説明

遮音ボード及び遮音方法

【課題】低音域から高音域に渡って遮音欠損のない優れた遮音性を経済的且つ効率的に発揮する遮音ボード及び遮音方法を提供する。
【解決手段】下記の石膏ボードA(11)及び石膏ボードB(12)であって、石膏ボードAの片面に厚さが石膏ボードAの厚さの65〜85%である石膏ボードBを重ねて用いた。石膏ボードA:ボード状芯材が、二水石膏を99質量%以上含有しており、減水剤及びその他の添加剤を合計で1質量%以下含有していて、無機充填剤及び強化繊維を実質的に含有しない比重が0.65〜0.75の石膏ボード。石膏ボードB:ボード状芯材が、二水石膏100質量部当たり無機充填剤として硫酸バリウムを100〜250質量部の割合で含有し且つこれらを合計で95質量%以上含有しており、減水剤及びその他の添加剤を合計で3質量%以下含有していて、他の無機充填剤及び強化繊維を2質量%以下含有する比重が1.20〜2.00の石膏ボード。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮音ボード及び遮音方法に関する。各種建物の壁面、天井面及び床面等には、その建物の用途にもよるが、一般に高い遮音性が要求される。本発明は、優れた遮音性を経済的且つ効率的に発揮する遮音ボード及び遮音方法に関し、更に詳しくは、硫酸バリウムを含有する石膏ボードを他の石膏ボードと組合わせて用いた遮音ボード及び遮音方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前記のような硫酸バリウムを含有する石膏ボードを用いた遮音ボードとしては、基材としての硫酸カルシウム100重量部当たり無機充填剤としての硫酸バリウムを50〜200重量部の割合で含有するものや、焼石膏/硫酸バリウム=50/50〜30/70(重量比)の割合で含有するスラリーから形成したもの等が知られている(例えば特許文献1及び2参照)。しかし、これら従来の遮音ボードには、高比重の石膏ボードを用いることによって相応の遮音性を発揮するという利点があるものの、高音域においてコインシデンス効果により遮音欠損が生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/055074号
【特許文献2】特表2010−540292
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、低音域から高音域に渡って遮音欠損のない優れた遮音性を経済的且つ効率的に発揮する遮音ボード及び遮音方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく試行錯誤した結果、硫酸バリウムを含有する特定の石膏ボードを他の特定の石膏ボードと組合わせて用いることが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、下記の石膏ボードA及び石膏ボードBであって、石膏ボードBの厚さが石膏ボードAの厚さの65〜85%である石膏ボードA及び石膏ボードBを用い、石膏ボードAの片面に石膏ボードBを重ねて成ることを特徴とする遮音ボードに係る。また本発明は、かかる遮音ボードとなるよう石膏ボードA及び石膏ボードBを用いて、石膏ボードBが音源側となるよう配設することを特徴とする遮音方法に係る。
【0007】
石膏ボードA:ボード状芯材の表面及び裏面にシートを有する石膏ボードであって、ボード状芯材が、二水石膏を99質量%以上含有しており、減水剤及びその他の添加剤を合計で1質量%以下含有していて、無機充填剤及び強化繊維を実質的に含有しない比重が0.65〜0.75の石膏ボード。
【0008】
石膏ボードB:ボード状芯材の表面及び裏面にシートを有する石膏ボードであって、ボード状芯材が、二水石膏100質量部当たり無機充填剤として硫酸バリウムを100〜250質量部の割合で含有し且つこれらを合計で95質量%以上含有しており、減水剤及びその他の添加剤を合計で3質量%以下含有していて、他の無機充填剤及び強化繊維を2質量%以下含有する比重が1.20〜2.00の石膏ボード。
【0009】
本発明に係る遮音ボードは、石膏ボードAの片面に石膏ボードBを重ねたものである。双方を重ねて固定する手段は、接着剤の点付け、ビス等の止め具による取付け、双方の併用等、特に制限はなく、接着剤としては、酢酸ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等、いずれでもよいが、止め具による取付けを主とする手段が好ましい。
【0010】
本発明に係る遮音ボードに用いる石膏ボードAは、ボード状芯材の表面及び裏面にシート、通常は石膏ボードAの製造時に型紙を兼ねて用いたボード用原紙(厚紙)を有する石膏ボードであって、ボード状芯材が、二水石膏を99質量%以上含有しており、減水剤及びその他の添加剤を合計で1質量%以下含有していて、無機充填剤及び強化繊維を実質的に含有しない比重が0.65〜0.75の石膏ボードである。ここで、その他の添加剤としては発泡剤や耐水剤等が挙げられ、また無機充填剤及び強化繊維を実質的に含有しないというのは、これらが不可避的に含まれてくる場合を除き、積極的には加えないという意味である。したがって、石膏ボードAは所謂普通の石膏ボードである。
【0011】
