説明

釣り餌

【課題】エビ類又はオキアミに内在するプロテアーゼ及びチロシナーゼの活性を阻害し、筋肉組織を結合させ続けることにより、釣り針からの脱落や頭部の落下を防ぐと共に、色調の黒変防止効果が高く、魚の食い付きを低下させることもない釣り餌を提供すること。
【解決手段】エビ類又はオキアミに海洋糸状菌培養上清及び卵白の水溶液を含浸して成る。水溶液にグルタミンペプチドを加えるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エビ類又はオキアミを用いた釣り餌に関する。
【背景技術】
【0002】
オキアミは対象魚種が多く、サルエビ等のエビ類はタイ等の高級魚が好むことから、釣り餌として一般的に利用されている。
ところが、オキアミやエビは、内在するセリンプロテアーゼの働きによって急速に肉質の軟化が進行するので、短時間で釣り針から脱落したり、釣り針への取り付け中に頭部が千切れてしまうこともある。また、オキアミやエビは、チシロナーゼの活性も高く、時間が経過するに従って色調が黒変しやすい。
このため、オキアミやエビを釣り餌として用いると、時間経過とともに集魚性が低下し、釣果に悪影響をもたらすという欠点がある。
【0003】
従来、海老やオキアミ等の表面に糖液を付着させ、氷結層を形成することにより外気と遮断して、体色の変化やたんぱく質の変性を抑え、釣り針から脱落し難くした釣り餌が知られている(特許文献1参照)。
しかし、この方法では、糖液の氷結層で餌自体と外気とが遮断されてしまうので、釣り餌本来の臭いが釣り対象となる魚に届きにくく、魚の食い付きが悪くなってしまう。
【0004】
特許文献2には、オキアミの外殻より内側に、小麦粉、さつまいも、寒天、コラーゲン等の餌成分・集魚成分からなる物質を注入し、粘度や硬度を増すことで釣り針からの脱落を防ぎ、集魚性を向上させた餌注入オキアミが記載されている。
しかし、このような物質は、プロテアーゼの働きを抑えて、筋肉組織の軟化自体を防ぐ効果が低いので、長時間水中に投入している間に流れ出してしまうと、釣り針からの脱落を防ぐことはできない。
【0005】
また、非特許文献1には、海洋糸状菌の培養上清に、エビの組織中に含まれるチロシナーゼの酵素的酸化反応を阻害し、体色の黒変を防止する効果があることが記載されている。しかし、この非特許文献1には、プロテアーゼの働きを阻害してエビ類の肉質の軟化を抑える技術については記載されていない。
さらに、非特許文献2には、魚肉すり身に、プロテアーゼ活性を抑制して強度を増強するために卵白を添加してその影響を調べたが、十分な効果は得られなかったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-163280号公報
【特許文献2】特開2003-125687号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山田 勝久、外3名、“海洋環境より分離した糸状菌培養上清の生鮮食材変色防止効果”、2007年6月15日、日本食品工学会誌、Vol.54,No.6,p.274-279
【非特許文献2】今田 千秋、外2名、“海洋性菌由来のプロテアーゼインヒビター添加によるマイワシかまぼこゲル強度増強効果”、2001年1月15日、日本水産学会誌、Vol.67,No.1,p.85-89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、エビ類又はオキアミに内在するプロテアーゼ及びチロシナーゼの活性を阻害し、筋肉組織を結合させ続けることにより、釣り針からの脱落や頭部の落下を防ぐと共に、黒変防止効果が高く、魚の食い付きを低下させることもない釣り餌を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の釣り餌は、エビ類又はオキアミに海洋糸状菌培養上清及び卵白の水溶液を含浸して成る。
海洋糸状菌培養上清は、真菌類線菌目淡色線菌科のTrichoderma属の糸状菌を培養した後、遠心分離して得られる。
卵白は、保存性が高く、扱いやすい卵白粉末とするのが望ましいが、生卵白であってもよい。
また、前記水溶液にグルタミンペプチドを加えるとよい。
グルタミンペプチドは、グルタミン含有量の多いペプチドであって、天然たんぱく質を構成するL−アミノ酸から成るペプチドを意味し、小麦グルテンを加水分解して得られる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1〜3に係る発明によれば、エビ類やオキアミに内在するプロテアーゼによって、肉質が軟化するのを抑制することができるので、水中に投入して長時間経過しても、釣り針から外れたり、頭部が落下し難く、しかも、餌の周囲をコーティングしたもののように魚の食い付きが悪くなることもない。
また、エビ類やオキアミの組織中に含まれるチロシナーゼによる黒変を、海洋性糸状菌培養上清及び卵白を単独で用いた時よりもさらに少なくできるため、商品価値の低下を防ぎ、魚に対するアピール度も長時間維持される。
請求項4に係る発明によれば、さらに肉質の軟化抑制効果が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係る引っ張り強度の試験方法を示す図。
【図2】試験1の結果を示す図。
【図3】試験2の結果を示す図。
【図4】試験2の結果を数値化して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
