説明

金型の冷却構造

【課題】冷却したい部分を選択的に冷却することが可能であり、溶湯と直接接触して加熱される部分を適正な温度で冷却することが出来、それ以外の冷却をほとんど必要としない部分においてはさほど冷却せずとも済むといった制御が可能な金型の冷却構造を提供すること。
【解決手段】金型の内部に設けられた冷却室内に流動性を有する冷媒を流通させることにより当該冷却室周辺を冷却する金型の冷却構造であって、冷却室の内部に当該冷却室内における冷媒の流れを制御する流れ制御手段5を設置し、該流れ制御手段5でもって当該冷却室内を流通する冷媒の流れに相対的に速く流れる部分とそうでない部分とを生じせしめることにより、当該冷却室周辺における金型からの奪取熱量に部分的に差を付けられるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト鋳造等に用いられる金型の冷却構造に関し、更に詳しくは、金型の内部に設けられた冷却室内に流動性を有する冷媒を流通させることにより当該冷却室周辺を冷却する金型の冷却構造に関し、特に、射出スリーブ内を前進して溶湯を押圧するプランジャチップの前進対向位置に設けられ、該プランジャチップで押圧された溶湯をランナーへと導くための金型分流子に適用すると好適な金型の冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造では、射出スリーブ内に注湯された溶湯をプランジャチップで金型キャビティ内に射出充填した後に引き続きプランジャチップを前進させてキャビティ内の溶湯に対する増圧を行い、これにより、溶湯が凝固する際の引け巣等の鋳造欠陥の発生を防いでいる。
【0003】
この際、分流子とプランジャチップとの間でビスケットと称される円盤状の凝固片が形成されるが、このビスケットは比較的厚いので、凝固に時間がかかり鋳造サイクルを長引かせる原因の一つになっている。
そこで従来から、当該ビスケットの凝固に要する時間を短縮させる工夫がいろいろとなされている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。
これらの先行技術は、分流子の内部に冷却空間を形成し、その空間内に冷却水を供給して分流子を冷却することによりビスケットの凝固に要する時間を短縮させようとするものである。
【0004】
【特許文献1】特許第3097515号公報
【特許文献2】特開2005−74445号公報
【特許文献3】特開2003−191063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然しながら、実際問題として一般的なダイカスト機において分流子は、溶湯と直接接触する先端面部分(プランジャチップと対向する前面部分)およびランナー直下部分は極端に加熱されるがそれ以外の部分は溶湯で加熱されることがないため、溶湯を射出して製品を鋳造するたびに、溶湯と直接接触する部分とそうでない部分とで熱応力による極端な歪が生じ、その繰り返しによって分流子が割れることがあった。
すなわち、前記した先行文献2では、溶湯と直接接触して加熱される先端面部分およびランナー直下部分を適正温度に冷却しようとすると、溶湯で加熱されない他の部分も同様に冷却されてしまうので当該部分が過冷却となってしまい、その結果、溶湯と直接接触する部分とそうでない部分との間で極端な熱応力による歪が生じてしまう。
【0006】
このような冷却構造の場合は、極端な熱応力による歪に耐えられるようにするためにその加工コストが非常に高くなるだけではなく、溶湯が接するために強制的に冷却しなければならない部位に冷却水が流れる時間は総流通時間の半分程度であり、冷却効率は決してよくない。
【0007】
また、前記した先行文献3に記載の冷却手段では、冷却開始時に冷却チャンバ内に空気が大量に存在する。この冷却チャンバ内の空気は、冷却チャンバ内に流通させる冷却水の水圧を上げたり通水時間を長くしても当該冷却チャンバから排出され難く、該冷却チャンバの上部に滞留してしまう。その為に、冷却チャンバ内に冷却水を通水してもその上部周辺において十分な冷却能力を発揮し得ない。
【0008】
