説明

遮水材の漏水監視システム及び漏水検知方法、並びに遮水壁

【課題】遮水材の継手部の止水性能を評価することが可能な漏水監視システム及び漏水検知方法を提供する。
【解決手段】第1の遮水パネル102の雌継手部102bと、この雌継手部102b内に挿入されている第2の遮水パネル102の断面C字形状の雄継手部102cとが係合し、遮水性を有する継手部106を構築している。雄継手部102cの内周面102eと雌継手部102bの内周面102fとの間、及び雄継手部102cの外周面102gの先端部と雌継手部102bの内周面102fとの間から形成される係合部107内に光ファイバケーブル105が設置されている。本実施形態においては、光ファイバケーブル105は、係合部107内の縦方向、つまり鉛直方向に略U字型となるように設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮水材の継手部又はその継手部に隣接して形成される閉鎖区域の止水性を評価可能な漏水監視システム及び漏水検知方法、並びに遮水壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄物処分場等の遮水壁は、継手を有する鋼矢板等の遮水材、例えば、鋼管矢板や遮水パネルを複数連結することにより構築される。遮水材を連結する際には、継手同士を係合した継手部を介して廃棄物処分場内から外部へ汚染水が浸出しないように継手部内を止水材で止水しなければならない。
【0003】
一般的に、例えば、特許文献1に示すように、遮水材の継手部内には、モルタル、アスファルト混合物等の止水材が充填されており、この止水材により汚染水が継手部を通過して場外に浸出しないように構成されている。
【特許文献1】特開2006−193965
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている遮水材の継手部内を止水材にて充填する方法では、止水材を充填した後に継手部又はその継手部に隣接して形成される閉鎖区域の止水性能を評価することができないという問題点があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、その目的は、遮水材の継手部又はその継手部に隣接して形成される閉鎖区域の止水性能を評価することが可能な漏水監視システム及び漏水検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の漏水監視システムは、鉛直方向に延びる複数の遮水材を横方向へ並べて互いに継手で係合してなる止水壁の継手部又はその継手部に隣接して形成される閉鎖区域内における漏水監視システムであって、前記継手部内に、前記継手の長手方向に沿って設置された光ファイバケーブルと、前記光ファイバケーブルに沿った位置での温度分布を測定する温度測定手段とを備えることを特徴とする(第1の発明)。
本発明による漏水監視システムによれば、継手を互いに接続した継手部内又はその継手部に隣接して形成される閉鎖区域内に光ファイバケーブルが設置されているので、継手部内又は閉鎖区域内の温度分布を測定して、継手部内又は閉鎖区域内の温度分布を観察することができる。したがって、周囲の水が継手部内又は閉鎖区域内に浸入することによって生じる継手部内又は閉鎖区域内の温度分布の変化を検知して、継手部内又は閉鎖区域内への漏水を検出することができる。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、前記温度測定手段で測定した前記継手部内又は前記閉鎖区域内の温度分布変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置を更に備えることを特徴とする。
本発明による漏水監視システムによれば、温度測定手段で測定した継手部内又は閉鎖区域内の温度分布変化の度合いが、所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置を更に備えるので、継手部内又は閉鎖区域内への漏水を素早く検出することができる。
【0008】
第3の発明は、第2の発明において、前記温度分布変化の度合いが最も大きい位置を漏水箇所として検出することを特徴とする。
本発明による漏水監視システムによれば、温度測定手段で測定した継手部内又は閉鎖区域内の温度分布変化の度合いが最も大きい位置を漏水箇所とするので、漏水箇所を容易に検出することができる。
【0009】
