説明

金属化フィルムコンデンサ

【課題】高温での良好な保安性および耐電圧性を有する金属化フィルムコンデンサを提供する。
【解決手段】金属化フィルムの幅方向において、絶縁マージン72側からメタリコン接続部71にかけて第1小分割電極部、大分割電極部、第2小分割電極部および非分割電極部81の順に配置されている。第1小分割電極部を構成する複数の小分割電極83の各々は、当該小分割電極83を長手方向に挟む絶縁スリット73間に形成されたヒューズ93にて大分割電極84と接続されている。また、第2小分割電極部を構成する複数の小分割電極85の各々は、当該小分割電極85を長手方向に挟む絶縁スリット74、75間に形成されたヒューズ94、95にてそれぞれ大分割電極84、非分割電極部81と接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機器および自動車用等のインバータ回路の平滑用、フィルタ用に使用する金属化フィルムコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の金属化フィルムコンデンサは、図1に示すポリプロピレンフィルム1のメタリコン近傍蒸着電極2を厚く、非メタリコン近傍蒸着電極3を薄く蒸着し、メタリコンと対向する端部に絶縁マージン4を形成した金属化フィルムが使用されている。この金属化フィルムコンデンサではポリプロピレンフィルムの絶縁破壊時、その放電エネルギーにより絶縁破壊部周辺の蒸着電極が飛散し、これにより絶縁破壊部の絶縁を回復させる自己回復機能を有する。しかし、高温・高電圧では絶縁破壊数が増えるために自己回復機能が充分に得られず、コンデンサがショートモードに到ることがある。例えば、図13に示されるように、誘電体(プラスチックフィルム)の上に蒸着金属膜を有する金属化フィルムが積層・巻回されてなる金属化フィルムコンデンサにおいては、図面の×印の所で誘電体が破壊し、セルフヒーリング(蒸着金属の飛散)が不充分な場合、破壊した誘電体部分を介して当該金属化フィルムの下側に配置された金属化フィルム上の蒸着金属と導通することになる。
【0003】
インバータ回路の平滑用コンデンサは高温・高電圧で使用されると共に、安全性の要求が強く、蒸着電極を複数に分割した金属化フィルムが採用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。このような分割電極が形成された金属化フィルムの例を[図2−A]〜[図2−C]に示す。
【0004】
[図2−A]では、金属化フィルムのメタリコン接続部10と幅方向において対向する端部には絶縁マージン12が形成され、幅方向絶縁スリット5と、長手方向絶縁スリット6とにより分割電極7が形成されている。これら分割電極7同士はヒューズ8で並列に接続されている。さらに、メタリコン近傍蒸着電極は長手方向の絶縁スリット9によりメタリコン接続部10と分割電極7とを分離した構成とし、メタリコン接続部10と分割電極7とはヒューズ11で接続されている。
【0005】
[図2−B]では、金属化フィルムのメタリコン接続部10aと幅方向において対向する端部には絶縁マージン12aが形成され、Y字形絶縁スリット13aによりハニカム状の分割電極7aが形成されている。これら分割電極7a同士はヒューズ8aで並列に接続されている。
【0006】
[図2−C]では、金属化フィルムのメタリコン接続部10bと幅方向において対向する端部には絶縁マージン12bが形成され、ミュラー・リヤー形絶縁スリット14aによりハニカム状の分割電極7bが形成されている。これら分割電極7b同士はヒューズ8bで並列に接続されている。
【0007】
このような分割電極を有する金属化フィルムを用いた金属化フィルムコンデンサに誘電体の絶縁破壊が生じた場合、上記した自己回復機能を有する。同時に、金属化フィルムコンデンサの自己回復機能を超えた絶縁破壊が生じた場合でも、周囲の分割電極から絶縁破壊の生じた分割電極に電流が流れ込み、ヒューズ部の蒸着電極を飛散させ、絶縁破壊が生じた分割電極が、他の分割電極と切り離されて絶縁を回復させる機能を有し、高い安全性が確保されている。
【0008】
さらに、分割電極面積を小さくするとヒューズ動作による容量減少を抑制することができ、コンデンサの長寿命化が可能になる。しかしながら、細分化し過ぎると、分割電極のエネルギーが小さくなり、絶縁破壊が生じた場合、ヒューズ動作がしにくくなって、コンデンサの安全性が低下する。この現象は温度が高くなるほど顕著になる。
