通気部材およびその製造方法
【課題】通気性を有するシートの通気性能の向上やシートの面積の拡大以外の方法で、通気部材の内圧調整機能の改善を図る。
【解決手段】通気部材13は、通気性を有するシート6と、貫通孔11hが設けられた支持体11とを備えている。貫通孔11hの一方の開口は、シート6によって塞がれている。支持体11は、シート6を取り付けるための面として、シート6の面内方向と平行かつ環状の開口端面12を有する。開口端面12の外周領域において、支持体11にシート6が溶着され、環状の溶着部が形成されている。溶着部に包囲された開口端面12の内周領域12kでは、支持体11にシート6が溶着されていない。
【解決手段】通気部材13は、通気性を有するシート6と、貫通孔11hが設けられた支持体11とを備えている。貫通孔11hの一方の開口は、シート6によって塞がれている。支持体11は、シート6を取り付けるための面として、シート6の面内方向と平行かつ環状の開口端面12を有する。開口端面12の外周領域において、支持体11にシート6が溶着され、環状の溶着部が形成されている。溶着部に包囲された開口端面12の内周領域12kでは、支持体11にシート6が溶着されていない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の電装部品を収納する筐体には、内部と外部との差圧を解消することによって、内圧の上昇による筐体の破損を防ぐ機能(内圧調整機能)が付与されている。そのような機能を筐体に付与するための通気部材として、多孔質膜を用いたものが知られている。例えば、下記特許文献1〜3に開示された通気部材(特許文献1では通気可能栓と呼ばれている)は、支持体としての筒状の本体部と、その本体部にインサート成形によって接合された多孔質膜とを備えている。
【0003】
上記のような通気部材の差圧解消能力は、一般に、多孔質膜の通気度と多孔質膜の寸法とに応じて決まる。したがって、差圧解消能力を高めるには、多孔質膜の面積を拡大したり、多孔質膜の通気度を改善したりすればよい。
【0004】
しかしながら、多孔質膜の通気度に関していえば、もはや改善の余地を見出すことが困難なレベルに達している。他方、多孔質膜の面積の拡大に関していえば、通気部材の防塵防水性の低下を伴うため、簡単には採用できない。近年では、内圧調整機能を付与するべき筐体の小型化に伴い、通気部材の寸法に対する制限が厳しくなってきているという事情もある。
【0005】
特許文献1に記載されているインサート成形によると、多孔質膜と本体部との接合強度の向上を図れる。図11に示すように、インサート成形では、押さえピン102で多孔質膜103を金型101に対して位置決め固定し、キャビティKVに樹脂を射出する。そのため、本体部の開口面積を超える通気面積を得ることは困難である。また、ピン102で圧力をかけるため、多孔質膜103のピン102,102の間に位置する部分がつぶれて通気機能が失われる。結果として、通気面積が本体部の開口面積よりも小さくなることもある。
【特許文献1】特開2003−063549号公報
【特許文献2】特開2004−358746号公報
【特許文献3】特開2004−249653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、通気性を有するシートの通気性能の向上やシートの面積の拡大以外の方法で、通気部材の内圧調整機能の改善を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
通気性を有するシートと、
通気を要する空間と外部空間とを接続するための通気孔を有し、その通気孔が前記シートによって塞がれている支持体とを備え、
前記通気孔の開口端面の外周領域において、前記支持体に前記シートが溶着され、環状の溶着部が形成される一方、
前記溶着部に包囲された前記開口端面の内周領域では、前記支持体に前記シートが溶着されておらず、かつ前記シートが前記支持体によって支持されるように前記シートの主面が前記開口端面に接している、通気部材を提供する。
【0008】
他の側面において、本発明は、
通気性を有するシートと、通気を要する空間と外部空間とを接続するための通気孔が前記シートによって塞がれている支持体と、を備えた通気部材の製造方法であって、
前記シートと前記支持体とを個別に準備する工程と、
前記通気孔が塞がれるように前記シートと前記支持体との相対的な位置決めを行う工程と、
前記シートを取り付けるための開口端面の外周領域において前記支持体と前記シートとの環状の溶着部が形成され、かつ前記外周領域に囲まれた前記開口端面の内周領域では当該開口端面と前記シートの主面との非接合状態が維持されるように、前記支持体に前記シートを溶着する工程と、
を含む、通気部材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
特許文献1に開示されているように、従来の通気部材によれば、支持体の開口端面とシートの主面とが重なり合っている領域の全体が接合面となっている。支持体に接合されている部分におけるシートの通気性は失われているので、差圧解消には寄与しない。したがって、このような通気部材においては、通気孔の開口面積とシートの通気面積とが等しくなる。
【0010】
これに対し、本発明の通気部材によれば、通気性を有するシートと支持体との溶着部の形成範囲が開口端面の外周領域に制限されており、内周領域では支持体にシートが溶着されていない。溶着されていない部分では通気性が発揮されるので、シートの実質的な通気面積は、通気孔の開口面積よりも大きくなる。つまり、本発明によれば、シートの実質的な面積拡大を伴うことなく、通気部材の通気性能(差圧解消能力)の向上を図ることができる。また、通気孔の開口面積の拡大を伴わないため、防塵防水性や耐水圧のような諸特性を犠牲にせずに済む。
【0011】
そして、本発明の方法により、上記本発明の通気部材を適切に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態にかかる通気部材の縦断面図である。図5は、図1の通気部材が取り付けられた筐体の斜視図である。図5に示すように、図1に示す通気部材13は、例えば自動車の電装部品の筐体91に取り付けられる。
【0014】
図1に示すように、通気部材13は、通気性を有するシート6と、貫通孔11hが形成された支持体11とを備えている。貫通孔11hは、支持体11の内部(中心部)を貫いており、通気を要する筐体91の内部空間と外部とを接続するための通気孔として機能する。貫通孔11hの一方の開口は、シート6によって塞がれており、他方の開口が筐体91の内部空間に接続される。支持体11は、略円筒形状であり、シート6を取り付けるための面として、貫通孔11hの一方の開口の周囲に環状の開口端面12を有している。開口端面12は、シート6の面内方向に平行な平面である。シート6の中心は、貫通孔11hの中心に一致している。シート6の直径は、開口端面12の外径よりも大きい。
