鈑桁橋および箱桁橋ならびに桁橋の桁への飛来塩分の付着を防止する方法
【課題】飛来塩分が付着して鉄錆を促進し、寿命を短くする鋼橋に用いて好適な飛来塩分の付着が少ない鈑桁、箱桁を備えた鈑桁橋、箱桁橋および桁橋の桁への飛来塩分の付着を防止する方法を提供する。
【解決手段】鈑桁を複数有し、隣接する鈑桁間に生じる循環流の流速を減速させる手段、例えば、鈑桁または隣接する鈑桁間に設けられた、循環流を通過させつつ、その流速を減速させる構造を有する部材や、循環流を生じさせる下面剥離流のせん断力を弱める位置に設けられた検査路や輸送管等の鈑桁橋の付帯設備を備えた鈑桁橋。前記複数の桁間に生じる循環流の流速が減速されるように、予め桁または桁間に循環流減速手段を設けておく桁橋の桁への飛来塩分付着防止方法。
【解決手段】鈑桁を複数有し、隣接する鈑桁間に生じる循環流の流速を減速させる手段、例えば、鈑桁または隣接する鈑桁間に設けられた、循環流を通過させつつ、その流速を減速させる構造を有する部材や、循環流を生じさせる下面剥離流のせん断力を弱める位置に設けられた検査路や輸送管等の鈑桁橋の付帯設備を備えた鈑桁橋。前記複数の桁間に生じる循環流の流速が減速されるように、予め桁または桁間に循環流減速手段を設けておく桁橋の桁への飛来塩分付着防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛来塩分の付着が少ない桁を備えた鈑桁橋および箱桁橋ならびに桁橋の桁への飛来塩分の付着を防止する方法に関し、特に飛来塩分が付着して鉄錆生成を促進し、寿命を短くする鋼橋に用いて好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼構造物の経年劣化が顕在化し、維持補修費の増大が問題化している。鋼橋の老朽化は腐食と疲労が原因で、特に鋼製の鈑桁橋、箱桁橋においては、橋の長寿命化を妨げる最大の要因は鉄錆による腐食であり、鉄錆生成を促進する塩分の飛来の多い海岸近傍に架設された橋の鈑桁、箱桁は、鉄錆が発生し易い。
【0003】
図7に、海岸近傍に架設された2主鈑桁橋に吹き付ける風の流れを模式的に示す。床版1と、ウェブ3とフランジ4から構成された複数の鈑桁2とからなる一般的な鈑桁橋では、鈑桁2の下面を流れる風6は風上側の橋側端部に位置する鈑桁2の下部フランジ4で剥離するため、鈑桁2の風下面の負圧が強くなり、鈑桁2、2間に巻き込まれる風の流れ7が生じる。そのため、鈑桁2、特に、その内面側では、風とともに運ばれてくる塩分が付着して、鉄錆が発生し易い。なお、風上側の橋側端部に位置する鈑桁2の外面にも塩分が付着するが、この部分は降雨により雨洗されるので鉄錆は発生し難い。
【0004】
こうした鈑桁橋の防錆対策として、一般的には、塗料塗布する方法や、耐候性鋼材を橋梁部材に使用する方法が採用されている。特に、耐候性鋼材を使用する方法では、鋼材表面にその成分元素である銅、リン、クロムなどの富化した保護性錆が形成されるため、無塗装で数十年の使用に耐えるといわれている。
【0005】
しかしながら、塗料塗布する方法には、約20〜30年毎に塗り替えを行う必要があり、そのための足場仮設などを含めて多大なコストがかかるといった問題が、また、耐候性鋼材を使用する方法には、飛来塩分量の多い海岸沿いの鈑桁橋や道路凍結防止のために融雪塩の散布される鈑桁橋に対しては、保護性錆が形成され難く十分な耐候性が得られないといった問題があった。
【0006】
本発明者等は特許文献1でこのような問題を解決するため、鋼橋に吹き付ける風の流れを変えて鈑桁に付着する飛来塩分量を抑制することを提案した。図8(a)(b)は特許文献1記載の発明に係る鋼橋とその効果を説明する図で、ウェブ3の下端部に複数の孔5を設けて(図8(b))、鈑桁2の下面を流れる剥離流6の一部をこの孔5を通過させ、鈑桁2の風上面と風下面の圧力差を緩和して、鈑桁2間への風の巻き込みを起こり難くし、循環流8(桁間を循環する気流)を形成させる(図8(a))。それにより、鈑桁2内面側への塩分の流入を抑制し、鉄錆の発生を抑制することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−240009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者等が、特許文献1記載の鈑桁の飛来塩分付着防止方法を更に改善すべく、風洞実験により鈑桁周辺の気流と、桁内への塩分付着状況を再現したところ、循環流の形成が必ずしも付着塩分量の低減に寄与しない場合もあることが判明した。
