説明

通信システムの断線検出装置及び通信システム

【課題】2本の伝送路からなる通信バスに通信線を介して接続される複数の通信ノードを備えた通信システムにおいて、各通信ノードの動作を制御することなく、通信線で生じた片側断線を検出できる断線検出装置を提供する。
【解決手段】通信バスを構成するHUB9には、断線検出装置10が接続されており、この装置10内では、通信異常の発生時に、制御部32が出力SW14をオンして、当該装置10からHUB9内の2本の伝送路へと高周波信号が同相で出力させる。すると、特徴情報生成部20が、その出力電圧の差Voをベクトル化することにより特徴情報を生成し、適合度算出部24が、その生成した特徴情報と、記憶部22にノード1〜6毎に記憶された基準特徴情報との適合度を算出し、故障判定部26が、その算出された適合度から、通信線8に片側断線が生じたノードがあるか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2本の伝送路からなる通信バスと複数の通信ノードとからなる通信システムにおいて、各通信ノードを通信バスに接続するのに用いられる2本の通信線の一方の断線(片側断線)を検出する断線検出装置、及び、その断線検出装置を備えた通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車において、2本の伝送路からなる通信バスに、通信ノードとして、車両制御用の複数の電子制御装置(ECU)を接続し、各ECU間で車両制御に要するデータを送受信するように構成された車両用通信システム(所謂車載LAN)が知られている。
【0003】
また、この種の通信システムにおいては、通信バスや、各ECU(通信ノード)を通信バスに接続する通信線の一方に断線が生じると、各ECU(通信ノード)間で正常なデータ通信を行うことができないことから、通信バスや通信線の片側断線を検出する断線検出装置が提案されている。
【0004】
具体的には、各ECU(通信ノード)が通常の通信モードから省電力モードに入り、通信バスの各伝送路が対地電圧0V(つまりグランド電位)となっているときに、任意のECUを一旦通常の通信モードに移行させてから再度省電力モードに戻すことによって、通信バスの2本の伝送路に過渡的な差動電圧が発生したか否かを判定し、2本の伝送路に過渡的な差動電圧が発生した場合に、その任意のECUを通信バスに接続する2本の通信線の一方が断線(片側断線)していることを検出する断線検出装置が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0005】
また、各通信ノードに、通信バスの各伝送路に接続される2本の通信線間の平均電圧を求める平均電圧検出回路を設け、この平均電圧が所定の値以上変動した場合に、通信バスの断線を検出するように構成された断線検出装置も知られている(例えば、特許文献2等参照)。
【特許文献1】特開2007−329671号公報
【特許文献2】特開2007−306289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記前者の断線検出装置は、通信バスに接続される全ての通信ノードが省電力モードとなって、通信バスの各伝送路が対地電圧0V(つまりグランド電位)となる通信システムには適用できるものの、通信ノードの動作モードとして省電力モードが設定されていない通信システムや、省電力モードが設定されていても、全ての通信ノードが同時に省電力モードにならない通信システムには適用することができないという問題がある。
【0007】
また、各通信ノードを通信バスに接続する全ての通信線に対して断線判定を行うには、全ての通信ノードの動作モードを各々切り替える必要があるため、断線判定に時間がかかるという問題もある。
【0008】
一方、上記後者の断線検出装置は、通信ノード毎に断線判定を行うことから、通信異常発生時に断線箇所を特定するには、全ての通信ノードから断線の判定結果を取得する必要があるが、各通信ノードから判定結果を取得する際には、既存の通信線や通信バスを利用することができないことから、各通信ノードに断線箇所特定用の装置を接続する必要があり、装置構成が複雑になるという問題がある。
