説明

金属化合物含有電極用触媒

【課題】 へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物の特性について研究し、当該金属化合物の特性を活かした新たな用途を提供する。
【解決手段】 欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物を含んでなることを特徴とする金属化合物含有電極用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物含有電極用触媒に関する。より詳しくは、蓄電池等の技術分野に適用される電極用触媒、特に、空気電池や燃料電池における空気極(空気電極)やリチウムイオン二次電池における正極等、これら蓄電池における電極を構成する電極材料として好適である金属化合物含有電極用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
金属原子と酸素原子とが配位した構造を有する金属化合物は、金属原子の種類やその配位状態によって異なる特性を有し、様々な用途への使用が期待されている。中でも、ヘテロ原子を中心とし、ポリ原子がヘテロ原子に酸素を介して配位した構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造を1つ以上有する金属化合物には、酸化反応や酸塩基反応等の有機反応用触媒として使用できることが知られているものがある。
【0003】
ヘテロポリオキソメタレート化合物には、ケギン型へテロポリオキソメタレートの構造中にあるべき原子が欠けている欠損構造を有し、その欠損構造部位に他の金属元素を有するもの、すなわち、ポリ原子が1種類以上の他の金属元素により置換された置換構造を有するものが知られ、置換構造の数により、一置換型、二置換型、三置換型のものがある。更に置換型ヘテロポリオキソメタレート化合物の中には、へテロポリオキソメタレート由来の構造部位を1つ有するものに加え、2つ以上有する多量化した構造のものも知られている。触媒活性の点では、ケギン型へテロポリオキソメタレートの構造中にあるべき原子が2つ欠けている欠損構造を有し、その欠損部位に1種類以上の金属元素を2個含有するもの、すなわちポリ原子が1種類以上の他の金属元素により2つ置換された二置換型ヘテロポリオキソメタレートが、一置換型へテロポリオキソメタレートや三置換型へテロポリオキソメタレートに比較して特異な酸化触媒活性を示すことがこれまでに報告されている(非特許文献1参照)。ヘテロ元素がケイ素であるヘテロポリオキソメタレートの二欠損構造部位にTiを導入した二置換型ポリオキソメタレートについては、該化合物が二欠損型ポリオキソメタレートに2個のTiが2個の酸素原子を介して二量化した構造を有していることがX線結晶構造解析により明らかにされている(非特許文献2参照)。
【0004】
また、二欠損型及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンと、バナジウム、タンタル、ニオブ、アンチモン、ビスマス、クロム、モリブデン、セレン、テルル、レニウム、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、白金、イリジウム、銀、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、ゲルマニウム、スズおよびランタノイドからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む触媒により、エチレン性二重結合を酸化剤により酸化させて、目的のエポキシ化合物を得ることができることが開示されている(特許文献1参照)。その他、二欠損型ポリオキソメタレートに、希土類、4族、5族、6族、7族、および9、10族のニッケル、パラジウム、イリジウム、白金からなる群から選ばれた元素を欠損部位に導入し、エチレン性二重結合を酸素により酸化させて、目的のエポキシ化合物を得ることができることが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第02/072257号公報
【特許文献2】特開2003−64007号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y.Nishiyama、Y.Nakagawa、N.Mizuno、「アンゲバンテ ヘミー インターナショナル エディション(Angew.Chem.Int.Ed.)」(独国)、2001年、第40巻、p.3639。
【非特許文献2】Y.Goto、K.Kamata、K.Yamaguchi、K.Uehara、S.Hikichi、N.Mizuno、「インオーガニック ケミストリー(Inorg.Chem.)」(米国)、2006年、第45巻、p.2347。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、様々な構造のヘテロポリオキソメタレート化合物が知られている。このようなヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物は、その構造に起因して様々な特性を発揮することが期待されており、また、このような金属化合物の特性を活かした新たな用途の開発にも期待が寄せられている。
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物の特性について研究し、当該金属化合物の特性を活かした新たな用途を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物の特性について研究し、当該金属化合物が酸化還元反応における触媒活性、中でも、高活性な酸素還元能を発揮することを見出した。そしてこのような特性に起因して、この化合物が蓄電池等における電極反応、特に正極活物質として空気中の酸素を用いる空気電池や燃料電池の電極用触媒として好適に用いることを見出し、本発明に到達したものである。
空気電池や燃料電池は、正極活物質が酸素であることから、電池内に正極活物質を充填する必要がないため、電池内における負極活物質の量を増やすことができる。このため、放電容量の大きい電池の製造が可能となることから、近年研究が進められている電池の一つである。空気電池や燃料電池では、例えばアルカリ性水溶液を電解液に使用した場合には、正極において酸素が還元されて水酸化物イオンとなるが、この還元を効率的にすすめることが空気電池や燃料電池の性能を向上させるうえで不可欠であるため、へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物が高活性な酸素還元能を発揮することを見出したことの技術的意義は大きく、本発明の金属化合物含有電極用触媒は、空気電池や燃料電池の更なる高性能化に寄与するものである。
【0009】
すなわち本発明は、欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物を含んでなる金属化合物含有電極用触媒である。
以下に本発明を詳述する。なお、以下において段落に分けて記載される本発明の好ましい形態の2つ又は3つ以上を組み合わせたものも本発明の好ましい形態である。
【0010】
本発明の金属化合物含有電極用触媒は、欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物を含んでなるものであるが、欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物を含んでなる限り、欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。また、欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物以外のその他の成分を含んでいてもよいが、その他の成分の含有割合が低いことが好ましい。金属化合物含有電極用触媒におけるその他の成分の割合は金属化合物含有電極用触媒全体の5質量%以下であることが好ましい。その他の成分の含有量が5質量%以下であると、本発明の金属化合物含有電極用触媒が電極用触媒としてより優れた性能を発揮することができる。その他の成分の含有量は、より好ましくは、3質量%以下であり、更に好ましくは、1質量%以下である。
その他の成分には、欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレート化合物を製造する過程で生じる副生成物や未反応の原料等が含まれる。なお、後述する導電性物質や有機化合物は、その他の成分には含まれない。
【0011】
上記欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位は、欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物に由来するものである限り、欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物の構造をそのまま保持しているものであってもよく、欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物の構造が変化したものであってもよい。また、欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位の数は、1つ以上であれば、特に制限されないが、欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を2つ以上有することもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。また、欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位の数は、5以下であることが好ましい。より好ましくは、4以下であり、更に好ましくは、3以下である。
なお、上記欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位とは、欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物の構造の一部であって、ヘテロ原子、ポリ原子及び酸素原子によって構成される構造部位である。
【0012】
上記金属化合物は、一欠損構造部位、二欠損構造部位及び三欠損構造部位からなる群より選択される少なくとも1つの欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有するものであることが好ましい。金属化合物は、欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を少なくとも1つ有するが、2つ以上有する場合、これら複数の欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位は、ポリ原子の欠損数が同じものであってもよく、異なるものであってもよいが、ポリ原子の欠損数が同じものであることが好ましい。
上記金属化合物が、二欠損構造部位、及び/又は、三欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有することは本発明の好適な実施形態の1つであり、本発明の金属化合物が、このような多核金属化合物であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0013】
上記金属化合物は、ヘテロ原子に対してポリ原子が酸素原子を介して配位した構造を有する欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有し、該ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子を含むことが好ましい。ヘテロ原子、ポリ原子、並びに、ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子は、それぞれ1種を含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。また、上記金属化合物において、ヘテロ原子に対してポリ原子が酸素原子を介して配位した構造を少なくとも1つ有していればよいが、ヘテロ原子に配位するポリ原子のすべてが酸素原子を介してヘテロ原子に配位した構造であることが好ましい。
【0014】
上記一欠損構造部位、二欠損構造部位及び三欠損構造部位からなる群より選択される少なくとも1つの欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物は、P、Si、Ge、As、Sb及びZnからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含むことが好ましい。より好ましくは、P、Si、Ge、Sb及びZnからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含むことであり、更に好ましくは、P、Si、Ge及びSbからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含むことである。
一欠損構造部位、二欠損構造部位及び三欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位のうち、本発明における金属化合物が有する構造部位としてより好ましいのは、二欠損構造部位及び三欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位である。
【0015】
上記金属化合物は、ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子として、La、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種の原子を有するものであることが好ましい。
上記金属化合物が、一欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する場合、ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子としては、La、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種の原子が好ましい。より好ましくは、Y、Nb、Cr、Mn、Re、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。更に好ましくは、Y、Mn、Re、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。特に好ましくは、Y、Mn、Re、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al及びCdである。
上記金属化合物が、二欠損構造部位又は三欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する場合、ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子としては、La、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種の原子が好ましい。
二欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する場合、より好ましくは、Y、Nb、Cr、Mn、Re、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。更に好ましくは、Y、Mn、Re、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。特に好ましくは、Y、Mn、Re、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al及びCdである。
三欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する場合、より好ましくは、Y、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。更に好ましくは、Y、Cr、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。特に好ましくは、Cr、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、Au及びAlからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。
【0016】
上記金属化合物の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明における金属化合物の好ましい形態である。
すなわち、前記金属化合物が、一欠損構造部位、二欠損構造部位及び三欠損構造部位からなる群より選択される少なくとも1つの欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有し、該欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物が一欠損構造部位を含む場合には、P、Si、Ge、As及びZnからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含み、前記金属原子は、La、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種の原子であり、該欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物が二欠損構造部位または三欠損構造部位を含む場合には、P、Si、Ge、As及びZnからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含み、前記金属原子は、La、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種の原子であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0017】
また、上記金属化合物が、二欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有し、該二欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物は、P、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含み、前記金属原子は、Y、Mn、Re、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0018】
更に、上記金属化合物が、三欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有し、該三欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物は、P、SiGe、As、Sb及びZnからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含み、前記金属原子は、Y、Cr、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0019】
本発明における金属化合物において、ポリ原子としては、周期律表第5及び6族の元素の群より選択される少なくとも1種の原子であることが好ましい。周期律表第5及び6族の元素としては、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wが挙げられる。これらの中でも、V、Mo、Wからなる群より選択される少なくとも1種の原子がより好ましい。
【0020】
本発明における金属化合物は、上記金属原子のうち少なくとも1つが、1つのヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位当たり1つのポリ原子とのみ1つの酸素原子を介して配位した構造(以下、構造aと記載)、上記金属原子のうち少なくとも1つに、ヘテロ原子及びポリ原子のいずれにも配位していない酸素原子が少なくとも2つ配位し、かつ、少なくとも1つの酸素原子が同一元素の2つの金属原子に配位し、更に、いずれの2つの金属原子間にも、1つの酸素原子を介して2つの金属原子が配位した構造は2つ以下である構造(以下、構造bと記載)、上記金属原子同士が少なくとも2つの他の原子を介してのみ配位している構造(以下、構造cと記載)、4つの上記金属原子が互いに少なくとも2つの他の金属原子と直接結合した構造(以下、構造dと記載)及び、上記金属原子のうち少なくとも1つが、1つのポリ原子とのみ1つの酸素原子を介して配位し、かつ、金属原子に配位した酸素原子のうち少なくとも2つが、金属原子以外の少なくとも1つの他の原子に配位した構造(以下、構造eと記載)から選択される少なくとも1つの構造を有するものであることが好ましい。なお、ここでいう金属原子とは、上記ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子のことである。
【0021】
上記構造aは、金属化合物を構成するヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子の中に、ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位との間に、(金属原子−酸素原子−ポリ原子)の配位結合を、1つのヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位当たり1つだけ有する金属原子が存在する構造である。
上記構造b中、「少なくとも1つの酸素原子が同一元素の2つの金属原子に配位し、」とは、M−O−M(Mは、ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる同一元素の金属原子を表す。)で表される構造が金属化合物中に少なくとも1つ存在することを意味する。また、「更に、いずれの2つの金属原子間にも、1つの酸素原子を介して2つの金属原子が配位した構造は2つ以下である構造」とは、金属化合物中に存在する、どの2つのヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子間にも、M−O−M(Mは、同一又は異なって、ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子を表す。)で表される構造が、3つ以上存在しない構造を意味する。
【0022】
上記構造cは、ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子同士が直接に、又は、酸素原子等の1つの原子のみを介して配位した構造が存在しないものである。
上記構造dは、下記一般式(1);
【0023】
【化1】

