説明

釣糸ガイド

【課題】ガイドリング及びこのガイドリングを保持する保持部を軽量化し、釣糸ガイドの全体に重量を軽くし、釣竿の性能向上を図ること。
【解決手段】ガイドリング12を保持するリング保持部14と、このリング保持部14を支える支脚部16と、釣竿に取付ける装着部20とを有するフレーム18を備えた釣糸ガイド10であって、リング保持部14を繊維強化樹脂で形成し、このリング保持部14で保持するガイドリング12は、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、t/D≦0.11の関係を満たす範囲に形成した釣糸ガイド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り竿に用いる釣糸ガイドに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、釣糸ガイドは、釣糸が釣り竿の表面に付着するのを防止するために、間隔をおいて釣り竿の外側に取付けられる。このような釣糸ガイドには、ガイドリングを保持する固定環を金属で形成し、この金属管の強い弾性でガイドリングを強固に固定するものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭58−3477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような金属製固定環の弾性でガイドリングを保持する釣糸ガイドは、金属製固定環の内周から突起を突出させ、ガイドリングを固定環内に圧入したときに、ガイドリングに当接する突起と、固定環内の内接点とに作用する力で固定環を変形させ、原形に復帰しようとするときの力でガイドリングを保持するものである。
【0005】
このため、ガイドリングは、特に、突起から作用する強い弾性に耐える十分な厚さに形成する必要があり、固定環を含むフレーム及びガイドリングのの重量が重く、釣糸ガイドの全体が重くなり、釣竿の性能の向上が阻害されることになる。
【0006】
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、ガイドリング及びこのガイドリングを保持する保持部を軽量化し、釣糸ガイドの全体に重量を軽くし、釣竿の性能向上を図ることを目的とする。更に、ガイドリングに強い負荷が作用することを防止し、安定したガイドリングの保持が可能な釣糸ガイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の釣糸ガイドは、ガイドリングを保持するリング保持部と、このリング保持部を支える支脚部と、釣竿に取付ける装着部とを有するフレームを備えるものである。
【0008】
そして、上記目的を達成するため、前記リング保持部を繊維強化樹脂で形成し、前記ガイドリングを、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、t/D≦0.11の関係に形成した釣糸ガイドが提供される。
【0009】
また、前記リング保持部を繊維強化樹脂で形成し、前記ガイドリングをセラミックスで、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、D≦5.0mm、t/D≦0.22の関係に形成した釣糸ガイドが提供される。
【0010】
前記リング保持部を形成する繊維強化樹脂中の強化繊維の一部が前記ガイドリングの外側に接触した状態で、リング保持部がガイドリングを保持することが好ましい。
【0011】
更に、前記ガイドリングを、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、t/D≦0.11の関係に形成し、前記リング保持部は、非弾性状態で前記ガイドリングを保持する釣糸ガイドが提供される。
【0012】
また、前記ガイドリングをセラミックスで、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、D≦5.0mm、t/D≦0.22の関係に形成し、前記リング保持部は、非弾性状態で前記ガイドリングを保持する釣糸ガイドが提供される。
【0013】
前記ガイドリングとリング保持部との間に、極薄皮膜を配置することもできる。
【0014】
前記ガイドリングは、外周部に周方向に延びる凹部を有し、この凹部は軸方向に沿う幅と径方向に沿う深さとの少なくとも一方の寸法が、前記ガイドリングの厚さよりも大きく形成されるものであってもよい。
【0015】
前記ガイドリングは、前記凹部を区画する端壁を軸方向の両端に有し、これらの端壁の外径が互いに異なるものであってもよい。
【0016】