【0009】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、通信バスに接続される複数の通信ノードの動作モードを制御することなく、各通信ノードを通信バスに接続する通信線で生じた片側断線を検出できる断線検出装置、及び、その断線検出装置を備えた通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するためになされた本発明(請求項1)の断線検出装置は、2本の伝送路からなる通信バスと、この通信バスに2本の通信線を介して接続された複数の通信ノードとからなる通信システムにおいて、通信バスに検査用ノードとして接続されることにより使用されるものであり、所定の伝送周波数で所定の対地電圧を有する高周波信号を発生する信号発生手段と、この信号発生手段が発生した高周波信号を、インピーダンス素子を介して通信バスの各伝送路に同相で出力する出力スイッチとを備える。
【0011】
そして、この出力スイッチがオンされ、信号発生手段が発生した高周波信号がインピーダンス素子を介して通信バスの各伝送路に出力される際には、出力計測手段が、各伝送路への出力電流又は出力電圧を計測し、断線判定手段が、その計測された各伝送路への出力の差分と、通信ノード毎に予め設定された断線判定用の情報とに基づき、通信バスとの間の通信線に片側断線が生じた通信ノードがあるか否かを判定する。
【0012】
以下、この断線判定動作について、詳しく説明する。
まず、図1(a)は、一対の伝送路BP、BMからなる通信バスに2本の通信線を介して通信ノード1〜6が接続された通信システムに、本発明の断線検出装置10を接続し、出力スイッチをオン状態にしたときの回路構成を表す。
【0013】
図1(a)に示すように、この通信システムは線型回路とみなすことができ、各相(BP、BM)について十分対称に構成されているものとすると、断線検出装置10からインピーダンス素子ZP、ZMを介して各伝送路BP、BMへ出力される出力電圧VP、VMの差Vo(=VP−VM)は0となる。
【0014】
これに対し、例えばノード6の伝送路BP側通信線との接続部(コネクタ等)が接触不良となり、その通信線が開放状態となった場合(換言すればノード6の伝送路BP側通信線が片側断線した場合)、その開放部に現れる電圧をVBとすると、図1(b)に示すように、この開放部に電圧源VBを接続しても電流は流れず、状態は変わらない。
【0015】
そして、この片側断線によるネットワーク回路全体の電圧・電流の変化は、重ね合わせの理により、図1(a)に示した正常時の回路の全ての電圧源を短絡除去し、片側断線した伝送路BP側通信線の開放部に電圧源VBを接続した回路から求められる(図1(c)参照)。つまり、このとき、断線検出装置10から各伝送路BP、BMへ出力される出力電圧VP、VMの差Vo(=VP−VM:以下、差動出力電圧ともいう)は、ノード6での片側断線に対応した値Vo6となる。
【0016】
一方、ノード6の伝送路BM側通信線との接続部(コネクタ等)が接触不良となり、その通信線が開放状態となった場合(換言すればノード6の伝送路BM側通信線が片側断線した場合)、ネットワーク回路全体の電圧・電流の変化は、図1(d)のように、全ての電圧源を短絡除去し、片側断線した伝送路BM側通信線の開放部に電圧源VBを接続した回路から求められる。
【0017】
そして、この場合には、ネットワーク回路の各相(BP、BM))に対する対称性から、断線検出装置10からの差動出力電圧Vo(=VP−VM)は、Vo6に値「−1」を乗じたものとなる。
【0018】
従って、ノード6と通信バスとの間の通信線で生じた片側断線は、断線検出装置10から各伝送路BP、BMへの出力電圧(若しくは出力電流)の差Voを求め、その差VoがVo6又は−Vo6であるか否かを判定することにより、検出できる。
【0019】
また、ノード6以外の通信ノード(ノード1〜5)の通信線に片側断線が生じた際にも、断線検出装置10から各伝送路BP、BMへの出力(電圧、電流)に差が生じ、しかも、その差は、片側断線が生じた通信線の長さに応じて変化する。
【0020】
このため、本発明の断線検出装置によれば、各通信ノードの通信線が片側断線したときに生じる当該断線検出装置から伝送路への出力の差分を、断線判定用の情報として、通信ノード毎に予め記憶しておき、出力計測手段にて断線検出装置から各伝送路への出力が計測された際に、その計測された出力の差分が断線判定用の情報と一致(若しくは略一致)しているかを判断することによって、片側断線が生じた通信ノードを検出することが可能となる。
