説明

遷移金属水酸化物の製造方法

【課題】二次電池の正極活物質の前駆体である遷移金属水酸化物の製造方法において、沈殿物スラリーの固液分離における遷移金属水酸化物の回収率を向上させる。
【解決手段】遷移金属元素を含有する溶液をアルカリと接触させることにより遷移金属水酸化物を含む沈殿物スラリーを得、該沈殿物スラリーを固液分離する工程を含む遷移金属水酸化物の製造方法であって、
前記沈殿物スラリーを凝集剤と接触させることにより遷移金属水酸化物の凝集粒子を形成した後に、固液分離することを特徴とする遷移金属水酸化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム複合金属酸化物は、リチウム二次電池などの二次電池における正極中に含まれる正極活物質として用いられている。リチウム二次電池は、既に携帯電話やノートパソコン等の電源として実用化されており、更に自動車用途や電力貯蔵用途などの中・大型用途においても、適用が試みられている。
【0003】
リチウム複合金属酸化物の製造方法としては、特許文献1に開示されているように、Ni、Mnなどの遷移金属元素を含有する溶液をアルカリと接触させて遷移金属水酸化物を主成分とする沈殿物として含むスラリーを得、得られたスラリーを固液分離する方法により遷移金属水酸化物を得、この遷移金属水酸化物をリチウム化合物と混合し、焼成する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第09/041722号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製造方法において、遷移金属元素を含有する溶液をアルカリと接触させ、得られた沈殿物スラリーを固液分離するが、この沈殿物スラリー中の遷移金属水酸化物は通常10μm以下の微粒であるため、工業的に通常使用されるろ布にてろ過を行った場合にろ布の目から遷移金属水酸化物が漏出し十分な回収率を得られないことが、遷移金属水酸化物の製造工程上問題となっていた。
【0006】
かかる状況下、本発明の目的は、遷移金属水酸化物の製造方法において、沈殿物スラリーの固液分離における遷移金属水酸化物の回収率を向上させることができる遷移金属水酸化物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 遷移金属元素を含有する溶液をアルカリと接触させることにより遷移金属水酸化物を含む沈殿物スラリーを得、該沈殿物スラリーを固液分離する工程を含む遷移金属水酸化物の製造方法であって、
前記沈殿物スラリーを凝集剤と接触させることにより遷移金属水酸化物の凝集粒子を形成した後に、固液分離する遷移金属水酸化物の製造方法。
<2> 固液分離を、ろ過によって行う前記<1>記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
<3> 遷移金属元素が、NiおよびMnからなる群から選ばれる1以上の元素である前記<1>または<2>記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
<4> 遷移金属元素が、NiおよびMnからなる群から選ばれる1以上の元素並びにCoおよびFeからなる群から選ばれる1以上の元素である前記<2>記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
<5> 凝集剤が、高分子凝集剤である前記<1>から<4>のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
<6> 高分子凝集剤が、平均分子量700万以上であり、アニオン度80%以上である高分子凝集剤である前記<5>記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
<7> 凝集剤の添加量が、沈殿物スラリー中の遷移金属水酸化物に対して0.5重量%以上である前記<1>から<6>のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
<8> 凝集剤を添加する際の温度が、40℃以下である前記<1>から<7>のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
前記<1>から<8>のいずれかに記載の製造方法により遷移金属水酸化物を得、得られた遷移金属水酸化物をリチウム化合物と混合し、焼成することにより、リチウム複合金属酸化物を製造することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固液分離の前に沈殿物スラリーを凝集剤と接触させるので、遷移金属水酸化物の凝集粒子が形成され、その後の固液分離によって容易に高い回収率にて遷移金属水酸化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記溶液に含まれる遷移金属元素としては、その水酸化物が、リチウム化合物と混合され、焼成されることにより二次電池の正極活物質となりうるものであれば制限がなく、例えば、Ni、Mn、Co、Fe、Cr、Ti等を挙げることができる。