本発明はこのような現状に鑑みてなされたものであり、冷却したい部分を選択的に冷却することが可能であり、溶湯と直接接触して加熱される部分を適正な温度に冷却することが出来、それ以外の冷却をほとんど必要としない部分においてはさほど冷却せずとも済むといった制御が可能であり、その結果、溶湯と直接接触する部分とそうでない部分との間で極端な熱応力による歪の発生を抑制することが出来、しかも、冷却室内に存在する気泡ないしは蒸気種等の泡を冷却開始後瞬時に且つそれ以降も迅速に排出することが出来る金型の冷却構造を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この種の冷却構造では、金型内部に形成された冷却室内に存在する冷媒に熱を奪われることにより当該冷却室周辺が冷却されるので、冷却室内において冷媒を流通させた方が良いし、しかも冷媒を金型の被冷却面に接触させて流し、その流速を速くした方が良い。そうすれば、金型の熱を奪った冷媒の入れ替わりが速くなることで金型との熱交換率がよく金型(の冷却室周辺)からの奪取熱量が多くなり、その分金型(の冷却室周辺)の冷却効果を高めることが出来るようになる。
【0010】
本発明はこの様な知見に基づいてなされたものであり、冷却室の内壁面に沿って流通する冷媒の流れに相対的に速く流れる部分とそうでない部分とを生じせしめることにより、当該冷却室周辺における金型からの奪取熱量に部分的に差を付けられるように構成したものである。
すなわち、本発明の金型の冷却構造は、金型の内部に設けられた冷却室内に流動性を有する冷媒を流通させることにより当該冷却室周辺を冷却する金型の冷却構造であって、前記冷却室の内部に当該冷却室内における冷媒の流れを制御する流れ制御手段を設置し、該流れ制御手段でもって当該冷却室の内壁面に沿って流通する冷媒の流れに相対的に速く流れる部分とそうでない部分とを生じせしめることにより、当該冷却室周辺における金型からの奪取熱量に部分的に差を付けられるように構成したことを特徴としたものである(請求項1)。
ちなみに、冷媒としては、通常使用されている冷却水や冷却オイルなどを使用することが出来る。
【0011】
本発明が適用される好適な実施態様としては、射出スリーブ内を前進して溶湯を押圧するプランジャチップの前進対向位置に設けられる金型分流子が考えられる。すなわち、前記冷却室が、金型分流子の内部に形成され、前記流れ制御手段が、前記冷却室の内部空間を上部空間部と下部空間部とに画成する横仕切り材と上記下部空間部を左右に画成する縦仕切り材とから形成され、冷媒の吐出口を、前記縦仕切り材を貫通させて当該縦仕切り材と冷却室の前方壁との間で形成される前方空間部に臨ませると共に、冷媒の排出口を当該冷却室の開口を封止する封止壁部材に設け、前記冷媒吐出口から吐出された冷媒を前記前方空間部から上部空間部を通って前記冷媒排出口に向け流通させて当該前方空間部から上部空間部にわたる部分を流通する冷媒の流速を相対的に速くすることにより、当該前方空間部から上部空間部にわたる冷却室周辺と他の部分の冷却室周辺とで金型からの奪取熱量に差を付けられるように構成するものである(請求項2)。
この際、前記冷却室の上部空間部に対応した部分における前記封止壁部材に、当該冷却室内に発生する泡を室外へ排出するための冷媒排出兼用排気口を設けることが好ましい(請求項3)。
【0012】
また、前記前方空間部に面した前記縦仕切り材に、前記冷媒吐出口よりも下部位置に当該冷却室の前方壁に向けて第2横仕切り材を突設せしめても良い(請求項4)。
そして、前記冷媒吐出口を備えた冷媒供給管の外側に、冷媒排出管を同心状に配設せしめ、上記冷媒供給管の外周と冷媒排出管の内周との間を冷媒の排出口としても良い(請求項5)。
また、前記下部空間部は、前記複数枚の縦仕切り材を用いて複数の室に画成されていることが好ましい(請求項6)。
【0013】
更に、本発明が好適に適用される金型分流子の別の実施態様としては、前記流れ制御手段が、前記冷却室の内部空間を当該冷却室の上壁部との間で形成される上部空間部と前方壁との間で形成される前方空間部とに画成し残部は当該冷却室の内壁に接触すると共に当該冷却室の開口を封止する封止壁部を備えた画成ブロック材で形成され、該画成ブロック材の前記前方空間部に臨む位置に冷媒吐出口を形成し、前記上部空間部に対応した封止壁部に冷媒排出口を設け、前記冷媒吐出口から吐出された冷媒を前記前方空間部から上部空間部を通って前記冷媒排出口に向け流通させることにより、当該前方空間部から上部空間部にわたる冷却室周辺と他の部分の冷却室周辺とで金型からの奪取熱量に差を付けられるように構成しても良い(請求項7)。