第4の発明の漏水検知方法は、鉛直方向に延びる複数の遮水材を横方向へ並べて互いに継手で係合してなる止水壁の継手部又はその継手部に隣接して形成される閉鎖区域内における漏水検知方法において、前記継手部内又は前記閉鎖区域内に、前記継手の長手方向に沿って設置された光ファイバケーブルと前記光ファイバケーブルに沿った位置での温度分布を測定する温度測定手段とを備える監視システムを用い、前記継手部内又は前記閉鎖区域内の温度分布を測定して、前記継手部内又は前記閉鎖区域内の温度分布変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると漏水が生じているとすることを特徴とする。
本発明による漏水検知方法によれば、継手部内又は閉鎖区域内に光ファイバケーブルを設置しているので、継手部内又は閉鎖区域内の温度分布を測定して、継手部内又は閉鎖区域内の温度分布を観察することができる。したがって、廃棄物処分場や貯水池等のピット内の水又は周囲の水が継手部内又は閉鎖区域内に浸入することによって生じる継手部内又は閉鎖区域内の温度分布変化の度合いを検知して、継手部内又は閉鎖区域内への漏水を検出することができる。
【0010】
第5の発明は、第4の発明において、前記温度分布変化の度合いが最も大きい位置を漏水箇所とすることを特徴とする。
本発明による漏水検知方法によれば、温度測定手段で測定した継手部内又は閉鎖区域内の温度分布変化の度合いが最も大きい位置を漏水箇所とするので、漏水箇所を容易に検出することができる。
【0011】
第6の発明の遮水壁は、鉛直方向に延びる複数の遮水材を横方向へ並べて互いに継手で係合してなる遮水壁であって、前記遮水材の継手を互いに係合した継手部内又はその継手部に隣接して形成される閉鎖区域内に、前記継手の長手方向に沿って設置される光ファイバケーブルと、前記光ファイバケーブルに沿った位置での温度分布を測定する温度測定手段とから構成された漏水監視システムを備えることを特徴とする。
【0012】
第7の発明は、第6の発明において、前記温度測定手段で測定した前記継手部内又は前記閉鎖区域内の温度分布変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、止水材を充填した後の遮水材の継手部又は閉鎖区域の止水性能を評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の第一実施形態に係る遮水材の設置状況を示す側面図である。図1に示すように、廃棄物処分場100とその周囲地盤101との間の遮水壁を構成する遮水材として、例えば、遮水パネル102の列が不透水性地層103に至る深さまで打設されている。不透水性地層103の上には、透水性地層104が存在する。
【0016】
図2は、本実施形態に係る遮水パネル102を示す概略斜視図である。図2に示すように、板状の遮水材である遮水パネル102は、パネル本体102aと、その一方の側面にパネル本体102aの縦方向、つまりパネル本体102aを打設する方向に沿って一体に固定され、スリットSを有する丸形管状の雌継手部102bと、他方の側面にパネル本体102aの縦方向に沿って一体に固定され、断面C字形状(=凸状部)の雄継手部102cと、雌継手部102bの底部を塞ぐように取り付けられた蓋112とを備える。
【0017】
雄継手部102cの外周面102gには左右両側にそれぞれ止水部115が設けられている。止水部115は、一対の丸鋼110と、水膨潤性を有し、一対の丸鋼110間に配置される止水材111とから構成されている。そして、一対の丸鋼110は溶接等により固定され、止水材111は接着材等により貼付されている。止水材111は、本実施形態においては、例えば、水膨潤性を有するゴムを用いる。なお、止水材111は、これに限定されるものではなく、ウレタン樹脂等の水膨潤性を有するものであればよい。
【0018】
図3は、本実施形態に係る継手部106の継手構造を示す平面図であり、図4は、図3のA−A’矢視図である。図3及び図4に示すように、第1の遮水パネル102の雌継手部102bと、この雌継手部102b内に挿入されている第2の遮水パネル102の断面C字形状の雄継手部102cとは、スリットS周辺と雄継手部102cとの間に充填されている止水部115を介して係合し、遮水性を有する継手部106を構築する。
【0019】
雄継手部102cの内周面102eと雌継手部102bの内周面102fとの間、及び雄継手部102cの外周面102gの先端部と雌継手部102bの内周面102fとの間から形成される係合部107内に光ファイバケーブル105が設置されている。本実施形態においては、光ファイバケーブル105は、係合部107内の縦方向、つまり鉛直方向に略U字型となるように設置されている。具体的には、光ファイバケーブル105が、雄継手部102cの一方側先端部の外周面102gと雌継手部102bの内周面102fとの間に設置されるとともに、係合部107の下端部で折り返されて、雄継手部102cの他方側先端部の外周面102gと雌継手部102bの内周面102fとの間に設置されている。ここで、説明の便宜上、廃棄物処分場100側の雄継手部102cの外周面102gと雌継手部102bの内周面102fとの間に設置された光ファイバケーブルを105a、周囲地盤101側の雄継手部102cの外周面102gと雌継手部102bの内周面102fとの間に設置された光ファイバケーブルを105bとする。
