説明

釣り具の製造方法

【課題】少ない工程数で製造することができると共に、本体部材に柔軟部材を確実に固定し、これらの間に間隙が発生するのを防止した釣り具の製造方法を提供すること
【解決手段】リールシート10の握り部に位置するリールシート本体12の外周面上の少なくとも一部に凹部42を形成し、この凹部42を囲む表面部46と凹部42の底部との中間高さの段差面44を延設し、このリールシート本体12の外周面上で、凹部42を囲む部位に配置した外型mを、段差面44に当接し、凹部42と外型mとの間に形成される空間Cに、リールシート本体12よりも軟質の材料から形成される柔軟部材32を充填し、この充填部材32をリールシート本体12に一体構造に成形する釣り具の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り具の製造方法に関し、特に、釣り人が握持する釣り具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂で形成された釣り具は、本体部材上に他の樹脂製部材を設け、種々の用途に適した機能を付与することが行われている。
【0003】
例えばプリプレグを巻回して形成した竿素材の外面に、リールの脚受け部を一体形成した釣り竿が開発されている。この釣り竿は、竿素材の外面上に、軸方向に所定間隔をおいて一対の溝を形成し、これらの溝に環状体を固定し、この環状体の外径に一致した内径を有する2つ割りに構成した金型を、環状体の外面に密着させて嵌合し、この金型と竿素材との間に形成される内部空間に、熱可塑性樹脂を射出成形することにより、リールシートを竿素材に一体成形して製造される(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この製造方法によれば、本体部材である竿素材の外面に熱可塑性樹脂を射出成形する際、環状体と金型との間から樹脂が流れ出ることがなく、バリの取り除き等の手間が不要となる。
【0005】
また、魚の当たりを待つ場合のように、リールシートを握持した状態で肘が当接する部位に肘当て部を形成するため、元竿の竿尻部に特殊塗料を塗布し、あるいは軟質弾性材を固着する釣り竿も開発されている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
この釣り竿によれば、本体部材である元竿の外面に設けた塗料あるいは弾性材により、この肘当て部に僅かな弾性変形力を付与し、滑り止め効果を持たせることができる。
【特許文献1】特開平4−304833号公報
【特許文献2】特開2006−25684
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、本体部材である竿素材の外面に、熱可塑性樹脂を射出成形してリールシートを形成する場合は、この射出成形する樹脂がプリプレグで形成した竿素材とは異なる材料であるため、これらの2種の材料が互いに溶着しない場合がある。この場合には、リールシートと竿素材とが分離し易く、充分な接合強度を得るのが困難である。また、竿素材と金型との間に環状体を配置するための溝が竿素材の強度を低下させる虞がある。
【0008】
また、元竿の竿尻部に特殊塗料を塗布して肘当て部を形成する場合には、マスキング工程が必要となり、製造工程数が増大すると共に、塗装合わせ部が外観を損なうことになる虞が生じる。この塗装に代えて、別体の軟質弾性材を固着する場合には、接着合わせ面に隙間が発生し、接着部の浮きあるいは剥離する虞があり、接着剤が合わせ部からはみ出す場合には、はみ出した接着剤が外観を害する虞がある。
【0009】
更に、本体部材の外部に露出している部分を保護あるいは装飾する外側層を形成する場合には、本体部材を除いてマスキングする必要がある。このマスキング工程は、完成品の外観あるいは品質に与える影響が極めて大きく、多くの労力を必要とする。
【0010】
本発明はこのような事情に基づいてなされたもので、極めて少ない工程数で製造することができると共に、本体部材に柔軟部材を確実に固定し、これらの間に間隙が発生するのを防止した釣り具の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の釣り具の製造方法は、釣り具の握り部に位置する本体部材の外周面上の少なくとも一部に凹部を形成し、この凹部を囲む表面部と凹部の底部との中間高さの段差面を延設し、この本体部材の外周面上で、前記凹部を囲む部位に配置した外型を、前記段差面に当接し、前記凹部と外型との間に形成される空間に、前記本体部材よりも軟質の材料から形成される柔軟部材を充填し、この充填部材を本体部材に一体構造に成形することを特徴とする。
