説明

重防食鋼矢板ならびにその製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、港湾、河川等に使用する鋼矢板に関し、特に端部の密着性と防食性を改善した重防食鋼矢板に関する。
【0002】
【従来の技術】鋼矢板は継手により連結されて鋼矢板壁を形成し、港湾、河川等の土木工事において仮締切や護岸壁等に使用される。海水や河川水に接するような水周りの環境において使用される場合、鋼製の矢板にとって腐食は大きな問題である。これまで、環境の程度により、たとえば無機ジンク塗料やタールエポキシ樹脂塗料などの防錆塗装を行う等の対策はとられてきたが、仮設物ではなくある程度長期にわたって使用が予定される場合においてはこれでも不十分であり、近年、ポリウレタンあるいはポリエチレン等の樹脂の厚膜を矢板表面に被覆させたいわゆる重防食被覆鋼矢板が開発されるようになって、その製造方法が特開昭59-224717 号公報、特開昭62-5837 号公報などに開示されている。
【0003】被覆する樹脂としては、特開昭62-5837 号公報に例示されているように、ポリエチレン系のものが化学的に安定で、価格も比較的安いため使用が増加しつつある。特に特開昭59-224717 号公報のように鋼矢板表面に樹脂のシートを押しつけて接着させる方法においては、鋼矢板の複雑な形状にポリエチレンシートを馴染ませる必要があるため、柔軟性に富むいわゆる低密度ポリエチレンが使用されることが多い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、低密度ポリエチレンは、高密度のものに比較して長期の防食性に影響する水や酸素等の透過遮断性や、打設時の被覆層損傷に関係する耐衝撃性が劣っているので、重防食鋼矢板用の材料としては好ましくないのであるが、鋼管等のように全周にわたって被覆する場合と異なり、鋼矢板の被覆は継手側に当たる両端部の切り口が露出しており、鋼材とポリエチレンの線膨張係数の差によりこの部分に応力が残留しやすく、中央部に比べ両端部における密着力が弱い。従って、柔軟性に富み変形しやすい低密度ポリエチレンを使用しないと、曲率の小さい継手部やコーナー部等で密着不良や割れ、耳切れ等が発生してしまうという問題点があった。
【0005】本発明はこのような欠陥の発生のない防食性に優れたポリエチレン被覆を実現することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、メルトインデックス 0.2〜1.5g/10min酸変性量0.05%以上の接着性ポリエチレンと、線状低密度ポリエチレンまたは高密度ポリエチレンである弾性率2000〜10000kg/cm2 の防食性ポリエチレンとを積層させてなる積層シートを40〜70℃に予熱し、接着性ポリエチレンの融点以上に加熱した鋼矢板表面に貼りつけて被覆することを特徴とする。
【0007】接着性ポリエチレンについては、メルトインデックスが 0.2g/10min 未満では充分な接着力が得られず、1.5g/10min超えでは流動性が高すぎ、接着後に収縮を起こしてしまう等の問題がある。なおメルトインデックスとはメルトフローレートとも呼ばれ、一定条件における10分間のオリフィスからの流出量を以て樹脂の流動性を表したもので、以下MFRと記す。接着性ポリエチレンの変性量についても上記量以下では充分な接着力が得られない。
【0008】防食性ポリエチレンとして、弾性率2000〜10000kg/cm2 のポリエチレン樹脂を使用するのは、これ以下のものでは60℃付近における防食性がいちじるしく低下し、またこの範囲以上のものはコーナー部や継手部の加工が困難だからである。長期にわたる防食性を保持するため、防食性ポリエチレンにはナフチルアミン誘導体や置換フェノール類等の抗酸化剤やカーボンブラック等の紫外線吸収剤を配合することが好ましい。
【0009】また、積層ポリエチレンの予熱温度が上記範囲以下であると、接着のため鋼矢板側の加熱を余分に行わねばならず、鋼矢板表面にプライマー等が塗装してあるとこれらの劣化が懸念される。逆に予熱温度が上記範囲より高いと、ポリエチレンが軟化しすぎ、被覆時の貼りつけ圧力により樹脂が流れて局部的に薄い部分が生じたり耳切れを起こしたりする。
【0010】また、防食性ポリエチレン層、接着性ポリエチレン層の厚みはいずれも0.1 〜3.0mm 、好ましくは0.2 〜2.0mm で、両者の比は10:1〜1:1 の範囲であることが好ましい。このような積層ポリエチレンシートを製造するには種々の方法が考えられるが、例えば防食性ポリエチレンを公知のTダイにより連続的に押し出し、その上に接着性ポリエチレンを別のTダイより押し出して積層させればよい。
【0011】鋼矢板の加熱温度は、接着性ポリエチレンの融点である 100℃付近から 250℃程度まで、好ましくは接着性ポリエチレンの融点より20℃高い 120℃付近から 200℃の範囲で、鋼矢板表面には予めクロム酸処理、りん酸処理、プライマー塗布等がなされていてもよい。図1は本発明の積層シートを鋼矢板に被覆する説明図で、(a)のように鋼矢板1に接着性ポリエチレン4を矢板側にして接着性ポリエチレン4と防食性ポリエチレン5とを積層した積層シート3を鋼矢板の中央部から両側継手部に向かって順次押しつけて(b)の被覆鋼矢板とする。なお、この図は矢板の凹部に被覆を行っているが、凸部に被覆する場合も同様である。
【0012】
【作用】本発明によれば、防食性ポリエチレンと鋼矢板の中間に接着性ポリエチレン層が存在することにより、すぐれた密着性が得られ、防食性ポリエチレンとして状低密度ポリエチレンまたは高密度ポリエチレンが使用できるから、長期にわたりすぐれた防食性能を発揮することができる。
【0013】また、積層ポリエチレンの予熱温度と、上層の防食性ポリエチレンの弾性率を規定することにより、継手部やコーナー部での耳切れや厚み減小のない健全な被覆層が形成される。
【0014】
【実施例】以下、本発明の実施例ならびに比較例を説明する。
実施例1防食性ポリエチレンとして、弾性率4300kg/cm2の線状低密度ポリエチレンを厚み1.9mm のシート状に溶融押し出ししたものにMFR0.9g/10min、酸変性量0.15%の接着性ポリエチレン厚み0.4mm を積層して積層シートとした。
【0015】U形鋼矢板の凹側表面をショットブラストした後、クロメート処理 1μm 、エポキシプライマー50μm で塗布してからバーナで 180℃に加熱し、50℃に予熱した前記積層シートを押しつけロールにて鋼矢板の中央部から両側継手部に向かって順次押しつけ、ポリエチレン被覆重防食鋼矢板を製作した。
実施例2防食性ポリエチレンとして、弾性率8000kg/cm2の高密度ポリエチレンを厚み1.9mm のシート状に溶融押し出ししたものにMFR0.3g/10min、酸変性量0.15%の接着性ポリエチレン厚み0.4mm を積層して積層シートとし、以下実施例1と同様にしてポリエチレン被覆重防食鋼矢板を製作した。
【0016】比較例1防食性ポリエチレンとして、弾性率 12000kg/cm2の高密度ポリエチレンを厚み1.9mm のシート状に溶融押し出ししたものにMFR0.9g/10min、酸変性量0.15%の接着性ポリエチレン厚み0.4mm を積層して積層シートとし、以下実施例1と同様にしてポリエチレン被覆重防食鋼矢板を製作した。
【0017】比較例2防食性ポリエチレンとして、弾性率1000kg/cm2の低密度ポリエチレンを厚み1.9mm のシート状に溶融押し出ししたものにMFR0.9g/10min、酸変性量0.15%の接着性ポリエチレン厚み0.4mm を積層して積層シートとし、以下実施例1と同様にしてポリエチレン被覆重防食鋼矢板を製作した。
【0018】比較例3積層ポリエチレンの予熱温度を10℃とし、その他の条件はすべて実施例1と同様にしてポリエチレン被覆重防食鋼矢板を製作した。
比較例4積層ポリエチレンの予熱温度を90℃とし、その他の条件はすべて実施例1と同様にしてポリエチレン被覆重防食鋼矢板を製作した。
【0019】以上の実施例ならびに比較例についての評価試験結果を表1に示す。
【0020】
【表1】


