説明

金属精製塊の検査方法およびそれを含む高純度金属の製造方法

【課題】凝固偏析により金属融液から得られた精製塊中の不純物濃度を簡易にスクリーニングし得る金属精製塊の検査方法、それを含む高純度金属の製造方法およびその用途を提供することを課題とする。
【解決手段】不純物を含む金属融液に精製塊支持体を接触させ、次いで凝固偏析により前記精製塊支持体の表面に析出させた前記金属融液の金属精製塊に含まれる不純物濃度により規定される前記金属精製塊の良または不良を、前記金属精製塊外周面の表面状態に基づいて検査することを特徴とする金属精製塊の検査方法により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属精製塊の検査方法、それを含む高純度金属の製造方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的に様々な種類の元素が様々な用途で必要とされている。酸素や窒素などのガスは単体で自然界に豊富に存在するが、金属元素、特にシリコンなどの半導体材料を含む金属元素は単体で自然界に存在することは非常に稀であり、それらの大部分は酸化物や硫化物などの化合物の混合物として自然界に存在している。したがって、特定の金属元素の単体を得るためには、その酸化物や硫化物の還元および不純物除去などの処理が必要であり、金属元素を安価に高純度化する方法が必要とされている。
【0003】
一方、地球環境に様々な問題を引き起こしている石油などの代替として自然エネルギーの利用が注目されている。その中でも太陽電池は大きな設備を必要とせず、稼働時に騒音などを発生しないことから、日本や欧州などで特に積極的に導入されてきている。
カドミウムテルルなどの化合物半導体を用いた太陽電池も一部で実用化されているが、物質自体の安全性やこれまでの実績、またコストパフォーマンスの面から、結晶シリコン基板(ウエハ)を用いた太陽電池(結晶シリコン太陽電池)が大きなシェアを占めている。
【0004】
結晶シリコン太陽電池のウエハは、単結晶および多結晶の2つに大別される。
単結晶シリコンウエハは、一般的にCZ法およびFZ法により製造した単結晶インゴットをスライス加工することにより得られる。一方、多結晶シリコンウエハは、キャスト法(一方向凝固)によりシリコン融液から製造した多結晶インゴット(塊)をスライス加工することにより、リボン法により任意に基板を用いてシリコン融液から直接多結晶シリコンウエハ(リボン)を成長させることにより得られる。
また、ウエハとは形状が異なるが、真空中や不活性ガス中にシリコン液滴を落下させる球状シリコン法により得られたシリコン粒も太陽電池の基材として用いられている。
【0005】
単結晶および多結晶のシリコンウエハ、リボンおよび球状シリコンの製造には、ほとんどの場合、シリコン融液が用いられる。シリコン融液に含まれる金属などの不純物のほとんどは電子デバイス特性に悪影響を与えることから、シリコンの場合にも安価に高純度化する方法が必要とされている。
【0006】
高純度シリコン原料の製造方法の1つとして、不純物の凝固偏析などを利用した冶金学的方法がある。この方法は、シーメンス法や流動床法などの気相法と比較して、得られるシリコン中の不純物濃度は少し高いものの、太陽電池特性に影響を与えない程度に、安価に不純物を除去できることから注目されている。以下、シリコンを例に挙げて、不純物除去方法について説明する。
【0007】
シリコン中不純物は次の3種類に分類され、それぞれの物性に合った冶金学的方法により除去される。
(1)ボロンのように偏析係数が大きく、蒸気圧が低い元素
(2)リンのように偏析係数が大きく、蒸気圧が高い元素
(3)金属など偏析係数が極端に小さな元素
【0008】
(1)および(2)の元素は偏析が効き難いため、酸化処理や真空加熱処理などにより不純物を除去する。一方、(3)の元素は基本的には粒界への偏析または固体液体界面の偏析などを利用してその濃度を低減させることができる。
(1)および(2)の元素はウエハの比抵抗調整の観点から制御が重要であるが、(3)の元素は、特に太陽電池の特性面で大きな影響を与えるため、可能な限り低濃度に抑える必要がある。