【0015】
図3の部分拡大図に示すように、開口端面12は、外周領域12jと内周領域12kとを含む。開口端面12の外周領域12jにおいて支持体11にシート6が溶着されている。シート6の主面6pと開口端面12とが接合され、環状の溶着部15が形成されている。溶着部15の面積は、例えばシート6の全面積の5〜20%の範囲内で定めることができる。溶着部15の面積をこのような範囲とすれば、通気面積を十分に確保しつつ、支持体11からのシート6の剥離を防止できる。また、溶着ムラを小さくすることができ、溶着部15の耐水不良も起こりにくい。
【0016】
一方、溶着部15に包囲された開口端面12の内周領域12kでは、支持体11にシート6が溶着されていない。ただし、支持体11によってシート6が支持されるように、シート6の主面6pが開口端面12に接している。支持体11に溶着されていない部分は通気性が発揮されるので、シート6の実質的な通気面積は、貫通孔11hの開口面積よりも大きい。ただし、内周領域12kにおいてもシート6が支持されているので、外部からの水や小石等に対する強度は従来の通気部材と比べて遜色ない。
【0017】
支持体11は、射出成形、圧縮成形、切削等の一般的な成形手法により作製することができる。支持体11の材料としては、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PA(ナイロン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の熱可塑性樹脂や、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)、シリコーンゴム等の熱可塑性エラストマーを用いることができる。本実施形態では、熱可塑性エラストマーによって支持体11が構成されている。支持体11の弾性力によって通気部材13を筐体91に固定するために、支持体11の外周面に凹凸11pが付与されている。
【0018】
なお、支持体11の材料は、カーボンブラック、チタンホワイト等の顔料類、ガラス粒子、ガラス繊維等の補強用フィラー類、撥水材等を含んでいてもよい。また、支持体11は、その表面に撥液処理を施すことにより、液体(水や油)を排除しやすくなる。
【0019】
シート6は、厚さ方向および面内方向の両方向に通気性を有しているものであればよく、構造や材料は特に限定されない。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体のようなフッ素樹脂によって構成された多孔質膜をシート6に用いることができる。中でも、小面積で通気性が確保でき、筐体内部への異物の侵入を阻止する機能の高いPTFE多孔質膜を好適に用いることができる。
【0020】
シート6として、PTFE多孔質膜を単独で用いてもよい。さらに、図2Aに示すように、シート6は、PTFE多孔質膜1と、PTFE多孔質膜1に一体化された補強材2とを含んでいてもよい。補強材2は、PTFE多孔質膜1よりも通気度が高いものであるとよい。例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、アラミド樹脂のような樹脂によって構成された織布、不織布、メッシュ、ネット、スポンジ、フォームまたは多孔体を、補強材2として用いることができる。
【0021】
補強材2の形状は、図2Aに示すように、PTFE多孔質膜1と同一(例えば円形)であってもよい。また、図2Bに示すように、環状の補強材3がPTFE多孔質膜1に一体化されていてもよい。このような補強材2(,3)は、PTFE多孔質膜1の片面のみに設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。PTFE多孔質膜1の片面にのみ補強材が設けられている場合、補強材2(,3)と支持体11とが接する向きでシート6を支持体11に溶着してもよいし、その逆の向きでもよい。
【0022】
シート6の形状は、通常は円形である。シート6の厚さは、強度および支持体11への固定のしやすさを考慮して、1μm〜5mmの範囲で調整することができる。シート6の通気度は、JIS P 8117に規定されたガーレー試験機法により得られるガーレー値にて0.1〜500sec/100cm3の範囲にあるとよい。シート6の耐水圧は、1.0KPa以上あるとよい。
【0023】
支持体11へのシート6の溶着は、次のような方法で行うことができる。まず、シート6および支持体11を準備する(部品準備工程)。次に、図4の上段図に示すように、貫通孔11hの一方の開口がシート6によって塞がれるように、別々に準備した支持体11とシート6との相対的な位置決めを行う(位置決め工程)。具体的には、シート6の中心と貫通孔11hの中心とが一致するように、シート6を支持体11の開口端面12に載せる。次に、図4の下段図に示すように、支持体11にシート6を溶着する(溶着工程)。シート6を支持体11に溶着することにより、図1に示す通気部材13を製造することができる。
【0024】
前述したように、支持体11は、シート6を取り付けるための面として環状の開口端面12を有している。支持体11にシート6を溶着する工程は、環状の溶着部15の形成される範囲が開口端面12の外周領域12j(図3参照)に制限され、外周領域12jに囲まれた内周領域12kでは開口端面12とシート6の主面との非接合状態が維持されるように行うことができる。
【0025】
支持体11とシート6とを溶着するための方法は、熱溶着、超音波溶着、インパルス溶着またはレーザー溶着であってよい。これらの方法によれば、溶着部15が開口端面12の外周領域12jにのみ形成されるように、溶着工程を行うことができる。本明細書では、ホーン17を用いた溶着方法により、支持体11にシート6を溶着する例を示している。
【0026】
支持体11とシート6とを溶着するための方法として、高精度な溶着を容易かつ安価に行えることから、熱溶着または超音波溶着が好適である。熱溶着または超音波溶着を行うためのホーン17は、支持体11とシート6との接触面に熱を加えるための環状の作用面17pをその先端部に有している。作用面17pの内周縁の全部が支持体11の開口端面12の内周縁よりも外側に位置しうるように、ホーン17の先端部の寸法が定められている。本実施形態では、図4の下段図に示すように、ホーン17の作用面17pの内径D2が支持体11の貫通孔11hの内径D1よりも大きく設定されている。ホーン17の外径Rは、開口端面12の外径にほぼ一致する。このようなホーン17によれば、環状の溶着部15を簡単かつ迅速に形成することが可能である。
