説明

通信装置、通信方法および通信プログラム

【課題】処理能力が高いオートマトン方式を用いた転送装置を提供する。
【解決手段】シナリオに基づいて自律的に動作するSTM2A,2B,2Cにより擬似呼を制御するとともに、STM2A,2B間で相互に呼情報3Aを共有する。これにより、擬似呼装置1において多数の擬似呼を発生するとともに、各擬似呼間で呼情報が相互に作用し合えるので、転送機能を備えた擬似呼装置1を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼を転送する技術に関し、特に、多数の擬似呼を発生する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
呼を制御する交換機に対して行う負荷試験方法として、状態遷移を利用して擬似呼を制御するものが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平7−105840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
各擬似呼が独立でイベントに対する状態変化を可能とするオートマトン方式を取ることで、1つのシステムにおいて多数の擬似呼を制御することが可能である。
【0004】
しかしながら、各呼が完全に独立して動作するため、例えば、呼の転送など、呼情報が相互に作用し合う動作をすることができない。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、呼の制御において、処理能率が高いというオートマトン方式のメリットを保ちつつ、転送機能を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の本発明に係る通信装置は、複数の呼制御部をオートマトン方式で動作させて呼の転送を行う通信装置であって、呼制御部の状態遷移を規定するシナリオを記憶させたシナリオ記憶手段と、シナリオ記憶手段からシナリオを指定して呼制御部を起動する起動手段と、を有し、呼制御部は、当該呼制御部自身の状態を保持する状態管理手段と、呼の着信及び発信を行うとともに、呼情報の記憶手段への書き込み及び読み出しを行う通信手段と、呼情報の格納場所を他の呼制御部に通知する連携手段と、シナリオを読み出して、通信手段による通信イベントまたは連携手段による連携イベントと状態に基づいて動作内容と次の状態を決定し、状態管理手段が保持する状態を変更する解析手段と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明にあっては、シナリオに基づいてオートマトン方式で自律して動作する呼制御部の間で呼情報を共有することにより、各呼制御部における呼情報が相互に作用し合えるようになるため、自律して動作する呼制御部による転送を行う通信装置を提供することが可能となる。
【0008】
第2の本発明に係る通信方法は、複数の呼制御部をオートマトン方式で動作させて呼の転送を行う通信方法であって、起動手段により、呼制御部の状態遷移を規定するシナリオを記憶させたシナリオ記憶手段からシナリオを指定して呼制御部を起動するステップを有し、呼制御部により、呼の着信及び発信を行うとともに、呼情報の記憶手段への書き込み及び読み出しを行うステップと、呼情報の格納場所を他の呼制御部に通知するステップと、シナリオを読み出して、呼の着信及び発信を行うステップにおける通信イベントまたは他の制御部に通知するステップにおける連携イベントと状態管理手段から読み出した呼制御部自身の状態に基づいて動作内容と次の状態を決定し、状態管理手段が保持する状態を変更するステップと、を有することを特徴とする。
【0009】
第3の本発明に係る通信プログラムは、複数の呼制御部をオートマトン方式で動作させて呼の転送をコンピュータに実行させる通信プログラムであって、呼制御部の状態遷移を規定するシナリオを記憶させたシナリオ記憶手段からシナリオを指定して呼制御部を起動する処理を有し、コンピュータを呼制御部として実行させるための、呼の着信及び発信を行うとともに、呼情報の記憶手段への書き込み及び読み出しを行う処理と、呼情報の格納場所を他の呼制御部に通知する処理と、シナリオを読み出して、呼の着信及び発信を行う処理における通信イベントまたは他の制御部に通知する処理における連携イベントと状態管理手段から読み出した呼制御部自身の状態に基づいて動作内容と次の状態を決定し、状態管理手段が保持する状態を変更する処理と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、呼の制御において、処理能率が高いというオートマトン方式のメリットを保ちつつ、転送機能を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態における転送装置を利用した擬似呼装置1の構成を示す概略図である。