説明

金セレン化合物の製造方法

【課題】簡便に高収率かつ高純度で金セレン化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(2)で表されるジセレニド化合物を用いる、下記一般式(1)で表される金セレン化合物の製造方法。
一般式(1) E−Se−Au(I)
一般式(2) E−Se−Se−E
(式中、Au(I)は1価の金を表し、Eはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基およびヘテロ環基から選ばれる基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金セレン化合物の製造方法に関する。詳しくは、合成原料としてジセレニド化合物を用いる方法であって、簡便に高収率かつ高純度で金セレン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金−カルコゲン化合物は生物に対する活性が高く、昔から医薬品として利用されてきた。またハロゲン化銀写真感光材料分野においても写真性能改善のため、金−カルコゲン化合物が多く使用されている。このように金−カルコゲン化合物はこれら用途の合成中間体および最終物として非常に有用な化学種である。
金−カルコゲン化合物の中で、金−セレン結合を有するものは数多く知られているが、特許文献1などに開示されている化合物に代表されるように、その多くは結合形式が配位結合である。この場合、金とセレンとの結合力が弱いために化合物自体の安定性が低く、例えばハロゲン化銀写真感光材料に用いるには製造適性上不都合を生じることがある。金(I)とアニオン性セレニドとの結合を有する化合物についても既に幾つか報告例があるが、特許文献2又は3などに開示されているように、アルキルホスフィン化合物やアリールホスフィン化合物を金の配位子として有するものが多い。しかしながらアルキルホスフィン化合物およびアリールホスフィン化合物は一般的に金属原子への強い吸着力を有すること、還元性化合物であることなどから悪作用を及ぼす場合が多く、例えばアリールホスフィン化合物をハロゲン化銀写真感光材料中に添加すると著しい減感作用を引き起こす。そこでホスフィン化合物を用いることなく、金セレン化合物を簡便に合成する手法の開発が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特開平9−269554号公報
【特許文献2】米国特許第4645756号明細書
【特許文献3】米国特許第4680286号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、簡便に高収率かつ高純度で金セレン化合物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は下記の手段によって達成された。
[1]下記一般式(2)で表されるジセレニド化合物を用いることを特徴とする下記一般式(1)で表される金セレン化合物の製造方法。
一般式(1) E−Se−Au(I)
一般式(2) E−Se−Se−E
(式中、Au(I)は1価の金を表し、Eはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基を表す。)
[2]前記一般式(2)で表されるジセレニド化合物と、下記一般式(3)で表される金(I)化合物とを用いることを特徴とする[1]項に記載の金セレン化合物の製造方法。
一般式(3) [Z1・・・Au(I)・・・(Z2)n1]X
(式中、Au(I)は1価の金を表し、Z1およびZ2はそれぞれ窒素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子もしくはリン原子を介してAu(I)に配位可能な化合物を表す。n1は0もしくは1を表し、Xは化合物の電荷を中和するのに必要な対塩を表す。)
[3]前記一般式(3)で表される化合物が、Z1およびZ2がそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアミン類、5ないし6員の含窒素ヘテロ環類、チオール類、チオエーテル類、ジスルフィド類、チオアミド類、セレノエーテル類、ジセレニド類、セレノアミド類、テルロエーテル類、ジテルリド類、テルロアミド類およびP(R1)(R2)(R3)からなる群から選ばれる化合物であることを特徴とする[2]項記載の金セレン化合物の製造方法。
(前記R1〜R3は、ヘテロ環基、−OR4、−SR5または−N(R6)R7を表し、R4〜R7はアルキル基、アリール基またはヘテロ環基を表す。)
[4]前記一般式(2)で表されるジセレニド化合物を還元した後、前記一般式(3)で表される金(I)化合物と反応させることを特徴とする[2]又は[3]項に記載の金セレン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば簡便に高収率かつ高純度で金セレン化合物を製造することができる。本発明の方法により製造された金セレン化合物は、医薬、農薬、写真用材料などの合成中間体および最終物として用いることができる。特に、ハロゲン化銀写真感光材料における化学増感剤として用いることができ、ハロゲン化銀写真感光材料に添加することにより写真性(感度)を改良することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、前記一般式(2)で表されるジセレニド化合物を原料として用いて前記一般式(1)で表される金セレン化合物を製造することを特徴とする。
【0008】
まず、本発明の製造方法により製造される前記一般式(1)で表される金セレン化合物について詳細に説明する。
前記一般式(1)において、Eはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基もしくはヘテロ環基を表す。ここで言うアルキル基とは直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルキル基を表す。好ましくは炭素数1〜30の置換もしくは無置換の直鎖または分岐のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、2−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、t−オクチル基、2−エチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、ソディウムスルホエチル基、ジエチルアミノエチル基、ジエチルアミノプロピル基、ブトキシプロピル基、エトキシエトキシエチル基、n−ヘキシルオキシプロピル基等)、炭素数3〜18の置換もしくは無置換の環状アルキル基(例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、アダマンチル基、シクロドデシル基等)を表す。また、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基、(つまり炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基であり、例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)、更に環構造が多いトリシクロ構造なども包含する。アルケニル基とは、炭素数2〜16のアルケニル基(例えば、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基等)を表し、アルキニル基とは炭素数2〜10のアルキニル基(例えば、プロパルギル基、3−ペンチニル基等)を表す。