【0027】
また、シート6の外周部分が支持体11の開口端面12から僅かにはみ出るように、シート6の直径が調整されている。このようにすれば、支持体11にシート6を溶着する際の位置決め誤差を吸収することができるので、環状の溶着部15を確実に形成することが可能となる。また、開口端面12の外周縁と溶着部15の外周縁とを一致させることができるため、溶着部15の面積を最大化できる。これにより、シート6と支持体11とをいっそう強固に溶着できる。
【0028】
ホーン17の作用面17pの内径D2と、支持体11の貫通孔11hの内径D1との差ΔDは、特に限定されるものではないが、例えば0.2mm以上であり、好ましくは1.0mm以上である。差ΔDが小さすぎると通気性能向上の効果を期待できない。ただし、差ΔDが大きすぎると支持体11とシート6との溶着強度が不足する可能性があるので、例えば、溶着部15の面積がシート6の面積の5〜20%の範囲となるように差ΔDの上限を規定できる。また、ホーン17の外径Rと、ホーン17の内径D2と、貫通孔11hの内径D1とが、1.05≦{(R−D1)/(R−D2)}の関係を満たしてもよい。好ましくは、1.2≦{(R−D1)/(R−D2)}≦10を満足することである。
【0029】
以上のような考え方に基づいて、各部の寸法を定めることによって、支持体11にシート6を確実に固定できるとともに、十分に高い通気度を得ることができる。なお、作用面17pの内径D2は溶着部15の内径に略一致し、作用面17pの幅は溶着部15の幅に略一致する。
【0030】
図1に示す実施形態では、通気部材13と筐体91とが別部品である。ただし、図6に示すように、筐体93を構成する部品である筐本体94にシート6が直接溶着されていてもよい。図6の実施形態では、筐本体94が図1に示す実施形態における支持体11の役割を果たす。筐本体94へのシート6の溶着は、図4を参照して説明した方法によって行うことができる。
【0031】
図6に示すように、通気機能を有する筐体93(通気部材)は、内部と外部とを貫く通気孔94hを有する筺本体94と、筺本体94に直接溶着された通気性を有するシート6とを備えている。図3を援用して説明すると、通気孔94hの周囲に形成された開口端面95の外周領域(図3に示す外周領域12jに相当)において、筺本体94にシート6が溶着され、環状の溶着部(図3に示す溶着部15に相当)が形成されている。溶着部に包囲された内周領域(図3に示す内周領域12kに相当)では、筺本体94にシート6が溶着されておらず、シート6が筺本体94によって支持されるようにシート6の主面6p(図3)が開口端面95に接している。図1に示す通気部材13と同様のこのような構成により、通気部材13と同様の有意な効果を得ることができる。
【0032】
図7および図8を参照して、さらに別の実施形態を説明する。図7は、完成品としての通気部材の斜視図、図8は、溶着工程を実施する前の各部品の斜視図である。本実施形態の通気部材23も、先に説明した実施形態と同様に、通気性を有するシート6と、シート6によって塞がれた貫通孔25hを有する支持体25とを備えている。支持体25の最も外側の位置には、シート6を包囲するように環状の堤部26が設けられている。
【0033】
図8に示すように、溶着工程を実施する前の支持体25は、シート6を取り付けるための開口端面12に設けられたリブ27を有する。リブ27は、開口端面12の外側領域12j、すなわち、シート6と支持体25との溶着部15(図9)が形成されるべき領域に設けられている。本実施形態において、リブ27の平面形状は、貫通孔25hと同心の環状である。このようなリブ27は、支持体25とシート6との接合強度を高める役割を果たす。
【0034】
リブ27の高さは特に限定されないが、シート6と支持体25の開口端面12との間に隙間ができるのを防ぐために、溶着工程を実施する前の高さで、例えば0.1〜5mm(好ましくは0.5〜1.5mm)の範囲内にあるとよい。なお、リブ27の高さは、開口端面12のリブ27が形成されていない位置からの高さで表される。
【0035】
図9に示すように、リブ27は、溶着時の熱で溶けて面内方向に広がる。そのため、完成品としての通気部材23では、リブ27の痕跡27qが残存するだけである。痕跡27qは、シート6と支持体25との溶着部15に含まれている。溶着部15において、痕跡27qは概ねフラットな面を形成するか、溶着部15が形成されていない内周領域12kよりも少し盛り上がった面を形成する。溶着時の熱で溶けたリブ27の樹脂がシート6の微孔に比較的強い力で押し込まれて固まるため、接合強度の高い溶着部15を形成できる。つまり、溶着前の支持体25にリブ27を設けておくことより、溶着部15を外周領域12jにのみ形成することに基づく接合強度の低下を防止できる。
【0036】
図10に示すように、溶着工程において、支持体25の径方向に関して作用面17pがリブ27を跨るように、支持体25の開口端面12に載せたシート6にホーン17を接触させる。シート6の外周縁6eは、リブ27よりも十分外側に位置している。図10に示す位置関係で溶着工程を行なうことにより、図9に示す溶着部15を形成できる。なお、溶着時にシート6に及ぶダメージが大きくないように、リブ27は、半球状の断面を有していてもよいし、面取りされていてもよい。また、同心円状に複数のリブ27(二重または三重が好ましい)を設けてもよい。
【0037】
本発明は、通気性を有するシートと支持体とが溶着されていない領域(内周領域)を作る点に一つの特徴を有する。ただし、溶着面としての開口端面にリブが設けられた支持体を使用するとともに、径方向に関してリブを跨るように溶着ホーンを接触させ、溶着時の熱でリブが溶けて概ねフラットな面を形成するように、支持体にシートを溶着するという点も、本発明の一つの特徴である。
【0038】
昨今では、例えば自動車の各種部品の小型化の流れを受けて、より小型でありながら、従来のものと同等の通気性能を有する通気部材が求められている。そのため、シート(多孔質膜)と支持体との溶着面積を十分に確保するのが難しいケースも出始めている。溶着面積が不足すると、強度不足の問題が表面化する。したがって、支持体やシートの寸法拡大を伴うことなく接合強度を高める工夫が必要となる。上記本発明の特徴の後者によると、支持体やシートの寸法拡大を伴うことなく接合強度を高めることができる。そして、上記本発明の特徴の前者により、通気性能の向上をも図れる。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