(3)の元素を除去する方法としては、例えば、内部を冷却流体で冷やした回転冷却体を金属融液に浸漬し、冷却体表面に精製された金属を晶出させる回転偏析法が提案されている(特許第4115432号公報:特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4115432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の方法では、冷却体に晶出させた金属(以下「精製塊」ともいう)の不純物濃度は、凝固偏析により精製前の溶融金属よりも大幅に低減されることは明らかであり、特に偏析係数の小さい元素での低減効果が顕著である。
しかしながら、実際に得られた精製塊中の不純物濃度を分析評価したところ、特定元素の不純物濃度が、偏析係数から期待される不純物濃度よりも桁違いに高いことがわかった。また、融液中に過飽和により析出した析出物(不純物元素を含む)が凝固偏析というメカニズムではなく、単に析出物として精製塊中に取り込まれる現象も起こることがわかった。
【0011】
このような精製塊を用いて製造された製品、特に太陽電池のような電子デバイスでは、様々な問題が発生する。また、製造途中で精製塊中の不純物を測定して材料を選別することもできるが、測定自体にコストが掛かるために、可能な限り事前に精製塊を検査・選別する、すなわちスクリーニングすることが望ましい。
そこで、本発明は、凝固偏析により金属融液から得られた精製塊中の不純物濃度を簡易にスクリーニングし得る金属精製塊の検査方法、それを含む高純度金属の製造方法およびその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく様々な検討および考察を重ねた結果、凝固偏析により金属融液から得られた精製塊の表面状態を検査することにより、精製塊のスクリーニングが可能であることを見出し、本発明に至った。
【0013】
かくして、本発明によれば、不純物を含む金属融液に精製塊支持体を接触させ、次いで凝固偏析により前記精製塊支持体の表面に析出させた前記金属融液の金属精製塊に含まれる不純物濃度により規定される前記金属精製塊の良または不良を、前記金属精製塊外周面の表面状態に基づいて検査することを特徴とする金属精製塊の検査方法が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、上記の金属精製塊の検査方法により良とした金属精製塊を高純度金属として得ることを特徴とする高純度金属の製造方法が提供される。
【0015】
さらに、本発明によれば、上記の高純度金属の製造方法により製造された高純度金属、特に高純度シリコン、前記高純度シリコンを原料として製造された結晶シリコン材料および前記結晶シリコン材料を用いて製造されたシリコン太陽電池が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、凝固偏析により金属融液から得られた精製塊中の不純物濃度を簡易にスクリーニングし得る金属精製塊の検査方法、それを含む高純度金属の製造方法およびその用途を提供することができる。
すなわち、本発明によれば、高純度金属、特に高純度シリコンを低価格で市場に供給することが可能となり、結晶シリコン材料なども低価格で供給することが可能となる。さらには、これらを太陽電池用基材として用いることにより、太陽電池を低価格で市場に供給することが可能となる。
【0017】
本発明の金属精製塊の検査方法は、金属精製塊外周面の表面の突起数密度を基準突起数密度と比較することで金属精製塊中の不純物含有量の良または不良を検査する場合に、基準突起数密度が3個/cm2以下である場合に、上記の優れた効果がより発揮される。
また、本発明の金属精製塊の検査方法は、金属精製塊外周面の表面の結晶粒径を基準結晶粒径と比較することで金属精製塊中の不純物含有量の良または不良を検査する場合に、基準結晶粒径が1mm以上である場合に、上記の優れた効果がより発揮される。
【0018】
さらに、本発明の金属精製塊の検査方法は、金属精製塊がシリコン精製塊である場合に、上記の優れた効果がより発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の金属精製塊の検査方法、(A)精製塊支持体を融液に接触させる前、(B)精製塊支持体を融液に接触させ、その表面に精製塊が析出している様子および(C)精製塊を融液から切り離した状態を示す模式図である。
