説明

酢酸の製造方法

【課題】メタノールおよび/またはその反応性誘導体を、促進されたイリジウムカルボニル化触媒の存在下に、一酸化炭素でカルボニル化し酢酸を製造するための、改善された方法を得る。
【解決手段】メタノールおよび/またはその反応性誘導体を、促進されたイリジウムカルボニル化触媒の存在下に一酸化炭素でカルボニル化し、促進剤が硼素およびガリウムである酢酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酢酸の製造方法、特にメタノールおよび/またはその反応性誘導体を促進されたイリジウム触媒の存在下にカルボニル化する酢酸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イリジウム触媒およびたとえばルテニウムのような促進剤の存在下におけるメタノールのカルボニル化による酢酸の製造がたとえば欧州特許出願公開第0752406号明細書(特許文献1)、欧州特許出願公開第0849248号明細書(特許文献2)、欧州特許出願公開第0849249号明細書(特許文献3)および欧州特許出願公開第1002785号明細書(特許文献4)に記載されている。
【0003】
欧州特許出願公開第0643034号明細書(特許文献5)は、酢酸、イリジウム触媒,沃化メチル、少なくとも有限濃度の水、酢酸メチルおよびルテニウムとオスミウムとから選択される促進剤との存在下におけるメタノールおよび/またはその反応性誘導体のカルボニル化方法を記載している。
【0004】
欧州特許出願公開第0749948号明細書(特許文献6)は、例えばメタノールのようなアルキルアルコールおよび/またはその反応性誘導体をカルボニル化して、対応のカルボン酸および/またはエステルをイリジウム触媒、アルキルハライド、水および少なくとも1種のカドミウム、水銀、亜鉛、ガリウム、インジウムおよびタングステンから選択される促進剤と必要に応じルテニウム、オスミウムおよびレニウムから選択される補助促進剤との存在下に生成させる方法を記載している。
【0005】
ルテニウムで促進されたイリジウム触媒を用いるカルボニル化方法においては、促進剤の濃度が高いほど反応の速度が大となることが判明した。しかしながら、或る種の条件下では触媒系の沈澱も生じうることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0752406号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0849248号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0849249号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1002785号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0643034号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0749948号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、上記欠点が緩和されるイリジウム触媒の促進カルボニル化方法につきニーズが残されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、非ルテニウム促進のイリジウム触媒系(触媒系はイリジウム、硼素およびガリウムで構成される)を用いることにより、上記の技術問題を解決する。
【0009】
したがって本発明は、メタノールおよび/またはその反応性誘導体を少なくとも1つのカルボニル化反応帯域にて一酸化炭素でカルボニル化することによる酢酸の製造方法を提供し、前記反応帯域はイリジウムカルボニル化触媒と沃化メチル助触媒と有限濃度の水と酢酸と酢酸メチルと促進剤としての硼素およびガリウムとからなる液体反応組成物を含有することを特徴とする。
【0010】
今回、硼素およびガリウム促進されたイリジウム触媒系を使用することにより、ルテニウム促進剤の必要性が回避されると共に、満足しうるカルボニル化速度を維持することを突き止めた。更に、本発明の方法で用いる硼素/ガリウム/イリジウム触媒系は、ルテニウム促進触媒系と比較してコストが減少する。
【0011】
さらに本発明の触媒系に関する環境上の利点も存在する。何故なら、これはルテニウム促進イリジウム触媒と比較して毒性が減少するからである。
【0012】
本発明の方法において、メタノールの適する反応性誘導体は酢酸メチル、ジメチルエーテルおよび沃化メチルを包含する。メタノールとその反応性誘導体との混合物をも、本発明の方法で反応体として使用することができる。エーテルもしくはエステル反応体につき補助反応体として水が必要とされる。好ましくは、メタノールおよび/または酢酸メチルが反応体として使用される。