【0009】
また、分割電極面積を小さくすると、ヒューズの数が増加することになるが、ヒューズは分割電極と比較して高抵抗であるため、コンデンサの発熱が増加することが報告されている(例えば、特許文献4参照)。このような自己発熱の増加は、耐電圧性能や保安性能が低下する原因となる。特にコンデンサ素子の中心は自己発熱により最も温度が上昇し、他の部分よりも耐電圧性能や保安性能が劣化する。
【0010】
そこで、上記した不具合を改善するために、分割電極部と、分割されていない面積の大きな電極(非分割電極部)を集約配置する手段が考案されている(例えば、特許文献5参照)。この特許文献5記載の金属化フィルムコンデンサでは、絶縁マージン側にスリットによって区画された複数の分割電極が設けられ、端子接続部側(メタリコン接続部側)に非分割電極部が設けられている。そして、複数の分割電極は、絶縁マージンに近づくにつれて、蒸着電極の面積が小さくなるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平08−250367号公報
【特許文献2】特開平11−26281号公報
【特許文献3】特開平11−26280号公報
【特許文献4】特開2003−338422号公報
【特許文献5】特開2005−12082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、自動車用としてインバータ回路の平滑用などに使用されるコンデンサは高温、高周波、高電圧で使用され、小形化と高度な安全性が要求されている。このため、誘電体フィルムの厚さを薄くしてコンデンサを小形化し、かつ高温領域での耐電圧性能の向上および安全性を実現しなければならない。
【0013】
しかしながら、上記特許文献5記載の金属化フィルムコンデンサでは、絶縁マージン側に比較的電極面積が小さな分割電極を長手方向に配列した分割電極部(小分割電極部)を集約する一方、端子接続部側に比較的電極面積が大きな分割電極を長手方向に配列した分割電極部(大分割電極部)および非分割電極部を配置しているので、高温時での保安性が必ずしも十分に確保されている状況にはなっていなかった。具体的には、小分割電極部で絶縁破壊が生じた場合、絶縁破壊が生じた小分割電極部を構成する分割電極に隣接する分割電極からヒューズを動作させるだけの十分な電流が流れ込まず、特に高温時においてヒューズを動作させることができないおそれがあった。
【0014】
この発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、高温での良好な保安性および耐電圧性を有する金属化フィルムコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、誘電体フィルムの少なくとも片面に蒸着電極を設けた金属化フィルムを巻回、または積層してコンデンサ素子を形成し、該コンデンサ素子の両端面に電極引き出し用のメタリコンを接続した金属化フィルムコンデンサであって、金属化フィルムの長手方向に間隔をあけて配列した絶縁スリットにより蒸着電極が分割された、複数の小分割電極を長手方向に沿って形成する小分割電極部と、金属化フィルムの長手方向に間隔をあけて配列した絶縁スリットにより蒸着電極が分割された、小分割電極よりも電極面積が大きな複数の大分割電極を長手方向に沿って形成する大分割電極部と、蒸着電極が長手方向に連続した非分割電極部とを備え、金属化フィルムの幅方向において小分割電極部が大分割電極部および非分割電極部のいずれかに隣接して配置され、複数の小分割電極の各々は、該小分割電極を長手方向に挟む絶縁スリット間に形成されたヒューズにて大分割電極または非分割電極部と接続されていることを特徴としている。
【0016】
このように構成された発明によれば、金属化フィルムの幅方向において、比較的電極面積が小さな複数の小分割電極から構成された小分割電極部が比較的電極面積が大きな複数の大分割電極から構成された大分割電極部および非分割電極部のいずれかに隣接して配置される。そして、複数の小分割電極の各々がヒューズによって、大分割電極または非分割電極部に接続される。このため、小分割電極の端部は、小分割電極よりも電極面積が大きな大分割電極および非分割電極部のいずれかにヒューズを介して接続されるので、小分割電極で絶縁破壊が生じた場合でも、該小分割電極に隣接する大分割電極または非分割電極部からヒューズを動作させるだけの十分な電流が流れ込み、ヒューズを確実に動作(ヒューズ部の蒸着電極を飛散)させ、絶縁破壊を起こした分割電極を分離することができる。なお、上記した効果を発揮させるために、大分割電極部を構成する第2の分割電極の面積は、小分割電極部を構成する第1の分割電極部の面積の2倍以上にすることが好ましい。
