説明

酸化被膜及びその製造方法

【課題】安価で、塗膜との密着性及び耐食性に優れる酸化被膜、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム基材に形成される酸化被膜であって、バリヤー層と、バリヤー層に積層され、複数の中空柱状のセルから構成される多孔質層とを備え、多孔質層の平均セル径を200〜800nmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム基材に形成される酸化被膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム鋳造材等のアルミニウム基材に塗装を施す場合には、塗膜との密着性及び耐食性を確保するため、塗装の下地処理としてカチオン電着塗装を行い、その後に溶剤塗装を行っている。
【0003】
近年では、大気汚染防止法の改正により、揮発性有機化合物(VOC)の排出の抑制が求められており、有機溶剤を使用する溶剤塗装に代えて有機溶剤を使用しない粉体塗装について検討されている。一方、粉体塗装を行う場合でもその塗膜のみでは密着性と耐食性とが不十分であり、またカチオン電着塗装ではVOCが排出されるため、VOCを排出しない下地処理についても検討が進められている。
【0004】
このような下地処理としては、アルミニウム基材に陽極酸化処理を施してアルマイト(陽極酸化)被膜を形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、アルマイト被膜に半封孔処理を施した後、塗装を行うことにより、油分等の汚染物を孔内に入り難くすると共に、塗装用の塗料を孔内に入り込ませることによるアンカー効果および表面化学反応の活性化により、塗膜との密着性及び耐食性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−348696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記従来のアルマイト被膜では、耐食性に対して効果があるバリヤー層の厚みを厚く形成することができないため、使用条件によっては耐食性が不十分となる場合があった。そのため、耐食性を向上させるには、さらに封孔処理を必要としていた。
【0007】
アルマイト被膜の形成プロセスでは、陽極酸化処理工程の前後に脱脂処理工程や封孔処理工程等が必要になり、また陽極酸化処理自体における成膜速度も遅いため、アルマイト被膜を形成させるのに時間がかかり、製造コストが高くなるというも問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、安価で、塗膜との密着性及び耐食性に優れる酸化被膜、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る酸化被膜の第1特徴構成は、アルミニウム基材に形成される酸化被膜であって、バリヤー層と、当該バリヤー層に積層され、複数の中空柱状のセルから構成される多孔質層とを設け、当該多孔質層の平均セル径を200〜800nmとした点にある。
【0010】
バリヤー層は緻密な非晶質層で構成される。このため、本構成のように、バリヤー層を設けることで、アルミニウム基材の耐食性を向上させることができる。
また、酸化被膜に塗装を施す場合には、多孔質層の表面が塗膜と化学反応して結合する。本構成によれば、多孔質層の平均セル径が200〜800nmと、従来のアルマイト被膜に比べて大きく、塗膜との化学反応は酸化被膜のセルの全面で均一に起こるため、塗膜との密着性は向上する。
【0011】
本発明に係る酸化被膜の第2特徴構成は、前記バリヤー層の厚みを100〜300nmとした点にある。
【0012】
本構成によれば、バリヤー層としての十分な厚みを確保することができるため、耐食性をより向上させることができる。
【0013】
本発明に係る酸化被膜の製造方法の第1特徴手段は、pH4〜9の電解液中において、アルミニウム基材を陽極としてプラズマ電解処理を行うことにより、前記アルミニウム基材の表面に酸化被膜を形成する点にある。
【0014】
本手段によれば、pH4〜9の電解液を用いて、プラズマ電解処理を行うだけで、アルミニウム基材にバリヤー層と多孔質層とを備えた酸化被膜を容易に形成することができる。また、耐食性はバリヤー層で確保されているため、多孔質層に対して封孔処理等を別途行う必要がなく、安価で簡便に酸化被膜を形成することができる。
【0015】
本発明に係る酸化被膜の製造方法の第2特徴手段は、前記電解液がシュウ酸チタンカリウムを含む点にある。
