物に対して移送方向に2〜30N/cmの張力を印加する工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明樹脂板を連続的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、携帯型ゲーム機、カーナビゲーションシステム、ポータブルAV機器等に代表される小型ディスプレイにおいて、画像の精細度が近年、劇的な進歩を見せており、これらディスプレイの表面を保護する透明樹脂シートも、これまで以上に高い透明性と光学歪の少なさが求められるようになってきている。
【0003】
特に、携帯電話に関しては、世界的な筐体薄型化の流れを背景とし、今や筐体パーツの精度はμmオーダーで問われる時代になってきており、ディスプレイ部分の保護板も例外ではない。すなわち、光学特性が良好であり、かつ高精度な板厚寸法である透明樹脂シートが近年の小型ディスプレイの保護板として最適となっている。
【0004】
上記の特性を有する樹脂シートの製造方法として例えば、水平方向に走る上下に位置した2個のエンドレスベルトコンベアーの間の一端に、重合性モノマー組成物を注入してベルトの移動と共に、低温の前段重合工程と高温の後段重合工程により重合し、他端より板状の重合物を得る、連続セルキャスト法が知られている(特許文献1)。この連続セルキャスト方式では、他に知られている溶融押出方式と比較して、光学歪の少ない良好な板を製造する方法として利用されている。
【0005】
一方でエンドレスベルトコンベアーの代替として、PETフィルムに代表される活性エネルギー線透過性フィルムを用いる方法がある。しかしながら、後段重合工程において、該フィルムは熱影響を受け、高ヘーズ感など透明樹脂板としての製品に著しい欠陥を生じる。
【0006】
この解決方法として、特許文献2では後段重合工程において、該フィルムを剥離し、高強度の活性エネルギー線を照射する方法を開示している。
【0007】
しかしながら、この方法では板にうねりが生じ、十分な平滑性が得られず、光学材料向け透明樹脂板としては、不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−179867号公報
【特許文献2】特開2002−11741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、活性エネルギー線透過性フィルムを用いた透明樹脂板を連続的に製造する方法において、うねりが小さく、熱収縮に異方性がない光学材料への適応も可能な透明樹脂板の製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、移送される可撓性を有する活性エネルギー線透過性フィルムの上に、粘度が100〜1,000,000mPa・sである重合性モノマー組成物を供給し、供給された重合性モノマー組成物上に別の活性エネルギー線透過性フィルムを被せ、前記活性エネルギー線透過性フィルムの少なくとも一方のフィルムを介して前記重合性モノマー組成物に活性エネルギー線を照射し、前記重合性モノマーを重合してモノマー含有率が1〜50重量%である板状組成物とする前段重合工程と、前記板状組成物から前記活性エネルギー線透過性フィルムを剥離し、前記板状組成物を加熱し、重合を完結させて透明樹脂板とする後段重合工程からなる、透明樹脂板の連続製造方法であって、後段重合工程での板状組成物に対して移送方向に2〜30N/cmの張力を印加する透明樹脂板の連続製造法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって得られる透明樹脂板は、うねりが小さく、熱収縮に異方性がなく、携帯電話、液晶ディスプレイの表示装置の面板などの光学用シートとして、透明性、平滑性、耐熱性が要求される用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の透明樹脂板を連続製造するための装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に使用される重合性モノマー組成物は、とくに限定されないが、重合性モノマー、ポリマー、重合開始剤および任意の成分とから構成される。
【0014】