【0009】
図9、10は、2本主桁の鋼橋の模型による鈑桁断面周りの流れを煙により可視化した
風洞実験の結果で、これらの図において(a)は気流(剥離流6、循環流8)と海塩粒子(塩分)11の挙動を模式的に示した図、(b)は、白煙によって鈑桁内の気流を可視化した撮影結果を示す。
【0010】
図9は、剥離点aからの流れが比較的大きく下方へ剥がれて剥離流6となり、桁内への巻き込みが強い流れの場合を示し、図10は下フランジ4の近傍に板材(剥離制御板12)を設置し、剥離点aからの流れが桁2の下面の近くを沿うようにした場合を示す。
【0011】
図9では剥離点aからの剥離が強く(a)、桁内に煙が多く観察される(b)。図10のように剥離制御板12を下フランジ4の近傍に設置すると(a)、桁内への明確な煙は認められず、煙の侵入が大きく減少する結果が観察された(b)。
【0012】
これらの結果は、図10の場合のように剥離制御板12を設置した場合、桁内面への塩分の付着が妨げられる可能性を示すものであるが、同様の風洞実験を10μm程度の径で浮遊する程度の重量の粒子を風洞内で多数飛ばして行った結果は相違した。
【0013】
図11は模型桁内に設置した両面テープで粒子を捕獲した結果を示し、可視化実験の煙の観察状況から得られる予想に反し、桁内への煙の侵入が多いように見える図9の場合(条件1)よりも、桁内に煙の観察されない図10(条件2)の場合で、桁内への粒子付着総数が多い。粒子の飛散量等は同条件である。
【0014】
この理由としては、煙が桁内で浮遊していても必ずしも桁内面に付着するとは限らないこと、図10(b)のように、循環流が桁内で速く流れており、その結果煙が観察されにくいこと、その場合には、循環流によって塩分も桁内を循環させられ遠心力によって桁内への付着が促進されていること等が考えられる。
【0015】
そこで、本発明は上記実験結果を踏まえて、鈑桁または箱桁への飛来塩分の付着を防止する方法および飛来塩分の付着が少ない桁を有する鈑桁橋、箱桁橋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.鈑桁を複数有する鈑桁橋であって、隣接する鈑桁間に生じる循環流の流速を減速させる手段を備えた鈑桁橋。
2.前記手段が、鈑桁または隣接する鈑桁間に設けられた、前記循環流を通過させつつ、その流速を減速させる構造を有する部材であることを特徴とする1記載の鈑桁橋。
3.前記手段が、循環流を生じさせる下面剥離流のせん断力を弱める位置に設けられた検査路や輸送管等の鈑桁橋の付帯設備であることを特徴とする1記載の鈑桁橋。
4.1〜3のいずれかに記載の鈑桁橋の鈑桁に替えて箱桁としたことを特徴とする箱桁橋。
5.鈑桁または箱桁を複数有する桁橋の桁への飛来塩分の付着を防止する方法であって、前記複数の桁間に生じる循環流の流速が減速されるように、予め桁または桁間に循環流減速手段を設けておくことを特徴とする桁橋の桁への飛来塩分の付着を防止する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鈑桁、箱桁への飛来塩分の付着が少なく鉄錆による腐食が小さい鋼橋を得ることが可能で産業上、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例に係る鈑桁橋(鋼橋)の模式的断面図。
【図2】本発明の他の実施例に係る鈑桁橋(鋼橋)の模式的断面図
【図3】本発明の他の実施例に係る鈑桁橋(鋼橋)の模式的断面図
【図4】図1に示す本発明の一実施例に係る鈑桁橋(鋼橋)の作用効果を示す模式図。
【図5】図3に示す本発明の他の実施例に係る鈑桁橋(鋼橋)の作用効果を示す模式図。
【図6】従来の鈑桁橋(鋼橋)およびその周辺における気流を説明する模式図。
【図7】海岸近傍に架設された従来の2主鈑桁橋に吹き付ける風の流れを模式的に示す図。
【図8】特許文献1の発明に係る2主鈑桁橋を説明する図で、(a)は特許文献1の発明に係る2主鈑桁橋吹き付ける風の流れを模式的に示す図、(b)は特許文献1の発明に係る2主鈑桁橋の構造を説明する図。