【0024】
(式中、Mは、同一又は異なって、ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子を表す。)で表される構造を有するものである。なお、上記一般式(1)で表される構造を構成する金属原子Mには、更に他の金属原子が結合していてもよい。
【0025】
上記構造eにおいて、「金属原子のうち少なくとも1つが、1つのポリ原子とのみ1つの酸素原子を介して配位し、」とは、ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子の中に、(金属原子−酸素原子−ポリ原子)の結合を1つだけ有するものが少なくとも1つ存在することを意味する。また、「金属原子に配位した酸素原子のうち少なくとも2つが、金属原子以外の少なくとも1つの他の原子に配位した構造」について、ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子以外の少なくとも1つの他の原子に配位した酸素原子(以下、O原子と表す。)は2つ以上あるが、2つ以上のO原子が同一の金属原子に配位していてもよく、全てのO原子がそれぞれ別の金属原子に配位していてもよい。また、O原子は、(金属原子−酸素原子−ポリ原子)の結合を有する金属原子に配位していてもよく、その他のヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子に配位していてもよい。より好ましくは、O原子が(金属原子−酸素原子−ポリ原子)の結合を有する金属原子に配位していることである。すなわち、金属化合物中に(O原子−金属原子−酸素原子−ポリ原子)の結合を有することが好ましく、この結合を2つ以上有することがより好ましい。
【0026】
上記金属化合物は、上記構造a〜eのうち少なくとも1つを含んでいることが好ましいが、これらのうち2つを含んでいてもよく、3つ以上を含んでいてもよい。
なお、以下において、本発明における金属化合物において、少なくとも2つのヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位の間に存在し、これらの構造部位を結合している部分を多核構造部位と記載する。
【0027】
上記金属化合物には、種々の構造のものが含まれ、その中には、金属原子と酸素原子とが配位した構造を有する金属化合物であって、多核構造部位として、上記化合物中の酸素原子のうち少なくとも2つが、それぞれ3つの金属原子(a)に配位しており、3つの金属原子(a)に配位した上記酸素原子のうちの2つと、金属原子(a)とによって形成される構造であって、2つの酸素原子の一方の酸素原子が、他方の酸素原子が配位している3つの金属原子(a)のうちの2つの金属原子(a)と配位した構造を少なくとも1つ有する金属化合物(以下、構造部位I含有化合物とも記載する)が含まれる。すなわち、多核構造部位として、下記一般式(2);
【0028】
【化2】

【0029】
(式中、Mは、同一又は異なって金属原子(a)を表し、Oは、酸素原子を表す。直線は、配位結合を表している。)で表される構造を少なくとも1つ有するものである。ここで、一般式(2)中、Mで表される金属原子(a)は、上述したヘテロ原子又はポリ原子と同一であっても異なっていてもよいが、少なくとも1つは、ヘテロ原子及びポリ原子と異なる金属原子であり、2つ以上がヘテロ原子及びポリ原子と異なる金属原子であることが好ましく、3つ以上がヘテロ原子及びポリ原子と異なる金属原子であることがより好ましく、4つ全てがヘテロ原子及びポリ原子と異なる金属原子であることが最も好ましい。
更に金属原子(a)は、酸素原子及び/又は他の原子と配位結合及び/又は結合していてもよく、結合する原子種、結合の数、その結合の種類は、特に限定されないが、結合する原子種は酸素原子であり、かつ、その結合の種類は配位結合であることが好ましい。
なお、本発明における金属化合物が、上述のような構造を少なくとも1つ有している場合、それ以外の構造については、特に限定されない。
【0030】
上記構造部位I含有化合物は、更に金属原子(a)とは異なる金属原子(b)を含んでいてもよい。上記金属原子(b)についても、上記金属原子(a)同様、単一の原子種からなっていてもよいし、複数種類の原子種を含んでいてもよい。
【0031】
また、本発明における金属化合物の中には、以下のような構造的特徴を有するものも含まれる。
金属原子(a)と酸素原子とが配位した構造を有する金属化合物であって、該金属化合物は、更に金属原子(a)とは異なる金属原子(b)を含み、該金属原子同士は、互いに1つ又は複数の金属原子と少なくとも1つ以上の酸素原子を介して配位し、該化合物中の金属原子(a)のうち少なくとも1つ以上が、1つの金属原子(b)とのみ1つの酸素原子を介して配位した構造を有する(以下、構造部位II含有化合物とも記載する)。
この金属化合物は、該金属化合物中において、金属原子同士が、互いに1つ又は複数の金属原子と少なくとも1つ以上の酸素原子を介して配位しているが、金属原子(a)のうち少なくとも1つは、1つの酸素原子を介して1つの金属原子(b)とのみ配位した構造を有しているものである。該1つの酸素原子を介して1つの金属原子(b)とのみ配位した構造を有している金属原子(a)は、1つの金属原子(b)とのみ1つの酸素原子を介して配位した構造を有するものである限り、金属原子(b)以外のいずれの原子と少なくとも1つ以上の酸素原子を介して配位していてもよく、また、配位している数も特に制限されない。
上記金属化合物は、金属原子(a)、金属原子(b)及び酸素原子を有する限り、その他の原子を有していてもよい。また、上記金属原子(a)及び金属原子(b)はそれぞれ、単一の原子種からなっていてもよいし、複数種類の原子種を含んでいてもよい。
ここで、金属原子(a)は、上記一般式(2)における金属原子(a)と同様であり、金属原子(b)は、ヘテロ原子又はポリ原子である。
【0032】
上記金属原子(a)が、ヘテロ原子及びポリ原子と異なる金属原子である場合、La、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。ヘテロ原子及びポリ原子と異なる金属原子として好ましいものは、上述したものと同様である。
【0033】
上記金属原子(b)は、周期律表第5、6、14、15及び16族の元素の群から選択される少なくとも1種以上の原子であることが好ましい。周期律表第5、6、14、15及び16族の元素としては、V、Nb、Ta、Mo、W、Si、Ge、Sn、P、Pb、As、Sb、Bi、S、Se、Teのいずれかが好ましい。これらの中でも、より好ましくは、V、Mo、W、Si、Ge、P、As、Sb、Sからなる群より選択される少なくとも1種以上の原子である。
【0034】
本発明における金属化合物の好適な実施形態の1つは、ヘテロ原子に対してポリ原子が酸素原子を介して配位した構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物であり、欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位に、上記ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子が元素(B)として導入された構造を有するものである。
本発明における金属化合物が上記構造部位I含有化合物や構造部位II含有化合物である場合、ヘテロ原子及びポリ原子は、上記金属原子(b)であり、上記ヘテロポリオキソメタレート化合物は、ヘテロ原子、ポリ原子が上記のいずれかの元素である欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位に、上記金属原子(a)が元素(B)として導入されたヘテロポリオキソメタレート化合物であることが好ましい。
【0035】
上記ヘテロポリオキソメタレート化合物においては、元素(B)がヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位に導入されることになる。欠損構造部位に導入されるとは、元素(B)が欠損構造部位に組み込まれる形態、すなわち、あるべきポリ原子が元素(B)により置換された形態であってもよいし、特に元素(B)のイオン半径が大きい場合には、欠損構造部位に元素(B)が組み込まれることなく、配位した形態であってもよい。好ましくは、元素(B)が欠損構造部位に組み込まれる形態である。
なお、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)は、一欠損型、二欠損型、三欠損型からなる群より選択される少なくとも1つの欠損構造部位を有するものである。これらの欠損構造とヘテロ原子、ポリ原子、並びに、ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子との好ましい組み合わせは上述したとおりである。
本発明における金属化合物としては、これらの中でも二欠損型構造及び/又は三欠損型構造を有するものが好ましい。
【0036】
上記ヘテロポリオキソメタレート化合物は、ケギン型、ドーソン型等特に限定はされないが、ケギン型ヘテロポリオキソメタレート化合物であることが好ましい。
また、元素(B)の配置としては、特に限定されることはない。二欠損構造部位含有ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオン及び/又は三欠損構造部位含有ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンを用いる場合には、元素(B)が互いに隣接していることがより好ましい。元素(B)が互いに隣接する異性体としては、α、β、γ、δ、ε体等が存在するが、α、β体は角を共有した異性体であり、γ、δ、ε体は稜を共有した異性体である。更に好ましくは、α体、β体及びγ体からなる群より選択される少なくとも1種の欠損構造部位含有ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンと元素(B)との組み合わせで得られる化合物である。すなわち、本発明において、欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物は、α体、β体及びγ体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物が、二欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物であって、かつ、γ体であること、及び/又は、三欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物であって、かつ、α体及び/又はβ体であることである。三欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物はA体でも良いし、B体でも良い。
このようなヘテロポリオキソメタレート化合物の構造は、X線結晶構造解析、元素分析、UV、XRDやFT−IR分光測定等から決定または推定される。
上述のように、本発明における金属化合物は、ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)がα体、β体及びγ体からなる群より選択される少なくとも一つのケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることもまた本発明の好適な実施形態の1つである。
【0037】
上記ヘテロポリオキソメタレート化合物は一般に塩を形成しており、該塩を製造する際のカチオン源としては、無機塩でも有機塩でも良いが、中でもアルカリ金属塩、アルカリ土類塩、遷移金属塩、プロトン塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩等が好適であり、例えば、上記へテロポリオキソメタレートアニオン(A)と上記元素(B)が共存する液に、該塩を粉体のまま、もしくは溶液として添加して、上記へテロポリオキソメタレート化合物の製造を行うことになる。上記へテロポリオキソメタレートアニオン(A)や上記元素(B)が元々持つカチオンを利用してもよい。
【0038】
上記ヘテロポリオキソメタレート化合物における元素(B)の合計含有量としては、該化合物中のヘテロ原子1個に対して1個を超えることが好ましい。より好ましくは、1.2個以上であり、更に好ましくは、1.5個以上である。また、8個以下であることが好ましい。より好ましくは7個以下であり、更に好ましくは、6個以下である。
上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)は、結晶構造中で、あるべきポリ原子が欠けている欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンであって、ヘテロ原子がP、Si、Ge、As、Sb及びZnからなる群より選択される少なくとも1種以上であり、かつ、ポリ原子がV、Nb、Mo及びWからなる群より選択される少なくとも1種以上のものであることが好ましい。このようなヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)は、ヘテロ原子に酸素を介してポリ原子が9〜11個配位したケギン型と呼ばれる結晶構造を有するものである。
【0039】
上記一欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物におけるヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)は、下記一般式(3);
【0040】
【化3】