【0009】
アリール基とは、好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリール基、例えばフェニル、p−トリル、ナフチル、m−クロロフェニル、o−ヘキサデカノイルアミノフェニルである。ヘテロ環基とは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子のうち少なくとも一つを含む5〜7員環の、置換もしくは無置換の、飽和もしくは不飽和のヘテロ環である。これらは単環であっても良いし、更に他のアリール環もしくはヘテロ環と共に縮合環を形成しても良い。ヘテロ環基として好ましくは5〜6員のものであり、例えばピロリル基、ピロリジニル基、ピリジル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、インダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、フリル基、ピラニル基、クロメニル基、チエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、モルホリノ基、モルホリニル基などが挙げられる。
【0010】
またEは置換基を有していてもよく、置換基の例としては先に挙げた例と同じものが挙げられる。
【0011】
本発明において、Eはアルキル基、アリール基もしくはヘテロ環基である場合が好ましく、アルキル基もしくはアリール基である場合がより好ましく、アルキル基である場合が更に好ましい。特に下記一般式(4)〜(6)のいずれかで表される基より選ばれる場合が好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
前記一般式(4)において、A1は酸素原子、硫黄原子もしくは−NR11−を表し、R8〜R11はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基もしくはヘテロ環基を表す。
前記一般式(5)において、A2は酸素原子、硫黄原子もしくは−NR15−を表し、R12は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基もしくはアシル基を表し、R13〜R15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基もしくはヘテロ環基を表す。Wは置換基を表し、n2は0〜4の整数を表す。n2が2以上である場合、複数のWは同じでも異なっていても良い。
前記一般式(6)において、Lは2価の連結基を表し、EWGは電子求引性基を表す。
【0014】
前記一般式(4)において、R8〜R11はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基もしくはヘテロ環基を表すが、ここで言うアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基とは先に説明したものと同義であり、好ましい範囲も同様である。またこれらは置換基を有していてもよく、その例としては先に置換基として挙げたものと同じものが挙げられる。本発明において、R8はアルキル基が好ましい。R9およびR10はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基もしくはアリール基が好ましく、水素原子もしくはアルキル基がより好ましく、一方が水素原子で他方が水素原子もしくはアルキル基である場合が更に好ましい。R11は水素原子、アルキル基もしくはアリール基が好ましく、水素原子もしくはアルキル基がより好ましく、アルキル基が更に好ましい。
【0015】
前記一般式(4)においてA1は酸素原子、硫黄原子もしくは−NR11−を表すが、本発明においては酸素原子もしくは硫黄原子である場合が好ましく、酸素原子である場合がより好ましい。
【0016】
本発明において前記一般式(4)で表される基のうち、好ましいものはA1が酸素原子、硫黄原子もしくは−NR11−を表し、R8がアルキル基もしくはアリール基を表し、R9およびR10がそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基もしくはヘテロ環基を表し、R11が水素原子、アルキル基もしくはアリール基を表す場合である。より好ましくはA1が酸素原子もしくは硫黄原子を表し、R8がアルキル基もしくはアリール基を表し、R9およびR10がそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基もしくはヘテロ環基を表す場合である。更に好ましくはA1が酸素原子を表し、R8がアルキル基もしくはアリール基を表し、R9およびR10がそれぞれ独立に水素原子もしくはアルキル基を表す場合である。
【0017】
前記一般式(5)においてR12〜R15で表されるアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基とは先に述べたものと同義であり、好ましい範囲についても同様である。またこれらは置換基を有していてもよく、その例としては先に置換基として挙げたものと同じものが挙げられる。R12で表されるアシル基としてはアセチル基、ホルミル基、ベンゾイル基、ピバロイル基、カプロイル基、n−ノナノイル基などが挙げられる。またこれらは置換基を有していてもよく、その例としては先に置換基として挙げたものと同じものが挙げられる。
【0018】
前記一般式(5)においてWは置換基を表すがその例としては先に置換基として挙げたものと同じものが挙げられる。またWはさらに置換基を有していてもよく、その例としては先に置換基として挙げたものと同じものが挙げられる。
【0019】
本発明において、Wとして好ましくはハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、N−アシルカルバモイル基、N−スルホニルカルバモイル基、N−カルバモイルカルバモイル基、チオカルバモイル基、N−スルファモイルカルバモイル基、カルバゾイル基、カルボキシ基(及びその塩を含む)、シアノ基、ホルミル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、ニトロ基、アミノ基、(アルキル、アリール、またはヘテロ環)アミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、ウレイド基、チオウレイド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、(アルキルまたはアリール)スルホニル基、(アルキルまたはアリール)スルフィニル基、スルホ基(及びその塩を含む)、スルファモイル基などであり、より好ましくはハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基(及びその塩を含む)、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、(アルキル、アリール、またはヘテロ環)アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、チオウレイド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルホ基(及びその塩を含む)などであり、更に好ましくはハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基(及びその塩を含む)、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、(アルキル、アリール、またはヘテロ環)アミノ基、ウレイド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホ基(及びその塩を含む)などである。