図4を参照して説明した方法により、図1に示す通気部材を作製した。溶着工程では、熱溶着を採用した。具体的な条件は、以下の通りである。
・シート:PTFE多孔質膜とポリエステル不織布との複合体(積層条件:荷重 25N、溶着温度 270℃、溶着時間 1.0秒、寸法:φ8.8mm)
・支持体:熱可塑性エラストマー(AES社製 サントプレーン(登録商標)111−73)
・支持体の貫通孔の内径D1:φ6.0mm
・溶着ホーンの先端部の内径D2:φ6.6mm
・支持体へのシートの溶着条件:200℃、0.2MPa、1秒
【0040】
(実施例2)
・シート:PTFE多孔質膜とポリオレフィン不織布との複合体(積層条件:荷重 40N、溶着温度 170℃、溶着時間 1.0秒、寸法:φ6.9mm)
・支持体:熱可塑性エラストマー(AES社製 サントプレーン(登録商標)111−73)
・支持体の貫通孔の内径D1:φ4.8mm
・溶着ホーンの先端部の内径D2:φ5.0mm
・支持体へのシートの溶着条件:200℃、0.2MPa、1秒
【0041】
(実施例3)
・シート:PTFE多孔質膜とポリオレフィン不織布との複合体(積層条件:荷重 40N、溶着温度 170℃、溶着時間 1.0秒、寸法:φ13mm)
・支持体:PBT
・支持体の貫通孔の内径D1:φ7.5mm
・溶着ホーンの先端部の内径D2:φ10mm
・溶着ホーンの先端部の外径R:φ12mm
・支持体へのシートの溶着条件:265℃、0.2MPa、1秒
【0042】
(比較例1)
溶着ホーンの先端部の内径を、支持体の貫通孔の内径(φ6.0mm)に一致させた点を除き、実施例1と同一条件で通気部材を作製した。
【0043】
(比較例2)
溶着ホーンの先端部の内径を、支持体の貫通孔の内径(φ4.8mm)に一致させた点を除き、実施例2と同一条件で通気部材を作製した。
【0044】
(比較例3)
図9を参照して説明したインサート成形によって、通気部材を作製した。実施例3と同じシートを用いるとともに、支持体の貫通孔の内径D1も実施例3と同じ7.5mmとした。
【0045】
(通気度測定)
実施例および比較例の通気部材の通気度を、JIS P 8117(1998)に規定された方法に準じ、自動ガーレー式デンソメータによって測定した。実施例1の通気度は、比較例1の通気度の1.15倍であった。実施例2の通気度は、比較例2の通気度の1.2倍であった。実施例3の通気度は、比較例3の通気度の1.8倍であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ランプ、モーター、センサ、スイッチ、ECU、ギアボックス等の自動車部品の筐体に適用できる。また、自動車部品以外にも、移動体通信機器、カメラ、電気剃刀、電動歯ブラシ等の電気製品の筐体に本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態にかかる通気部材の断面図
【図2A】通気性を有するシートの別例の斜視図
【図2B】通気性を有するシートのさらに別例の斜視図
【図3】図1に示す通気部材の破線部Aの拡大図
【図4】図1に示す通気部材の製造工程図
【図5】図1の通気部材が取り付けられた筐体の全体図
【図6】本発明の他の実施形態にかかる筐体の断面図
【図7】本発明のさらに他の実施形態にかかる通気部材の斜視図
【図8】図7に示す通気部材を構成する部品の溶着工程を実施する前の斜視図
【図9】図7に示す通気部材の部分拡大断面図
【図10】図7に示す通気部材を製造するための溶着工程を示す工程図
【図11】インサート成形による従来の通気部材の製造方法を示す断面図
【符号の説明】
【0048】
1 PTFE多孔質膜
2,3 補強材
6 通気性を有するシート
11,25 支持体
11h,25h 貫通孔
12,95 開口端面
12j 開口端面の外周領域
12k 開口端面の内周領域
13,25 通気部材
15 溶着部
17 溶着ホーン
17p ホーンの作用面
27 リブ
93 筐体(通気部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の電装部品を収納する筐体には、内部と外部との差圧を解消することによって、内圧の上昇による筐体の破損を防ぐ機能(内圧調整機能)が付与されている。そのような機能を筐体に付与するための通気部材として、多孔質膜を用いたものが知られている。例えば、下記特許文献1〜3に開示された通気部材(特許文献1では通気可能栓と呼ばれている)は、支持体としての筒状の本体部と、その本体部にインサート成形によって接合された多孔質膜とを備えている。
【0003】
上記のような通気部材の差圧解消能力は、一般に、多孔質膜の通気度と多孔質膜の寸法とに応じて決まる。したがって、差圧解消能力を高めるには、多孔質膜の面積を拡大したり、多孔質膜の通気度を改善したりすればよい。
【0004】
しかしながら、多孔質膜の通気度に関していえば、もはや改善の余地を見出すことが困難なレベルに達している。他方、多孔質膜の面積の拡大に関していえば、通気部材の防塵防水性の低下を伴うため、簡単には採用できない。近年では、内圧調整機能を付与するべき筐体の小型化に伴い、通気部材の寸法に対する制限が厳しくなってきているという事情もある。
【0005】
特許文献1に記載されているインサート成形によると、多孔質膜と本体部との接合強度の向上を図れる。図11に示すように、インサート成形では、押さえピン102で多孔質膜103を金型101に対して位置決め固定し、キャビティKVに樹脂を射出する。そのため、本体部の開口面積を超える通気面積を得ることは困難である。また、ピン102で圧力をかけるため、多孔質膜103のピン102,102の間に位置する部分がつぶれて通気機能が失われる。結果として、通気面積が本体部の開口面積よりも小さくなることもある。
【特許文献1】特開2003−063549号公報
【特許文献2】特開2004−358746号公報
【特許文献3】特開2004−249653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、通気性を有するシートの通気性能の向上やシートの面積の拡大以外の方法で、通気部材の内圧調整機能の改善を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
通気性を有するシートと、
通気を要する空間と外部空間とを接続するための通気孔を有し、その通気孔が前記シートによって塞がれている支持体とを備え、
前記通気孔の開口端面の外周領域において、前記支持体に前記シートが溶着され、環状の溶着部が形成される一方、
前記溶着部に包囲された前記開口端面の内周領域では、前記支持体に前記シートが溶着されておらず、かつ前記シートが前記支持体によって支持されるように前記シートの主面が前記開口端面に接している、通気部材を提供する。