【0013】
メタノールおよび/またはその反応性誘導体の少なくとも幾分かは酢酸メチルに変換され、カルボン酸生成物もしくは溶剤との反応により液体反応組成物中に酢酸メチルとして存在する。好ましくは、液体反応組成物における酢酸メチルの濃度は1〜70重量%、より好ましくは2〜50重量%、特に好ましくは3〜35重量%の範囲である。
【0014】
例えばメタノール反応体と酢酸生成物との間のエステル化反応により、液体反応組成物中に水がその場で生成されうる。水をカルボニル化反応帯域に、液体反応組成物の他の成分と一緒に或いは別途に導入することができる。水は反応帯域から抜取られた液体反応組成物の他の成分から分離することができ、液体反応組成物における水の所要濃度を維持すべく調節量にて循環することができる。好ましくは液体反応組成物における水の濃度は0.1〜20重量%、より好ましくは1〜15重量%、更に一層好ましくは1〜10重量%の範囲である。
【0015】
好ましくは、液体反応組成物における沃化メチル助触媒の濃度は1〜20重量%、好ましくは2〜16重量%の範囲である。
【0016】
液体反応組成物におけるイリジウム触媒は、液体反応組成物中に可溶性である任意のイリジウム含有化合物で構成することができる。イリジウム触媒は液体反応組成物へこの液体反応組成物に溶解する任意適する形態で添加することができ、或いは可溶性型に変換することができる。好ましくはイリジウムは塩化物フリー化合物(たとえば酢酸塩)として使用することができ、これらは液体反応組成物成分(たとえば水および/または酢酸)の1種もしくはそれ以上に可溶性であり、従って溶液として反応に添加することができる。液体反応組成物に添加しうる適するイリジウム含有化合物の例はIrCl、IrI、IrBr、[Ir(CO)I]、[Ir(CO)Cl]、[Ir(CO)Br]、[Ir(CO)、[Ir(CO)Br、[Ir(CO)、[Ir(CH)I(CO)、Ir(CO)12、IrCl・4HO、IrBr・4HO、Ir(CO)12、イリジウム金属、Ir、IrO、Ir(acac)(CO)、Ir(acac)、酢酸イリジウム、[IrO(OAc)(HO)][OAc]、更にヘキサクロロイリジン酸H[IrCl]、好ましくはイリジウムの塩化物フリー錯体、たとえば酢酸塩、蓚酸塩およびアセト酢酸塩を包含する。
【0017】
好ましくは、液体反応組成物におけるイリジウム触媒の濃度は100〜6000重量ppmイリジウムの範囲である。
【0018】
液体反応組成物は更に硼素およびガリウム促進剤をも含む。促進剤は、カルボニル化反応のための液体反応組成物に対し、この液体反応組成物に溶解する任意適する形態で添加することができ、或いは可溶性型に変換可能である。
【0019】
使用しうる適するガリウム含有化合物の例はガリウムアセチルアセテトネート、酢酸ガリウム、GaCl、GaBr、Gal、GaClおよびGa(CH)を包含する。
【0020】
使用しうる適する硼素含有化合物の例は硼酸、BClおよびBIを包含する。
【0021】
好ましくは各促進剤は、液体反応組成物および/または酢酸回収段階からカルボニル化反応器にリサイクルされる液体プロセス流に対し溶解度限界までの有効量にて存在する。各促進剤は好適には液体反応組成物中に[0より大〜15]:1の範囲、たとえば[1〜10]:1の範囲の促進剤とイリジウムとのモル比にて存在する。各促進剤は好適には液体反応組成物中に8000ppm未満の濃度にて存在する。
【0022】
好適にはイリジウム:硼素:ガリウムのモル比は1:[0より大〜15]:[0より大〜15]の範囲、たとえば1:[1〜10]:[1〜10]の範囲とすることができる。
【0023】
好ましくはイリジウム、硼素およびガリウム含有化合物は、反応を阻害しうるイオン性沃化物(たとえばアルカリもしくはアルカリ土類金属塩または他の金属塩)を現場で供給し或いは発生する不純物を含まない。
【0024】
例えば(a)腐食金属、特にニッケル、鉄およびクロム並びに(b)ホスフィンもしくは窒素含有化合物もしくはリガンド(これは現場で四級化することができる)のようなイオン性汚染物は、液体反応組成物中に最少量に保つべきである。何故なら、これらは液体反応組成物中にIを発生することにより、反応に際し悪作用を有して反応速度に対し悪作用を有するからである。たとえばモリブデンのような或る種の腐食金属汚染物は、Iの発生を受けることが少ないと判明した。反応速度に悪影響を有する腐食金属は、構造の適する耐腐食性材料を用いることにより最少化することができる。同様に、たとえばアルカリ金属沃化物(たとえば沃化リチウム)のような汚染物も最少に保つべきである。腐食金属および他のイオン性不純物は、反応組成物または好ましくは触媒リサイクル流を処理する適するイオン交換樹脂床の使用により減少させることができる。好ましくは、イオン性汚染物は、これらが500ppmのI、好ましくは250ppm未満のIを液体反応組成物中に発生するような濃度より低く保たれる。