前記ガイドリングの凹部に、繊維強化樹脂又は強化繊維を配設することもできる。
【発明の効果】
【0017】
リング保持部を繊維強化樹脂で形成し、ガイドリングを、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、t/D≦0.11の関係に形成した本発明の釣糸ガイドによると、ガイドリングをリング保持部の強い弾性で保持する必要がなく、案内部の繊維強化樹脂により安定して保持することができ、このため、ガイドリングは強度維持に必要な寸法を極めて小さくすることができ、釣糸ガイドを軽量化し、ガイドリング及びこのガイドリングを保持するリング保持部を軽量化し、釣糸ガイドの全体に重量を軽くし、釣竿の性能向上を図ることができる。
【0018】
また、リング保持部を繊維強化樹脂で形成し、ガイドリングをセラミックスで、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、D≦5.0mm、t/D≦0.22の関係に形成した釣糸ガイドは、このような内径の小さなセラミックス製のガイドリング及びこのガイドリングを保持するリング保持部を軽量化し、釣竿の穂先側に装着するような、小さな釣糸ガイドの全体に重量を軽くし、釣竿の性能向上を図ることができる。
【0019】
リング保持部を形成する繊維強化樹脂中の強化繊維の一部が前記ガイドリングの外側に接触した状態で、リング保持部がガイドリングを保持する場合には、強化繊維がガイドリングに当接することにより、ガイドリングが安定した状態で保持される。
【0020】
リング保持部が、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、t/D≦0.11の関係を満たすガイドリングを保持し、非弾性状態でガイドリングを保持することにより、リング保持部は応力とひずみが比例せず、ガイドリングはリング保持部の弾性変形に伴う締付力に耐える必要がなく、軽量化することができる。
【0021】
ガイドリングをセラミックスで、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、D≦5.0mm、t/D≦0.22の関係に形成し、リング保持部が、非弾性状態で前記ガイドリングを保持することにより、リング保持部は応力とひずみが比例せず、ガイドリングはリング保持部の弾性変形に伴う締付力に耐える必要がなく、軽量化することができる。
【0022】
ガイドリングとリング保持部との間に、極薄皮膜を配置した場合には、温度変化による内部応力の影響や外部からの衝撃を緩和し、ガイドリングを安定した状態で保持することができる。
【0023】
ガイドリングは、外周部に周方向に延びる凹部を有し、この凹部は軸方向に沿う幅と径方向に沿う深さとの少なくとも一方の寸法が、ガイドリングの厚さよりも大きく形成される場合には、ガイドリングの内周面に大きな案内面を形成し、釣糸を円滑に案内することができる。
【0024】
ガイドリングが、前記凹部を区画する端壁を軸方向の両端に有し、これらの端壁の外径が互いに異なる場合には、リング保持部へのガイドリングの装着が容易となる。
【0025】
ガイドリングの凹部に、繊維強化樹脂又は強化繊維を配設した場合には、釣り糸ガイドのより一層の軽量化と小型化とが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態による釣り用ガイドの全体を示す斜視図。
【図2】図1の釣糸ガイドを装着部側から見た説明図。
【図3】釣糸ガイドのガイドリング及び保持部の断面図。
【図4】他の実施形態による釣糸ガイドの図3と同様な断面図。
【図5】更に他の実施形態による釣糸ガイドの図3と同様な断面図。
【図6】更に他の実施形態による釣糸ガイドのガイドリングを保持部で保持した状態の説明図。
【図7】釣糸ガイドの製造工程の一部を示す説明図。
【図8】釣糸ガイドのフレームの製造工程の一部を示す説明図。
【図9】釣糸ガイドの他の製造工程の一部を示す説明図。
【図10】図9の製造工程におけるフレームの製造工程の一部の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1から図3は、本発明の実施形態による釣糸ガイド10を示す。
【0028】
本実施形態の釣糸ガイド10は、釣り竿の竿管8の外面に釣糸が付着するのを防止する外ガイドとして形成してあり、僅かな勾配を形成された竿管8の外周上の所要位置に取付け、例えば糸巻、糸止め、あるいは接着剤等の適宜の固定手段を用いて固定することができる。必要な場合には、適宜の摩擦保持手段により、所要位置に保持し、必要に応じて、前方の穂先側から後方の元側に沿って、竿管8の軸線Cと平行な軸方向に前後動し、所要位置に摩擦力で保持するようにしてもよい。
