説明

酸化物材料の製造方法

【課題】SnOおよびPを含有する酸化物材料を製造するための方法であって、所望組成を有する均質な酸化物材料を安価に製造することが可能な方法を提供する。
【解決手段】SnOおよびPを含有する酸化物材料の製造方法であって、リン酸水溶液およびSnO粉末を混合して原料バッチを作製する工程、および、原料バッチを溶融する工程を含むことを特徴とする製造方法。リン酸水溶液の濃度が10〜70質量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化物材料の製造方法に関し、特にリチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイス用の負極材料として好適である酸化物材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用パソコンや携帯電話の普及に伴い、蓄電デバイスの高容量化と小サイズ化に対する要望が高まっている。蓄電デバイスの高容量化が進めば電池材料の小サイズ化も容易となるため、蓄電デバイス用電極材料の高容量化へ向けての開発が急務となっている。
【0003】
例えば、リチウムイオン二次電池用の正極材料には高電位型のLiCoO、LiNiO、LiCo1−xNi(0<x<1)、LiMn等が広く用いられている。一方、負極材料には一般に炭素材料が用いられている。これらの材料は充放電によってリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する電極活物質として機能し、非水電解液または固体電解質によって電気化学的に連結されたいわゆるロッキングチェア型の二次電池を構成する。
【0004】
負極材料として用いられる炭素材料には、黒鉛質炭素材料、ピッチコークス、繊維状カーボン、低温で焼成される高容量型のソフトカーボン等がある。しかしながら、炭素材料はリチウム吸蔵容量が比較的小さいため、容量が低いという問題がある。具体的には、化学量論量のリチウム吸蔵容量を実現できたとしても、炭素材料の容量は約372mAh/gが限界である。
【0005】
リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であり、カーボン系材料を超える高容量密度を有する負極材料として、特許文献1には、酸化スズを主体とする非晶質酸化物が開示されている。当該非晶質酸化物を用いることで、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う体積変化を緩和でき、充放電サイクルに優れた非水二次電池を作製することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3498380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の負極材料の製造工程では、原料に五酸化二リンが用いられている。五酸化二リンは非常に吸湿性が高いため、所望の組成を有する負極材料を製造するためには低露点の雰囲気を保つ設備が必要であり高コストとなる。また、特許文献1には、原料として五酸化二リン以外にもピロリン酸第一スズ等の複合酸化物を用いる方法も記載されているが、ピロリン酸第一スズは高価であるため、結果的に、製品コストも高騰してしまうという問題を有していた。
【0008】
なお、比較的安定かつ安価なリン酸原料としてオルトリン酸(HPO)も使用される。しかしながら、オルトリン酸は原料調合過程において酸化第一スズ(SnO)との下記反応が急激に進行し、過剰に発熱する(例えば200℃以上)とともに原料バッチが硬化し、不均質な塊状の固形物になってしまうという問題がある。その結果、均質な原料バッチを得ることが難しいだけでなく、得られた酸化物材料(負極材料)中に脈理や分相が生じたり、望まない異種結晶(例えばSnやSnO)が析出するおそれがある。
【0009】
SnO+HPO → SnHPO+HO+ΔH・・・(1)
【0010】
以上に鑑み、本発明は、SnOおよびPを含有する酸化物材料を製造するための方法であって、所望組成を有する均質な酸化物材料を安価に製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、SnOおよびPを含有する酸化物材料の製造方法であって、リン酸水溶液およびSnO粉末を混合して原料バッチを作製する工程、および、原料バッチを溶融する工程を含むことを特徴とする製造方法に関する。
【0012】