【0020】
前記一般式(5)において、n2は0〜4の整数を表す。本発明においてn2は0〜2を表す場合が好ましく、0または1である場合がより好ましい。
【0021】
前記一般式(5)においてA2は酸素原子、硫黄原子もしくは−NR15−を表すが、本発明においては酸素原子もしくは硫黄原子を表す場合が好ましく、酸素原子である場合がより好ましい。
【0022】
本発明において、前記一般式(5)で表される基のうち、好ましいものはA2が酸素原子もしくは硫黄原子を表し、R12が水素原子、アルキル基、アリール基、アシル基を表し、R13およびR14がそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基を表し、n2が0〜2を表し、Wがハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基(及びその塩を含む)、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、(アルキル、アリール、またはヘテロ環)アミノ基、ウレイド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホ基(及びその塩を含む)を表す場合である。より好ましくはA2が酸素原子もしくは硫黄原子を表し、R12がアルキル基、アリール基、アシル基を表し、R13およびR14がそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基を表し、n2が0〜1を表し、Wがハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基(及びその塩を含む)、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、(アルキル、アリール、またはヘテロ環)アミノ基、ウレイド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホ基(及びその塩を含む)を表す場合である。更に好ましくはA2が酸素原子を表し、R12がアルキル基、アリール基、アシル基を表し、R13およびR14がそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基を表し、n2が0を表す場合である。
【0023】
前記一般式(6)において、Lで表される2価の連結基は、炭素数2〜20のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基を表し、特に炭素数2〜10の直鎖、分岐または環状のアルキレン基(例えばエチレン、プロピレン、シクロペンチレン、シクロへキシレン)、アルケニレン基(例えばビニレン)、アルキニレン基(例えばプロピニレン)を表す。好ましいLとしては下記一般式(L1)又は(L2)に示すものが挙げられる。
【0024】
【化2】

【0025】
前記一般式(L1)及び(L2)において、G1、G2、G3、G4はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数1〜10のヘテロ環基を表し、G1、G2、G3は連結して環を形成しても良い。G1、G2、G3、G4として好ましくは水素原子、アルキル基もしくはアリール基であり、水素原子もしくはアルキル基がより好ましい。
【0026】
前記一般式(6)において、EWGは電子求引性基を表す。ここでいう電子求引性基とは、ハメットの置換基定数σp値が正の値である置換基であり、好ましくはσp値が0.2以上であり、上限としては1.0以下の置換基を表す。σp値が0.2以上の電子求引性基の具体例としてはアシル基、ホルミル基、アシルオキシ基、アシルチオ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ジアルキルホスホノ基、ジアリールホスホノ基、ジアルキルホスフィニル基、ジアリールホスフィニル基、ホスホリル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルホニルオキシ基、アシルチオ基、スルファモイル基、チオシアネート基、チオカルボニル基、イミノ基、N原子で置換したイミノ基、カルボキシ基(またはその塩)、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルコキシ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアリールオキシ基、アシルアミノ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキルアミノ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキルチオ基、σp値が0.2以上の他の電子求引性基で置換されたアリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、アゾ基、セレノシアネート基などが挙げられる。本発明において、EWGは好ましくはアシル基、ホルミル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ジアルキルホスホノ基、ジアリールホスホノ基、ジアルキルホスフィニル基、ジアリールホスフィニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基、チオカルボニル基、イミノ基、N原子で置換したイミノ基、ホスホリル基、カルボキシ基(またはその塩)、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基、σp値が0.2以上の他の電子求引性基で置換されたアリール基、ヘテロ環基、またはハロゲン原子であり、より好ましくはアシル基、ホルミル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、カルボキシ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基であり、更に好ましくはアシル基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、カルボキシ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基である。
【0027】