この中でも、高容量の二次電池用正極を得るという観点からは、上記溶液が、NiおよびMnからなる群から選ばれる1以上の元素を含有することが好ましい。さらに、より高容量の二次電池用正極を得るという観点からは、NiおよびMnからなる群から選ばれる1以上の元素に加えて、さらにCoおよびFeからなる群から選ばれる1以上の元素を含有することが好ましい。
【0011】
上記溶液は、例えば、それぞれの遷移金属元素の金属単体、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、アルコキシドなどを、水やこれらを溶解することが可能なアルコール等の有機溶剤などの溶媒に溶解して作製することができ、溶媒としては通常、水が用いられ、好ましくは純水、イオン交換水などが用いられる。
なお、前記遷移金属元素の単体または化合物が前記溶媒に溶解し難い場合には、それらを塩酸、硫酸、硝酸、酢酸などを含有する溶液に溶解させて作製してもよい。
この中でも遷移金属元素の塩化物、例えば、Niの塩化物、Mnの塩化物、Coの塩化物およびFeの塩化物を水に溶解して得られる水溶液であることが好ましい。Feの塩化物としては、2価のFeの塩化物であることが好ましい。
【0012】
アルカリとしては、例えば、LiOH(水酸化リチウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、Li2CO3(炭酸リチウム)、Na2CO3(炭酸ナトリウム)、K2CO3(炭酸カリウム)および(NH42CO3(炭酸アンモニウム)からなる群より選ばれる1種以上の無水物並びに該1種以上の水和物を挙げることができる。
アルカリとして、アンモニアを挙げることもできる。
アルカリは通常水溶液として用いられる。このアルカリ水溶液におけるアルカリの濃度は、通常0.5〜10モル/L程度、好ましくは1〜8モル/L程度である。また、製造コストの面から、用いるアルカリとして好ましくはNaOHおよびKOHの無水物並びにその水和物を用いることが好ましい。また、上述のアルカリは2つ以上併用してもよい。
【0013】
アルカリ水溶液に使用される水は、好ましくは純水、イオン交換水である。また、本発明の効果をそこなわない範囲で、アルコールなど水以外の有機溶媒や、pH調整剤などを含んでいてもよい。
【0014】
遷移金属元素を含有する溶液をアルカリと接触させることで、遷移金属水酸化物を含有する沈殿物スラリーを得る。このスラリーは、大部分が遷移金属水酸化物からなる沈殿物と水などの溶媒とからなるスラリーであり、スラリーを得る過程で残った原料、副生塩、例えば、KCl、添加剤、あるいは有機溶剤等を含んでいてもよい。
遷移金属元素を含有する溶液をアルカリと接触させる方法としては、遷移金属元素を含有する溶液にアルカリを添加して混合する方法、アルカリに遷移金属元素を含有する溶液を添加して混合する方法、水などの溶媒に遷移金属元素を含有する溶液およびアルカリを添加して混合する方法を挙げることができる。これらの混合時には、攪拌を伴うことが好ましい。また、上記の接触の方法の中でも、溶媒として水を使用して、アルカリ水溶液に遷移金属元素を含有する水溶液を添加して混合する方法が、pHを一定範囲に保ちやすい点で好ましく用いることができる。この場合、アルカリ水溶液に、遷移金属元素を含有する水溶液を添加混合していくに従い、混合された液のpHが低下していく傾向にあるが、このpHが9以上、好ましくは10以上となるように調節しながら、遷移金属元素を含有する水溶液を添加するのがよい。また、遷移金属元素を含有する水溶液およびアルカリ水溶液のうち、いずれか一方または両方の水溶液を40〜80℃の温度に保持しながら混合すると、より均一な組成の沈殿物が含まれるスラリーを得ることができるため好ましい。
【0015】
次いで、前記沈殿物スラリーを凝集剤と接触させることにより遷移金属水酸化物の凝集粒子を形成し、その後に固液分離する。固液分離によりウェットケークが得られる。なお、「ウェットケーク」とは、沈殿物スラリーを固液分離により脱水したものであり、固形分としての遷移金属水酸化物以外にも脱水過程で残存した水分、原料、副生塩、添加剤、あるいは有機溶剤等の中で完全に除去できないものを含んでいてもよい。
【0016】
沈殿物スラリーを凝集剤と接触させることで、遷移金属水酸化物粒子が、例えば、1mm〜5mm程度の凝集粒子となり、これによって、遷移金属水酸化物と液体成分との分離効率を高め、目的とする遷移金属水酸化物の回収率を向上させることができる。
【0017】
凝集剤としては、例えば、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などの無機凝集剤;
