説明

釣糸ガイド

【課題】重量が軽く、比強度、比剛性及び撓み性に優れた釣糸ガイドを提供する。
【解決手段】本発明に係る釣糸ガイドは、前後方向に複数の繊維強化プリプレグを重ねた積層材20からなる繊維強化樹脂製のリング保持部と支脚部とを具備したフレームを有しており、リング保持部に釣糸が挿通されるガイドリングが取り付けられる。そして、前記フレームの側面に現れる繊維強化樹脂の複数の層を面一に形成すると共に、前記側面の面形状を凸面状にしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣竿に装着されて釣糸を案内する釣糸ガイドに関し、詳細には、釣糸が挿通されるガイドリングを保持するフレーム部分に特徴を有する釣糸ガイドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記した釣糸ガイドは、釣竿の外周面に装着されるフレームと、フレームに止着され、実際に釣糸が挿通されるガイドリングとを備えた構成となっている。前記フレームは、例えば、特許文献1に記載されているように、ステンレスやチタン等の金属製の板材料をプレス加工することで一体形成するのが一般的となっており、フレームには、釣糸を挿通させるガイドリングを保持するためのリング保持部と、釣竿の外表面に装着するための固定部が一体形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−340661号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した公知技術では、フレームが金属材料で構成されているため、重量が重く、比強度、比剛性、撓み性等の性能が悪く、また、これにより、しなやかさにも欠けるため、釣竿の性能の向上を図る上でネックとなっている。例えば、より軽量化が要求される釣竿では、上記したような釣糸ガイドを軸長方向に沿って多数装着すると、所望の性能が発揮できなくなってしまう。
【0005】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、重量が軽く、比強度、比剛性及び撓み性に優れた釣糸ガイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明は、前後方向に複数の繊維強化プリプレグを重ねた積層材からなる繊維強化樹脂製のリング保持部と支脚部とを具備したフレームを有し、前記リング保持部に釣糸が挿通されるガイドリングが取り付けられる釣糸ガイドであって、前記フレームの側面に現れる前記繊維強化樹脂の複数の層を面一に形成すると共に、前記側面の面形状を凸面状にしたことを特徴とする。
【0007】
上記した構成の釣糸ガイドは、そのフレーム部分が、繊維強化プリプレグを積層した複数の繊維強化樹脂層を有する積層材から構成されるため、軽量化が図れると共に比強度、比剛性及び撓み性に優れた構成となる。この場合、前記フレームの側面に現れる繊維強化樹脂の複数の層を面一に形成すると共に、前記側面の面形状を凸面状にしたことで、釣糸が接触しても、釣糸や積層材に傷が付くことが抑制され、また、積層材の剥離なども防止されることから、上記した性能を長期に亘って維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、重量が軽く、比強度、比剛性及び撓み性に優れた釣糸ガイドが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る釣糸ガイドの一構成例を示す縦断面図。
【図2】図1を矢印A方向から見た図。
【図3】釣糸ガイドを釣竿(竿管)に装着した状態を示す図。
【図4】釣糸ガイドを構成するフレームを成形する金型の構成例を示す図。
【図5】金型で成形された板状体からフレームを切り出す状態を示す図。
【図6】フレーム部分の一実施形態を示す図であり、フレームを構成するプリプレグの積層構造を拡大して示す図。
【図7】図6のA−A線に沿った断面図。
【図8】フレームを構成するプリプレグについて、別の研磨状態を示す図。
【図9】フレーム部分の最外層を模式的に示す図。
【図10】釣糸ガイドの別の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る釣糸ガイドの実施形態について説明する。
【0011】
最初に、図1から図3を参照して、本発明に係る釣糸ガイドの一構成例について説明する。これらの図において、図1は、釣糸ガイドの縦断面図であり、図2は、図1を矢印A方向から見た図、そして、図3は、釣糸ガイドを釣竿(竿管)に装着した状態を示す図である。なお、図1において、矢印A方向は、釣糸ガイドが釣竿に装着された際、釣竿の軸長方向と一致しており、図3は、元竿側から穂先竿側を見た図となっている。また、釣糸ガイドは、リング保持部が穂先側で、固定部が元竿側となるように取り付け、以下において、前側とは穂先側を意味し、後側は基端側を意味する。