【0017】
ここで、小分割電極部として第1小分割電極部と第2小分割電極部の2つの分割電極部を設け、金属化フィルムの幅方向において第1小分割電極部と第2小分割電極部との間に大分割電極部を隣接して配置することが好ましい。この構成によれば、第1小分割電極部または第2小分割電極部で熱・電圧等による誘電体の劣化により、小分割電極が複数個に亘ってヒューズ動作した場合でも、電流経路が極端に乱れるのを防止することができる。すなわち、金属化フィルムの幅方向において第1小分割電極部と第2小分割電極部との間に非分割電極部を隣接して配置した場合には、非分割電極部に蒸着電極を分割する絶縁スリットが存在しないため、小分割電極が複数個に亘ってヒューズ動作した場合に、電流経路が極端に乱れるおそれがある。その結果、コンデンサの誘電損失および等価直列抵抗が極端に上昇する可能性があった。これに対し、金属化フィルムの幅方向において第1小分割電極部と第2小分割電極部との間に大分割電極部を隣接して配置することにより、大分割電極部に形成された絶縁スリットが電流経路を規制し、電流経路が極端に乱れるのを防止することができる。
【0018】
また、コンデンサ素子が金属化フィルムを2枚重ね合わせてなる一対の金属化フィルムにより形成される金属化フィルムコンデンサにおいては、一対の金属化フィルムの一方に形成された大分割電極部および非分割電極部のすべての電極面が一対の金属化フィルムの他方に形成された小分割電極部に対向するように構成することが好ましい。この構成によれば、一対の金属化フィルムの一方に形成された大分割電極または非分割電極部において金属化フィルムの自己回復機能(セルフヒーリング機能)を超えた絶縁破壊が生じた場合でも、対向する一対の金属化フィルムの他方に形成された小分割電極に隣接する該小分割電極よりも電極面積が大きな大分割電極または非分割電極部から十分な電流が小分割電極に流れ込む。このため、一対の金属化フィルムの他方に形成された小分割電極の端部に形成されたヒューズを確実に動作(ヒューズ部分の蒸着電極を飛散)させ、絶縁破壊が生じた大分割電極または非分割電極部を他の分割電極から切り離すことができる。これにより、一対の金属化フィルムの一方に形成された大分割電極または非分割電極部において絶縁破壊が生じた場合でも、当該大分割電極または非分割電極部の絶縁を回復させることができ、コンデンサとしての機能を維持することができる。
【0019】
さらに、金属化フィルムのメタリコン接続部側に非分割電極部を配置することが好ましい。というのも、メタリコン接続部側に分割電極部を配置すると、当該分割電極部で絶縁破壊が生じた場合、当該分割電極部と非分割電極部とを接続するヒューズが動作すると、分割電極部からの電流通路が完全に遮断され、コンデンサとして機能しなくなる場合がある。これに対し、メタリコン接続部側に非分割電極部を配置することで、非分割電極(一対の金属化フィルムの一方に形成された非分割電極)において絶縁破壊が生じた場合でも、対向する金属化フィルム(一対の金属化フィルムのうちの他方の金属化フィルム)に形成された小分割電極と該小分割電極に隣接する非分割電極または大分割電極とを接続するヒューズが動作することにより、コンデンサとして機能する電極領域を残す(非分割電極からの電流通路を確保する)ことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高温での良好な保安性および耐電圧性を有する金属化フィルムコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の金属化フィルムコンデンサに使用されている金属化フィルムの層構成を示す図である。
【図2】分割電極が設けられた従来の金属化フィルムを示す平面図であり、[図2−A]は矩形状の分割電極、[図2−B]はY字形絶縁スリットにより形成されたハニカム状の分割電極、[図2−C]はミュラー・リヤー形絶縁スリットにより形成されたハニカム状の分割電極が設けられた金属化フィルムを示す図である。