SnOおよびPを含有する酸化物材料を溶融法により製造するに際し、原料として酸化第一スズとリン酸(例えばオルトリン酸)を直接混合した場合は、既述の通り、過剰に発熱したり、原料バッチが塊状化するといった不具合が起こる。そこで、本発明者らは、原料としてリン酸を直接使用するのではなく、リン酸水溶液として使用することにより、上記問題を解決できることを見出した。具体的には、リン酸水溶液およびSnO粉末を混合して原料バッチを作製することにより、リン酸とSnOの反応に伴う過剰な発熱を抑制しつつ、均質なスラリー状の原料バッチを作製することができ、当該原料バッチを溶融することにより、脈理、分相または異種結晶等の不具合がほとんど存在しない酸化物材料を作製することが可能となる。
【0013】
第二に、本発明の酸化物材料の製造方法において、リン酸水溶液の濃度が10〜70質量%であることが好ましい。
【0014】
当該構成によれば、上記式(1)の反応が緩やかに進行し、発熱や原料バッチの塊状化を効果的に抑制でき、均質な原料バッチが得られやすくなる。なお、本発明においてリン酸水溶液の濃度は、オルトリン酸として換算した濃度をいう。
【0015】
第三に、本発明の酸化物材料の製造方法において、リン酸がオルトリン酸であることが好ましい。
【0016】
オルトリン酸は比較的安定であるため、取扱いが容易であり、所望の組成を有する酸化物材料が得られやすい。また安価であるため、原料コストを低減できる。
【0017】
第四に、本発明の酸化物材料の製造方法において、原料バッチを乾燥した後に溶融することが好ましい。
【0018】
当該構成によれば、原料バッチの溶融炉内への投入が容易となるだけでなく、前記原料バッチ中の固形原料の分離や沈降による酸化物材料の組成ズレを抑制することが可能となる。さらに、原料バッチを溶融炉内に投入する際に急激な水の蒸発や水蒸気爆発等の危険が生じることを回避できるだけでなく、原料バッチの飛散を抑制することができる。
【0019】
第五に、本発明の酸化物材料の製造方法において、原料バッチを溶融する雰囲気が還元雰囲気または不活性雰囲気であることが好ましい。
【0020】
Snは、2価で存在するよりも4価で存在するほうが安定であるため、酸化物材料中のSnOは溶融工程で容易に酸化され、望まない異種結晶(例えばSnOやSnP等)が析出する傾向がある。そこで、原料バッチを溶融する雰囲気を還元雰囲気または不活性雰囲気とすることにより、SnOが酸化して前記異種結晶が析出することを抑制できる。
【0021】
第六に、本発明の酸化物材料の製造方法において、酸化物材料が、組成としてモル%で、SnO 45〜95%、P 5〜55%を含有することが好ましい。
【0022】
第七に、本発明は、前記いずれかの方法により製造されてなることを特徴とする酸化物材料に関する。
【0023】
第八に、本発明は、SnOおよびPを含有し、β−OH値が0.1〜1.7/mmであることを特徴とする酸化物材料に関する。
【0024】
「β−OH値」は組成物中の水分量を示す指標であり、以下の式で表すことができる。
【0025】
β−OH値=(1/X)log10(T1/T2)
X:試料肉厚(mm)
T1:参照波長3846cm−1(=2600nm)における透過率(%)
T2:水酸基吸収波長3000−3400cm−1(=3333−2941nm)付近における最低透過率(%)
【0026】
本発明者等の調査によれば、上記製造方法により酸化物材料を作製した場合は、リン酸水溶液とSnO粉末の反応により、結晶水を含有する均質なリン酸塩(例えばSnHPO)が原料バッチ中に生成し、溶融時に、原料バッチ中における水に加え、当該結晶水からも水分が供給されるため、得られる酸化物材料中のβ−OH値が一定値以上になることがわかった。
【0027】
一方で、酸化物材料のβ−OH値が高くなるほど、溶融ガラス中のSnOが酸化される傾向が高くなり、既述の異種結晶の析出量が増加することが確認された。この結果から、一定値以下のβ−OH値となるように酸化物材料を製造すれば、異種結晶の発生を効果的に抑制できることがわかった。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、SnOおよびPを含有する所望組成の酸化物材料を、均質かつ安価に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1および比較例1で作製した試験電池のサイクル試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明はSnOおよびPを含有する酸化物材料の製造方法であって、リン酸水溶液およびSnO粉末を混合して原料バッチを作製する工程、および、原料バッチを溶融する工程を含むことを特徴とする。
