説明

重水素化2,4−ピリミジンジアミン化合物およびそのプロドラッグならびにそれらの使用

本開示は、生物学的に活性な、式(1)の重水素化2,4-ピリミジンジアミン化合物およびそのプロドラッグ、重水素化化合物を含む組成物、重水素化化合物を合成するための中間体および方法、ならびに様々な適用における重水素化化合物および組成物の使用法を提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術分野
本開示は、生物学的に活性な重水素化2,4-ピリミジンジアミン化合物およびそのプロドラッグ、重水素化化合物を含む薬学的組成物、重水素化化合物を作成する中間体および合成法、ならびに様々な疾患の治療または予防などにおける、様々な状況における重水素化化合物および組成物の使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
IgEの高親和性受容体(FcεRI)および/またはIgGの高親和性受容体(FcγRI)などのFc受容体の架橋は、多くの有害事象の原因である化学伝達物質の放出を引き起こす、肥満細胞、好塩基性細胞および他の免疫細胞におけるシグナル伝達カスケードを活性化する。例えば、そのような架橋は、顆粒中の保存部位から脱顆粒によって、ヒスタミンなどのI型(即時)アナフィラキシー性過敏反応のすでに生成された伝達物質の放出につながる。これは、炎症反応において重要な役割を果たす、ロイコトリエン、プロスタグランジンおよび血小板活性化因子(PAF)を含む他の伝達物質の合成および放出にもつながる。Fc受容体の架橋後に合成および放出されるさらなる伝達物質には、サイトカインおよび酸化窒素が含まれる。
【0003】
FcεRIおよび/またはFcγRIなどのFc受容体を架橋することにより活性化されるシグナル伝達カスケードは、一連の細胞タンパク質を含む。最も重要な細胞内シグナル伝播因子の中にはチロシンキナーゼがある。FcεRIおよび/またはFcγRI受容体の架橋に関連するシグナル伝達経路、ならびに他のシグナル伝達カスケードに関与する1つの重要なチロシンキナーゼは、Sykキナーゼである(総説についてはValent et al., 2002, Intl. J. Hematol. 75(4):257-362を参照されたい)。
【0004】
FcεRIおよびFcγRI受容体架橋の結果放出される伝達物質は、多くの有害事象の発現を担う、またはそのような発現において重要な役割を果たす。最近、FcεRIおよび/またはFcγRIシグナル伝達カスケードを阻害し、無数の治療的使用を有する、様々なクラスの2,4-ピリミジンジアミン化合物が発見されている。例えば、2003年1月31日提出の米国特許出願第10/355,543号(US 2004/0029902A1)(特許文献1)、2003年1月31日提出の国際特許出願第PCT/US03/03022号(WO 03/063794)(特許文献2)、2003年7月29日提出の米国特許第10/631,029号(US 2007/0060603)(特許文献3)、国際特許出願第PCT/US03/24087号(WO 2004/014382)(特許文献4)、2004年7月30日提出の米国特許出願第10/903,263号(US2005/0234049)(特許文献5)、および国際特許出願第PCT/US2004/24716号(WO 2005/016893)(特許文献6)を参照されたく、これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。これらの化合物の多くは良好なバイオアベイラビリティ特性を示すが、いくつかの場合には所定の投与経路を介してのそれらのバイオアベイラビリティが最適化されるように、それらの溶解性または他の特性を調節することが望ましいこともある。
【0005】
2003年1月31日提出の国際特許出願第PCT/US03/03022号(WO 03/063794)(特許文献7)、2007年11月20日提出の国際特許出願第PCT/US07/85313号(WO 2008/064274)(特許文献8)、および2006年1月19日提出の国際特許出願第PCT/US06/01945号(WO 2006/078846)(特許文献9)は、それぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられ、あるクラスの2,4-ピリミジンジアミン化合物およびそのプロドラッグを、少なくとも部分的にはFc受容体シグナル伝達カスケードの活性化によって仲介される疾患の治療および/または予防を含む、様々なインビトロおよびインビボでの状況において有用であると開示している。これらの化合物は様々なインビトロおよびインビボでの状況において有用であるが、有効性が改善され、作用期間が長い化合物がいまだに必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第10/355,543号(US 2004/0029902A1)
【特許文献2】国際特許出願第PCT/US03/03022号(WO 03/063794)
【特許文献3】米国特許第10/631,029号(US 2007/0060603)
【特許文献4】国際特許出願第PCT/US03/24087号(WO 2004/014382)
【特許文献5】米国特許出願第10/903,263号(US2005/0234049)
【特許文献6】国際特許出願第PCT/US2004/24716号(WO 2005/016893)
【特許文献7】国際特許出願第PCT/US03/03022号(WO 03/063794)
【特許文献8】国際特許出願第PCT/US07/85313号(WO 2008/064274)
【特許文献9】国際特許出願第PCT/US06/01945号(WO 2006/078846)
【発明の概要】
【0007】
開示の概要
一つの広範な局面において、本開示は、無数の生物活性を有し、したがって治療的使用を有する、重水素化2,4-ピリミジンジアミン化合物およびそのプロドラッグ、重水素化化合物およびプロドラッグを含む組成物、重水素化化合物およびプロドラッグを合成するのに有用な方法および中間体、ならびに少なくとも部分的にはFc受容体シグナル伝達カスケードの活性化によって仲介される疾患の治療および/または予防を含む、様々なインビトロおよびインビボでの状況における重水素化化合物およびプロドラッグの使用法を提供する。
【0008】
したがって、一つの局面において、、本発明は式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む:

式中:
R1は水素C1-C6アルキル、およびR9から選択され;
R2およびR3は独立に水素、ハロゲン、ハロ(C1-C6)アルキル、およびC1-C6アルキルから選択されるか、または
R2およびR3は一緒になってオキソ基を形成し;
R4は水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-C6アルキル、およびハロ(C1-C6)アルキルから選択され;
R5は水素であり;かつ
R6、R7、およびR8は独立に水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C2-C6アルキニル、フェニル、ベンジル、-OR10、-C(O)R10、-C(O)OR10、-NR10R10、-S(O)2NR10R10、-C(O)NR10R10、-N(R)S(O)2R10および-NC(O)OR10から選択され、
ここでR10はそれぞれ独立に水素またはC1-C6アルキルであり;かつ
R9は-(CR11R11)k-O-P(O)(OR12)2または

であり、
ここでkは1、2または3であり;mは0または1であり;nは1、2または3であり;R11はそれぞれ独立に水素またはC1-C6アルキルであり;R12はそれぞれ独立に水素またはC1-C6アルキルであり、かつR13はそれぞれ独立に水素、またはC1-C6アルキルであり;かつ
R14は水素であり;
ただし化合物の少なくとも1つの水素は重水素濃縮されている。
【0009】
本局面の一つの態様において、本発明は式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む:

式中:
R1は水素、重水素、重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキル、およびR9から選択され;
R2およびR3は独立に水素、重水素、ハロゲン、ハロ(C1-C6)アルキル、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択されるか、または
R2およびR3は一緒になってオキソ基を形成し;
R4は水素、重水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-C6アルキル、およびハロ(C1-C6)アルキルから選択され;
R5は水素または重水素であり;かつ
R6、R7、およびR8は独立に水素、重水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキル、重水素で置換されていてもよいC2-C6アルケニル、重水素で置換されていてもよいC2-C6アルキニル、フェニル、ベンジル、-OR10、-C(O)R10、-C(O)OR10、-NR10R10、-S(O)2NR10R10、-C(O)NR10R10、-N(R)S(O)2R10および-NC(O)OR10から選択され、ここでR10はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され;かつ
R9は-(CR11R11)k-O-P(O)(OR12)2および

から選択され、
ここでkは1、2または3であり;mは0または1であり;nは1、2または3であり;R11はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され;R12はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され、かつR13はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され;
ただし少なくとも1つの重水素が存在する。
【0010】
本開示のもう一つの局面は、式(I)の化合物および適当な担体、賦形剤または希釈剤を含む薬学的組成物を提供する。担体、賦形剤または希釈剤の厳密な性質は、組成物に望まれる使用に依存することになり、獣医学的使用に適切または許容されるからヒトへの使用に適切または許容されるまでの範囲でありうる。組成物は任意に1つまたは複数の追加の化合物を含んでいてもよい。
【0011】
本開示のもう一つの局面は、被験体における細胞脱顆粒を阻害する方法であって、被験体に脱顆粒を阻害するのに有効な式(I)の化合物の薬学的に有効な量を投与する段階を含む方法を提供する。
【0012】
本開示のさらにもう一つの局面は、アレルギー性疾患、低度の瘢痕化、組織破壊に関連する疾患、組織炎症に関連する疾患、炎症および瘢痕化から選択される疾患の治療法または予防法であって、被験体に式(I)の化合物の薬学的に有効な量を投与する段階を含む方法を提供する。
【0013】
一つの局面において、本開示は被験体における関節リウマチの治療法であって、関節リウマチを患っている被験体に式(I)の化合物の薬学的に有効な量を投与する段階を含む方法を提供する。
【0014】
本開示のもう一つの局面は、被験体におけるSykキナーゼの活性を阻害する方法であって、被験体にSykキナーゼ活性を阻害するのに有効な式(I)の化合物の薬学的に有効な量を投与する段階を含む方法を提供する。
【0015】
もう一つの局面において、本開示は被験体におけるFc受容体シグナル伝達カスケードを阻害する方法であって、被験体にFc受容体シグナル伝達カスケードを阻害するのに有効な式(I)の化合物の薬学的に有効な量を投与する段階を含む方法を提供する。Fc受容体はFcαRI、FcγRI、FcγRIIIおよびFcεRIから選択される。
【0016】
本開示のもう一つの局面は、被験体における自己免疫疾患、および/またはそれに関連する1つもしくは複数の症状の治療法または予防法であって、被験体に自己免疫疾患を治療または予防するのに有効な式(I)の化合物の薬学的に有効な量を投与する段階を含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
一つの局面において、、本発明は式(I')の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む:

式中:
R1は水素C1-C6アルキル、およびR9から選択され;
R2およびR3は独立に水素、ハロゲン、ハロ(C1-C6)アルキル、およびC1-C6アルキルから選択されるか、または
R2およびR3は一緒になってオキソ基を形成し;
R4は水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-C6アルキル、およびハロ(C1-C6)アルキルから選択され;
R5は水素であり;かつ
R6、R7、およびR8は独立に水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C2-C6アルキニル、フェニル、ベンジル、-OR10、-C(O)R10、-C(O)OR10、-NR10R10、-S(O)2NR10R10、-C(O)NR10R10、-N(R)S(O)2R10および-NC(O)OR10から選択され、
ここでR10はそれぞれ独立に水素またはC1-C6アルキルであり;かつ
R9は-(CR11R11)k-O-P(O)(OR12)2または