また本発明に係る遮音ボードに用いる石膏ボードBは、ボード状芯材の表面及び裏面にシート、通常は前記した石膏ボードAと同様のボード用原紙(厚紙)を有する石膏ボードであって、ボード状芯材が、二水石膏100質量部当たり無機充填剤として硫酸バリウムを100〜250質量部の割合で含有し且つこれらを合計で95質量%以上含有しており、減水剤及びその他の添加剤を合計で3質量%以下含有していて、他の無機充填剤及び強化繊維を2質量%以下含有する比重が1.20〜2.00の石膏ボードである。ここで、その他の添加剤は石膏ボードAについて前記したことと同様であるが、他の無機充填剤としては酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム等が挙げられ、また強化繊維としてはガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アラミド繊維、ザイロン(登録商標)等が挙げられる。石膏ボードBは、無機充填剤として硫酸バリウム(比重4.5)を含有するため、石膏ボードAよりも比重が高い。
【0012】
本発明に係る遮音ボードにおいて、石膏ボードA及び石膏ボードBは前記した通りのものであるが、石膏ボードAはボード状芯材の比重が0.68〜0.72のものが好ましく、また石膏ボードBはボード状芯材が二水石膏100質量部当たり硫酸バリウムを120〜200質量部の割合で含有する比重が1.25〜1.75のものが好ましい。かかる石膏ボードAや石膏ボードBを用いた遮音ボードは、低音域から高音域に渡って遮音欠損のないより優れた遮音性を発揮するからである。
【0013】
本発明に係る遮音ボードは、以上説明したような石膏ボードA及び石膏ボードBを用いたものであるが、石膏ボードBとして、その厚さが石膏ボードAの厚さの65〜85%のものを用いたものである。なかでも、石膏ボードAとしては、ボード状芯材の厚さが9.0〜13.0mmのものが好ましく、また石膏ボードBとしては、その厚さが石膏ボードAの厚さの70〜80%のものが好ましい。かかる石膏ボードAや石膏ボードBを用いた遮音ボードは、低音域から高音域に渡って遮音欠損のないより優れた遮音性をより経済的且つ効率的に発揮するからである。
【0014】
本発明に係る遮音方法は、以上説明したような遮音ボードとなるよう石膏ボードA及び石膏ボードBを用いて、石膏ボードBが音源側となるよう配設する方法である。石膏ボードAの片面に石膏ボードBを予め重ねておいた状態の遮音ボードを、石膏ボードBが音源側となるよう用いてもよいし、建物の下地材に石膏ボードAを取付け、その片面、通常は音源側となる外側の片面に石膏ボードBを取付けて、結果として石膏ボードAの片面に石膏ボードBを重ねた状態の遮音ボードとなるようにしてもよいのである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、低音域から高音域に渡って遮音欠損のない優れた遮音性を経済的且つ効率的に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る遮音ボードを例示する一部省略の縦断面図。
【図2】本発明に係る他の遮音ボードを例示する一部省略の縦断面図。
【図3】本発明に係る遮音ボード等の遮音性(音響透過損失)を示すグラフ。
【図4】比較のために製作した遮音ボードの遮音性(音響透過損失)を示すグラフ。
【実施例】
【0017】
図1は本発明に係る遮音ボードを例示する短手方向(幅方向)の縦断面図である。石膏ボード11の片面に石膏ボード21がビス31,32により取付けられた状態で重ねられている。石膏ボード11は前記の石膏ボードAに相当し、また石膏ボード21は前記の石膏ボードBに相当している。
【0018】
図2は本発明に係る他の遮音ボードを例示する短手方向(幅方向)の縦断面図である。石膏ボード12の片面に石膏ボード22が点付けの接着剤41〜43及びビス33,34により取付けられた状態で重ねられている。石膏ボード12は前記の石膏ボードAに相当し、また石膏ボード22は前記の石膏ボードBに相当している。
【0019】
試験区分1(石膏ボードの製造)
・石膏ボードA−1及びA−2の製造
いずれも所要量の焼石膏(半水石膏)、減水剤、添加剤(接着補助剤、発泡剤、耐水剤)及び水をミキサーに入れ、混合して石膏スラリーとした。この石膏スラリーをボード用原紙(厚紙)を敷いた成形型に充填してボード状に成形し、その成形物を加熱乾燥して該成形物から自由水を蒸発させ、表1に記載した石膏ボードA−1及びA−2を製造した。
【0020】
・石膏ボードAR−1の製造
いずれも所要量の焼石膏(半水石膏)、ガラス繊維、減水剤、添加剤(接着補助剤、発泡剤、耐水剤)及び水をミキサーに入れ、混合して石膏スラリーとした。この石膏スラリーをボード用原紙(厚紙)を敷いた成形型に充填してボード状に成形し、その成形物を加熱乾燥して該成形物から自由水を蒸発させて、表1に記載した石膏ボードAR−1を製造した。
【0021】
・石膏ボードB−1〜B−4及びBR−1の製造
いずれも所要量の焼石膏(半水石膏)、硫酸バリウム、ガラス繊維、減水剤、添加剤(接着補助剤、発泡剤、耐水剤)及び水をミキサーに入れ、混合して石膏スラリーとした。この石膏スラリーをボード用原紙(厚紙)を敷いた成形型に充填してボード状に成形し、その成形物を加熱乾燥して該成形物から自由水を蒸発させて、表1に記載した石膏ボードB−1〜B−4及びBR−1を製造した。
【0022】
・石膏ボードBR−2の製造
いずれも所要量の焼石膏(半水石膏)、酸化アルミニウム、ガラス繊維、減水剤、添加剤(接着補助剤、発泡剤、耐水剤)及び水をミキサーに入れ、混合して石膏スラリーとした。この石膏スラリーをボード用原紙(厚紙)を敷いた成形型に充填してボード状に成形し、その成形物を加熱乾燥して該成形物から自由水を蒸発させて、表1に記載した石膏ボードBR−2を製造した。