【0012】
前記段差面は、この凹部の周縁部の全体に沿って帯状に延びることが好ましい。
【0013】
また、前記本体部材の凹部とこの凹部を囲む表面部とに塗装層を形成し、この後、前記外型を本体部材の外周面上に配置してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の釣り具の製造方法によると、本体部材の外周面上に形成された凹部に柔軟部材を射出成形する際、外型が凹部を囲む表面部と凹部の底部との中間高さの段差面に当接することにより、凹部を囲む表面部が外型で損傷するのが防止されると共に、柔軟部材が凹部を囲む表面部まではみ出るのが防止された状態で密着するため、外型に当接する部位の前処理あるいは後処理を必要とすることなく、少ない工程数で、本体部材に柔軟部材を確実に固定し、これらの間に間隙が発生するのを防止した釣り具を製造することができる。
【0015】
この段差面が、凹部の周縁部の全体に沿って帯状に延びる場合には、柔軟部材の縁部が段差面を超えて表面部にまで達することはなく、これにより、柔軟部材の特に周縁部の破損を確実に防止でき、外観および耐久性に優れた釣り具を製造することができる。
【0016】
また、外型を本体部材の外周面上に配置する前に、本体部材の凹部とこの凹部を囲む表面部とに塗装層を積層し、この塗装層を乾燥した半製品として形成しておく場合には、塗装層を積層する際に、成形した柔軟部材をマスキングする必要がなく、少ない工程数で耐久性および外観の優れた釣り具を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1から図8は、本発明の好ましい実施形態による製造方法で形成された釣り具を示し、この釣り具は、魚釣用リールを釣り竿に取付けるリールシート10として形成してある。
【0018】
図1から図8に示すように、このリールシート10は、取付脚部8を介して例えばスピニングリール等の魚釣用リールを取付けるための筒状構造のリールシート本体12を本体部材として備え、このリールシート本体12の例えば握持した際の後端側である軸方向の一端側に形成したねじ部14に沿って移動フード16が軸方向に移動自在に装着される。繊維強化樹脂製であるのが好ましい図示しない竿杆が、このリールシート本体12内に挿通され、例えば接着剤を用いて強固に固着される。このリールシート本体12内に配置する竿杆は、中空構造あるいは中実構造のいずれであってもよい。
【0019】
本実施形態のリールシート本体12は、強度を維持しつつ軽量構造とするために、例えばナイロンやABS等の合成樹脂で筒状に形成されるのが好ましく、一方、このような合成樹脂だけでなく、金属(例えばSUS、アルミニウム、チタン、真鍮)等の適宜の材料から形成してもよい。
【0020】
このリールシート本体12は、図では下側に示す一側に、取付脚部8の支持脚8aに対して前後方向に延びる足部8bを載置するリール脚載置面18が形成されている。更に、このリールシート本体12には、移動フード16に向けて開口部20を後方に開口させた固定フード22が一体的に設けられており、移動フード16と共に、取付脚部8の足部8bをリール脚載置面18上に押圧し、取付脚部8を介してこのリールシート10に魚釣用リールを取付け、固定することができる。実釣時には、図1に示すように、取付脚部8の支持脚8aを握持する手の指の間に挟み、足部8bと共にリールシート10を握り込んで操作することができ、したがって、これらのリール脚載置面18および固定フード22を形成した部位を含む領域がリールシート本体12上で握り部を形成する。
【0021】
固定フード22は、頂壁部22aとこの頂壁部22aの両側から軸方向に沿って湾曲しつつ後方に延びる側壁部22bとを有し、これらの頂壁部22aと両側壁部22bとで区画された開口部20内に、リール脚載置面18の前端側が延び、この固定フード22内で終端する。この固定フード22を形成する頂壁部22aおよび側壁部22bは、基端側縁部が凹線あるいは区画線23に沿ってリールシート本体12から盛上った状態に形成されており、その外周面は、握持する手に痛みを与えないように、滑らかに凸状に湾曲する。また、側壁部22bの先端縁部すなわちリールシート本体12から突出した側の縁部は、足部8bを開口部20内に挿入するときに、この側壁部22bが足部8bと干渉するのを防止するため、リール脚載置面18から離隔する側に大きく湾曲し、後方に向けて次第にリール脚載置面18側に延び、このリール脚載置面18の側方で終端する。
【0022】