【図9】2本主桁の鋼橋の模型による鈑桁断面周りの流れを煙により可視化した風洞実験の結果を示し、(a)は気流(剥離流、循環流)と海塩粒子(塩分)の挙動を模式的に示した図、(b)は白煙によって鈑桁内の気流を可視化した撮影結果を示した図。
【図10】他の2本主桁の鋼橋の模型による鈑桁断面周りの流れを煙により可視化した風洞実験の結果を示し(a)は気流(剥離流、循環流)と海塩粒子(塩分)の挙動を模式的に示した図、(b)は白煙によって鈑桁内の気流を可視化した撮影結果を示した図。
【図11】図9、図10に示した実験により、桁ウエブ内面に付着した粒子数を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、鈑桁橋、箱桁橋に吹き付ける風により隣接する鈑桁間、箱桁間に生じる循環流の運動を弱めたり、循環流の発生自体を抑制することを特徴とする。
【0020】
図1に本発明の一実施例に係る鈑桁橋(鋼橋)の模式的断面図を示す。図は、床版1と、ウェブ3とフランジ4から構成された複数の鈑桁2を備えた鈑桁橋において、隣接する鈑桁2、2間に循環流を通過させつつ、その流速を減速させる構造を有する部材9を左右の鈑桁2、2間の中央となる床版1の下面に配置した場合を示す。
【0021】
部材9は循環流を通過させるための空隙部と流速を弱めるための障害部を備え、更に循環流により変形を生じない剛性を備えたものが良く、金網、多孔板(薄鋼板)が使用できる。
【0022】
従来の鈑桁橋の循環流8の流れ(図6)に、部材9を設けた場合の効果を図4に模式的に示す。図中、符号7は循環流8の流れを、符号11は飛来する海塩粒子を示す。部材9の流体抵抗により循環流8は流れ7の速度を落とし、かつ流れ場が乱されて拡散するため、循環流8は桁2の内壁から離れ、塩分の付着が防止される。
【0023】
部材9の取付け位置は、前述した模型による風洞実験で循環流の障害となる位置を確認して決定することが好ましい。既存の鈑桁橋の場合、桁内壁の飛来塩分の付着状況や鉄錆の発生状況から取付け位置を決定しても良い。
【0024】
図2は本発明の他の実施例による鈑桁橋(鋼橋)の模式的断面図を示し、鈑桁2の高さの1/2となるウエブ3の内側に部材9を取り付けた場合を示す。
【0025】
尚、図6は剥離点(図において左側の桁2のフランジ4の下左端部)からの流れが桁2の下面に沿う傾向が強い場合を示したものである。下面の剥離流6の流速が桁下面に近く、流速が速い場合、この流れによるせん断力により、左右の桁2、2間に強い循環流8が発生し、桁間に侵入した塩分を遠心力により桁2の内壁面に寄せて付着させる。
【0026】
図3は本発明の他の実施例による鈑桁橋(鋼橋)の模式的断面図を、図5は図3に示す構造による効果を示し、部材9に替えて、循環流8を生じさせる下面剥離流6のせん断力を弱める位置(せん断力が伝達されると考えられる桁下面の近傍)に鈑桁橋の付帯設備である検査路10を設けた場合を示す。循環流8の流れ7の速度が遅くなり遠心力が低下するため、塩分の付着が防止される。検査路10に替えて、鈑桁橋の付帯設備としての輸送管を利用しても良い。尚、検査路10を設けた効果をより改善するように、更に部材9を設けてもよい。
【0027】
なお、上記の説明では鈑桁橋を例に説明したが、本発明は箱桁橋にも適用可能であり、同様な効果を奏する。
【符号の説明】
【0028】
1 床版
2 鈑桁
3 ウェブ
4 フランジ
6 剥離流
7 鈑桁間に巻き込まれる風の流れ、または循環流の流れ
8 循環流
9 部材
10 検査路
11 海塩粒子
12 剥離制御板
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛来塩分の付着が少ない桁を備えた鈑桁橋および箱桁橋ならびに桁橋の桁への飛来塩分の付着を防止する方法に関し、特に飛来塩分が付着して鉄錆生成を促進し、寿命を短くする鋼橋に用いて好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼構造物の経年劣化が顕在化し、維持補修費の増大が問題化している。鋼橋の老朽化は腐食と疲労が原因で、特に鋼製の鈑桁橋、箱桁橋においては、橋の長寿命化を妨げる最大の要因は鉄錆による腐食であり、鉄錆生成を促進する塩分の飛来の多い海岸近傍に架設された橋の鈑桁、箱桁は、鉄錆が発生し易い。