本発明において、前記一般式(6)で表される基のうち、好ましいものはLが前記一般式(L1)又は(L2)で表され、EWGがアシル基、ホルミル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、カルボキシ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基である場合であり、より好ましくはLが前記一般式(L1)又は(L2)で表され、EWGがアシル基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、カルボキシ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基である場合であり、更に好ましくはLが前記一般式(L1)で表され、EWGがアシル基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、カルボキシ基、少なくとも2つ以上のハロゲン原子で置換されたアルキル基である場合である。
【0028】
本発明において、Eが前記一般式(4)〜(6)のいずれかで表される基である場合、前記一般式(4)又は(5)で表される基であることが好ましく、前記一般式(4)で表される基であることがより好ましい。
【0029】
次に前記一般式(1)で表される金セレン化合物の具体例を以下に示す。但し本発明はこれらに限定されるものではない。また、立体異性体が複数存在しうる化合物については、その立体構造を限定するものではない。なお、以下の例示化合物中、Meはメチル基、Phはフェニル基、Acはアセチル基をそれぞれ示す。
【0030】
【化3】

【0031】
次に、原料として用いられる前記一般式(2)で表されるジセレニド化合物について説明する。
前記一般式(2)において、Eはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基もしくはヘテロ環基を表し、好ましい範囲は前記一般式(1)について説明したものと同様である。2つのEは異なってもよいが、生成する化合物の純度や収率の点で同じ方が好ましい。
【0032】
前記一般式(2)で表されるジセレニド化合物の具体例を以下に示す。但し本発明はこれらに限定されるものではない。また、立体異性体が複数存在しうる化合物については、その立体構造を限定するものではない。なお、以下の例示化合物中、Meはメチル基、Phはフェニル基、Acはアセチル基をそれぞれ示す。
【0033】
【化4】

【0034】
前記一般式(2)で表されるジセレニド化合物は、例えば、Journal of Chemical Society. Perkin Transactions. 1,2287頁,1980年、Organic Letters,3巻,1331頁,2001年、Journal of Organic Chemistry,42巻,2510頁,1977年等に記載の方法を参照して合成することができる。
【0035】
上述したように、本発明は、前記一般式(2)で表されるジセレニド化合物を原料として用いて前記一般式(1)で表される金セレン化合物を製造する。具体的には、前記一般式(2)で表されるジセレニド化合物に反応系中で還元剤を作用することでセレノアニオン種を発生させ、その後に金(I)イオンのソースとなる化合物を添加することで、一般式(1)で表される金セレン化合物を高収率かつ高純度で製造することができる。
【0036】
ジセレニド化合物の還元方法としては、水素化ホウ素ナトリウムや次亜リン酸、ナトリウム/エタノール、亜鉛/酢酸、ナトリウム/アンモニア、水素化リチウムアルミニウムなどの還元剤を用いることができる。本発明では、水素化ホウ素ナトリウムを用いることが好ましい。
【0037】
本発明でジセレニド化合物と共に用いる金(I)イオンのソースとなる化合物としては、前記一般式(3)で表される金(I)化合物を用いるのが好ましい。以下、前記一般式(3)で表される金(I)化合物について説明する。
前記一般式(3)において、Z1およびZ2はそれぞれ独立に窒素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子もしくはリン原子を介して金(I)に配位可能な化合物を表す。また、Z1およびZ2はそれぞれ結合して環状構造を形成してもよい。Z1およびZ2が表す窒素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子もしくはリン原子を介して金(I)に配位可能な化合物とは、具体的には置換もしくは無置換のアミン類、5ないし6員の含窒素ヘテロ環類、チオール類(およびそのプロトン解離体を含む)、チオエーテル類、ジスルフィド類、チオアミド類、セレノエーテル類、ジセレニド類、セレノアミド類、テルロエーテル類、ジテルリド類、テルロアミド類、P(R1)(R2)(R3)(R1〜R3はヘテロ環基、−OR4、−SR5、−N(R6)R7を表し、R4〜R7はアルキル基、アリール基、ヘテロ環基を表す)等を表す。
【0038】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2が置換もしくは無置換のアミン類である場合、アンモニアや炭素数1〜30の、1級、2級、もしくは3級のアルキルアミン、または炭素数6〜30の、置換もしくは無置換の、1級、2級、もしくは3級アニリン類などが挙げられる。具体的にはベンジルアミン、エチレンジアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、アニリン、ジメチルアニリンなどが挙げられる。
【0039】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2が5ないし6員の含窒素ヘテロ環類である場合、該ヘテロ環は窒素、酸素、硫黄及び炭素の組み合わせからなる5ないし6員の含窒素ヘテロ環が挙げられる。またこの含窒素ヘテロ環は置換基を有していてもよい。ここでいう置換基とは例えばハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロ環オキシカルボニル基、カルバモイル基、N−ヒドロキシカルバモイル基、N−アシルカルバモイル基、N−スルホニルカルバモイル基、N−カルバモイルカルバモイル基、チオカルバモイル基、N−スルファモイルカルバモイル基、カルバゾイル基、カルボキシ基(及びその塩を含む)、オキサリル基、オキサモイル基、シアノ基、ホルミル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基(エチレンオキシ基もしくはプロピレンオキシ基単位を繰り返し含む基を含む)、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、カルバモイルオキシ基、スルホニルオキシ基、シリルオキシ基、ニトロ基、アミノ基、(アルキル、アリール、またはヘテロ環)アミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、ウレイド基、チオウレイド基、N−ヒドロキシウレイド基、イミド基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、セミカルバジド基、チオセミカルバジド基、ヒドラジノ基、アンモニオ基、オキサモイルアミノ基、N−(アルキルまたはアリール)スルホニルウレイド基、N−アシルウレイド基、N−アシルスルファモイルアミノ基、ヒドロキシアミノ基、4級化された窒素原子を含むヘテロ環基(例えばピリジニオ基、イミダゾリオ基、キノリニオ基、イソキノリニオ基)、イソシアノ基、イミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、(アルキル、アリール、またはヘテロ環)ジチオ基、(アルキルまたはアリール)スルホニル基、(アルキルまたはアリール)スルフィニル基、スルホ基(及びその塩を含む)、スルファモイル基、N−アシルスルファモイル基、N−スルホニルスルファモイル基(及びその塩を含む)、シリル基などが挙げられる。なおここで塩とはアルカリ金属、アルカリ土類金属、重金属などの陽イオンやアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンなどの有機の陽イオンとの塩を意味する。