【0031】
SnOおよびPを含有する酸化物材料は、例えば非水二次電池等の蓄電デバイスにおいて、高容量かつサイクル特性に優れた負極活物質としての役割を果たす。SnOを含有する負極活物質を用いた場合、充放電の際に負極にて以下のような反応が起こることが知られている。
【0032】
SnO+2Li+2e → Sn+LiO ・・・(2)
Sn+yLi+ye ←→ LiSn ・・・(3)
【0033】
まず初回の充電時に、SnOが電子を受容して金属Snが生成する反応が不可逆的に起こる(式(2))。続いて、生成した金属Snは、正極から電解液を通って移動したリチウムイオンと回路から供給された電子と結合し、LiSn合金を形成する反応が起こる(式(3))。LiSn合金としては、Li2.6Sn、Li3.5Sn、Li4.4Sn等が知られている。当該反応は、充電時には右方向に反応が進み、放電時には左方向に進む可逆反応として起こる。以降、式(3)の充放電反応が繰り返し行われる。
【0034】
ここで、式(3)の充放電反応では体積変化を伴うが、負極活物質としてSnOおよびPを含有する酸化物材料を用いた場合、酸化物材料中のSnx+イオンがリン酸ネットワークに包括された状態で存在するため、充放電に伴うSnの体積変化を当該リン酸ネットワークで緩和することができる。よって、サイクル特性の低下を抑制することが可能となる。
【0035】
SnOおよびPを含有する酸化物材料の具体例としては、組成としてモル%で、SnO 45〜95%、P 5〜55%を含有するものであることが好ましい。組成をこのように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の組成の説明において、「%」は特に断りのない限り「モル%」を意味する。
【0036】
酸化物材料中のSnOはリチウムイオンを吸蔵および放出するサイトとなる活物質成分である。SnOの含有量は45〜95%、50〜90%、55〜87%、60〜85%、68〜83%、特に71〜82%であることが好ましい。SnOの含有量が少なすぎると、酸化物材料の単位質量当たりの充放電容量が小さくなるため、結果的に負極活物質の充放電容量も小さくなる。一方、SnOの含有量が多すぎると、酸化物材料中の非晶質成分が少なくなるため、繰り返し充放電時のリチウムイオンの吸蔵および放出に伴う体積変化を緩和できずに、放電容量が急速に低下するおそれがある。なお、本発明においてSnO成分含有量は、SnO以外の酸化スズ成分(SnO等)もSnOに換算して合算したものを指す。
【0037】
は網目形成酸化物であり、Sn原子におけるリチウムイオンの吸蔵および放出サイトを包括し、リチウムイオンが移動可能な固体電解質としての機能を果たす。Pの含有量は5〜55%、10〜50%、13〜45%、15〜40%、17〜32%、特に18〜29%であることが好ましい。Pの含有量が少なすぎると、充放電時のリチウムイオンの吸蔵および放出に伴うSn原子の体積変化を緩和できず構造劣化を起こすため、繰り返し充放電時に放電容量が低下しやすくなる。一方、Pの含有量が多すぎると、耐水性が低下しやすくなる。また、吸湿することで異種結晶(例えばSnHPO)が多量に形成され、繰り返し充放電した際に容量が低下しやすくなる。また、Sn原子とともに安定な結晶(例えばSnP)を形成しやすく、鎖状Pにおける酸素原子が有する孤立電子対によるSn原子への配位結合の影響がより強い状態となる。このため、初回充電反応においてSnイオンを還元するために電子が多く必要となり、初回充放電効率が低下する傾向にある。
【0038】
なお、SnO/P(モル比)は、0.8〜19、1〜18、特に1.2〜17であることが好ましい。SnO/Pが小さすぎると、SnOにおけるSn原子がPの配位の影響を受けやすくなり、初回充放電効率が低下する傾向にある。一方、SnO/Pが大きすぎると、繰り返し充放電した際に放電容量が低下しやすくなる。これは、酸化物中のSn原子に配位するPが少なくなってSn原子を十分に包括できず、結果として、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴うSn原子の体積変化を緩和できなくなり、構造劣化を引き起こすためであると考えられる。
【0039】
また酸化物材料には、上記成分に加えてさらに種々の成分を添加することができる。例えば、CuO、ZnO、B、MgO、CaO、Al、SiO、RO(RはLi、Na、KまたはCsを示す)を合量で0〜20%、0〜10%、特に0.1〜7%含有することができる。これらの成分が多くなると、構造が無秩序になって非晶質材料が得られやすくなるが、リン酸ネットワークが切断されやすくなる。結果的に、充放電に伴う負極活物質の体積変化を緩和できずサイクル特性が低下するおそれがある。