【0008】
他の側面において、本発明は、
通気性を有するシートと、通気を要する空間と外部空間とを接続するための通気孔が前記シートによって塞がれている支持体と、を備えた通気部材の製造方法であって、
前記シートと前記支持体とを個別に準備する工程と、
前記通気孔が塞がれるように前記シートと前記支持体との相対的な位置決めを行う工程と、
前記シートを取り付けるための開口端面の外周領域において前記支持体と前記シートとの環状の溶着部が形成され、かつ前記外周領域に囲まれた前記開口端面の内周領域では当該開口端面と前記シートの主面との非接合状態が維持されるように、前記支持体に前記シートを溶着する工程と、
を含む、通気部材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
特許文献1に開示されているように、従来の通気部材によれば、支持体の開口端面とシートの主面とが重なり合っている領域の全体が接合面となっている。支持体に接合されている部分におけるシートの通気性は失われているので、差圧解消には寄与しない。したがって、このような通気部材においては、通気孔の開口面積とシートの通気面積とが等しくなる。
【0010】
これに対し、本発明の通気部材によれば、通気性を有するシートと支持体との溶着部の形成範囲が開口端面の外周領域に制限されており、内周領域では支持体にシートが溶着されていない。溶着されていない部分では通気性が発揮されるので、シートの実質的な通気面積は、通気孔の開口面積よりも大きくなる。つまり、本発明によれば、シートの実質的な面積拡大を伴うことなく、通気部材の通気性能(差圧解消能力)の向上を図ることができる。また、通気孔の開口面積の拡大を伴わないため、防塵防水性や耐水圧のような諸特性を犠牲にせずに済む。
【0011】
そして、本発明の方法により、上記本発明の通気部材を適切に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態にかかる通気部材の縦断面図である。図5は、図1の通気部材が取り付けられた筐体の斜視図である。図5に示すように、図1に示す通気部材13は、例えば自動車の電装部品の筐体91に取り付けられる。
【0014】
図1に示すように、通気部材13は、通気性を有するシート6と、貫通孔11hが形成された支持体11とを備えている。貫通孔11hは、支持体11の内部(中心部)を貫いており、通気を要する筐体91の内部空間と外部とを接続するための通気孔として機能する。貫通孔11hの一方の開口は、シート6によって塞がれており、他方の開口が筐体91の内部空間に接続される。支持体11は、略円筒形状であり、シート6を取り付けるための面として、貫通孔11hの一方の開口の周囲に環状の開口端面12を有している。開口端面12は、シート6の面内方向に平行な平面である。シート6の中心は、貫通孔11hの中心に一致している。シート6の直径は、開口端面12の外径よりも大きい。
【0015】
図3の部分拡大図に示すように、開口端面12は、外周領域12jと内周領域12kとを含む。開口端面12の外周領域12jにおいて支持体11にシート6が溶着されている。シート6の主面6pと開口端面12とが接合され、環状の溶着部15が形成されている。溶着部15の面積は、例えばシート6の全面積の5〜20%の範囲内で定めることができる。溶着部15の面積をこのような範囲とすれば、通気面積を十分に確保しつつ、支持体11からのシート6の剥離を防止できる。また、溶着ムラを小さくすることができ、溶着部15の耐水不良も起こりにくい。
【0016】
一方、溶着部15に包囲された開口端面12の内周領域12kでは、支持体11にシート6が溶着されていない。ただし、支持体11によってシート6が支持されるように、シート6の主面6pが開口端面12に接している。支持体11に溶着されていない部分は通気性が発揮されるので、シート6の実質的な通気面積は、貫通孔11hの開口面積よりも大きい。ただし、内周領域12kにおいてもシート6が支持されているので、外部からの水や小石等に対する強度は従来の通気部材と比べて遜色ない。
【0017】
支持体11は、射出成形、圧縮成形、切削等の一般的な成形手法により作製することができる。支持体11の材料としては、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PA(ナイロン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の熱可塑性樹脂や、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)、シリコーンゴム等の熱可塑性エラストマーを用いることができる。本実施形態では、熱可塑性エラストマーによって支持体11が構成されている。支持体11の弾性力によって通気部材13を筐体91に固定するために、支持体11の外周面に凹凸11pが付与されている。
【0018】
なお、支持体11の材料は、カーボンブラック、チタンホワイト等の顔料類、ガラス粒子、ガラス繊維等の補強用フィラー類、撥水材等を含んでいてもよい。また、支持体11は、その表面に撥液処理を施すことにより、液体(水や油)を排除しやすくなる。
【0019】
シート6は、厚さ方向および面内方向の両方向に通気性を有しているものであればよく、構造や材料は特に限定されない。例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体のようなフッ素樹脂によって構成された多孔質膜をシート6に用いることができる。中でも、小面積で通気性が確保でき、筐体内部への異物の侵入を阻止する機能の高いPTFE多孔質膜を好適に用いることができる。
【0020】
シート6として、PTFE多孔質膜を単独で用いてもよい。さらに、図2Aに示すように、シート6は、PTFE多孔質膜1と、PTFE多孔質膜1に一体化された補強材2とを含んでいてもよい。補強材2は、PTFE多孔質膜1よりも通気度が高いものであるとよい。例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、アラミド樹脂のような樹脂によって構成された織布、不織布、メッシュ、ネット、スポンジ、フォームまたは多孔体を、補強材2として用いることができる。
【0021】
補強材2の形状は、図2Aに示すように、PTFE多孔質膜1と同一(例えば円形)であってもよい。また、図2Bに示すように、環状の補強材3がPTFE多孔質膜1に一体化されていてもよい。このような補強材2(,3)は、PTFE多孔質膜1の片面のみに設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。PTFE多孔質膜1の片面にのみ補強材が設けられている場合、補強材2(,3)と支持体11とが接する向きでシート6を支持体11に溶着してもよいし、その逆の向きでもよい。