【0040】
これら置換基は、これら置換基でさらに置換されていても良い。
【0041】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2が表す含窒素ヘテロ環基として好ましくは置換もしくは無置換のベンゾトリアゾール、トリアゾール、テトラゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、イミダゾール、ベンゾチアゾール、チアゾール、チアゾリン、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサゾリン、オキサゾール、チアジアゾール、オキサジアゾール、トリアジン、ピロール、ピロリジン、イミダゾリジン、モルホリンなどが挙げられ、更に好ましくは置換もしくは無置換のベンゾトリアゾール、トリアゾール、テトラゾール、インダゾールであり、最も好ましくは置換もしくは無置換のベンゾトリアゾールである。
【0042】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2が表すチオール化合物(およびそのプロトン解離体)とは、具体的にはアルキルチオール類、アリールチオール類、ヘテロ環チオール類とそれぞれのプロトン解離体である。また、これらチオール化合物(およびそのプロトン解離体)は置換されていてもよく、代表的な置換基としては先に説明した置換基と同じものが挙げられる。
【0043】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2で表されるアルキルチオール化合物(およびそのプロトン解離体)が有するアルキル基は炭素数1〜30の、置換もしくは無置換の、直鎖、分岐もしくは環状のものであり、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基である。
【0044】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2で表されるアリールチオール化合物(およびそのプロトン解離体)が有するアリール基は炭素数6〜30の、置換もしくは無置換の、単環もしくは縮環のアリール基であり、例えばフェニル基、ナフチル基である。好ましくは置換もしくは無置換のフェニル基である。
【0045】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2で表されるヘテロ環チオール化合物(およびそのプロトン解離体)が有するヘテロ環基は窒素原子、酸素原子、硫黄原子のうち少なくとも一つを含む5〜7員環の、置換もしくは無置換の、飽和もしくは不飽和のヘテロ環である。これらは単環であっても良いし、更に他のアリール環もしくはヘテロ環と共に縮合環を形成しても良い。ヘテロ環基として好ましくは5〜6員のものであり、例えばピロリル基、ピロリジニル基、ピリジル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、インダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラニル基、クロメニル基、チエニル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、モルホリノ基、モルホリニル基などや、1,4,5−トリメチル−1,2,4−トリアゾリウム−3−チオラートのようなメソイオン化合物などが挙げられる。
【0046】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2が表すチオエーテル類とは、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基が硫黄原子に結合したチオエーテル化合物であり、硫黄原子に対して対称置換であっても非対称置換であってもよく、具体的にはジアルキルチオエーテル類、ジアリールチオエーテル類、ジヘテロ環チオエーテル類、アルキル−アリールチオエーテル類、アルキル−ヘテロ環チオエーテル類、アリール−ヘテロ環チオエーテル類などが挙げられる。また、Z1およびZ2で表されるチオエーテル化合物が有するアルキル基、アリール基、ヘテロ環基は置換されていてもよく、代表的な置換基としては先に説明した置換基と同じものが挙げられる。
【0047】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2で表されるチオエーテル化合物が有するアルキル基は炭素数1〜30の、置換もしくは無置換の、直鎖、分岐もしくは環状のものであり、好ましくは炭素数1〜20のアルキル基である。
【0048】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2で表されるチオエーテル化合物が有するアリール基は炭素数6〜30の、置換もしくは無置換の、単環もしくは縮環のアリール基であり、例えばフェニル基、ナフチル基である。好ましくは置換もしくは無置換のフェニル基である。
【0049】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2で表されるチオエーテル化合物が有するヘテロ環基は窒素原子、酸素原子、硫黄原子のうち少なくとも一つを含む5〜7員環の、置換もしくは無置換の、飽和もしくは不飽和のヘテロ環である。これらは単環であっても良いし、更に他のアリール環もしくはヘテロ環と共に縮合環を形成しても良い。ヘテロ環基として好ましくは5〜6員のものであり、例えばピロリル基、ピロリジニル基、ピリジル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、インダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラニル基、クロメニル基、チエニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、モルホリノ基、モルホリニル基などが挙げられる。
【0050】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2が表すジスルフィド類とは、アルキル基、アリール基もしくはヘテロ環基が硫黄原子に結合したジスルフィド化合物であり、ジスルフィド基に対して対称置換であっても非対称置換であってもよく、具体的にはジアルキルジスルフィド類、ジアリールジスルフィド類、ジヘテロ環ジスルフィド類、アルキル−アリールジスルフィド類、アルキル−ヘテロ環ジスルフィド類、アリール−ヘテロ環ジスルフィド類などが挙げられる。本発明における好ましいジスルフィドは、対称または非対称のジアルキルジスルフィド類、ジアリールジスルフィド類もしくはアルキル−アリールジスルフィド類である。また、Z1およびZ2で表されるジスルフィド化合物が有するアルキル基、アリール基、ヘテロ環基は置換されていてもよく、代表的な置換基としては先に説明した置換基と同じものが挙げられる。