【図2】結晶シリコンウエハを示す模式断面図である。
【図3】結晶シリコン太陽電池セルの形成工程(a)〜(i)を示す模式断面図である。
【図4】結晶シリコン太陽電池セルの受光面を示す模式平面図である。
【図5】結晶シリコン太陽電池モジュールを示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(金属精製塊の検査方法)
本発明の金属精製塊の検査方法は、不純物を含む金属融液に精製塊支持体を接触させ、次いで凝固偏析により前記精製塊支持体の表面に析出させた前記金属融液の金属精製塊に含まれる不純物濃度により規定される前記金属精製塊の良または不良を、前記金属精製塊外周面の表面状態に基づいて検査することを特徴とする。
ここで、「金属精製塊外周面」とは、金属精製塊のうち、金属融液からの引き上げ(切り離し)前に金属融液に接触していた部分を意味する。検査においては、その部分の全面であっても、その一部であってもよい。
【0021】
本発明者らは、表面状態に基づく検査の中でも、特に表面の突起数密度および結晶粒径が最も検査項目として適していることを見出し、かつそのメカニズムの概略を特定した。
以下、一例として黒鉛坩堝中に保持したシリコン融液に精製塊支持体を接触させ、表面に精製塊を析出させた例について説明するが、本発明の金属精製塊の検査方法は、シリコンに限らず、後述する通り、広い金属−不純物系に対して適用可能である。
【0022】
シリコン中の不純物としては、簡単のため2種類とし、金属の一例として鉄と炭素(坩堝起因のものも含む)とする。
シリコンの精製では、精製塊の析出、シリコン原料の再投入、高温でのシリコン原料の融解、低温での保持、精製塊の析出という工程が繰り返される。シリコン精製塊中の鉄濃度は精製前のシリコン融液よりも低濃度であるため、精製工程の繰り返しと共に、シリコン融液中の鉄濃度は徐々に濃化(濃縮)されることになる。
また、シリコン原料中に不純物として炭素を含む場合も同様の現象が起こるが、シリコン原料中に炭素を含まない場合であっても、シリコン融液中の炭素の飽和濃度は高温になるほど高くなることから、高温でのシリコン融解時にシリコン融液中に溶け出した炭素が、低温保持の際に過飽和となり、炭化珪素(SiC)粒子として析出するという現象が起こる。
【0023】
本発明者らの知見によれば、炭化珪素粒子はシリコン融液中に浮遊し、何らかの原因で融液中の流れが変化したときに、シリコン精製塊に取り込まれる。また、シリコン精製塊に取り込まれた炭化珪素粒子は、シリコン精製塊を取り出しの際に、周囲のシリコンを伴って凝固し、突起として現れる。
突起は、金属やそれに含まれる不純物の種類などにより異なるが、例えば金属がシリコンである場合、直径1mm、高さ0.5mm程度である。
シリコン結晶中の固溶炭素濃度は数ppmwと低く、シリコン精製塊中の炭素濃度は炭化珪素析出物の量でほとんど決まるため、突起数密度を検査することである程度の精度でシリコン精製塊中の炭素濃度を検査することができる。
突起数密度は、シリコン精製塊の表面の目視または顕微鏡観察による計数より検査することができる。
【0024】
また、予め突起数密度とシリコン精製塊中の炭素濃度との相関を確認しておくことにより、例えば、シリコン精製塊の炭素濃度の規定(仕様)に合せて、特定の突起数密度を基準とすることにより、良または不良を選別することができる。
突起数密度の基準、すなわち基準突起数密度は、金属やそれに含まれる不純物の種類、金属精製塊の仕様などにより異なるが、例えば、太陽電池用のシリコン精製塊では、基準突起数密度を3個/cm2以下とするのが好ましい。より好ましい基準突起数密度は2個/cm2以下である。さらにより好ましい基準突起数密度は1個/cm2以下である。
【0025】
また、本発明者らの知見によれば、不純物が鉄である場合には炭素とは異なる現象が起こる。
シリコン融液中の鉄濃度が高くなると、シリコン精製塊の析出中で部分的に組成的過冷却が発生する。組成的過冷却が起こらない状態では、シリコン精製塊に析出するシリコンは、元の結晶粒の上にエピタキシャル成長するが、シリコン融液内で組成的過冷却が起こると、元の結晶粒の方位を継承せず、多数の結晶核の発生が見られる。したがって、シリコン精製塊の析出時に組成的過冷却が発生したかどうかは、シリコン精製塊の表面の結晶粒径を検査することである程度の精度でシリコン精製塊中の鉄濃度を検査することができる。