ポリアクリルアミドなどのノニオン性の高分子凝集剤;アクリルアミド・アクリル酸ソーダ共重合体、アクリルアミド・アクリルアミド-3-メチルプロパンスルホン酸ソーダ共重合体などのアニオン性の高分子凝集剤;アルキルアミノメタクリレート4級塩重合体(DAM)、アルキルアミノアクリレート4級塩・アクリルアミド共重合体(DAA)、ポリアミジン塩酸塩などのカチオン性の高分子凝集剤;アクリルアミド・アクリル酸・アルキルアミノ(メタ)アクリレート4級塩共重合体などの両性の高分子凝集剤;
が挙げられる。
凝集剤は、無機凝集剤、高分子凝集剤のいずれでもよいが、凝集効果が高く、また、得られた遷移金属水酸化物をリチウム化合物と混合し、焼成してリチウム複合金属酸化物を得る場合には、焼成によって容易に除去できるという点から高分子凝集剤が好適であり、特にアニオン性の高分子凝集剤が好適である。
【0018】
高分子凝集剤は、含有するポリマーの分子量やアニオン度によってその凝集効果が左右される。
高分子凝集剤により粒子を絡め、凝集粒子を形成し易くするという観点からは、高分子凝集剤の平均分子量が700万以上、pH10以上のアルカリ性溶液にて凝集効果を得られるという観点からは、アニオン度が80%以上であることが好ましく、平均分子量が、800万以上、アニオン度が90%以上であることがより好ましい。なお、アニオン度とは、凝集剤を構成する全モノマーに占めるアニオン性モノマーのモル分率を意味する。
平均分子量が700万未満であると、凝集粒子が十分な大きさ、例えば直径1mm以上にならない場合があり、アニオン度が80%未満であると、十分な凝集効果が得られない場合がある。
【0019】
凝集剤は、沈殿物スラリーに添加した際に均等に分散できればよく、粉末状、または、水などの溶媒に溶解あるいは分散させて液状(ゾル状含む)で沈殿物スラリーに添加される。
【0020】
凝集剤の添加量は、沈殿物スラリー中の遷移金属水酸化物に対して0.5重量%以上であることが好ましく、0.8重量%以上であることがより好ましい。
凝集剤の添加量が、0.5重量%以上であると少なくとも1時間以上、0.8重量%以上であると4時間以上の間、凝集粒子が崩壊することがないため、ろ過などの固液分離操作を容易に行うことができる。
凝集剤の添加量が、0.5重量%未満であると、凝集剤による十分な凝集効果が得られず、スラリー中に未凝集の遷移金属水酸化物が残存し易くなるため好ましくない。
なお、沈殿物スラリー中の遷移金属水酸化物の重量は、遷移金属元素を含有する溶液を、アルカリと接触させた際に、含まれるすべての遷移金属元素が反応して遷移金属水酸化物に変化したとみなして算出する。
【0021】
また、凝集剤添加による凝集効果は、遷移金属水酸化物粒子と凝集剤との分子間力、イオン結合などの結合力に起因するが、温度が高くなると、十分な凝集効果が得られず凝集粒子を形成しにくい傾向にある。
そのため、目的とする大きさ、例えば直径1mm〜5mm程度の遷移金属水酸化物の凝集粒子を得るためには、凝集剤を添加する際の温度が、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましい。
なお、凝集剤を添加する下限温度には、特に制限はなく、スラリーの溶媒が、凍結するなどしてろ過が困難にならない温度であればよい。
【0022】
沈殿物スラリーを凝集剤と接触させるには、通常は沈殿物スラリーに凝集剤を添加すればよい。凝集剤を均等に沈殿物スラリーに分散するために、沈殿物スラリーを撹拌槽にて撹拌しながら、凝集剤を添加することが好ましい。凝集剤を添加したのちの沈殿物スラリーは、高粘度となるため、沈殿物スラリーの撹拌には撹拌翼を使用することが好ましい。
【0023】
沈殿物スラリーを凝集剤と接触させた後の混合物を固液分離することにより、通常はウェットケークを得る。
固液分離の方法は、いかなる方法によってもよく、具体的にはろ過、遠心分離、沈降分離などの方法が挙げられる。この中でも、本発明の製造方法においては、操作性、コスト面から、ろ過が好ましく用いられる。
【0024】
ろ過の方法としては、漏斗内にろ材を設置してその内部にスラリーを流し込み、ろ紙上と漏斗内にある液体にかかる重力のみで求める固形分を得る自然ろ過、ろ紙の下面を減圧して大気圧をかけてろ過する減圧ろ過、耐圧の容器の下部にろ材を設置した後にスラリーを充填し、ろ過液面上部を圧縮空気もしくは窒素などの不活性ガスで加圧する加圧ろ過、遠心力を用いて差圧を得てろ過する遠心ろ過などが挙げられる。
工業スケールでの製造においては、操作性、コスト面から、セントルなどの遠心ろ過が好ましく用いられる。
セントルろ過にて工業的に通常使用されるろ布は、例えば、平均細孔径が約50μm程度のもの、具体的にはP−26−2(敷島カンバス製)などが挙げられる。このようなろ布では、通常、微粒(平均粒子径10μm以下)の遷移金属水酸化物を含むスラリーをろ過する際に微粒の遷移金属水酸化物が漏出し十分な回収率を得ることが困難であるが、本発明の製造方法では該スラリーに凝集剤を添加して1〜5mm程度の凝集粒子を形成することで、セントルによる固液分離を達成することができる。