【0029】
竿管8は通常と同様に、炭素繊維等の強化繊維にエポキシ樹脂等の合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグシートを周方向、軸長方向あるいは軸長方向に対して適宜角度に傾斜した偏向方向に引き揃えて巻回し、これらの複数の繊維層を積層した中空竿管から形成したものでよい。
【0030】
この竿管8に取付ける釣糸ガイド10は、ガイドリング12を保持するリング保持部14とこのリング保持部14を一端側で支える支脚部16とを有する板状構造のフレーム18を備える。このフレーム18は、支脚部16の他端側に装着部20を一体に形成してあり、この装着部20を糸巻や、接着等の固定手段により竿管8の外面上に固定される。
【0031】
リング保持部14は、略円形形状に形成してあり、支脚部16はリング保持部14の外縁部から滑らかな曲線状に延びる2つの脚部16a,16bと、これらの脚部と一体化して装着部20に対して屈曲部22を形成する連結部16cとを有する。屈曲部22は、連結部16cと装着部20との間に角度αを形成し、この角度αにより、竿管8に対するリング保持部14の高さ、向きを調整することができる。
【0032】
2つの脚部16a,16b間に形成した凹部17はフレーム18の軽量化を図るものであり、図示のように1つに限らず、所要部位に複数配置してもよい。また、リング保持部14を保持できるものであれば、このリング保持部14と別体に形成することも可能である。
【0033】
フレーム18を竿管8に固定する装着部20は、支脚部16から元側の魚釣用リール(図示しない)に向けて延びる板状に形成してあり、支脚部16から離隔した自由端側には、肉厚が次第に減少する薄肉化部を設けることにより、竿管8に固定する際の糸巻作業を容易にすることができる。装着部20は、支脚部16から一方側に延びるものだけに限らず、支脚部16から前後方向に延びるものでもよく、また、竿管8の外面に嵌合するリング状構造を有するものでもよい。
【0034】
リング保持部14には、ガイドリング12を保持する貫通孔14aを形成してあり、この貫通孔14aを介して保持されるガイドリング12は、滑らかな円環状の曲面で形成した内面を釣糸案内面12aとして有し、この釣糸案内面12aで囲まれた釣糸導通孔を通して釣糸を案内する。
【0035】
図1及び図2では、このガイドリング12は、釣糸導通孔の中心軸Oを竿管8の軸線Cとほぼ平行に配向させてあり、軸方向の両端部をリング保持部14から僅かに突出させ、湾曲面により釣糸を滑らかに導入し、反対側に導出する。なお、貫通孔14aの中心軸も釣糸導通孔の中心軸Oと一致する。また、フレーム18は、この中心軸Oと竿管8の軸線Cをと含む面を中心として左右対称形状に形成してある。
【0036】
図3に示すように、本実施形態のガイドリング12の釣糸案内面12aは、中心軸Oに垂直でかつフレーム18のリング保持部14の前後方向中央に配置される中央面Mを中心として、前後対称形状の断面形状に形成してある。
【0037】
また、ガイドリング12の外周面24は、中高構造に形成してあり、中央部に配置した大径部24aと、この中央面を挟む小径部24bとを有する。大径部24aは円筒状面で形成され、小径部24bは、大径部24aからガイドリング12の端面まで延びる湾曲面で形成してあり、前後の端面に滑らかに移行する。フレーム18のリング保持部14から突出した端部部位で釣糸を傷付けることはない。
【0038】
このガイドリング12は、フレーム18の特にリング保持部14よりも耐磨耗性に優れた硬質材料で形成し、例えばシリコンカーバイト(SiC)、アルミナオキサイト、タングステンカーバイト、ファインセラミックス等のセラミック材料、SUS、チタン等の金属材料で形成するのが好ましい。または、耐磨耗性表面処理を施したものであってもよい。
【0039】
通常、このようなガイドリング12は、中央面M内における径方向に沿う厚さをt、釣糸案内面12aの内径をDとしたときに、形成する材料及び口径に係わらず、原則として、0<t/D≦0.11の関係に形成し、特に、0<t/D≦0.10の関係であるのが好ましい。このような関係は、具体的には、ガイドリング12を形成する材料の強度と、ガイドリング12として要求される強度とで実際の値が定まるものであるが、要求される強度を確保できる限り、肉厚tを最小の値に形成することが好ましい。これにより、ガイドリング12がその機能を維持しつつ極限まで薄肉化し、軽量構造に形成することができる。いずれの場合も、ガイドリング12の軸方向に沿う幅をXとしたときに、2t>Xとなるように形成することも可能であるが、釣糸案内面12aを大きくするために、2t≦Xの関係にあることが好ましい。