側壁部22bがこのようにリールシート本体12から盛上ることにより、取付脚部8の足部8bと共に握りこんだときに、側壁部22bが足部8bとの間の段差部を解消させると共に、この側壁部22bを指を当てる引掛かり部として作用させることも可能である。必要な場合には、側壁部22bを後方に延設することなく、頂壁部22aから周方向に延設することも可能である。
【0023】
固定フード22の頂壁部22aは、先端側に向けて次第に高さが低くなり、この開口部20から受入れた足部8bの一端が内方に向けて、移動フード16で押圧されたときに、この取付脚部8をリール脚載置面18側に付勢する。本実施形態の固定フード22は、リールシート本体12と一体構造に形成してある。これに代え、金属又は硬質の合成樹脂でリールシート本体12と別体構造に形成し、リールシート本体12に強固に固定してもよい。金属で形成する場合には、リールの取付脚部が当接する部位に樹脂製部材を配置し、金属部材と金属部材との接触による損傷を防止することが好ましい。
【0024】
また、移動フード16は、リールシート本体12のねじ部14に螺合するナット部材24と、このナット部材24の先端部に後端部を回動自在に連結されたフード体26とを有する。この移動フード16が配置される部位で、リールシート本体12の外面は、ねじ部14を形成した部位をリールシート本体12の軸方向に沿って延びる長手方向溝(図示しない)を有し、このフード体26の内周側から突出する図示しない突起がこの長手方向溝に嵌合し、このフード体26を軸方向に沿って案内することができる。そして、フード体26に形成した開口部30を固定フード22の開口部20と軸方向に対向させた状態で、ナット部材24をリールシート本体12のねじ部14に沿って回動させることにより、フード体26の開口部30を固定フード22の開口部20に対向させた状態で軸方向に沿って前後動することができる。
【0025】
このフード体26は、脚部8bをリール脚載置面18上に保持するのに充分な剛性を持つ硬質合成樹脂あるいは金属で形成し、開口部30は固定フード22の開口部20と同様な構造に形成してある。この移動フード16の開口部30は、固定フード22の開口部20とは逆に後端側に向けて次第に高さが低くなる。これにより、リールの取付脚部8の足部を開口部30内に受入れた状態で、固定フード22側に移動されると、固定フード22と協働して取付脚部8をリール脚載置面18に向けて付勢する。なお、リールシート本体12の向きは、上述と前後を逆にして固定することも可能である。また、開口部20,30内には、取付脚部8との接触による損傷を防止する例えば樹脂製の緩衝部材(図示しない)を配置してもよい。
【0026】
このリールシート10は、リール脚載置面18および固定フード22を配置した部位、すなわちリールシート本体12の握り部の外周部に、リールシート本体12よりも軟質の材料からなる柔軟部材32を、直接射出成形することにより、このリールシート本体12と一体構造に形成してある。本実施形態の柔軟部材32は、移動フード16が固定フード22と共に足部8bを締付ける状態に締め込まれ、前進位置に配置されたときに、この移動フード16の前端位置に対応する部位から、固定フード22の前方位置にわたる領域に配置してある。
【0027】
図3および図4に示すように、本実施形態の柔軟部材32は、移動フード16が螺合するねじ部14側に配置される後部領域32aと、固定フード22を囲む状態に配置される中部領域32bと、固定フード22の前部に配置される前部領域32cとを有する。
【0028】
この後部領域32aは、リールシート本体12の全周を囲み、その後端側縁部は下側のリール脚載置面18側よりも上側が後方に延び、握持する手の母指球部、および支持脚8aを後方から挟み込む指の指先が当たる領域に柔軟な感触を確保している。また、リールシート本体12の下側には、リール脚載置面18を周方向に横切る帯状部34を有しており、この帯状部34は、リール脚載置面18よりも径方向外方に僅かに突出しており、固定フード22と移動フード16とで付勢された取付脚部8の足部8bがリール脚載置面18上に押圧されたときに、この足部8bを弾力的に付勢し、取付脚部8および魚釣用リールのガタつきを防止する。この帯状部34は、足部8bの強固な締付け状態を維持しつつガタつきを防止するために、幅すなわち軸方向寸法が10〜20mm程度で、リール脚載置面18からの突出高さが0.3〜1.0mm程度であることが好ましい。
【0029】