結晶粒径は、シリコン精製塊の表面の目視または顕微鏡観察による測定により検査することができる。
【0026】
組成的過冷却が発生した場合には、通常の凝固偏析に因らない不純物(ここでは鉄)の取り込みが起こるため、実効偏析係数から期待されるよりも、偏析係数は極端に大きくなる。したがって、シリコン精製塊の鉄濃度の仕様に合せて、特定の結晶粒径を基準とすることにより、良または不良を選別することができる。
結晶粒径の基準、すなわち基準結晶粒径は、金属やそれに含まれる不純物の種類、金属精製塊の仕様などにより異なるが、例えば、太陽電池用のシリコン精製塊では、基準結晶粒径を1mm以上とするのが好ましい。より好ましい基準結晶粒径は2mm以上であり、さらに好ましい基準結晶粒径は3mm以上である。
シリコン精製塊の仕様によっては選別後の良品について、さらにICP発光分光分析などの不純物測定が必要となることもあるが、少なくとも極端に不純物濃度の高い精製塊については、事前にスクリーニングが可能であり、不純物分析のコストを省略することができる。
【0027】
本発明の金属精製塊の検査方法のうち、精製塊外周面の突起数密度による検査が可能な場合としては、金属と不純物とが炭化物、窒化物、酸化物などの化合物を形成し、その融点が元の金属の融点よりも高く、異物として融液中に浮遊するような場合が考えられ、シリコン以外の金属としては広範囲に渡るが、例えばAlやTiなどが挙げられ、不純物としては、前記金属中の炭素、窒素、酸素などが挙げられる。
すなわち、上記金属−不純物系においては、前記のシリコンと炭化珪素と同様の状況となり、シリコンと同様にして、本発明の金属精製塊の検査方法を適用することができる。
【0028】
また、本発明の金属精製塊の検査方法のうち、精製塊外周面の結晶粒径による検査が可能な系としては、共晶型平衡状態図を示す金属−不純物系であり、かつ不純物増加とともに凝固点降下が起こる系がある。このような金属−不純物系はかなり広範囲に及ぶが、具体例としては例えばAl中のCa不純物、Cu中のP、Mg不純物などが挙げられる。
すなわち、上記金属−不純物系では、前記のシリコン中の鉄不純物と同様に、組成的過冷却による精製塊中への不純物の取り込みと結晶核発生が起こり、結晶粒径が小さくなる。したがって、本発明の金属精製塊の検査方法を適用することができる。
【0029】
本発明の金属精製塊の検査方法を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の金属精製塊の検査方法、(A)精製塊支持体を融液に接触させる前、(B)精製塊支持体を融液に接触させ、その表面に精製塊が析出している様子および(C)精製塊を融液から切り離した状態を示す模式図である。
以下の記載以外については、公知の金属精製塊の製造方法(金属の精製方法)に準ずる。
【0030】
図1(A)は、精製塊支持体3を坩堝2中に保持された不純物を含む金属融液1に接触させようとしているところである。
坩堝2の材質は、金属融液1の種類により適宜選択され、黒鉛、シリカ、石英、炭化ケイ素、アルミナ、ムライト、鉄、ステンレス、銅などが挙げられる。例えば、金属がシリコンである場合には、黒鉛、シリカ、石英、炭化ケイ素、アルミナ、ムライトなどが挙げられ、坩堝からの不純物の混入を抑制するためには、黒鉛、シリカ、石英、炭化ケイ素などが好ましい。
精製塊支持体3の材質も坩堝2と同様に金属融液1の種類により適宜選択され、坩堝2に例示の材質が挙げられる。例えば、金属がシリコンである場合には、耐熱性、熱伝導性、不純物混入の観点から黒鉛が好ましい。
【0031】
図1(B)は、精製塊支持体3を金属融液1に接触させ、その表面に精製塊が析出しているところである。
精製塊支持体3を金属融液1に接触させ、精製塊支持体3を冷却してその温度を低下させることで精製塊支持体3の表面に精製塊4が析出する。
精製塊支持体3を冷却するためには、精製塊支持体3内部に冷却用流体(ガス、液体)を流通させる方法、精製塊支持体3を水冷板などの冷却部品と接触させる方法など公知の方法を用いることができる。
【0032】