また、前記前方空間部に面し且つ前記冷媒吐出口よりも下部位置に、当該冷却室の前方壁に向けて第2横仕切り材を突設せしめても良い(請求項8)。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る金型の冷却構造によれば、流れ制御手段でもって当該冷却室の内壁面に沿って流通する冷媒の流れに相対的に速く流れる部分とそうでない部分とを生じせしめたので、冷媒が相対的に速く流通する部分における冷却室周辺では金型からの奪取熱量が多くなり冷却効果が高く、それ以外の部分における冷却室周辺では金型からの奪取熱量がさほど多くなく冷却効果が相対的に低くなる。その結果、1つの冷却室においてその周辺全体を強制的に冷却するのではなく、1つの冷却室周辺において部分的に金型からの奪取熱量に差を付けることが出来るようになる。
【0015】
すなわち、1つの冷却室周辺において冷却したい部分とそうでない部分を峻別して、冷却したい部分は積極的に冷却することが出来、逆にさほど冷却を必要としない部分ではほとんど冷却せずとも済むようになる。
【0016】
これを金型分流子に適用した場合、溶湯と直接接触する先端面部分(プランジャチップと対向する面部分)並びにランナー直下部分等、積極的に冷却が必要な部分のみを効果的に且つ適正に冷却することが出来、逆に、溶湯と直接接触しなので冷却をほとんど必要としない部分ではほとんど冷却されることがなくなる。従って、金型(分流子)全体の温度バランスがよくなり、当該部位にかかる熱応力による歪を最小限に抑制することが可能となる。
【0017】
また、請求項2に記載の金型の冷却構造によれば、金型分流子の内部に形成された冷却室内を画成する流れ制御手段が、前記冷却室の内部空間を上部空間部と下部空間部とに画成する横仕切り材と上記下部空間部を左右に画成する縦仕切り材とから形成され、冷媒の吐出口を、前記縦仕切り材を貫通させて当該縦仕切り材と冷却室の前方壁との間で形成される前方空間部に臨ませると共に、冷媒の排出口を当該冷却室の開口を封止する封止壁部材に設け、前記冷媒吐出口から吐出された冷媒を前記前方空間部から上部空間部を通って前記冷媒排出口に向け流通させて当該前方空間部から上部空間部にわたる部分を流通する冷媒の流速を相対的に速くすることにより、当該前方空間部から上部空間部にわたる冷却室周辺と他の部分の冷却室周辺とで金型からの奪取熱量に差を付けるように構成したので、冷却室の前方空間部から上部空間部にわたる部分と対応している、溶湯と直接接触する先端面部分(プランジャチップと対向する前面部分)並びにランナー直下部分を効果的に且つ適正に冷却することが出来、逆に、冷媒の流通がさほどない下部空間部と対応している部分では余り冷却されることがなくなる。
【0018】
この際、冷媒吐出口をビスケットのセンター位置に合わせて配置することが好ましい。そうすれば、冷却凝固しにくいビスケットのセンター部分をより効果的に冷却し凝固させることが可能となり、冷却不足によるビスケットの破裂事故を防止することが出来る。
【0019】
また、冷却室内に流動性を有する冷媒を流通させると、流通初期時においては冷媒の供給路にあったガス成分(気泡)が、また鋳造時においては溶湯で過熱された冷媒から発生する蒸気種が、それぞれ気泡状になって冷却室内に滞留することがあり、特に金型分流子の場合には、ランナー直下部分に対応する上部空間部に気泡ないしは蒸気種等の泡(以下、単に「泡」と称する。)が滞留しやすくなる。冷却室の上部空間部に泡が滞留すると、冷媒が冷却室の内壁に直接接触することができなくなるので、当然のことながらその周辺部分を効果的に冷却することが出来なくなってしまう。
【0020】
しかし、本発明の請求項3に記載の金型冷却構造によれば、前記冷却室の上部空間部に対応した部分における前記封止壁部材に、当該冷却室内に発生する泡を室外へ排出するための冷媒排出兼用排気口を設けてなるので、冷却室内に発生した泡は冷却室内を流通する冷媒と共に冷媒排出兼用排気口を通して室外へ速やかに排出されて、冷却室内に滞留するようなことがない。
その結果、冷却室の上部空間部は冷却開始後瞬時に且つそれ以降も冷媒で満たされた状態となるので、冷却室の上部空間部周辺、すなわち溶湯が直接接触するランナー直下部分を有効的に冷却すること出来る。