【0021】
よって、本発明の断線検出装置によれば、上述した従来装置のように、通信バスに接続される複数の通信ノードの動作モードを制御することなく、各通信ノードを通信バスに接続する通信線で生じた片側断線を簡単にしかも短時間で検出できることになる。また、本発明の断線検出装置によれば、断線検出装置単体で断線を検出できることから、既存の通信システムにも簡単に適用することができる。
【0022】
また、本発明の断線検出装置では、断線検出装置から各伝送線への出力の差分(差動出力)に基づき、片側断線を検出することから、未接続のノードが存在する場合でも、断線検出を行うことができる。
【0023】
つまり、例えば、図1(a)に示した通信システムにおいて、ノード5を接続するための通信線に、ノード5が接続されていない場合、その通信線の先端は各相(BP、BM)共に開放状態となる。
【0024】
この場合、ネットワーク回路全体の電圧・電流の変化は、図1(e)に示すように、正常時の回路の全ての電圧源を短絡除去し、ノード5接続用の2本の通信線の各々に電圧源VBを接続した回路から求められることになるが、その変化量は各相(BP、BM)共に同じであるため、断線検出装置10からの出力の差(Vo)は正常時と同じ0となる。
【0025】
よって、本発明の断線検出装置によれば、通信ノードが接続されていない通信線が存在しても、その通信線の影響を受けることなく、片側断線している通信ノードを検出することができる。
【0026】
ここで、信号発生手段は、予め設定された一定周波数の高周波信号を発生するようにしてもよいが、断線箇所の検出精度を高めるためには、請求項2に記載のように、信号発生手段を、周波数の異なる複数の高周波信号を発生するように構成し、出力計測手段が、信号発生手段が周波数の異なる高周波信号を発生する度に、断線検出装置から各伝送路に出力される電流又は電圧を計測し、断線判定手段が、その計測された高周波信号毎の出力の差分と断線判定用の情報とに基づき、断線が生じた通信ノードがあるか否かを判定するようにするとよい。
【0027】
また、このように複数の高周波信号を用いて断線検出及び断線箇所の特定を行う場合、断線判定手段を、請求項3に記載のように構成すれば、断線箇所をより高精度に特定することができる。
【0028】
すなわち、請求項3に記載の断線検出装置において、断線判定手段には、特徴情報生成手段と、基準特徴情報記憶手段と、適合度算出手段とが設けられている。特徴情報生成手段は、出力計測手段にて周波数の異なる高周波信号毎に計測された各伝送路への出力に基づき、その出力の差分をベクトル化した特徴情報を高周波信号毎に生成するものであり、基準特徴情報記憶手段には、通信ノードの通信線が片側断線しているときに特徴情報生成手段にて生成される特徴情報を表す基準特徴情報が、通信ノード毎に記憶されている。
【0029】
そして、適合度算出手段は、特徴情報生成手段にて生成された特徴情報と基準特徴情報記憶手段に記憶された基準特徴情報との適合度を、通信ノード毎に算出し、断線判定手段は、この適合度算出手段にて算出された通信ノード毎の適合度に基づき、通信バスとの間の通信線に片側断線が生じた通信ノードがあるか否かを判定する。
【0030】
従って、この請求項3に記載の断線検出装置によれば、周波数の異なる複数の高周波信号を用いて計測される当該断線検出装置から各伝送路への出力の差分をベクトル化することにより、各通信ノードの断線時に生じる特徴情報をより詳細に検出して、各通信ノードでの断線発生時に生じる基準特徴情報との適合度を求めることができるようになり、その適合度から、断線の検出及び断線箇所の特定をより高精度に行うことができるようになる。
【0031】
なお、上記周波数の異なる複数の高周波信号は単一周波数の正弦波として順次発生する他、複数の周波数成分を含む信号として一時に発生してもよく、その場合は、出力計測手段が内蔵する周波数フィルタにより周波数成分を分離する、または計測信号をデジタル化しFFT等により周波数成分を分離する、等の手段により、周波数の異なる高周波信号毎の計測値を得られる。
【0032】