【0025】
次いで、通常は得られたウェットケークを乾燥することにより、遷移金属水酸化物の乾燥物(以下、単に「乾燥物」と記載する場合がある。)を得る。乾燥は、通常、熱処理によって行われるが、送風乾燥、真空乾燥等によってもよい。また、乾燥の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはそれらの混合ガスを用いることができるが、大気雰囲気が好ましい。乾燥を熱処理によって行う場合には、通常50〜300℃である。
【0026】
乾燥物のBET比表面積は、通常、10m2/g以上100m2/g以下程度である。乾燥物のBET比表面積は、乾燥温度によって調節することができる。乾燥物のBET比表面積は、後述の焼成時の反応性を促進させる意味で、20m2/g以上であることが好ましく、30m2/g以上であることがより好ましい。また、操作性の観点では、乾燥物のBET比表面積は、90m2/g以下であることが好ましく、85m2/g以下であることがより好ましい。また、乾燥物は、通常、0.001μm以上0.1μm以下の粒径の一次粒子と、一次粒子が凝集して形成された1μm以上100μm以下の粒径の二次粒子との混合物からなる。一次粒子、二次粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡(以下、SEMということがある。)で観察することにより、測定することができる。二次粒子の粒径は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0027】
上記により得られる遷移金属水酸化物をリチウム化合物と混合し、得られる混合物を焼成することにより、リチウム複合金属酸化物を得ることができる。
リチウム化合物としては、水酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウムおよび炭酸リチウムからなる群より選ばれる1種以上の無水物並びに該1種以上の水和物を挙げることができる。混合は、乾式混合、湿式混合のいずれによってもよいが、簡便性の観点では、乾式混合が好ましい。混合装置としては、攪拌混合、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、ボールミル等を挙げることができる。
【0028】
前記焼成における保持温度により、リチウム複合金属酸化物のBET比表面積を調整することができる。通常、保持温度が高くなればなるほど、BET比表面積は小さくなる傾向にある。保持温度を低くすればするほど、BET比表面積は大きくなる傾向にある。
保持温度としては、650℃以上900℃以下の範囲であることが好ましい。前記保持温度で保持する時間は、通常0.1〜20時間であり、好ましくは0.5〜8時間である。前記保持温度までの昇温速度は、通常50℃〜400℃/時間であり、前記保持温度から室温までの降温速度は、通常10℃〜400℃/時間である。また、焼成の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはそれらの混合ガスを用いることができるが、大気雰囲気が好ましい。
【0029】
前記焼成の際に、混合物は、反応促進剤を含有していてもよい。
反応促進剤として、具体的には、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、CaCl2、MgCl2、SrCl2、BaCl2及びNH4Clなどの塩化物、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、CaCO3、MgCO3、SrCO3及びBaCO3などの炭酸塩、K2SO4、Na2SO4などの硫酸塩、NaF、KF、NH4Fなどのフッ化物、が挙げられる。この中でも、好ましくはNa、K、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr及びBaからなる群から選ばれる1種以上の元素の塩化物、炭酸塩または硫酸塩を挙げることができ、より好ましくはKCl、K2CO3、K2SO4である。また、反応促進剤を2種以上併用することもできる。
混合物が反応促進剤を含有することで、混合物の焼成時の反応性を向上させ、得られるリチウム複合金属酸化物のBET比表面積を調整することが可能な場合がある。
反応促進剤を混合物に含有させるには、例えば遷移金属水酸化物をリチウム化合物と混合するときに反応促進剤を添加すればよい。
なお、遷移金属元素を含有する溶液をアルカリと接触させたときに生成した副生塩、例えば、KCl、K2SO4が遷移金属水酸化物中に残留する場合、この副生塩を反応促進剤として使用してもよく、この場合には、乾燥物とリチウム化合物との混合時に、反応促進剤の不足分を添加すればよい。