【0021】
また、請求項4及び8に記載の金型冷却構造によれば、冷却室の前方空間部に面し且つ冷媒吐出口よりも下部位置に、当該冷却室の前方壁に向けて第2横仕切り材を突設せしめてなるので、冷媒吐出口より吐出された冷媒は第2横仕切り材に阻まれて前方空間部から上部空間部を通り冷媒排出口に向けて他の部分よりも速い速度で流通されることになるので、第2横仕切り材と冷却室の前方壁及び縦仕切り材もしくは画成ブロック材で区画された空間部分における冷媒の流通量は相対的に非常に少なくなり、よって当該周辺部分における金型からの奪取熱量は他の部分よりも少なくなる。しかも当該周辺部分は、射出スリーブ内に注湯された直後に溶湯が接触する部位に相当する部位であり、冷媒が常に存在しているので、冷媒の流通量を少なくすることにより射出スリーブ内に注湯された溶湯の冷し過ぎを防止し得、従って、金型キャビティに射出される溶湯の破断チル層の発生を抑制することが可能となる。
【0022】
更に、請求項5に記載の金型の冷却構造によれば、冷媒吐出口を備えた冷媒供給管の外側に、冷媒排出管を同心状に配設せしめ、上記冷媒供給管の外周と冷媒排出管の内周との間を冷媒の排出口としたので、市販されている安価な二重パイプ型の冷却パイプを使用することができる。
【0023】
また、請求項6に記載の金型の冷却構造によれば、冷却室の下部空間部が、複数枚の縦仕切り材で複数の室に画成されているので、前方空間部から上部空間部を通って冷媒排出口に向け流通している冷媒が、冷却室の開口を封止している封止壁部材に反射して下部空間部側に流れた場合でも、複数枚の縦仕切り材で緩衝されてしまうので、下部空間部における冷媒の動きは非常に少なくなる。従って、下部空間部における冷却室周辺の冷却効果が著しく低下し、その結果、溶湯が直接接触していないのでさほど冷やす必要がない冷却室の下部空間部の周辺部分を冷却せずとも済む。
【0024】
そして、請求項7に記載の冷却構造によれば、冷却室内を画成する流れ制御手段が、冷却室の内部空間を当該冷却室の上壁部との間で形成される上部空間部と前方壁との間で形成される前方空間部とに画成し残部は当該冷却室の内壁に接触すると共に当該冷却室の開口を封止する封止壁部を備えた画成ブロック材で形成され、該画成ブロック材の前記前方空間部に臨む位置に冷媒吐出口を形成し、前記上部空間部に対応した封止壁部に冷媒排出口を設けてなるので、構造が簡素なものとなり、製造が容易で安価に提供し得る。
【0025】
しかも、特に本冷却構造を分流子に適用した場合、冷却室内の前方空間部から上部空間部にわたる部分を流通する冷媒の流速を相対的に速くすれば良いだけのことであるので、冷却室内を画成する流れ制御手段をさほど加工精度良く成形せずとも済み、簡便且つ安価に提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な好適実施例を、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は図示した実施例のものに限定されるものではなく、その要旨を越えない範囲において自由に変更可能である。
なお、全図面を通して同様の構成部材には同一の符号を付してある。
【0027】
図1は本発明に係る金型の冷却構造が適用される横射出式のダイカストマシンを模式的に現した断面図であり、図中の符号1aは固定型を、符号1bは可動型を、符号2は射出スリーブを、そして符号3はプランジャチップをそれぞれ示し、射出スリーブ2内を前進して溶湯を押圧するプランジャチップ3の前進対向位置に金型分流子4が設けられている。
【0028】
そして、注湯口2aから射出スリーブ2内に給湯された後プランジャチップ3で押圧された溶湯は、金型分流子4の前方壁41正面部から上壁部42の上面部を通り、固定型1aと可動型1bの間に形成されたランナー1cを経てキャビティ1d内に充満加圧されて製品となる。
【0029】
本発明に係る金型の冷却構造は、金型の内部の適所に設けられた冷却室内に、冷却水や冷却オイル等の流動性を有する冷媒を流通させることにより当該冷却室の周辺を冷却するものであり、前記冷却室の内部に当該冷却室内における冷媒の流れを制御するための流れ制御手段を設置し、該流れ制御手段でもって当該冷却室の内壁面に沿って流通する冷媒の流れに相対的に速く流れる部分とそうでない部分とを生じせしめることにより、当該冷却室周辺における金型からの奪取熱量に部分的に差を生じさせるように構成されるものであり、従来の冷却構造と同様に、固定型1aや可動型1bに適用し得る。
