説明

遮水壁漏洩検知方法

【課題】海域における廃棄物最終処分場遮水壁の漏洩検知に好適なトレ−サ法による漏洩検知方法を提供する。
【解決手段】盛り土と液体を遮水壁で隔離して、液体を保存する際、前記盛り土にトレ−サを投入し、例えば、前記トレ−サは、遮水壁の近傍に配置され、一端が遮水壁の壁面に対向して開口し、他端が大気中に開口する管状部材を用いて盛り土中に投入して、または遮水壁の壁面に沿って配置した透水性の高い物質に浸透させて、または遮水壁の盛り土側の壁面に沿って貼り付けられるシ−トに予め含有されて盛り土中に投入して、または遮水壁の壁面に沿って投入される土砂に予め混入して盛り土を形成して、前記液体中で前記トレ−サの濃度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトレ−サ法による漏洩検知方法に関し、主として海域における廃棄物最終処分場遮水壁の漏洩検知に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物最終処分場からの漏水には有毒物質が含まれ、地下水や河川水を汚染するため、種々の漏水検知法が検討されている。例えば、遮水シ−トが絶縁性であることを利用して破断個所における電気的特性の変化を検出したり、処分場内、または外におけるトレ−サの検知状況から漏洩個所を検知するトレ−サ法が提案されている。
【0003】
特許文献1は、トレ−サ法を用いた、海域における廃棄物最終処分場における遮水壁の漏洩検知方法に関し、遮水壁と外周護岸の間には中詰砂トレ−サを注入し、処分場内のトレ−サ濃度を検出することが記載されている。
【特許文献1】特開2006−234747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、遮水壁と外周護岸間の外周護岸側に設けられたトレ−サ注入孔からトレ−サを注入するため、トレ−サが遮水壁に到達するには中詰砂内を浸透しなければならず以下に述べる問題が生じる。
【0005】
中詰砂の透水係数が低い場合は、トレ−サが遮水壁に到達するのに時間を要し、漏洩検知に要する期間が長くなる。また、中詰砂は密度、形状などが一様でなく、トレ−サが遮水壁に到達するまでの時間が前後したり、到達しないエリアも発生する。
【0006】
そこで本発明は、上記課題を解決する、トレ−サ法による漏洩検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.盛り土と液体を遮水壁で隔離して、液体を保存する際、前記盛り土にトレ−サを投入し、前記液体中で前記トレ−サの濃度を測定して遮水壁の漏洩検知を行う、遮水壁の漏洩検知方法であって、前記盛り土中に前記トレ−サの高濃度領域を前記遮水壁の壁面に沿って形成することを特徴とする遮水壁の漏洩検知方法。
2.前記トレ−サは、遮水壁の近傍に配置され、一端が遮水壁の壁面に対向して開口し、他端が大気中に開口する管状部材を用いて盛り土中に投入されることを特徴とする1記載の遮水壁の漏洩検知方法。
3.前記トレ−サは、遮水壁の壁面に沿って配置した透水性の高い物質に浸透させて盛り土中に投入することを特徴とする1記載の遮水壁の漏洩検知方法。
4.前記トレ−サは、盛り土に予め混入されていることを特徴とする1記載の遮水壁の漏洩検知方法。
5.前記トレ−サは、遮水壁の壁面に沿って投入される盛り土のみに予め混合されていることを特徴とする4記載の遮水壁の漏洩検知方法。
6.前記トレ−サは、遮水壁の盛り土側の壁面に沿って貼り付けられるシ−トに予め含有されていることを特徴とする1記載の遮水壁の漏洩検知方法。
7.前記盛り土が中詰砂で、前記遮蔽壁が複数の鋼矢板を継手で連結したものであることを特徴とする1乃至6のいずれか一つに記載の遮水壁の漏洩検知方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トレ−サが遮水壁に接して存在するので、漏洩箇所に到達するまでの拡散が少なく、到達時間も短いため、少量のトレ−サ使用量で漏洩発生から短時間かつ高精度で検出可能で産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は遮水壁の壁面、好ましくは継手に沿ってトレ−サ高濃度領域を形成することを特徴とする。以下、本発明を海域における廃棄物最終処分場遮水壁の漏洩検知を対象に、図面を用いて詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明を適用して漏洩検知を行う場合の廃棄物最終処分場の構成を説明する断面図で、図において1は遮水壁、2はコンクリ−トコーピング、3は護岸となる前面鋼矢板壁、4は中詰砂、5は捨石、6はトレ−サ高濃度分布領域、7はトレ−サ6を中詰砂4内に注入する管状部材である鋼製単管を示す。