本発明において使用される重合性モノマーとしては、活性エネルギー線の照射によって硬化することにより樹脂を形成するモノマーである。前記モノマーとしては透明性の観点からメチルメタクリレートを使用することが好ましい。重合性モノマー組成物中、メチルメタクリレートが10質量%以上含有することが好ましく、50質量%以上含有することがより好ましい。その他のモノマーとしては各種モノマーを使用することができる。例えば、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物、N−フェニルマレイミド,N−シクロヘキシルマレイミド、N−t-ブチルマレイミド等のマレイミド誘導体、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ基含有単量体、メタクリルアミド、アクリルアミド、メタクリロニトリル、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート等の窒素含有単量体、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有単量体、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体、エチレングリコールジアクリレート、アリルアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート等の架橋剤などが挙げられ、これらの中から1種または複数種選定し使用される。
【0015】
本発明で得られる透明樹脂板(以下、「樹脂シート」という。)の種類としては特に限定されないが、以下にアクリル系樹脂シートを製造する場合について説明する。
【0016】
本発明において使用される前記ポリマーとしては、先に挙げた重合性モノマーの単独重合物または共重合物を使用することができ、アクリル系樹脂シートを製造する場合、光学性能の観点から、前記ポリマーの組成としてメチルメタクリレート単位が10質量%以上含有することが好ましい。
【0017】
重合開始剤としては、活性エネルギー線の照射によってラジカルを発生するものであれば、得られる樹脂シートの透明性を阻害しない限り、特に制限されず、各種の活性エネルギー線分解重合開始剤を使用することができる。代表的には、アセトフェノン系またはベンゾフェノン系の活性エネルギー線分解重合開始剤が挙げられ、特に1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名イルガキュア184)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名ダロキュア1173)、ベンゾインエチルエーテル(例えば精工化学社製、商品名セイクオールBEE)等を用いることが好ましい。
【0018】
前記重合開始剤の使用量は重合性モノマー組成物100質量部に対し、0.01質量部以上とすることが好ましく、0.05質量部以上とすることがより好ましい。また2質量部以下とすることが好ましく、0.5質量部以下とすることがより好ましい。前記重合開始剤が少なすぎると重合速度が上がらず、重合時間を多く要する傾向があり、多すぎると樹脂シートの光学性能、耐候性が低下する傾向がある。
【0019】
本発明において使用される重合性モノマー組成物に含有する任意の他の成分として、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、離型剤、重合禁止剤などを使用することができる。
【0020】
本発明において使用される重合性モノマー組成物の粘度に関しては、活性エネルギー線透過性フィルムの上に供給した重合性モノマー組成物を所望の厚みとして、保持すればよく、重合性モノマー組成物を供給する際の温度における粘度が100〜1,000,000mPa・sである。
【0021】
重合性モノマー組成物を供給する温度は、重合を速やかに進行させ、生産性を高く維持する点では、高温が好ましく、またモノマーの揮発による外観不良を防止するためには低温で供給することが好ましい。具体的には、10〜30℃の範囲が好ましい。
【0022】
本発明において重合性モノマー組成物を活性エネルギー線透過性フィルムの上に供給する方法は、特に制限されるものではなく、通常の配管、ホースからの供給や、スロットダイ、カーテンダイ、スライドコーター、グラビアコーター、バーコーターなどの各種コーティング方法が使用できる。重合性モノマー組成物を供給し、連続的にシート形状とするため、前記液体をシート形状に供給する方法が好ましい。前記液体をシート形状にする方法としては、前記スロットダイからの供給や、前記フィルム上に供給した前記液体に前記フィルムを上部から被せた後に、一対のロールによって押し拡げる方法などもあり、これらを組み合わせた方法でも良い。
【0023】