【0012】
釣糸ガイド1は、強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグ(以下、プリプレグと称する)を積層した複数の繊維強化樹脂層を有する積層材によって形成されたフレーム3を備えている(プリプレグの構成、積層態様、及びフレームの詳細な製造方法については後述する)。
【0013】
積層材は、シート状のプリプレグを複数枚重ねて、加熱、加圧して硬化させて適度の厚みを有する板状に形成された繊維強化樹脂材を用いており、厚み方向に重ねたプリプレグごとに形成された複数の層が形成されている。
【0014】
前記フレーム3は、釣竿(竿管)40の外表面に装着される固定部5と、釣糸が挿通されるガイドリング6が取り付けられるリング保持部7と、リング保持部7と固定部5との間を連結する支脚部8とを具備しており、前記リング保持部7の軸線方向(図1の矢印A方向;前後方向)における厚みよりも左右方向の幅が大きい板状に形成されている。
【0015】
前記固定部5は、フレームの下端において、釣竿の表面に固定される部位(足部とも称される)であり、本実施形態では軸長方向に延び、その裏側の当接面5aが釣竿の表面に載置した状態で、糸止め、接着等によって固定される。なお、固定部5は1本足や2本足など、様々な形状をとることができる。
【0016】
前記リング保持部7は、釣竿の表面から離間した状態で釣糸を案内させるべく、ガイドリング6を止着させる部位である。リング保持部7には、ガイドリング6を嵌入、固定させるための開口7aが形成されており、全体として略円形の外形状を備えている。なお、開口7aに嵌入されるガイドリング6は、リング状に構成され、その内周面である釣糸案内面6a部分での摺動抵抗が小さい部材、例えば、チタン、アルミ、SUS、セラミックス等によって形成されている。このガイドリング6は、フレーム3が前記プリプレグによって一体形成された後、リング保持部7の開口7aに対して嵌入、固定される。
【0017】
また、前記支脚部8は、ガイドリング6を釣竿の表面から離間させるように、固定部5とリング保持部7とを連結する部位である。
【0018】
前記フレーム3には、少なくとも1つ以上の屈曲部が形成されている。本実施形態では、固定部5と支脚部8との間の境界部分に第1屈曲部10aが形成されており、さらに、支脚部8のリング保持部7側に、第1屈曲部よりも緩やかに屈曲した第2屈曲部10bが形成されている。この場合、前記境界部分は、実際に釣竿の外表面に対して固定状態となる固定部5の端部から、リング保持部7に向けて立ち上がる領域が該当する。
【0019】
フレーム3に上記したような屈曲部を形成する場合、特に、支脚部8に第2屈曲部10bを形成しておくことで、フレーム全体として、屈曲させることによる曲げ角度を段階的に設定することが可能となり、応力集中を分散させて強度を向上することが可能となる。また、上記のようにフレーム3に複数の屈曲部10a,10bを形成するのであれば、固定部5と支脚部8との間の境界部分、又はその近傍に形成される屈曲部(図において、第1屈曲部10aが対応する)よりも、支脚部8に形成される屈曲部(図において、第2屈曲部10bが対応する)の屈曲角度を小さく設定することが好ましい。具体的には、固定部5と支脚部8との間の境界部分、又はその近傍に形成される屈曲部の屈曲角度θ1は、30〜90度の範囲とし、支脚部8に形成される屈曲部の屈曲角度θ2は、それよりも小さい角度(θ1>θ2)で0〜45度の範囲とし、両角度を合わせたときに30度以上、100度以下にすることが好ましい。
【0020】
なお、図1に示すように、屈曲角度は、屈曲した部分の前後において、接線同士が交差する角度によって定義される。上記したように、フレームに2つの屈曲部10a,10bを形成した場合、その角度の関係は、上記のように設定されることが好ましい。また、固定部5とリング保持部7との間の屈曲角度(固定部5の下面接線とリング保持部7との交差する角度)θ3については、30〜100度の範囲で設定されることが好ましい。さらに、上記した支脚部8については、2つの屈曲部10a,10b間は直線状に形成されていたが、2つの屈曲部10a,10b間を、所定の曲面を有する湾曲状に形成しても良いし、支脚部全体を湾曲面で構成しても良い。
【0021】
このような角度関係となるように屈曲部を形成しておくことで、特定屈曲部への応力集中を防止でき、強度の安定化が図れる。
【0022】