また次に、断線検出装置による断線判定動作は、例えば、通信バスが空いているときに、定期的に行うようにしてもよいが、請求項4に記載のように、断線検出装置に、通信システムで生じた通信エラーを検出する通信エラー検出手段を設け、この通信エラー検出手段による通信エラーの検出頻度が所定の閾値を越えたときに、制御手段が、出力スイッチをオンして断線判定動作を実行させるようにしてもよい。
【0033】
そして、このようにすれば、断線判定を頻繁に行うことなく、通信エラーの発生頻度が高いとき(つまり断線の可能性が高いとき)に、断線判定を確実に行うことができるようになり、断線判定の実行によって、各通信ノード間でのデータ通信に影響を与えるのを防止できる。
【0034】
一方、請求項5に記載の発明は、2本の伝送路からなる通信バスと、この通信バスに2本の通信線を介して接続された複数の通信ノードとからなる通信システムに関する発明であり、通信バスに、上述した請求項1〜請求項4の何れかに記載の断線検出装置を接続し、更に、各通信ノードと通信バスとの間の通信線の長さを、各通信ノード間で互いに異なる長さに設定したことを特徴とする。
【0035】
つまり、上記のように、本発明(請求項1〜請求項4)の断線検出装置は、何れかの通信ノードで通信線の一方がコネクタの接触不良等によって開放されたときに、断線検出装置から各伝送線への出力に生じる差分を検出することで、断線の有無及び断線箇所の特定を行うものであることから、2本の伝送路からなる通信バスと、この通信バスに通信線を介して接続された複数の通信ノードとからなる通信システムに適用すれば、各通信ノードの通信線で生じた片側断線を検出できる。
【0036】
しかし、通信線の長さが同じ通信ノードが存在する場合、その通信ノードのどちらで断線が発生しても、断線検出装置から各伝送路への出力に生じる差は同じになる。このため、通信システムにおいて、通信線の長さが同じ通信ノードが存在する場合には、断線検出装置から各伝送路への出力の差分から通信線が断線したことはできるものの、その断線箇所を特定することができないことがある。
【0037】
そこで、請求項5に記載の通信システムでは、通信バスに本発明(請求項1〜請求項4)の断線検出装置を接続するだけでなく、各通信ノードと通信バスとの間の通信線の長さを、各通信ノード間で互いに異なる長さに設定することにより、本発明の断線検出装置を用いて、通信線の断線検出及び断線箇所の特定を確実に行うことができるようにしているのである。
【0038】
よって、請求項5に記載の通信システムによれば、通信バスと複数の通信ノードとの間の通信線で生じた片側断線を検出して、その断線箇所を特定できることになり、断線後の対策を適性に行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
図2は、本発明が適用された実施形態の通信システム全体の構成を表す概略構成図である。
【0040】
本実施形態の通信システムは、所謂車載LANを構成するものであり、自動車に搭載されたエンジンECU、ボデーECU、…等の各種電子制御装置(ECU)、及び、その周辺装置である各種センサ類或いは各種アクチュエータ類を、それぞれ、通信ノード1、2、3、4、5、6(以下、単にノードという)とし、これら各ノード1〜6を、通信線8及びハブ(HUB)9を介して互いにデータ通信可能に接続することにより構成されている。
【0041】
ここで、HUB9は、内部に形成された2本の伝送路により差動通信用の通信バスを形成して、複数のノードを相互接続する周知のものである。また、通信線8は、差動通信線路となるツイストペア線からなり、各ノード1〜6は、この通信線8を介してHUB9に接続されている。そして、本実施形態では、ノード1〜6毎に通信線8の長さが、互いに異なるように設定されている。
【0042】
またHUB9には、検査用ノードとして、各ノード1〜6をHUB9に接続する通信線8の片側断線(詳しくは各ノード1〜6と通信線8とを接続するコネクタで生じた接触不良等)を検出するための断線検出装置10が接続されている。
【0043】
この断線検出装置10には、所定周波数帯域(本実施形態では10MHz〜30MHz)で所定の対地電圧(自動車のボデーをグランドとし、そのグランド電位を中心電位(0V)をとする一定振幅の電圧)を有する検査用の高周波信号を発生する信号発生部12、及び、この信号発生部12が発生した高周波信号を、HUB9に接続された2本の通信線8に同相で出力する出力スイッチ(以下、出力SWともいう)14が設けられている。