【0051】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2で表されるジスルフィド化合物が有するアルキル基、アリール基もしくはヘテロ環基はZ1およびZ2がチオエーテル化合物である場合と同義であり、その好ましい範囲もまた同様である。具体的にはシスチン、ビス(4−カルボキシフェニル)ジスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ジブチルジスルフィドなどが挙げられる。
【0052】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2がチオアミド類である場合、チオアミド基は環構造の一部であってもよいし、非環式チオアミド基であってもよい。有用なチオアミド類としては、例えば米国特許4,030,925号、同4,031,127号、同4,080,207号、同4,245,037号、同4,255,511号、同4,266,031号、及び同4,276,364号並びにリサーチ・ディスクロージャー(Research Disclosure)第151巻、1976年11月、15162項、及び同第176巻、1978年12月、17626項に開示されているものから選ぶことができる。Z1およびZ2がチオアミド類の場合、好ましいチオアミド化合物はチオ尿素、チオウレタン、ジチオカルバミン酸エステル、4−チアゾリン−2−チオン、チアゾリジン−2−チオン、4−オキサゾリン−2−チオン、オキサゾリジン−2−チオン、2−ピラゾリン−5−チオン、4−イミダゾリン−2−チオン、2−チオヒダントイン、ローダニン、イソローダニン、2−チオ−2,4−オキサゾリジンジオン、チオバルビツール酸、テトラゾリン−5−チオン、1,2,4−トリアゾリン−3−チオン、1,3,4−チアジアゾリン−2−チオン、1,3,4−オキサジアゾリン−2−チオン、ベンズイミダゾリン−2−チオン、ベンズオキサゾリン−2−チオン及びベンゾチアゾリン−2−チオンなどであり、これらは更に置換されていてもよく、代表的な置換基としては先に説明した置換基と同じものが挙げられる。
【0053】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2がセレノエーテル化合物である場合、Z1およびZ2の例としてはZ1およびZ2がチオエーテル化合物である場合の、硫黄原子をセレン原子に置き換えた化合物が挙げられ、好ましい範囲もまた同様である。具体的にはセレノジエタノール、2−メチルセレノエタノール、セレノメチオニン、Se−メチルセレノシステイン、2−メチルセレノエタンスルホン酸、ジベンジルセレノエーテル、ビス(4−カルボキシフェニル)セレノエーテル、ブチルフェニルセレノエーテルなどが挙げられる。
【0054】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2がジセレニド化合物である場合、Z1およびZ2の例としてはZ1およびZ2がジスルフィド化合物である場合の、硫黄原子をセレン原子に置き換えた化合物が挙げられ、好ましい範囲もまた同様である。具体的にはセレノシスチン、ビス(4−カルボキシフェニル)ジセレニド、ジフェニルジセレニド、ジブチルジセレニドなどが挙げられる。
【0055】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2がセレノアミド化合物である場合、Z1およびZ2の例としてはZ1およびZ2がチオアミド化合物である場合の、硫黄原子をセレン原子に置き換えた化合物が挙げられ、好ましい範囲もまた同様である。具体的にはセレノ尿素、セレノウレタン、ジセレノカルバミン酸エステル、4−チアゾリン−2−セロン、チアゾリジン−2−セロン、4−オキサゾリン−2−セロン、オキサゾリジン−2−セロン、2−ピラゾリン−5−セロン、4−イミダゾリン−2−セロン、テトラゾリン−5−セロン、1,2,4−トリアゾリン−3−セロン、1,3,4−チアジアゾリン−2−セロン、1,3,4−オキサジアゾリン−2−セロン、ベンズイミダゾリン−2−セロン、ベンズオキサゾリン−2−セロン及びベンゾチアゾリン−2−セロンなどが挙げられる。
【0056】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2がテルロエーテル化合物である場合、Z1およびZ2の例としてはZ1およびZ2がチオエーテル化合物である場合の、硫黄原子をテルル原子に置き換えた化合物が挙げられ、好ましい範囲もまた同様である。具体的にはテルロジエタノール、2−メチルテルロエタノール、テルロメチオニン、Te−メチルテルロシステイン、2−メチルテルロエタンスルホン酸、ジベンジルテルロエーテル、ビス(4−カルボキシフェニル)テルロエーテル、ブチルフェニルテルロエーテルなどが挙げられる。
【0057】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2がジテルリド化合物である場合、Z1およびZ2の例としてはZ1およびZ2がジスルフィド化合物である場合の、硫黄原子をテルル原子に置き換えた化合物が挙げられ、好ましい範囲もまた同様である。具体的にはテルロシスチン、ビス(4−カルボキシフェニル)ジテルリド、ジフェニルジテルリド、ジブチルジテルリドなどが挙げられる。
【0058】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2がテルロアミド化合物である場合、Z1およびZ2の例としてはZ1およびZ2がチオアミド化合物である場合の、硫黄原子をテルル原子に置き換えた化合物が挙げられ、好ましい範囲もまた同様である。具体的にはテルロ尿素、テルロウレタン、ジテルロカルバミン酸エステル、4−チアゾリン−2−テロン、チアゾリジン−2−テロン、4−オキサゾリン−2−テロン、オキサゾリジン−2−テロン、2−ピラゾリン−5−テロン、4−イミダゾリン−2−テロン、テトラゾリン−5−テロン、1,2,4−トリアゾリン−3−テロン、1,3,4−チアジアゾリン−2−テロン、1,3,4−オキサジアゾリン−2−テロン、ベンズイミダゾリン−2−テロン、ベンズオキサゾリン−2−テロン及びベンゾチアゾリン−2−テロンなどが挙げられる。
【0059】