【0041】
(式中、Tはヘテロ原子であるP、Si、Ge、As及びZn原子を表す。Zはポリ原子を表す。nとoは正数であり、oはTとZの価数によって決まる。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。
ここで、一般式(3)において、より好ましくは、ZがWであるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンである。更に好ましくは、TがP、Si、Ge、As、Znであり、ZがW及び/又はMoであるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンである。
すなわち、金属化合物は、ヘテロ原子が、リン、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、亜鉛であり、ポリ原子が、タングステン及び/又はモリブデンであるヘテロポリオキソメタレート化合物であることもまた本発明の好適な実施形態の1つである。
【0042】
更に、上記ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンは、その異性体構造がα体及び/又はβ体及び/又はγ体であるものが好ましい。より好ましくは、一般式(3)におけるTがP、Si、Ge、Sb、Znである[α−PW11397−及び/又は[β−PW11397−及び/又は[γ−PW11397−及び/又は[α−PMo11397−及び/又は[β−MoW11397−及び/又は[γ−PMo11397−、又は、[α−SiW11398−及び/又は[β−SiW11398−及び/又は[γ−SiW11398−及び/又は[α−SiMo11398−及び/又は[β−SiMo11398−及び/又は[γ−SiMo11398−、又は、[α−GeW11398−及び/又は[β−GeW11398−及び/又は[γ−GeW11398−及び/又は[α−GeMo11398−及び/又は[β−GeW11398−及び/又は[γ−GeMo11398−、又は、[α−SbW11397−及び/又は[β−SbW11397−及び/又は[γ−SbW11397−及び/又は[α−SbMo11397−及び/又は[β−SbMo11397−及び/又は[γ−SbMo11397−、又は、[α−ZnW113910−及び/又は[β−ZnW113911−及び/又は[γ−ZnW113910−及び/又は[α−ZnMo113911−及び/又は[β−ZnW113911−及び/又は[γ−ZnMo113911−である。
更に好ましくは、[α−PW11397−、[β−PW11397−、[γ−PW11397−、[α−PMo11397−、[α−SiW11398−、[β−SiW11398−、[γ−SiW11398−、[α−SiMo11398−、[α−GeW11398−、[β−GeW11398−、[γ−GeW11398−、[α−GeMo11398−、[α−SbW11397−、[β−SbW11397−、[γ−SbW11397−、[α−SbMo11397−、[α−ZnW113910−、[α−ZnMo113911−である。
【0043】
上記二欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物におけるヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)は、下記一般式(4);
【0044】
【化4】

【0045】
(式中、Qはヘテロ原子であるSi,P、もしくはGe原子を表す。Zはポリ原子を表す。jとkは正数であり、kはQとZの価数によって決まる。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。
ここで、一般式(4)において、より好ましくは、ZがWであるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンである。更に好ましくは、QがSiであり、ZがWであるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンである。
すなわち、金属化合物は、ヘテロ原子が、ケイ素であり、ポリ原子が、タングステンであるヘテロポリオキソメタレート化合物であることもまた本発明の好適な実施形態の1つである。
【0046】
更に、上記ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンは、その異性体構造がα体及び/又はβ体及び/又はγ体であるものが好ましい。より好ましくは、一般式(4)におけるQがP、Si又はGeである[α−PW10367−及び/又は[β−PW10367−及び/又は[γ−PW10367−、又は、[α−SiW10368−及び/又は[β−SiW10368−及び/又は[γ−SiW10368−、又は、[α−GeW10368−及び/又は[β−GeW10368−及び/又は[γ−GeW10368−である。
更に好ましくは、[γ−PW10367−、[γ−SiW10368−又は[γ−GeW10368−であり、最も好ましくは、Qがケイ素である[γ−SiW10368−である。
【0047】
上記三欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物におけるヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)は、下記一般式(5);
【0048】
【化5】