【図3】本発明の金属化フィルムコンデンサを構成する金属化フィルムの一実施形態を示す図である。
【図4】本発明の金属化フィルムコンデンサの内部構造を示す図である。
【図5】蒸着電極を流れる電流経路の概念図である。
【図6】本発明の金属化フィルムコンデンサを構成する金属化フィルムの非分割電極位置での絶縁破壊時の電流経路を示す図である。
【図7】比較例による金属化フィルムコンデンサを構成する金属化フィルムの非分割電極位置での絶縁破壊時の電流経路を示す図である。
【図8】本発明の金属化フィルムコンデンサを構成する金属化フィルムを示す図である。
【図9】比較例1にかかる金属化フィルムを示す図である。
【図10】本発明の金属化フィルムコンデンサを構成する金属化フィルムの変形形態を示す図である。
【図11】本発明の金属化フィルムコンデンサを構成する金属化フィルムの変形形態を示す図である。
【図12】本発明の金属化フィルムコンデンサを構成する金属化フィルムの変形形態を示す図である。
【図13】従来の金属化フィルムコンデンサの層構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図3は、本発明の金属化フィルムコンデンサを構成する金属化フィルムの一実施形態を示す図である。金属化フィルムには、金属化フィルムの幅方向(以下、単に「幅方向」という)の一端部(電極形成領域)が電極引き出し用のメタリコンが接続されるメタリコン接続部71を構成し、他方端部に絶縁マージン(金属化フィルムの幅方向の一方端部で蒸着電極が形成されていない領域)72が形成されている。絶縁マージン72以外のフィルム表面領域には、絶縁スリットを除き蒸着電極が形成されている。
【0023】
金属化フィルムの絶縁マージン72側には、複数のT字状の絶縁スリット73が金属化フィルムの長手方向(以下、単に「長手方向」という)に一定間隔を隔てて配列している。また、長手方向に配列した絶縁スリット73群のメタリコン接続部側には、絶縁スリット73同士の間隔よりも広い(この実施形態では4倍)一定の間隔を隔てて複数のT字状の絶縁スリット74が長手方向に配列している。さらに、長手方向に配列した絶縁スリット74群のメタリコン接続部側には、絶縁スリット74同士の間隔よりも狭い(この実施形態では約3分の1倍)一定の間隔を隔てて複数のT字状の絶縁スリット75が長手方向に配列している。そして、長手方向に配列した絶縁スリット75群とメタリコン接続部71との間には、蒸着電極が長手方向に連続した非分割電極部81が形成されている。絶縁スリット73、74、75のスリット幅は、例えば0.2mmで形成される。
【0024】
絶縁スリット73により蒸着電極が分割された複数の小分割電極83が形成され、これら複数の小分割電極83により第1小分割電極部が構成されている。また、絶縁スリット74により蒸着電極が分割された複数の大分割電極84が形成され、これら複数の大分割電極84により大分割電極部が構成されている。さらに、絶縁スリット75により蒸着電極が分割された複数の小分割電極85が形成され、これら複数の小分割電極85により第2小分割電極部が構成されている。複数の大分割電極84の各々の電極面積は、複数の小分割電極83の各々の電極面積および複数の小分割電極85の各々の電極面積よりも大きい。この実施形態では、大分割電極84の電極面積は、小分割電極83および85の電極面積の少なくとも2倍以上を有している。幅方向において第1小分割電極部と第2小分割電極部との間に大分割電極部が隣接して配置されている。
【0025】
この実施形態では、上記のように、フィルム幅方向において絶縁マージン72側からメタリコン接続部71にかけて第1小分割電極部、大分割電極部、第2小分割電極部および非分割電極部81の順に配置されている。すなわち、小分割電極部(第1および第2小分割電極部)は大分割電極部および非分割電極部のいずれかに隣接して配置されている。なお、複数の小分割電極83の各々は、当該小分割電極83を長手方向に挟む絶縁スリット73間に形成されたヒューズ93にて大分割電極84と接続されている。また、複数の小分割電極85の各々は、当該小分割電極85を長手方向に挟む絶縁スリット74、75間に形成されたヒューズ94、95にてそれぞれ大分割電極84、非分割電極部81と接続されている。
【0026】