また、上記したようなフレームに形成される屈曲部10a,10bは、応力集中して破損等し易い領域となっているが、後述するような製造方法、及びプリプレグの構成を用いることで、比強度、及び比剛性の向上が図られている。
【0023】
前記フレーム3は、後述するように、予め上記したような構成の屈曲部を形成した状態のプリプレグ(加熱成形後は板状体となっている)から、プレス加工等によって形成されるが、この際、所定の外形を有するように形成される。本実施形態では、図2に示すように、フレーム3は、固定部5の端部から第1屈曲部10aを介して立ち上がる支脚部8は、上方に移行するに従って次第に幅広となっており、ガイドリング6が取着される開口7aが形成された略円形のリング保持部7に一体的に連結される。この場合、図に示すように、支脚部8には、軽量化を図るために、開口(肉抜き)8aを形成しておいても良い。
【0024】
次に、上記したような形態のフレーム3を形成する方法、及びプリプレグの具体的な積層構造について、図4から図7を参照しながら説明する。なお、最初に、図4及び図5を参照して全体的な製造工程について説明し、次に、図6及び図7を参照して、フレームを構成する複数のプリプレグの積層状態、及び積層されるプリプレグの強化繊維の配列状態について説明する。
【0025】
上記したように、フレーム3は、強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグによって形成される。この場合、プリプレグは、例えば、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維が所定の方向に引き揃えられた状態、或いは編成されたシート状に構成されており、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)や熱可塑性樹脂(例えば、ナイロン)をマトリックス樹脂として含浸した構成となっている。
【0026】
最初、上記したようなプリプレグを所定形状に裁断し、これを複数層となるように重ね合わせる。重ね合わせるプリプレグの枚数(層数)や、個々のプリプレグの構成については特に限定されることはないが、上記したように、フレーム3に屈曲部10a,10bを形成すること、使用時においてフレーム3には負荷が加わること、装着される釣竿の特性や装着部分等を考慮し、プリプレグの種類や重ねる条件が任意に調整される。
【0027】
このように積層されるプリプレグは、図4に示すような金型50にセットされる。本実施形態の金型50は、上下に型割りされる上型51と下型52によって構成されており、積層されたプリプレグ(積層材20)は、下型52の所定位置にセットされる。上型51と下型52との間には、積層材20がセットされる位置に応じて空洞部50aが形成されており、その表面領域には、離型剤がコーティングされている。
【0028】
上記金型50を構成する上型51は凹状、下型52は凸状に構成されており、両者を押圧した際にフレーム3が形成されるように、両者の間に前記空洞部(この空洞部については、フレーム3の肉厚に対応している)50aが形成されている。そして、下型52には、前記積層材20を載置した際、上記した屈曲部10a,10bに対応する位置に、屈曲形成凸部52a,52bが形成され、上型51には、屈曲形成凸部52a,52bに対応して屈曲形成凹部51a,51bが形成されている。
【0029】
なお、前記積層材20は、一度に全体を重ね合わせた状態で下型にセットしても良いし、1枚づつセットする等、複数回に分けて積層しても良い。このように複数回に分けることにより、強化繊維の動きを少なくして、精度良く下型52の所定位置にセットすることもできる。本実施形態では、上記のように、金型50を上下割りにしているため、積層材20は下型52に載置して、金型の形状に合わせて所定形状に保持する。もちろん、金型については、一例を示したに過ぎず、型割りの方向については、左右方向としたり、傾斜方向にする等、任意の形態にすることが可能である。
【0030】
そして、積層材20を下型52にセットした後、積層材20を加圧し固定する。この加圧、固定については、上型51によって締め付けしても良いし、手や押圧具で押し付けても良い。この段階で、前記屈曲部を含め、成形後のフレーム形状に相当する形が保持され、これにより、成形後の内部残留応力の発生を防止でき、強度の向上、及び安定化が図れるようになる(この段階では、各プリプレグは未硬化状態(仮キュア後を含む)であり、屈曲部は加熱硬化前に形成されることとなる)。
【0031】
その後、加熱工程を施し、マトリックス樹脂を硬化して成形した後、成形品(屈曲部を有する板状体30となっている)を金型50から取り出す。
【0032】