【0021】
【発明の効果】本発明によれば、密着強度、防食性、耐衝撃性にすぐれた重防食被覆鋼矢板が得られ、鋼矢板構造物の耐久性が向上することにより防食補修等のメンテナンスコストが低減する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかわる被覆鋼矢板の製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
1 鋼矢板
2 継手部
3 積層シート
4 接着性ポリエチレン
5 防食性ポリエチレン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋼矢板の表面に、メルトインデックス 0.2〜1.5g/10min酸変性量0.05%以上の接着性ポリエチレンと、線状低密度ポリエチレンまたは高密度ポリエチレンである弾性率2000〜10000kg/cm2 の防食性ポリエチレンをこの順に積層させてなることを特徴とする重防食鋼矢板。
【請求項2】 メルトインデックス 0.2〜1.5g/10min酸変性量0.05%以上の接着性ポリエチレンと、線状低密度ポリエチレンまたは高密度ポリエチレンである弾性率2000〜10000kg/cm2 の防食性ポリエチレンとを積層させてなる積層シートを40〜70℃に予熱し、接着性ポリエチレンの融点以上に加熱した鋼矢板表面に貼りつけて被覆することを特徴とする重防食鋼矢板の製造方法。

【図1】
image rotate


【特許番号】特許第3135933号(P3135933)
【登録日】平成12年12月1日(2000.12.1)
【発行日】平成13年2月19日(2001.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−105609
【出願日】平成3年5月10日(1991.5.10)
【公開番号】特開平4−336113
【公開日】平成4年11月24日(1992.11.24)
【審査請求日】平成10年1月28日(1998.1.28)
【出願人】(000001258)川崎製鉄株式会社 (8,589)
【参考文献】
【文献】特開 昭61−5921(JP,A)
【文献】特開 平2−74334(JP,A)
【文献】特開 昭60−8058(JP,A)
【文献】特開 昭63−154330(JP,A)
【文献】特開 昭60−230848(JP,A)