【0003】
図7に、海岸近傍に架設された2主鈑桁橋に吹き付ける風の流れを模式的に示す。床版1と、ウェブ3とフランジ4から構成された複数の鈑桁2とからなる一般的な鈑桁橋では、鈑桁2の下面を流れる風6は風上側の橋側端部に位置する鈑桁2の下部フランジ4で剥離するため、鈑桁2の風下面の負圧が強くなり、鈑桁2、2間に巻き込まれる風の流れ7が生じる。そのため、鈑桁2、特に、その内面側では、風とともに運ばれてくる塩分が付着して、鉄錆が発生し易い。なお、風上側の橋側端部に位置する鈑桁2の外面にも塩分が付着するが、この部分は降雨により雨洗されるので鉄錆は発生し難い。
【0004】
こうした鈑桁橋の防錆対策として、一般的には、塗料塗布する方法や、耐候性鋼材を橋梁部材に使用する方法が採用されている。特に、耐候性鋼材を使用する方法では、鋼材表面にその成分元素である銅、リン、クロムなどの富化した保護性錆が形成されるため、無塗装で数十年の使用に耐えるといわれている。
【0005】
しかしながら、塗料塗布する方法には、約20〜30年毎に塗り替えを行う必要があり、そのための足場仮設などを含めて多大なコストがかかるといった問題が、また、耐候性鋼材を使用する方法には、飛来塩分量の多い海岸沿いの鈑桁橋や道路凍結防止のために融雪塩の散布される鈑桁橋に対しては、保護性錆が形成され難く十分な耐候性が得られないといった問題があった。
【0006】
本発明者等は特許文献1でこのような問題を解決するため、鋼橋に吹き付ける風の流れを変えて鈑桁に付着する飛来塩分量を抑制することを提案した。図8(a)(b)は特許文献1記載の発明に係る鋼橋とその効果を説明する図で、ウェブ3の下端部に複数の孔5を設けて(図8(b))、鈑桁2の下面を流れる剥離流6の一部をこの孔5を通過させ、鈑桁2の風上面と風下面の圧力差を緩和して、鈑桁2間への風の巻き込みを起こり難くし、循環流8(桁間を循環する気流)を形成させる(図8(a))。それにより、鈑桁2内面側への塩分の流入を抑制し、鉄錆の発生を抑制することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−240009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者等が、特許文献1記載の鈑桁の飛来塩分付着防止方法を更に改善すべく、風洞実験により鈑桁周辺の気流と、桁内への塩分付着状況を再現したところ、循環流の形成が必ずしも付着塩分量の低減に寄与しない場合もあることが判明した。
【0009】
図9、10は、2本主桁の鋼橋の模型による鈑桁断面周りの流れを煙により可視化した
風洞実験の結果で、これらの図において(a)は気流(剥離流6、循環流8)と海塩粒子(塩分)11の挙動を模式的に示した図、(b)は、白煙によって鈑桁内の気流を可視化した撮影結果を示す。
【0010】
図9は、剥離点aからの流れが比較的大きく下方へ剥がれて剥離流6となり、桁内への巻き込みが強い流れの場合を示し、図10は下フランジ4の近傍に板材(剥離制御板12)を設置し、剥離点aからの流れが桁2の下面の近くを沿うようにした場合を示す。
【0011】
図9では剥離点aからの剥離が強く(a)、桁内に煙が多く観察される(b)。図10のように剥離制御板12を下フランジ4の近傍に設置すると(a)、桁内への明確な煙は認められず、煙の侵入が大きく減少する結果が観察された(b)。
【0012】
これらの結果は、図10の場合のように剥離制御板12を設置した場合、桁内面への塩分の付着が妨げられる可能性を示すものであるが、同様の風洞実験を10μm程度の径で浮遊する程度の重量の粒子を風洞内で多数飛ばして行った結果は相違した。
【0013】
図11は模型桁内に設置した両面テープで粒子を捕獲した結果を示し、可視化実験の煙の観察状況から得られる予想に反し、桁内への煙の侵入が多いように見える図9の場合(条件1)よりも、桁内に煙の観察されない図10(条件2)の場合で、桁内への粒子付着総数が多い。粒子の飛散量等は同条件である。
【0014】
この理由としては、煙が桁内で浮遊していても必ずしも桁内面に付着するとは限らないこと、図10(b)のように、循環流が桁内で速く流れており、その結果煙が観察されにくいこと、その場合には、循環流によって塩分も桁内を循環させられ遠心力によって桁内への付着が促進されていること等が考えられる。