であり、
ここでkは1、2または3であり;mは0または1であり;nは1、2または3であり;R11はそれぞれ独立に水素またはC1-C6アルキルであり;R12はそれぞれ独立に水素またはC1-C6アルキルであり、かつR13はそれぞれ独立に水素、またはC1-C6アルキルであり;かつ
R14は水素であり;
ただし化合物の少なくとも1つの水素は重水素濃縮されている。
【0018】
本局面の一つの態様において、本発明は式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む:

式中:
R1は水素、重水素、重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキル、およびR9から選択され;
R2およびR3は独立に水素、重水素、ハロゲン、ハロ(C1-C6)アルキル、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択されるか、または
R2およびR3は一緒になってオキソ基を形成し;
R4は水素、重水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-C6アルキル、およびハロ(C1-C6)アルキルから選択され;
R5は水素または重水素であり;かつ
R6、R7、およびR8は独立に水素、重水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキル、重水素で置換されていてもよいC2-C6アルケニル、重水素で置換されていてもよいC2-C6アルキニル、フェニル、ベンジル、-OR10、-C(O)R10、-C(O)OR10、-NR10R10、-S(O)2NR10R10、-C(O)NR10R10、-N(R)S(O)2R10および-NC(O)OR10から選択され、ここでR10はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され;かつ
R9は-(CR11R11)k-O-P(O)(OR12)2および

から選択され、
ここでkは1、2または3であり;mは0または1であり;nは1、2または3であり;R11はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され;R12はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され、かつR13はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され;
ただし少なくとも1つの重水素が存在する。
【0019】
一つの態様において、本開示は、R1が水素、重水素、およびR9から選択される、式(I)の化合物を提供する。
【0020】
もう一つの態様において、本開示は、R1が水素、重水素、および-(CR11R11)k-O-P(O)(OR12)2から選択される、式(I)の化合物を提供する。
【0021】
もう一つの態様において、本開示は、R1が水素または重水素である、式(I)の化合物を提供する。
【0022】
ある態様において、本開示は、R1が-(CR11R11)k-O-P(O)(OR12)2である、式(I)の化合物を提供する。一つのそのような態様において、R11はそれぞれ水素である。もう一つのそのような態様において、R11はそれぞれ重水素である。
【0023】
特定の態様において、本開示は、R1が-(CR11R11)-O-P(O)(OH)2であり、ここでR11はそれぞれ独立に水素および重水素から選択される、式(I)の化合物を提供する。
【0024】
一つの態様において、本開示は、R1が-CD2-O-P(O)(OH)2である、式(I)の化合物を提供する。
【0025】
もう一つの態様において、本開示は、R2およびR3が独立に水素、重水素、ハロゲン、ハロ(C1-C6)アルキル、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択される、前述の式(I)の化合物を提供する。
【0026】
さらにもう一つの態様において、本開示は、R2およびR3が独立に重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択される、前述の式(I)の化合物を提供する。
【0027】
一つの態様において、本開示は、R2およびR3が独立に-CH3、-CH2D、-CHD2および-CD3から選択される、式(I)の化合物を提供する。
【0028】
一つの態様において、本開示は、R2およびR3がいずれも-CH3である、前述の式(I)の化合物を提供する。
【0029】
もう一つの態様において、本開示は、R2およびR3がいずれも-CD3である、前述の式(I)の化合物を提供する。
【0030】
さらにもう一つの態様において、本開示は、R2が-CH3であり、かつR3が-CD3である、前述の式(I)の化合物を提供する。
【0031】
一つの態様において、本開示は、R4が水素、重水素、またはハロゲンである、前述の式(I)の化合物を提供する。
【0032】
一つの態様において、本開示は、R4がハロゲンである、前述の式(I)の化合物を提供する。例えば、R4はフッ素でありうる。
【0033】
一つの態様において、本開示は、R5が水素である、前述の式(I)の化合物を提供する。もう一つの態様において、本開示は、R5が重水素である、前述の式(I)の化合物を提供する。
【0034】
一つの態様において、本開示は、R6、R7、およびR8が独立に-OR10から選択され、ここでR10はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択される、前述の式(I)の化合物を提供する。
【0035】
もう一つの態様において、本開示は、R6、R7、およびR8が独立に-OR10から選択され、ここでR10はそれぞれ重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルである、前述の式(I)の化合物を提供する。
【0036】
さらにもう一つの態様において、本開示は、R6、R7、およびR8が独立に-OCH3、-OCH2D、-OCHD2および-OCD3から選択される、前述の式(I)の化合物を提供する。一つの態様において、本開示は、R6、R7およびR8がそれぞれ-OCH3である、式(I)の化合物を提供する。
【0037】
一つの態様において、本開示は、R6、R7、またはR8の少なくとも1つが-OCD3である、前述の式(I)の化合物を提供する。特定の態様において、本開示は、R6、R7およびR8がそれぞれ-OCD3である、式(I)の化合物を提供する。
【0038】
一つの態様において、本開示は、
R1が水素または-CH2-O-P(O)(OH)2であり;
R2およびR3が独立にC1-C6アルキルであり;
R4がハロゲンであり;
R5が水素であり;かつ
R6、R7、およびR8が独立に-OR10から選択され、ここでR10はそれぞれ重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり、かつ
R6、R7、またはR8の少なくとも1つが重水素を含む、前述の式(I)の化合物を提供する。
【0039】
これらの化合物は式(II)によって表すことができる

式中:
R1は水素または-CH2-O-P(O)(OH)2であり;
R2およびR3は独立にC1-C6アルキルであり;
Xはハロゲンであり;かつ
R10はそれぞれ独立に重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり;
ただし少なくとも1つの重水素が存在する。
【0040】
特定の態様において、本開示は、R2およびR3がそれぞれメチルである、前述の式(II)の化合物を提供する。
【0041】
特定の態様において、本開示は、Xがフッ素である、前述の式(II)の化合物を提供する。
【0042】
特定の態様において、本開示は、少なくとも1つのR10が-CD3である、前述の式(II)の化合物を提供する。一つの態様において、本開示は、3つのR10すべてが-CD3である、前述の式(II)の化合物を提供する。
【0043】
式(II)の代表的化合物には下記が含まれる:


【0044】
一つの態様において、本開示は、
R1が水素または-CH2-O-P(O)(OH)2であり;
R2およびR3が独立に重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり、ここでR2またはR3の少なくとも1つは重水素を含み;
R4がハロゲンであり;
R5が水素であり;かつ
R6、R7、およびR8が独立に-O-(C1-C6アルキル)である、式(I)の化合物を提供する。
【0045】
これらの化合物は式(III)によって表すことができる

式中:
R1は水素または-CH2-O-P(O)(OH)2であり;
R2およびR3は独立に重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり、ここでR2またはR3の少なくとも1つは重水素を含み;
Xはハロゲンであり;かつ
R10はそれぞれ独立にC1-C6アルキルである。
【0046】
特定の態様において、本開示は、R2およびR3がそれぞれ-CD3である、前述の式(III)の化合物を提供する。もう一つの態様において、本開示は、R2がメチルであり、かつR3が-CD3である、前述の式(III)の化合物を提供する。
【0047】
特定の態様において、本開示は、Xがフッ素である、前述の式(III)の化合物を提供する。
【0048】
特定の態様において、本開示は、3つのR10すべてがメチルである、前述の式(III)の化合物を提供する。
【0049】
式(III)の代表的化合物には下記が含まれる:

【0050】
一つの態様において、本開示は、
R1が-CD2-O-P(O)(OH)2であり;
R2およびR3が独立にC1-C6アルキルであり;
R4がハロゲンであり;
R5が水素であり;かつ
R6、R7、およびR8が独立に-O-(C1-C6アルキル)から選択される、式(I)の化合物を提供する。
【0051】
これらの化合物は式(IV)によって表すことができる

式中:
R2およびR3は独立にC1-C6アルキルであり;
Xはハロゲンであり;かつ
R10はそれぞれ独立にC1-C6アルキルである。
【0052】
特定の態様において、本開示は、R2およびR3がそれぞれ-CH3である、前述の式(IV)の化合物を提供する。
【0053】
特定の態様において、本開示は、Xがフッ素である、前述の式(IV)の化合物を提供する。
【0054】
特定の態様において、本開示は、3つのR10すべてがメチルである、前述の式(IV)の化合物を提供する。
【0055】
式(IV)の1つの代表的化合物は下記である:

【0056】
一つの態様において、本開示は、
R1が水素または-CH2-O-P(O)(OH)2であり;
R2およびR3が独立にC1-C6アルキルであり;
R4がハロゲンであり;
R5が重水素であり;かつ
R6、R7、およびR8が独立に-O-(C1-C6アルキル)から選択される、式(I)の化合物を提供する。
【0057】
これらの化合物は式(V)によって表すことができる

式中:
R1は水素または-CH2-O-P(O)(OH)2であり;
R2およびR3は独立にC1-C6アルキルであり;
Xはハロゲンであり;かつ
R10はそれぞれ独立にC1-C6アルキルである。
【0058】
特定の態様において、本開示は、R2およびR3がそれぞれ-CH3である、前述の式(V)の化合物を提供する。
【0059】
特定の態様において、本開示は、Xがフッ素である、前述の式(V)の化合物を提供する。
【0060】
特定の態様において、本開示は、3つのR10すべてがメチルである、前述の式(V)の化合物を提供する。
【0061】
式(V)の代表的化合物には下記が含まれる:

【0062】
一つの態様において、本開示は、R1、R2、R3、R5、R6、R7、およびR8の少なくとも2つが重水素を含む、前述の式(I)の化合物を提供する。
【0063】
一つの態様において、本開示は、R1、R2、R3、R5、R6、R7、およびR8の少なくとも3つが重水素を含む、前述の式(I)の化合物を提供する。
【0064】
一つの態様において、式(I)の化合物は、使用条件下で代謝されるか、またはそうではなく変換されて、活性2,4-ピリミジンジアミン化合物を生じるプロ基R9で置換されている。プロ基R9には、インビトロでエステラーゼ、リパーゼおよび/またはホスファターゼなどの酵素によって切断することができるリン酸エステル部分が含まれる。そのような酵素は体中のいたるところにあり、例えば、胃および消化管、血液および/または血清、ならびに実質的にすべての組織および器官に存在する。そのようなリン酸エステル含有R9は一般に、基礎となる活性2,4-ピリミジンジアミン化合物の水溶性を高め、そのようなリン酸エステル含有化合物を、例えば、経口、口腔、静脈内、筋肉内および眼投与様式などの、水溶性が望ましい投与様式に適したものとする。
【0065】
一つの態様において、R9は式-(CR11R11)k-O-P(O)(OH)2のもの、またはその塩であり、式中R11は前に定義したとおりであり、かつkは1または2である。特定の態様において、R9基は-CH2-O-P(O)(OH)2もしくは-CD2-O-P(O)(OH)2、またはその塩である。他の態様において、R9基は-CH2CH2-O-P(O)(OH)2、-CH2CD2-O-P(O)(OH)2、もしくは-CD2CH2-O-P(O)(OH)2、-CD2CD2-O-P(O)(OH)2、またはその塩である。塩は、例えば、1もしくは2ナトリウム塩、1もしくは2カリウム塩、1もしくは2リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩またはアンモニウム塩でありうる。
【0066】
もう一つの態様において、R9は以下の式の環状リン酸エステルである