本発明において使用される活性エネルギー線透過性フィルムは、特に規定されるものではなく、重合性モノマー組成物をシート状に保持および重合性モノマー組成物に被せられるものであり、活性エネルギー線を透過する可撓性を有する合成樹脂フィルムであればよい。可撓性の合成樹脂フィルムとは、ロール状に巻くことができる柔軟性を持つフィルムであり、重合性モノマー組成物の重合時の収縮に対して、変形しないことを意味し、具体的には、破断伸度が50%以上、ヤング率が1000MPa以上かつ厚みが10〜250μmのフィルムを意味する。前記フィルムは重合時に生じる重合性モノマー組成物の発熱によって軟化しないよう100℃以上の軟化点を有するフィルムであることが好ましい。前記フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネートなどの合成樹脂フィルムが挙げられ、活性エネルギー線透過性、表面粗さの低さから、ポリエチレンテレフタレートが好ましく、その厚みは剛性の観点から10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。活性エネルギー線透過性の点からその厚みは300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
【0024】
また、活性エネルギー線透過性フィルムと重合性モノマー組成物とが接する側の表面は、製品として得られる樹脂シートの表面に転写されるため、JIS B0601で規定する表面粗さ(Ra)としては100nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。
【0025】
また、前記フィルムの重合性モノマー組成物と接する面には、各機能層が存在してもよく、たとえば、剥離層、転写型剥離層、転写型反射防止層、転写型防傷層、転写型防眩層などが挙げられ、これらを単独あるいは、複数使用しても良い。
【0026】
本発明において照射する活性エネルギー線としては、X線、紫外線、電子線等が挙げられる。中でも、紫外線が好ましい。
【0027】
紫外線は、各種紫外線照射装置により照射され、例えば高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、殺菌灯、ブラックライト、紫外LEDなどが使用できる。
【0028】
活性エネルギー線の照射強度としては、重合性モノマー組成物中の重合開始剤が活性エネルギー線分解重合開始剤の場合、該重合性モノマー組成物に含有する活性エネルギー線分解重合開始剤濃度と照射時間との関係により決定されるが、前記重合性モノマー組成物においては、モノマーの成長速度の観点から1mW/cm〜100mW/cmの範囲が好ましい。照射強度が弱すぎると重合開始剤の分解量が少ないことにより重合速度が遅くなり、逆に強すぎると、開始剤分解量を増やしても、本法での重合性モノマー組成物ではモノマーの成長速度が追いつかず、停止反応に多くが消費されてしまうことで、製品として得られる樹脂シートの分子量低下と、活性エネルギー線が過剰に照射されることにより製品が黄変することがある。
【0029】
本発明において活性エネルギー線透過性フィルムの移送速度としては、0.1〜20m/minであることが好ましく、0.15〜10m/minであることがより好ましい。速度が遅すぎると、製品として得られる樹脂シートの生産量が少なくなり、速度が速すぎると必要重合時間を得るための活性エネルギー線照射区間を長くする必要があり、製造設備が長大となる。
【0030】
本発明において活性エネルギー線を照射して硬化させる際の温度条件としては、重合速度や粘性条件などにより選定できるが、重合性モノマー組成物に活性エネルギー線を照射する際には、モノマーの沸点以下であることが好ましく、メチルメタクリレートモノマーでは100℃以下となる。また、メチルメタクリレートモノマーの重合においては、重合時の温度が低いほど重合体中のモノマー単位の結合の配置においてシンジオタクチック成分が増加することが知られている。このシンジオタクチック成分が多いほど重合体のガラス転移温度Tgなどが高くなり、耐熱性が高くなる。耐熱性向上の観点より、活性エネルギー線を照射するときの重合温度は50℃以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明では、活性エネルギー線を照射し、前段重合工程を経て、後段重合工程を経ていない重合性モノマー組成物を板状組成物という。
【0032】
前記板状組成物中のモノマーは、1〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは2〜15重量%である。これは、モノマー分が十分に低い場合には、後段重合の必要がなく、またモノマー分が過大の場合には、後段重合工程の加熱により、モノマーの揮発に伴い、気泡が発生し、顕著な外観欠陥が生じるためである。