なお、上記した屈曲部を金型50で押えて加熱硬化するときに、その屈曲部は、その前後の領域よりも相対的に強く加圧することが好ましい。このように、屈曲部の領域を強く加圧することで、成形されたフレームの屈曲部(10a,10b)のボイドを防止することができ、強度の向上、及び安定化が図れるようになる。また、これに伴い、成形されたフレーム3の屈曲部10a,10bは、その前後の領域(固定部や支脚部)よりも繊維比率を高くすることができるので、破損等しやすい屈曲部を強化することが可能となる。
【0033】
次に、板状体30から所定の形状となるようにフレームを切り出す。上記したように、プリプレグは、加熱硬化処理後に屈曲部が形成された板状体となっているため、プレス加工による切り出し、液体(ウォータージェット等)による切り出し、或いは刃具(エンドミル等)による切り出し等、任意の方法を採用することで、図5に示すように、1枚の板状体30から複数のフレーム3を切り出すことが可能となり、軽量で高強度の釣糸ガイドを効率良く製造することが可能となる。
【0034】
なお、この加工時において、フレーム3の基本的な外形状、すなわち、開口7aを有するリング保持部7、開口8aを有する支脚部8等を同時に形成することが好ましいが、これらを別々の工程で形成しても良い。また、前記板状体30に関しては、一枚の単純な平面形状に限らず、積層厚さを位置によって変化させたり、板状部分が複数方向に延びる形状(T字形状や逆Y字形状等)としたり、曲面形状を含んでいたり、更には、複数の板状の部分が組み合わされていても良い。
【0035】
次に、必要に応じて細部加工を施す。この細部加工は、例えば、固定部5の形状を釣竿に載置し易いように曲面状に形成したり、糸巻き・糸止めし易いように、固定部の端部を研磨等することが該当する。
【0036】
次に、フレームの表面処理を施す。この表面処理は、後述するように、フレームの側面に現れる繊維強化樹脂の複数の層(積層材20)が面一になるようにし、かつ、その側面の面形状が凸面状になるように施される。
【0037】
なお、このような研磨工程を施すに際しては、フレームの表面に強化繊維が一部露出しマトリックス樹脂が一部残るように研磨することが好ましい。こうすることで、研磨表面の光沢をより一層向上することが可能となる。
【0038】
次に、必要に応じて、フレームの全体又は一部分に被膜を形成する。例えば、外観向上やフレーム本体の保護のために塗装を行なうことや、金属やセラミックスを蒸着等することも可能である。
【0039】
そして、上記したように形成されたフレームの開口7aの部分にガイドリング6を取り付ける。ガイドリングの取り付け方法は、圧入や接着、カーリング、その他、任意の固定方法を採用することが可能である。
【0040】
上記したような製造方法によって形成される釣糸ガイドによれば、金属製のものと比較して、重量が軽くなり、更には、比強度、比剛性、及び撓み性に優れた構成とすることが可能となる。このため、そのような釣糸ガイドを多数個装着しても釣竿全体が重量化することはなく、釣竿の性能が向上する。特に、穂先竿のような部分では、より軽量化が図れることから、繊細な当たりを感知し易くなり、より釣竿の性能の向上を図ることが可能となる。
【0041】
次に、上記したようなプリプレグによってフレーム3を形成するに際して、そのプリプレグの好ましい配置態様、及び表面処理の仕方について図6及び図7を参照して具体的に説明する。これらの図において、図6は、フレームを構成するプリプレグの積層構造を拡大して示す図、図7は、図6のA−A線に沿った断面図である。
【0042】
図6に示す釣糸ガイドは、リング保持部7が前側(穂先側)、固定部5が後側(元竿側)になるような向きで釣竿40に取り付けられている。なお、図6は、フレーム3を前側(穂先側)から見た図である。
【0043】
上記したように、フレーム3は、その前後方向に強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグを積層した複数の繊維強化樹脂層を有する積層材20によって構成されており、本実施形態では、全体で8層のプリプレグが用いられている。ここでは、便宜上、積層材20を、前方側(穂先側)から後方側(元竿側)に移行するに連れて、順に、第1層20a、第2層20b、第3層20c、第4層20d、第5層20e、第6層20f、第7層20g、第8層20hとして定義する(このような積層構造では、積層側の中央にあたる第4層20dと第5層20eの間が積層材20の中央Cとなる)。また、図6では、フレーム3(支脚部8)が延在する方向Xをフレームの長手軸Xとして定義し、各層における繊維方向については、斜線又は格子線で示してある。
【0044】
積層材20の最外層となる前後面(第1層20a及び第8層20h)は、織布の繊維強化樹脂層によって構成されている。この場合、織布を構成する強化繊維は、前記長手軸Xに沿った方向と、これに直交する方向となるように設定されていることが望ましい。