図4は本発明の金属化フィルムコンデンサの内部構造を示す図である。上記のように形成された金属化フィルムをメタリコン接続部と絶縁マージンが対向するように2枚重ねて巻回する。2枚の金属化フィルムは蒸着電極が形成された電極形成面を同一方向に向けて重ね合わされる。すなわち、蒸着電極間に誘電体フィルムが挟み込まれるように蒸着電極と誘電体フィルムが積層方向に交互に配置される。そして、巻回された金属化フィルムを小判形に成形した後、両端部(重ね合わされた金属化フィルムの一方端部と他方端部)に電極引き出し用のメタリコンを形成してコンデンサ素子25とする。その後、複数個のコンデンサ素子25を電極板26で結線して引き出し端子27を接続する。結線されたコンデンサ素子25をケース28に収納し、ケース28内に樹脂29を充填することで金属化フィルムコンデンサが得られる。
【0027】
以上のように、この実施形態によれば、フィルム幅方向において、比較的電極面積が小さな複数の小分割電極83、85から構成された小分割電極部が比較的電極面積が大きな複数の大分割電極84から構成された大分割電極部および非分割電極部81のいずれかに隣接して配置される。そして、複数の小分割電極83の各々がヒューズ93によって、大分割電極84に接続され、複数の小分割電極85の各々がヒューズ94、95によってそれぞれ、大分割電極84、非分割電極部81に接続される。このため、小分割電極83、85の端部は、小分割電極83、85よりも電極面積が大きな大分割電極84および非分割電極部81のいずれかにヒューズを介して接続されるので、小分割電極83、85で絶縁破壊が生じた場合でも、該小分割電極83、85に隣接する大分割電極84または非分割電極部81からヒューズを動作させるだけの十分な電流が流れ込み、ヒューズを確実に動作(ヒューズ部の蒸着電極を飛散)させ、絶縁破壊を起こした分割電極を分離することができる。
【0028】
また、この実施形態によれば、フィルム幅方向において第1小分割電極部と第2小分割電極部との間に大分割電極部を隣接して配置しているので、第1小分割電極部または第2小分割電極部で熱・電圧等による誘電体の劣化により、例えば小分割電極85が複数個に亘ってヒューズ動作した場合でも、電流経路が極端に乱れるのを防止することができる。
【0029】
図5は蒸着電極を流れる電流経路の概念図である。同図(a)はフィルム幅方向において第1小分割電極部と第2小分割電極部との間に非分割電極部を隣接して配置した場合を示し、同図(b)はフィルム幅方向において第1小分割電極部と第2小分割電極部との間に大分割電極部を隣接して配置した場合を示す。同図(a)の場合には、非分割電極部に蒸着電極を分割する絶縁スリットが存在しないため、小分割電極が複数個に亘ってヒューズ動作した場合に、電流経路が極端に乱れるおそれがある。その結果、コンデンサの誘電損失および等価直列抵抗が極端に上昇する可能性があった。これに対し、同図(b)に示すように、金属化フィルムの幅方向において第1小分割電極部と第2小分割電極部との間に大分割電極部を隣接して配置することにより、大分割電極部に形成された絶縁スリットが電流経路を規制し、電流経路が極端に乱れるのを防止することができる。
【0030】
また、金属化フィルムを2枚重ね合わせてなる一対の金属化フィルムにより金属化フィルムコンデンサを形成する際に、一対の金属化フィルムの一方に形成された大分割電極部および非分割電極部のすべての電極面が一対の金属化フィルムの他方に形成された小分割電極部に対向するように構成することが好ましい。この構成によれば、例えば図6に示すように、一対の金属化フィルム(図中、上層側に位置する金属化フィルム)の一方に形成された非分割電極部において金属化フィルムの自己回復機能(セルフヒーリング機能)を超えた絶縁破壊(×印の位置で誘電体が破壊)が生じた場合(破壊した誘電体部分を介して一対の金属化フィルム間で蒸着電極同士が導通した場合)でも、対向する一対の金属化フィルムの他方(図中、下層側に位置する金属化フィルム)に形成された小分割電極に隣接する該小分割電極よりも電極面積が大きな大分割電極または非分割電極部から電流が分割電極に流れ込む。このため、一対の金属化フィルムの他方に形成された小分割電極の端部に形成されたヒューズを確実に動作(ヒューズ部分の蒸着電極を飛散)させ、絶縁破壊が生じた非分割電極部を他の分割電極から切り離すことができる。これにより、一対の金属化フィルムの一方に形成された非分割電極部において絶縁破壊が生じた場合でも、当該非分割電極部の絶縁を回復させることができ、コンデンサとしての機能を維持することができる。