【0044】
また、信号発生部12と出力SW14との間の高周波信号の伝送経路(2系統)には、それぞれ、信号出力用のインピーダンス素子ZM、ZPと、このインピーダンス素子ZM、ZPを介してHUB9内の各相の伝送路に出力される高周波信号の出力電圧を計測する電圧検出部16、17とが設けられている。
【0045】
そして、これら各電圧検出部16、17からの検出信号は、検出信号(換言すれば出力電圧)の差分を表す信号に変換する差動増幅回路18に入力され、差動増幅回路18からの出力は、特徴情報生成部20に入力される。
【0046】
特徴情報生成部20は、差動増幅回路からの出力(換言すれば、断線検出装置10から各相の通信線8へ出力される出力電圧の差分)を、信号発生部12が出力した高周波信号の各周波数に対応して記憶し、ベクトル化することで、HUB9を中心に構成される通信システム全体の特徴情報を生成するものであり、その生成された特徴情報は、適合度算出部24に入力される。
【0047】
適合度算出部24は、特徴情報生成部20にて生成された特徴情報と、各ノード1〜6の片側断線時の特徴情報の基準値として予め記憶部22に記憶された基準特徴情報との適合度を算出するものである。そして、この適合度算出部24にて算出された適合度は、故障判定部26に入力され、故障判定部26にて、各ノード1〜6の通信線8で生じた片側断線を検出するのに使用される。
【0048】
また、断線検出装置10には、通信線8に接続されて通信信号を取り込むための受信部28と、この受信部28からの受信信号に基づき当該通信システムで生じた通信異常を検出する異常検出部30と、この異常検出部30を動作させて当該通信システムで生じる通信異常の頻度を計測し、通信異常の発生頻度が所定のしきい値を超えると、信号発生部12を駆動して出力SW14をオンすることにより、検査用の高周波信号を、通信線8を介してHUB9内の2本の伝送路へ同相で出力させ、特徴情報生成部20、適合度算出部24、及び故障判定部26による故障判定動作を実行させる制御部32と、が設けられている。
【0049】
ここで、制御部32は、断線検出のために信号発生部12が発生する高周波信号の周波数を、当該通信システムで送受信される伝送信号の周波数帯域(10MHz〜30MHz)内で予め設定された複数の周波数に順次切り替え、その周波数毎に、特徴情報生成部20を動作させて、各周波数での特徴情報(本実施形態では2本(各相)の通信線8への出力電圧の差分をベクトル化した情報)を生成させる。
【0050】
また、記憶部22には、特徴情報生成部20が生成する周波数毎の特徴情報に対応して、その特徴情報から通信線8が片側断線したノードを特定するための基準特量情報が周波数毎に記憶されている。
【0051】
例えば、制御部32が、信号発生部12が発生する高周波信号の周波数を4つの周波数に切り替える場合、特徴情報生成部20は、その周波数毎に、出力電圧の差分をベクトル化した特徴情報Vo(1)m 、Vo(2)m 、Vo(3)m 、Vo(4)m を生成する。なお、()内の数字は、各周波数に付与した番号を表し、添え字mは、特徴情報の実測値を表す。
【0052】
また、この場合、適合度算出部24には、ノード1〜n(本実施形態ではn:6)毎に、各ノード1〜nとHUB9とを接続する通信線8が片側断線した際の基準特徴情報Vo(1)1〜Vo(4)1、Vo(1)2〜Vo(4)2、…Vo(1)n〜Vo(4)nが記憶される。
【0053】
そして、適合度算出部24は、次式に従い、特徴情報生成部20で算出した特徴情報の実測値(ベクトル)Vo(1)m 、Vo(2)m 、Vo(3)m 、Vo(4)m と、各ノード1〜nの片側断線時の基準特徴情報(ベクトル)をそのノルムで正規化したものとの複素共役内積をとり、その絶対値を、適合度c1〜cnとして算出する。
【0054】
【数1】