【0015】
そこで、本発明は上記実験結果を踏まえて、鈑桁または箱桁への飛来塩分の付着を防止する方法および飛来塩分の付着が少ない桁を有する鈑桁橋、箱桁橋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.鈑桁を複数有する鈑桁橋であって、隣接する鈑桁間に生じる循環流の流速を減速させる手段を備えた鈑桁橋。
2.前記手段が、鈑桁または隣接する鈑桁間に設けられた、前記循環流を通過させつつ、その流速を減速させる構造を有する部材であることを特徴とする1記載の鈑桁橋。
3.前記手段が、循環流を生じさせる下面剥離流のせん断力を弱める位置に設けられた検査路や輸送管等の鈑桁橋の付帯設備であることを特徴とする1記載の鈑桁橋。
4.1〜3のいずれかに記載の鈑桁橋の鈑桁に替えて箱桁としたことを特徴とする箱桁橋。
5.鈑桁または箱桁を複数有する桁橋の桁への飛来塩分の付着を防止する方法であって、前記複数の桁間に生じる循環流の流速が減速されるように、予め桁または桁間に循環流減速手段を設けておくことを特徴とする桁橋の桁への飛来塩分の付着を防止する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鈑桁、箱桁への飛来塩分の付着が少なく鉄錆による腐食が小さい鋼橋を得ることが可能で産業上、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例に係る鈑桁橋(鋼橋)の模式的断面図。
【図2】本発明の他の実施例に係る鈑桁橋(鋼橋)の模式的断面図
【図3】本発明の他の実施例に係る鈑桁橋(鋼橋)の模式的断面図
【図4】図1に示す本発明の一実施例に係る鈑桁橋(鋼橋)の作用効果を示す模式図。
【図5】図3に示す本発明の他の実施例に係る鈑桁橋(鋼橋)の作用効果を示す模式図。
【図6】従来の鈑桁橋(鋼橋)およびその周辺における気流を説明する模式図。
【図7】海岸近傍に架設された従来の2主鈑桁橋に吹き付ける風の流れを模式的に示す図。
【図8】特許文献1の発明に係る2主鈑桁橋を説明する図で、(a)は特許文献1の発明に係る2主鈑桁橋吹き付ける風の流れを模式的に示す図、(b)は特許文献1の発明に係る2主鈑桁橋の構造を説明する図。
【図9】2本主桁の鋼橋の模型による鈑桁断面周りの流れを煙により可視化した風洞実験の結果を示し、(a)は気流(剥離流、循環流)と海塩粒子(塩分)の挙動を模式的に示した図、(b)は白煙によって鈑桁内の気流を可視化した撮影結果を示した図。
【図10】他の2本主桁の鋼橋の模型による鈑桁断面周りの流れを煙により可視化した風洞実験の結果を示し(a)は気流(剥離流、循環流)と海塩粒子(塩分)の挙動を模式的に示した図、(b)は白煙によって鈑桁内の気流を可視化した撮影結果を示した図。
【図11】図9、図10に示した実験により、桁ウエブ内面に付着した粒子数を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、鈑桁橋、箱桁橋に吹き付ける風により隣接する鈑桁間、箱桁間に生じる循環流の運動を弱めたり、循環流の発生自体を抑制することを特徴とする。
【0020】
図1に本発明の一実施例に係る鈑桁橋(鋼橋)の模式的断面図を示す。図は、床版1と、ウェブ3とフランジ4から構成された複数の鈑桁2を備えた鈑桁橋において、隣接する鈑桁2、2間に循環流を通過させつつ、その流速を減速させる構造を有する部材9を左右の鈑桁2、2間の中央となる床版1の下面に配置した場合を示す。
【0021】
部材9は循環流を通過させるための空隙部と流速を弱めるための障害部を備え、更に循環流により変形を生じない剛性を備えたものが良く、金網、多孔板(薄鋼板)が使用できる。
【0022】
従来の鈑桁橋の循環流8の流れ(図6)に、部材9を設けた場合の効果を図4に模式的に示す。図中、符号7は循環流8の流れを、符号11は飛来する海塩粒子を示す。部材9の流体抵抗により循環流8は流れ7の速度を落とし、かつ流れ場が乱されて拡散するため、循環流8は桁2の内壁から離れ、塩分の付着が防止される。
【0023】