【0049】
(式中、Rはヘテロ原子であるP、Si、Ge、As、Sb、もしくはZn原子を表す。Zはポリ原子を表す。lとmは正数であり、mはRとZの価数によって決まる。)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。
ここで、一般式(5)において、より好ましくは、ZがWであるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンである。更に好ましくは、RがP、Si、Ge、Sb、Znであり、ZがW及び/又はMoであるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンである。
すなわち、金属化合物は、ヘテロ原子が、リン、ケイ素、ゲルマニウム、アンチモン、亜鉛であり、ポリ原子が、タングステン及び/又はモリブデンであるヘテロポリオキソメタレート化合物であることもまた本発明の好適な実施形態の1つである。
【0050】
更に、上記ケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンは、その異性体構造がα体及び/又はβ体であるものが好ましい。より好ましくは、一般式(5)におけるRがP、Si、Ge、Sb、Znである[α−PW349−及び/又は[β−PW349−及び/又は[α−PMo349−及び/又は[β−PMo349−、又は、[α−SiW3410−及び/又は[β−SiW3410−及び/又は[α−MoW3410−及び/又は[β−SiMo3410−、又は、[α−GeW3410−及び/又は[β−GeW3410−及び/又は[α−GeMo3410−及び/又は[β−GeMo3410−、又は、[α−SbW349−及び/又は[β−SbW349−及び/又は[α−SbMo349−及び/又は[β−SbMo349−、又は、[α−ZnW3412−及び/又は[β−ZnW3412−及び/又は[α−ZnMo3412−及び/又は[β−ZnMo3412−である。
更に好ましくは、[α−PW34]9−、[β−PW349−、[α−PMo349−、[β−PMo349−、[α−SiW3410−、[β−SiW3410−、[α−MoW3410−、[β−SiMo3410−、[α−SbW349−、[β−SbW349−、[α−SbMo349−[α−ZnW3412−、[α−ZnMo3412−であり、最も好ましくは、[α−PW34]9−、[α−PMo349−、[α−SiW3410−、[α−MoW3410−、[α−SbW349−、[α−SbMo349−、[α−ZnW34]12−である。上記三欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物におけるヘテロポリオキソメタレートアニオンはA体であってもよいし、B体であってもよい。
【0051】
上記ヘテロポリオキソメタレートアニオンと塩を形成する対カチオンとしては、例えば、プロトン;アルカリ金属カチオン;アルカリ土類カチオン;遷移金属カチオン;典型金属カチオン;第四級アンモニウム塩(アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリブチルメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、トリラウリルメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、セチルピリジニウム塩)や第四級ホスホニウム塩(テトラメチルホスホニウム塩、テトラエチルホスホニウム塩、テトラブチルホスホニウム塩、テトラフェニルホスホニウム塩、エチルトリフェニルホスホニウム塩、ベンジルトリフェニルホスホニウム塩)等の有機カチオンが好適である。第四級アルキルアンモニウム塩としては、アルキル基の炭素数が4〜48のものが好ましい。更に好ましくは、4〜40である。
【0052】
上記第四級アルキルアンモニウム塩としては、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリブチルメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、トリラウリルメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、セチルピリジニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリブチルメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩が好ましい。より好ましくは、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリブチルメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩である。特に好ましくは、テトラブチルアンモニウム塩である。
対カチオンは1種又は2種以上用いることができる。
【0053】
上述したとおり、元素(B)は、La、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種以上の原子であるが、上記ヘテロポリオキソメタレート化合物の用いる用途や、ヘテロポリオキソメタレート化合物の欠損構造の種類により適宜選択することができる。ヘテロポリオキソメタレート化合物が一欠損構造を有する場合、La、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種以上の原子が好ましく、より好ましくは、Y、Nb、Cr、Mn、Re、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。更に好ましくは、Y、Mn、Re、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種以上の原子である。特に好ましくは、Y、Mn、Re、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al及びCdからなる群より選択される少なくとも1種以上の原子である。
また、ヘテロポリオキソメタレート化合物が二欠損構造部位又は三欠損構造を有する場合、La、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種以上の原子が好ましい。
二欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する場合、より好ましくは、Y、Nb、Cr、Mn、Re、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。更に好ましくは、Y、Mn、Re、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。特に好ましくは、Y、Mn、Re、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al及びCdである。
三欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する場合、より好ましくは、Y、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。更に好ましくは、Y、Cr、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。特に好ましくは、Cr、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Ag、Au及びAlからなる群より選択される少なくとも1種の原子である。
また、元素(B)を導入したヘテロポリオキソメタレート化合物の混合物や、異種元素を導入したヘテロポリオキソメタレート化合物を合成する場合には、上記元素(B)より選ばれる元素を2種以上使用しても良い。
【0054】
上記元素(B)を導入する際に使用する形態としては塩の形態でも、酸化物等の形態でも良い。これらは無機物でも有機物でも良いが、中でも酸化物、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、プロトン塩、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、カルボキシラート化合物、アセチルアセトナート化合物等が好適である。
【0055】
本発明における金属化合物の合成に使用する上記元素(B)を含む化合物のモル量としては、ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)1モルに対して、1モルより多いことが好ましい。より好ましくは1.1モル以上であり、更に好ましくは、1.5モル以上である。また、8モル以下であることが好ましい。より好ましくは7モル以下であり、更に好ましくは、6モル以下である。
【0056】
本発明における金属化合物は、上述のような構造を有するものが好ましく、その製造方法は特に制限されないが、好適な製造方法としては、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)に上記元素(B)を導入する際に、水溶媒、有機溶媒、又は、有機溶媒を含む溶媒中で混合することが挙げられる。有機溶中又は有機溶媒を含む溶媒中で混合した場合に、水中で混合した場合とは異なって、金属原子と酸素原子とが特定の位置関係にある新規な構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物が得られる。
また、上記元素(B)の混合に加え、後述するように酸を添加してもよい。また、元素(B)を添加して、1つのヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)に元素(B)を導入した後、更にヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)を添加して金属化合物とする方法も用いることができる。
また、1つのヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)に元素(B)を導入して得られた化合物を有機溶媒中又は有機溶媒を含む溶媒に溶解した溶液に当該1つのヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)に元素(B)を導入して得られた化合物を更に添加し、そこに貧溶媒を添加することで金属化合物とする方法も用いることができる。なお、上記有機溶媒を含む溶媒は有機溶媒を含んでいる限り、その他の成分を含んでいてもよいが、上記有機溶媒を含む溶媒の好ましい形態の1つとして、有機溶媒と水との混合溶媒の形態が挙げられる。
【0057】
上記有機溶媒と水との混合溶媒における、有機溶媒と水との体積比としては、特に制限されないが、100:0〜30:70であることが好ましく、より好ましくは、100:0〜50:50である。更に好ましくは、100:0〜70:30である。
【0058】
上記有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、クロロホルム、ジクロロエタン、ヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、メタノール、エタノール、ブタノール、ジクロロエタン、ヘキサン、オクタン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好ましく、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、メタノール、エタノール、ブタノール、ジクロロエタン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンがより好ましい。特に好ましくは、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ブタノール、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、ジクロロエタン、ジエチルエーテル、メチルイソブチルケトンである。
【0059】
上記貧溶媒としては、ヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジクロロエタン、クロロホルム等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0060】
上記溶媒の体積は、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)1ミリモルに対して、0.1mL以上であることが好ましい。より好ましくは0.5mL以上であり、更に好ましくは1.0mL以上である。また、300mL以下であることが好ましい。より好ましくは250mL以下であり、更に好ましくは、200mL以下である。
【0061】
上記元素(B)の添加方法としては、ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)を含む溶液または混合液中に、元素(B)の塩又は化合物を、粉体のまま若しくは溶液として添加して行うことが好ましいが、(A)と同時に添加するか、又は先に溶媒中に溶解された状況で行っても良い。元素(B)の塩又は化合物の添加は、一括添加しても良いし、徐々に添加しても良い。へテロポリオキソメタレート化合物の製造は、一回の工程で行っても良いし、複数回に分けて行っても良い。例えば、(B)の所定量のうちの一部を残した状態でいったん生成物を取り出し、再度生成物を溶媒に再溶解した後、残りの(B)を添加する方法としてもよい。
【0062】
上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)と元素(B)との混合時間としては、1分以上であることが好ましい。1分未満の混合であると、元素(B)がヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損部位に完全に導入されない可能性がある。より好ましくは、10分以上であり、更に好ましくは、20分以上である。また、72時間以内であることが好ましい。より好ましくは、48時間以内であり、更に好ましくは、24時間以内である。
なお、混合時間が1分以上とは、ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)0.34ミリモルを使用した時に、主に均一系溶液中で元素(B)と溶媒中で共存、混合される時間を意味し、ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)を含む溶液又は混合液中に、元素(B)を含む塩又は化合物を添加し終えた時点から、上記無機塩や有機塩の添加等により、上記へテロポリオキソメタレート化合物を析出させる時点までの間の時間を指す。上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)の使用ミリモル数(0.34 × nミリモル)(nは正数)により、例えば0.68ミリモル使用時には2分間共存、混合させるといった具合に、混合時間を適宜n倍とする方が好ましい。混合中に不純物等の沈殿が発生した場合は、必要に応じて取り除くことができる。混合する時間の設定は、へテロポリオキソメタレート化合物の構造を決定する重要な要素の一つであり、元素(B)の種類によって上記の範囲内で適宜選定すればよい。へテロポリオキソメタレート化合物は、再結晶等により精製することが可能である。また、単離することなく系中で調製・保存・触媒や材料としての適用等を行うこともできる。
【0063】
上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)と元素(B)とを混合する際の温度としては、0℃以上150℃以下が好ましい。より好ましくは、5℃以上100℃以下であり、更に好ましくは、10℃以上90℃以下である。