【0020】
なお、本実施形態においては、光ファイバケーブル105を雄継手部102cの先端部の外周面102gと雌継手部102bの内周面102fとの間に設置した場合について説明したが、この位置に限定されるものではなく、係合部107内であれば何処でもよいが、継手部106内に損傷等が生じたときに水みちになると考えられる位置、例えば、雄継手部102cの先端部と内周面102fとの間付近であることが望ましい。
【0021】
また、係合部107内には、止水材116が充填されていて、継手部106の遮水性を向上させている。なお、止水材116は弾性シーリング性能を有するものであれば粘土、粘土モルタル、モルタル、アスファルト、コンクリート等のいずれかを選択して使用することが可能であるが、本実施形態においては、例えば、アスファルト系の止水材116を用いた。
【0022】
また、地上部には、光ファイバケーブル105に沿った位置の温度分布を測定する周知の温度測定手段113が観測室114内に設置されている。継手部106内に配置された光ファイバケーブル105は地上まで延設されて、その両端はそれぞれ温度測定手段113に接続され、継手部106内の温度分布が常時、あるいは所定の時間間隔で測定される。
【0023】
なお、本実施形態においては、光ファイバケーブル105の両端を温度測定手段113に接続する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、温度測定手段113の構成によっては、一端のみを温度測定手段113に接続すればよい場合もある。
【0024】
また、本実施形態においては、温度測定精度±0.1℃、温度測定距離間隔25cm、温度測定時間60秒にて温度分布測定を行った。ただし、これらの測定条件は、各現場によって異なり、設計等により決定される。
【0025】
温度測定手段113は、測定した継手部106内の温度分布変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置119に接続されている。本実施形態においては、所定の度合いは、温度分布の変化量(℃)で、例えば、3.0℃とし、継手部106内の通常時の温度分布よりも3.0℃以上上昇又は低下した温度分布が測定されると、警報装置24が作動するように設定した。ただし、この温度分布の変化量は、各現場によって異なり、設計等により決定される。
【0026】
なお、本実施形態においては、所定の度合いとして温度分布の変化量(℃)を用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、所定の度合いとして、例えば、温度分布の変化率(ΔT/T、ここで、ΔT:継手部106の通常時の温度分布からの温度の変化量(℃)、T:継手部106内の通常時の温度(℃))や、温度勾配(ΔT/Δt、ここで、ΔT:継手部106の通常時の温度からの温度分布の変化量(℃)、Δt:温度測定時間間隔(秒))を用いてもよい。
【0027】
次に、継手部106内に水が浸入したときの温度分布変化について説明する。
一対の止水部115のうち、例えば、廃棄物処分場100側(図4の右側)の止水材111や止水材116に損傷が生じた場合には、廃棄物処分場100のピット内の廃棄物により発生した熱で温められた水が継手部106内に浸入する。
【0028】
図5(a)は、本実施形態における継手部106内に廃棄物処分場100内の水が浸入したときの継手部106内の温度分布状態を光ファイバケーブル105aで測定した結果を示す概略図である。
図5(a)に示すように、例えば、止水材116の損傷範囲が廃棄物処分場100側(すなわち、光ファイバケーブル105a付近)だけの場合には、水は廃棄物処分場100側の止水材116の一部分にだけ浸入し、周囲地盤101側(図4の左側)まで浸入しない。この水の浸入により、光ファイバケーブル105a付近の温度は上昇するが、光ファイバケーブル105b付近の温度分布は通常時の温度分布状態のままである。また、光ファイバケーブル105aに沿った温度分布は、漏水箇所の存在する深度の温度分布が最も高く、その上下深度での温度分布は徐々に低くなっている。
【0029】