【0016】
本手段によれば、多孔質層を確実に形成させることができるため、バリヤー層と多孔質層とを備えた酸化被膜を容易に形成することができる。
【0017】
本発明に係る酸化被膜の製造方法の第3特徴手段は、前記プラズマ電解処理を、前記アルミニウム基材を陽極とする250〜450Vの電圧と、前記アルミニウム基材を陰極とする40〜100Vの電圧とを交互に印加して行う点にある。
【0018】
酸化被膜の多孔質層はある程度成長すると、電流が流れ難くなる。
本手段のように、アルミニウム基材を陽極とする正電圧と、アルミニウム基材を陰極とする負電圧とを交互に印加しながら行えば、負電圧が印加された時に多孔質層が溶かされ、電流が継続して流れるようになるため、多孔質層を継続して成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の酸化被膜を説明する模式図である。
【図2】本発明の酸化被膜の断面のSEM写真である。
【図3】本発明の酸化被膜のセル径及び微細孔径を説明する図である。
【図4】実施例1の酸化被膜の断面のSEM写真である。
【図5】図4の酸化被膜の断面を拡大したSEM写真である。
【図6】図4の酸化被膜の境界部分の断面を拡大したSEM写真である。
【図7】実施例1の酸化被膜の表面のSEM写真である。
【図8】図7の酸化被膜の表面を拡大したSEM写真である。
【図9】実施例2の酸化被膜の断面のSEM写真である。
【図10】図9の酸化被膜の境界部分の断面を拡大したSEM写真である。
【図11】実施例2の酸化被膜の表面のSEM写真である。
【図12】図11の酸化被膜の表面を拡大したSEM写真である。
【図13】実施例3の酸化被膜の断面のSEM写真である。
【図14】実施例3の酸化被膜の表面のSEM写真である。
【図15】実施例4の酸化被膜の境界部分の断面を拡大したSEM写真である。
【図16】実施例5の酸化被膜の境界部分の断面を拡大したSEM写真である。
【図17】参考例の酸化被膜の境界部分の断面を拡大したSEM写真である。
【図18】比較例1の酸化被膜の断面のSEM写真である。
【図19】比較例2の酸化被膜の断面のSEM写真である。
【図20】実施例3の酸化被膜の剥離試験結果を示す写真である。
【図21】比較例3の酸化被膜の剥離試験結果を示す写真である。
【図22】比較例4の酸化被膜の剥離試験結果を示す写真である。
【図23】比較例3の酸化被膜の断面のSEM写真である。
【図24】比較例3の酸化被膜の表面のSEM写真である。
【図25】比較例4の酸化被膜の断面のSEM写真である。
【図26】従来のアルマイト被膜の断面及び表面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る酸化被膜の一実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る酸化被膜は、図1,2に示すように、アルミニウム基材の表面に形成されるものであり、バリヤー層と、そのバリヤー層の表面に積層された多孔質層とを備えている。多孔質層は、複数の中空柱状のセルで構成されており、多孔質層の平均セル径は、従来のアルマイト被膜の平均セル径に比べてかなり大きく、200〜800nmになっている。尚、多孔質層の平均セル径とは、図3に示すように、多孔質層の表面に観察されるセルの幅をセル径とし、これを複数のセルからサンプリングして平均したものである。サンプリングの際には、輪郭が明確なセルのみについて測定し、セルの形状を留めていないセルや、他のセルに比べてセル径が極端に小さいセルについては除外することとした。また、微細孔径は、セルに形成された孔の直径のうち最も長い直径を測定したものである。多孔質層の平均微細孔径は、特に制限はないが、例えば、100〜160nm程度である。
【0021】
このような酸化被膜では、バリヤー層は緻密な非晶質層で形成され、多孔質層のセルではγ相とα相が混在して形成されている。このバリヤー層により、アルミニウム基材の耐食性が向上する。また、多孔質層に混在するγ相の表面化学反応が活性である性質により、密着性が向上する。また、α相が高強度である性質により、被膜自体の強度が向上する。バリヤー層の膜厚は、特に限定はされないが、ある程度の厚みを有することが好ましく、例えば、100〜300nmが好ましい。尚、バリヤー層の膜厚は300nmより厚くなっても構わないが、耐食性はあまり変わらない。バリヤー層の膜厚は、例えば、プラズマ電解処理において印加する電圧の大きさ等によって制御することができる。このように、本発明に係る酸化被膜においては、バリヤー層によって耐食性を確保しているため、多孔質層に対して封孔処理等を施す必要はない。
