説明

鉄道車両用台車枠

【課題】横梁上の空気バネと側梁内の補助空気室とを接続する簡易な構成の流路を有する鉄道車両用台車枠を提供すること。
【解決手段】レール方向に沿って配置された2本の側梁2に対し、枕木方向に沿って配置された1本の横梁3が交差して接合されたものであり、横梁3上に空気バネ設置されるものであり、横梁3には、上面の空気バネの中心に相当する位置と、上面又は下面の側梁と重なる位置とに2つの嵌合孔35,36が形成され、内部に2つの嵌合孔を接続する気密配管が設けられた鉄道車両用台車枠1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側梁を貫通して接合された横梁に対し空気バネが設置され、その空気バネの補助空気室を側梁に設けた鉄道車両用台車枠であって、特に、横梁から側梁への流路を横梁内部に設けた鉄道車両用台車枠に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄道車両用台車枠には、例えばレール方向に沿って配置された2本の側梁と、枕木方向に沿って配置された前後2本の横梁とが連結された構成のものがある。こうした形状の鉄道車両用台車枠には、従来から様々な構造のものが提案されている。図8は、そのうちの一つであり、下記特許文献1に記載された鉄道車両用台車枠を示した図である。この鉄道車両用台車枠100は、レール方向に沿って配置され、その両端にバネ帽111を備えた側梁101に、2本の横梁102が枕木方向に貫通している。横梁102には丸形鋼管が使用され、平行に並べた2本の横梁102の両端部分が天板112と底板113によって一体に接合されている。横梁102が貫通した側梁101の台車外側位置には、天板112上に空気バネ座115が設けられ、そこに設置される左右一対の空気バネは、2本ある横梁102のいずれか一方ずつに接続され、それぞれの横梁102が補助空気室として利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−015820号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第1340661号明細書
【特許文献3】仏国特許出願公開第2381651号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図8に示した鉄道車両用台車枠100は、横梁102が2本のパイプで構成されているため、それぞれに空気バネの補助空気室を構成している。そのため、比較的簡単に空気バネと補助空気室との接続構造を構成することができる。しかし、例えば前記特許文献2,3の鉄道車両用台車枠のように1本の横梁によって構成されたものであって、その横梁上に空気バネが設置されているとすると、左右の空気バネに対応する補助空気室をつくるためには、横梁内を仕切り板で区切らなければならず、そのための溶接作業が非常に手間を要し、気密性を確保することも容易ではない。
【0005】
一方、鉄道車両用台車枠には、左右一対の側梁をそれぞれ補助空気室とするものがある。しかし、空気バネが側梁上にない場合、すなわち図8に示した鉄道車両用台車枠100のように空気バネ座115が側梁101の外側に位置しているような場合には、横梁102に設けた空気バネの給気口から側梁への接続流路が必要になる。しかし、そのための接続配管は、構造が複雑になってしまうと製造が難しくなる他、十分な気密性を確保することも困難になる。また、流路が外部配管によって構成するようなものは、車両走行中に飛び石が衝突して破損する可能性もある。
【0006】
そこで本発明は、かかる課題を解決すべく、横梁上の空気バネと側梁内の補助空気室とを接続する簡易な構成の流路を有する鉄道車両用台車枠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る鉄道車両用台車枠は、レール方向に沿って配置された2本の側梁に対し、枕木方向に沿って配置された1本の横梁が交差して接合されたものであり、前記横梁上に空気バネが設置されるものであり、前記横梁には、上面の前記空気バネの中心に相当する位置と、上面又は下面の前記側梁と重なる位置とに2つの嵌合孔が形成され、内部に前記2つの嵌合孔を接続する気密配管が設けられたものであることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る鉄道車両用台車枠は、前記2つの嵌合孔は前記横梁の上面に形成され、前記気密配管は前記横梁の上側に接合されたものであることが好ましい。
また、本発明に係る鉄道車両用台車枠は、前記気密配管が、複数の管部材を接合して一の流路を形成したものであることが好ましい。
また、本発明に係る鉄道車両用台車枠は、前記横梁が、上下方向に2分割した一対の横梁部材がプレス成形によって鋼板から形成され、その横梁部材同士が溶接によって接合されて一体になったものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、横梁上に設置する空気バネを、その横梁内に設けた気密配管による流路によって側梁の補助空気室に接続するようにしたため、1本の横梁に関する構造の簡素化やコストの低減などの効果を損なうことなく、また、その横梁から側梁への流路の構成も、横梁内に気密配管を設ける簡易な構成であり、しかも走行中に飛び石などによって破損するおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】鉄道車両用台車枠の実施形態を示した斜視図である。
【図2】横梁の製作について示した斜視図である。
【図3】側梁を構成する側梁部材を示した斜視図である。
【図4】空気バネと補助空気室との接続構造を示した図1のA−A断面図である。
【図5】気密配管の第1案を示した平面図である。
【図6】気密配管の第1案を示した図5のB−B断面図である。