【0033】
前段重合工程で活性エネルギー線を照射した板状組成物は、残存モノマーを減少させる観点から、後段重合工程として、使用するモノマーとポリマーの組み合わせから得られるガラス転移温度Tg以上の温度での熱処理が必須であり、例えばポリメチルメタクリレートの場合には100℃以上に熱処理することが好ましい。
【0034】
活性エネルギー線透過性フィルムを板状組成物から剥離するには、高温の熱履歴を受ける前の後段重合工程の初期が好ましい。活性エネルギー線透過性フィルムの耐熱性によっては、後段重合工程後に剥離した場合、ブリードアウトが生じ、透明樹脂板の外観に欠陥が生じるからである。
【0035】
後段重合工程で板状組成物を加熱する時の加熱源としては、蒸気、熱風、電気ヒーター、赤外線などが挙げられるが、安全面から、蒸気、熱風熱源が好ましく、温度制御の面から熱風熱源がより好ましい。
【0036】
後段重合工程では、板状組成物に対して移送方向(MD)へ2〜30N/cmの張力を印加する。この張力は2.5N/cm以上が好ましく、また26N/cm以下が好ましい。張力が弱すぎると、樹脂シートに弛み、加熱の斑が生じ、結果樹脂シートにうねりが生じる。一方、張力が強すぎると、熱収縮の程度に異方性が生じ、またMD方向に平行なうねりが生じやすく、これにより、後段重合工程後も大きなうねりを保持してしまう。
【0037】
本発明における樹脂シートの厚みは、特に規定されるものではないが0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、0.1mm以上3mm以下であることがより好ましい。樹脂シートの厚みが厚すぎると重合発熱の除去が間に合わなくなり、未重合モノマーや重合性モノマー組成物中の溶存ガスが沸騰し、樹脂シート内に気泡が発生しやすくなる。一方、樹脂シートの厚みが薄い場合、活性エネルギー線透過性フィルムから樹脂シートの剥離が困難となり、樹脂シートが破損することがある。
【0038】
本発明を実施する装置の一例を図1に示し、これをもとに本発明を説明する。この図により本発明が限定されるものではない。
(前段重合工程)
可撓性を有する活性エネルギー線透過性フィルム1、1’は、トルクモーター6、6’と調速ニップローラー8により張力がかけられた状態で、調速ニップローラー8の回転により、搬送される。下側の活性エネルギー線透過性フィルム1’の上に、供給ダイ3より重合性モノマー組成物5が供給される。ロール4により、上側の活性エネルギー線透過フィルム1が重合性モノマー組成物5に被さる。その後、紫外線照射装置2から前記フィルム6、6’を介して、重合性モノマー組成物5に紫外線を照射し、重合固化させ板状組成物5’とする。
(後段重合工程)
トルクモーター7、7’とローラー9により、組成物5’から上下の前記フィルム6、6’を剥がす。剥がされた前記フィルム6、6’はトルクモーター7、7’により巻き取られる。前記フィルム1、1’を剥がされた組成物5’は、ニップローラー12により搬送され、熱風炉10により組成物5’から得られる樹脂シートのガラス転移温度付近まで加熱され重合が完結され樹脂シート14が得られる。その後樹脂シート14は、冷却炉11により室温付近まで冷却される。冷却炉11を通過した樹脂シート14は、切断機13により切断される。
【0039】
張力の制御は、前記の調速ニップローラー8とニップローラー12の速度差により、可能となる。すなわち、調速ニップローラー8と比較して、ニップローラー12の速度が速い場合、張力は強まり、遅い場合、張力は弱まる。
【0040】
上側の活性エネルギー線透過フィルム1と樹脂シート14と下側の活性エネルギー線透過性フィルム1’が積層されていればよく、重合性モノマー組成物5を上側の前記フィルム1に供給した後に、下側前記フィルム1’を積層してもよいし、同時に積層してもよい。
【0041】
本発明において、紫外線照射は上面のみあるいは、下面のみから行ってもよく、また紫外線照射前あるいは照射中に重合性モノマー組成物を加熱・冷却してもよい。
【0042】
本発明において、後段加熱工程である熱風炉10での張力は、支持体の両側に歪ゲージを設置したロールにフィルムを通し、その際にロールに掛かる荷重より求めるなどの各種張力検知方法を用いることができる。シート形状物に掛かる張力と弛みの関係式である下記の数式(1)を用いて、熱風炉10内部での樹脂シートの最大弛み量ymax[mm]から、張力を定量化することが簡便である。
【数1】

・・・(1)