ちなみに、図示実施例では可動型1bの一部を構成している分流子4に適用したものである。
【0030】
分流子4の内部には、冷却水やオイルなどの冷媒を流通させてその周辺を冷却するための冷却室43が軸方向に抉るように形成される。従って、この冷却室43の前方壁41と反対側の開口は、別形成された封止壁部材6或は流れ制御手段5の一部(封止壁部53)でもって、後加工により水密状に封止される。
そして冷却室43の内部には、当該冷却室43内における冷媒の流れを制御するための流れ制御手段5が設置される。
【0031】
流れ制御手段5は、冷却室43の内部を流通する冷媒の流れを制御して、冷却室43内を流通する冷媒の流れに相対的に速く流れる部分とそうでない部分とを生じせしめるためのものであり、図2ないし図4に示した第1実施例では、冷却室43の内部空間を上部空間部7aと下部空間部7bとに画成するための横仕切り材51と、上記下部空間部7bを更に左右に画成するための縦仕切り材52とから形成され、図5ないし図7に示した第2実施例では、冷却室43の内部空間を当該冷却室の上壁部42との間で形成される上部空間部7aと前方壁41との間で形成される前方空間部7cとに画成し残部は当該冷却室の内壁に接触すると共に当該冷却室の開口を封止する封止壁部53を備えた画成ブロック材で形成されている。
【0032】
図2ないし図4に示した第1実施例の流れ制御手段5において、横仕切り材51は、剛性及び耐熱性を備えた金属板等を用いて正面から見て断面略船底形に形成され、その長手方向に沿う両端縁51aを冷却室43の上壁部42内面に当接するように設置することにより、冷却室43の内部空間を上部空間部7aと下部空間部7bとに画成するものであり、その基端側は封止壁部材6に近接ないしは当接させ、先端側は冷却室43の前方壁41近傍まで水平状に延設させる。
【0033】
縦仕切り材52は、横仕切り材51で画成された下部空間部7bを更に左右に画成するためのものであり、横仕切り材51と同様の金属板等を用いて、冷却室43を輪切りした内周形状とほぼ同じ大きさに形成すると共に、上部空間部7aに当たる部分を切り欠いて形成し、その1枚以上を横仕切り材51の下面に垂直状に垂下突設する。
その際、横仕切り材51の最先端側に配設した縦仕切り材52を冷却室43の前方壁41と対向させて、当該縦仕切り材52と前方壁41とで前方空間部7cを画成せしめ、当該縦仕切り材52と封止壁部材6との間で形成された下部空間部7bを、別の1枚又は2枚の縦仕切り材52でもって左右に画成する。
【0034】
そして、冷媒の吐出口53を、縦仕切り材52を貫通させて当該縦仕切り材52と冷却室の前方壁41との間で形成される前方空間部7cに臨ませると共に、冷媒の排出口54を当該冷却室43の開口を封止する封止壁部材6に設けて、冷媒吐出口53から吐出された冷媒を冷却室43の前方空間部7cから上部空間部7aを通って上記冷媒排出口54に向け流通させるようにする。
この際、冷媒吐出口53は、プランジャチップ3と金型分流子4との間で形成されるビスケッとのセンター位置に合わせて配置されている。
【0035】
冷却室43内に冷媒を流通させると、泡(流通初期時においては冷媒の供給路にあったガス成分(気泡)が、また鋳造時においては溶湯で過熱された冷媒から発生する蒸気種)が冷却室43内に滞留することがあるので、これをスムーズに冷却室43の外へ排除し得るように、冷却室43の上部空間部7aに対応した部分における封止壁部材6に、冷媒の排出を兼ねた排気口58を設ける。従って、この排気口58は上部空間部7aにおけるできるだけ上部(封止壁部材6の外周縁にできるだけ近い部分)に配設することが好ましい。
【0036】
また、封止壁部材6に冷媒の排出口54を形成する場合に、図示実施例のごとく、冷媒吐出口53を備えた冷媒供給管55の外側に、冷媒排出管56を同心状に配設せしめ、冷媒供給管55の外周と冷媒排出管56の内周との間を冷媒の排出口54とすれば、市販されている二重パイプ型の冷却パイプを使用して、冷媒の吐出口53と排出口54を形成することができる。この際、冷媒排出管56は冷却室43内に余り突出させないようにすることが好ましい。