継手部106内の温度分布を所定の時間間隔で長時間測定し、特定箇所の温度分布が通常時よりも所定の度合いである3.0℃以上上昇した場合は、廃棄物処分場100側の止水材111や止水材116が損傷して、廃棄物処分場100内の水が浸入していることによるものとして、その温度分布変化が最も大きい箇所を漏水深度として検出する。
【0030】
また、光ファイバケーブル105a、105bの設置位置における温度分布変化の有無を検知することにより、水平方向の損傷範囲、例えば、廃棄物処分場100側付近のみ等を把握できる。
一方、一対の止水部115のうち、例えば、周囲地盤101側(図4の左側)の止水材111や止水材116に損傷が生じた場合には、周囲地盤101内の低温の地下水が継手部106内に浸入する。
【0031】
図5(b)は、本実施形態における継手部106内に周囲地盤101内の地下水が浸入したときの継手部106内の温度分布状態を光ファイバケーブル105bで測定した結果を示す概略図である。
図5(b)に示すように、例えば、止水材116の損傷範囲が周囲地盤101側(すなわち、光ファイバケーブル105b付近)だけの場合には、水は周囲地盤101側の止水材116の一部分にだけ浸入し、廃棄物処分場100側(図4の右側)まで浸入しない。この地下水の浸入により、光ファイバケーブル105b付近の温度は低下するが、光ファイバケーブル105a付近の温度分布は通常時の温度分布状態のままである。また、光ファイバケーブル105bに沿った温度分布は、漏水箇所の存在する深度の温度分布が最も低く、その上下深度での温度分布は徐々に高くなっている。
【0032】
継手部106内の温度分布を所定の時間間隔で長時間測定し、特定箇所の温度分布が通常時よりも所定の度合いである3.0℃以上低下した場合は、周囲地盤101側の止水材111や止水材116が損傷して、周囲地盤101の地下水が浸入していることによるものとして、その温度分布変化が最も大きい箇所を漏水深度として検出する。
【0033】
また、光ファイバケーブル105a、105bの設置位置における温度分布変化の有無を検知することにより、水平方向の損傷範囲、例えば、周囲地盤101側付近のみ等を把握できる。
【0034】
この継手部106の施工方法を遮水パネル102の施工手順にしたがって以下に示す。
図6〜図8は、本実施形態に係る遮水パネル102の施工手順を示す図である。
まず、図6に示すように、遮水パネル102の雌継手部102bの底部を塞ぐように接合された蓋112を有する第1の遮水パネル102にバイブロハンマー等にて振動を与えるか又はディゼルハンマーや油圧ハンマーにて打撃振動を与えながら(図示せず)周囲地盤101内にこの遮水パネル102を打設する。
【0035】
次に、図7に示すように、第1の遮水パネル102の雌継手部102bの上方から、第2の遮水パネル102にバイブロハンマー等にて振動を与えるか又はディゼルハンマーや油圧ハンマーにて打撃振動を与えて、第2の遮水パネル102のパネル本体102aがスリットSを通過するように雄継手部102cを雌継手部102b内に挿入して、雄継手部102cと雌継手部102bとが係合してなる継手部106を形成する。
【0036】
パネル本体102aとスリットSとの間に形成される隙間109から雌継手部102bへ侵入した地下水や粒径の小さい土砂を、ウォータージェット工法等で継手部106内を洗浄することにより土砂を除去する。
【0037】
継手部106内を洗浄後、暫くすると図8に示すように、雄継手部102cの外周面102gに塗布された止水材111は泥水中にて徐々に膨張し、第1の遮水パネル102の雌継手部102bの内周面102fと第2の遮水パネル102の雄継手部102cの外周面102gとの両面に挟着して雌継手部102bと雄継手部102cとを係合する。
【0038】
膨張した止水材111は、両面102f、102gに挟着することによって継手部106内の漏水経路をすべて遮断し、所定の時間が経過した後に止水性を確保する。止水材111は雌継手部102bの内周面102fと雄継手部102cの外周面102gとの間のみに充填されるので、雄継手部102cの内周面102eと雌継手部102bの内周面102fとの間、及び雄継手部102cの先端部の外周面102gと雌継手部102bの内周面102fとの間には、孔底まで貫通する空洞の係合部107が形成される。
【0039】
図9は、本実施形態に係る光ファイバケーブル105を係合部107内に挿入している状態を示す図である。図9に示すように、光ファイバケーブル105にU字型の錘117を取り付けて、錘117が係合部107の底に到達するまで光ファイバケーブル105を係合部107内に挿入する。
【0040】