前記一般式(3)において、Z1およびZ2がP原子を介して金(I)に配位可能な化合物である場合、具体的にはP(R1)(R2)(R3)(R1〜R3はそれぞれ独立にヘテロ環基、−OR4、−SR5、−N(R6)R7を表し、R4〜R7はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基、ヘテロ環基を表す)で表すことができる。R1〜R3としては例えばピリジル基、イミダゾリル基、キノリル基、ベンズイミダゾリル基、ピリミジル基、ピラゾリル基、イソキノリニル基、チアゾリル基、チエニル基、フリル基、ベンゾチアゾリル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、ブチルチオ基、フェニルチオ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。なお、本発明において、Z1およびZ2がアルキルホスフィン類及びアリールホスフィン類を表すことはない。なぜなら、これら化合物が配位したAu(I)化合物(例えばJ. Med. Chem. 1972, 15, 1095ページに合成法が記載されているクロロ(トリエチルホスフィン)金(I)やInorg. Synth. 1982, 21, 71ページに合成法が記載されている(トリフェニルホスフィン)金(I)など)を用いた合成を行うと、これらホスフィン化合物と金(I)との錯形成安定度定数が強いため、最終単離生成物にこれらホスフィン化合物が残存してしまい、本発明の化合物製造法としては好ましくないからである。
【0060】
前記一般式(3)において、Xは化合物の電荷を中和するのに必要な対塩を表す。Xで表される対塩がアニオンの場合は、具体的にはハロゲンイオン(例えばF-、Cl-、Br-、I-)、テトラフルオロボロネートイオン(BF4-)、ヘキサフルオロホスホネートイオン(PF6-)、ヘキサフルオロアンチモネートイオン(SbF6-)、硫酸イオン(SO42-)、アリールスルホネートイオン(例えばp−トルエンスルホネートイオン、ナフタレン−2,5−ジスルホネートイオンなど)、カルボキシイオン(例えば酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、蓚酸イオン、安息香酸イオンなど)などが挙げられる。Xで表される対塩がカチオンの場合は、具体的にはプロトン、アルカリ金属イオン(例えばリチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオンなど)、アルカリ土類金属イオン(例えばマグネシウムイオン、カルシウムイオンなど)、置換もしくは無置換のアンモニウムイオン(例えばアンモニウム、トリエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウムなど)、置換もしくは無置換のピリジニウムイオン(例えばピリジニウム、4−フェニルピリジニウムなど)などが挙げられる。本発明においてXで表される対塩はアニオンである場合が好ましく、より好ましくはハロゲンイオン、テトラフルオロボロネートイオン、ヘキサフルオロホスホネートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン、硫酸イオン、アリールスルホネートイオンであり、更に好ましくはハロゲンイオン、テトラフルオロボロネートイオン、ヘキサフルオロホスホネートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオンである。
【0061】
前記一般式(3)においてn1は0又は1を表すが、本発明においては0が好ましい。
【0062】
本発明において前記一般式(3)で表される化合物のうち、好ましくはZ1およびZ2がそれぞれ独立に硫黄原子を介して金(I)に配位可能な化合物、具体的にはチオール類(およびそのプロトン解離体)、チオエーテル類、ジスルフィド類もしくはチオアミド類であり、Xがハロゲンイオン、テトラフルオロボロネートイオン、ヘキサフルオロホスホネートイオンもしくはヘキサフルオロアンチモネートイオンであり、n1が0もしくは1の場合である。更にはZ1およびZ2がチオール類(およびそのプロトン解離体)もしくはチオエーテル類であり、Xがハロゲンイオンであり、n1が0又は1の場合が好ましく、Z1およびZ2がそれぞれ独立にチオエーテル類であり、Xがハロゲンイオンであり、n1が0の場合がより好ましい。
【0063】
以下に前記一般式(3)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の例示化合物中、Meはメチル基を示す。
【0064】
【化5】

【0065】
前記一般式(3)で表される金(I)化合物は、例えばInorganic Syntheses,26巻,85頁,1989年、米国特許第6,673,531号明細書などに記載の方法を参照して合成することができる。
【0066】
前記一般式(3)で表される化合物は、前記一般式(2)で表わされる化合物に対して、150〜250モル%用いることが好ましく、190〜210モル%用いることがより好ましい。
また、本発明の方法を実施する際の反応温度及び反応時間は特に限定されるものではないが、−78℃〜150℃の温度で、数分〜24時間で行うのが好ましく、−10℃〜60℃の温度で、数分〜4時間で行うのがより好ましい。
【0067】
本発明の方法により製造された前記一般式(1)で表される金セレン化合物は、医薬、農薬、電子材料、写真用添加剤など種々の用途に用いることができるが、写真用添加剤として用いる場合が最も好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0069】
実施例1
<例示化合物1−1の製造>
(例示化合物2−1の製造)
ペンタアセチル−β−D−グルコース43.3gに臭化水素25%酢酸溶液100gを加えた。室温で3.5時間撹拌した後、氷水200mLと酢酸エチル200mLを加えて分液した。有機層は再び氷水200mLで洗浄した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液30mL、次いで飽和塩化ナトリウム水溶液30mLで洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下濃縮した。得られた油状物にエタノール100mLを加え、析出した結晶をろ取することで1−ブロモ−2,3,4,6−テトラアセチル−α−D−グルコース25.5gを得た。この化合物24gとセレノ尿素7gをアセトン80mLに加え、加熱還流を1時間行った。反応溶液を氷冷し、析出した結晶をろ取した。この結晶19.5gに水300mLを加え、次いで亜硝酸ナトリウム6.4gを加えた。100℃で20分撹拌した後、酢酸エチル200mLを加えて抽出し、有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液30mLで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。有機層を減圧下濃縮した後、エタノール40mLを加え、氷冷することで析出した結晶をろ取することで、例示化合物2−1を14g得た。
1H NMR(CDCl3) δ2.02(s, 6H) 2.04(s, 6H) 2.12(s, 6H) 2.15(s 6H) 3.79(m, 2H) 4.29(m, 4H) 4.96(d, 4H) 5.08〜5.29(m, 6H)
【0070】
(例示化合物1−1の製造)
例示化合物2−1 1.54gにエタノール20mLを加えた後、水素化ホウ素ナトリウム213mgを加えた。室温で15分撹拌した後、アセトン1.4mL、水20mLを加えた。別途、塩化金酸ナトリウム2水和物1.49gに水18mL中、チオジエタノール1.38gを加えることで例示化合物3−1の水溶液を調製しておき、前述の溶液に室温で滴下した。15分撹拌した後、酢酸ナトリウム0.92gを水7mLに溶解した溶液を加えた後、析出した結晶をろ取することで、例示化合物1−1を2.1g得た(収率92%)。
融点:102℃(decomp.)