部材9の取付け位置は、前述した模型による風洞実験で循環流の障害となる位置を確認して決定することが好ましい。既存の鈑桁橋の場合、桁内壁の飛来塩分の付着状況や鉄錆の発生状況から取付け位置を決定しても良い。
【0024】
図2は本発明の他の実施例による鈑桁橋(鋼橋)の模式的断面図を示し、鈑桁2の高さの1/2となるウエブ3の内側に部材9を取り付けた場合を示す。
【0025】
尚、図6は剥離点(図において左側の桁2のフランジ4の下左端部)からの流れが桁2の下面に沿う傾向が強い場合を示したものである。下面の剥離流6の流速が桁下面に近く、流速が速い場合、この流れによるせん断力により、左右の桁2、2間に強い循環流8が発生し、桁間に侵入した塩分を遠心力により桁2の内壁面に寄せて付着させる。
【0026】
図3は本発明の他の実施例による鈑桁橋(鋼橋)の模式的断面図を、図5は図3に示す構造による効果を示し、部材9に替えて、循環流8を生じさせる下面剥離流6のせん断力を弱める位置(せん断力が伝達されると考えられる桁下面の近傍)に鈑桁橋の付帯設備である検査路10を設けた場合を示す。循環流8の流れ7の速度が遅くなり遠心力が低下するため、塩分の付着が防止される。検査路10に替えて、鈑桁橋の付帯設備としての輸送管を利用しても良い。尚、検査路10を設けた効果をより改善するように、更に部材9を設けてもよい。
【0027】
なお、上記の説明では鈑桁橋を例に説明したが、本発明は箱桁橋にも適用可能であり、同様な効果を奏する。
【符号の説明】
【0028】
1 床版
2 鈑桁
3 ウェブ
4 フランジ
6 剥離流
7 鈑桁間に巻き込まれる風の流れ、または循環流の流れ
8 循環流
9 部材
10 検査路
11 海塩粒子
12 剥離制御板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鈑桁を複数有する鈑桁橋であって、隣接する鈑桁間に生じる循環流の流速を減速させる手段を備えた鈑桁橋。
【請求項2】
前記手段が、鈑桁または隣接する鈑桁間に設けられた、前記循環流を通過させつつ、その流速を減速させる構造を有する部材であることを特徴とする請求項1記載の鈑桁橋。
【請求項3】
前記手段が、循環流を生じさせる下面剥離流のせん断力を弱める位置に設けられた検査路や輸送管等の鈑桁橋の付帯設備であることを特徴とする請求項1記載の鈑桁橋。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の鈑桁橋の鈑桁に替えて箱桁としたことを特徴とする箱桁橋。
【請求項5】
鈑桁または箱桁を複数有する桁橋の桁への飛来塩分の付着を防止する方法であって、前記複数の桁間に生じる循環流の流速が減速されるように、予め桁または桁間に循環流減速手段を設けておくことを特徴とする桁橋の桁への飛来塩分の付着を防止する方法。
【請求項1】
鈑桁を複数有する鈑桁橋であって、隣接する鈑桁間に生じる循環流の流速を減速させる手段を備えた鈑桁橋。
【請求項2】
前記手段が、鈑桁または隣接する鈑桁間に設けられた、前記循環流を通過させつつ、その流速を減速させる構造を有する部材であることを特徴とする請求項1記載の鈑桁橋。
【請求項3】
前記手段が、循環流を生じさせる下面剥離流のせん断力を弱める位置に設けられた検査路や輸送管等の鈑桁橋の付帯設備であることを特徴とする請求項1記載の鈑桁橋。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の鈑桁橋の鈑桁に替えて箱桁としたことを特徴とする箱桁橋。
【請求項5】
鈑桁または箱桁を複数有する桁橋の桁への飛来塩分の付着を防止する方法であって、前記複数の桁間に生じる循環流の流速が減速されるように、予め桁または桁間に循環流減速手段を設けておくことを特徴とする桁橋の桁への飛来塩分の付着を防止する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−196052(P2011−196052A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62269(P2010−62269)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】
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