錘117は、図10に示すように、横棒部117aと、横棒部117aの両端にそれぞれ設けられる縦棒部117bとから形成されている。この縦棒部117bを、雌継手部102bの内周面102fと雄継手部102cの先端部の外周面102gとの間に挿入しつつ、降下させることにより、光ファイバケーブル105は、図3に示すように、雌継手部102bの内周面102fと雄継手部102cの先端部の外周面102gとの間に設置される。
【0041】
次に、係合部107内に止水材116を注入するための注入管(図示しない)を係合部107の底まで挿入し、注入管を徐々に引き上げながら管先端から係合部107内に止水材116を充填する。止水材116は係合部107内に充填され、両面102e、102fに押し付けられて密着し、止水性を発揮する。
【0042】
最後に、光ファイバケーブル105の両端を温度測定手段113に接続し、継手部106内の温度分布をモニタリングすることにより、継手部106の止水性能を評価する。
【0043】
なお、本実施形態においては、錘117としてU字型のものを用いる場合について説明したが、この形状に限定されるものではなく、光ファイバケーブル105の折り返し部分が、温度測定に支障をきたす曲率半径よりも小さくならないように曲率を保持できるものであれば他の形状を用いてもよい。
【0044】
また、本実施形態においては、光ファイバケーブル105に錘117を取り付けて係合部107内に挿入する方法について説明したが、この設置方法に限定されるものではなく、例えば、地上で、予め、雄継手部102cの先端部の外周面102gに光ファイバケーブル105を金属製の防水テープ等にて貼り付けてから、遮水パネル102を周囲地盤101内に打設してもよい。
【0045】
以上説明した本実施形態における継手部106の漏水監視システムによれば、継手部106内の温度分布を所定の時間間隔で長期間測定し、継手部106内の温度分布の時間変化を観察することにより、廃棄物処分場100のピット内の水又は周囲地盤101内の地下水が継手部106内に浸入することによって生じる継手部106内の温度分布の変化を検知して、継手部106の漏水を検出することができる。
【0046】
すなわち、継手部106内の温度分布を測定して、継手部106内の特定箇所の温度分布が通常時よりも所定の度合いである3.0℃以上上昇した場合は、廃棄物処分場100のピット内の廃棄物により発生した熱で温められた水が継手部106内に浸入したことによるものとして、継手部106の廃棄物処分場100側の止水材116への漏水及びその漏水深度を検出することができる。
【0047】
また、継手部106内の特定箇所の温度分布が通常時よりも所定の度合いである3.0℃以上低下した場合は、周囲地盤101内の低温の地下水が継手部106内に浸入したことによるものとして、継手部106の周囲地盤101側の止水材116への漏水及びその漏水深度を検出することができる。
【0048】
さらに、温度測定手段22で測定した継手部106内の温度分布変化が3.0℃以上になると光、音等で警告を発する警報装置24を備えているので、継手部106内への漏水を素早く把握することができる。
【0049】
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。
本実施形態は、上記第一の実施形態とは光ファイバケーブル105の設置方法が異なっている。以下の説明において、第一実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0050】
図11は、本発明の第二実施形態に係る継手部206の継手構造を示す図である。図11に示すように、継手部206の係合部107内には、塩ビ管118と、塩ビ管118の外周面に螺旋状に貼り付けられた光ファイバケーブル105とが設置され、塩ビ管118内方及び外方は止水材116で充填されている。
【0051】
図12は、本実施形態に係る塩ビ管118に光ファイバケーブル105を貼り付けた状態を示す図である。
図12に示すように、光ファイバケーブル105は、塩ビ管118の外周面に、塩ビ管118の長手方向へ螺旋状に所定の間隔Lで貼り付けられている。本実施形態においては、例えば、25cm間隔で測定が可能な温度測定手段113を用いたので、25cmで塩ビ管118を一周できるように、直径が約8cm(円周が約25cmとなる)の塩ビ管118に、所定の間隔Lの約25cmで貼り付けた。
【0052】
以下に、継手部206の施工方法を施工手順にしたがって示す。
まず、第一実施形態と同様に、第1の遮水パネル102及び第2の遮水パネル102を周囲地盤101内に打設して、止水材111でスリットSの近傍部と雄継手部102cとの間を遮断し、止水性を確保する。
【0053】
次に、光ファイバケーブル105が貼り付けられた塩ビ管118を係合部107内に挿入する。第1及び第2遮水パネル102の打設中に、予め、地上で塩ビ管118の外周面に光ファイバケーブル105を金属製の防水テープで貼り付けておく。