精製塊4を析出させる際には、不純物の偏析により、固液界面の液体側の不純物濃度が高くなり、実効的な偏析係数が大きくなるため、固液界面は常に攪拌し、固液界面の液体側の不純物濃度をできるだけ低く抑えておくことが望ましい。そのためには、例えば、精製塊支持体3の断面形状を円形とし、円を含む平面に垂直で、円の中心を通る線を軸として、前記精製塊支持体3を回転させることが好ましい。
【0033】
図1(C)は、精製塊支持体表面に析出した精製塊4の析出後に融液から切り離した状態を示している。
この切り離し後に、金属精製塊外周面の表面状態を上記の方法により検査して、金属精製塊の良否を選別する。
【0034】
(高純度金属の製造方法)
本発明の高純度金属の製造方法は、本発明の金属精製塊の検査方法により良とした金属精製塊を高純度金属として得ることを特徴とする。
本発明の金属精製塊の検査方法により不良とされた金属精製塊は、必要に応じて処理に付した後に、再度、金属精製塊の原料として用いればよい。
【0035】
(高純度金属)
本発明の高純度金属(例えば、高純度シリコン)は、本発明の高純度金属の製造方法により製造される。
【0036】
(結晶シリコン材料)
本発明の結晶シリコン材料は、本発明の高純度シリコンを原料として製造される。
具体的には、単結晶のシリコンインゴット、多結晶のシリコンインゴットおよびブロック、単結晶および多結晶のシリコンウエハ、シリコンリボンならびに球状シリコンなどが挙げられる。
これらは、公知の方法により製造または加工することにより得られる。
【0037】
例えば、単結晶シリコンインゴットはCZ法、多結晶のシリコンインゴットはキャスト法により得られる。
また、多結晶のシリコンブロックは、例えば、バンドソーなどの公知の装置を用いて、多結晶シリコンインゴットにおいて坩堝材料などの不純物が拡散されているおそれのある表面部分を切断加工することにより得ることができる。また、必要に応じて、多結晶シリコンブロックの表面を研磨加工してもよい。
【0038】
さらに、単結晶および多結晶のシリコンウエハは、例えば、マルチワイヤーソーなどの公知の装置を用いて、本発明の単結晶シリコンインゴットおよび多結晶シリコンブロックを所望の厚さにスライス加工することにより得ることができる。現状では170〜200μm程度が一般的であるが、低コスト化のため徐々に薄型化の傾向にある。
【0039】
また、必要に応じて、多結晶シリコンウエハの表面を研磨加工してもよい。
また、シリコンリボンおよび球状シリコンも公知の方法により製造または加工することにより得られる。
【0040】
(シリコン太陽電池)
本発明のシリコン太陽電池は、本発明の結晶シリコンを用いて製造されてなる。
シリコン太陽電池は、例えば、本発明の結晶シリコン材料を用いて、公知の太陽電池セルプロセスにより製造することができる。例えば、公知の材料を用いて、公知の方法により、p型の不純物がドープされた単結晶および多結晶シリコンウエハの場合、n型の不純物をドープしてn型層を形成してpn接合を形成し、表面電極および裏面電極を形成してシリコン太陽電池(太陽電池セル)を得る。
本発明において、「太陽電池」とは、最小ユニットを構成する「太陽電池セル」およびその複数個を電気的に接続した「太陽電池モジュール」を意味し、太陽電池モジュールは、公知の方法により太陽電池セルの複数個を電気的に接続して得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下にシリコン精製塊の検査方法および高純度シリコンの製造方法の実施例により本発明を具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。すなわち、他の金属精製塊の検査方法およびその高純度金属の製造方法である場合にも、金属融液中に析出物として存在している不純物と、金属融液中に溶けている不純物とを、それぞれ炭化珪素および鉄と置き換えることで全く同様に取り扱うことができる。
また、実施例2および3の単結晶シリコンおよび多結晶シリコン以外のシリコンリボン、球状シリコンについてもこれらの実施例と同様に効果が得られる。
【0042】
(実施例1)シリコン精製塊の検査
図1の装置内の黒鉛坩堝中に保持した鉄濃度約2000ppmw、炭素濃度不明のシリコン融液約400kgに精製塊支持体を接触させ、精製塊支持体の表面にシリコンを析出させて、約10kgのシリコン精製塊(外径約280mm×長さ約210mm)を連続して12個製造し、それらを検査した。