また、中部領域32bは、固定フード22の一側の側壁部22bから周方向に沿い、上部領域を通って他側の側壁部22bまで延び、この固定フード22、およびリール脚載置面18の前部を露出した状態に延設されている。そして、前部領域32cは、固定フード22の前端側で、リール脚載置面18側で固定フード22から前方に向けて先細状に延びる舌片状に形成され、この前縁部33は、固定フード22の開口部20と径方向にほぼ対応した部位まで、固定フード22の側壁部22bから離隔した状態を維持しつつ、滑らかに後方かつ上方に延びる。したがって、これらの中部領域32bと前部領域32cとは、リールシート本体12の全周にわたって延在するのではなく、周方向の一部に沿ってのみ延在しており、したがってこれらの中部領域32bと前部領域32cとには、柔軟部材32による周方向の締付け力は作用しない。
【0030】
この前部領域32cに対して径方向に対向した上部側の部位では、リールシート本体12が露出する。これにより、図1に示すようにこの握り部を握持したときに、このリールシート本体12に直接触れる親指、および固定フード22に直接触れる人差し指を介して、竿杆および硬質材製のリールシート本体12を通じて伝達される微細な魚信を感得することができる。また、移動フード16に触れる小指およびその付け根の近部でも、竿杆およびリールシート本体12から硬質材製のフード体26を介して微細な魚信を感得することができる。
【0031】
この柔軟部材32は、固定フード22の前端側に配置された前部領域32cに、滑り止め用の溝状凹部36を周方向に沿って形成し、中部領域32bの上部に、多数の断面円形状の凹部38を形成し、握持したときに握りやすくかつ滑り難い外面形状を備えている。また、後部領域32aと中部領域32bにわたって、固定フード22の両側に設けられた区画線23から上方かつ後方に、滑らかな曲線状に延びる溝40は、凹部38と共に、柔軟部材32の滑り止め作用をなし、更に、釣り人が握持する手を通じてこの溝40の位置を感得することにより、握り位置を容易に確認することができる。
【0032】
特に図5から図8に示すように、この柔軟部材32は、リールシート本体12の外周面上で、握り部を形成する部位に形成された凹部42内に、後述する塗装層を介して直接射出成形してある。この凹部42の底部は全体がほぼ均等な深さに形成されており、その周縁部に沿って、帯状に延びる段差面44を形成してある。この段差面44は、凹部42を囲むリールシート本体12の表面部46と、凹部42の底部との中間高さに形成され、後述するように、柔軟部材32をリールシート本体12上に射出成形する際、金型を載置することができる。
【0033】
この段差面44に金型が載置されることにより、柔軟部材32の周縁部がこの段差面44上に配置され、あるいは、段差面44上に重なることなく、凹部42の底部との間の内側周壁部43(図6,7参照)で規定された状態に配置される。いずれの場合も、この柔軟部材32の周縁部の外面側を丸めあるいは面取りし、握持する手や外部部材に引っ掛かるのを防止することが好ましい。
【0034】
この段差面44は、例えば1.0〜1.2mm程度の幅に形成し、この段差面44上に配置される柔軟部材32は、段差面44の幅に対して50%以下で30%〜10%程度の範囲内とすることが好ましい。段差面44上に配置される柔軟部材32をできる限り少なくすることにより、柔軟部材32の薄肉部分を少なくし、この薄肉部分からの破損の可能性を少なくすることができる。また、柔軟部材32の周縁部と表面部46との間に形成される間隙t(図7参照)は、1.5mm以下で、1.0mm〜0.7mm程度とすることが好ましい。隙間tをこのように小さくすることにより、段差面44上に配置される柔軟部材32の縁部に手や指が当たる等、外力が作用しても、この柔軟部材32の薄肉部分からの破損を確実に防止し、リールシート10に優れた耐久性を確保することができる。
【0035】
なお、この段差面44は、表面部46との間に、約0.4mm程度の段差を形成し、この段差面44上に配置される柔軟部材32の周縁部の厚さが薄くなり過ぎることなく、この凹部42を囲む表面部46から、例えば0.2〜0.3mm程度、僅かに突出するように形成することが好ましい。また、段差面44と表面部46との間の外側周壁部45(図7参照)は金型を着脱する際にこの金型と干渉しないように、傾斜面あるいは湾曲面で形成してもよい。一方、凹部42の底部との間に形成される内側周壁部43は、凹部42の底部に重なる方向すなわちオーバーハングするように傾斜させることも可能である。内側周壁部43がこのように傾斜することにより、特に幅狭の部分では、これらの内側周壁部43が蟻ホゾ状に柔軟部材32と噛合い、周縁部の剥離を抑制することができる(?)。
【0036】