【0064】
上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)に元素(B)を導入する際に、更に酸を添加してもよい。酸は、元素(B)を含む塩又は化合物を添加した後に添加してもよく、元素(B)を含む塩又は化合物とともに添加してもよいが、元素(B)を含む塩又は化合物を添加した後に添加することが好ましい。
酸としては、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸の他、p−トルエンスルホン酸、酢酸、安息香酸、マロン酸等の有機酸を用いることができる。
酸の添加量は、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)1モルに対して、0.0001モル以上であることが好ましい。より好ましくは、0.001モル以上である。
【0065】
本発明における金属化合物の一形態である、上記構造部位II含有化合物や、構造eを有する金属化合物は、上述のような構造を有するものであれば、その製造方法は特に制限されないが、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)に元素(B)を導入したヘテロポリオキソメタレート化合物を特定の有機溶媒存在下で再結晶する方法が好適である。上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)に元素(B)を導入したヘテロポリオキソメタレート化合物を特定の有機溶媒存在下で再結晶することで構造が変化し、上記構造部位II含有化合物や、構造eを有する金属化合物となる。
【0066】
上記有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレンカーボネート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレンカーボネートが好ましい。より好ましくは、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、アセトンである。
【0067】
上記有機溶媒を2種以上用いる場合、その比率は特に制限されないが、有機溶媒を2種用いる場合には、2種類の有機溶媒を99/1〜1/99の比率で用いることが好ましい。このような比率を外れると、2種類の溶媒を用いることの効果が充分に発揮されないおそれがある。より好ましくは、90/10〜10/90の比率である。
【0068】
上記再結晶は、プロトン供与性化合物を添加して行うことが好ましい。プロトン供与性化合物を添加することで、第二の形態のヘテロポリオキソメタレート化合物への構造変化を促進し、収率を高めることができる。プロトン供与性化合物としては、水、ブレンステッド酸、ルイス酸等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0069】
上記構造部位II含有化合物や、構造eを有する金属化合物は、元素(B)がLa、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種の原子であるものが好ましい。すなわち、上記有機溶媒中での再結晶で構造変化させて構造部位II含有化合物や、構造eを有する金属化合物を得るための、元素(B)を導入したヘテロポリオキソメタレート化合物としては、元素(B)がLa、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種の原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であるものが好ましい。金属化合物がこのような元素(B)を有するものであると、有機溶媒中での再結晶により高い収率で第二の形態の金属化合物を得ることができる。より好ましくは、元素(B)がY、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子であるものであり、更に好ましくは、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、及びInからなる群より選択される少なくとも1種の原子であるものであり、特に好ましくは、元素(B)がCr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、及びInであるものであり、最も好ましくは、元素(B)がCoであるものである。
【0070】
本発明の金属化合物含有電極用触媒は、導電性物質とともに用いられることが好ましく、金属化合物含有電極用触媒と導電性物質とを含む電極用触媒含有組成物もまた、本発明の1つである。
金属化合物含有電極用触媒を導電性物質とともに用いる形態とは、(1)それらがそれぞれ単体で混在している混合状態、(2)分子間力等により近接又は接触した状態、(3)共有結合等により結合した状態のいずれかの状態を意味する。該(2)及び(3)の状態においては、2種以上の物質どうしが吸着又は結合して複合体を形成しているともいえる。少なくとも、2種以上の物質が近接及び/又は接触して分散した状態にあること、例えば、nmのオーダーで近接及び/又は接触して存在し、分散した状態にあること、また、共有結合等により結合した状態にあることが好ましい。金属化合物含有電極用触媒が担体としての導電性物質に担持した状態も、金属化合物含有電極用触媒を導電性物質とともに用いる形態に含まれ、本発明の好ましい形態の1つである。
【0071】
上記電極用触媒含有組成物は、金属化合物含有電極用触媒と導電性物質との合計を100質量%とすると、(導電性物質の質量%)/(多核金属化合物含有電極用触媒の質量%)=50〜99.9/0.01〜50であることが好ましい。このような範囲内で設定することにより、例えば、導電性物質の導電助剤としての作用、導電性物質と金属化合物含有電極用触媒との相互作用、金属化合物含有電極用触媒の触媒活性が適切にバランスされ、電極用触媒としての性能を充分に高めることができる。より好ましくは、(導電性物質の質量%)/(金属化合物含有電極用触媒の質量%)=70〜99/1〜30であり、更に好ましくは、80〜90/10〜20である。
【0072】
本発明の金属化合物含有電極用触媒は、蓄電池等の電極材料、特に、空気電池や燃料電池における正極としての空気極(空気電極)等を構成する電極材料として好適である。電極材料とは、電極活物質、電極触媒、導電助剤、電極そのものを構成する材料を総称したものである。
中でも、上記金属化合物含有電極用触媒は、空気電極用触媒として用いられることが好適である。この場合、例えば、上記導電性物質とともに用いる形態では、実質的には、電極用触媒及び/又は導電助剤として用いられることになる。また、上記空気極において用いられる場合は、空気電極用触媒として、また、空気電極用導電助剤として用いることが好適である。
【0073】
本発明の金属化合物含有電極用触媒が適用される電極としては、正極であることが好適である。この場合、上記電極材料としては、電池の正極を形成する材料である正極合剤となる。
上記電極材料、好ましくは正極合剤としては、本発明の金属化合物含有電極用触媒を必須成分とし、導電助剤、有機化合物を含んで構成されることが好ましく、その他の成分を必要に応じて含んでいてもよい。
なお、上記空気極においては、酸素が正極活物質となるが、本発明の金属化合物含有電極用触媒を必須成分とすれば、酸素の還元や水の酸化が可能として知られている、ぺロブスカイト化合物、コバルト含有化合物、鉄含有化合物、銅含有化合物、マンガン含有化合物、白金含有化合物等の本発明の金属化合物により構成される空気極とすることが好適である。
上記電極材料、好ましくは正極合剤を粒子状の形態とする場合、平均粒子径が1000μm以下である粒子とすることが好ましい。
【0074】
上記平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、粒度分布測定装置等により測定することができる。粒子の形状としては、微粉状、粉状、粒状、顆粒状、鱗片状、多面体状等が挙げられる。なお、平均粒子径が上述のような粒子は、例えば、粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後乾固する方法や、該粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法のほか、粒子を製造する段階で調製条件を最適化し、所望の粒径の(ナノ)粒子を得る方法等により製造することが可能である。ここで平均粒子径とは、粒子群が径の不均一な多くの粒子から構成される場合に、その粒子群を代表させる粒子径を考えるとき、その粒子径を平均粒子径とする。粒子径は一般的な決められたルールに従って測定した粒子の長さをそのまま粒子径とするが、例えば、(i)顕微鏡観察法の場合には、1個の粒子について長軸径、短軸径、定方向径等二つ以上の長さを測定し、その平均値を粒子径とする。少なくとも100個の粒子に対して測定を行うことが好ましい。(ii)画像解析法、遮光法、コールター法の場合には、粒子の大きさとして直接に測定された量(投影面積、体積)を幾何学公式により、規則的な形状(例:円、球や立方体)の粒子に換算してその粒子径(相当径)とする。(iii)沈降法、レーザー回折散乱法の場合には、特定の粒子形状と特定の物理的な条件を仮定したとき導かれる物理学的法則(例:Mie理論)を用いて測定量を粒子径(有効径)として算出する。(iv)動的光散乱法の場合には、液体中の粒子がブラウン運動により拡散する速度(拡散係数)を計測することで粒子径を算出する。
【0075】
上記電極材料から電極を形成する工程としては、次のように実施することが好ましい。
先ず、電極材料を必要により水及び/又は有機溶媒と、本発明の金属化合物含有電極用触媒、バインダーや有機化合物と共に混練し、ペースト状とする。次に、得られたペースト混合物をアルミ箔等の金属箔上に、できる限り膜厚が一定になるように塗工する。塗工後、0〜250℃で乾燥する。乾燥温度としてより好ましくは、15〜200℃である。乾燥は真空乾燥で行ってもよい。また、乾燥後に0.01〜20tの圧力で、ロールプレス機等によりプレスを行うことが好ましい。プレスする圧力としてより好ましくは、0.1〜15tの圧力である。
上記電極、好ましくは正極電極の膜厚は、例えば、1nm〜2000μmであることが好ましい。より好ましくは、10nm〜1500μmであり、更に好ましくは、100nm〜1000μmである。
【0076】
上記電極材料の調製や電極の調製における混合、混練には、ミキサー、ブレンダー、ニーダー、ビーズミル、ボールミル等を使用することができる。混合の際、水や、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン等の有機溶剤を加えてもよい。混合した後、粒子を所望の粒子径に揃えるために、混合、混練操作の前後で上記したようにふるいにかける等の操作を行ってもよい。
【0077】
上記電極材料、好ましくは正極合剤を用いて構成される蓄電池もまた、本発明の好ましい実施形態の一つである。上記蓄電池としては、正極電極、負極電極及び電解液(又は固体電解質)、好ましくは、セパレータを構成要素とするものである。なお、蓄電池は本発明の好ましい実施形態の一つであって、一次電池、充放電が可能な二次電池(蓄電池)、メカニカルチャージの利用、正極及び負極とは別の第3極の利用等、いずれの形態であってもよい。
【0078】
以下では、上記電極材料において用いることができる、導電助剤、有機化合物、蓄電池において用いることができる、電解液、セパレータ等について説明する。
上記導電助剤としては、例えば、導電性カーボンの1種又は2種以上を用いることができる。導電性カーボンとしては、黒鉛、アモルファス炭素、カーボンナノフォーム、活性炭、グラフェン、ナノグラフェン、グラフェンナノリボン、フラーレン、カーボンブラック、ファイバー状カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、炭素繊維、気相成長炭素繊維等が挙げられる。これらの中でも、グラフェン、ファイバー状カーボン、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、金属亜鉛が好ましい。より好ましくは、グラフェン、ファイバー状カーボン、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、炭素繊維、気相成長炭素繊維である。
このような導電助剤の具体例としては、Vulcan XC72(Cabot社製)等を挙げることができる。
上記導電助剤は、正極における導電性を向上させる作用を有するものである。
【0079】
上記導電助剤の配合量としては、電極材料、好ましくは正極合剤(導電助剤を含む、以下同様)を100質量%とすると、0.001〜90質量%であることが好ましい。導電助剤の配合量がこのような範囲であると、本発明の金属化合物含有電極用触媒を含む電極材料から形成される電極がより良好な電池性能を発揮することとなる。より好ましくは、0.01〜70質量%であり、更に好ましくは、0.05〜50質量%である。
【0080】
上記有機化合物としては、有機化合物の他、有機化合物塩を例示することができ、1種又は2種以上用いることができる。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸含有ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸塩含有ポリマー、ポリアクリロニトリル含有ポリマー、ポリアクリルアミド含有ポリマー、ポリ塩化ビニル含有ポリマー、ポリビニルアルコール含有ポリマー、ポリエチレンオキシド含有ポリマー、ポリプロピレンオキシド含有ポリマー、ポリブテンオキシド含有ポリマー、ポリエチレン含有ポリマー、ポリプロピレン含有ポリマー、ポリブテン含有ポリマー、ポリヘキセン含有ポリマー、ポリオクテン含有ポリマー、ポリブタジエン含有ポリマー、ポリイソプレン含有ポリマー、アナルゲン、ベンゼン、トリヒドロキシベンゼン、トルエン、ピペロンアルデヒド、カーボワックス、カルバゾール、セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリアセチレン含有ポリマー、ポリエチレンイミン含有ポリマー、ポリアミド含有ポリマー、ポリスチレン含有ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン含有ポリマー、ポリフッ化ビニリデン含有ポリマー、ポリペンタフルオロエチレン含有ポリマー、ポリ(無水)マレイン酸含有ポリマー、ポリマレイン酸塩含有ポリマー、ポリ(無水)イタコン酸含有ポリマー、ポリイタコン酸塩含有ポリマー、陽イオン・陰イオン交換膜等に使用されるイオン交換性化合物、環化重合体、スルホン酸塩、スルホン酸塩含有ポリマー、第四級アンモニウム塩、第四級アンモニウム塩含有ポリマー、第四級ホスホニウム塩、第四級ホスホニウム塩アンモニウムポリマー等が挙げられる。
【0081】
なお、上記有機化合物、有機化合物塩がポリマーの場合には、ポリマーの構成単位に該当するモノマーより、ラジカル重合、ラジカル(交互)共重合、アニオン重合、アニオン(交互)共重合、カチオン重合、カチオン(交互)共重合等により得ることができる。
上記有機化合物、有機化合物塩は、粒子同士や粒子と集電体とを結着させる結着剤として働くこともできる。上記有機化合物、有機化合物塩として好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸塩含有ポリマー、セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン含有ポリマー、ポリペンタフルオロエチレン含有ポリマー、ポリマレイン酸塩含有ポリマー、ポリイタコン酸塩含有ポリマー、イオン交換膜性重合体、スルホン酸塩含有ポリマー、第四級アンモニウム塩含有ポリマー、第四級ホスホニウム塩ポリマーである。