本発明において、冷却された樹脂シートは、切断せずにロール形状に巻いてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、アクリル系樹脂シートの製造に関する実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
(重合性モノマー組成物)
冷却管、温度計及び攪拌機を備えた反応器に、アクリエステルPBOM(三菱レイヨン(株)製ポリブチレングリコールジメタクリレート、商品名)10部、メチルメタクリレート(三菱レイヨン(株)アクリエステルM、商品名)90部及び連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン(関東化学(株)製、n−OM)1.5部を仕込み、撹拌しながら加熱を開始した。
【0044】
反応器内の温度が80℃になった時点で重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製V−65、商品名)0.2部を添加した。
【0045】
次いで、反応器内の温度を100℃に昇温して90分間保持した後、多量の氷水によって室温まで急冷して、部分重合体組成物を得た。
【0046】
得られた部分重合体組成物78部とアクリエステルPBOM22部とからシラップ組成物を調整した。シラップ組成物100部に対して剥離剤としてスルホ琥珀酸ジ(2−エチルヘキシル)ナトリウム0.05部を添加し重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン0.3部を添加し、重合性モノマー組成物を得た。
(粘度)
粘度に関しては、各重合性モノマー組成物の20℃における粘度をB型粘度計にて測定した結果を示した。測定方法は、ブルックフィールド社製デジタル粘度計、LVDV−II+ProのスピンドルLV4を使用し、回転速度60rpmにて行った。
(活性エネルギー線照度)
活性エネルギー線照度は、UV照度計(アイグラフィック社製、UVPF−A1)を用い、重合性モノマー組成物と同じ位置にて測定を実施し、測定されたピーク照度を活性エネルギー線照度とした。
(前段重合工程条件)
前段重合工程では、活性エネルギー線照射装置として、ケミカルランプ(東芝ライテック社製、FL−20SBL)を用い、重合性モノマー組成物の位置における片面からの活性エネルギー線の照射強度が2mW/cm程度となるよう重合性モノマー組成物とランプの距離を調整した。また、前段重合時には、加熱・冷却は実施していないが、ランプの輻射熱、重合発熱により、最高温度は約60℃であった。
【0047】
また、後段重合工程を実施せずに、取得した前段重合工程後のモノマー組成物中のモノマー成分は、ガスクロマトグラフを用いて測定し、1.8質量%であった。なお、測定は、前記モノマー組成物0.5gをアセトン20mlに入れ、さらに内部標準物質としてサリチル酸メチルを0.5ml添加したものをガスクロマトグラフ(アジレント・テクノロジー社製、Agilent6890、カラム 同社製 DB−5)を用いて、定量したものである。
(後段重合工程条件)
移送方向への印加張力は、ロール間距離l:600mm、樹脂シート厚みt:0.4mmあるいは0.33mm、自重w:4.76×10−7kg/mm、あるいは3.93×10−7kg/mm、ヤング率×断面二次モーメントD:0.928mmあるいは0.521mmを式に代入し算出した。なお、自重、ヤング率はそれぞれ前記板状組成物からなる厚み0.4mmのシートの値である密度1190kg/m、ヤング率174.1kg/mmを用いた。密度およびヤング率の測定は、それぞれJIS K7122、JIS K6251−1に基づき測定を実施した。ここでヤング率の測定には、引張速度を500mm/分とした。この際、前記の数式(1)は、張力が十分大きい場合、下記の数式(2)のように簡略化でき、この式に数値を代入し算出した。
【数2】

・・・(2)
後段重合工程内における透明樹脂板の最大弛みを実測し、上記式が成り立つよう張力S[kg/mm]を求め、単位[N/cm]に換算した。また、温度は、熱風炉内への導入される熱風の温度を熱電対にて、測定した。
(熱収縮評価)
熱収縮は、評価温度を100℃、評価時間を10分としたこと以外は、JIS K 7133 加熱寸法変化測定方法に準拠した。移送方向(MD)%、MDと直交する幅方向(TD)%のそれぞれの寸法変化を測定し、MDとTDの差が小さいと、すなわち異方性が小さいものほど良好である。ここでは、寸法変化MDとTDの差が1%以下であるものを○、1%を超えるものを×とした。なお、数値が負では収縮を、正では膨張を示すこととする。
(活性エネルギー線透過性フィルム)
活性エネルギー線透過性フィルムとして、コスモシャインA4100(東洋紡社製、厚み188μm)を用いた。