また、反応促進剤は、焼成後のリチウム複合金属酸化物に残留していてもよいし、洗浄、蒸発等により除去されていてもよい。
なお、混合物と反応促進剤との混合割合は、混合物100重量部中0.1重量部以上100重量部以下が好ましく、1.0重量部以上25重量部以下がより好ましい。
【0030】
また、前記焼成によりリチウム複合金属酸化物を得るが、このリチウム複合金属酸化物はボールミルやジェットミルなどを用いて粉砕してもよい。粉砕によって、リチウム複合金属酸化物のBET比表面積を調整することが可能な場合がある。また、粉砕と焼成を2回以上繰り返してもよい。また、リチウム複合金属酸化物は必要に応じて洗浄あるいは分級することもできる。
【0031】
上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物は、二次電池、中でも非水電解質二次電池に有用な正極活物質となる。
【0032】
上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物は、通常、0.05μm以上1μm以下の平均粒径の一次粒子から構成され、一次粒子と、一次粒子が凝集して形成された0.1μm以上100μm以下の平均粒径の二次粒子との混合物からなる。一次粒子及び二次粒子の平均粒径は、それぞれSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することにより、測定することができる。
【0033】
上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物は、その構造が通常α-NaFeO2型結晶構造、すなわちR−3mの空間群に帰属される結晶構造である。結晶構造は、リチウム複合金属酸化物について、CuKαを線源とする粉末X線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定することができる。
【0034】
上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物におけるLiの組成としては、Ni、Mn、Fe,Co等の遷移金属元素Mの合計量(モル)に対し、Liの量(モル)は、通常、0.5以上1.5以下であり、容量維持率をより高める意味で、0.95以上1.5以下であることが好ましく、より好ましくは1.0以上1.4以下である。以下の式(A)として表したときには、yは、通常、0.5以上1.5以下であり、好ましくは0.95以上1.5以下、より好ましくは1.0以上1.4以下である。
Liy(Ni1-xx)O2 (A)
(ここで、Mは、1種以上の遷移金属元素、0<x<1を表す。)
【0035】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の方法により得られる本発明のリチウム複合金属酸化物は、遷移金属元素の一部を、他元素で置換してもよい。ここで、他元素としては、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mg、Sc、Y、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Tc、Ru、Rh、Ir、Pd、Cu、Ag、Zn等の元素を挙げることができる。
【0036】
上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物を構成する粒子の表面に、リチウム複合金属酸化物とは異なる化合物を付着させてもよい。このような化合物としては、例えば、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mgおよび遷移金属元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、好ましくはB、Al、Mg、Ga、InおよびSnからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、より好ましくはAlの化合物を挙げることができ、化合物として具体的には、前記元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、有機酸塩を挙げることができ、好ましくは、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物である。また、これらの化合物を混合して用いてもよい。これら化合物の中でも、特に好ましい化合物はアルミナである。また、付着後に加熱を行ってもよい。
【0037】
上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物は、正極活物質として有用であり、二次電池、特に非水電解質二次電池の正極に好適である。この二次電池に用いられる正極活物質は、上記の方法により得られるリチウム複合金属酸化物が主成分であればよい。