【0054】
そして、塩ビ管118を係合部107内に設置したら、止水材116を係合部107内及び塩ビ管118内に充填する。
【0055】
最後に、第一実施形態と同様に、光ファイバケーブル105の両端を温度測定手段113に接続し、継手部206内の温度分布をモニタリングする。
【0056】
以上説明した本実施形態における継手部206の漏水監視システムによれば、光ファイバケーブル105を螺旋状に設置するので、所定の間隔Lを調整することができる。所定の間隔Lを短くすると、鉛直方向の温度測定間隔を短くすることができるので、漏水深度の検出精度が向上する。
【0057】
なお、上述した各実施形態において、継手部106内の係合部107内に止水材116を充填する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、止水材116を充填することなく空洞のままとしてもよい。
【0058】
また、上述した各実施形態において、板状の遮水材である遮水パネル102の施工方法について示したが、これに限定されるものではなく、例えば、管状の遮水材である鋼管矢板でもよい。
【0059】
次に、本発明の第三の実施形態について説明する。
本実施形態は、継手部106に隣接して形成される閉鎖区域306内に光ファイバケーブル305を設置し、その閉鎖区域306内への漏水を検知するものである。
【0060】
図13は、本実施形態に係る継手部106及び閉鎖区域306の継手構造を示す平面図である。図13に示すように、第1の鋼管矢板302の雌継手部102bと、この雌継手部102b内に挿入されている第2の鋼管矢板302の断面C字形状の雄継手部102cとは、止水部115を介して係合し、遮水性を有する継手部106を構築するとともに、第1の鋼管矢板302の雌継手部302bと、第2の鋼管矢板302の雌継手部302cとは、チャンネル303を介して係合し、閉鎖区域306を構築する。
【0061】
閉鎖区間306は、継手部106の周囲地盤101側に構築され、内部に止水材116が充填されていて、遮水性を有する。
閉鎖区域306内には光ファイバケーブル305が閉鎖区域306内の縦方向、つまり鉛直方向に略U字型となるように設置されている。
【0062】
具体的には、光ファイバケーブル305が、第1の鋼管矢板302の鋼管本体302aの側面に接すように設置されるとともに、閉鎖区域306の下端部で折り返されて、第2の鋼管矢板の鋼管本体302aの側面に接するように設置されている。
【0063】
なお、本実施形態においては、光ファイバケーブル305を鋼管本体302aの側面に設置した場合について説明したが、この位置に限定されるものではなく、閉鎖区域306内であれば何処でもよいが、閉鎖区域306内に損傷等が生じたときに水みちになると考えられる位置、例えば、雌継手部302cとチャンネル305との係合部付近や継手部106のスリットS付近であることが望ましい。
【0064】
閉鎖区域306内に配置された光ファイバケーブル305は、第一及び第二実施形態と同様に、地上まで延設されて、その両端はそれぞれ温度測定手段113に接続され、閉鎖区域306内の温度分布が常時、あるいは所定の時間間隔で測定される。
【0065】
以上説明した本実施形態における閉鎖区域306の漏水監視システムによれば、光ファイバケーブル305を閉鎖区域306に設置するので、廃棄物処分場100からの漏水を検出することができる。
【0066】
なお、上述したすべての実施形態では、漏水検知には、光ファイバケーブル105、305に沿った位置の温度分布測定結果のうち、継手部106内又は閉鎖区域306内の温度分布測定結果のみを使用し、継手部106内又は閉鎖区域306内以外の温度分布測定結果、例えば、温度測定手段113から遮水パネル102までの温度分布測定結果や温度測定手段113から鋼管矢板302までの温度分布測定結果等は使用しない。
【0067】
なお、上述した各実施形態において、遮水パネル102又は鋼管矢板302を地盤内に打設する方法について示したが、これに限定されるものではなく、例えば、ソイルセメント内に打設することも可能である。
【0068】
また、上述した各実施形態において、継手の形状が、丸形管状の雌継手部102bや断面C字形状(=凸状部)の雄継手部102cを用いた場合について説明したが、これらの形状に限定されるものではなく、例えば、角形形状の雌継手部や断面T字形状の雄継手部等の他の様々な形状の継手でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第一実施形態に係る遮水材の設置状況を示す側面図である。
【図2】本実施形態における遮水パネルを示す概略斜視図である。