【0011】
遮水壁1は継手を止水処理した複数の鋼矢板で構成され、頭部はコンクリ−トコ−ピング2により保護されている。遮水壁1の前面は、廃棄物が投入される空間であり、廃棄物が投入されるまでは保有水により満たされている。遮水壁1の海側には護岸としてもう一列の前面鋼矢板壁3が設けられ、遮水壁1と前面鋼矢板壁3の間は中詰砂4が投入されている。
【0012】
本発明に係る漏洩検知方法では、トレ−サ(図示しない)を鋼製単管7を用いて遮水壁1の壁面に向かって投入し、壁面に沿ってトレ−サ高濃度分布領域6を形成する。
【0013】
鋼製単管7は、一端が遮水壁の壁面に対向して開口し、他端が液面上に開口する長さでコンクリ−トコ−ピング2と干渉しないように遮水壁1の法線から離れた位置で中詰砂4内に斜めに押込まれた後、管内の土砂を掘削してトレ−サを注入する注入管とする。
【0014】
尚、遮水壁1の継手は止水処理されているが、経年変化や地震などにより漏洩が生じる可能性が高くなるので、鋼製単管7の先端は遮水壁1の継手の位置とし、保有水の水深方向に亘ってトレ−サ高濃度分布領域6が形成されるように、深度を変えて複数本埋設することが望ましい。図では、鋼製単管7を直線状としているが、トレ−サの注入に支障が生じない範囲で、曲線やその他の形状としても良い。
【0015】
遮水壁1が土砂中にある場合は、鋼製単管7は先端が遮水壁近傍に位置するように地上部より斜めに埋設する。
【0016】
本発明によれば、トレ−サを鋼製単管7を用いて遮水壁1の壁面に向かって投入するので、中詰砂4にトレ−サを注入した場合に生じる、止水処理されていない前面鋼矢板壁3の継手からトレ−サが流出することが防止される。
【0017】
また、トレ−サ高濃度分布領域6を形成する際、トレ−サを遮水壁1の継手に直接注入する必要がないので、継手の止水処理に悪影響を及ぼすおそれがない。
【0018】
図2は本発明の他の実施例を示す図で、図において8は粘土壁を示し、図1と同符号のものは同じものを示す。
【0019】
図示した実施例は、比較的透水性の良い中詰砂4の場合に好適なもので、遮水壁1と平行して粘土により粘土壁8を構築し、粘土壁8と遮水壁1で挟まれた中詰砂4の内部にトレ−サを流しこむ。
【0020】
透水性の高い中詰砂4にトレ−サを流し込んだ場合、止水処理されていない前面鋼矢板壁3から流出してしまうため、粘土壁8により防止する。粘土壁8は、トレ−サ高濃度分布領域6が遮水壁1に沿って形成されるように、コンクリ−トコ−ピング2を避けて、トレ−サが投入可能な程度に遮水壁1に近づけて構築することが望ましい。
【0021】
尚、中詰砂4の透水性が低い場合や中詰砂4の変わりに粘土とする場合は、中詰砂4や粘土が遮水壁に接する部分を、レキ等透水性が良い材料で置き換えたり、遮水壁に沿って有孔管を設置することがトレ−サ高濃度分布領域6を遮水壁1に沿って形成するのに有効である。
【0022】
図3は本発明の他の実施例を示し、図において9はクレ−ン、10はトレ−サ入り中詰砂を示し、図1と同符号のものは同じものを示す。
【0023】
図示した実施例は、遮水壁1と前面鋼矢板壁3を設置後、遮水壁1と前面鋼矢板壁3の間に中詰砂4を投入する工程において、あらかじめ中詰砂4にトレ−サを混入しておく方法である。
【0024】
あらかじめ中詰砂4にトレ−サを混入する手間を除けば、トレ−サを別途注入する工事が不要なため経済的である。また遮水壁1に接する部分に投入される中詰砂4のみにトレ−サを混入し、使用量を減らすことも可能である。
【0025】
図4は本発明の他の実施例を示し、図において11はトレ−サを含有シ−トを示し、図1と同符号のものは同じものを示す。
【0026】