【0038】
二次電池用の正極は、上記の方法により得られたリチウム複合金属酸化物を正極活物質として、公知の方法、例えば、国際公開第09/041722号パンフレットに記載の方法にて作製することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水530mlに、水酸化カリウム99.11gを添加、攪拌により溶解し、水酸化カリウムを完全に溶解させ、水酸化カリウム水溶液(アルカリ水溶液)を調製した。また、ガラス製ビーカー内で、蒸留水150mlに、塩化ニッケル(II)六水和物55.86g、塩化マンガン(II)四水和物47.50gおよび塩化鉄(II)4水和物4.97gを添加、攪拌により溶解し、ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を得た。前記水酸化カリウム水溶液を攪拌しながら、これに前記ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を滴下することにより、沈殿物を生成させ、沈殿物スラリーを得た。また、反応終点のpHを測定したところpHは13であった。
次いで、この沈殿物スラリー100gをビーカーに取り、温度30℃に保ちながら、マグネティックスターラーで攪拌しながら、純水に3000ppmとなるように溶解した凝集剤クリファームPA−895(栗田工業、平均分子量800万、アニオン度90〜95%)の水溶液6.7gを添加した。
なお、前記ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液から算出した沈殿物スラリー中の複合金属水酸化物の重量は、3.6gであり、添加したポリアクリル酸ナトリウムは、複合金属水酸化物に対し、0.56重量%である。
凝集剤を添加して、30分撹拌した後、加圧ろ過器によりろ過を行った。
ろ過器には内径40mm、内容積200ccの耐圧性SUS容器を使用した。ろ布は(P−26−2、敷島カンバス製)を使用した。加圧は0.1MPaのエアにより行った。このときの凝集剤添加後のスラリーのろ過比抵抗は3.8×1011m/kgであった。また、ろ布からの目漏れは見られずろ液は透明であった。
ろ過により得られたウェットケークを、120℃で乾燥させて、乾燥物P1を得た。
【0041】
前記乾燥物(P1)40.00gと炭酸リチウム20.89gと炭酸カリウム5.54gとをボールミルを用いて乾式混合して混合物を得る。次いで、該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気中、870℃で6時間保持して焼成を行い、室温まで冷却し、焼成品を得る。次いで、焼成品を粉砕し、蒸留水でデカンテーションによる洗浄を行い、ろ過した後に、300℃で6時間乾燥して、リチウム複合金属酸化物からなる粉末B1を得る。
【0042】
(実施例2)
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水530mlに、水酸化カリウム99.11gを添加、攪拌により溶解し、水酸化カリウムを完全に溶解させ、水酸化カリウム水溶液(アルカリ水溶液)を調製した。また、ガラス製ビーカー内で、蒸留水150mlに、塩化ニッケル(II)六水和物55.86g、塩化マンガン(II)四水和物47.50gおよび塩化鉄(II)4水和物4.97gを添加、攪拌により溶解し、ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を得た。前記水酸化カリウム水溶液を攪拌しながら、これに前記ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を滴下することにより、沈殿物が生成し、沈殿物スラリーを得た。また、反応終点のpHを測定したところpHは13であった。
次いで、この沈殿物スラリー100gをビーカーに取り、温度30℃に保ちながら、マグネティックスターラーで攪拌しながら、純水に3000ppmとなるように溶解した凝集剤クリファームPA−865(栗田工業、平均分子量800万、アニオン度80〜85%)の水溶液6.7gを添加した。
なお、遷移金属溶液から算出した沈殿物スラリー中の複合金属水酸化物の重量は、3.6gであり、添加したポリアクリル酸ナトリウムは、複合金属水酸化物に対し、0.56重量%である。
凝集剤を添加して、30分撹拌した後、加圧ろ過器によりろ過を行った。
ろ過器には内径40mm、内容積200ccの耐圧性SUS容器を使用した。ろ布は(P−26−2、敷島カンバス製)を使用した。加圧は0.1MPaのエアにより行った。
このときの凝集剤添加後のスラリーのろ過比抵抗は1.7×1012m/kgであった。また、ろ布からの目漏れは見られずろ液は透明であった。