【0040】
なお、厚さt及び内径Dを中央面M内の値で特定したのは、図示のガイドリング12がこの中央面M内で最大の厚さtと最小の径Dとが特定できるからである。したがって、最大の厚さt及び最小の内径Dが特定できる面内であれば、中央面M以外の面内でこれらの厚さと内径とを特定することができる。
【0041】
一方、内径Dが5mm以下(D≦5.0mm)の小口径のセラミックス製のガイドリング12は、0<t/D≦0.22の関係に形成し、特に、0<t/D≦0.20関係であるのが好ましい。セラミックス製ガイドリングに要求される強度を維持しかつ最小の厚さに形成して、軽量構造とすることができる。この場合の軸方向寸法Xと厚さtとは、釣糸案内面の拡大化のために、t<Xの関係にあることが好ましい。
【0042】
このようなガイドリング12を保持するフレーム18のリング保持部14は、多数の強化繊維25からなる繊維束26,28,30,32を貫通孔14aの周部に沿って湾曲させつつ延設し、これらの繊維束に合成樹脂33を含浸させた繊維強化樹脂により、形成してある。この繊維束は、予め合成樹脂を含浸して形成しておいてもよい。図3には、内周側に積層される繊維束26,28と外周側に積層される繊維束30,32とをそれぞれ径方向に重なる状態に配置してあるが、貫通孔14aを滑らかな曲面に形成するものであれば、全体が1つの連続した繊維束で形成するものであってもよく、任意数の繊維束を重ねて形成することもできる。
【0043】
このような繊維束は、径又は断面形状をその長さ方向に沿って一定に形成する必要はなく、例えば径又は厚さを変化させ、一部をシート状に形成する等、その中間部位で必要に応じて適宜に変動させることもできる。フレーム18の全体を繊維強化樹脂で形成する場合には、繊維束内の糸状体すなわち強化繊維25は、少なくとも一部が支脚部16及び装着部20(図1,2)と連続することが好ましい。
【0044】
このような繊維束の糸条体を形成する強化繊維25は、種々のものを用いることができるが、長繊維であるのが好ましく、例えば、カーボン繊維、ガラス繊維、ボロン繊維等の高弾性繊維、アラミド繊維、ポリエーテルイミド繊維等の合成樹脂繊維、更に、SUS、チタン合金、NT合金等の金属繊維を使用することができる。また、含浸するマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、メラニン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。また、熱可塑性樹脂も使用でき、粘着型のゴム系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂又はポリサルファイド樹脂等を用いるものと、ホットメルト型のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体又はエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いることができる。
【0045】
本実施形態のリング保持部14は、内側の繊維束26,28の強化繊維25の一部が貫通孔14aの内周面に露出する。この露出した強化繊維25は、中央面Mに隣接する部位でガイドリング12の大径部24aに当接する。このガイドリング12の端部側の小径部24bでは、マトリックス樹脂33が接触している。これにより、強化繊維25と、ガイドリング12の外周面24とが確実に接触し、ガイドリング12を安定して支持することができる。また、小径部24bに接触するマトリックス樹脂33は、異物や釣糸の進入を阻止し、また、フレーム18のリング保持部14が、例えば外力で撓み変形したときに、樹脂33は弾性変形し、その変形を吸収することができる。
【0046】
このようなリング保持部14は、軸方向に沿う幅をWとしたときに、W≦Xの関係に形成することにより、リング保持部14に対する糸当りを防止し、繊維強化樹脂製のリング保持部14の損傷を抑制することができる。これとは逆に形成することも可能であり、この場合には、ガイドリング12をより確実に保持することができる。また、リング保持部14の径方向に沿う厚さをHとしたときに、2t≦Hの関係に形成することにより、厚さの薄いガイドリング12の保持力を向上させることができる。
【0047】
図4は、フレーム18のリング保持部14を、複数のプリプレグシートを積層した積層体36で形成した実施形態を示す。なお、以下に説明する種々の実施形態又は変形例は、基本的には上述の実施形態と同様であるため、同様な部位には同様な符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0048】