【0037】
また、冷却室43の前方空間部7cには、冷媒吐出口53よりも下部位置に、当該前方空間部7cを上下に画成するための第2横仕切り材57を設置する。すなわち、前方空間部7cに面している縦仕切り材52に、縦仕切り材52の直径とほぼ同じ長さを有する矩形平板形状に形成された第2横仕切り材57を冷却室43の前方壁41に向けて水平状に突設せしめる。このとき、第2横仕切り材57の先端は冷却室43の前方壁41に当接していても良いし当接せずに少し離れていてもよい。
【0038】
かくして、この第1実施例にかかる金型の冷却構造の場合、冷媒供給管55の冷媒吐出口53から吐出された冷媒は、冷却室43の前方空間部7cにおいて前方壁41に衝突しそこで熱交換しながらその大部分は第2横仕切り材57に誘導されて上部空間部7aに至り、上部空間部7aでは冷却室43の上壁部42内面と接触して熱交換しながら冷媒排出口54に向い、冷媒排出口54を通して外部へ排出される。この際、上部空間部7aに対応した部分の封止壁部材6に冷媒排出兼用排気口58を設けることにより、上部空間部7aの冷媒のほとんどは冷媒排出兼用排気口58を通して外部へ排出されるようになる。
【0039】
この前方空間部7cから上部空間部7aにわたる部分を流通する冷媒の流速は、下部空間部7bや他の第2横仕切り材57で画成された下部前方空間部7dにおける冷媒の流速よりも圧倒的に速くなる。
その結果、冷却室43の前方空間部7cから上部空間部7aにわたる冷却室周辺における金型からの奪取熱量が、他の部分の冷却室周辺よりも多くなるので、当該部分が速く且つ強く冷却される。
【0040】
次に、本発明の第2実施例にかかる金型の冷却構造を、図5ないし図7を参照しながら説明する。
なお、第1実施例にかかる金型の冷却構造と同様の構成部材には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0041】
この第2実施例では、流れ制御手段5が1つの画成ブロック材で形成されている。
すなわち、冷却室43の開口を封止し得る封止壁部53を備えると共に、冷却室43の上壁部42との間で上部空間部7aを画成する樋状凹部59を有し、且つその先端部が冷却室43の前方壁41との間で前方空間部7cを画成し、それ以外の部分は冷却室43の内壁に接触する大きさに形成された画成ブロック材の内部に、冷却室43内に冷媒を供給するための冷媒通路60が貫通形成され、その冷媒吐出口53を前方空間部7cに臨ませ、冷媒排出口54が、上部空間部7aに対応している封止壁部53の部分に設けられている。この冷媒排出口54は、冷却室43内の泡を外部へ排出するための排気口も兼ねている。
【0042】
なお、この第2実施例においても第1実施例と同様に、画成ブロック材の先端部に冷媒吐出口53よりも下部位置に、第2横仕切り材57を冷却室43の前方壁41に向けて水平状に突設せしめて、前方空間部7cを上下に画成してある。
【0043】
かくして、この第2実施例にかかる金型の冷却構造の場合、外部パイプ8から冷媒通路60を通して冷媒吐出口53から吐出された冷媒は、冷却室43の前方空間部7cにおいて前方壁41に衝突しそこで熱交換しながら上部空間部7aに至り、上部空間部7aでは冷却室43の上壁部42内面と接触して熱交換しながら冷媒排出口54を通して外部へ排出される。
【0044】
この前方空間部7cから上部空間部7aにわたる部分を流通する冷媒の流れは、冷却室43の内壁に接触している部分における冷媒の動きよりも圧倒的に速く流れるようになる。
その結果、冷却室43の前方空間部7cから上部空間部7aにわたる冷却室周辺における金型からの奪取熱量が、他の部分の冷却室周辺よりも多くなるので、当該部分が速く且つ強く冷却される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る金型の冷却構造を適用したダイカストマシンの要部を示す模式図断面。
【図2】本発明の第1実施例を示す断面図。
【図3】図2の(X)-(X)線に沿う断面図。
【図4】同流れ制御手段の斜視図。
【図5】本発明の第2実施例を示す断面図。
【図6】図5の(Y)-(Y)線に沿う断面図。
【図7】同流れ制御手段の斜視図。
【符号の説明】
【0046】
1a:固定型 1b:可動型
1c:ランナー 1d:キャビティ