具体的には、アルゴン雰囲気にした装置内の坩堝中のシリコン融液を融点+18℃に調整し、坩堝上部から精製塊支持体を接触させた。ここでは精製塊支持体を冷却するため、中空の精製塊支持体を用い、内部に低温の窒素ガスを循環させることで、精製塊の析出を促進した。また、精製塊支持体を50rpmで回転させ、固液界面を攪拌した状態で精製塊を析出させた。
【0043】
次いで、得られたシリコン精製塊のシリコン融液から切り離された表面状態を検査した。
具体的には、シリコン精製塊の表面を目視により観察して、直径1mm×高さ0.5mm程度以上の大きさの突起を計数してその密度を求め、結晶粒径も測定した。
基準突起数密度を2個/cm2、すなわち基準値未満のものを良品、基準値以上のものを不良品として評価した。
また、基準結晶粒径を2mm、すなわち基準値を超えるものを良品、基準値以下のものを不良品として評価した。
検査結果は、シリコン精製塊12個中、突起数密度が基準値以上である不良品が4個(A)、結晶粒径が基準値以下である不良品が4個(B)、突起数密度が基準値未満でかつ結晶粒径が基準値を超える良品が4個(C)であった。
【0044】
各シリコン精製塊から1箇所ずつ分析用のサンプルを採取し、ICP発光分光分析により鉄濃度を測定し、燃焼法により炭素濃度を測定し、(A)、(B)および(C)の各組の平均値を求めた。
得られた結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の結果から、突起数密度と炭素濃度、結晶粒径と鉄濃度にはそれぞれ相関関係があり、シリコン精製塊の表面状態を検査する本発明の検査方法により、シリコン精製塊の良または不良を選別できることがわかる。
【0047】
(実施例2)高純度シリコンの製造とそれを用いたデバイス
実施例1で得られた3種類のシリコン精製塊各40kgを用いて、CZ法により(100)方位、直径6インチのp型単結晶シリコンインゴット(ボディ長300mm)の製造を試みた。
具体的には、アルゴン雰囲気にしたCZ法装置内の石英坩堝で、ホウ素ドーパント濃度を調整したシリコン精製塊を溶融し、公知の方法により単結晶シリコンの引き上げを実施した。
【0048】
しかしながら、突起数密度が基準値以上であるシリコン精製塊(A)では、シリコン融液表面に浮遊している炭化珪素の粒が結晶に付着し、そこから多結晶化が起こり、単結晶シリコンを引き上げることができなかった。
結晶粒径が基準値以下であるシリコン精製塊(B)および突起数密度が基準値未満でかつ結晶粒径が基準値を超えるシリコン精製塊(C)については、単結晶シリコンを引き上げることができた。
【0049】
得られた単結晶シリコンのボディ部から比抵抗が3〜6Ωcm程度の範囲をブロック加工し(156mm×156mm×300mm)、次いで180μm厚にスライスし、p型の単結晶シリコンウエハ約800枚を得た。得られた単結晶シリコンウエハを以下に示すような通常の太陽電池製造プロセスに投入して、単結晶シリコン太陽電池セルおよび単結晶シリコン太陽電池モジュールを作製した。
【0050】
(単結晶シリコン太陽電池セル)
まず、図2に示すように、得られた単結晶シリコンウエハ11の表面を3%水酸化ナトリウム水溶液でエッチングして、スライスダメージ1aを除去すると共に、表面にテクスチャ構造を形成した(図3(a)参照)。
次に、図3(b)に示すように、単結晶シリコンウエハ11の表面に、PSG(リンシリケートガラス)液41を塗布し加熱することにより、PSG液41から単結晶シリコンウエハ11にリンを拡散させ、図3(c)に示すように、単結晶シリコンウエハ11の受光面側となる表面にn+層42を形成した。このときn+層42上に形成されるPSG膜41aを約10%のフッ化水素酸により除去した(図3(d)参照)。
【0051】
次に、図3(e)に示すように、プラズマCVDにより、単結晶シリコンウエハ11のn+層42上に反射防止膜43として窒化シリコン膜を形成した。
次に、図3(f)に示すように、単結晶シリコンウエハ11の裏面側となる表面(裏面)にアルミニウムペースト44aを塗布し焼成することにより、アルミニウムペースト44aからアルミニウムを単結晶シリコンウエハ11の裏面に拡散させて、図3(g)に示すように、単結晶シリコンウエハ11の裏面にアルミニウム電極44とp+層45とを同時に形成した。