このフレームのリング保持部14を形成する積層体36は、強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグシートを重ねて板状に成形し、リング保持部14と共にフレーム18を切出して形成してある。この積層体36を形成する各プリプレグシートの枚数及びその強化繊維の配向方向は適宜に形成することができるが、リングの幅の方向に均等な強度を得るために、中央面Mを中心として対称的になる方向に強化繊維を配向させることが好ましい。
【0049】
このような積層体36で形成したリング保持部14の貫通孔14aの内面と、ガイドリング12の外周面24との間には、極薄皮膜38を配置してある。この極薄皮膜は、上述のマトリックス樹脂を用いることができ、中央面M内における厚さeを、150μm以下に形成することが好ましい。
【0050】
この極薄皮膜38は、ガイドリング12の外周面24上で軸方向の端部部分まで広く配置することができ、ガイドリング12の脱落を確実に防止する。また、温度変化による内部応力の影響や外部からの衝撃を緩和し、ガイドリング12を安定した状態で保持することができる。
【0051】
更に、積層体36の強化繊維が貫通孔14aの内面に露出し、この強化繊維が極薄皮膜38に達し、一部が極薄皮膜38に食込むと、この強化繊維をガイドリングの外周面24に当接させることができ、ガイドリング12の保持力を向上させることができる。
【0052】
図5は、ガイドリング12の外周面24に周方向に延びる凹部40を形成した実施形態を示す。
【0053】
このガイドリング12は、ほぼ一定の肉厚Pで断面U字状に形成してあり、このU字形状を形成する前端側壁部13aと後端側壁部13bとの間に凹部40を形成してある。糸保持部14の貫通孔14aに対する装着を容易にするために、本実施形態では前端側である一端側の壁部13aの厚さt2を、後端側壁部13bの厚さt1よりも小さく形成してある。この壁部13a,13b間に形成する凹部40は、幅Gと径方向に沿う深さFとの少なくとも一方が、ガイドリング12の肉厚Pよりも大きく形成してあり、釣糸案内面12aの面積を広く形成し、釣糸を滑らかに案内する。
【0054】
この凹部40内には、繊維強化樹脂又は強化繊維41を配設することができ、これにより、肉厚Pの薄い薄肉構造であっても、ガイドリング12したがって釣り糸ガイド10のより一層の軽量化と小型化とが可能となる。強化繊維41は、周方向に沿って配設する他、螺旋状に撚った繊維束や組紐状の繊維束であってもよく、このような強化繊維41を配設下場合には、上述のようなマトリックス樹脂を含浸させることが好ましい。
【0055】
なお、フレーム18のリング保持部14の前後の端面とガイドリング12の外周面24との間に接着剤又は固着剤42を充填し、異物の侵入や釣糸の引掛かりを防止することが好ましい。これにより、ガイドリング12の脱落を確実に防止することができる。
【0056】
図6は、ガイドリング12に図5と同様な凹部40を形成した実施形態を示す。
【0057】
この実施形態の凹部40は、深さを浅く形成してあり、フレーム18のリング保持部14に形成した管通孔14aに、前端側壁部13aを差し込んで固定することができる。貫通孔14aの周部に、面取り等で形成した抜け止め部15を形成してあり、この抜け止め部15に壁部13aが係合して脱落しないように保持される。凹部40と貫通孔14aの内周面との間に、樹脂又は接着剤44を充填し、ガイドリング12を回り止めし、ガタ付きを防止することが好ましい。
【0058】
上述のガイドリング12は、いずれも0<t/D≦0.11の関係、又は、内径が5mm以下のセラミックス製の場合には、0<t/D≦0.22の関係に形成した極めて軽量構造に形成したものであり、フレーム18のリング保持部14は、非弾性状態でガイドリングを保持する。ここに、非弾性状態とは、応力とひずみが比例してない状態をいう。したがって、リング保持部14が繊維強化樹脂で形成されている場合には、リング保持部14がガイドリング12を装着する前と装着した後で、ある程度のひずみが発生した状態であっても、リング保持部14の強化繊維に引張応力(円周方向の応力)が発生せず、これにより、リング保持部14を形成する強化繊維に作用する応力が全くないか、又は、強化繊維の引っ張り応力がゼロに近い状態をいう。これにより、形状の微小な凹凸や圧接状態は有していても、リング保持部14のヘタリを防止して長期間にわたり、安定してガイドリングを保持することができる。
【0059】
また、リング保持部が繊維強化樹脂以外の材料で形成されていても、非弾性状態でリング保持部がガイドリングを保持した状態では、従来技術におけるような強い弾性で保持せず、例えばガイドリング12を保持した状態とガイドリングを外した状態を比較したときに、リング保持部の内形状が変化しない状態である。単なる圧入状態、又は、強い弾性が作用した状態とはならない。