更に、この凹部42の底部には、直接リールシート本体12上に柔軟部材32を射出成形する際に、溶融樹脂材料の注湯孔を形成するゲート孔48がリールシート本体12を半径方向に貫通して形成されている。このゲート孔48は、リールシート本体12の内周側および外周側に開口し、リールシート本体12の内部空間Sを凹部42に連通する。本実施形態では、このゲート孔48は、前部領域32cの前部部位すなわちリールシート本体12から最も幅狭で剥離し易い部位に形成してある。このようなゲート孔48は複数部位に設けることも可能であり、例えば図6に示すように、固定フード22の側壁部22bに近接した部位、あるいは、操作する際に指先から大きな力が作用する部位等、形状的に剥離し易い部位だけでなく、指先等から大きな外力を受ける部位等にも配置することが好ましい。
【0037】
このように、大きな外力が作用する部位、あるいは、周方向の締付け力が作用しない部位等の剥離し易い部位にゲート孔48を形成することにより、ゲート孔48内で硬化した樹脂が前部領域32cをリールシート本体12に固定する作用をなすことに加え、ゲート孔48の近部の柔軟部材32が接合される接合面が、高温度に加熱された柔軟部材32の樹脂材料に長時間にわたって接触することにより、リールシート本体12の外周面外周設けられた塗装層と柔軟部材32がより強固に結合することができる。
【0038】
このような柔軟部材32は、以下の工程を経てリールシート本体12上に形成することができる。
【0039】
先ず、図9に示すように、所要部位に凹部42およびゲート孔48(図5〜8参照)を形成したリールシート本体12を準備する。このリールシート本体12の凹部42の底部には、図6および図8に示すように、成形した柔軟部材32と噛合う突条41を、適宜位置に形成しておく。このような突条41は、柔軟部材32の形状に応じて、図示のようなリールシート本体12の軸方向に限らず、例えば傾斜方向あるいは螺旋方向に延設し、あるいは周方向に延設してもよく、更に、凹部42の底壁が肉厚に形成されている場合には、このような突条に代えてあるいは突条41と共に、溝あるいは凹部(図示しない)を形成することも可能である。いずれの場合も、リールシート本体12と柔軟部材32との接触面積が増大し、あるいは形状的に噛合い係合することにより、柔軟部材32の剥離を防止することができる。
【0040】
このように形成されたシールシート本体12には、外表面の全体を清浄化した後、リールシート本体12の表面部46および凹部42を含む外周面の全体にわたって、保護層あるいは装飾層となる塗装層50を積層する。このコーティング工程では、吹き付け塗装、しごき塗装、静電塗装等、各種塗装方法により行うことも可能である。これに用いる塗料は、着色塗料、あるいは透明状塗料であってもよく、透明状塗料には着色透明塗料および無色透明塗料が含まれる。
【0041】
このように塗装層50を積層したリールシート本体12は、この塗装層50を乾燥させて半製品を形成する。
【0042】
そして、図10に示すように、この塗装層50を形成した半製品であるリールシート本体12の外周部に金型Mを配置し、リールシート本体12の凹部42と共に、上述の柔軟部材32を成形するための空間Cを形成し、この空間C内に上述のゲート孔48を介して溶融した樹脂を充填し、この溶融樹脂で塗装層50の接合面を融点以上に加熱しつつこの溶融樹脂を加圧し、この接合面で分子結合を生じさせて一体化する。この後、これらの溶融樹脂と塗装層50とを硬化することにより、リールシート本体12よりも軟質材料からなる柔軟部材32を、このリールシート本体12上に、図11に示すように直接成形し、このリールシート本体12と一体に形成することができる。
【0043】
この柔軟部材成形工程では、金型Mを設置する際の手順として、リールシート本体12の凹部42と表面部46との間の段差面44上に外型mを当接させ、この外型mと凹部42との間に上述の空間Cを形成することが好ましい。これにより、リールシート本体12の表面部46の塗装層50に傷つくのを防止し、完成したリールシート10の外観を損なうことなく、製造することができる。塗装層50の再形成等の後工程を必要としない。また、柔軟部材32を成形する際に、外型mが接触して傷がついた場合でも、段差部44が表面部46よりも低位置であり、柔軟部材32の周縁部と表面部46との間に形成される間隙も小さいため、その傷が目立たず、きれいな塗装外観を維持することができる。
【0044】