【0040】
酸化物材料は非晶質であることが好ましい。この場合、酸化物材料の結晶化度は95%以下、80%以下、70%以下、50%以下、40%以下、特に20%以下であることが好ましく、実質的に非晶質であることが最も好ましい。結晶化度が小さい(非晶質相の割合が大きい)ほど、繰り返し充放電時の体積変化を緩和でき、放電容量の低下抑制の観点から有利である。なお、「実質的に非晶質である」とは、結晶化度が実質的に0%(具体的には0.1%未満)であることを指し、具体的には、下記のCuKα線を用いた粉末X線回折測定において、結晶性回折線が検出されないものをいう。
【0041】
結晶化度は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる2θ値で10〜60°の回折線プロファイルから求められる。具体的には、回折線プロファイルからバックグラウンドを差し引いて得られた全散乱曲線から、10〜60°におけるブロードな回折線(非晶質ハロー)をピーク分離して求めた積分強度をIa、10〜60°において検出される各結晶性回折線をピーク分離して求めた積分強度の総和をIcとした場合、結晶化度Xcは次式から求められる。
【0042】
Xc=[Ic/(Ic+Ia)]×100(%)
【0043】
以下、本発明の製造方法の各工程毎に具体的にその手法を説明する。
【0044】
リン酸水溶液の濃度は10〜70質量%、12〜60質量%、特に15〜50質量%であることが好ましい。リン酸水溶液の濃度が低すぎると、原料バッチ中でリン酸とSnOが接触しにくくなり、未反応のリン酸が残るため、粉末原料や反応生成物粉末(例えばSnHPO)とセグリゲーションを起こしやすく、得られる酸化物材料が不均質となる傾向にある。一方、リン酸水溶液の濃度が高すぎると、原料を均一に混合することが難しくなる。また、上記式(1)の反応における発熱を緩和できず、水分が蒸発して粉末原料が継粉の状態となりやすく、得られる酸化物材料が不均質となる傾向にある。
【0045】
リン酸としては特に限定されず、例えばオルトリン酸(HPO)、ピロリン酸(H)、トリポリリン酸(H10)、メタリン酸((HPO)等を使用することができる。
【0046】
リン酸水溶液とSnO粉末を混合した後、乾燥させて例えば粉末状の原料バッチにすることが好ましい。乾燥温度は水分が十分に蒸発する限り特に限定されず、例えば50〜250℃、80〜200℃、特100〜180℃の範囲で適宜調整すればよい。乾燥時の雰囲気は特に限定されないが、原料バッチ(特にSnO)の酸化を抑制するため、還元雰囲気または不活性雰囲気が好ましい。
【0047】
還元雰囲気とするためには、例えば窒素と水素の混合気体が使用される。具体的には、体積%で、N 90〜99.5%、H 0.5〜10%、特にN 92〜99%、H 1〜8%の混合気体を使用することが好ましい。
【0048】
不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウムのいずれかを使用することが好ましい。
【0049】
また、当該原料バッチを粉砕することで均質性を向上させても良い。粉砕には乳鉢、らいかい機、ボールミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル等の一般的な粉砕機を用いることができ、湿式または乾式のいずれの方法を用いても良い。
【0050】
本発明によって得られる原料バッチの平均粒子径は2〜500μm、5〜300μm、10〜250μm、特に20〜150μmであることが好ましい。原料バッチの平均粒子径が小さすぎると、流動性が低下して、溶融装置の原料バッチ投入口が詰まる等の不具合が生じやすくなる。また、溶融炉内へ投入する際に、原料バッチが飛散する傾向にある。その結果、投入量にばらつきが生じることから安定生産が困難になるだけでなく、得られる酸化物材料の組成ずれが生じやすくなる。一方、原料バッチの平均粒子径が大きすぎると、溶融時に溶け残りが生じやすく、得られる酸化物材料が不均質になる傾向にある。
【0051】
なお本発明において、平均粒子径は一次粒子のメジアン径でD50(50%体積累積径)を示し、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製 SALD−2000シリーズ)により測定された値をいう。
【0052】