【0022】
多孔質層は塗装を施した場合の塗膜との密着性に影響を与える。塗膜の焼付け時には180℃で30分間程度の熱処理を施すため、このとき、多孔質層中の不安定なAl及びAl23のγ相は、塗料成分中に含まれるOH基との反応によりベーマイト化し、これに伴って塗膜と多孔質層の表面との間で化学反応が起こり、密着性が確保される。本発明に係る酸化被膜であれば、多孔質層は平均セル径が大きく、均一なセルの集合体であるため、塗膜との化学反応は酸化被膜のγ相で形成されたセルの全面で均一に起こり、密着性はより向上することになる。このため、多孔質層の膜厚は、塗膜と反応する多孔質層が存在していればよく、特に限定はされない。多孔質層の膜厚は、例えば1〜4μm程度に設定すればよい。多孔質層の膜厚は、例えば、プラズマ電解処理における電圧の印加時間等によって制御することができる。
【0023】
尚、本実施形態に係る酸化被膜では、被膜の表面に水和物が形成されており、多孔質層の微細孔は被膜表面付近において塞がるような構造を有している。このため、微細孔に腐食液等が進入すること自体を抑制することができる。そして、塗装を施す場合には、多孔質層の表面において塗膜との接触面積が増大させることができると共に、塗装焼付け時に不安定なAl及びAl23のγ相が、塗料成分中に含まれるOH基との反応によりベーマイト化するため、塗膜と反応させることができる。
また、多孔質層の微細孔は枝分かれ部を有している(図2において一部は横穴として観察できる)。この枝分かれ部は、バリヤー層に近づくに従って枝分かれしており、微細孔に腐食液等が進入した場合でもバリヤー層への浸透自体を抑制することができる。
【0024】
したがって、本発明に係る酸化被膜であれば、アルミニウム基材の耐食性を向上させることができる。また、アルミニウム基材に塗装を施す場合には、下地として塗膜との密着性を向上させることができる。
【0025】
アルミニウム基材としては、特に限定はされず、例えば、アルミニウム押出し材、アルミニウム鋳造材、アルミニウム鍛造材等を用いることができる。アルミニウムとしては、純アルミニウム、アルミニウム合金等を適用でき、特に制限はない。アルミニウム合金の種類は、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、錫、鉛、チタン、クロム、ジルコニウム等の1種または複数種との合金が例示される。また、アルミニウム基材には、添加物や不純物等が含有していても何ら構わない。
【0026】
酸化被膜は、pH4〜9の電解液中に、アルミニウム基材を陽極として陰極と共に配置し、プラズマ電解処理を行うことによりアルミニウム基材の表面に形成することができる。アルミニウム基材にプラズマ電解処理を行う場合には、その前後の処理が必要なく、簡便に行えるため、製造コストを抑えることができる。
【0027】
電解液は、pH4〜9の範囲にあるものを用いる。従来のプラズマ電解処理がpH10以上のアルカリ性の電解液を用いるのに対し、酸性〜弱アルカリ性、好ましくはpH5〜6の弱酸性の電解液を用いてプラズマ電解処理を行うことにより、バリヤー層と多孔質層とを備える酸化被膜を形成することができる。このような電解液としては、例えば、プラズマ電解処理において、一般に用いられるピロリン酸塩の溶液をpH4〜9にしたものが挙げられ、具体的には、ピロリン酸ナトリウムとシュウ酸チタンカリウムとを、水にそれぞれ5〜30g/Lで含有させたものが例示される。シュウ酸チタンカリウムは、後述の実施例で示すように、プラズマ電解処理条件によっては多孔質層の形成に影響を与える場合がある。このため、シュウ酸チタンカリウムを電解液に用いることは特に好ましい。電解液の温度は、特に限定はされないが、プラズマ電解処理の場合は、加わるエネルギーが大きく、発熱を伴うため、例えば、0〜10℃の低温とすることが好ましい。
【0028】
陰極は、特に限定されないが、例えば、鉛板、SUS板等を用い陽極としてのアルミニウム基材と対向するように配置して用いる。そして、両極間に、定電圧制御や定電流制御等によって通電を行うことにより、プラズマ電解処理を行うことができる。
【0029】