【0031】
さらに、上記のように2枚の金属化フィルムを重ね合わせる場合において、金属化フィルムのメタリコン接続部側に非分割電極部を配置することが好ましい。というのも、メタリコン接続部側(電極引き出し側)に分割電極部を配置すると、当該分割電極部で絶縁破壊(分割電極中の×印の位置で誘電体が破壊)が生じた場合、当該分割電極部と非分割電極とを接続するヒューズが動作すると、分割電極部からの電流通路が完全に遮断され、コンデンサとして機能しなくなる場合がある(図7)。これに対し、メタリコン接続部側に非分割電極部を配置することで、非分割電極部(一対の金属化フィルムの一方に形成された非分割電極部)において絶縁破壊が生じた場合でも、対向する金属化フィルム(一対の金属化フィルムのうちの他方の金属化フィルム、図6では下層側に配置された金属化フィルム)に形成された小分割電極と当該小分割電極に隣接する非分割電極部または大分割電極とを接続するヒューズが動作することにより、コンデンサとして機能する電極領域を残すことができる。
【0032】
<実施例>
以下に金属化フィルムコンデンサの実施例について図8を用いて説明する。図8において、第1小分割電極部を構成する小分割電極83の長手方向寸法83aを4.0mm、第2小分割電極部を構成する小分割電極85の長手方向寸法85aを5.0mm、大分割電極部を構成する大分割電極の長手方向寸法84aを16.0mmとした。一方、第1小分割電極部のフィルム幅方向寸法83b(絶縁マージン72との境界から絶縁スリット73と大分割電極84との境界まで)を12.5mm、大分割電極84のフィルム幅方向寸法84b(絶縁スリットを含まない電極寸法)を9.0mm、第2小分割電極部のフィルム幅方向寸法85b(大分割電極84と絶縁スリット74との境界から絶縁スリット75と非分割電極部81との境界まで)を12.5mm、非分割電極部81のフィルム幅方向寸法81bを14.0mmとした。また、ヒューズ93、94、95の寸法を0.2mmとした。なお、誘電体は2.5μmのポリプロピレンフィルムを用い、非メタリコン近傍蒸着電極膜抵抗値を10Ω/□、メタリコン接続部蒸着電極膜抵抗値を4Ω/□とした。
【0033】
上記のように形成された金属化フィルムをメタリコン接続部と絶縁マージンが対向するように2枚重ねて巻回し、小判形に成形した後、両端部に電極引き出しとしてメタリコンを形成してコンデンサ素子とした。さらに、図4に示すように5個のコンデンサ素子25を電極板26で結線して引き出し端子27を接続し、ケース28に収納してエポキシ樹脂29を充填、硬化して800μFの金属化フィルムコンデンサを作製した。
【0034】
<比較例>
次に本発明にかかる金属化フィルムコンデンサの実施例を比較例と対比しながら説明する。本発明にかかる金属化フィルムコンデンサの分割電極寸法、ヒューズの幅、蒸着電極膜抵抗値については上述したとおりである。
【0035】
次に金属化フィルムコンデンサの比較例について説明する。図9に比較例1にかかる金属化フィルムを示す。比較例1が実施例と異なる点は、第1小分割電極部と第2小分割電極部との間に大分割電極に替えて非分割電極部を配置している点である。その他の構成、寸法は実施例と同様である。
【0036】
また、図2−Aに示す金属化フィルムコンデンサを比較例2とした。図2−Aに示す金属化フィルムの分割電極7をフィルム長手方向に分割する絶縁スリット5のピッチを10.0mmとし、フィルム幅方向に分割する絶縁スリット6のピッチを18mmとし、分割電極7を接続しているヒューズ8、11の幅を0.2mmとした。誘電体は2.5μmのポリプロピレンフィルム、非メタリコン近傍蒸着電極膜抵抗値を10Ω/□、メタリコン接続部膜抵抗値を4Ω/□とした。
【0037】
上記比較例1、2に示す金属化フィルムをメタリコン接続部と絶縁マージンが対向するように2枚重ねて巻回し、小判型に成形した後、両端部に電極引き出しとしてメタリコンを形成してコンデンサ素子とした。さらに、図4に示すように5個の該コンデンサ素子25を電極板26で結線して引き出し端子27を接続し、ケース28に収納してエポキシ樹脂29を充填、硬化して800μFの金属化フィルムコンデンサを製作した。
【0038】