【0060】
非弾性状態でガイドリング12を保持するには、種々の方法を取り得るが、次のような方法を採用することができる。例えば、リング保持部14の全体の拡径を伴う変形を来さない範囲でガイドリング12を圧入嵌合する。リング保持部14の前後方向の一部(例えば前後に沿う幅寸法の1/2以下の幅)をガイドリング12の外周面に接触させる。又は、この一部分の強化繊維をガイドリング12の外周に接触させる。更に、ガイドリング12をリング保持部14の貫通孔14aに圧入する際、樹脂を抉り取るように圧入したり、強化繊維を折り曲げるように圧入するなどにより、非弾性状態にガイドリング12を固定することができる。
【0061】
このようなリング保持部14で保持されるガイドリング12は、フレーム18、特にリング保持部14から径方向、又は、周方向の押圧力を受けることはなく、引張力を受けることもない。ガイドリング12が軽量化されることにより、釣糸ガイド10も軽量化され、釣竿の操作性を大きく向上させることができる。
【0062】
そして、リング保持部14を繊維強化樹脂で形成することで、リング保持部14の形状変形による強い弾性で固定しなくても、強化繊維と樹脂によりガイドリング12を安定的に保持することができる。
【0063】
図7から図10は、このようなフレーム18をリング保持部14と共に繊維強化樹脂で形成する製造工程の一部を示す。
【0064】
図7及び図8は、図4に示すような積層体36によるフレーム18を、下型46と上型48からなる金型を用いて製造する製造工程の概略を示す。
【0065】
積層体36を形成する繊維強化プリプレグシート(図示しない)を所定形状に切断し、その強化繊維の配向方向を所要の方向に沿わせて重ね合わせる。積層する繊維強化プリプレグシートの枚数又は層数は、繊維強化プリプレグシートの種類や重ねる条件に応じて任意に調整することができ、例えば一度に積層体36に必要な全体の分を重ね合わせることも可能であるが、複数回に分けることで、各繊維強化プリプレグシート中の強化繊維の動きを少なくした状態で上下の金型46,48に高精度でセットすることができる。
【0066】
金型46,48には、例えば金属材料、鋳物、セラミックス等の適宜の材料で形成してあり、互いに対応した凹部46a,48aからなるキャビティを複数組形成しておくことが好ましい。これらの金型46,48には予め離型剤をコーティングしておき、この凹部46a,48aに合わせて積層した繊維強化プリプレグシートをセットする。繊維強化プリプレグシートは、予め重ね合わせた状態でセットしてもよく、一枚ずつ順にセットしてもよい。図示の金型46,48は、積層体36の中立面M(図3)を挟んで上下に型割りしているため、下型46に繊維強化プリプレグシートを載置し、この下型46の形状に合わせて保持することができる。
【0067】
繊維強化プリプレグを下型46にセットした後、上型48で繊維強化プリプレグを加圧し、下型46に固定する。このとき、未硬化状態(仮キュア後を含む)の繊維強化プリプレグシートに屈曲部22(図1)を形成し、フレーム18の形状に相当する形状に保持する。これにより、成形後の内部残留応力の発生を防止でき、強度の向上、安定化を図ることができる。
【0068】
この後、繊維強化プリプレグシートを加熱硬化し、所定形状に成形した積層成形材30として金型40,42から取り出す。
【0069】
図5に示すように、金型46,48から取り出した積層体36は、帯状の板状体47として形成されており、フレーム18に形成する部位を多数連ねた状態に形成される。
【0070】
フレーム18は、例えばプレス加工、ウォータージェット等の流体の噴出による切出し、エンドミル等の刃具による切出し等の適宜の方法により、この板状体47からそれぞれ切出し、加工することができる。この板状体47からそれぞれのフレーム18を加工する際に、リング保持部14の貫通孔14aおよび支脚部16の凹部17を同時に加工することが好ましい。必要な場合には、フレーム18を切出し加工した後に、貫通孔14aおよび凹部16b等の加工、更に、必要に応じて、細部の加工を行うことが好ましい。
【0071】
図9及び図10は、プリプレグシートからなる積層体36に代え、図3に示すように、多数の強化繊維を同じ方向に沿わせて束ねた束状、撚り合わせた撚り糸状、編込んだ編糸状又は互いに交差させて組紐状に形成した糸状体56により、金型50,52を用いてフレーム18を製造する製造工程の一部を示す。
【0072】