プラズマ電解処理は、アルミニウム基材を陽極として通電することにより、アルミニウム基材に酸化被膜を形成することができ、特に制限はないが、アルミニウム基材を陽極とする正電圧と、アルミニウム基材を陰極とする負電圧とを交互に印加しながら行うことが好ましい。酸化被膜の多孔質層はある程度成長すると、電流が流れ難くなるため、途中で負電圧を印加して多孔質層を溶かしながら行うことで、電流が継続して流れ、多孔質層を成長させることができる。印加する正電圧は、バリヤー層の膜厚、多孔質層の形成に寄与するものである。バリヤー層は電圧値が低くなると膜厚が薄くなる、多孔質層は電圧値が低くなり過ぎても高くなり過ぎても形成され難くなる。このため、正電圧は250〜450Vが好ましい。負電圧は多孔質層を溶かして膜成長を助けるものであるため、40〜100Vが好ましい。正電圧と負電圧との印加条件は、交互に印加するものであれば特に制限はされず、周波数50〜60Hzのパルス電圧が例示される。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明に係る酸化被膜を用いた実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
アルミニウム基材としてアルミニウム押出し材(A6063−T5、150mm×50mm×12mm、表面積1.5dm2)を用い、これを陽極とする正電圧と、陰極とする負電圧とのパルス電圧を、表1に示す条件により、印加してプラズマ電解処理を行い、酸化被膜を形成した。
【0032】
【表1】

【0033】
得られた酸化被膜の断面及び表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、実施例1の酸化被膜は、図4〜6に示すようにバリヤー層と多孔質層とからなり、多孔質層が図7,8に示すように複数の中空柱状のセルで形成されていることが分かった。また、実施例2及び3の酸化被膜についても、それぞれ図9〜12、及び図13,14に示すように、実施例1と同様の膜が形成されていた。実施例1〜3の酸化被膜の平均膜厚、成膜速度については、表2に示す通りであった。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例1〜3の酸化被膜について、それぞれ図8,12,14に基づき、平均セル径及び平均微細孔径を測定した。その結果、表3に示すように、平均セル径が200〜800nmの範囲にあることが確認できた。
【0036】
【表3】

【0037】
実施例1と同条件で、印加電圧のみを変えた場合(実施例2,4,参考例)、及び実施例1とは電解液のピロリン酸ナトリウムの濃度を2倍(20g/L)にした場合(実施例5)に形成するバリヤー層の膜厚の変化を、図6(実施例1)、図10(実施例2)、図15(実施例4)、図16(実施例5)、図17(参考例)に基づき調べた。その結果、表4に示すように、バリヤー層の膜厚は100〜300nmの範囲にあることが分かった。また、正電圧が200Vの場合では、多孔質層が形成されず、バリヤー層は確認できなかった。
したがって、本実施例の場合では、印加する正電圧は200Vより大きくすることが好ましい。
【0038】
【表4】

【0039】
実施例1,2の条件において、電解液のみを変えた場合に形成する酸化被膜について調べた。電解液は、シュウ酸チタンカリウムは添加せず、ピロリン酸ナトリウム20g/Lを添加し、pH10.23、温度4.1℃としたものを用いた。その結果、図18(比較例1)、図19(比較例2)、表5に示すように、シュウ酸チタンカリウムを用いずにプラズマ電解処理した場合には、成膜速度が低下し、膜厚が薄くなっており、多孔質層が形成されていないことが分かった。したがって、本実施例の場合では、電解液には、シュウ酸チタンカリウムを含有させることが好ましい。
【0040】
【表5】

【0041】
実施例3の酸化被膜について、一般にアルマイト被膜の封孔処理として行われる煮沸処理を行い、煮沸をしない場合と煮沸をした場合との酸化被膜表層の酸化物分析を行った。その結果を表6に示すように、煮沸を行うことによってAlO(OH)(ベーマイト)化していることが分かった。すなわち、アルミニウムは、一般に、70℃を超えると不安定なγ相がベーマイト化することが知られており、プラズマ電解処理で形成した酸化被膜は、安定なα相と不安定なγ相とが混在していると推測される。このため、粉体塗装を施した場合には、塗装時の焼付け(180℃)の際にベーマイト化が起こり、表面に水酸基との化学反応が起こり、塗膜との密着性が確保されると考えられる。したがって、酸化被膜に塗装を施す場合には、煮沸を行うとベーマイト化が進み、不安定なAl及びAl23のγ相の比率が低下して塗膜との密着性が低下する虞があるため、煮沸は行わない方が好ましい。
【0042】
【表6】

【0043】