同図に示す擬似呼装置1は、多様なSIP(Session Initiation Protocol)擬似信号シーケンスを発生して、SIP関連プロダクトの開発・検証を支援するものである。なお、本擬似呼装置1は、演算処理装置、記憶装置、メモリ等を備えたコンピュータにより構成し、各部の処理をプログラムによって実行されるものとしてもよい。このプログラムは擬似呼装置1が備えた記憶装置などに記憶されており、CD−ROM、磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0013】
擬似呼装置1には、端末100A,100B,100Cが接続される。各端末100A,100B,100Cは、擬似呼装置1内で動作するSTM(State Transition Machine)2A,2B,2CのそれぞれとSIPを用いて通信を行う。
【0014】
STM2A,2B,2Cは、シナリオ記憶部4に記憶したシナリオに基づいて自律的に動作し、呼の発信、着信などの制御を行う。具体的には、STM2A,2B,2Cは、それぞれ1つの通信状態を持ち、各通信状態が独立でイベントに対する状態変化を可能とするオートマトン方式により自律的に動作する。シナリオは、STM2A,2B,2Cと端末100A,100B,100Cとの間で送受信されるSIPリクエスト、SIPレスポンスなどの通信イベントや他のSTMからの連携イベントによってどのような動きをするのか、イベントに対する状態遷移を規定するものである。
【0015】
このように、各STM2A,2B,2Cがイベントに対して自律的に動作することにより、擬似呼装置1内で多数のSTMを起動させることが可能となるので、接続された端末に対して多数の通信状態を持って負荷試験を行うことができる。また、STMそれぞれで異なる複数の装置を擬似することで、ネットワーク全体を擬似することができる。
【0016】
各STM2A,2B,2Cは、高速化のために、1つの通信状態しか持たないので、例えば、端末100AとSTM2Aとの通信を端末100Bへ転送する状況を擬似をするときは、図1に示すように、呼情報3AをSTM2AとSTM2Bとで共有することにより行う。
【0017】
シナリオ記憶部4は、STM2A,2B,2Cの動作を規定するシナリオが記憶させてある。シナリオは、後述するツールにより作成してシナリオ記憶部4に記憶させることが可能である。
【0018】
メッセージ記憶部5には、STM2A,2B,2Cが送受信するSIPリクエストやSIPレスポンスのヘッダやボディに記述する各種の定義がメッセージファイルとして記憶される。STM2A,2B,2Cは、メッセージ記憶部5に記憶されたメッセージファイルを参照してSIPヘッダやボディを生成する。
【0019】
起動部6は、シナリオ記憶部4に記憶されたシナリオを選択し、各種設定を行ってSTMを起動する。
【0020】
次に、STMの詳細について説明する。図2は、STMの構成を示すブロック図である。同図に示すSTM2A,2Bは呼情報3Aを共有し、互いに連携をして動作するものである。
【0021】
STM2A,2Bは、通信部21A,21Bと、シナリオ解析部22A,22Bと、シナリオ蓄積部23A,23Bと、状態管理部24A,24Bと、連携部25A,25Bとを備える構成である。
【0022】
通信部21A,21Bは、接続された端末100A,100BとSIPリクエスト、SIPレスポンスの送受信を行い、呼情報3Aを擬似呼装置1の備えた記憶装置に記憶させたり、読み出したりする。
【0023】
シナリオ解析部22A,22Bは、シナリオ蓄積部23A,23Bに蓄積されたシナリオ、状態管理部24A,24Bの保持する状態および各種イベントに基づいてオートマトン方式で動作を決定する。
【0024】
シナリオ蓄積部23A,23Bは、STM2A,2Bそれぞれの動作のシーケンスを記載したシナリオを格納する。シナリオ蓄積部23A,23Bに蓄積されるシナリオは、起動部6によりSTM2A,2Bを起動する際に指定される。なお、STM2A,2Bのそれぞれがシナリオ蓄積部23A,23Bを備えず、擬似呼装置1が備えたシナリオ記憶部4からシナリオを読み出してもよい。