図示した実施例は、遮水壁1の設置時にトレ−サ含有シ−ト11を遮水壁1に貼り付ける。一般に中詰砂4を投入後にトレ−サ含有シ−ト11を遮水壁1に貼り付けることは困難なため、トレ−サ含有シ−ト11を貼り付け後に中詰砂4を投入する手順となる。
【0027】
トレ−サ含有シ−ト11はトレ−サを保持し、時間経過とともに徐々にトレ−サが染み出していくものを使用する。例えば不織布を使用し、蛍光染料を染み込ませておく。
【0028】
尚、図1〜4では遮蔽壁の外側の盛り土を中詰砂としたが、本発明を限定するものでなく、盛り土は土壌やレキ等で構成しても良い。
【実施例1】
【0029】
図1に示した本発明例により漏洩検知を行った。コ−ピングと干渉しないように遮水壁法線から2m離れた位置で中詰砂内にφ60mmの鋼製単管を斜めに押込み、管内の土砂を掘削して注入管とした。注入管の先端は遮水壁の継手の位置にくるようにし、深度を変えて8本埋設した。
【0030】
トレ−サは、蛍光染料(ロ−ダミンWT)を使用した。材料が低価格であり、ケ−ブルで繋がれた測定部を投入して濃度の計測が可能で、検出限界は0.03ppbである。
【0031】
トレ−サ溶液は8本の注入管で320L必要とするが、ロ−ダミンWTは20%溶液で販売されており、100mLの原液を320Lの海水で希釈した場合100ppm程度の濃度となる。
【0032】
止水処理が健全な継手の近傍で保有水を採取し濃度を計測したところ、トレ−サ濃度は0.05ppm以下であり、人工的に止水処理の一部を破損した継手近傍で濃度を計測したところ、トレ−サ濃度は10-1ppmオ−ダ−であり、明確に濃度に差があらわれた。
【0033】
なお前記実施例ではトレ−サを蛍光染料としたが、水溶性で海水中で使用できるものであれば他の物質でも良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明例。
【図2】本発明例。
【図3】本発明例。
【図4】本発明例。
【符号の説明】
【0035】
1 遮水壁
2 コンクリ−トコ−ピング
3 前面鋼矢板壁
4 中詰砂
5 捨石
6 トレ−サ高濃度分布領域
7 鋼製単管
8 粘土壁
9 クレ−ン
10 トレ−サ入り中詰砂
11 トレ−サ含有シ−ト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
盛り土と液体を遮水壁で隔離して、液体を保存する際、前記盛り土にトレ−サを投入し、前記液体中で前記トレ−サの濃度を測定して遮水壁の漏洩検知を行う、遮水壁の漏洩検知方法であって、前記盛り土中に前記トレ−サの高濃度領域を前記遮水壁の壁面に沿って形成することを特徴とする遮水壁の漏洩検知方法。
【請求項2】
前記トレ−サは、遮水壁の近傍に配置され、一端が遮水壁の壁面に対向して開口し、他端が大気中に開口する管状部材を用いて盛り土中に投入されることを特徴とする請求項1記載の遮水壁の漏洩検知方法。
【請求項3】
前記トレ−サは、遮水壁の壁面に沿って配置した透水性の高い物質に浸透させて盛り土中に投入することを特徴とする請求項1記載の遮水壁の漏洩検知方法。
【請求項4】
前記トレ−サは、盛り土に予め混入されていることを特徴とする請求項1記載の遮水壁の漏洩検知方法。
【請求項5】
前記トレ−サは、遮水壁の壁面に沿って投入される盛り土のみに予め混合されていることを特徴とする請求項4記載の遮水壁の漏洩検知方法。
【請求項6】
前記トレ−サは、遮水壁の盛り土側の壁面に沿って貼り付けられるシートに予め含有されていることを特徴とする請求項1記載の遮水壁の漏洩検知方法。
【請求項7】
前記盛り土が中詰砂で、前記遮蔽壁が複数の鋼矢板を継手で連結したものであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の遮水壁の漏洩検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−304414(P2008−304414A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153865(P2007−153865)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】