式中、R11およびR13は前に定義したとおりであり、mは0または1であり、かつnは1または2である。特定の態様において、R11はそれぞれ水素である。他の態様において、R11はそれぞれ重水素である。そのような環状リン酸エステルの具体例には、下記から選択される基が含まれるが、それらに限定されるわけではない:

そのような例において、-(CR11R11)n-部分は、特定の態様において、-CD2-または-CH2-でありうる。
【0067】
もう一つの局面において、本開示は、以下の構造を有するリン酸ジ-tert-ブチルクロロジジュウテロメチルを提供する:

リン酸ジ-tert-ブチルクロロジジュウテロメチルは本開示の2,4-ピリミジンジアミンプロドラッグを調製するために有用である。
【0068】
本開示のもう一つの局面において、リン酸ジ-tert-ブチルクロロジジュウテロメチルをリン酸ジ-tert-ブチルの塩から調製する。一つの態様において、例えば、リン酸ジ-tert-ブチルの塩はリン酸ジ-tert-ブチル銀またはリン酸ジ-tert-ブチルテトラブチルアンモニウムである。リン酸ジ-tert-ブチルの塩を、例えば、CD2IClと溶媒存在下で反応させて、リン酸ジ-tert-ブチルクロロジジュウテロメチルを生成することができる。
【0069】
もう一つの局面において、本開示は、以下の式を有する化合物の調製法を提供する:
X1-(CR11R11)k-O-P(O)(OH)2
式中、kは1、2または3であり;X1はハロゲンであり;かつR11はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され、この方法はリン酸ジ-tert-ブチルの塩をX1-(CR11R11)k-X2と反応させる段階を含み、ここでX2はハロゲンであり、かつX1と同じまたは異なっていてもよい。例えば、特定の態様において、X1はX2と異なる。一つの態様において、X1はClであり、かつX2はIである。適切なリン酸ジ-tert-ブチルの塩には、例えば、リン酸ジ-tert-ブチル銀およびリン酸ジ-tert-ブチルテトラブチルアンモニウムが含まれる。特定の態様において、kは1または2である。例えば、kは1でありうる。
【0070】
本開示の一つの態様において、式(I)の化合物への重原子の取り込み、特に水素の重水素による置換は、化合物の薬動力学を変化させうる同位体効果を生じることがある。本開示の化合物の安定同位体標識は、pKaおよび脂溶性などのその物理化学的性質を変えうる。これらの変化はその体内通過中の異なる段階で化合物の薬物動態に影響をおよぼしうる。吸収、分布、代謝または排出が変化しうる。重水素化化合物は非重水素化化合物よりも、低濃度で哺乳動物に対して高い効果および長い作用期間を有することがある。
【0071】
重水素は約0.015%の天然存在度を有する。したがって、天然に存在する水素原子約6,500個につき1個の重水素がある。本明細書に開示するのは、1つまたは複数の位置で重水素濃縮された化合物である。したがって、本開示の重水素含有化合物は、0.015%よりも高い存在度で、1つまたは複数の位置で(状況に応じて)、重水素を有する。したがって、本明細書において用いられるとおり、部分もしくは化合物が「重水素で置換されている」と記載される場合、または部分もしくは化合物が重水素を有すると記載される場合、それは重水素が置換されている、または存在する位置で重水素濃縮があることになる。
【0072】
一つの態様において、式(I)の化合物は、重水素を有すると指定される位置で、化合物中の重水素と指定される原子それぞれで少なくとも2000(30%の重水素の取り込み)、または少なくとも3000(45%の重水素の取り込み)の最小同位体濃縮係数を有する。
【0073】
他の態様において、式(I)の化合物は、指定の重水素原子それぞれについて少なくとも3500(指定の重水素原子それぞれで52.5%の重水素の取り込み)、少なくとも4000(60%の重水素の取り込み)、少なくとも4500(67.5%の重水素の取り込み)、少なくとも5000(75%の重水素の取り込み)、少なくとも5500(82.5%の重水素の取り込み)、少なくとも6000(90%の重水素の取り込み)、少なくとも6333.3(95%の重水素の取り込み)、少なくとも6466.7(97%の重水素の取り込み)、少なくとも6600(99%の重水素の取り込み)、または少なくとも6633.3(99.5%の重水素の取り込み)の同位体濃縮係数を有する。
【0074】
もう一つの態様において、本開示は、式(I)の化合物の薬学的に許容される塩を提供する。一般に、薬学的に許容される塩は、実質的に親化合物の所望の薬理活性の1つまたは複数を保持し、ヒトへの投与に適した塩である。薬学的に許容される塩には、無機酸または有機酸と形成される酸付加塩が含まれる。薬学的に許容される酸付加塩を形成するのに適した無機酸には、例として、ハロゲン化水素酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸など)、硫酸、硝酸、リン酸などが含まれるが、それらに限定されるわけではない。薬学的に許容される酸付加塩を形成するのに適した有機酸には、例として、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、パルミチン酸、安息香酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、アルキルスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタン-ジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸など)、アリールスルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸など)、4-メチルビシクロ[2.2.2]-オクタ-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、tert-ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸などが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0075】
一つの態様において、本開示は、R1が-(CR11R11)k-O-P(O)(OR12)2であり、ここで少なくとも1つのR12は水素または重水素である、式(I)の化合物の薬学的に許容される塩を提供する。
【0076】
薬学的に許容される塩には、親化合物に存在する酸性プロトンが無機イオン(例えば、Na+、K+もしくはLi+などのアルカリ金属イオン、Ca2+もしくはMg2+などのアルカリ土類イオン、アルミニウムイオン、またはアンモニウムイオン)で置き換えられているか、または有機塩基(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルグルカミン、モルホリン、ピペリジン、ジメチルアミン、ジエチルアミンなど)と配位している場合に形成される塩も含まれる。
【0077】
具体例としての塩には、1および2ナトリウム塩、1および2カリウム塩、1および2リチウム塩、モノおよびジアルキルアミノ塩、1および2アンモニウム塩、1マグネシウム塩、ならびに1カルシウム塩が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0078】
本明細書に記載の化合物、ならびにその塩は、当技術分野において周知のとおり、水和物、溶媒和物およびN-オキシドであってもよい。
【0079】
もう一つの局面において、本開示は、本明細書に記載の化合物の1つまたは複数および適当な担体、賦形剤または希釈剤を含む組成物を提供する。担体、賦形剤または希釈剤の厳密な性質は、組成物に望まれる使用に依存することになり、獣医学的使用に適切または許容されるからヒトへの使用に適切または許容されるまでの範囲でありうる。組成物は任意に1つまたは複数の追加の化合物を含んでいてもよい。
【0080】
本明細書に記載の化合物の多く、特に構造式(I)の化合物は、肥満細胞、好塩基性細胞、好中性細胞および/もしくは好酸性細胞などの免疫細胞の脱顆粒の強力な阻害剤であるか、または代謝されて、肥満細胞、好塩基性細胞、好中性細胞および/もしくは好酸性細胞などの免疫細胞の脱顆粒の強力な阻害剤である2,4-ピリミジンジアミン化合物を生じる。したがって、さらにもう一つの局面において、本開示は、そのような細胞の脱顆粒を調節、特に阻害する方法を提供する。この方法は一般には、脱顆粒する細胞を、本明細書に記載の適切な化合物、またはその許容される塩の、細胞の脱顆粒を調節または阻害するのに有効な量と接触させる段階を含む。この方法は、細胞脱顆粒によって特徴付けられる、それによって引き起こされる、またはそれに関連する疾患の治療または予防のための治療的アプローチとして、インビトロの状況で、またはインビボの状況で実施してもよい。
【0081】
いかなる作用の理論にも縛られるつもりはないが、生化学データから、多くの2,4-ピリミジンジアミン化合物は、少なくとも部分的には、IgEの高親和性Fc受容体(「FcεRI」)および/またはIgGの高親和性Fc受容体(「FcγRI」)の架橋によって惹起されるシグナル伝達カスケードを阻止または阻害することにより、それらの脱顆粒阻害効果を発揮することが確認される(例えば、2003年7月29日提出の米国特許第10/631,029号(US 2007/0060603)、国際特許出願第PCT/US03/24087号(WO 2004/014382)、2004年7月30日提出の米国特許出願第10/903,263号(US2005/0234049)、および国際特許出願第PCT/US2004/24716号(WO 2005/016893)を参照されたく、その開示は参照により本明細書に組み入れられる)。事実、これらの活性2,4-ピリミジンジアミン化合物は、FcεRI仲介性およびFcγRI仲介性脱顆粒の両方の強力な阻害剤である。その結果、本明細書に記載の化合物を、マクロファージ、肥満細胞、好塩基性細胞、好中性細胞および/または好酸性細胞を含むが、それらに限定されるわけではない、そのようなFcεRIおよび/またはFcγRI受容体を発現する任意の細胞型におけるこれらのFc受容体シグナル伝達カスケードを阻害するために用いてもよい。
【0082】
この方法は、そのようなFc受容体シグナル伝達カスケードを活性化した結果生じる下流のプロセスの調節、特に阻害を可能にする。そのような下流のプロセスには、FcεRI仲介性および/もしくはFcγRI仲介性脱顆粒、サイトカイン産生、ならびに/またはロイコトリエンおよびプロスタグランジンなどの脂質メディエーターの産生および/もしくは放出が含まれるが、それらに限定されるわけではない。この方法は一般には、前述の細胞型の1つなどの、Fc受容体を発現する細胞を、本明細書に記載の化合物、またはその許容される塩の、Fc受容体シグナル伝達カスケードおよび/またはこのシグナル伝達カスケードの活性化によってもたらされる下流プロセスを調節または阻害するのに有効な量と接触させる段階を含む。この方法は、脱顆粒後の顆粒特異的化学伝達物質の放出、サイトカインの放出および/もしくは合成ならびに/またはロイコトリエンおよびプロスタグランジンなどの脂質メディエーターの放出および/もしくは合成によってもたらされる疾患などの、Fc受容体シグナル伝達カスケードによって特徴付けられる、それによって引き起こされる、またはそれに関連する疾患の治療または予防のための治療的アプローチとして、インビトロの状況で、またはインビボの状況で実施してもよい。
【0083】
さらにもう一つの局面において、本開示は、FcεRIおよび/またはFcγRIシグナル伝達カスケードなどの、Fc受容体シグナル伝達カスケードを活性化した結果としての化学伝達物質の放出によって特徴付けられる、それによって引き起こされる、またはそれに関連する疾患の治療法および/または予防法を提供する。この方法は、獣医学的状況における動物で、またはヒトで実施してもよい。この方法は一般には、動物被験体またはヒトに、本明細書に記載の化合物、またはその許容される塩の、疾患を治療または予防するのに有効な量を投与する段階を含む。前述のとおり、特定の免疫細胞におけるFcεRIまたはFcγRI受容体シグナル伝達カスケードの活性化は、多様な疾患の薬理的メディエーターである様々な化学物質の放出および/または合成を引き起こす。任意のこれらの疾患を本明細書に記載の方法に従って治療または予防してもよい。
【0084】