そして、このように、適合度算出部24にて適合度c1〜cnが算出されると、故障判定部26は、その算出された適合度c1〜cnの中で値が最も大きい適合度cを選択し、その選択した適合度cが断線判定用のしきい値を超えている場合に、その適合度cに対応したノードの通信線8が片側断線していると判断する。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の通信システムにおいては、2本の伝送路からなる通信バスを構成するHUB9に、断線検出装置10が検査用ノードとして接続されている。そして、断線検出装置10内では、異常検出部30が当該通信システムでの通信状態を監視し、通信異常の発生頻度が高くなると、制御部32が、信号発生部12を駆動して出力SW14をオンすることで、通信線8からHUB9内の2本の伝送路へと高周波信号を同相で出力させる。
【0056】
そして、この高周波信号の出力時(出力SW14のオン時)には、特徴情報生成部20が、当該断線検出装置10から各通信線8への出力電圧の差Voをベクトル化することにより特徴情報を生成し、適合度算出部24が、その生成した特徴情報と、記憶部22にノード1〜6毎に記憶された基準特徴情報との適合度を算出し、故障判定部26が、その算出された適合度から、通信線8に片側断線が生じたノードがあるか否かを判定して、そのノードを特定する。
【0057】
従って、本実施形態の断線検出装置10によれば、通信システムでの通信異常が発生し易くなったときに、断線判定を自動で行い、ノード1〜6の何れかをHUB8に接続する通信線8に片側断線している際には、その旨を速やかに検出して、断線箇所を特定できることになる。
【0058】
よって、実施形態の断線検出装置10によれば、上述した従来装置のように、HUB9に接続される複数のノード1〜6の動作モードを制御することなく、各ノード1〜6に接続される通信線8で生じた片側断線を簡単且つ短時間で検出できるようになる。
【0059】
また、本実施形態の断線検出装置10では、断線検出装置10から通信線8の各相への出力電圧の差分(差動電圧)に基づき片側断線を検出することから、例えば、図2に点線で示すように、ノード5が未接続状態であっても、その未接続のノードの影響を受けることなく、通信線8が片側断線したノード(この場合、ノード5以外のノード)を検出することができる。
【0060】
また、本実施形態では、ノード1〜6をHUB9に接続する通信線8の片側断線を検出するに当たって、信号発生部12から発生させる高周波信号を、通信信号の周波数帯域内の複数の周波数に設定して、その複数の周波数毎に、断線検出装置10から通信線への出力電圧を計測するようにしていることから、断線判定に用いるパラメータを多くして、その判定精度を向上することができる。
【0061】
なお、本実施形態においては、断線検出装置10内の信号発生部12が、本発明の信号発生手段に相当し、電圧検出部16、17が、本発明の出力計測手段に相当し、特徴情報生成部20、記憶部22、適合度算出部24、及び故障判定部26が、本発明の断線判定手段に相当し、異常検出部30が、本発明の通信エラー検出手段に相当し、制御部32が、本発明の制御手段に相当する。
【0062】
また、断線判定手段として機能する特徴情報生成部20、記憶部22、適合度算出部24、及び故障判定部26のうち、特徴情報生成部20は、本発明の特徴情報生成手段に相当し、記憶部22は、基準特徴情報記憶手段に相当し、適合度算出部24は、本発明の適合度算出手段に相当する。
【0063】
ところで、本実施形態の断線検出装置10において、複数のノード1〜6を通信バスとしてのHUB9にそれぞれ接続する通信線8で生じた片側断線を検出できる理由は、上記のように図1(a)〜(e)を用いて説明した通りであるが、次に、その効果を裏付けるために、ネットワークアナライザを用いて特徴情報としての出力電圧の特徴ベクトルを計測し、その適合度を算出した実験結果について説明する。
【0064】
まず、図3は、この実験に用いた通信システムの構成を表す説明図である。図3に示すように、この実験では、地板にHUBを設置し、HUB内の一対の伝送路BM、BPに、それぞれ、5m、2m、3m、2m、5mの通信線を接続し、その通信線の先端に、それぞれ、通信装置からなるノード1、2、3、ネットワークアナライザからなるノード4、及び、通信装置からなるノード5を接続している。なお、ノード4としてのネットワークアナライザと、2本の通信線(長さ2m)との接続には、同軸ケーブルが使用されており、その接続部で、同軸ケーブルの外部導体が地板に接地されている。
【0065】