次に、原料バッチを加熱溶融してガラス化する。ここで、溶融時の溶融雰囲気は還元雰囲気または不活性雰囲気中で行うことが、既述の理由から好ましい。還元雰囲気または不活性雰囲気で溶融する場合は、溶融炉中へ既述のいずれかのガスを供給することが好ましい。還元性ガスまたは不活性ガスは、溶融炉において溶融ガラスの上部雰囲気に供給してもよいし、バブリングノズルから溶融ガラス中に直接供給してもよく、両手法を同時に行ってもよい。
【0053】
原料バッチ中は金属粉末または炭素粉末を含んでいても良い。これにより溶融ガラス中のSnOの酸化を抑制することができる。金属粉末としては、Sn、Al、Si、Tiのいずれかの粉末を用いることが好ましい。なかでも、Sn、Al、Siの粉末を用いることが好ましい。
【0054】
その後、溶融ガラスを所望の形状に成形して酸化物材料を得る。酸化物材料の形状は特に限定されず、例えばバルク状、フィルム状または粉末状等が挙げられる。
【0055】
既述の理由から、本発明の製造方法により得られた酸化物材料は、β−OH値が一定値以上になる。具体的には、本発明の酸化物材料は、β−OH値が例えば0.1/mm以上、特に0.2/mm以上である。一方、酸化物材料のβ−OH値が大きすぎると、溶融ガラス中のSnOが酸化されやすくなり、望まない異種結晶が増加する傾向にある。よって、酸化物材料のβ−OH値は1.7/mm以下、1.6/mm以下、特に1.5/mm以下であることが好ましい。
【0056】
酸化物材料のβ−OH値は、還元性ガスまたは不活性ガスを溶融雰囲気中へ供給することで制御(特に低減)できる。特に、バブリングノズルから溶融ガラス中に前記ガスを直接供給することにより、酸化物材料のβ−OH値をより効果的に低減することができる。また、原料バッチ中の水分量を低減する(リン酸水溶液濃度を高くする)ことによっても、酸化物材料のβ−OH値を低減することができる。
【0057】
以上、主に酸化物材料をリチウムイオン二次電池用負極活物質の用途に適用した例について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の非水系二次電池の負極活物質や、さらには、リチウムイオン二次電池用の負極材料と非水系電気二重層キャパシタ用の正極材料とを組み合わせたハイブリットキャパシタに使用される負極活物質にも適用できる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の酸化物材料の製造方法を、非水二次電池用負極材料の用途に適用した実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(1)酸化物材料(負極活物質)の作製
酸化物材料の組成として、モル%で、SnO 72%、P 28%となるように、原料に粉末状の酸化第一スズ(日本化学工業製SnO)、液状のオルトリン酸(ラサ工業製強リン酸、HPO濃度として105質量%)を秤量した。次に、表1に示す濃度になるように水の量を秤量し、ここに秤量したオルトリン酸をゆっくりと添加してリン酸水溶液を調整した。リン酸水溶液に酸化第一スズ粉末を添加し、混合して原料バッチを調整した。なお、実施例4〜6は大気中で表1記載の条件で乾燥させて、粉末状の原料バッチとした。
【0060】
比較例1では、既述の組成となるように酸化第一スズ粉末とオルトリン酸を秤量し、オルトリン酸に酸化第一スズ粉末を添加し混合することにより原料バッチを作製した。
【0061】
原料バッチを石英ルツボに投入し、電気炉を用いて窒素雰囲気にて950℃、40分間の溶融を行い、ガラス化した。
【0062】
次いで、溶融ガラスを一対の回転ローラー間に流し出し、急冷しながら厚み0.1〜2mmのフィルム状に成形した。フィルム状の成形体をボールミルで粉砕した後、空気分級機により分級して、平均粒径2μmのガラス粉末(酸化物材料)を得た。
【0063】
各試料について粉末X線回折測定することにより構造を同定した。実施例1〜6の酸化物材料は非晶質であり、結晶は検出されなかった。比較例1の酸化物材料は、SnOおよびSnの結晶析出が確認された。結晶化度は21%であった。
【0064】
(2)電池特性の評価
以下、実施例1および比較例1で作製された酸化物材料(負極活物質)を用いて試験電池を作製し、電池特性の評価を行った。
【0065】
(2−a)負極の作製