(うねり)
うねりの測定は、透明樹脂板を一辺10cmの正方形に切り出し、端部の高さの変動を測定し、最大値をうねりとした。ここでは、うねりが1mm以下のものを○、1mmを超えるものを×とした。
(実施例1)
粘度200mPa・sの重合性モノマー組成物を移送速度0.2m/分で搬送されるPETフィルムの上へ、ダイを用いて、幅400mmのフィルム上に塗工を行い、重合後厚み0.4mmとなるように吐出量を調整した。これを前記の前段重合条件で前段重合を実施し、さらに熱風温度65℃、樹脂シート表面での熱風風速5m/秒、樹脂シートへの張力4.4N/cmにて後段重合を実施した。
【0048】
この際得られた樹脂シートの熱収縮は、移送方向(MD)−2.1%、幅方向(TD)−1.9%であった。また、うねりは、0.5mmであった。
(実施例2)
後段重合における樹脂シートへの張力11.8N/cmに変更した以外は、実施例1と同じ製法で樹脂シートを作製した。
【0049】
この際得られた樹脂シートの熱収縮は、移送方向(MD)−2.1%、幅方向(TD)−1.9%であった。また、うねりは、0.5mmであった。
(実施例3)
重合後の厚みが0.33mmとなるように吐出量を調整し、樹脂シートへの張力を2.6N/cm(最大弛み20mm)となるように変更したこと以外は実施例1と同じ製法で樹脂シートを作製した。
【0050】
得られた樹脂シートの熱収縮は、移送方向(MD)−1.5%、幅方向(TD)−1.5%であった。また、うねりは、0.3mmであった。
(実施例4)
樹脂シートへの張力を25.5N/cm(最大弛み2mm)となるように変更したこと以外は実施例3と同じ製法で樹脂シートを作製した。
【0051】
得られた樹脂シートの熱収縮は、移送方向(MD)−1.7%、幅方向(TD)−1.5%であった。また、うねりは、0.4mmであった。
(比較例1)
後段重合における樹脂シートへの張力49.0N/cmに変更したこと以外は、実施例1と同じ製法で樹脂シートを作製した。
【0052】
張力が強すぎたため、得られた樹脂シートの熱収縮は、移送方向(MD)−2.14%、幅方向(TD)1.0%であり、異方性が生じた。また、うねりは、3.0mmであった。
(比較例2)
樹脂シートへの張力を0.5N/cm(最大弛み100mm)となるように変更したこと以外は実施例3と同じ製法で樹脂シートを作製した。
【0053】
この際得られた樹脂シートの熱収縮は、移送方向(MD)−1.7%、幅方向(TD)−1.5%であった。また、張力が弱すぎたため、うねりは、2.3mmであった。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によって、得られる透明樹脂板は、各種用途に好適である。
【符号の説明】
【0056】
1、1’:可撓性を有する活性エネルギー線透過性フィルム
2:紫外線照射装置
3:供給ダイ
4:ロール
5:重合性モノマー組成物
5’:板状組成物
6、6’:トルクモーター(ブレーキ)
7、7’‘:トルクモーター(巻取)
8:調速ニップローラー
9:ロール
10:熱風炉
11:冷却炉
12:ニップローラー
13:切断機
14:透明樹脂板(樹脂シート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移送される可撓性を有する活性エネルギー線透過性フィルムの上に、粘度が100〜1,000,000mPa・sである重合性モノマー組成物を供給し、供給された重合性モノマー組成物上に別の活性エネルギー線透過性フィルムを被せ、前記活性エネルギー線透過性フィルムの少なくとも一方のフィルムを介して前記重合性モノマー組成物に活性エネルギー線を照射し、前記重合性モノマーを重合してモノマー含有率が1〜50重量%である板状組成物とする前段重合工程と、前記板状組成物から前記活性エネルギー線透過性フィルムを剥離し、前記板状組成物を加熱し、重合を完結させて透明樹脂板とする後段重合工程からなる、透明樹脂板の連続製造方法であって、後段重合工程での板状組成物に対して移送方向に2〜30N/cmの張力を印加する透明樹脂板の連続製造法。
【請求項2】
供給する重合性モノマー組成物中にメチルメタクリレートが含有する透明樹脂板の連続製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−250516(P2012−250516A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126889(P2011−126889)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】