次に、図4は、図3に破線の丸印で示すように、通信装置からなるノード1〜3、5に接続される通信線を片側断線させて、ノード4としてのネットワークアナライザにより、10MHz〜30MHzの周波数帯域内で周波数1201点について、出力電圧の特徴ベクトル(詳しくは出力電圧の絶対値(ノルムで正規化したもの)と位相)を測定した測定結果を表す。
【0066】
また、図5、図6は、この特徴ベクトルをダウンサンプルし、周波数7点、16点の特徴ベクトルとして、適合度を算出したものを表しており、(a)は、片側断線時の特徴ベクトルをネットワークアナライザで実測した結果を表し、(b)は、片側断線時の特徴ベクトルをシミュレーション計算で求めた結果を表している。
【0067】
図5、図6に示すように、片側断線時の特徴ベクトルをシミュレーション計算で求めた場合(b)には、片側断線したノードの特徴ベクトルに対する適合度が最も大きくなっている。
【0068】
これに対し、片側断線時の特徴ベクトルを実測した場合(a)には、計測精度の影響で一部逆転しているものがあり、特に、HUBからの通信線の長さが同じノード1とノード5では、適合度だけで断線箇所を特定することができない。
【0069】
このため、本発明を実施する際には、上記実施形態のように、各通信線の長さは、ノード毎に異なる長さに設定して、適合度から断線箇所を特定できるようにするとよいことが判った。
【0070】
また、この実験結果から、特徴ベクトル(特徴情報)の計測ポイント(周波数)については、多くすれば断線箇所の適合度が大きくなるということはなく、本発明を適用する通信システムに応じて、適宜設定すればよいことも判った。
【0071】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて、種々の態様をとることができる。
例えば、上記実施形態では、断線検出装置10には、異常検出部30が設けられており、異常検出部30による通信異常の検出頻度が高くなると、制御部32が、信号発生部12を駆動して出力SW14をオンすることで、断線判定動作を開始するものとして説明したが、制御部32は、定期的に断線判定動作を開始するようにしてもよく、或いは、運転者等からの外部入力により断線判定動作を開始するようにしてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、制御部32は信号発生部12が発生する高周波信号の周波数を、予め設定された複数の周波数に順次切り替えるものとして説明したが、信号発生部12に、予め設定された複数の周波数を成分として含む信号を一時に発生させ、特徴情報生成部20を動作させて、各相の通信線への出力電圧の差分を周波数フィルタまたはFFT等により周波数成分に分離し、各周波数での特徴情報を生成させるようにしてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、片側断線の検出精度を高めるために、検査用高周波信号の各相の通信線への出力電圧の差分をベクトル化して、当該システムの特徴情報を生成するものとして説明したが、単に出力電圧の差分を電圧値として検出して、その電圧値と判定用基準値とを比較することで、断線検出を行うようにしてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、通信システムは、自動車において各種車載装置をデータ通信可能に接続する車載LANであるものとして説明したが、本発明は、2本の通信バスに通信線を介して接続される複数の通信ノードを備えた通信システムであれば、どのようなシステムであっても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の断線検出装置における断線判定動作を説明する説明図である。
【図2】実施形態の通信システム全体の構成を表す概略構成図である。
【図3】実験に用いた通信システムの構成を表す説明図である。
【図4】図3の通信システムで通信線を片側断線させて周波数1201点で測定した特徴ベクトルの測定結果を表すグラフである。
【図5】特徴ベクトルを周波数7点でダウンサンプルして適合度を算出した結果を表すグラフである。
【図6】特徴ベクトルを周波数16点でダウンサンプルして適合度を算出した結果を表すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