【0022】
シート6の形状は、通常は円形である。シート6の厚さは、強度および支持体11への固定のしやすさを考慮して、1μm〜5mmの範囲で調整することができる。シート6の通気度は、JIS P 8117に規定されたガーレー試験機法により得られるガーレー値にて0.1〜500sec/100cm3の範囲にあるとよい。シート6の耐水圧は、1.0KPa以上あるとよい。
【0023】
支持体11へのシート6の溶着は、次のような方法で行うことができる。まず、シート6および支持体11を準備する(部品準備工程)。次に、図4の上段図に示すように、貫通孔11hの一方の開口がシート6によって塞がれるように、別々に準備した支持体11とシート6との相対的な位置決めを行う(位置決め工程)。具体的には、シート6の中心と貫通孔11hの中心とが一致するように、シート6を支持体11の開口端面12に載せる。次に、図4の下段図に示すように、支持体11にシート6を溶着する(溶着工程)。シート6を支持体11に溶着することにより、図1に示す通気部材13を製造することができる。
【0024】
前述したように、支持体11は、シート6を取り付けるための面として環状の開口端面12を有している。支持体11にシート6を溶着する工程は、環状の溶着部15の形成される範囲が開口端面12の外周領域12j(図3参照)に制限され、外周領域12jに囲まれた内周領域12kでは開口端面12とシート6の主面との非接合状態が維持されるように行うことができる。
【0025】
支持体11とシート6とを溶着するための方法は、熱溶着、超音波溶着、インパルス溶着またはレーザー溶着であってよい。これらの方法によれば、溶着部15が開口端面12の外周領域12jにのみ形成されるように、溶着工程を行うことができる。本明細書では、ホーン17を用いた溶着方法により、支持体11にシート6を溶着する例を示している。
【0026】
支持体11とシート6とを溶着するための方法として、高精度な溶着を容易かつ安価に行えることから、熱溶着または超音波溶着が好適である。熱溶着または超音波溶着を行うためのホーン17は、支持体11とシート6との接触面に熱を加えるための環状の作用面17pをその先端部に有している。作用面17pの内周縁の全部が支持体11の開口端面12の内周縁よりも外側に位置しうるように、ホーン17の先端部の寸法が定められている。本実施形態では、図4の下段図に示すように、ホーン17の作用面17pの内径D2が支持体11の貫通孔11hの内径D1よりも大きく設定されている。ホーン17の外径Rは、開口端面12の外径にほぼ一致する。このようなホーン17によれば、環状の溶着部15を簡単かつ迅速に形成することが可能である。
【0027】
また、シート6の外周部分が支持体11の開口端面12から僅かにはみ出るように、シート6の直径が調整されている。このようにすれば、支持体11にシート6を溶着する際の位置決め誤差を吸収することができるので、環状の溶着部15を確実に形成することが可能となる。また、開口端面12の外周縁と溶着部15の外周縁とを一致させることができるため、溶着部15の面積を最大化できる。これにより、シート6と支持体11とをいっそう強固に溶着できる。
【0028】
ホーン17の作用面17pの内径D2と、支持体11の貫通孔11hの内径D1との差ΔDは、特に限定されるものではないが、例えば0.2mm以上であり、好ましくは1.0mm以上である。差ΔDが小さすぎると通気性能向上の効果を期待できない。ただし、差ΔDが大きすぎると支持体11とシート6との溶着強度が不足する可能性があるので、例えば、溶着部15の面積がシート6の面積の5〜20%の範囲となるように差ΔDの上限を規定できる。また、ホーン17の外径Rと、ホーン17の内径D2と、貫通孔11hの内径D1とが、1.05≦{(R−D1)/(R−D2)}の関係を満たしてもよい。好ましくは、1.2≦{(R−D1)/(R−D2)}≦10を満足することである。
【0029】
以上のような考え方に基づいて、各部の寸法を定めることによって、支持体11にシート6を確実に固定できるとともに、十分に高い通気度を得ることができる。なお、作用面17pの内径D2は溶着部15の内径に略一致し、作用面17pの幅は溶着部15の幅に略一致する。
【0030】
図1に示す実施形態では、通気部材13と筐体91とが別部品である。ただし、図6に示すように、筐体93を構成する部品である筐本体94にシート6が直接溶着されていてもよい。図6の実施形態では、筐本体94が図1に示す実施形態における支持体11の役割を果たす。筐本体94へのシート6の溶着は、図4を参照して説明した方法によって行うことができる。
【0031】
図6に示すように、通気機能を有する筐体93(通気部材)は、内部と外部とを貫く通気孔94hを有する筺本体94と、筺本体94に直接溶着された通気性を有するシート6とを備えている。図3を援用して説明すると、通気孔94hの周囲に形成された開口端面95の外周領域(図3に示す外周領域12jに相当)において、筺本体94にシート6が溶着され、環状の溶着部(図3に示す溶着部15に相当)が形成されている。溶着部に包囲された内周領域(図3に示す内周領域12kに相当)では、筺本体94にシート6が溶着されておらず、シート6が筺本体94によって支持されるようにシート6の主面6p(図3)が開口端面95に接している。図1に示す通気部材13と同様のこのような構成により、通気部材13と同様の有意な効果を得ることができる。
【0032】
図7および図8を参照して、さらに別の実施形態を説明する。図7は、完成品としての通気部材の斜視図、図8は、溶着工程を実施する前の各部品の斜視図である。本実施形態の通気部材23も、先に説明した実施形態と同様に、通気性を有するシート6と、シート6によって塞がれた貫通孔25hを有する支持体25とを備えている。支持体25の最も外側の位置には、シート6を包囲するように環状の堤部26が設けられている。
【0033】
図8に示すように、溶着工程を実施する前の支持体25は、シート6を取り付けるための開口端面12に設けられたリブ27を有する。リブ27は、開口端面12の外側領域12j、すなわち、シート6と支持体25との溶着部15(図9)が形成されるべき領域に設けられている。本実施形態において、リブ27の平面形状は、貫通孔25hと同心の環状である。このようなリブ27は、支持体25とシート6との接合強度を高める役割を果たす。
【0034】