例えば、肥満細胞および好塩基性細胞において、FcεRIまたはFcγRIシグナル伝達カスケードの活性化は、脱顆粒プロセスを介してのアトピー性および/またはI型過敏反応のすでに生成されたメディエーター(例えば、ヒスタミン、トリプターゼなどのプロテアーゼなど)の即時(すなわち、受容体活性化の1〜3分以内)放出を引き起こす。そのようなアトピー性またはI型過敏反応には、環境および他のアレルゲン(例えば、花粉、昆虫および/または動物毒、食物、薬物、造影色素など)に対するアナフィラキシー反応、アナフィラキシー様反応、枯草熱、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性喘息、アトピー性皮膚炎、皮膚炎、じんま疹、粘膜障害、組織障害および特定の胃腸障害が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0085】
脱顆粒を介してのすでに生成されたメディエーターの即時放出後、特に、血小板活性化因子(PAF)、プロスタグランジンおよびロイコトリエン(例えば、LTC4)を含む様々な他の化学伝達物質の放出および/または合成、ならびにTNFα、IL-4、IL-5、IL-6、IL-13などのサイトカインの新規合成および放出が起こる。これらの2つのプロセスの最初のものは受容体活性化の約3〜30分後に起こり;後者は受容体活性化の約30分〜7時間後に起こる。これらの「後期」メディエーターは、部分的には、上で挙げたアトピー性およびI型過敏反応の慢性症状の原因であると考えられ、加えて炎症および炎症性疾患(例えば、骨関節症、炎症性腸疾患、潰瘍性結腸炎、クローン病、特発性炎症性腸疾患、刺激性腸症候群、痙攣性結腸など)、低度の瘢痕化(例えば、強皮症、線維症増大、ケロイド、術後瘢痕、肺線維症、血管痙攣、偏頭痛、再灌流傷害および心筋梗塞後)、ならびに複合乾燥症または乾燥症候群の化学伝達物質である。これらの疾患はすべて本明細書に記載の方法に従って治療または予防してもよい。
【0086】
本明細書に記載の方法に従って治療または予防することができるその他の疾患には、好塩基性細胞および/または肥満細胞の病理に関連する疾患が含まれる。そのような疾患の例には、強皮症などの皮膚の疾患、心筋梗塞後などの心臓疾患、肺の筋肉の変化またはリモデリングおよび慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺疾患、炎症性腸症候群(痙攣性結腸)などの腸の疾患、急性骨髄性白血病(AML)ならびに免疫血小板減少性紫斑病が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0087】
活性2,4-ピリミジンジアミン化合物の多くはチロシンキナーゼSykキナーゼの強力な阻害剤でもある。そのような2,4-ピリミジンジアミンの例が上で参照した出願において記載されている。したがって、さらにもう一つの局面において、本開示は、Sykキナーゼ活性を調節、特に阻害する方法を提供する。この方法は一般には、SykキナーゼまたはSykキナーゼを含む細胞を、適切な化合物、またはその許容される塩の、Sykキナーゼ活性を調節または阻害するのに有効な量と接触させる段階を含む。一つの態様において、Sykキナーゼは単離または組換えSykキナーゼである。もう一つの態様において、Sykキナーゼは、細胞、例えば、肥満細胞または好塩基性細胞によって発現される内因性または組換えSykキナーゼである。この方法は、Sykキナーゼ活性によって特徴付けられる、それによって引き起こされる、またはそれに関連する疾患の治療または予防のための治療的アプローチとして、インビトロの状況で、またはインビボの状況で実施してもよい。
【0088】
いかなる作用の特定の理論にも縛られるつもりはないが、そのような活性2,4-ピリムジンジアミン化合物は、主にFcεRIのガンマ鎖ホモ二量体を通じて活性化されるSykキナーゼを阻害することにより、細胞脱顆粒および/または他の化学伝達物質の放出を阻害すると考えられる。このガンマ鎖ホモ二量体はFcγRI、FcγRIIIおよびFcαRIを含む、他のFc受容体と共通である。これらの受容体すべてについて、細胞内シグナル伝達は共通のガンマ鎖ホモ二量体によって仲介される。これらの受容体の結合および凝集は、Sykキナーゼなどのチロシンキナーゼの動員および活性化を引き起こす。これらの共通のシグナル伝達活性の結果、本明細書に記載の化合物を、FcεRI、FcγRI、FcγRIIIおよびFcαRIなどの、このガンマ鎖ホモ二量体を有するFc受容体のシグナル伝達カスケード、ならびにこれらの受容体を通して誘発される細胞応答を調節、特に阻害するために用いてもよい。
【0089】
Sykキナーゼは他のシグナル伝達カスケードにおいて重大な役割を果たすことが公知である。例えば、SykキナーゼはB細胞受容体(BCR)シグナル伝達のエフェクターであり、好中球におけるインテグリンベータ(1)、ベータ(2)およびベータ(3)シグナル伝達の必須成分である。Sykキナーゼの強力な阻害剤である活性2,4-ピリミジンジアミン化合物を、例えば、Fc受容体、BCRおよびインテグリンシグナル伝達カスケードなどの、Sykが役割を果たす任意のシグナル伝達カスケード、ならびにこれらのシグナル伝達カスケードを通して誘発される細胞応答を調節、特に阻害するために用いることができる。したがって、本明細書に記載の化合物を、そのような活性を調節するために用いることができる。当技術分野において周知のとおり、調節または阻害する特定の細胞応答は、部分的には、具体的な細胞型および受容体シグナル伝達カスケードに依存することになる。そのような化合物で調節または阻害しうる細胞応答の非限定例には、呼吸バースト、細胞接着、細胞脱顆粒、細胞伸展、細胞遊走、食作用(例えば、マクロファージにおける)、カルシウムイオンフラックス(例えば、肥満細胞、好塩基性細胞、好中性細胞、好酸性細胞およびB細胞における)、血小板凝集、および細胞成熟(例えば、B細胞における)が含まれる。
【0090】
したがって、もう一つの局面において、本開示は、Sykが役割を果たすシグナル伝達カスケードを調節、特に阻害する方法を提供する。この方法は一般には、Syk依存性受容体またはSyk依存性受容体を発現する細胞を、本明細書に記載の適切な化合物、またはその許容される塩の、シグナル伝達カスケードを調節または阻害するのに有効な量と接触させる段階を含む。この方法はまた、特定のSyk依存性シグナル伝達カスケードの活性化により誘発される下流プロセスまたは細胞応答を調節、特に阻害するために用いてもよい。この方法は、Sykが役割を果たすと現在知られている、または後に発見される、任意のシグナル伝達カスケードを調節するために実施してもよい。この方法は、Syk依存性シグナル伝達カスケードの活性化によって特徴付けられる、それによって引き起こされる、またはそれに関連する疾患の治療または予防のための治療的アプローチとして、インビトロの状況で、またはインビボの状況で実施してもよい。そのような疾患の非限定例には、前述のものが含まれる。
【0091】
最近の試験は、コラーゲンによる血小板の活性化が免疫受容体によって用いられるのと同じ経路により仲介され、FcRγ上の免疫受容体チロシンキナーゼモチーフが重要な役割を果たしていること、およびFcRγは、おそらくはコラーゲン誘導性の血小板活性化および白血球動員を通じて、マウスにおけるバルーン傷害後の新内膜過形成の生成において重要な役割を果たすことを明らかにした。したがって、本明細書に記載の化合物は、コラーゲン誘導性の血小板活性化を阻害するため、および、例えば、血管傷害後の内膜過形成および再狭窄などの、そのような血小板活性化に関連する、またはそれによって引き起こされる疾患を治療または予防するために用いることもできる。
【0092】
細胞および動物データは、これらの活性2,4-ピリミジンジアミン化合物の多くを自己免疫疾患および/またはそのような疾患の症状を治療または予防するためにも用いうることを確認している。したがって、活性2,4-ピリミジンジアミン化合物は同様に、そのような自己免疫疾患および/または症状を治療または予防するために用いることができる。この方法は一般には、自己免疫疾患を患っている、または自己免疫疾患を発症するリスクが高い被験体に、本明細書に記載の適切な化合物、またはその許容される塩の、自己免疫疾患および/またはその関連する症状を治療または予防するのに有効な量を投与する段階を含む。本明細書に記載の化合物で治療または予防することができる自己免疫疾患には、一般に非アナフィラキシー性過敏反応(II型、III型および/またはIV型過敏反応)に関連する疾患および/または少なくとも部分的には単球におけるFcγRシグナル伝達カスケードの活性化によって仲介される疾患が含まれる。そのような自己免疫疾患には、単一器官または単一細胞型自己免疫障害としばしば呼ばれる自己免疫疾患および全身波及自己免疫障害としばしば呼ばれる自己免疫疾患が含まれるが、それらに限定されるわけではない。単一器官または単一細胞型自己免疫障害としばしば呼ばれる疾患の非限定例には、橋本甲状腺炎、自己免疫溶血性貧血、悪性貧血の自己免疫萎縮性胃炎、自己免疫脳脊髄炎、自己免疫精巣炎、グッドパスチャー病、自己免疫血小板減少症、交感性眼炎、重症筋無力症、グレーヴズ病、原発性胆汁性肝硬変、慢性進行性肝炎、潰瘍性結腸炎および膜性糸球体症が含まれる。全身波及自己免疫障害としばしば呼ばれる疾患の非限定例には、全身性紅斑性狼蒼、関節リウマチ、シェーグレン症候群、ライター症候群、多発性筋炎-皮膚筋炎、全身性硬化症、結節性多発性動脈炎、多発性硬化症および水胞性類天疱瘡が含まれる。β細胞(液性)性またはT細胞性でありうる、その他の自己免疫疾患には、自己免疫脱毛症、I型または若年発症糖尿病、および甲状腺炎が含まれる。
【0093】
定義
本明細書において用いられる以下の用語は以下の意味を有することが意図される:
【0094】
「アルキル」には、指定の数の炭素原子のアルキル基が含まれる。アルキル基は直鎖、または分枝であってもよい。「アルキル」の例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソ-、sec-およびtert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、3-エチルブチルなどが含まれる。
【0095】
本明細書において用いられる「アルケニル」なる用語は、2から10個、好ましくは2から6個の炭素を含み、2個の水素の除去により生成される少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む、直鎖または分枝鎖炭化水素を意味する。アルキニルの代表例には、エテニル、2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、3-ブテニル、4-ペンテニル、5-ヘキセニル、2-ヘプテニル、2-メチル-1-ヘプテニル、および3-デセニルが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0096】
本明細書において用いられる「アルキニル」なる用語は、2から10個、好ましくは2から6個の炭素原子を含み、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を含む、直鎖または分枝鎖炭化水素基を意味する。アルキニルの代表例には、アセチレニル、1-プロピニル、2-プロピニル、3-ブチニル、2-ペンチニル、および1-ブチニルが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0097】
「ハロゲン」または「ハロ」なる用語は、フッ素、塩素、臭素、およびヨウ素を示す。
【0098】
「ハロアルキル」とは、1つまたは複数のハロゲン原子で置換されているアルキル基を意味し、ここでハロゲンはそれぞれ独立にF、Cl、BrまたはIである。好ましいハロゲンはFおよびClである。好ましいハロアルキル基は1〜6個の炭素、より好ましくは1〜4個の炭素、さらにより好ましくは1〜2個の炭素を含む。「ハロアルキル」には、CF3またはCF2CF3などの過ハロアルキル基が含まれる。好ましいハロアルキル基はトリフルオロメチルである。「ハロ(C1-C6)アルキル」とは、1から6個の範囲の炭素を有するハロアルキルを意味する。
【0099】