実施例および比較例1、2について試料を用意して、耐用性試験(温度110℃、750VDC、1000時間印加)を実施した。試験終了後、試料の静電容量変化率を測定した。その試験結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1の試験結果より、実施例、比較例1は試験終了時にショートが発生していないのに対して、比較例2では試験途中にショートが発生している。これは、実施例、比較例1にかかる金属化フィルムは誘電体のポリプロピレンフィルムに絶縁破壊が発生した場合、ヒューズを飛散分離させるだけの電流が大分割電極または非分割電極部から小分割電極に流れ込む。その結果、絶縁破壊を起こした分割電極を分離することができ、ショート発生を回避することができる。これに対して、比較例2にかかる金属化フィルムは絶縁破壊が発生した場合、分割電極と接続しているヒューズには該ヒューズを飛散分離させるだけの電流が流れず、ショートモードに至ると考えられる。
【0041】
続いて、良好な保安性能が得られた実施例および比較例1について、静電容量を初期値に対して−70〜−80%程度変化させたときの誘電正接を測定し、初期値に対する変化率を評価した。その結果を表2に示す。なお、静電容量を変化させるために、120℃の雰囲気温度中で試料に1500VDCを5分間印加した。
【0042】
【表2】

【0043】
表2の試験結果より明らかなように、誘電正接の変化率について、実施例が負の値であるのに対し、比較例1は正の値であり、かつ大きく上昇している。これは比較例1が誘電体の絶縁破壊により小分割電極が複数個に亘ってヒューズ動作し、電流経路が乱れた結果である。これに対し、実施例は比較例1に対して次のような有利な効果を奏する。すなわち、コンデンサの寿命末期及び過度な使用条件では、誘電正接が初期値に対して大きく上昇(コンデンサの抵抗成分が増加)することがある。この場合、コンデンサの自己発熱が大きくなり、耐電圧性能および保安性能の劣化を引き起こすおそれがある。したがって、誘電正接の変化率が著しく上昇しない実施例では、耐電圧性能および保安性能の劣化を引き起こす可能性を低減することができる。
【0044】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では、フィルム幅方向に非分割電極部、第1小分割電極部、大分割電極部、第2小分割電極部を配置した4段構成としているが、これに限定されず、フィルム幅方向に非分割電極部、小分割電極部、大分割電極部を配置した3段構成としてもよい。また、少なくとも、非分割電極部、小分割電極部および大分割電極部を備え、フィルム幅方向において、小分割電極部が大分割電極部および非分割電極部のいずれかに隣接して配置される限り、5段以上に電極部を配置してもよい。
【0045】
図10〜12は、本発明の金属化フィルムコンデンサを構成する金属化フィルムの変形形態を示す図である。図10に示す金属化フィルムでは、フィルム幅方向において絶縁マージン側からメタリコン接続部にかけて、第1小分割電極部、第1非分割電極部、第2非分割電極部、第2小分割電極部、大分割電極部の順に配置されている。図11に示す金属化フィルムでは、フィルム幅方向において絶縁マージン側からメタリコン接続部にかけて、第1小分割電極部、第1大分割電極部、第2大分割電極部、第2小分割電極部、非分割電極部の順に配置されている。図12に示す金属化フィルムでは、フィルム幅方向において絶縁マージン側からメタリコン接続部にかけて、第1小分割電極部、大分割電極部、第1非分割電極部、第2小分割電極部、第2非分割電極部の順に配置されている。この構成によれば、小分割電極で絶縁破壊が生じた場合でも、該小分割電極に隣接する大分割電極または非分割電極部からヒューズを動作させるだけの十分な電流が流れ込み、ヒューズを確実に動作(ヒューズ部の蒸着電極を飛散)させ、絶縁破壊を起こした分割電極を分離することができる。
【0046】
また、上記実施形態では、フィルム長手方向に配列した複数の小分割電極の各々の電極面積を同一としているが、相違させてもよい。同様に、フィルム長手方向に配列した大分割電極の各々の電極面積を同一としているが、相違させてもよい。要は、小分割電極に隣接する大分割電極の電極面積が該小分割電極の電極面積よりも大きければよい。この場合でも、大分割電極の電極面積は隣接する小分割電極の電極面積の2倍以上であることが好ましい。
【0047】