特に、空間Cすなわち凹部42に柔軟部材32を射出成形する際、外型mが凹部42を囲む表面部46と凹部42の底部との中間高さの段差面44に当接することにより、凹部42を囲む表面部46が外型mに接触して損傷するのが防止されると共に、柔軟部材32が凹部42を囲む表面部46まではみ出るのが防止された状態で密着するため、外型mに当接する部位を滑らかにする等の前処理あるいは表面部46上にはみ出た柔軟部材のバリ取りを行う等の後処理を必要とすることなく、少ない工程数で、リールシート本体12に柔軟部材32を確実に固定し、これらの間に間隙が発生するのを防止したリールシート10を製造することができる。
【0045】
この段差面44が、凹部42の周縁部の全体あるいは全周に沿って帯状に延びる場合には、柔軟部材32の縁部が段差面44を超えて表面部46にまで達することはなく、これにより、柔軟部材32の特に周縁部の破損を確実に防止でき、外観および耐久性に優れた釣り具を製造することができる。
【0046】
なお、外型mは、段差面44でのみリールシート本体12に載置あるいは係合することが好ましいが、大きな接触圧を作用させず、塗装層50に傷がつかない範囲であれば、表面部46等の他の部位に接触してもよい。特に、段差面44以外の部位に接触させる必要がある場合には、リールシート本体12の軸方向における両端部、あるいは後で部品を固定する部位に当接させることが好ましい。
【0047】
図12に示すように、リールシート10の内部空間S内内に配置された溶融樹脂通路Rは、ゲート孔48内に残留して固着された柔軟部材49を残して分離する。図12には溶融樹脂通路Rから柔軟部材32の前部領域32cに形成した1箇所のゲート孔48にのみ接続しているが、図6に示すような複数のゲート孔48が設けられる場合には、これらのゲート孔48にも接続されることは明らかである。
【0048】
このように、塗装層50を積層したリールシート本体12の外周部に金型Mを配置して、特に、リールシート本体12をその軸方向を上下に沿って配置し、下側に位置するゲート孔48を通じて凹部42内に直接柔軟部材32を射出成形することにより、リールシート本体12の強度を低下させることなく、所要部位に剥離し難い柔軟部材32を配置したリールシート10を容易かつ確実に製造することができる。表面部46が既に塗装されているため、仕上げ用の塗装工程およびマスキング工程等の後処理工程を必要としない。
【0049】
また、ゲート孔48内に残留して固着した柔軟部材49は、リールシート本体12に対する凹部42内の柔軟部材32の固着力を増大するように作用し、長期間にわたって剥離を防止することができる。例えば柔軟部材32の中部領域32bおよび前部領域32cのように、リールシート本体12の全周にわたって連続するのではなく、その一部にのみ延在する場合には、周方向の締付け力が作用しないために、リールシート本体12に対する結合力あるいは保持力の低下を、このようなゲート孔内の柔軟部材49により補うことができる。これにより、この部位に周方向に外力が作用した場合でも、その力をゲート孔48内の柔軟部材49を介してリール本体12に伝達し、長期間にわたってその剥離を防止することができる。
【0050】
更に、柔軟部材32周縁部が段差面44で接合されることにより、この接合面が外部に露出せず、この周縁部から剥離するのを抑制することができる。更に、柔軟部材32の周縁部が段差面44上に重ねて形成されることにより、表面部46からの突出高さが低くなり、接合面に大きな力が作用するのを防止することができる。
【0051】
このように柔軟部材32を、リールシート本体12の保護層あるいは装飾層を兼ねる塗装層50の上に形成することにより、リールシート本体12を形成する材質に影響されることなく、全面にわたって柔軟部材32の充分な接合強度を確保して確実に密着させて固定することができ、柔軟部材32の剥離や端部からの裂け等の破損を防止でき、リールシート10の優れた外観を形成することができる。
【0052】
また、柔軟部材32がリールシート本体12の握り部を形成する部位の周部上で広範囲にわたって強固に密着固定されるため、このようなリールシート10を備えた釣り竿による魚釣り操作を容易かつ確実に行うことができる
また、柔軟部材32の中部領域32bおよび前部領域32cのように、握持する手の指が当たる部位にゲート孔48が配置されることにより、強い力で握持しても柔軟部材32の剥離が確実に防止され、長期間にわたって良好な握持性を保持することができる。特に、固定フード22の前部に位置する前部領域32cにゲート孔48が配置された場合には、固定フード22側に向けて作用する握持する力を効率よく支え、柔軟部材32の剥離を効果的に防止することができる。
【0053】