実施例1の酸化被膜に、粉体塗装(塗料:日本ペイントビリューシア PL5600 5部艶黒)を施し、雰囲気温度180℃で30分間焼付け処理を行った後、初期密着試験、耐水密着試験、耐食性試験を行った。また、比較例として、実施例1と同様のアルミニウム基材を用い、水酸化ナトリウム3g/Lを含んだ電解液(pH12.55、5.0℃)を用いた場合(比較例3)、及びピロリン酸ナトリウム(リン換算で0.1mol/L)とZr系金属イオン(ジルコニウム換算で0.5mol/L)を含んだ電解液(pH10.17、5.0℃)を用いた場合(比較例4)について、表7に示す条件で酸化被膜を形成し、粉体塗装、焼付け処理を行い、同様の試験を行った。
【0044】
【表7】

【0045】
初期密着試験は、碁盤目試験(JIS Z 8703)を実施し、各正方形内の塗膜の剥離を調べた。
耐水密着試験は、40℃耐水試験法を用い、恒温水槽に蒸留水又は脱イオン水を入れ、40+1℃に保ち、240時間後において、しわ・割れ・ふくれ・剥がれの発生を調べた。
耐食性試験は、塩水噴霧試験(JIS Z 2371に規定する試験機を用いる)を行い、240時間後の状態を調べた。
【0046】
その結果、実施例1の酸化被膜では、初期密着試験(図20(a))、耐水密着試験(図20(b))のいずれの場合も剥がれは発生せず、密着性は良好であった。また、耐食性については240時間後で問題がなく、480時間後についても調べたが問題はなかった。比較例3の酸化被膜では、初期密着試験(図21(a))では剥がれは発生しなかったが、耐水密着試験(図22(b))では剥がれが発生し、密着性は不十分であった。比較例4の酸化被膜でも、比較例3と同様に、初期密着試験(図23(a))では剥がれは発生しなかったが、耐水密着試験(図23(b))では剥がれが発生し、密着性は不十分であった。耐食性については比較例3,4の酸化被膜のいずれも240時間後では問題はなかった。
【0047】
比較例3の酸化被膜の断面及び表面をSEMで観察したところ、図23,24に示すように、実施例1の酸化被膜とは異なり、バリヤー層のみが形成され、表面もセルはなく、均一ではなかった。比較例4の酸化被膜についても、図25に示すように、同様であった。これらの酸化被膜では凹凸が形成されているものの、塗装焼付け時に塗料が凹凸の細部にまで流れ込まず、内部に形成されたポーラスに閉じ込められた空気が塗膜を押し上げることになり、アンカー効果が得られなくなるものと推測できる。さらには、これらの酸化被膜では、従来のエネルギーが高いプラズマ電解処理が行われているため、安定なα相が多くなっており、塗膜との化学反応が起こらず、密着性が不十分であったと考えられる。
また、従来のアルマイト被膜についても、断面及び表面をSEMで観察したところ、図26(a)に示すように複数のセルを有するものの、図26(b)に示すように、平均セル径は小さく、実施例1の酸化被膜とは大きく異なっていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る酸化被膜は、塗膜との密着性や耐食性に優れるため、例えば、自動車部品や建材等に用いるアルミニウム基材の塗装前の下地に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材に形成される酸化被膜であって、
バリヤー層と、当該バリヤー層に積層され、複数の中空柱状のセルから構成される多孔質層とを備え、当該多孔質層の平均セル径が200〜800nmである酸化被膜。
【請求項2】
前記バリヤー層の厚みが、100〜300nmである請求項1に記載の酸化被膜。
【請求項3】
pH4〜9の電解液中において、アルミニウム基材を陽極としてプラズマ電解処理を行うことにより、前記アルミニウム基材の表面に酸化被膜を形成する酸化被膜の製造方法。
【請求項4】
前記電解液は、シュウ酸チタンカリウムを含む請求項3に記載の酸化被膜の製造方法。
【請求項5】
前記プラズマ電解処理は、前記アルミニウム基材を陽極とする250〜450Vの電圧と、前記アルミニウム基材を陰極とする40〜100Vの電圧とを交互に印加して行う請求項3または4に記載の酸化被膜の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2010−215945(P2010−215945A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61765(P2009−61765)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)