図示の金型50,52は、その間に、フレーム18を収容するキャビティ50a,52aを形成する。このキャビティ50a,52aは、フレーム18の骨組み構造に沿った溝状に形成してあり、一方の金型からは、形成リング保持部14の貫通孔14a及び凹部17を形成する部位に突出部51a,51bを形成してある。そして、一端が開口部54を介して外部に開口し、糸状体56の端部を金型50,52の外方に導出することができる。
【0073】
この金型を用いてガイドリング12とフレーム14とを一体的に形成する場合は、上型52と下型50とを分離し、一方のキャビティ50aの全体を外部に開口させる。
【0074】
図10に示すように、一方のキャビティ50a内に糸状体56を配置する。この際、繊維束を形成する糸条体56を、キャビティ50aの溝方向に沿い、このキャビティ50a内に所要の形状又はパターンで配置する。特に、固定側屈曲部22を形成する固定側支脚領域16c及び装着部20の部位は、強化繊維量を多くするほか、中間部16bよりも、合成樹脂比率(重量%)を多くし、肉厚を厚くし、又は、断面関を大きくすることにより、屈曲部22における強化繊維の剥離や破損を防止することが好ましい。
【0075】
この糸条体56に合成樹脂を含浸しないで配置する場合は、所定のパターンを形成した後、閉じたキャビティ50a,52a内に合成樹脂を例えば圧入して充填する。合成樹脂を含浸した状態の糸状体56を用いた場合には、このような合成樹脂の充填は必要ない。
【0076】
なお、このような糸状体56で形成するフレーム18は、補強又は剛性を向上するために、部分的に繊維強化プリプレグシートを配置してもよく、任意の材料を組合わせて使用することができる。特に、幅・厚さ・断面積のいずれかが変化する部分に、例えば所定形状に切断したプリプレグシート等の補助材料を配置してもよい。上述の積層成形体30と糸状体46とを組合わせて形成することもできる。
【0077】
糸状体56をキャビティ50a,52a内に配置した後、図7及び図8に示す工程と同様に、上型52と下型50とを重ね合わせ、加圧すると共に、キャビティ50a,52a内の材料の成形温度に加熱する。成形後、金型からフレーム18を離型する。
【0078】
このように金型46,48又は金型50,52を用いて形成したフレーム18に、必要な細部加工を終えた後、バレル研磨により、フレーム18の表面のバリを除去すると共に、表面に光沢が得られる程度に仕上げ研磨する。この研磨の程度は、釣糸ガイド10のサイズ、形状、材質等の特性に応じて調整し、必要な場合には研磨剤を用いる。特に、フレーム18の表面の一部に強化繊維が露出し、マトリックス樹脂が一部残るように形成することにより、研磨表面の光沢を一層向上することができる。
【0079】
次に、必要に応じてフレームの全体又は一部に被膜を形成する。例えば、装飾を設けて外観を向上し、フレーム18を保護するため、塗装してもよく、金属やセラミックスを蒸着することもできる。保持部14の貫通孔14aの内周面に、耐磨耗性のセラミック材料、金属材料、合成樹脂材料等をコーティングし、このコーティング面を平滑に研磨した場合には、ガイドリング12を別途取付けることを要しない。
【0080】
このように形成したフレーム18は、フレーム18の幅、厚さ、断面形状、断面積などを適宜に形成することが容易であり、特に糸状態46で形成することにより、設計自由度が高くなる。また、比強度、比剛性に優れ、強化繊維の特徴を効率的に活用した高性能の釣糸ガイド10を形成することができる。
【0081】
図7に示す金型46,48、又は、図9に示す金型50,52を用いてフレーム18を形成する場合のいずれの場合も、支脚部16の凹部17で区画された最小繊維量部分である脚部16a,16bの強化繊維量よりも、固定側屈曲部22を形成する固定側支脚部16c又は装着部20の支脚部側領域の強化繊維量を多くすることが好ましい。これにより、屈曲部28aの変形を抑制することができる。
【0082】
フレーム18をこのように成型加工する際、ガイドリング12を金型内にセットしてフレーム18の成形することにより、ガイドリング12とフレーム18との一体化を確実に行うことができる。一体形成したガイドリング12には、フレーム18のリング保持部14から径方向及び周方向の応力が作用せず、図3,4に示すように、内径Dに対して厚さtの薄いガイドリング12を確実に保持することができる。ガイドリング12に応力が作用しないことから、フレーム18のリング保持部14にも応力が作用せず、フレーム18の樹脂がダレることなく、長期間にわたってガイドリング12とフレーム18との一体性を確保することができる。
【0083】