元素分析値:C14199SeAu=607.23として
(計算値)C:27.7、H:3.15、Se:13.0、Au:32.4(%)
(実測値)C:27.6、H:3.16、Se:13.1、Au:32.3(%)
なお、例示化合物1−1の1H NMR測定を行ったが、ピークが非常にブロードであったため、それぞれのピークを帰属することはできなかった。
【0071】
実施例2
<例示化合物1−6の製造>
(例示化合物2−6の製造)
3−クロロメチル−6−メトキシ安息香酸メチルエステル10.46gをアセトン120mLに溶解し、セレノ尿素5.39gを加えて1時間加熱還流を行った。反応溶液を氷冷することで得られた結晶12.9gを水400mLに加え、次いで亜硫酸ナトリウム7.3gを加え、60℃で1時間加熱した。酢酸エチル200mLと水100mLを加えて抽出し、有機層を水100mLで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去した後、エタノール40mLを加え、氷冷することで結晶5.2gを得た。この結晶1.4gにエタノール50mLを加えた後、5M水酸化ナトリウム水溶液2.2mLを加え、55℃に加熱した。エタノール50mLを加えて1時間加熱撹拌した後、氷冷し、析出した結晶をろ取することで例示化合物2−6を1.15g得た。
1H NMR(D2O) δ3.81(s, 6H) 4.77(s, 4H) 7.00(d, 2H) 7.21(m, 2H) 7.29(s, 2H)
【0072】
(例示化合物1−6の製造)
例示化合物2−6 201mgに水10mLを加え、次いで水素化ホウ素ナトリウム43mgを加えた。室温で10分撹拌した後、アセトン0.3mLを加え、次いで酢酸0.1gを水3mLに溶解した溶液を加えた。別途、塩化金酸ナトリウム2水和物286mgに水6mL中、チオジエタノール263mgを加えた溶液を調製しておき、前述の溶液に室温で滴下した。15分撹拌した後、析出した結晶をろ取することで、例示化合物1−6を300mg得た(収率95%)。
融点:134℃(decomp.)
元素分析値:C993SeAu=441.10として
(計算値)C:24.5、H:2.06、Se:17.9、Au:44.7(%)
(実測値)C:24.3、H:2.08、Se:18.1、Au:44.5(%)
なお、例示化合物1−6の1H NMR測定を行ったが、ピークが非常にブロードであったため、それぞれのピークを帰属することはできなかった。
【0073】
実施例3
<感光材料への適用例>
特開2003−307803号公報に記載の実施例1と同じ試験方法を用いて、本発明の製造方法(実施例1)で得られた例示化合物1−1を、ハロゲン化銀写真乳剤に添加し、写真性能を調べた。それぞれの相対感度とカブリおよび保存カブリの結果を表1に示す。
【0074】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で表されるジセレニド化合物を用いることを特徴とする下記一般式(1)で表される金セレン化合物の製造方法。
一般式(1) E−Se−Au(I)
一般式(2) E−Se−Se−E
(式中、Au(I)は1価の金を表し、Eはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基およびヘテロ環基から選ばれる基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(2)で表されるジセレニド化合物と、下記一般式(3)で表される金(I)化合物とを用いることを特徴とする請求項1記載の金セレン化合物の製造方法。
一般式(3) [Z1・・・Au(I)・・・(Z2)n1]X
(式中、Au(I)は1価の金を表し、Z1およびZ2はそれぞれ独立に窒素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子もしくはリン原子を介してAu(I)に配位可能な化合物を表す。n1は0もしくは1を表し、Xは化合物の電荷を中和するのに必要な対塩を表す。)
【請求項3】
前記一般式(3)で表される化合物が、Z1およびZ2がそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアミン類、5ないし6員の含窒素ヘテロ環類、チオール類、チオエーテル類、ジスルフィド類、チオアミド類、セレノエーテル類、ジセレニド類、セレノアミド類、テルロエーテル類、ジテルリド類、テルロアミド類およびP(R1)(R2)(R3)からなる群から選ばれる化合物であることを特徴とする請求項2記載の金セレン化合物の製造方法。
(前記R1〜R3は、それぞれ独立にヘテロ環基、−OR4、−SR5または−N(R6)R7を表し、R4〜R7はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基またはヘテロ環基を表す。)
【請求項4】
前記一般式(2)で表されるジセレニド化合物を還元した後、前記一般式(3)で表される金(I)化合物と反応させることを特徴とする請求項2又は3に記載の金セレン化合物の製造方法。