リブ27の高さは特に限定されないが、シート6と支持体25の開口端面12との間に隙間ができるのを防ぐために、溶着工程を実施する前の高さで、例えば0.1〜5mm(好ましくは0.5〜1.5mm)の範囲内にあるとよい。なお、リブ27の高さは、開口端面12のリブ27が形成されていない位置からの高さで表される。
【0035】
図9に示すように、リブ27は、溶着時の熱で溶けて面内方向に広がる。そのため、完成品としての通気部材23では、リブ27の痕跡27qが残存するだけである。痕跡27qは、シート6と支持体25との溶着部15に含まれている。溶着部15において、痕跡27qは概ねフラットな面を形成するか、溶着部15が形成されていない内周領域12kよりも少し盛り上がった面を形成する。溶着時の熱で溶けたリブ27の樹脂がシート6の微孔に比較的強い力で押し込まれて固まるため、接合強度の高い溶着部15を形成できる。つまり、溶着前の支持体25にリブ27を設けておくことより、溶着部15を外周領域12jにのみ形成することに基づく接合強度の低下を防止できる。
【0036】
図10に示すように、溶着工程において、支持体25の径方向に関して作用面17pがリブ27を跨るように、支持体25の開口端面12に載せたシート6にホーン17を接触させる。シート6の外周縁6eは、リブ27よりも十分外側に位置している。図10に示す位置関係で溶着工程を行なうことにより、図9に示す溶着部15を形成できる。なお、溶着時にシート6に及ぶダメージが大きくないように、リブ27は、半球状の断面を有していてもよいし、面取りされていてもよい。また、同心円状に複数のリブ27(二重または三重が好ましい)を設けてもよい。
【0037】
本発明は、通気性を有するシートと支持体とが溶着されていない領域(内周領域)を作る点に一つの特徴を有する。ただし、溶着面としての開口端面にリブが設けられた支持体を使用するとともに、径方向に関してリブを跨るように溶着ホーンを接触させ、溶着時の熱でリブが溶けて概ねフラットな面を形成するように、支持体にシートを溶着するという点も、本発明の一つの特徴である。
【0038】
昨今では、例えば自動車の各種部品の小型化の流れを受けて、より小型でありながら、従来のものと同等の通気性能を有する通気部材が求められている。そのため、シート(多孔質膜)と支持体との溶着面積を十分に確保するのが難しいケースも出始めている。溶着面積が不足すると、強度不足の問題が表面化する。したがって、支持体やシートの寸法拡大を伴うことなく接合強度を高める工夫が必要となる。上記本発明の特徴の後者によると、支持体やシートの寸法拡大を伴うことなく接合強度を高めることができる。そして、上記本発明の特徴の前者により、通気性能の向上をも図れる。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
図4を参照して説明した方法により、図1に示す通気部材を作製した。溶着工程では、熱溶着を採用した。具体的な条件は、以下の通りである。
・シート:PTFE多孔質膜とポリエステル不織布との複合体(積層条件:荷重 25N、溶着温度 270℃、溶着時間 1.0秒、寸法:φ8.8mm)
・支持体:熱可塑性エラストマー(AES社製 サントプレーン(登録商標)111−73)
・支持体の貫通孔の内径D1:φ6.0mm
・溶着ホーンの先端部の内径D2:φ6.6mm
・支持体へのシートの溶着条件:200℃、0.2MPa、1秒
【0040】
(実施例2)
・シート:PTFE多孔質膜とポリオレフィン不織布との複合体(積層条件:荷重 40N、溶着温度 170℃、溶着時間 1.0秒、寸法:φ6.9mm)
・支持体:熱可塑性エラストマー(AES社製 サントプレーン(登録商標)111−73)
・支持体の貫通孔の内径D1:φ4.8mm
・溶着ホーンの先端部の内径D2:φ5.0mm
・支持体へのシートの溶着条件:200℃、0.2MPa、1秒
【0041】
(実施例3)
・シート:PTFE多孔質膜とポリオレフィン不織布との複合体(積層条件:荷重 40N、溶着温度 170℃、溶着時間 1.0秒、寸法:φ13mm)
・支持体:PBT
・支持体の貫通孔の内径D1:φ7.5mm
・溶着ホーンの先端部の内径D2:φ10mm
・溶着ホーンの先端部の外径R:φ12mm
・支持体へのシートの溶着条件:265℃、0.2MPa、1秒
【0042】
(比較例1)
溶着ホーンの先端部の内径を、支持体の貫通孔の内径(φ6.0mm)に一致させた点を除き、実施例1と同一条件で通気部材を作製した。
【0043】
(比較例2)
溶着ホーンの先端部の内径を、支持体の貫通孔の内径(φ4.8mm)に一致させた点を除き、実施例2と同一条件で通気部材を作製した。
【0044】
(比較例3)
図9を参照して説明したインサート成形によって、通気部材を作製した。実施例3と同じシートを用いるとともに、支持体の貫通孔の内径D1も実施例3と同じ7.5mmとした。
【0045】
(通気度測定)
実施例および比較例の通気部材の通気度を、JIS P 8117(1998)に規定された方法に準じ、自動ガーレー式デンソメータによって測定した。実施例1の通気度は、比較例1の通気度の1.15倍であった。実施例2の通気度は、比較例2の通気度の1.2倍であった。実施例3の通気度は、比較例3の通気度の1.8倍であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ランプ、モーター、センサ、スイッチ、ECU、ギアボックス等の自動車部品の筐体に適用できる。また、自動車部品以外にも、移動体通信機器、カメラ、電気剃刀、電動歯ブラシ等の電気製品の筐体に本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態にかかる通気部材の断面図
【図2A】通気性を有するシートの別例の斜視図
【図2B】通気性を有するシートのさらに別例の斜視図
【図3】図1に示す通気部材の破線部Aの拡大図
【図4】図1に示す通気部材の製造工程図
【図5】図1の通気部材が取り付けられた筐体の全体図
【図6】本発明の他の実施形態にかかる筐体の断面図
【図7】本発明のさらに他の実施形態にかかる通気部材の斜視図
【図8】図7に示す通気部材を構成する部品の溶着工程を実施する前の斜視図
【図9】図7に示す通気部材の部分拡大断面図
【図10】図7に示す通気部材を製造するための溶着工程を示す工程図
【図11】インサート成形による従来の通気部材の製造方法を示す断面図
【符号の説明】
【0048】
1 PTFE多孔質膜
2,3 補強材
6 通気性を有するシート
11,25 支持体
11h,25h 貫通孔
12,95 開口端面
12j 開口端面の外周領域
12k 開口端面の内周領域
13,25 通気部材
15 溶着部
17 溶着ホーン
17p ホーンの作用面
27 リブ