【0045】
前記第1層20aと第8層20hの内層側(第2層20b及び第7層20g)は、長手軸Xに沿った方向(正確に一致しなくても良い)の一方向に引き揃えられた強化繊維からなる軸方向繊維強化樹脂層によって構成されている。
【0046】
また、その内層側(第3層20c及び第6層20f)は、前方から見たときに強化繊維が長手軸Xに対して右方向(+で定義する)に斜向した斜向繊維強化樹脂層によって構成されている。この場合、長手軸Xに対し右方向に傾斜していれば良いが、長手軸Xに対する傾斜角度は、10°〜60°の範囲が好ましく、また、両層の強化繊維の斜向角度は、正確に一致しなくても良い。
【0047】
さらに、その内層側(第4層20d及び第5層20e)は、前方から見たときに強化繊維が長手軸Xに対して左方向(−で定義する)に斜向した斜向繊維強化樹脂層によって構成されている。この場合、長手軸Xに対し左方向に傾斜していれば良いが、長手軸Xに対する傾斜角度は、−10°〜−60°の範囲が好ましく、また、両層の強化繊維の斜向角度は、正確に一致しなくても良い。
【0048】
したがって、積層材20における中央Cの前後の層が、共に強化繊維が左方向に斜向した斜向繊維強化樹脂層(第4層20d及び第5層20e)となっており、その外側は、共に強化繊維が右方向に斜向した斜向繊維強化樹脂層(第3層20c及び第6層20f)となっている。すなわち、積層材20の中央Cに対して一方側と他方側に、フレームの長手軸Xに対して互いに反対方向に強化繊維が傾斜した斜向繊維強化樹脂層が配設された状態となっている(第4層20dと第6層20f、及び第3層20cと第5層20e)。
【0049】
また、本実施形態の態様では、積層材20の中央Cに対して一方側と他方側に、フレームの長手軸Xに対して互いに同じ方向に強化繊維が傾斜した斜向繊維強化樹脂層が配設された状態となっている(第4層20dと第5層20e、及び第3層20cと第6層20f)。
【0050】
上記した積層材20から切り出して成形したフレーム(図5参照)は、積層状態が見える切断面が側面となっている。このため、側面に見える積層の境界部から水が浸入したり剥離が発生しないように処理することにより、上述した作用効果に加え、より耐久性の高い釣糸ガイドにすることが可能となる。
【0051】
さらに、フレームの側面は、釣糸が接触する可能性があるため、釣糸の傷付きが防止されると共に、その表面自体に傷が付かないような処理を施しておくことが好ましい。この場合、強化繊維は断面が略円形状に構成されていることから、図5に示すように切り出しを行なうと、側面における露出部分(繊維の露出端面)は、強化繊維が長手軸Xに対して斜めに切り出されているケースが多いことから、繊維端面は楕円形状になって側面の表面に多数配される状態となっており、このような繊維の露出端面が現れることで、傷が付き難い表面状態となっている。
【0052】
そして、このような露出状態(側面の状態)において、積層された複数の層が面一となり、かつ側面における面形状が凸面状になるように研磨処理を施し、層間で剥離したり、釣糸の傷付きなどをより効果的に防止するようにしている。この場合、研磨処理を施すことで、側面において露出するプリプレグにおける層間は、微視的には僅かに凹むこともあるが、マトリクス樹脂(合成樹脂)がそれを閉塞するように埋めるため、剥離の原因になることもない。
【0053】
上記した研磨処理は、例えば、バレル研磨を施すことで表面のバリを除去すると共に、表面の光沢が得られる程度に仕上げ研磨を施すことで実現することが可能である。具体的には、図7に示すように、積層材20(フレーム)の両側S1,S2の表面25,25の面形状は、フレームの断面を矩形形状Rとして捉えた場合、外側方向に突出する凸面状になっており、この凸面がフレームの側面に沿って長手方向に連続して形成されている。
【0054】
また、上記した研磨処理を施すに際しては、強化繊維とマトリクス樹脂が面一となるように滑面状に仕上げられている(強化繊維の端部は僅かに突出することもあるが、略面一に形成されている)。具体的には、側面における表面25,25は、平均表面粗さ(Ra値)が10μm以下になるように研磨されている。
【0055】
これにより、プリプレグの層間の剥離が防止され、耐久性の高いフレーム構造となり、釣糸が接触しても引っ掛かったり、傷付くことが防止される。なお、表面25,25を、平均表面粗さ(Ra値)が1μm以下になるまで研磨することで、強化繊維が覗く表面までが確実に滑面状に仕上げられ、破損などに繋がる傷がなくなり、より好ましい。
【0056】