【0023】
【表1】

【0024】
表1において、
組成(質量部):二水石膏100質量部当たりの硫酸バリウム、酸化アルミニウム、ガラス繊維、減水剤及び添加剤の質量部。
石膏ボードの物性:表2に記載の試験方法で試験し、判定基準で判定して、判定基準を達成したものを○印とした。
BR−2:硫酸バリウムに代えて酸化アルミニウムを用いた例。
【0025】
【表2】

【0026】
試験区分2(遮音ボードの製作その1)
・実施例1
試験区分1で製造した石膏ボードA−2(表3中の第1の石膏ボード)の片面に石膏ボードB−2(表3中の第2の石膏ボード)を重ね、ビスで取付けて、表3に記載した実施例1の遮音ボードを製作した(図1に例示した石膏ボード)。
【0027】
・実施例2及び比較例1〜3
実施例1と同様にして、表3に記載した実施例2及び比較例1〜3の遮音ボードを製作した。
【0028】
【表3】

【0029】
試験区分3(音響透過損失試験その1)
試験区分2で製作した各例の遮音ボードの遮音性を評価するため、音響透過損失試験を行なった。試験はJIS−A1416「実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法」に準拠して行ない、受音室は各例の遮音ボードを用いて第2の石膏ボードが音源側となるように形成して、音源室及び受音室における室内平均音圧レベルと受音室の残響時間を測定し、下記の数1により音響透過損失を算出した。測定は5箇所の音源位置で行ない、それぞれの音響透過損失の算出結果を平均した。結果を表4にまとめて示した。
【0030】
【数1】