93 筐体(通気部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有するシートと、
通気を要する空間と外部空間とを接続するための通気孔を有し、その通気孔が前記シートによって塞がれている支持体とを備え、
前記通気孔の開口端面の外周領域において、前記支持体に前記シートが溶着され、環状の溶着部が形成される一方、
前記溶着部に包囲された前記開口端面の内周領域では、前記支持体に前記シートが溶着されておらず、かつ前記シートが前記支持体によって支持されるように前記シートの主面が前記開口端面に接している、通気部材。
【請求項2】
前記シートが、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を含む、請求項1に記載の通気部材。
【請求項3】
前記シートは、前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜に一体化され、かつ通気度が前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜よりも高い補強材をさらに含む、請求項2に記載の通気部材。
【請求項4】
前記支持体が筐体を構成する部品であり、
前記通気を要する空間が前記筐体の内部空間である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の通気部材。
【請求項5】
通気性を有するシートと、通気を要する空間と外部空間とを接続するための通気孔が前記シートによって塞がれている支持体と、を備えた通気部材の製造方法であって、
前記シートと前記支持体とを個別に準備する工程と、
前記通気孔が塞がれるように前記シートと前記支持体との相対的な位置決めを行う工程と、
前記シートを取り付けるための開口端面の外周領域において前記支持体と前記シートとの環状の溶着部が形成され、かつ前記外周領域に囲まれた前記開口端面の内周領域では当該開口端面と前記シートの主面との非接合状態が維持されるように、前記支持体に前記シートを溶着する工程と、
を含む、通気部材の製造方法。
【請求項6】
前記支持体と前記シートとを溶着するための方法は、熱溶着、超音波溶着、インパルス溶着またはレーザー溶着である、請求項5に記載の通気部材の製造方法。
【請求項7】
前記支持体と前記シートとを溶着するための方法が、熱溶着または超音波溶着であり、
前記熱溶着または前記超音波溶着を行うためのホーンが、前記支持体と前記シートとの接触面に熱を加えるための環状の作用面をその先端部に有し、
前記環状の作用面の内周縁の全部が前記開口端面の内周縁よりも外側に位置しうるように、前記ホーンの先端部の寸法が定められている、請求項6に記載の通気部材の製造方法。
【請求項8】
前記溶着工程を実施する前の前記支持体が、前記シートを取り付けるための前記開口端面に設けられたリブを有し、
前記溶着工程において、前記支持体の径方向に関して前記作用面が前記リブを跨るように、前記支持体の前記開口端面に載せた前記シートに前記ホーンを接触させる、請求項7に記載の通気部材の製造方法。
【請求項1】
通気性を有するシートと、
通気を要する空間と外部空間とを接続するための通気孔を有し、その通気孔が前記シートによって塞がれている支持体とを備え、
前記通気孔の開口端面の外周領域において、前記支持体に前記シートが溶着され、環状の溶着部が形成される一方、
前記溶着部に包囲された前記開口端面の内周領域では、前記支持体に前記シートが溶着されておらず、かつ前記シートが前記支持体によって支持されるように前記シートの主面が前記開口端面に接している、通気部材。
【請求項2】
前記シートが、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜を含む、請求項1に記載の通気部材。
【請求項3】
前記シートは、前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜に一体化され、かつ通気度が前記ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜よりも高い補強材をさらに含む、請求項2に記載の通気部材。
【請求項4】
前記支持体が筐体を構成する部品であり、
前記通気を要する空間が前記筐体の内部空間である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の通気部材。
【請求項5】
通気性を有するシートと、通気を要する空間と外部空間とを接続するための通気孔が前記シートによって塞がれている支持体と、を備えた通気部材の製造方法であって、
前記シートと前記支持体とを個別に準備する工程と、
前記通気孔が塞がれるように前記シートと前記支持体との相対的な位置決めを行う工程と、
前記シートを取り付けるための開口端面の外周領域において前記支持体と前記シートとの環状の溶着部が形成され、かつ前記外周領域に囲まれた前記開口端面の内周領域では当該開口端面と前記シートの主面との非接合状態が維持されるように、前記支持体に前記シートを溶着する工程と、
を含む、通気部材の製造方法。
【請求項6】
前記支持体と前記シートとを溶着するための方法は、熱溶着、超音波溶着、インパルス溶着またはレーザー溶着である、請求項5に記載の通気部材の製造方法。
【請求項7】
前記支持体と前記シートとを溶着するための方法が、熱溶着または超音波溶着であり、
前記熱溶着または前記超音波溶着を行うためのホーンが、前記支持体と前記シートとの接触面に熱を加えるための環状の作用面をその先端部に有し、
前記環状の作用面の内周縁の全部が前記開口端面の内周縁よりも外側に位置しうるように、前記ホーンの先端部の寸法が定められている、請求項6に記載の通気部材の製造方法。
【請求項8】
前記溶着工程を実施する前の前記支持体が、前記シートを取り付けるための前記開口端面に設けられたリブを有し、
前記溶着工程において、前記支持体の径方向に関して前記作用面が前記リブを跨るように、前記支持体の前記開口端面に載せた前記シートに前記ホーンを接触させる、請求項7に記載の通気部材の製造方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−78866(P2009−78866A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227495(P2008−227495)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
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