図7に示す断面形状では、第1層20a側となる前面26aから、第8層20h側となる後面26bにかけて、全体を湾曲面に仕上げ接触した釣糸の傷付きを少なくしている。このような凸面形状では、その中央側の領域L1よりも、前面側と後面側の領域(角部)L2の曲率が小さくなるように研磨しておくことが好ましい。
【0057】
これにより、他物にぶつけ易く、又、釣糸が接触し易い中央領域L1の破壊を防止することが可能となる。
【0058】
なお、表面研磨の仕方については、図7に示す状態以外にも、例えば、図8に示すように、側面を凸面状にするに際して、前面26a及び後面26bから、側面に移行する角部25Aを面取りしたり、側面部25B全体を平面状(一部を平面状にしても良い)にしたり、或いは、平面状の側面部25Bから前面26a及び後面26bに移行する領域を、面取りすることなく湾曲状に仕上げても良い。
【0059】
側面の凸面状は、側面の前後両端に形成した前面26a及び後面26bから移行する領域よりも中央側が外方に突出して形成されて前後方向に山形状になっている。この凸面状は側面の長手方向に沿って形成されている。なお、最も突出する位置は、前後中間部としているが、これは中間部に限定されない。
【0060】
また、上記したような積層材20を構成するプリプレグについては、樹脂含浸量を15〜60重量%にすることで、軽量で剛性を大きくすることが可能である。更には、そのような範囲内において、特に、20〜40重量%にすることで、しなやかで安定した強度を有するフレームにすることが可能となる。
【0061】
また、上記した構成では、前後面側に、織布状の強化繊維を有する層(第1層20a、第8層20h)を配設していることから、長手軸Xに対して直交する方向の強化繊維が配されるが、上記したように角部が研磨されることから、実際には、そのような層は側面まで達することはない。
【0062】
従って、上記した積層材20の構成において、側面に達している強化繊維は、側面と平行に配されるか、側面に対して傾斜方向で達しており、しかも、傾斜角度は浅く、側面に現れる繊維強化樹脂の強化繊維は、45°以下(少なくとも60°以下)の角度で側面に達しているものが殆どであるため、表面を容易に研磨することが可能となる。
【0063】
以上のような積層材20の構成によれば、フレーム自体の軽量化が図れると共に、比強度、比剛性及び撓み性に優れた釣糸ガイドを構築することが可能となる。特に、フレーム8の側面に現れる繊維強化樹脂の複数の層を面一に形成すると共に、側面の面形状を凸面状にしたことで、釣糸が接触しても、釣糸や積層材に傷が付くことが抑制され、また、積層材の剥離なども防止されることから、上記した性能を長期に亘って維持することが可能となる。
【0064】
また、上記した構成では、積層材20の中央Cに対してその前後の一方側と他方側に、それぞれ中央Cから積層順で離れる方向にフレームの長手軸Xに対して互いに同じ方向に強化繊維が傾斜した斜向繊維強化樹脂層を同じ順序に配設しているため、釣糸ガイド1のフレームの前後で、曲げ剛性とねじれ剛性が同じにすることができ、負荷に対してフレームが一定の方向に片寄って歪むことを防止することとなる。
【0065】
また、上記した構成の積層材20は、長手軸Xに沿った方向の一方向に引き揃えられた強化繊維からなる軸方向繊維強化樹脂層(第2層20b及び第7層20g)を備えているため、これにより長手軸方向の曲げ剛性が高められるようになる。
【0066】
さらに、上記した構成の積層材20は、最外層となる前後面(第1層20a及び第8層20h)に織布の繊維強化樹脂層を備えているため、釣糸が接触しても強化繊維の裂けや剥離などが生じ難く、強度の向上、及び安定化が図れると共に、内側の繊維強化樹脂層を効果的に保護することが可能となる。
【0067】
なお、このような織布の繊維強化樹脂層20a,20hについては、図9に示すように、強化繊維を編成した主たる繊維の網目の幅w(通常、強化繊維は、多数本が束ねられた状態で繊維束を構成しており、この繊維束が編成されて織布状に構成されるため、網目は繊維束の幅で特定される)が、フレーム3の支脚部8の幅W(ここでの幅は最小となる部位の幅が該当する)よりも小さくなるものを用いることが好ましい。
【0068】
このような織布の繊維強化樹脂層20a,20hを配設することで、より確実に強化繊維が剥離、破損することを防止でき、強度の向上、及び安定化が図れるようになる。また、上述した屈曲部10a,10bについても相対的に強化することができ、軽量で強度バランスに優れた釣糸ガイドとすることが可能となる。もちろん、上記した織布の繊維強化樹脂層20a,20hの網目の幅については、固定部5やリング保持部7の領域においても、同様にそれらの部分での最小幅よりも小さくすることが好ましい。
【0069】