【0082】
上記有機化合物、有機化合物塩の配合量、好ましくはポリマーの配合量としては、電極材料、好ましくは正極合剤を100質量%とすると、0.01〜50質量%であることが好ましい。これら有機化合物、有機化合物塩、好ましくはポリマーの配合量がこのような範囲であると、本発明の金属化合物含有電極用触媒を含む電極材料から形成される電極が、より良好な電池性能を発揮することとなる。より好ましくは、0.01〜45質量%であり、更に好ましくは、0.1〜40質量%である。上記有機化合物は、結着剤として働くことも可能である。結着剤を含むことで電極材料を構成する本発明の金属化合物含有電極用触媒、導電助剤等を固定化することができ、電池のサイクル特性を向上させることができる。結着剤としては、特にポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有樹脂や、セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を用いることが好ましい。
【0083】
上記電極材料は、本発明の金属化合物含有電極用触媒、導電助剤、有機化合物以外の成分を含む場合、その配合量は、電極材料、好ましくは正極合剤を100質量%とすると、0.01〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.05〜7質量%であり、更に好ましくは、0.1〜5質量%である。
【0084】
上記電解液としては、蓄電池の電解液として通常用いられるものを用いることができ、特に制限されないが、例えば、有機溶剤系電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、フッ素基含有カーボネート、フッ素基含有エーテル、イオン性液体、ゲル化合物含有電解液、ポリマー含有電解液等が好ましく、水系電解液としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等のアルカリ性水溶液や硫酸水溶液等の酸性水溶液が挙げられる。電解液は、上記1種又は2種以上使用してもよい。無機固体電解質や、ナフィオン、ハイドロタルサイト、第四級アンモニウム塩含有ポリマーに代表される陽イオン・陰イオン交換膜等に使用されるイオン交換性化合物を使用しても良い。
【0085】
上記電解液の濃度は、電解質の濃度が0.01〜15mol/Lであることが好ましい。このような濃度の電解液を用いることで、良好な電池性能を発揮することができる。より好ましくは、0.1〜12mol/Lである。電解質としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOF)、LiN(SOCF、LiN(SO、Li(BC)、LiF、LiB(CN)等が挙げられる。また、電解液は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば正極や負極の保護皮膜を形成する材料や、プロピレンカーボネートを電解液に使用した場合に、プロピレンカーボネートの黒鉛への挿入を抑制する材料等が挙げられ、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、臭化エチレンカーボネート、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、クラウンエーテル類、ホウ素含有アニオンレセプター類、アルミニウム含有アニオンレセプター等が挙げられる。添加剤は、上記1種又は2種以上使用してもよい。
【0086】
上記蓄電池におけるセパレータとは、正極と負極を隔離し、電解液を保持して正極と負極との間のイオン伝導性を確保する部材である。セパレータとして特に制限はないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、セロファン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ビニロン、ポリ(メタ)アクリル酸等のマイクロポアを有する高分子量体やそれら共重合体、ゲル化合物、イオン交換膜性重合体やそれら共重合体、環化重合体やそれら共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸塩含有ポリマーやそれら共重合体、スルホン酸塩含有ポリマーやそれら共重合体、第四級アンモニウム塩含有ポリマーやそれら共重合体、第四級ホスホニウム塩ポリマーやそれら共重合体等が挙げられる。
【0087】
本発明の金属化合物含有電極用触媒を含む電極材料から正極を形成する場合、上記蓄電池における負極としては、黒鉛;アモルファス炭素;カーボンナノフォーム;活性炭、グラフェン;ナノグラフェン;グラフェンナノリボン;フラーレン;カーボンブラック;ファイバー状カーボン;カーボンナノチューブ;カーボンナノホーン;ケッチェンブラック;アセチレンブラック;炭素繊維;気相成長炭素繊維等の炭素材料、酸化等の表面処理を施した炭素材料、ホウ素等の元素を導入した炭素材料、リチウム金属、Na;Mg;Ca;Fe;Ti;Al;Si;Ge;Sn;Pb;As;Sb;Bi;Ag;Au;Zn;Cd;Hg等の金属単体やこれらの金属とリチウムとの合金化合物等の合金化合物、SiO;CoO;Li4/3Ti5/3等のこれらの金属を含む酸化物、MoS;MnS等のこれらの金属を含む硫化物、Li2.6Co0.4等のこれらの金属を含む窒化物、NiP等のこれらの金属を含むリン化合物、これらの金属を含む珪素含有化合物等が挙げられる。
【0088】
本発明の金属化合物含有電極用触媒は、上記のように蓄電池における電極材料の1つとして好適なものであり、導伝性物質を用いる蓄電池等の技術分野に適用される複合体、特に、空気電池や燃料電池における空気極やリチウムイオン二次電池における正極等、これら蓄電池における電極を構成する電極材料として優れた性能を発揮させることができるものである。
【発明の効果】
【0089】
本発明の金属化合物含有電極用触媒は、上述の構成よりなり、様々な特性を発揮することが期待され、またその特性を活かした新たな用途の開発に期待が寄せられている欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物の新たな用途を提供するものであり、蓄電池、特に空気電池や燃料電池の性能向上に寄与する電極用触媒である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】合成例1で合成されたTBA−Zn4の、陽イオンコールドスプレーイオン化質量分析によるスペクトル図である。図中に挿入されているスペクトル図は、[TBASiZn2074の計算により算出されるパターンを表している。*は、[TBASiZn2074(HO)に帰属されるピークを表している。
【図2】(a)合成例1で合成されたTBA−Zn4のX線結晶構造解析図である。(b)合成例1で合成されたTBA−Zn4のうちの、多核構造部分における亜鉛原子と亜鉛原子に配位している酸素原子との位置関係を表した模式図である。
【図3】合成例1で合成されたTBA−Zn4の、(a)固体29Si NMRスペクトル図である。(MASレート:5kHz)(b)液体29Si NMRスペクトル図である。(溶媒:[D]アセトンと水(10:1、v/v)の混合溶媒)
【図4】合成例1で合成されたTBA−Zn4の、液体183W NMRスペクトル図である。(溶媒:[D]アセトンと水(10:1、v/v)の混合溶媒)
【図5】合成例1で合成されたTBA−Zn4の、赤外分光分析によるスペクトル図である。
【図6】合成例2で合成されたTBA−Co4のX線結晶構造解析図である。
【図7】合成例2で合成されたTBA−Co4の多核構造部分におけるコバルト原子とコバルト原子に配位している酸素原子との位置関係を表した模式図である。相対的に小さい球がコバルト元素を、相対的に大きい球が酸素原子を表している。
【図8】TBA−SiW10、TBA−Zn4及びTBA−Co4のIRスペクトルを表す図である。
【図9】合成例3で合成されたTBA−Co−outのX線結晶構造解析図である。
【図10】TBA−SiW10及びTBA−Co−outのIRスペクトルを表す図である。
【図11】DMFに溶解させたTBA−Co4溶液のUV−visスペクトルの経時変化を表す図である。
【図12】合成例4で合成されたCd−POMのX線結晶構造解析図である。
【図13】合成例7で合成されたTBM−Pd−IIのX線結晶構造解析図である。
【図14】合成例8で合成されたTBM−Pd−IIIのX線結晶構造解析図である。
【図15】合成例9で合成されたY−POMのX線結晶構造解析図である。
【図16】合成例9で合成されたY−POMの多核構造部分におけるイットリウム原子とイットリウム原子に配位している酸素原子との位置関係を表した模式図である。
【図17】合成例10で合成されたAg−POMのX線結晶構造解析図である。
【図18】合成例11で合成されたTBA−Ag6のX線結晶構造解析図である。
【図19】合成例12で合成されたTBA−Ag4のX線結晶構造解析図である。図19中、Lは、ジメチルスルホキシド(DMSO)を表す。
【図20】合成例14で合成されたtri−Al2の結晶構造の単位構造を示した図である。
【図21】合成例14で合成されたtri−Al2の結晶構造を示した図である。
【図22】合成例14で合成されたtri−Al2の結晶構造単位の3次元配列を示した図である。3つのヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位をつなぐ多核構造部位1〜3を有する面が順に階層となっていることを示した図である。
【図23】TBA−Ag6と10%Ag/XC72の酸素還元電流の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0091】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味するものとする。
【0092】
各種測定及び評価は以下の方法により行った。
X線結晶構造解析は、SHELXH−97を使用した。IRの測定はJASCO FT/IR−460を用いて行った。X線の測定はRIGAKU AFC−10 Saturn 70 CCD Detectorを用いて行った。液体NMR測定は、JEOL JNM−EX−270を用いて行った。
H NMRは、270MHzで測定し、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準として用いた。29Si NMRは、53.5MHzで測定し、テトラメチルシラン(TMS)を外部標準として用いた。183W NMRは、11.2MHzで測定し、タングステン酸ナトリウム(NaWO)を外部標準として用いた。固体NMR測定は、CHEMAGNETICS CMX−300を用いて59.7MHz、繰り返し時間(Repetition Time):300秒で行った。テトラメチルシラン(TMS)を外部標準として用いた。収率の測定にはSHIMADZU ガスクロマトグラフ GC−2014を使用した。コールドスプレーイオン化質量分析は、JEOL JMS−T100CSを用いて行った。
【0093】
(原料合成例1)TBA[γ−SiW1036]・2HO(「TBA−SiW10」ともいう。)の合成
ケイ素中心二欠損型ケギン型ポリオキソメタレートTBA[γ−SiW1036]・2HO(「TBA−SiW10」ともいう。)は、以下の文献に従い合成した。
K.Kamata、K.Yonehara、Y.Sumida、K.Yamaguchi、S.Hikichi、N.Mizuno、「サイエンス(Science)」(米国)、2003年、第300巻、p.964。
【0094】
(合成例1)TBA[{Zn(OH)(μ−OH)}{Zn(OH}{γ−HSiW1036]・9HO(「TBA−Zn4」ともいう。)の合成
TBA−SiW10(0.72mmol)のアセトン溶液 50mLに、2当量の亜鉛アセチルアセトナート(1.44mmol)と、8.5当量の水(6.12mmol)とを加え、室温(約20℃)で10分間攪拌した。不溶物をろ過により除去した後、その溶液をジエチルエーテル 50mLに加えた。その結果生じる白い粉末状のTBA−Zn4をろ過により回収し、乾燥させた。収率は、原料であるTBA−SiW10の90%であった。X線結晶構造解析のために、更に1,2−ジクロロエタンとジエチルエーテルとの混合溶媒(4:1、v/v)を用いて再結晶させ、無色の結晶を得た。元素分析の結果は、C:20.80、H:4.39、N:1.52、Si:0.76、W:49.74、Zn:3.54(計算値)、C:20.72、H:4.36、N:2.10、Si:0.75、W:50.86、Zn:3.47(実測値)であった。各種構造解析の結果を図1〜5及び表1〜3に示した。なお、表2においては、以下の文献に記載されている化合物と結合の長さ及び角度の比較を行っている。
[Zn(μ−OH)(fa)(4,4´−bpy)]:J.Tao、M.−L.Tong、J.−X.Shi、X.−M.Chen、S.W.Ng、「ケミカル コミュニケーションズ(Chemical Communications)」(英国)、2000年、第20巻、p.2043−2044。
[Zn(μ−OH)(OCPh)(pko)]:M.Alexiou、E.Katsoulakou、C.Dendrinou−Samara、C.P.Raptopoulou、V.Psycharis、E.Manessi−Zoupa、S.P.Perlepes、D.P.Kessissoglou、「ヨーロピアン ジャーナル オブ インオーガニック ケミストリー(European Journal of Inorganic Chemistry)」(独国)、2005年、第10巻、p.1964−1978。
得られたTBA−Zn4は、本発明における金属化合物であって、上述した構造a及び構造bを有する化合物である。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
(合成例2)TBA[{Co(OH(μ−OH)Co(OH}{γ−HSiW1036](「TBA−Co4」ともいう。)の合成
TBA−SiW10(0.29mmol)をアセトン20mLに添加した。ここに、コバルトアセチルアセトナート(0.058mmol)を加え、室温(約20℃)で10分間攪拌した。不溶物をろ過により除去した後、1Mの硝酸又はパラトルエンスルホン酸水溶液 0.29mL(0.029mmol)を添加して30分間攪拌し、ろ過して静置すると結晶が析出した。収率は、原料であるTBA−SiW10の26%であった。元素分析の結果は、C:16.98、H:3.56、N:1.24(計算値)、C:17.93、H:3.54、N:1.21(実測値)であった。各種構造解析の結果を図6〜8、表4、5に示した。
得られたTBA−Co4は、本発明における金属化合物であって、上述した構造a及び構造bを有する化合物である。
【0099】
(合成例3)[SiW1034{Co(DMF)}](「TBA−Co−out」ともいう。)の合成
上記TBA−Co4を1.1g(0.16mmol)DMF20mLに溶解させ、ここに1Mの硝酸水溶液0.96mLを加えることにより、沈殿が生成した。収率は、原料であるTBA−Co4の26%であった86%であった。得られた沈殿を水に溶解させ、アセトン/DMF=1/1(v/v)を加えると、桃色棒状結晶が得られた。各種構造解析の結果を図9、10及び表4、6に示した。
また、上記TBA−Co4をDMFに溶解して0.59mMの溶液を調製し、UV−visスペクトルの経時変化を測定したところ、時間の経過とともにスペクトルに変化がみられた。この結果から、TBA−Co4の構造がDMF溶液中で変化していることが示唆される。UV−visスペクトルの測定結果を図11に示す。
得られたTBA−Co−outは、本発明の金属化合物であって、上述した構造eを有する化合物である。
【0100】
【表4】