【0052】
次に、図3(h)に示すように、反射防止膜43の表面上に銀ペースト46aを塗布すると共に、単結晶シリコンウエハ11の裏面上に銀ペースト47aを塗布し焼成した。これにより、図3(i)に示すように、n+層42と電気的に接続する表面電極としての銀電極46が形成されると共に、単結晶シリコンウエハ11の裏面と電気的に接続する銀電極47が形成され、単結晶シリコン太陽電池セル40を得た。
図4は、得られた単結晶シリコン太陽電池セル40の受光面の模式的な平面図を示す。図番31はサブグリッドを示す。
【0053】
(単結晶シリコン太陽電池モジュール)
得られた単結晶シリコン太陽電池セル40の複数を電気的に直列に接続することにより単結晶シリコン太陽電池モジュールを作製した(図5参照)。
すなわち、隣り合うようにして配置された、一方の単結晶シリコン太陽電池セルの受光面側の表面電極である銀電極46と、他方の単結晶シリコン太陽電池セルの裏面側の銀電極47とが、それぞれインターコネクタと言われる導電性部材51によって電気的に接続することにより、これらの単結晶シリコン太陽電池セルを電気的に直列に接続して太陽電池ストリングを構成した。
【0054】
そして、上記の太陽電池ストリングを、透明基板52としてのガラス基板と、保護シート53としてのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムとの間に設置された、封止材54としてのEVA(エチレンビニルアセテート)透明樹脂中に封止して単結晶シリコン太陽電池モジュールを得た。
【0055】
(太陽電池および太陽電池モジュールの特性測定)
得られた太陽電池および太陽電池モジュールの特性をソーラーシミュレータ下で測定した。突起数密度が基準値未満でかつ結晶粒径が基準値を超えるシリコン精製塊(C)を原料とした単結晶の特性を100として比較した。
得られた結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2の結果から、本発明の検査方法により選別されたシリコン精製塊(C)を原料とした単結晶から製造された太陽電池および太陽電池モジュールが優れた電池特性を有することがわかる。
したがって、本発明により、単結晶シリコン太陽電池および単結晶シリコン太陽電池モジュールのコストパフォーマンスを向上できることがわかる。
【0058】
(実施例3)高純度シリコンの製造とそれを用いたデバイス
実施例1と同条件でシリコン精製塊各250kgを製造した。得られたシリコン精製塊について突起数密度および結晶粒径で表面状態を検査したところ、実施例1と同様に(A)、(B)および(C)に分類された。
これらの3種類のシリコン精製塊各250kgを用いて、キャスト法により坩堝底から一方向凝固させてp型多結晶シリコンインゴットを製造して、実施例2と同様にして多結晶シリコン太陽電池セルおよび多結晶シリコン太陽電池モジュールを作製し、それらを検査した。
【0059】
具体的には、アルゴン雰囲気にした装置内に設置した窒化ケイ素の離型剤を塗布したシリカ坩堝(680mm×680mm×高さ420mm)中で、ホウ素ドーパント濃度を調整したシリコン精製塊を溶融し、公知の方法によりp型多結晶シリコンインゴットを作製した。
坩堝から多結晶シリコンインゴットを取り出し、バンドソーを用いて156mm角の角柱16本を切り出した。各角柱のボトム部およびトップ部は不純物や欠陥などの影響で、太陽電池の特性がよくないため、それぞれ10mmおよび15mmを切断して多結晶シリコンブロックを得た。その後、ブロックの品質評価として少数キャリアライフタイム測定などを行った後、マルチワイヤーソーを用いて200μm厚にスライスして多結晶シリコンウエハ約7000枚を得た。多結晶シリコンウエハの比抵抗は1.3〜1.8Ωcmであった。
突起数密度が基準値以上であるシリコン精製塊(A)を原料として作製したインゴットでは、ブロック加工に際して、その側面に多数の炭化珪素異物が確認されたため、その部分を全体の約15%切除してスライス加工に供した。
【0060】
次いで、実施例2と同様にして多結晶シリコン太陽電池セルおよび多結晶シリコン太陽電池モジュールを作製し、それらを検査した。