【0025】
状態管理部24A,24Bは、STM2A,2Bの状態を保持する。
【0026】
連携部25A,25Bは、他のSTM2A,2Bと連携し、連携イベントを通知することにより呼情報3Aを交換する。これにより、STM2Aの通信相手とSTM2Bの通信相手を接続することが可能となる。呼情報3Aは、擬似呼装置1の備えた記憶装置に記憶される。STM2A,2Bは、呼情報3Aを指し示すポインタをやり取りすることにより呼情報3Aを共有する。
【0027】
次に、擬似呼装置1に格納するシナリオの作成について説明する。図3は、シナリオを作成し、STMを起動するまでの手順を示す模式図である。
【0028】
まず、シナリオジェネレートツール7を用いてシーケンスの流れを記述したシナリオシーケンスファイルを作成する。シナリオジェネレートツール7は、GUI(Graphical User Interface)ベースで容易にシナリオを作成することができるツールである。シナリオジェネレートツール7は、シナリオシーケンスファイルに基づいてシナリオソースファイルを出力する。シナリオソースファイルは、C++などのプログラム言語で記述されたプログラムソースファイルである。
【0029】
STMの動作を規定するシナリオの作成にはスキルを要するので、シナリオジェネレートツール7においては、GUIを用いて作成を容易にする。また、シナリオは検査対象の装置により多種多様であるので、詳細にカスタマイズを可能にするため、プログラム言語で記述された中間ファイル(シナリオソースファイル)を出力する。ユーザは、出力されたシナリオソースファイルを自由に編集することが可能である。
【0030】
続いて、シナリオコンパイラ8を用いてシナリオソースファイルをSTMが実行可能なシナリオファイルにコンパイルする。作成されたシナリオファイルは、擬似呼装置1のシナリオ記憶部4に格納される。なお、シナリオ記憶部4には、予めデフォルトシナリオが格納されている。
【0031】
メッセージ記憶部5に格納されたメッセージファイルは、SIPヘッダやボディに記載する値が定義されている。ユーザはメッセージファイルを編集することができる。メッセージファイルの作成のときには、パラメータの代表的な値が自動的に補完されるので、容易にメッセージファイルを作成することが可能である。また、メッセージファイルにおいて、受信電文中の任意の値を代入した変数を送信電文中の任意の箇所に設定することができ、SIPリクエストに対するレスポンスを柔軟に記述することが可能である。
【0032】
ユーザがSTMを起動するときには、シナリオ記憶部4に格納したシナリオを選択し、参照するメッセージファイルの設定などの各種設定を行う。STMは起動後、選択されたシナリオを読み込み、STMの状態と送受信されるメッセージなどに基づいて自律して動作を行う。
【0033】
次に、本発明における転送装置を利用した別の実施の形態について説明する。図4は、本発明の別の実施の形態における転送装置を説明するための図である。同図に示す転送装置40は、システム管理者の介入を不要として2者間の通話を接続するシステムである。一方の利用者の電話を受信したSTMが別のSTMを起動して別の利用者の電話へ接続し、利用者はお互いの電話番号を知られずに通話が可能となる。STMが設定されたシナリオに基づいて自律動作を行い2者間が接続されるので、システム管理者が介入することなくプライバシが保護された接続サービスを提供することが可能となる。
【0034】
図5は、本発明のさらに別の実施の形態における転送装置を説明するための図である。救急車を呼んだ患者の家族が掛けた電話が転送装置50により搬送先の病院へ転送され、患者の家族は搬送先の病院の名称、場所などを知ることができる。
【0035】