【0101】
【表5】

【0102】
【表6】

【0103】
(合成例4)TBA(SiW1036)Cd(HO)(「Cd−POM」ともいう。)の合成
TBA−SiW10を2.0g(0.59mmol)取り、アセトン39mLを加えた。攪拌しながら純水1mLを加え、その後Cd(OAc)・(HO)を312mg(1.2mmol)加えた。室温で10分間攪拌し、白色沈殿が生じ始めた後メンブラン濾過を行い、濾液を室温で一晩静置することにより白色結晶を得た。元素分析の結果は、C:21.58、H:4.24、N:1.57(計算値)、C:21.16、H:4.08、N:1.50(実測値)であった。各種構造解析の結果を図12及び表7に示した。
得られたCd−POMは、本発明における金属化合物であって、上述した構造a及び構造bを有する化合物である。
【0104】
【表7】

【0105】
(合成例5)[(n−CN][SiW1036Pd(OAc)](「TBA−Pd−I」ともいう。)の合成
TBA−SiW10 2.0gを取り、アセトン39mLを加えた。これを攪拌しながら純水1mLを加え、パラジウムアセテート 0.26g(1.2mmol)を加えた。室温で2時間攪拌したあとジエチルエーテル160mLを加えクリーム色沈殿を得た。沈殿を回収しジエチルエーテル240mLで洗浄後、真空乾燥を30分行いクリーム色粉末(TBA−I)を得た。収量は2.1g(収率95%)であった。
元素分析の結果は、C:21.81、H:4.09、N:1.50、Si:0.75、Pd:5.68、W:49.09(計算値)、C:21.16、H:4.08、N:1.50、Si:0.78、Pd:5.64、W:50.04(実測値)であった。
【0106】
(合成例6)[Me(n−CN][SiW1036Pd(OAc)](「TBM−Pd−I」ともいう。)の合成
TBM−SiW10 2.0g (TBM = [(n−CMeN])を用いてTBA−Iと同様にして合成し、クリーム色粉末(TBM−Pd−I)を得た。収量は2.0g(収率91%)であった。
元素分析の結果は、C:18.80、H:3.61、N:1.57(計算値)、C:18.51、H:3.64、N:1.56(実測値)であった。
【0107】
(合成例7)[Me(n−CN][(SiW1036Pd](「TBM−Pd−II」ともいう。)の合成
TBM−I 2.0g(0.56mmol)を取り、アセトン39mLを加えた。更に純水1mLを加え、TBM−SiW10 1.8g(0.56mmol)を加え室温で4時間攪拌した。生じた沈殿を桐山ロートを用いて回収した。真空乾燥を60分行い、褐色粉末を得た。収量は1.2g(収率32%)であった。得られた褐色粉末を1,2−ジクロロエタンに溶解させてジエチルエーテルを加えて冷蔵庫で静置することにより褐色結晶(TBM−Pd−II)を得た。収量は21mg(収率86%)(25mgの粉末基準で算出)であった。
元素分析の結果は、C:18.63、H:3.67、N:1.67、Si:0.84、Pd:3.17、W:54.84(計算値)、C:18.33、H:3.79、N:1.65、Si:0.85、Pd:2.91、W:54.45(実測値)であった。各種構造解析の結果を図13及び表8、9に示した。
得られたTBM−Pd−IIは、本発明における金属化合物であって、上述した構造cを有する化合物である。
【0108】
【表8】

【0109】
【表9】

【0110】
(合成例8)[(n−CN][{SiW1036Pd(OCO)CH](「TBM−Pd−III」ともいう。)の合成
TBA−Pd−I 0.1g(0.27mmol)を取り、アセトン4mLと純水0.1mLを加えた。その後マロン酸2.8mg(0.27mmol)を加え、メンブラン濾過した。得られた固体を冷蔵庫(5℃)で一晩静置することによりTBA−Pd−IIIの黄色結晶を得た。収量は0.31g(収率31%)であった。
元素分析の結果は、C:21.58、H:4.00、N:1.50、Si:0.75、Pd:5.71、W:49.30(計算値)、C:21.58、H:3.99、N:1.38、Si:0.74、Pd:5.31、W:49.24(実測値)であった。各種構造解析の結果を図14及び表10、11に示した。
得られたTBM−Pd−IIIは、本発明における金属化合物であって、上述した構造cを有する化合物である。
【0111】
【表10】

【0112】
【表11】

【0113】
(合成例9)TBA[{Y(HO)(CHCOCH)}(SiW1036](「Y−POM」ともいう。)の合成
TBASiW1036・2HO 1.0g(0.29mmol)をアセトン20mLに溶解させた。そこにY(acac)・nHO 0.13g(0.29mmol)を加え、10分間撹拌した。更に1Mの硝酸水溶液 0.29mLを加えて30分間攪拌した。ろ過をして静置すると無色ブロック状結晶が得られた。収率は27%(SiW10基準)であった。各種構造解析の結果を図15、16及び表12に示した。
得られたY−POMは、本発明における金属化合物であって、上述した構造bを有する化合物である。
【0114】
【表12】