本明細書において用いられる「同位体濃縮係数」なる用語は、特定の同位体の同位体存在度と天然存在度との間の比を意味する。合成化合物では、合成に用いた化学材料の起源に応じて、天然同位体存在度のいくらかの変動が起こることが理解されるであろう。したがって、任意の化合物の調製は、本質的に少量の重水素化同位体置換体を含むことになる。天然に豊富に存在する安定な水素同位体の濃度は、この変動にも関わらず、本開示の化合物の安定同位体置換の程度に比べて低く、微々たるものである。本開示の化合物において、特定の位置が重水素を有すると指定される場合、これはその位置の重水素の存在度が、約0.015%(mol/molベースで)である重水素の天然存在度よりも実質的に高いと理解される。重水素を有すると指定される位置は多くの場合、化合物中の重水素と指定される原子それぞれで少なくとも3000(45%の重水素の取り込み)の最小同位体濃縮係数を有することになる。
【0100】
本開示の化合物において、特定の同位体として具体的に指定されていない任意の原子は、その原子の任意の安定同位体を表すことが意図される。特に記載がないかぎり、位置が「H」または「水素」と具体的に指定される場合、その位置は水素をその天然存在度の同位体組成で有すると理解される。
【0101】
「同位体置換体]なる用語は、1つまたは複数の位置の同位体組成、例えば、H対D以外は、本開示の具体的化合物と同じ化学構造および式を有する種を意味する。したがって、同位体置換体は本開示の具体的化合物とその同位体組成において異なる。
【0102】
「Fc受容体」とは、免疫グロブリンのFc部分(特定の定常部を含む)を結合する細胞表面分子のファミリーのメンバーを意味する。Fc受容体はそれぞれ特定の型の免疫グロブリンを結合する。例えば、Fcα受容体(「FcαR」)はIgAを結合し、FcεRはIgEを結合し、FcγRはIgGを結合する。
【0103】
FcαRファミリーには、IgA/IgMの上皮輸送に関与するポリマーIg受容体、ミクロイド(mycloid)特異的受容体RcαRI(CD89とも呼ばれる)、Fcα/μRおよび少なくとも2つの別のIgA受容体が含まれる(最近の総説については、Monteiro & van de Winkel, 2003, Annu. Rev. Immunol, advanced e-publicationを参照されたい)。FcαRIは好中球、好酸球、単球/マクロファージ、樹状細胞および銅細胞上で発現される。FcαRIは1つのアルファ鎖、および細胞質ドメインに活性化モチーフ(ITAM)を有し、Sykキナーゼをリン酸化する、FcRガンマホモ二量体を含む。
【0104】
FcεRファミリーには、FcεRIおよびFcεRII(CD23としても公知)と呼ばれる2つの型が含まれる。FcεRIは、モノマーIgEを細胞表面に固定する、肥満細胞、好塩基性細胞および好酸性細胞上で見られる高親和性受容体(約1010M-1の親和性でIgEを結合する)である。FcεRIは、1つのアルファ鎖、1つのベータ鎖および前述のガンマ鎖ホモ二量体を有する。FcεRIIは、単核食細胞、Bリンパ球、好酸球、および血小板上で発現される低親和性受容体である。FcεRIIは、1つのポリペプチド鎖を含み、ガンマ鎖ホモ二量体は含まない。
【0105】
FcγRファミリーには、FcγRI(CD64としても公知)、FcγRII(CD32としても公知)およびFcγRIII(CD16としても公知)と呼ばれる3つの型が含まれる。FcγRIは、ノモマーIgGを細胞表面に固定する、肥満細胞、好塩基性細胞、単核細胞、好中性細胞、好酸性細胞、樹状細胞および食細胞上で見られる高親和性受容体(約108M-1の親和性でIgG1を結合する)である。FcγRIは1つのアルファ鎖ならびに、FcαRIおよびFcεRIと共通のガンマ鎖二量体を含む。
【0106】
FcγRIIは、好中球、単球、好酸球、血小板およびBリンパ球上で発現される低親和性受容体である。FcγRIIは、1つのアルファ鎖を含み、前述のガンマ鎖ホモ二量体は含まない。
【0107】
FcγRIIIは、NK、好酸球、マクロファージ、好中球および肥満細胞上で発現される低親和性(約5×105M-1の親和性でIgG1を結合する)である。これは1つのアルファ鎖ならびに、FcαRI、FcεRIおよびFcγRIと共通のガンマホモ二量体を含む。
【0108】
当業者であれば、これらの様々なFc受容体のサブユニット構造および結合特性、ならびにそれらを発現する細胞型が、完全には特徴付けられていないことを理解するであろう。上の議論は単にこれらの受容体に関する現在の最先端技術を反映しているにすぎず(例えば、Immunobiology: The Immune System in Health & Disease, 5th Edition, Janeway et al., Eds, 2001, ISBN 0-8153-3642-x, Figure 9.30 at pp. 371を参照されたい)、本明細書に開示の化合物によって調節しうる無数の受容体シグナル伝達カスケードに関して、制限的であることを意図するものではない。
【0109】
「Fc受容体仲介性脱顆粒」または「Fc受容体誘導性脱顆粒」とは、Fc受容体の架橋によって惹起されるFc受容体シグナル伝達カスケードを介して進行する脱顆粒を意味する。
【0110】
「IgE誘導性脱顆粒」または「FcεRI仲介性脱顆粒」とは、FcεR1結合IgEの架橋によって惹起されるIgE受容体シグナル伝達カスケードを介して進行する脱顆粒を意味する。架橋はIgE特異的アレルゲンまたは抗IgE抗体などの他の多価結合物質によって誘導されうる。肥満細胞および/または好塩基性細胞において、脱顆粒を引き起こすFcεRIシグナル伝達カスケードは上流および下流の2段階に分けられる。上流段階には、カルシウムイオン動員の前に起こるすべてのプロセスが含まれる。下流段階には、カルシウムイオン動員およびその下流のすべてのプロセスが含まれる。FcεRI仲介性脱顆粒を阻害する化合物は、FcεRI仲介性シグナル伝達カスケードにおけるいかなる点で作用してもよい。上流FcεRI仲介性脱顆粒を選択的に阻害する化合物は、カルシウムイオン動員が誘導される点の上流のFcεRI仲介性シグナル伝達カスケードのその部分を阻害するよう作用する。細胞に基づく検定において、上流FcεRI仲介性脱顆粒を選択的に阻害する化合物は、IgE特異的アレルゲンまたは結合物質(抗IgE抗体など)により活性化または刺激される、肥満細胞または好塩基性細胞などの細胞の脱顆粒を阻害するが、例えば、カルシウムイオノフォアであるイオノマイシンおよびA23187などの、FcεRIシグナル伝達経路を迂回する脱顆粒物質により活性化または刺激される細胞の脱顆粒はあまり阻害しない。
【0111】
「IgG誘導性脱顆粒」または「FcγRI仲介性脱顆粒」とは、FcγRI結合IgGの架橋によって惹起されるFcγRIシグナル伝達カスケードを介して進行する脱顆粒を意味する。架橋はIgG特異的アレルゲンまたは抗IgGもしくは断片抗体などの別の多価結合物質によって誘導されうる。FcεRIシグナル伝達カスケードと同様、肥満細胞および好塩基性細胞において、FcγRIシグナル伝達カスケードも脱顆粒を引き起こし、これは同じ上流および下流の2段階に分けられる。FcεRI仲介性脱顆粒と同様、上流FcγRI仲介性脱顆粒を選択的に阻害する化合物は、カルシウムイオン動員が誘導される点の上流で作用する。細胞に基づく検定において、上流FcγRI仲介性脱顆粒を選択的に阻害する化合物は、IgG特異的アレルゲンまたは結合物質(抗IgG抗体または断片など)により活性化または刺激される、肥満細胞または好塩基性細胞などの細胞の脱顆粒を阻害するが、例えば、カルシウムイオノフォアであるイオノマイシンおよびA23187などの、FcγRIシグナル伝達経路を迂回する脱顆粒物質により活性化または刺激される細胞の脱顆粒はあまり阻害しない。
【0112】
「イオノフォア誘導性脱顆粒」または「イオノフォア仲介性脱顆粒」とは、例えば、イオノマイシンまたはA23187などのカルシウムイオノフォアへの曝露後に起こる、肥満細胞または好塩基性細胞などの細胞の脱顆粒を意味する。
【0113】
「Sykキナーゼ」とは、B細胞および他の造血細胞において発現される周知の72kDaの非受容体(細胞質)脾臓タンパク質チロシンキナーゼを意味する。Sykキナーゼは、リン酸化された免疫受容体チロシン活性化モチーフ(「ITAM」)に結合する、直列の2つのコンセンサスSrc-ホモロジー2(SH2)ドメイン、「リンカー」ドメインおよび触媒ドメインを含む(Sykキナーゼの構造および機能の総説については、Sada et al., 2001, J. Biochem. (Tokyo) 130:177-186)を参照されたく;またTurner et al., 2000, Immunology Today 21:148-154も参照されたい)。SykキナーゼはB細胞受容体(BCR)シグナル伝達のエフェクターとして大規模に試験が行われてきた(Turner et al., 2000、上記)。Sykキナーゼは、Ca2+動員およびマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)カスケードなどの免疫受容体からつながる重要な経路、ならびに脱顆粒を調節する、複数のタンパク質のチロシンリン酸化のためにも重要である。Sykキナーゼは好中球におけるインテグリンシグナル伝達においても重要な役割を果たす(例えば、Mocsai et al. 2002, Immunity 16:547-558を参照されたい)。
【0114】
本明細書において用いられるSykキナーゼには、Sykファミリーに属していると認められる、ヒト、サル、ウシ、ブタ、齧歯類などを含むが、それらに限定されるわけではない、任意の種の動物からのキナーゼが含まれる。具体的に含まれるのは、天然および人工両方のイソ型、スプライス変異体、対立変異体、突然変異体である。そのようなSykキナーゼのアミノ酸配列は周知で、GENBANKから入手可能である。ヒトSykキナーゼの異なるイソ型をコードするmRNAの具体例は、GENBANKアクセッション番号gi|21361552|ref|NM_003177.2|、gi|496899|emb|Z29630.1|HSSYKPTK[496899]およびgi|15030258|gb|BC011399.1|BC011399[15030258]で見いだすことができ、これらは参照により本明細書に組み入れられる。
【0115】
当業者であれば、他のファミリーに属するチロシンキナーゼがSykのものと三次元構造が類似の活性部位または結合ポケットを有しうることを理解するであろう。この構造上の類似性の結果、本明細書において「Syk模擬物」と呼ぶそのようなキナーゼは、Sykによってリン酸化される基質のリン酸化を触媒すると予想される。したがって、そのようなSyk模擬物、そのようなSyk模擬物が役割を果たすシグナル伝達カスケード、ならびにそのようなSyk模擬物およびSyk模擬物依存性シグナル伝達カスケードによってもたらされる生物学的応答は、本明細書に記載の化合物の多くによって調節、特に阻害されうることが理解されるであろう。
【0116】
「Syk依存性シグナル伝達カスケード」とは、Sykキナーゼが役割を果たすシグナル伝達カスケードを意味する。そのようなSyk依存性シグナル伝達カスケードの非限定例には、FcαRI、FcεRI、FcγRI、FcγRIII、BCRおよびインテグリンシグナル伝達カスケードが含まれる。
【0117】
「自己免疫疾患」とは、一般に内因性および/または外因性の1つまたは複数の免疫原性物質に対する被検者自身の液性および/または細胞性免疫応答の結果生じる、非アナフィラキシー性過敏反応(II型、III型および/またはIV型過敏反応)に関連する疾患を意味する。そのような自己免疫疾患は、アナフィラキシー性(I型またはIgE仲介性)過敏反応に関連する疾患とは区別される。
【0118】
合成法
本明細書に記載の化合物、ならびにその中間体は、市販の出発原料および/または通常の合成法によって調製した出発原料を用いて、様々な異なる合成経路により合成してもよい。活性重水素化2,4-ピリミジンジアミン化合物を合成するために日常的に使用および/または適応させうる適切な例示的方法は、2003年1月31日提出の国際特許出願第PCT/US03/03022号(WO 03/063794)、2007年11月20日提出の国際特許出願第PCT/US07/85313号(WO 2008/064274)、および2006年1月19日提出の国際特許出願第PCT/US06/01945号(WO 2006/078846)いおいて見いだすことができる。これらの先行する出版物はそれぞれ、参照により本明細書に組み入れられる。本明細書に記載の化合物を調製するための代表的な合成手順の概略を以下のスキーム1〜5に示す:






【0119】
当業者であれば、本開示に含まれる化合物を生成するために、出発原料および反応条件は変動し、反応の順序は変化し、追加の段階を用いうることを理解するであろう。当業者であれば、いくつかの場合には、重水素化2,4-ピリミジンジアミン化合物およびそのプロドラッグの合成中に、出発原料は合成中に保護を必要とする官能基を含みうることを理解するであろう。用いる任意の保護基の厳密な同一性は、保護する官能基の同一性に依存することになり、当業者には明らかであろう。一般に、そのような保護基の必要性ならびにそのような基を連結および除去するのに必要な条件は、有機合成の技術者には明らかであろう。
【0120】
薬学的組成物
そのような疾患を治療または予防するために用いる場合、本明細書に記載の化合物を単独で、1つもしくは複数の化合物の混合物で、またはそのような疾患および/もしくはそのような疾患に関連する症状を治療するのに有用な他の薬剤との混合物もしくは組み合わせで投与してもよい。化合物は、いくつかの例を挙げると、ステロイド、膜安定化剤、5LO阻害剤、ロイコトリエン合成および受容体阻害剤、IgEアイソタイプスイッチングまたはIgE合成、IgGアイソタイプスイッチングまたはIgG合成の阻害剤、β-アゴニスト、トリプターゼ阻害剤、アスピリン、COX阻害剤、メトトレキセート、抗TNF薬、レツキシン(retuxin)、PD4阻害剤、p38阻害剤、PDE4阻害剤、および抗ヒスタミン剤などの、他の疾患または疾病を治療するのに有用な薬剤との混合物または組み合わせで投与してもよい。化合物は、化合物自体の形で、または化合物を含む薬学的組成物として投与してもよい。
【0121】
化合物を含む薬学的組成物は、通常の混合、溶解、造粒、糖衣錠作成研和、乳化、カプセル化、封入または凍結乾燥プロセスによって製造してもよい。組成物は、化合物の薬学的に用いることができる製剤への加工を容易にする、1つまたは複数の生理的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または補助剤を用いて、通常の様式で製剤してもよい。
【0122】
化合物は、前述のとおり、それ自体で、または水和物、溶媒和物、N-オキシドもしくは薬学的に許容される塩の形で、薬学的組成物に製剤してもよい。典型的には、そのような塩は対応する遊離の酸および塩基よりも水性溶液中の溶解性が高いが、対応する遊離の酸および塩基よりも溶解性が低い塩が生成することもある。
【0123】
薬学的組成物は、例えば、局所、眼、経口、口腔、全身、鼻、注射、経皮、直腸、膣などを含む、実質的にいかなる投与様式にも適した形、または吸入もしくは通気による投与に適した形をとってもよい。
【0124】
局所投与のために、当技術分野において周知のとおり、化合物を液剤、ゲル剤、軟膏、クリーム、懸濁剤などとして製剤してもよい。全身製剤には、注射、例えば、皮下、静脈内、筋肉内、くも膜下腔内または腹腔内注射による投与のために設計されたもの、ならびに経皮、経粘膜経口または肺投与のために設計されたものが含まれる。
【0125】
有用な注射用製剤には、水性または油性媒体中の活性化合物の滅菌懸濁剤、液剤または乳剤が含まれる。組成物は、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤用物質を含んでいてもよい。注射用製剤は、例えば、アンプルまたは多用量容器内に単位剤形で存在してもよく、また保存剤を追加して含んでいてもよい。または、注射用製剤は、発熱物質を含まない滅菌水、緩衝液、デキストロース溶液などを含むが、それらに限定されるわけではない、適切な媒体で使用前に再構成するための、粉末形態で提供してもよい。このために、活性化合物を、凍結乾燥などの任意の当技術分野において公知の技術によって乾燥し、使用前に再構成してもよい。
【0126】
経粘膜投与のために、透過する障壁に適した浸透剤を製剤において用いる。そのような浸透剤は当技術分野において公知である。
【0127】
経口投与のために、薬学的組成物は、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、乳糖、微結晶セルロースまたはリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などの、薬学的に許容される賦形剤と共に、通常の手段により調製した、例えば、ロゼンジ、錠剤またはカプセル剤の形をとってもよい。錠剤は、当技術分野において周知の方法により、例えば、糖類、フィルムまたは腸溶コーティングでコーティングしてもよい。
【0128】
経口投与用の液体製剤は、例えば、エリキシル剤、液剤、シロップもしくは懸濁剤の形をとってもよく、または使用前に水もしくは他の適切な媒体で構成するための乾燥製品として提供してもよい。そのような液体製剤は、懸濁化剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または硬化食用脂);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水性媒体(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、cremophore(商標)または分割植物油);および保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはp-ヒドロキシ安息香酸プロピルまたはソルビン酸)などの、薬学的に許容される添加物と共に、通常の手段により調製してもよい。製剤は適宜、緩衝塩、保存剤、着香剤、着色剤および甘味料を含んでいてもよい。
【0129】
経口投与用の製剤は、周知のとおり、化合物の制御放出を行うために適切に製剤してもよい。
【0130】
口腔投与のために、組成物は、通常の様式で製剤した錠剤またはロゼンジの形をとってもよい。
【0131】
直腸および膣への投与経路のために、化合物は、カカオ脂または他のグリセリドなどの通常の坐剤基剤を含む液剤(停留浣腸用)坐剤または軟膏として製剤してもよい。
【0132】
鼻投与または吸入もしくは通気による投与のために、化合物は、適切な噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、フッ化炭化水素、二酸化炭素または他の適切な気体を用いることにより、加圧パックまたはネブライザーからエアロゾル噴霧の形で都合よく送達することができる。加圧エアロゾルの場合、用量単位は測定した量を送達するためのバルブを提供することにより決定してもよい。化合物および乳糖またはデンプンなどの適切な粉末基剤の混合粉末を含む、吸入器または注入器で用いるためのカプセルおよびカートリッジ(例えば、ゼラチンからなるカプセルおよびカートリッジ)を製剤してもよい。
【0133】
眼投与のために、化合物は、眼への投与に適した液剤、乳剤、懸濁剤などとして製剤してもよい。化合物を眼に投与するのに適した様々な媒体が当技術分野において公知である。
【0134】
持続送達のために、化合物は、埋め込みまたは筋肉内注射による投与のためのデポー製剤として製剤することができる。化合物は、適切なポリマーもしくは疎水性材料(例えば、許容される油中の乳剤として)またはイオン交換樹脂と共に、あるいは難溶性誘導体として、例えば、難溶性塩として製剤してもよい。または、経皮吸収のために化合物をゆっくり放出する、接着性のディスクまたはパッチとして製造した経皮送達系を用いてもよい。このために、浸透増強剤を用いて化合物の経皮透過を容易にしてもよい。
【0135】
または、他の薬学的送達系を用いてもよい。リポソームおよび乳剤は、化合物を送達するために用いうる送達媒体の周知の例である。ジメチルスルホキシド(DMSO)などの特定の有機溶媒を用いてもよいが、通常はより毒性が高いという犠牲を伴う。
【0136】
薬学的組成物は、望まれる場合には、化合物を含む1つまたは複数の単位剤形を含みうるパックまたはディスペンサー装置で提供してもよい。パックは、例えば、ブリスターパックなどの金属またはプラスティックホイルを含んでいてもよい。パックまたはディスペンサー装置は、投与の説明書が添付されていてもよい。
【0137】
本明細書に記載の化合物、またはその組成物は一般に、所期の結果を達成するのに有効な量、例えば、治療中の特定の疾患を治療または予防するのに有効な量で用いることになる。化合物を、治療上の利益を達成するために治療的に、または予防的利益を達成するために予防的に投与してもよい。治療的利益とは、患者が根元的障害にまだ苦しめられている可能性があるにも関わらず、患者が感情または状態の改善を報告するような、治療中の根元的障害の根絶もしくは改善および/または根元的障害に関連する1つまたは複数の症状の根絶もしくは改善を意味する。例えば、アレルギーを患っている患者への化合物の投与は、根元的アレルギー反応が根絶または改善される場合だけでなく、患者がアレルゲンへの曝露後にアレルギーに関連する症状の重症度または持続期間の低減を報告する場合にも、治療的利益を提供する。もう一つの例として、喘息の状況における治療的利益には、喘息発作の発症後の呼吸の改善、または喘息エピソードの頻度もしくは重症度の低減が含まれる。関節リウマチの状況における治療的利益には、以前に記載されたとおり、ACR20、またはACR50もしくはACR70も含まれる。治療的利益には一般に、改善が実現されるかどうかに関わらず、疾患の進行の停止または減速も含まれる。
【0138】
予防的投与のために、化合物を、前述の疾患の1つを発生するリスクが高い患者に投与してもよい。例えば、患者が特定の薬物に対してアレルギー性であるかどうかが不明である場合、薬物へのアレルギー反応を回避または改善するために、化合物を薬物の投与の前に投与してもよい。または、根元的障害を診断された患者における症状の発症を避けるために、予防的投与を適用してもよい。例えば、化合物をアレルギーを患っている者に、予想されるアレルゲンへの曝露の前に投与してもよい。化合物は、前述の疾病の1つに対し公知の因子に繰り返し曝露される健常個人に予防的に投与して、障害の発症を防止してもよい。例えば、個人をアレルギーの発生から予防する努力の中で、化合物を、ラテックスなどのアレルギーを誘導することが公知のアレルゲンに繰り返し曝露される健常個人に投与してもよい。または、化合物を、喘息を患っている患者に、喘息発作を誘発する活動に参加する前に投与して、喘息エピソードの重症度を低減し、または喘息エピソードを全体的にみて回避してもよい。
【0139】
投与する化合物の量は、例えば、治療中の特定の適応症、投与様式、所望の利益が予防的または治療的のいずれか、治療中の適応症の重症度ならびに患者の年齢および体重、特定の化合物のバイオアベイラビリティ、選択した投与経路での活性薬物化合物への会話速度および効率などを含む、様々な因子に依存することになる。
【0140】
特定の使用および投与様式のための化合物の有効用量の決定は、十分に当業者の能力の範囲内である。有効用量は、最初はインビトロ活性および代謝検定から推定してもよい。例えば、動物において用いるための化合物の初期用量は、インビトロ検定で測定して、特定の化合物のIC50以上である代謝物活性化合物の循環血または血清濃度を達成するように製剤してもよい。所望の投与経路による特定の化合物のバイオアベイラビリティを考慮して、そのような循環血または血清濃度を達成する用量を計算することは、十分に当業者の能力の範囲内である。化合物の初期用量を、動物モデルなどのインビボデータから推定することもできる。前述の様々な疾患を治療または予防するための活性代謝物の有効性を試験するのに有用な動物モデルは、当技術分野において周知である。化合物のバイオアベイラビリティおよび/または活性代謝物への代謝を試験するのに適した動物モデルも周知である。当業者であれば、ヒトへの投与に適した特定の化合物の用量を決定するために、そのような情報を日常的に適応させることができる。
【0141】
投与量は典型的には約0.0001mg/kg/日、0.001mg/kg/日または0.01mg/kg/日から約100mg/kg/日までの範囲であるが、特に活性代謝物化合物の活性、化合物のバイオアベイラビリティ、その代謝速度論および他の薬物動態特性、投与様式ならびに前述の様々な他の因子に応じて、それよりも高くても低くてもよい。投与量および間隔は、治療的または予防的効果を維持するのに十分な、化合物および/または活性代謝物化合物の血漿レベルを提供するために、個々に調節してもよい。例えば、特に投与様式、治療中の特定の適応症および担当医の判断に応じて、化合物を1週間に1回、1週間に数回(例えば、1日おき)、1日1回または1日複数回投与してもよい。局所表面投与などの局所投与または選択的取り込みの場合、化合物および/または活性代謝物化合物の有効局所濃度は血漿濃度と無関係でありうる。当業者であれば、過度の実験をすることなく、有効な局所用量を最適化することができるであろう。
【実施例】
【0142】
本開示の化合物の調製を以下の実施例により詳細に例示するが、これらは例示目的のために提供するものであって、範囲または精神における開示をその中に記載する特定の手順および化合物に限定すると解釈されるつもりはない。
【0143】
実施例2-C:
N4-[2,2-ジメチル-3-オキソ-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル]-5-フルオロ-N2-(3,4-ジメトキシフェニル-5-トリジュウテロメトキシ)-2,4-ピリミジンジアミン(化合物2-C)