図6は、本発明のさらに別の実施の形態における転送装置を説明するための図である。同図に示す転送装置60は、オークションシステムに利用されており、売り手に接続されたSTMが買い手に接続されたSTMと自律的に連携して、必要に応じて売り手と買い手を接続するものである。STMが自律して動作することにより処理能率が高まり、多数の売り手と買い手との通信が可能となる。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態によれば、シナリオに基づいて自律的に動作するSTM2A,2B,2Cにより擬似呼を制御するとともに、STM2A,2B間で相互に呼情報3Aを共有することにより、擬似呼装置1において多数の擬似呼を発生するとともに、各擬似呼間で呼情報が相互に作用し合えるので、転送機能を備えた擬似呼装置1を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】一実施の形態における転送装置を利用した擬似呼装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のSTMの構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す擬似呼装置に格納するシナリオを作成する様子を示す概略図である。
【図4】一実施の形態における転送装置を示す模式図である。
【図5】一実施の形態における別の転送装置を示す模式図である。
【図6】一実施の形態におけるさらに別の転送装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0038】
1…擬似呼装置
2A,2B,2C…STM
3A,3C…呼情報
4…シナリオ記憶部
5…メッセージ記憶部
6…起動部
7…シナリオジェネレートツール
8…シナリオコンパイラ
21A,21B…通信部
22A,22B…シナリオ解析部
23A,23B…シナリオ蓄積部
24A,24B…状態管理部
25A,25B…連携部
40,50,60…転送装置
100A,100B,100C…端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の呼制御部をオートマトン方式で動作させて呼の転送を行う通信装置であって、
前記呼制御部の状態遷移を規定するシナリオを記憶させたシナリオ記憶手段と、
前記シナリオ記憶手段から前記シナリオを指定して前記呼制御部を起動する起動手段と、を有し、
前記呼制御部は、
当該呼制御部自身の状態を保持する状態管理手段と、
呼の着信及び発信を行うとともに、呼情報の記憶手段への書き込み及び読み出しを行う通信手段と、
前記呼情報の格納場所を他の呼制御部に通知する連携手段と、
前記シナリオを読み出して、前記通信手段による通信イベントまたは前記連携手段による連携イベントと前記状態に基づいて動作内容と次の状態を決定し、前記状態管理手段が保持する状態を変更する解析手段と、
を有することを特徴とする通信装置。
【請求項2】
複数の呼制御部をオートマトン方式で動作させて呼の転送を行う通信方法であって、
起動手段により、前記呼制御部の状態遷移を規定するシナリオを記憶させたシナリオ記憶手段から前記シナリオを指定して前記呼制御部を起動するステップを有し、
前記呼制御部により、
呼の着信及び発信を行うとともに、呼情報の記憶手段への書き込み及び読み出しを行うステップと、
前記呼情報の格納場所を他の呼制御部に通知するステップと、
前記シナリオを読み出して、前記呼の着信及び発信を行うステップにおける通信イベントまたは前記他の制御部に通知するステップにおける連携イベントと状態管理手段から読み出した前記呼制御部自身の状態に基づいて動作内容と次の状態を決定し、前記状態管理手段が保持する状態を変更するステップと、
を有することを特徴とする通信方法。
【請求項3】
複数の呼制御部をオートマトン方式で動作させて呼の転送をコンピュータに実行させる通信プログラムであって、
前記呼制御部の状態遷移を規定するシナリオを記憶させたシナリオ記憶手段から前記シナリオを指定して前記呼制御部を起動する処理を有し、
前記コンピュータを前記呼制御部として実行させるための、
呼の着信及び発信を行うとともに、呼情報の記憶手段への書き込み及び読み出しを行う処理と、
前記呼情報の格納場所を他の呼制御部に通知する処理と、
前記シナリオを読み出して、前記呼の着信及び発信を行う処理における通信イベントまたは前記他の制御部に通知する処理における連携イベントと状態管理手段から読み出した前記呼制御部自身の状態に基づいて動作内容と次の状態を決定し、前記状態管理手段が保持する状態を変更する処理と、
を有することを特徴とする通信プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−33258(P2009−33258A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192451(P2007−192451)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】