【0025】
カルボニル化反応のための一酸化炭素反応体は実質的に純粋とすることができ、或いはたとえば二酸化炭素、メタン、窒素、貴ガス、水およびC〜Cパラフィン系炭化水素のような不活性不純物を含有することもできる。一酸化炭素中のかつ水性ガスシフト反応により現場で発生する水素の存在は、好ましくはたとえば1バール未満のように低く保たれる。何故なら、その存在は水素化生成物の形成をもたらしうるからである。一酸化炭素の分圧は好適には1〜70バール、好ましくは1〜35バール、より好ましくは1〜15バールの範囲である。
【0026】
カルボニル化反応の全圧力は好適には1.0〜20.0Mpag(10〜200barg)、好ましくは1.0〜10.0Mpag(10〜100barg)、より好ましくは1.5〜5.0Mpag(15〜50barg)の範囲である。カルボニル化反応温度は好ましくは150〜220℃の範囲である。
【0027】
本発明の方法はバッチ式もしくは連続プロセスとして、好ましくは連続プロセスとして行うことができる。
【0028】
酢酸生成物は、カルボニル化反応帯域から除去することができ、これには液体反応組成物を抜取ると共に、1つもしくはそれ以上のフラッシュおよび/または分画蒸留段階により液体反応組成物の他の成分(たとえばイリジウム触媒、硼素およびガリウム促進剤、沃化メチル、水および未消費反応体から分離し、前記未消費の反応体をカルボニル化反応帯域にリサイクルして液体反応組成物におけるその濃度を維持することができる。
【0029】
本発明の方法は単一の反応帯域で行うことができ、或いは2つもしくはそれ以上の反応帯域にて行うこともできる。2つもしくはそれ以上の反応帯域を用いる場合、各反応帯域における液体反応組成物および反応条件は同一でも異なってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を次の実施例を参照して例示する。
【0031】
一般的反応方法
全ての実験は、撹拌器と液体注入設備とを装着した300cmのジルコニウムオートクレーブにて行った。このオートクレーブを30bargの最小値に窒素で圧力試験し、次いで3bargまでの一酸化炭素により3回フラッシュさせた。酢酸メチルと酢酸と沃化メチルと水と促進剤とよりなる充填物をオートクレーブに入れ、少量の一酸化炭素を充填物の上に入れた。バラスト容器に過剰圧力の一酸化炭素を充填した。
【0032】
オートクレーブを、190℃まで撹拌(1500rpm)しながら加熱した。触媒注入系を酢酸イリジウム溶液(約5%のイリジウム、26%の水、62.7%の酢酸)および酢酸で処理し、更に一酸化炭素を注入してオートクレーブ圧力を28bargにした。
【0033】
反応速度を、バラスト容器からの一酸化炭素圧力の低下により監視した。オートクレーブを190℃の一定温度および28bargの圧力に反応全体にわたり維持した。バラスト容器からの一酸化炭素の吸収が止まった後、オートクレーブをガス供給部から分離すると共に冷却した。冷却の後、ガス分析試料を採取し、オートクレーブを排気した。液体成分を放出させ、公知の確立したガスクロマトグラフィー法により液体副生物につき分析した。検出された成分を外部標準に対する成分ピークの積分により計量し、1,000,000重量部(ppm)として現した。各カルボニル化実験にて得られた主生成物は酢酸であった。
【0034】
反応試験における或る点のガス吸収の速度を使用してカルボニル化速度を計算し、これは特定反応組成物(冷脱ガス容積に基づく全反応器組成)における毎時の冷脱ガス反応器組成物(モル/リットル/h)の1リットル当たりに消費された反応体のモル数として計算した。
【0035】
酢酸メチル濃度は反応の過程で出発組成から計算し、その際酢酸メチルの1モルが消費一酸化炭素の各モル毎に消費されると推定した。オートクレーブのヘッドスペースにおける各有機成分につき許容度は設けなかった。ガスクロマトグラフィーによりガス副生物を分析し、その結果をメタンに関する酢酸メチルの消費およびCOにつきCOの消費に基づき選択率%として計算した。
【実施例】
【0036】
実験A
ベースライン実験を、酢酸イリジウム溶液と酢酸ルテニウム溶液(5%のルテニウム、18%の水および72%の酢酸)とが充填されたオートクレーブで行った。オートクレーブに充填された各成分の量を下表1に示す。12%酢酸メチルの計算反応組成における反応の速度を表2に示す。