また、筒状のリールシート本体12と柔軟部材32との間に塗装層50が配置されていることにより、柔軟部材32をリールシート本体12に確実に保持することができるため、予め塗装層50を形成した後に柔軟部材32を成形することができ、極めて少ない工程数で製造することができる。
【0054】
このような操作性に優れたリールシート本体12を形成するための材料として、充分な強度を確保することができるナイロン樹脂(ガラス繊維で補強した場合も含む)を用いる場合、他の樹脂に対して好適な密着性を得るためには高価な特殊グレードのものを使用する必要があるのに対し、塗装層50に柔軟部材32を一体成形することにより、この塗装層50を介して柔軟部材32を通常の(特殊グレードでない)ナイロン樹脂製のリールシート本体12でも、強固な一体構造とすることができる。
【0055】
このような塗装層50としては、アクリルウレタンやポリウレタン等のナイロン樹脂との密着性の良好なウレタン系樹脂で形成し、柔軟部材32はポリエステル系のエラストマーやウレタン系のエラストマーで形成することが好ましい。この場合には、リールシート本体12の充分な強度を維持しつつ、柔軟部材32を確実に密着させて固定し、強度および耐久性に優れたリールシート10を形成することができる。
【0056】
このような塗装層50は、リールシート本体12および柔軟部材32との一体化が可能なものであれば、単一の材料で単層に形成することなく、複数層で形成してもよい。例えば内側にリールシート本体12の外面を隠蔽すると共にナイロン樹脂との密着性の良好なポリウレタン樹脂層を単層あるいは複数層形成し、この外側にアクリルウレタン等の柔軟部材32との密着性の良好なクリヤー層を形成してもよい。なお、リールシート本体12は、ナイロン樹脂の他、ABS樹脂で形成することも可能である。
【0057】
なお、上述の実施形態では、柔軟部材32は、凹部42内に射出成形することにより形成したが、このような凹部42を設けることなく、リールシート本体12の外周部に塗装層50を介して直接成形することも可能である。また、リールシート10に限らず、ナイロン樹脂等の高強度かつ軽量材料で形成された本体部に、これと異なる材料で種々の機能を付与するものであれば、例えばグリップ、竿尻キャップ等にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるリールシートの使用状態の全体図。
【図2】図1に示すリールシートの側面図。
【図3】図2に示すリールシートから移動フードを外した状態の側面図。
【図4】図2に示すリールシートから移動フードを外した状態の平面図。
【図5】図3に示すリールシートの軸方向断面図。
【図6】図3のVI−VI線に沿う断面図。
【図7】図5の一部の拡大断面図。
【図8】リールシートの横断面図を示し、(A)は図5の8A−8A線に沿う断面図、(B)は図5の8B−8B線に沿う断面図。
【図9】図1に示すリールシートのリールシート本体の側面図。
【図10】図1に示すリールシートの製造工程の一部を示す説明図。
【図11】リールシート本体上に成形した柔軟部材を示す説明図。
【図12】リールシート本体のゲート孔内に残留する柔軟部材を示す説明図。
【符号の説明】
【0059】
10…リールシート(釣り具)、12…リールシート本体(本体部材)、32…柔軟部材、42…凹部、44…段差面、46…表面部、48…ゲート孔、M…金型、m…外型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣り具の握り部に位置する本体部材の外周面上の少なくとも一部に凹部を形成し、この凹部を囲む表面部と凹部の底部との中間高さの段差面を延設し、この本体部材の外周面上で、前記凹部を囲む部位に配置した外型を、前記段差面に当接し、前記凹部と外型との間に形成される空間に、前記本体部材よりも軟質の材料から形成される柔軟部材を充填し、この充填部材を本体部材に一体構造に成形することを特徴とする釣り具の製造方法。
【請求項2】
前記段差面は、この凹部の周縁部の全体に沿って帯状に延びることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記本体部材の凹部とこの凹部を囲む表面部とに塗装層を積層し、この後、前記外型を本体部材の外周面上に配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−271816(P2008−271816A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117605(P2007−117605)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】