また、金属化フィルムを2枚重ね合わせる際には、同一の電極パターンを有する金属化フィルム同士を重ね合わせるほか、互いに異なる電極パターンを有する金属化フィルム同士を重ね合わせてもよい。この場合でも、一対の金属化フィルムの一方に形成された大分割電極部および非分割電極部のすべてが一対の金属化フィルムの他方に形成された小分割電極部に対向するように金属化フィルムを重ね合わせることが好ましい。これにより、一対の金属化フィルムの一方に形成された大分割電極および非分割電極部において絶縁破壊が生じた場合でも、当該大分割電極または非分割電極部の絶縁を回復することができ、コンデンサとしての機能を維持することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…ポリプロピレンフィルム
2…メタリコン近傍蒸着電極
3…非メタリコン近傍蒸着電極
4…絶縁マージン
5…幅方向絶縁スリット
6…長手方向絶縁スリット
7、7a、7b…分割電極
8、8a、8b…ヒューズ
9…メタリコン近傍長手方向絶縁スリット
10…メタリコン接続部
11…メタリコン近傍ヒューズ
12、12a、12b…絶縁マージン
13、13a…Y字形絶縁スリット
14、14a…ミュラー・リヤー形絶縁スリット
25…コンデンサ素子
26…電極板
27…引き出し端子
28…ケース
29…エポキシ樹脂
73、74、75…絶縁スリット
81…非分割電極
83、85…小分割電極
84…大分割電極
93、94、95…ヒューズ
83a…小分割電極83のフィルム長手方向寸法
84a…大分割電極84のフィルム長手方向寸法
85a…小分割電極85のフィルム長手方向寸法
81b…非分割電極部81のフィルム幅方向寸法
83b…小分割電極部83のフィルム幅方向寸法
84b…大分割電極部84のフィルム幅方向寸法
85b…小分割電極85のフィルム幅方向寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルムの少なくとも片面に蒸着電極を設けた金属化フィルムを巻回、または積層してコンデンサ素子を形成し、該コンデンサ素子の両端面に電極引き出し用のメタリコンを接続した金属化フィルムコンデンサにおいて、
前記金属化フィルムの長手方向に間隔をあけて配列した絶縁スリットにより前記蒸着電極が分割された、複数の小分割電極を長手方向に沿って形成する小分割電極部と、
前記金属化フィルムの長手方向に間隔をあけて配列した絶縁スリットにより前記蒸着電極が分割された、前記小分割電極よりも電極面積が大きな複数の大分割電極を長手方向に沿って形成する大分割電極部と、
前記蒸着電極が長手方向に連続した非分割電極部と
を備え、
前記金属化フィルムの幅方向において前記小分割電極部が前記大分割電極部および前記非分割電極部のいずれかに隣接して配置され、
前記複数の小分割電極の各々は、該小分割電極を長手方向に挟む絶縁スリット間に形成されたヒューズにて前記大分割電極または前記非分割電極部と接続されていることを特徴とする金属化フィルムコンデンサ。
【請求項2】
前記小分割電極部として第1小分割電極部と第2小分割電極部の2つの分割電極部を有し、
前記金属化フィルムの幅方向において前記第1小分割電極部と前記第2小分割電極部との間に前記大分割電極部が隣接して配置されている請求項1記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項3】
前記コンデンサ素子が前記金属化フィルムを2枚重ね合わせてなる一対の金属化フィルムにより形成される請求項1または2記載の金属化フィルムコンデンサであって、
前記一対の金属化フィルムの一方に形成された前記大分割電極部および前記非分割電極部のすべての電極面が前記一対の金属化フィルムの他方に形成された前記小分割電極部に対向する金属化フィルムコンデンサ。
【請求項4】
前記金属化フィルムのメタリコン接続部側に前記非分割電極部が配置されている請求項3記載の金属化フィルムコンデンサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−49414(P2011−49414A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197675(P2009−197675)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】