【0031】
数1において、
A=(0.16V)/T
:音源室における平均音圧レベル(dB)
:受音室における平均音圧レベル(dB)
S:透過部の面積(m
A:受音室の等価吸音面積(m
V:受音室の容積(m
T:受音室の残響時間(s)














【0032】
【表4】

【0033】
図3は表4の結果を示すグラフである。実施例1及び2の遮音ボードの音響透過損失を示す折れ線51,52が低音域から高音域に渡って遮音欠損のない優れた遮音性を示すのに対し、比較例1〜3の遮音ボードの音響透過損失を示す折れ線61〜63は高音域において明らかに遮音欠損がある。
【0034】
試験区分4(遮音ボードの製作その2)
・比較例4
試験区分1で製造した石膏ボードA−2(表2中の第1の石膏ボード)の片面に石膏ボードB−3(表2中の第2の石膏ボード)を重ね、ビスで取付けて、表5に記載した比較例4の遮音ボードを製作した。
【0035】
・比較例5〜8
比較例4と同様にして、表5に記載した比較例5〜8の遮音ボードを製作した。
【0036】
【表5】

【0037】
試験区分5(音響透過損失試験その2)
試験区分4で製作した各例の遮音ボードの遮音性を評価するため、音響透過損失試験を行なった。試験は試験区分3と同様に行なった。
【0038】
【表6】

【0039】
図4は表6の結果を示すグラフである。図3について前記したように、実施例1及び2の遮音ボードの音響透過損失を示す折れ線51,52が低音域から高音域に渡って遮音欠損のない優れた遮音性を示すのに対し、比較例1〜3の遮音ボードの音響透過損失を示す折れ線61〜63は、また比較例4〜8の遮音ボードの音響透過損失を示す折れ線64〜68も高音域において明らかに遮音欠損がある。
【符号の説明】
【0040】
11,12 遮音ボードA
21,22 遮音ボードB
31〜34 ビス
41〜43 点付けの接着剤
51,52,61〜68 本発明に係る遮音ボード等の遮音性(音響透過損失)を示す折れ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の石膏ボードA及び石膏ボードBであって、石膏ボードBの厚さが石膏ボードAの厚さの65〜85%である石膏ボードA及び石膏ボードBを用い、石膏ボードAの片面に石膏ボードBを重ねて成ることを特徴とする遮音ボード。
石膏ボードA:ボード状芯材の表面及び裏面にシートを有する石膏ボードであって、ボード状芯材が、二水石膏を99質量%以上含有しており、減水剤及びその他の添加剤を合計で1質量%以下含有していて、無機充填剤及び強化繊維を実質的に含有しない比重が0.65〜0.75の石膏ボード。
石膏ボードB:ボード状芯材の表面及び裏面にシートを有する石膏ボードであって、ボード状芯材が、二水石膏100質量部当たり無機充填剤として硫酸バリウムを100〜250質量部の割合で含有し且つこれらを合計で95質量%以上含有しており、減水剤及びその他の添加剤を合計で3質量%以下含有していて、他の無機充填剤及び強化繊維を2質量%以下含有する比重が1.20〜2.00の石膏ボード。
【請求項2】
石膏ボードAが、ボード状芯材の比重が0.68〜0.72のものである請求項1記載の遮音ボード。
【請求項3】
石膏ボードBが、ボード状芯材が二水石膏100質量部当たり硫酸バリウムを120〜200質量部の割合で含有する比重が1.25〜1.75のものである請求項1又は2記載の遮音ボード。
【請求項4】
石膏ボードBの厚さが石膏ボードAの厚さの70〜80%である請求項1〜3のいずれか一つの項記載の遮音ボード。
【請求項5】
石膏ボードAが、ボード状芯材の厚さが9.0〜13.0mmのものである請求項1〜4のいずれか一つの項記載の遮音ボード。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つの項記載の遮音ボードとなるよう石膏ボードA及び石膏ボードBを用いて、石膏ボードBが音源側となるよう配設することを特徴とする遮音方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−112598(P2013−112598A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263156(P2011−263156)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000199245)チヨダウーテ株式会社 (23)
【出願人】(000158965)技研興業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】