太陽電池および太陽電池モジュールの出力については、突起数密度が基準値未満でかつ結晶粒径が基準値を超えるシリコン精製塊(C)を原料とした多結晶の特性を100として比較した。
多結晶シリコンウエハに炭化珪素の異物が含まれている場合には、逆方向漏れ電流(Id)不良が懸念されるため、Id不良率についても集計した。
得られた結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
表3の結果から、本発明の検査方法により選別されたシリコン精製塊(C)を原料とした多結晶から製造された太陽電池および太陽電池モジュールが優れた電池特性を有することがわかる。
したがって、本発明により、多結晶シリコン太陽電池および多結晶シリコン太陽電池モジュールのコストパフォーマンスを向上できることがわかる。
一方、予想通り、突起数密度が基準値以上であるシリコン精製塊(A)を原料とした多結晶から製造された太陽電池および太陽電池モジュールのId不良率は高く、結晶粒径が基準値以下であるシリコン精製塊(B)を原料とした多結晶から製造された太陽電池および太陽電池モジュールの出力は低かった。
【符号の説明】
【0063】
1 不純物を含む金属融液
2 坩堝
3 精製塊支持体
4 精製塊
1a スライスダメージ
11 単結晶シリコンウエハ
31 サブグリッド
40 単結晶シリコン太陽電池セル
41 PSG液
41a PSG膜
42 n+層
43 反射防止膜
44 アルミニウム電極
44a アルミニウムペースト
45 p+層
46、47 銀電極
46a、47a 銀ペースト
51 導電性部材
52 透明基板
53 保護シート
54 封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含む金属融液に精製塊支持体を接触させ、次いで凝固偏析により前記精製塊支持体の表面に析出させた前記金属融液の金属精製塊に含まれる不純物濃度により規定される前記金属精製塊の良または不良を、前記金属精製塊外周面の表面状態に基づいて検査することを特徴とする金属精製塊の検査方法。
【請求項2】
前記金属精製塊外周面の表面の突起数密度を基準突起数密度と比較することで前記金属精製塊中の不純物含有量の良または不良を検査する請求項1に記載の金属精製塊の検査方法。
【請求項3】
前記基準突起数密度が3個/cm2以下である請求項2に記載の金属精製塊の検査方法。
【請求項4】
前記金属精製塊外周面の表面の結晶粒径を基準結晶粒径と比較することで前記金属精製塊中の不純物含有量の良または不良を検査する請求項1〜3のいずれか1つに記載の金属精製塊の検査方法。
【請求項5】
前記基準結晶粒径が1mm以上である請求項4に記載の金属精製塊の検査方法。
【請求項6】
前記金属精製塊が、シリコン精製塊である請求項1〜5のいずれか1つに記載の金属精製塊の検査方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の金属精製塊の検査方法により良とした金属精製塊を高純度金属として得ることを特徴とする高純度金属の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の高純度金属の製造方法により製造された高純度金属。
【請求項9】
前記高純度金属が高純度シリコンである請求項8に記載の高純度金属。
【請求項10】
請求項9に記載の高純度シリコンを原料として製造された結晶シリコン材料。
【請求項11】
請求項10に記載の結晶シリコン材料を用いて製造されたシリコン太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−112570(P2013−112570A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260459(P2011−260459)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【特許番号】特許第5194165号(P5194165)
【特許公報発行日】平成25年5月8日(2013.5.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】