また、図9に示した配置態様では、織布の編目の方向が、上下の鉛直方向AXに沿っているが、これを鉛直方向AXに対して所定角度、傾斜させることが好ましい。このように傾斜させることで、強化繊維は、上記した長手軸Xに沿った方向、及びそれに直交する方向となり、強化繊維の破断や剥離を効果的に防止することができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した構成に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
【0071】
本発明は、釣糸ガイドを構成するフレーム部分を、繊維強化プリプレグで構成すると共に、比強度、比剛性等を高め、更には、フレームの側面を面一に形成し、かつ凸面状に仕上げたことに特徴がある。
【0072】
上記したような側面の形状については、バレル研磨以外にも、例えば化学研磨によって形成しても良い。また、研磨の程度については、釣糸ガイドのサイズや形状、材質特性などによって研磨剤や研磨時間などを任意に調整することが可能である。このような加工を施すことにより、強化繊維を切断することなく、フレームを研磨することが可能となり、強度の安定化が図れると共に、外観の優れた釣糸ガイドとすることが可能となる。
【0073】
また、上記したフレームを構成するプリプレグについては、強化繊維の種類、弾性率、指向方向、樹脂含浸量、肉厚などの構成、及び積層状態等については、上述した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
【0074】
さらに、釣糸ガイドは、釣竿に対して糸止め等によって固定される構成を説明したが、例えば、釣竿に対して摺動可能に外嵌される遊動ガイドとして構成されていても良い。このような遊動ガイドであれば、上記したフレーム3に屈曲部を形成しない構成であっても良い。すなわち、図10に示すように、フレーム3Aは平板状に構成されており、一端側に、固定部5Aとして、開口5dが形成され(開口5dが固定部5Aに設けられている)、他端側に、リング保持部7Aとして、ガイドリングが固定できる開口7cが形成されている。また、固定部5Aとリング保持部7Aとを連結する支脚部8Aには、必要に応じて肉抜き8cが形成される。そして、開口5dには摺動固定リング5cが装着され、摺動固定リング5cが装着された開口5dに図示しない筒状体を固定することにより、この筒状体の内側面に形成される凹凸条の部分と釣竿の竿杆とが係合される。
【0075】
このように、釣竿の装着位置に応じて、フレームには屈曲部を形成しない構成であっても良く、このような釣糸ガイドを構成するフレームに用いられるプリプレグについては、織布層の単層構造にしても良い。もちろん、上述したような積層構造としても良く、別途、屈曲部を形成しても良い。或いは、摺動固定リング5cが装着される部分(符号5Dで示す領域)については、リング保持部7Aよりも厚く形成しているが、全体として同じ肉厚にしても良く、厚さや形状については任意に設定することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 釣糸ガイド
3 フレーム
5 固定部
6 ガイドリング
7 リング保持部
8 支脚部
20 積層材
25 表面
25A 角部
25B 側面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に複数の繊維強化プリプレグを重ねた積層材からなる繊維強化樹脂製のリング保持部と支脚部とを具備したフレームを有し、前記リング保持部に釣糸が挿通されるガイドリングが取り付けられる釣糸ガイドであって、
前記フレームの側面に現れる前記繊維強化樹脂の複数の層を面一に形成すると共に、前記側面の面形状を凸面状にしたことを特徴とする釣糸ガイド。
【請求項2】
前記面形状を凸面状に形成した側面は、その中央側よりも前面側と後面側の曲率が小さいことを特徴とする請求項1に記載の釣糸ガイド。
【請求項3】
前記フレームの側面は滑面状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の釣糸ガイド。
【請求項4】
前記フレームの前後面は、織布状の繊維強化プリプレグにて形成したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の釣糸ガイド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−110007(P2011−110007A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271562(P2009−271562)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】