ろ過により得られたウェットケークを、120℃で乾燥させて、乾燥物P2を得た。
【0043】
前記乾燥物(P2)40.00gと炭酸リチウム20.89gと炭酸カリウム5.54gとをボールミルを用いて乾式混合して混合物を得る。次いで、該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気中で870℃で6時間保持して焼成を行い、室温まで冷却し、焼成品を得る。次いで、焼成品を粉砕し、蒸留水でデカンテーションによる洗浄を行い、ろ過した後に、300℃で6時間乾燥して、リチウム複合金属酸化物からなる粉末B2を得る。
【0044】
(比較例1)
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水530mlに、水酸化カリウム99.11gを添加、攪拌により溶解し、水酸化カリウムを完全に溶解させ、水酸化カリウム水溶液(アルカリ水溶液)を調製した。また、ガラス製ビーカー内で、蒸留水150mlに、塩化ニッケル(II)六水和物55.86g、塩化マンガン(II)四水和物47.50gおよび塩化鉄(II)4水和物4.97gを添加、攪拌により溶解し、ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を得た。前記水酸化カリウム水溶液を攪拌しながら、これに前記ニッケル−マンガン−鉄混合水溶液を滴下することにより、沈殿物が生成し、沈殿物スラリーを得た。また、反応終点のpHを測定したところpHは13であった。
次いで、この沈殿物スラリー100gを取り、加圧ろ過器によりろ過を行った。
ろ過器には内径40mm、内容積200ccの耐圧性SUS容器を使用した。ろ布は(P−26−2、敷島カンバス製)を使用した。加圧は0.1MPaのエアにより行った。
このときの凝集剤添加後のスラリーのろ過比抵抗は1.2×1013m/kgであった。また、ろ布からの目漏れによりろ液の濁りが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によると、二次電池の正極活物質の前駆体である遷移金属水酸化物の製造能力を大幅に向上させることができるため、本発明は工業的に有望である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属元素を含有する溶液をアルカリと接触させることにより遷移金属水酸化物を含む沈殿物スラリーを得、該沈殿物スラリーを固液分離する工程を含む遷移金属水酸化物の製造方法であって、
前記沈殿物スラリーを凝集剤と接触させることにより遷移金属水酸化物の凝集粒子を形成した後に、固液分離することを特徴とする遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項2】
固液分離を、ろ過によって行う請求項1記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項3】
遷移金属元素が、NiおよびMnからなる群から選ばれる1以上の元素である請求項1または2記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項4】
遷移金属元素が、NiおよびMnからなる群から選ばれる1以上の元素並びにCoおよびFeからなる群から選ばれる1以上の元素である請求項2記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項5】
凝集剤が、高分子凝集剤である請求項1から4のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項6】
高分子凝集剤が、平均分子量700万以上であり、アニオン度80%以上である高分子凝集剤である請求項5記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項7】
凝集剤の添加量が、沈殿物スラリー中の遷移金属水酸化物に対して0.5重量%以上である請求項1から6のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項8】
凝集剤を添加する際の温度が、40℃以下である請求項1から7のいずれかに記載の遷移金属水酸化物の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の製造方法により遷移金属水酸化物を得、得られた遷移金属水酸化物をリチウム化合物と混合し、焼成することを特徴とするリチウム複合金属酸化物の製造方法。

【公開番号】特開2011−230957(P2011−230957A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102590(P2010−102590)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】