2:射出スリーブ 2a:注湯口
3:プランジャチップ 4:金型分流子
41:前方壁 42:上壁部
43:冷却室 44:
5:流れ制御手段 51:横仕切り材
52:縦仕切り材 53:冷媒吐出口
54:冷媒排出口 55:冷媒供給管
56:冷媒排出管 57:第2横仕切り材
58:冷媒排出兼用排気口 59:樋状凹部
60:冷媒通路
6:封止壁部材
7a:上部空間部 7b:下部空間部
7c:前方空間部 7d:下部前方空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の内部に設けられた冷却室内に流動性を有する冷媒を流通させることにより当該冷却室周辺を冷却する金型の冷却構造であって、
前記冷却室の内部に当該冷却室内における冷媒の流れを制御する流れ制御手段を設置し、該流れ制御手段でもって当該冷却室の内壁面に沿って流通する冷媒の流れに相対的に速く流れる部分とそうでない部分とを生じせしめることにより、当該冷却室周辺における金型からの奪取熱量に部分的に差を付けられるように構成したことを特徴とする金型の冷却構造。
【請求項2】
前記冷却室が、射出スリーブ内を前進して溶湯を押圧するプランジャチップの前進対向位置に設けられる金型分流子の内部に形成され、
前記流れ制御手段が、前記冷却室の内部空間を上部空間部と下部空間部とに画成する横仕切り材と上記下部空間部を左右に画成する縦仕切り材とから形成され、冷媒の吐出口を、前記縦仕切り材を貫通させて当該縦仕切り材と冷却室の前方壁との間で形成される前方空間部に臨ませると共に、冷媒の排出口を当該冷却室の開口を封止する封止壁部材に設け、前記冷媒吐出口から吐出された冷媒を前記前方空間部から上部空間部を通って前記冷媒排出口に向け流通させて当該前方空間部から上部空間部にわたる部分を流通する冷媒の流速を相対的に速くすることにより、当該前方空間部から上部空間部にわたる冷却室周辺と他の部分の冷却室周辺とで金型からの奪取熱量に差を付けられるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の分流子の冷却構造。
【請求項3】
前記冷却室の上部空間部に対応した部分における前記封止壁部材に、当該冷却室内に発生する泡を室外へ排出するための冷媒排出兼用排気口を設けてなることを特徴とする請求項2記載の分流子の冷却構造。
【請求項4】
前記前方空間部に面した前記縦仕切り材に、前記冷媒吐出口よりも下部位置に当該冷却室の前方壁に向けて第2横仕切り材を突設せしめてなることを特徴とする請求項2記載の分流子の冷却構造。
【請求項5】
前記冷媒吐出口を備えた冷媒供給管の外側に、冷媒排出管を同心状に配設せしめ、上記冷媒供給管の外周と冷媒排出管の内周との間を冷媒の排出口としたことを特徴する請求項2記載の分流子の冷却構造。
【請求項6】
前記下部空間部が、前記複数枚の縦仕切り材で複数の室に画成されていることを特徴とする請求項2記載の分流子の冷却構造。
【請求項7】
前記冷却室が、射出スリーブ内を前進して溶湯を押圧するプランジャチップの前進対向位置に設けられる金型分流子の内部に形成され、
前記流れ制御手段が、前記冷却室の内部空間を当該冷却室の上壁部との間で形成される上部空間部と前方壁との間で形成される前方空間部とに画成し残部は当該冷却室の内壁に接触すると共に当該冷却室の開口を封止する封止壁部を備えた画成ブロック材で形成され、該画成ブロック材の前記前方空間部に臨む位置に冷媒吐出口を形成し、前記上部空間部に対応した封止壁部に冷媒排出口を設け、前記冷媒吐出口から吐出された冷媒を前記前方空間部から上部空間部を通って前記冷媒排出口に向け流通させることにより、当該前方空間部から上部空間部にわたる冷却室周辺と他の部分の冷却室周辺とで金型からの奪取熱量に差を付けられるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の分流子の冷却構造。
【請求項8】
前記前方空間部に面し且つ前記冷媒吐出口よりも下部位置に、冷却室の前方壁に向けて第2横仕切り材を突設せしめてなることを特徴する請求項7記載の分流子の冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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