【0115】
(合成例10)TBA[{Ag{SiW1036](「Ag−POM」ともいう。)の合成
TBASiW1036・2HO 0.10g(0.029mmol)をアセトン2mLに溶解させた。更に銀アセチルアセトナート 0.018g(0.087mmol)を加え、溶液が透明になるまで撹拌した。ろ過をして静置すると茶色ブロック状結晶が得られた。収率は17%(SiW10基準)であった。
元素分析の結果は、C:20.48、H:3.92、N:1.49(計算値)、C:19.98、H:4.14、N:1.43(実測値)であった。各種構造解析の結果を図17及び表13に示した。
得られたAg−POMは、本発明における金属化合物であって、上述した構造a及び構造dを有する化合物である。
【0116】
【表13】

【0117】
(合成例11)TBA[(γ−HSiW1036Ag](「TBA−Ag6」ともいう。)の合成
TBASiW1036・2HO 1000mg(0.293mmol)をアセトン13mLに溶解させた。更に銀アセチルアセトナート 181.8mg(0.878mmol)を加え、3日間撹拌したところ、黒色沈殿が得られた(収率60%)。得られた黒色沈殿100mgをニトロメタン 0.2mLに溶解し、ろ過した後、溶液にアセトン5.0mLを加えて12時間室温で静置すると茶色の結晶が得られた。元素分析の結果は、C:20.56、H:3.94、N:1.50、Si:0.75、Ag:8.66、W:49.18(計算値)、C:20.19、H:3.97、N:1.39、Si:0.77、Ag:8.53、W:50.36(実測値)であった。各種構造解析の結果を図18及び表14に示した。
得られたTBA−Ag6は、本発明における金属化合物であって、上述した構造dを有する化合物である。
【0118】
【表14】

【0119】
(合成例12)TBA[(γ−HSiW1036Ag(DMSO)](「TBA−Ag4」ともいう。)の合成
TBASiW1036・2HO 1000mg(0.293mmol)をアセトン20mLに溶解させた。更に銀アセテート 97.7mg(0.586mmol)を加え、6時間撹拌したところ、白色沈殿が得られた(収率60%)。得られた白色沈殿150mgをジメチルスルホキシド(DMSO) 0.8mLに溶解し、ろ過した後、溶液にアセトン7.0mLを加えて1時間室温で静置すると無色の結晶が得られた。元素分析の結果は、C:21.38、H:4.13、N:1.51、Si:0.76、Ag:5.82、W:49.58(計算値)、C:21.41、H:4.17、N:1.30、Si:0.70、Ag:5.71、W:47.14(実測値)であった。各種構造解析の結果を図19及び表15に示した。
得られたTBA−Ag4は、本発明における金属化合物であって、上述した構造dを有する化合物である。
【0120】
【表15】

【0121】
(合成例13)TBA[{Al(OH(μ−OH){γ−SiW1036}]の合成
TBA[{Al(OH(μ−OH){γ−SiW1036}]は、以下の文献に従い合成した。
Y.Kikukawa、S.Yamaguchi、Y.Nakagawa、K.Uehara、S.Uchida、K.Yamaguchi、N.Mizuno、「ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサイエティー(Jouranal of the American Chemical Society)」(米国)、2008年、第130巻、p.15872。
【0122】
(合成例14)(TBA[HSiW1036]Al(OH)(「tri−Al2」ともいう。)の合成
合成例13で得られたTBA[{Al(OH(μ−OH){γ−SiW1036}]をアセトニトリルに溶解させ、貧溶媒としてトルエンを加えて得られた沈殿を濾過して回収した。元素分析の結果は、C:17.40、H:3.56、N:1.27、Si:0.85、W:55.49、Al:1.63(計算値)、C:18.41、H:3.52、N:1.35、Si:0.81、W:55.98、Al:1.64(実測値)であった。tri−Al2の結晶構造の単位構造を示す図を図20に、構造解析の結果を表16に示した。構造解析の結果、tri−Al2は、図20に示す単位構造が立体的に多数連結した構造を有していることが明らかとなった。この構造を図21、22に示す。
得られたtri−Al2は、本発明における金属化合物であって、上述した構造bを有する化合物である。
【0123】
【表16】

【0124】
(実施例1)
合成例11で合成したTBA−Ag6を3mg及びVulcan XC72(Cabot社製)17mgをN−メチルピロリドン(NMP)(2.0mL)中に分散させた分散液を、回転電極装置(北斗電工社製、HR−201)に付属の回転ディスク電極のGC(グラッシーカーボン)ディスク上に、マイクロピペットを用いて5.0μL滴下、乾燥し、電極触媒を均一に堆積した。該回転ディスク電極を0.1M水酸化カリウム水溶液中にセットし、酸素を吹き込むことで酸素飽和水溶液とした。参照電極としてHg/HgO電極を用い、0Vから−0.6Vに向けて0.0050V/secの掃引速度で掃引して酸素還元電流を測定した。結果を図23に示す。図23中、TBA−Ag6/(15%)XC72が実施例1の測定結果である。
【0125】
(比較例1)
比較例1としてE−TEK社製10%Ag/XC72(型番:C8−10) 20mgをN−メチルピロリドン(NMP)(2.0mL)中に分散させた分散液を、回転電極装置(北斗電工社製、HR−201)に付属の回転ディスク電極のGC(グラッシーカーボン)ディスク上に、マイクロピペットを用いて5.0μL滴下、乾燥し、電極触媒を均一に堆積し、電極触媒を調製した以外は実施例1と同様にして酸素還元電流を測定した。結果を図23に示す。
10%Ag/XC72は、Vulcan XC72カーボンに10質量%のAgが担持されたものである。
【0126】
実施例1と比較例1の結果から、欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有するAg含有化合物とカーボンとをAg含有化合物含有割合が15%(銀換算で約1%)となるように配合したものを触媒として用いた場合、Ag単体とカーボンとをAg含有割合が10%となるように配合したものに比べて印加電圧の絶対値がより小さい段階で電流値が0からマイナス方向へ立ち上がり、また、印加電圧−0.6Vとしたときの電流値の絶対値が大きかった。Ag含有化合物は、電流値が立ち上がりにおいて、Ag単体とカーボンとをAg含有割合が30%となるように配合したものと同等の特性を有し、印加電圧−0.6Vとしたときの電流値の絶対値はより大きい値であった。
これらの結果から、欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物を触媒として用いることで、より少ないAgの含有量で優れた性能を発揮することができることが確認された。
【符号の説明】
【0127】
(i):イットリウム原子
(ii):SiW10由来ではない酸素原子
(iii):炭素原子
(iv):SiW10由来の酸素原子
(v):一次元チャネル



【特許請求の範囲】
【請求項1】
欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有する金属化合物を含んでなることを特徴とする金属化合物含有電極用触媒。
【請求項2】
前記金属化合物は、一欠損構造部位、二欠損構造部位及び三欠損構造部位からなる群より選択される少なくとも1つの欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有することを特徴とする請求項1に記載の金属化合物含有電極用触媒。
【請求項3】
前記金属化合物は、ヘテロ原子に対してポリ原子が酸素原子を介して配位した構造を有する欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有し、該ヘテロ原子及びポリ原子とは異なる金属原子を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属化合物含有電極用触媒。
【請求項4】
前記金属化合物は、一欠損構造部位、二欠損構造部位及び三欠損構造部位からなる群より選択される少なくとも1つの欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位を有し、
該欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物が一欠損構造部位を含む場合には、
P、Si、Ge、As及びZnからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含み、
前記金属原子は、La、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種の原子であり、
該欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物が二欠損構造部位または三欠損構造部位を含む場合には、
P、Si、Ge、As、Sb及びZnからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含み、
前記金属原子は、La、Ce、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Cr、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Ga、Cd、In、Sn、Pb及びBiからなる群より選択される少なくとも1種の原子であることを特徴とする請求項3に記載の金属化合物含有電極用触媒。
【請求項5】
前記欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物は、ケギン型ヘテロポリオキソメタレート化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属化合物含有電極用触媒。
【請求項6】
前記欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレート化合物は、α体、β体及びγ体からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属化合物含有電極用触媒。
【請求項7】
前記金属化合物は、
前記金属原子のうち少なくとも1つが、1つのヘテロポリオキソメタレート化合物由来の構造部位当たり1つのポリ原子とのみ1つの酸素原子を介して配位した構造、
前記金属原子のうち少なくとも1つに、ヘテロ原子及びポリ原子のいずれにも配位していない酸素原子が少なくとも2つ配位し、かつ、少なくとも1つの酸素原子が同一元素の2つの金属原子に配位し、更に、いずれの2つの金属原子間にも、1つの酸素原子を介して2つの金属原子が配位した構造は2つ以下である構造、
前記金属原子同士が少なくとも2つの他の原子を介してのみ配位している構造、
4つの前記金属原子が互いに少なくとも2つの他の金属原子と直接結合した構造、及び、
前記金属原子のうち少なくとも1つが、1つのポリ原子とのみ1つの酸素原子を介して配位し、かつ、金属原子に配位した酸素原子のうち少なくとも2つが、金属原子以外の少なくとも1つの他の原子に配位した構造
から選択される少なくとも1つの構造を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の金属化合物含有電極用触媒。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の金属化合物含有電極用触媒と導電性物質とを含むことを特徴とする電極用触媒含有組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図23】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2013−105669(P2013−105669A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249937(P2011−249937)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度 独立行政法人日本学術振興会の最先端研究開発支援プログラム「高性能蓄電デバイス創製に向けた革新的基盤研究」助成研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】