ガラス粉末に対し、バインダーとしてポリイミド樹脂、導電性物質としてケッチェンブラックを、ガラス粉末:バインダー:導電性物質=85:10:5(質量比)となるように秤量し、これらをN−メチルピロリドン(NMP)に分散した後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化した。次に、隙間150μmのドクターブレードを用いて、負極集電体である厚さ20μmの銅箔上に、得られたスラリーをコートし、乾燥機にて70℃で乾燥後、一対の回転ローラー間に通してプレスすることにより電極シートを得た。電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに打ち抜き、減圧しながら300℃で1時間イミド化させ、円形の作用極を得た。
【0066】
(2−b)試験電池の作製
コインセルの下蓋に、上記作用極を銅箔面を下に向けて載置し、その上に60℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜(ヘキストセラニーズ社製 セルガード#2400)からなるセパレータ、および、対極である金属リチウムを積層し、試験電池を作製した。電解液としては、1M LiPF溶液/EC(エチレンカーボネート):DEC(ジエチルカーボネート)=1:1を用いた。なお試験電池の組み立ては露点温度−40℃以下の環境で行った。
【0067】
(2−c)充放電試験
充電(負極材料へのリチウムイオンの吸蔵)は、0.1Cの定電流で2Vから0Vまで充電を行った。次に、放電(負極材料からのリチウムイオンの放出)は、0.1Cの定電流で0Vから2Vまで放電させた。この充放電サイクルを繰り返し行った。放電容量(mAh/g)は単位質量あたりの酸化物材料から放電された電気量から求めた。
【0068】
各試料について充放電試験を行った際の初回の放電容量と、繰り返し充放電した際のサイクル特性の結果を表2および図1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
表2および図1から明らかなように、実施例1の酸化物材料を用いた電池の初回放電容量は705mAh/gであり、80サイクル目の放電容量は511mAh/gと良好であった。一方、比較例1の酸化物材料を用いた電池は、初回放電容量が700mAh/gであったが、80サイクル目の放電容量は261mAh/gと著しく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の製造方法により得られる酸化物材料は、蓄電デバイス用負極活物質以外にも、白色LED等の発光デバイスの構成部材である波長変換部材や、各種電子部品の封着材料として使用することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SnOおよびPを含有する酸化物材料の製造方法であって、リン酸水溶液およびSnO粉末を混合して原料バッチを作製する工程、および、原料バッチを溶融する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
リン酸水溶液の濃度が10〜70質量%であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物材料の製造方法。
【請求項3】
リン酸がオルトリン酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物材料の製造方法。
【請求項4】
原料バッチを乾燥した後に溶融することを特徴する請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物材料の製造方法。
【請求項5】
原料バッチを溶融する雰囲気が還元雰囲気または不活性雰囲気であることを特徴する請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物材料の製造方法。
【請求項6】
酸化物材料が、組成としてモル%で、SnO 45〜95%、P 5〜55%を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により製造されてなることを特徴とする酸化物材料。
【請求項8】
SnOおよびPを含有し、β−OH値が0.1〜1.7/mmであることを特徴とする酸化物材料。
【請求項9】
蓄電デバイス用負極材料に使用されることを特徴とする請求項7または8に記載の酸化物材料。

【図1】
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【公開番号】特開2013−95601(P2013−95601A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236576(P2011−236576)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】