【0037】
実験B
オートクレーブに、沃化ガリウム溶液をルテニウム溶液の代わりに充填した以外は実験Aを反復した。オートクレーブに充填した各量を表1に示すと共に、実験の結果を表2に示す。
【0038】
実験C
オートクレーブに、ルテニウム溶液の代わりに硼酸溶液を充填した以外は実験Aを反復した。オートクレーブに充填した各量を表1に示し、実験の結果を表2に示す。
【0039】
実施例1
オートクレーブに、ルテニウム溶液の代わりに硼酸および沃化ガリウム溶液を充填した。オートクレーブに充填した量を表1に示し、実験の結果を表2に示す。
【0040】
表2における結果は、硼素とガリウムとの組合わせがカルボニル化速度に対する顕著な阻害なしにイリジウム触媒のメタノールカルボニル化プロセスを促進することを示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールおよび/またはその反応性誘導体を、液体反応組成物を含有する少なくとも1つのカルボニル化反応帯域にて一酸化炭素でカルボニル化し、前記液体反応組成物はイリジウムカルボニル化触媒と沃化メチル助触媒と有限濃度の水と酢酸と酢酸メチルと促進剤としての硼素およびガリウムとからなる酢酸の製造方法。
【請求項2】
硼素促進剤およびガリウム促進剤がそれぞれ液体反応組成物中に「0より大〜15」:1の促進剤とイリジウムとのモル比にて存在する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イリジウム:硼素:ガリウムのモル比が1:[1〜10]:[1〜10]の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
液体反応組成物における各促進剤の濃度が8000ppm未満である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
液体反応組成物におけるイリジウムの濃度が100〜6000ppmの範囲である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
水が液体反応組成物中に0.1〜20重量%の範囲の濃度にて存在する請求項1〜5いずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
水濃度が1〜15重量%の範囲である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
水濃度が1〜10重量%の範囲である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
酢酸メチルが液体反応組成物中に1〜70重量%の範囲の濃度にて存在する請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
沃化メチルが液体反応組成物中に1〜20重量%の範囲の濃度にて存在する請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
カルボニル化反応を1〜20Mpagの範囲の全圧力にて行う請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
カルボニル化反応を150〜220℃の範囲の温度にて行う請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
カルボニル化反応を単一のカルボニル化反応帯域にて行う請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
カルボニル化反応を少なくとも2つのカルボニル化反応帯域にて行う請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
プロセスを連続プロセスとして行う請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。

【公開番号】特開2013−91671(P2013−91671A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−30023(P2013−30023)
【出願日】平成25年2月19日(2013.2.19)
【分割の表示】特願2008−551850(P2008−551850)の分割
【原出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(591001798)ビーピー ケミカルズ リミテッド  (66)
【氏名又は名称原語表記】BP CHEMICALS LIMITED
【Fターム(参考)】