図5に示すように、凹部40を外周面24に形成したガイドリング12を金型内にセットしてフレーム18と一体成形する場合は、凹部40内に強化繊維又は繊維強化樹脂を予め充填しておくことが望ましい。固着剤42は、リング保持部14の繊維強化樹脂から流れ込んだ樹脂であってもよい。
【0084】
図6に示す実施形態のように、フレーム18を成形した後、前側端壁13aを先にしてリング保持部14の貫通孔14a内にガイドリング12を嵌合してもよい。この場合は、端壁13aを貫通孔14a内に挿入する際にリング保持部14又はガイドリング12が弾性変形するが、端壁13aが貫通孔14aを通って、抜け止め部15に係合した状態では、リング保持部14は元の形状及び大きさに復帰しており、ガイドリング12の力が作用することもない。
【0085】
以上、種々の釣糸ガイド10のフレーム18及びその製造過程について説明したが、本発明は、いずれかの形態に限定されるものではなく、種々の組合せが可能なことは明らかである。例えば積層体36と糸条体56とを組合わせてフレーム18を形成することも可能である。また、繊維強化樹脂は、シート状、テープ状、糸条体等の任意の形態で使用でき、必要に応じて種々組合わせることもできる。
【符号の説明】
【0086】
10…釣り用ガイド、12…ガイドリング、14…リング保持部、14a…貫通孔、16…支脚部、18…フレーム、20…装着部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドリングを保持するリング保持部と、このリング保持部を支える支脚部と、釣竿に取付ける装着部とを有するフレームを備えた釣糸ガイドであって、
前記リング保持部を繊維強化樹脂で形成し、前記ガイドリングを、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、t/D≦0.11の関係に形成したことを特徴とする釣糸ガイド。
【請求項2】
ガイドリングを保持するリング保持部と、このリング保持部を支える支脚部と、釣竿に取付ける装着部とを有するフレームを備えた釣糸ガイドであって、
前記リング保持部を繊維強化樹脂で形成し、前記ガイドリングをセラミックスで、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、D≦5.0mm、t/D≦0.22の関係に形成したことを特徴とする釣糸ガイド。
【請求項3】
前記リング保持部を形成する繊維強化樹脂中の強化繊維の一部が前記ガイドリングの外側に接触した状態で、リング保持部がガイドリングを保持することを特徴とする請求項1又は2に記載の釣糸ガイド。
【請求項4】
ガイドリングを保持するリング保持部と、このリング保持部を支える支脚部と、釣竿に取付ける装着部とを有するフレームを備えた釣糸ガイドであって、
前記ガイドリングを、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、t/D≦0.11の関係に形成し、前記リング保持部は、非弾性状態で前記ガイドリングを保持することを特徴とする釣糸ガイド。
【請求項5】
ガイドリングを保持するリング保持部と、このリング保持部を支える支脚部と、釣竿に取付ける装着部とを有するフレームを備えた釣糸ガイドであって、
前記ガイドリングをセラミックスで、径方向に沿う厚さをt、内径をDとしたときに、D≦5.0mm、t/D≦0.22の関係に形成し、前記リング保持部は、非弾性状態で前記ガイドリングを保持することを特徴とする釣糸ガイド。
【請求項6】
前記ガイドリングとリング保持部との間に、極薄皮膜を配置したことを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の釣糸ガイド。
【請求項7】
前記ガイドリングは、外周部に周方向に延びる凹部を有し、この凹部は軸方向に沿う幅と径方向に沿う深さとの少なくとも一方の寸法が、前記ガイドリングの肉厚よりも大きく形成されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の釣糸ガイド。
【請求項8】
前記ガイドリングは、前記凹部を区画する端壁を軸方向の両端に有し、これらの端壁の外径が互いに異なることを特徴とする請求項7に記載の釣糸ガイド。
【請求項9】
前記ガイドリングの凹部に、繊維強化樹脂又は強化繊維を配設したことを特徴とする請求項7又は8に記載の釣糸ガイド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−75375(P2012−75375A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222663(P2010−222663)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】