1,4-ジオキサン中3mLのEtOHおよび5滴の4N HClの溶液中、330mgの2-クロロ-5-フルオロ-N4-[2,2-ジメチル-3-オキソ-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル]-4-ピリミジンアミンおよび380mgの3,4-ジメトキシ-5-トリジュウテロメトキシアニリンの混合物をマイクロ波により175℃で3600秒間加熱した。生じた沈澱を吸引ろ過により回収し、乾燥し、希炭酸カリウム溶液で中和した。固体を吸引ろ過により回収し、乾燥して、275mgの所望の生成物N4-[2,2-ジメチル-3-オキソ-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル]-5-フルオロ-N2-(3,4-ジメトキシフェニル-5-トリジュウテロメトキシ)-2,4-ピリミジンジアミンを得た。

【0144】
実施例2-F:
N4-[2,2-ジメチル-3-オキソ-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル]-5-フルオロ-N2-(3,5-ジメトキシフェニル-4-トリジュウテロメトキシ)-2,4-ピリミジンジアミン(化合物2-F)

N4-[2,2-ジメチル-3-オキソ-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル]-5-フルオロ-N2-(3,5-ジメトキシフェニル-4-トリジュウテロメトキシ)-2,4-ピリミジンジアミンを、実施例2-Cで記載したものと類似の様式で調製した。

【0145】
実施例2-I:
N4-[2,2-ジメチル-3-オキソ-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル]-5-フルオロ-N2-(3-メトキシ-4,5-ビス-トリジュウテロメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン(化合物2-I)

N4-[2,2-ジメチル-3-オキソ-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル]-5-フルオロ-N2-(3-メトキシ-4,5-ビス-トリジュウテロメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミンを、実施例2-Iで記載したものと類似の様式で調製した。

【0146】
実施例5-C:
リン酸ジ-tert-ブチルクロロジジュウテロメチル(化合物5-C)

無水アセトニトリル(5mL)中のCD2ICl(1.0g、5.60mmol)を、アセトニトリル(100mL)中のリン酸ジ-tert-ブチル銀(5-A;1.25g、3.94mmol)の不均質溶液を0℃で撹拌しながら、これに20分かけて加えた。2時間後、外部冷却を取り除いて、室温まで昇温させ、均質な反応混合物の撹拌を48時間続けた。反応混合物をろ過し、ろ液を濃縮した。半急峻粗生成物をEtOAc(50mL)に懸濁し、ろ過した。ろ液を濃縮し、減圧下で乾燥した。濃縮物を分析して、所望の生成物5-Cを示し、これをそれ以上精製せずに次の段階で用いた。

【0147】
実施例5-G:
N4-(2,2-ジメチル-4-[(ジ-tert-ブチルホスホノキシ)ジジュウテロメチル]-3-オキソ-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン(化合物2)

【0148】
DMF(5mL)中のN4-(2,2-ジメチル-3-オキソ-4H-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン(1、0.371g、0.789mmol)、Cs2CO3(0.30g、0.92mmol)およびリン酸ジ-tert-ブチルクロロジジュウテロメチル(0.267g、1.02mmol)を、窒素雰囲気下、室温で撹拌した。反応の進行を工程中LC/MSによりモニターした。粗製反応混合物は、M++H 695(少量)および695(主)を示す、保持時間が近い2つの生成物ピーク(1:5の比)と、出発原料(1)を示した。最初の黄色反応混合物は反応の進行に伴いオリーブグリーンに変わった。反応混合物を撹拌中の水(10ml)に加え、沈澱をろ過し、水で洗浄し、乾燥して、オフホワイトの粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィで精製して、主生成物N4-(2,2-ジメチル-4-[(ジ-tert-ブチルホスホノキシ)ジジュウテロメチル]-3-オキソ-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン(2)(150mg、純度90%)を得た。

【0149】
N4-(2,2-ジメチル-4-[(2水素ホスホノキシ)ジジュウテロメチル]-3-オキソ-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン(化合物5-G)

AcOH:H2O(2mL、4:1)に溶解したN4-(2,2-ジメチル-4-[(ジ-tert-ブチルホスホノキシ)ジジュウテロメチル]-3-オキソ-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン(1;120mg)を60℃(油浴温度)で加熱した。反応の進行を工程中LC/MSによりモニターした。反応混合物は、加熱1時間後にかすかに黄褐色の白色固体に変換された。加熱を停止し、反応混合物を室温まで冷却し、アセトン(10mL)で希釈し、20分間撹拌した。懸濁液をろ過し、回収した固体をアセトン(10mL)で洗浄し、吸引乾燥して、N4-(2,2-ジメチル-4-[(2水素ホスホノキシ)ジジュウテロメチル]-3-オキソ-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン(5-G)(100mg)を得た。

【0150】
実施例2-O:
N4-(2,2-ジメチル-4-[(2水素ホスホノキシ)メチル]-3-オキソ-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4-ジメトキシ-5-トリジュウテロメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン2ナトリウム塩(化合物2-O)

N4-(2,2-ジメチル-4-[(2水素ホスホノキシ)メチル]-3-オキソ-5-ピリド[1,4]オキサジン-6-イル)-5-フルオロ-N2-(3,4-ジメトキシ-5-トリジュウテロメトキシフェニル)-2,4-ピリミジンジアミン2ナトリウム塩を、標準の方法を用いて調製した。

【0151】
本明細書に記載の実施例および態様は例示目的のものにすぎず、当業者にはそれに照らして様々な改変または変更が示唆されることが理解され、これらは本出願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に組み入れられる。本明細書において引用するすべての出版物、特許、および特許出願は、すべての目的のために参照により本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I')の化合物またはその薬学的に許容される塩:

式中:
R1は水素C1-C6アルキル、およびR9から選択され;
R2およびR3は独立に水素、ハロゲン、ハロ(C1-C6)アルキル、およびC1-C6アルキルから選択されるか、または
R2およびR3は一緒になってオキソ基を形成し;
R4は水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-C6アルキル、およびハロ(C1-C6)アルキルから選択され;
R5は水素であり;かつ
R6、R7、およびR8は独立に水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-C6アルキル、C2-C6アルケニル、C2-C6アルキニル、フェニル、ベンジル、-OR10、-C(O)R10、-C(O)OR10、-NR10R10、-S(O)2NR10R10、-C(O)NR10R10、-N(R)S(O)2R10および-NC(O)OR10から選択され、
ここでR10はそれぞれ独立に水素またはC1-C6アルキルであり;かつ
R9は-(CR11R11)k-O-P(O)(OR12)2または

であり、
ここでkは1、2または3であり;mは0または1であり;nは1、2または3であり;R11はそれぞれ独立に水素またはC1-C6アルキルであり;R12はそれぞれ独立に水素またはC1-C6アルキルであり、かつR13はそれぞれ独立に水素、またはC1-C6アルキルであり;かつ
R14は水素であり;
ただし化合物の少なくとも1つの水素は重水素濃縮されている。
【請求項2】
式(I)の請求項1記載の化合物またはその薬学的に許容される塩:

式中:
R1は水素、重水素、重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキル、およびR9から選択され;
R2およびR3は独立に水素、重水素、ハロゲン、ハロ(C1-C6)アルキル、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択されるか、または
R2およびR3は一緒になってオキソ基を形成し;
R4は水素、重水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-C6アルキル、およびハロ(C1-C6)アルキルから選択され;
R5は水素または重水素であり;かつ
R6、R7、およびR8は独立に水素、重水素、ハロゲン、シアノ、ニトロ、重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキル、重水素で置換されていてもよいC2-C6アルケニル、重水素で置換されていてもよいC2-C6アルキニル、フェニル、ベンジル、-OR10、-C(O)R10、-C(O)OR10、-NR10R10、-S(O)2NR10R10、-C(O)NR10R10、-N(R)S(O)2R10および-NC(O)OR10から選択され、
ここでR10はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され;かつ
R9は-(CR11R11)k-O-P(O)(OR12)2および

から選択され、
ここでkは1、2または3であり;mは0または1であり;nは1、2または3であり;R11はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され;R12はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され、かつR13はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され;
ただし少なくとも1つの重水素が存在する。
【請求項3】
重水素で置換されている位置の1つまたは複数が少なくとも2000の濃縮係数を有する、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
重水素で置換されている位置の1つまたは複数が少なくとも5000の濃縮係数を有する、請求項1または2記載の化合物。
【請求項5】
重水素で置換されている位置の1つまたは複数が少なくとも6600の濃縮係数を有する、請求項1または2記載の化合物。
【請求項6】
R1が水素、重水素、およびR9から選択される、請求項1〜5のいずれか一項記載の化合物。
【請求項7】
R1が水素または重水素である、請求項6記載の化合物。
【請求項8】
R1が-(CR11R11)k-O-P(O)(OR12)2である、請求項6記載の化合物。
【請求項9】
R1が-(CR11R11)-O-P(O)(OH)2であり、ここでR11はそれぞれ独立に水素および重水素から選択される、請求項8記載の化合物。
【請求項10】
R1が-CD2-O-P(O)(OH)2である、請求項9記載の化合物。
【請求項11】
R2およびR3が独立に水素、重水素、ハロゲン、ハロ(C1-C6)アルキル、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択される、請求項1〜9のいずれか一項記載の化合物。
【請求項12】
R2およびR3が独立に重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択される、請求項11記載の化合物。
【請求項13】
R2およびR3が独立に-CH3、-CH2D、-CHD2および-CD3から選択される、請求項12記載の化合物。
【請求項14】
R2およびR3がいずれも-CH3である、請求項13記載の化合物。
【請求項15】
R2およびR3がいずれも-CD3である請求項13記載の化合物。
【請求項16】
R2が-CH3であり、かつR3が-CD3である、請求項13記載の化合物。
【請求項17】
R4がハロゲンである、請求項1〜16のいずれか一項記載の化合物。
【請求項18】
R5が水素である、請求項1〜16のいずれか一項記載の化合物。
【請求項19】
R5が重水素である、請求項1〜16のいずれか一項記載の化合物。
【請求項20】
R6、R7、およびR8が独立に-OR10から選択され、ここでR10はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択される、請求項1〜19のいずれか一項記載の化合物。
【請求項21】
R6、R7、およびR8が独立に-OR10から選択され、ここでR10はそれぞれ重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルである、請求項20記載の化合物。
【請求項22】
R6、R7、およびR8が独立に-OCH3、-OCH2D、-OCHD2および-OCD3から選択される、請求項21記載の化合物。
【請求項23】
R6、R7、またはR8の少なくとも1つが-OCD3である、請求項22記載の化合物。
【請求項24】
R1、R2、R3、R5、R6、R7、およびR8の少なくとも2つが重水素を含む、請求項1〜23のいずれか一項記載の化合物。
【請求項25】
R1が水素または-CH2-O-P(O)(OH)2であり;
R2およびR3が独立にC1-C6アルキルであり;
R4がハロゲンであり;
R5が水素であり;かつ
R6、R7、およびR8が独立に-OR10から選択され、ここでR10はそれぞれ重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり、かつ
R6、R7、またはR8の少なくとも1つが重水素を含む、請求項1または2記載の化合物。
【請求項26】
R1が水素または-CH2-O-P(O)(OH)2であり;
R2およびR3が独立に重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルであり、ここでR2またはR3の少なくとも1つは重水素を含み;
R4がハロゲンであり;
R5が水素であり;かつ
R6、R7、およびR8が独立に-O-(C1-C6アルキル)から選択される、請求項1または2記載の化合物。
【請求項27】
R1が-CD2-O-P(O)(OH)2であり;
R2およびR3が独立にC1-C6アルキルであり;
R4がハロゲンであり;
R5が水素であり;かつ
R6、R7、およびR8が独立に-O-(C1-C6アルキル)から選択される、請求項1または2記載の化合物。
【請求項28】
R1が水素または-CH2-O-P(O)(OH)2であり;
R2およびR3が独立にC1-C6アルキルであり;
R4がハロゲンであり;
R5が重水素であり;かつ
R6、R7、およびR8が独立に-O-(C1-C6アルキル)から選択される、請求項1または2記載の化合物。
【請求項29】
重水素で置換されている位置の1つまたは複数が少なくとも2000の濃縮係数を有する、請求項25〜28のいずれか一項記載の化合物。
【請求項30】
重水素で置換されている位置の1つまたは複数が少なくとも5000の濃縮係数を有する、請求項25〜28のいずれか一項記載の化合物。
【請求項31】
重水素で置換されている位置の1つまたは複数が少なくとも6600の濃縮係数を有する、請求項25〜28のいずれか一項記載の化合物。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか一項記載の化合物の薬学的に許容される塩。
【請求項33】
化合物においてR1が-(CR11R11)k-O-P(O)(OR12)2であり、ここで少なくとも1つのR12は水素または重水素である、請求項32記載の薬学的に許容される塩。
【請求項34】
1もしくは2ナトリウム塩、または1もしくは2カリウム塩である、請求項33記載の塩。
【請求項35】
2ナトリウムまたは2カリウム塩である、請求項33記載の塩。
【請求項36】
1カルシウム、または1マグネシウム塩である、請求項33記載の塩。
【請求項37】
1または2アンモニウム塩である、請求項33記載の塩。
【請求項38】
下記からなる群より選択される、請求項1または2記載の化合物または塩:


ならびにその薬学的に許容される塩。
【請求項39】
重水素で置換されている位置の1つまたは複数が少なくとも2000の濃縮係数を有する、請求項38記載の化合物。
【請求項40】
重水素で置換されている位置の1つまたは複数が少なくとも5000の濃縮係数を有する、請求項38記載の化合物。
【請求項41】
重水素で置換されている位置の1つまたは複数が少なくとも6600の濃縮係数を有する、請求項38記載の化合物。
【請求項42】
リン酸ジ-tert-ブチルクロロジジュウテロメチルである化合物。
【請求項43】
リン酸ジ-tert-ブチルクロロジジュウテロメチルの調製法であって、リン酸ジ-tert-ブチルの塩をCD2IClと反応させる段階を含む方法。
【請求項44】
以下の式を有する化合物の調製法:
X1-(CR11R11)k-O-P(O)(OH)2
式中、kは1、2または3であり;X1はハロゲンであり;かつR11はそれぞれ独立に水素、重水素、および重水素で置換されていてもよいC1-C6アルキルから選択され、この方法はリン酸ジ-tert-ブチルの塩をX1-(CR11R11)k-X2と反応させる段階を含み、ここでX2はハロゲンである。
【請求項45】
リン酸ジ-tert-ブチルの塩がリン酸ジ-tert-ブチル銀またはリン酸ジ-tert-ブチルテトラブチルアンモニウムである、請求項43または請求項44記載の方法。
【請求項46】
請求項1〜41のいずれか一項記載の化合物または塩ならびに許容される担体、賦形剤および/または希釈剤を含む薬学的組成物。
【請求項47】
被験体における細胞脱顆粒を阻害する方法であって、被験体に脱顆粒を阻害するのに有効な請求項1〜41のいずれか一項記載の化合物または塩の薬学的に有効な量を投与する段階を含む、前記方法。
【請求項48】
アレルギー性疾患、低度の瘢痕化、組織破壊に関連する疾患、組織炎症に関連する疾患、炎症および瘢痕化から選択される、被験体の疾患の治療法または予防法であって、被験体に請求項1〜41のいずれか一項記載の化合物または塩の薬学的に有効な量を投与する段階を含む、前記方法。
【請求項49】
疾患が関節リウマチである、請求項48記載の方法。
【請求項50】
被験体におけるSykキナーゼの活性を阻害する方法であって、被験体にSykキナーゼ活性を阻害するのに有効な請求項1〜41のいずれか一項記載の化合物または塩の薬学的に有効な量を投与する段階を含む、前記方法。
【請求項51】
被験体におけるFc受容体シグナル伝達カスケードを阻害する方法であって、被験体にFc受容体シグナル伝達カスケードを阻害するのに有効な請求項1〜41のいずれか一項記載の化合物または塩の薬学的に有効な量を投与する段階を含む、前記方法。
【請求項52】
Fc受容体がFcαRI、FcγRI、FcγRIIIおよびFcεRIから選択される、請求項51記載の方法。
【請求項53】
被験体における自己免疫疾患、および/またはそれに関連する1つもしくは複数の症状の治療法または予防法であって、被験体に自己免疫疾患を治療または予防するのに有効な請求項1〜41のいずれか一項記載の化合物または塩の薬学的に有効な量を投与する段階を含む、前記方法。
【請求項54】
自己免疫疾患が単一器官または単一細胞型自己免疫障害としばしば呼ばれる自己免疫疾患および全身波及自己免疫障害としばしば呼ばれる自己免疫疾患から選択される、請求項53記載の方法。
【請求項55】
自己免疫疾患が橋本甲状腺炎、自己免疫溶血性貧血、悪性貧血の自己免疫萎縮性胃炎、自己免疫脳脊髄炎、自己免疫精巣炎、グッドパスチャー病、自己免疫血小板減少症、交感性眼炎、重症筋無力症、グレーヴズ病、原発性胆汁性肝硬変、慢性進行性肝炎、潰瘍性結腸炎、膜性糸球体症、全身性紅斑性狼蒼、関節リウマチ、シェーグレン症候群、ライター症候群、多発性筋炎-皮膚筋炎、全身性硬化症、結節性多発性動脈炎、多発性硬化症および水胞性類天疱瘡から選択される、請求項53記載の方法。
【請求項56】
被験体における関節リウマチの治療法であって、関節リウマチを患っている被験体に請求項1〜41のいずれか一項記載の化合物または塩の薬学的に有効な量を投与する段階を含む、前記方法。
【請求項57】
投与する化合物の量が、インビトロ検定で測定して、対応する薬物のSyk阻害のIC50以上である薬物の血清濃度を達成するのに有効である、請求項56記載の方法。

【公表番号】特表2012−533567(P2012−533567A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520820(P2012−520820)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/042325
【国際公開番号】WO2011/009075
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(504294145)ライジェル ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (63)
【Fターム(参考)】