(本発明で用いる海洋糸状菌培養上清の調製)
伊豆諸島新島沖の水深100mの海底堆積物中から分離された真菌類線菌目淡色線菌科のTrichoderma属の糸状菌を、培地に植菌したのち、27℃において2日間回転振とう培養を行なった。培地は、0.1%グルコース、0.1%グルタミンペプチド(日清ファルマ社製)を蒸留水に溶解後、高圧滅菌した。培養後、遠心分離して上清液を得、これを乾燥して粉末とした。
【0013】
(実施例1)
解凍したサルエビを、海洋糸状菌培養上清の粉末0.6g、卵白粉末1.25g(生卵白10gに相当)及び重量調整用のデキストリン3.15gを95mlの精製水に溶解した溶液に30分浸漬して釣り餌とした。
(実施例2)
解凍したサルエビを、海洋糸状菌培養上清の粉末0.6g、卵白粉末1.25g、グルタミンペプチド(商品名:グルタミンペプチドGP−1、日清ファルマ株式会社)2.50g及び重量調整用のデキストリン0.65gを95mlの精製水に溶解した溶液に室温で30分浸漬して釣り餌とした。
【0014】
[試験1]
(試験群a,a’)
試験1日目に、実施例1の釣り餌5匹を37℃にて5時間保存して試験群aとした。気象条件の変化を考慮し、試験2日目に、別の実施例1の釣り餌5匹に同じ処理を施して試験群a’とした。
(試験群b,b’)
試験1日目に、実施例2の釣り餌5匹を37℃にて5時間保存して試験群bとした。試験2日目に、別の実施例2の釣り餌5匹に同じ処理を施して試験群b’とした。
【0015】
(対照群c,c’)
試験1日目において、解凍した直後の5匹のサルエビを対照群cとし、試験2日目において、解凍した直後の別の5匹のサルエビを対照群c’とした。
(対照群d,d’)
試験1日目に、解凍した5匹のサルエビを100mlの精製水に室温で30分浸漬し、37℃にて5時間保存して対照群dとした。試験2日目に、別の5匹のサルエビに同じ処理を施して対照群d’とした。
【0016】
(試験方法)
図1に示すように、エビ1の頭部に容器2を取り付け、エビ1の尾を除いた末端部を釣り針3に引っ掛け、容器2に水を入れて、頭部が落ちるまでに入った水の量を計測して引っ張り強度とし、試験群a,a’、試験群b,b’、対照群c,c’及び対照群d,d’の引っ張り強度の平均値をそれぞれ計算した。
(試験結果)
図2から明らかなように、解凍直後のサルエビ(対照群c,c’)の強度に対して、精製水に浸漬しただけのサルエビ(対照群d,d’)の強度は著しく低下するが、海洋糸状菌培養上清及び卵白の水溶液に浸漬したサルエビ(試験群a,a’)は強度の低下が少なかった。また、海洋糸状菌培養上清及び卵白にグルタミンペプチドを加えた水溶液に浸漬したサルエビ(試験群b,b’)はさらに強度の低下が抑えられた。
【0017】
(実施例3)
海洋糸状菌培養上清液2重量%及び卵白粉末1.25重量%を含む水溶液100mlに、冷凍したオキアミ10gを室温で30分浸漬して釣り餌とした。
[試験2]
(試験群e)
解凍した実施例3の釣り餌を試験群eとした。
(対照群f)
冷凍したオキアミ10gを精製水100mlに室温で30分浸漬して解凍したものを試験群fとした。
(対照群g)
海洋糸状菌培養上清液2重量%を含む水溶液100mlに、冷凍したオキアミ10gを室温で30分浸漬して解凍したものを試験群gとした。
(対照群h)
卵白粉末1.25重量%を含む水溶液100mlに、冷凍したオキアミ10gを室温で30分浸漬して解凍したものを試験群hとした。
【0018】
(試験方法)
試験群eと対照群f,g,hを水溶液又は精製水と共に容器中で37℃に保持し、解凍直後、3時間経過後、5時間経過後に容器からそれぞれ無作為に4尾ずつ取り出してその色を比較した。取り出したオキアミは比較後に容器へ戻した。
(試験結果)
図3は、取りだしたオキアミを撮影したものである。図3から明らかなように、海洋糸状菌培養上清の水溶液に浸漬したオキアミ(対照群g)及び卵白の水溶液に浸漬したオキアミ(対照群h)も精製水に浸漬しただけのオキアミ(対照群f)に比べて色が変化しにくかったが、海洋糸状菌培養上清及び卵白の水溶液に浸漬したオキアミ(試験群e)はさらに色の変化が少なかった。
【0019】
また、取り出したオキアミを評価者に目視させ、解凍直後の黒色が見えないものを0点、黒色が一部認められるものを1点、頭胸部に明らかに黒変が現れたものを2点、頭胸部の黒変範囲が広がって色も濃くなったものを3点としてスコアを付け、各グループの経過時間ごとの合計スコアと平均スコアを算出した。その結果を図4に示す。
この値からも、対照群fより対照群g及び対照群hは黒変が少なかったが、試験群eではさらに黒変が抑えられていることがわかる。
【符号の説明】
【0020】
1 エビ
2 容器
3 釣り針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エビ類又はオキアミに海洋糸状菌培養上清及び卵白の水溶液を含浸して成ることを特徴とする釣り餌。
【請求項2】
前記海洋糸状菌が、真菌類線菌目淡色線菌科のTrichoderma属の糸状菌である請求項1に記載の釣り餌。
【請求項3】
前記卵白が、卵白粉末である請求項1又は2に記載の釣り餌。
【請求項4】
前記水溶液にグルタミンペプチドを加えた請求項1〜3のいずれかに記載の釣り餌。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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