1〜6…ノード、8…通信線、10…断線検出装置、12…信号発生部、14…出力SW、16,17…電圧検出部、18…差動増幅回路、20…特徴情報生成部、22…記憶部、24…適合度算出部、26…故障判定部、28…受信部、30…異常検出部、32…制御部、BM,BP…伝送路、ZM,ZP…インピーダンス素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の伝送路からなる通信バスと、該通信バスに2本の通信線を介して接続された複数の通信ノードとからなる通信システムにおいて、前記通信バスに検査用ノードとして接続され、前記各通信ノードと前記通信バスとの間の通信線の片側断線を検出する断線検出装置であって、
所定の伝送周波数で所定の対地電圧を有する高周波信号を発生する信号発生手段と、
該信号発生手段が発生した高周波信号を、インピーダンス素子を介して前記通信バスの各伝送路に同相で出力する出力スイッチと、
該出力スイッチのオン時に前記信号発生手段からインピーダンス素子を介して前記通信バスの各伝送路に出力される電流又は電圧を計測する出力計測手段と、
該出力計測手段にて計測された前記各伝送路への出力の差分と、前記通信ノード毎に予め設定された断線判定用の情報とに基づき、前記通信バスとの間の通信線に片側断線が生じた通信ノードがあるか否かを判定する断線判定手段と、
を備えたことを特徴とする通信システムの断線検出装置。
【請求項2】
前記信号発生手段は、周波数の異なる複数の高周波信号を発生し、
前記出力計測手段は、前記出力スイッチのオン時に、前記信号発生手段が前記高周波信号を発生する度に、前記各伝送路に出力される電流又は電圧を計測し、
前記断線判定手段は、前記出力計測手段にて周波数の異なる高周波信号毎に計測された前記各伝送路への出力の差分と、前記通信ノード毎に予め設定された断線判定用の情報とに基づき、前記通信バスとの間の通信線に片側断線が生じた通信ノードがあるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の通信システムの断線検出装置。
【請求項3】
前記断線判定手段は、
前記出力計測手段にて周波数の異なる高周波信号毎に計測された前記各伝送路への出力に基づき、該出力の差分をベクトル化した特徴情報を前記高周波信号毎に生成する特徴情報生成手段と、
前記各通信ノードの通信線が片側断線しているときに前記特徴情報生成手段にて前記高周波信号毎に生成される特徴情報を表す基準特徴情報が、前記通信ノード毎に予め記憶された基準特徴情報記憶手段と、
前記特徴情報生成手段にて生成された特徴情報と前記基準特徴情報記憶手段に記憶された基準特徴情報との適合度を、前記通信ノード毎に算出する適合度算出手段と、
前記適合度算出手段にて算出された通信ノード毎の適合度に基づき、前記通信バスとの間の通信線に片側断線が生じた通信ノードがあるか否かを判定することを特徴とする請求項2に記載の通信システムの断線検出装置。
【請求項4】
前記通信システムで生じた通信エラーを検出する通信エラー検出手段と、
該通信エラー検出手段による通信エラーの検出頻度が所定の閾値を越えると、前記出力スイッチをオンして、前記各手段による断線判定動作を実行させる制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の通信システムの断線検出装置。
【請求項5】
2本の伝送路からなる通信バスと、該通信バスに2本の通信線を介して接続された複数の通信ノードとからなる通信システムにおいて、
前記通信バスに、請求項1〜請求項4の何れかに記載の断線検出装置を接続すると共に、
前記各通信ノードと前記通信バスとの間の通信線の長さを、各通信ノード間で互いに異なる長さに設定してなることを特徴とする通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−16560(P2010−16560A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173775(P2008−173775)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】