【図3】本実施形態に係る継手部の継手構造を示す平面図である。
【図4】図3のA−A’矢視図である。
【図5】本実施形態における継手部内に水が浸入したときの継手部内の温度分布状態を光ファイバケーブルで測定した結果を示す概略図である。
【図6】本実施形態における遮水パネルの施工手順を示す図である。
【図7】本実施形態における遮水パネルの施工手順を示す図である。
【図8】本実施形態における遮水パネルの施工手順を示す図である。
【図9】本実施形態における光ファイバケーブルを係合部内に挿入している状態を示す図である。
【図10】本実施形態における錘の概略図である。
【図11】本発明の第二実施形態に係る継手部の継手構造を示す図である。
【図12】本実施形態における塩ビ管に光ファイバケーブルを貼り付けた状態を示す図である。
【図13】本発明の第三実施形態に係る継手部及び閉鎖区域の継手構造を示す平面図である。
【符号の説明】
【0070】
100 廃棄物処分場
101 周囲地盤
102 遮水パネル
102a パネル本体
102b 雌継手部
102c 雄継手部
102e 内周面
102f 内周面
102g 外周面
103 不透水性地層
104 透水性地層
105、105a、105b 光ファイバケーブル
106 継手部
107 係合部
109 隙間
110 丸鋼
111 止水材
112 蓋
113 温度測定手段
114 観測室
115 止水部
116 止水材
117 錘
117a 横棒部
117b 縦棒部
118 塩ビ管
119 警報装置
206 継手部
302 鋼管矢板
302a 鋼管本体
302b 雌継手部
302c 雌継手部
303 チャンネル
305 光ファイバケーブル
306 閉鎖区域
S スリット
L 所定の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に延びる複数の遮水材を横方向へ並べて互いに継手で係合してなる止水壁の継手部又はその継手部に隣接して形成される閉鎖区域内における漏水監視システムであって、
前記継手部内又は前記閉鎖区域内に、前記継手の長手方向に沿って設置された光ファイバケーブルと、
前記光ファイバケーブルに沿った位置での温度分布を測定する温度測定手段とを備えることを特徴とする漏水監視システム。
【請求項2】
前記温度測定手段で測定した前記継手部内又は前記閉鎖区域内の温度分布変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の漏水監視システム。
【請求項3】
前記温度分布変化の度合いが最も大きい位置を漏水箇所として検出することを特徴とする請求項2に記載の漏水監視システム。
【請求項4】
鉛直方向に延びる複数の遮水材を横方向へ並べて互いに継手で係合してなる止水壁の継手部又はその継手部に隣接して形成される閉鎖区域内における漏水検知方法において、
前記継手部内又は前記閉鎖区域内に、前記継手の長手方向に沿って設置された光ファイバケーブルと前記光ファイバケーブルに沿った位置での温度分布分布を測定する温度測定手段とを備える監視システムを用い、
前記継手部内又は前記閉鎖区域内の温度分布を測定して、前記継手部内又は前記閉鎖区域内の温度分布変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると漏水が生じているとすることを特徴とする漏水検知方法。
【請求項5】
前記温度分布変化の度合いが最も大きい位置を漏水箇所とすることを特徴とする請求項4に記載の漏水検知方法。
【請求項6】
鉛直方向に延びる複数の遮水材を横方向へ並べて互いに継手で係合してなる遮水壁であって、
前記遮水材の継手を互いに係合した継手部内又はその継手部に隣接して形成される閉鎖区域内に、前記継手の長手方向に沿って設置される光ファイバケーブルと、前記光ファイバケーブルに沿った位置での温度分布を測定する温度測定手段とから構成された漏水監視システムを備えることを特徴とする遮水壁。
【請求項7】
前記温度測定手段で測定した前記継手部内又は前記閉鎖区域内の温度分布変化の度合いが所定の度合いよりも大きくなると光、音等で警告を発する警報装置を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の遮水壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−41229(P2009−41229A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205752(P2007−205752)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】