【図7】気密配管の第2案を示した図6に対応する断面図である。
【図8】従来の鉄道車両用台車枠を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係る鉄道車両用台車枠の一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、鉄道車両用台車枠の実施形態を示した斜視図である。この鉄道車両用台車枠(以下、単に「台車枠」とする)1は、レール方向に沿って配置された2本の側梁2を左右に有し、枕木方向に沿って配置された横梁3に貫かれ、その貫通部分において側梁2と横梁3とが溶接によって接合されている。なお、図示するY軸方向がレール方向であり、X軸方向が枕木方向である。
【0012】
台車枠1は、2本の管材を使用していた従来のものとは異なり、横梁3が一つの部材で構成されている。横梁3は、厚さ寸法に比べて幅方向、つまり台車枠1におけるレール方向の寸法が大きく、その長手方向(図のX方向)に見た断面が扁平形状をしている。横梁3は、側梁2を貫通する左右の接合部31と、長円形状の貫通孔33を有する中間部32とから構成されている。接合部31は、断面が長円形状であって所定の幅を有している。中間部32は、接合部31よりも幅広であって、図1に示すように、レール方向に突き出すようにして形成されている。
【0013】
図2は、横梁3の製作について示した斜視図である。横梁3は、上下方向に分割された構造であって、一対の横梁部材30A,30Bが鋼板からプレス成形され、それらが上下に重ねられ溶接されたものである。横梁部材30A,30Bは、横梁3の接合部31に相当する接合部分310と、中間部32に相当する中間部分320によって構成されている。中間部分320は、接合部分310よりも幅が広く、中央に長円形状の貫通孔に沿って縁部331が形成されている。接合部分310の縁部311はなだらかに折り曲げられた曲面であるのに対し、中間部分320の縁部321や縁部331は、ほぼ直交方向に折り曲げられた平面である。こうした一対の横梁部材30A,30Bは上下に重ね合わされ、その合わせ部分が溶接される。
【0014】
次に図3は、側梁2を構成する側梁部材を示した斜視図である。側梁部材20は、鋼板をプレス成形したものである。側梁部材20は、両端にバネ帽を構成する幅広のバネ帽部21が形成され、両端のバネ帽部21の間に中間部22が形成されている。中間部22は、バネ帽部21よりも位置が低くなるように下方に傾斜する部分が形成されている。そして、中間部22は、バネ帽部21より幅方向の寸法が小さい分、横梁3が貫通しても剛性が保てるように高さ方向の寸法が大きく取られている。
【0015】
側梁部材20は、断面がコの字形であって、下方の開口端に下プレート24(図4参照)が溶接される。後述するように側梁2が補助空気室となるため、側梁2を気密な空間にする仕切板23が内部に溶接される。また、側梁部材20の長手方向端部には、図1に示すように当板251が溶接され、バネ帽部21には、下プレートも含めてバネ帽を構成するため貫通孔が形成される。台車枠1は、こうして形成された側梁2と横梁3とによって構成され、図1に示すように、側梁2の中間部22に横梁3の接合部31が貫通し、溶接によって接合される。
【0016】
鉄道車両の空気バネは、台車枠1に設けられた補助空気室と接続され、見かけの内部容積がその補助空気室の分だけ大きくなり、そうした補助空気室と空気バネとの間には絞り弁が設けられ、粘性減衰特性を発揮させるようにしている。本実施形態の台車枠1では、側梁2を貫通して突き出した横梁3の接合部31に空気バネを設置するための空気バネ座4が設けられている。このように、空気バネ座4が横梁3上にある場合、補助空気室を横梁3に構成すれば、空気バネを接続する点では容易である。しかし、台車枠1は、横梁3が一つの部材で構成されているため、内部を2室に分割しなければならず、その点で気密性を保った製作が困難になる。
【0017】
そこで、本実施形態では左右一対の側梁2をそれぞれ補助空気室25として構成することとした。そのためには横梁3から側梁2への流路が必要になるが、図4は、そうした空気バネと補助空気室との接続構造を示した図1のA−A断面図である。側梁2を貫通した横梁3内には、空気バネ座4に設置する空気ばねと側梁2内の補助空気室25とを接続する気密配管5が設けられている。ここで図5は、気密配管5の第1案を示した平面図であり、図6は、気密配管5の第1案を示した図5のB−B断面図である。
【0018】
この第1案の気密配管5Aは、大きさの異なる3つの鋼管を接続し構成されたものである。上下方向に配置された最も径の大きい本管41に対し、横方向に開けられた横孔に横管42が差し込まれ、更にその横管42の先端部に開けられた縦孔に縦管43が上方を向いて差し込まれている。そして、本管41の下側と横管42の先端が塞ぎ板45,46によって閉じられ、本管41の開口部41aから縦管43の開口部43aまでが一本の流路になっている。それぞれの接合部は溶接によって一体に接合されている。なお、本管41、横管42および縦管43は、圧力配管用炭素鋼鋼管(STPG)が使用され、塞ぎ板45,46には溶接構造用圧延鋼材(SM)が使用されている。
【0019】
横梁3は、一対の横梁部材30A,30Bを上下に合わせて溶接した後、その接合部31の端部に図1に示す長円形状の塞ぎ板342が溶接される。気密配管5(5A)は、その塞ぎ板342が溶接される前に横梁3内に入れられ、上側の横梁部材30Aに対して溶接される。横梁3の上面に嵌合孔35,36(図4参照)が形成され、そこには図5及び図6に示す本管41と縦管43の先端が嵌め込まれる。そして、嵌合した本管41と縦管43のそれぞれの周縁部に沿って横梁3の外側から溶接が行われ、気密配管5(5A)が横梁2内に固定される。その後に、前述した両端の開口部が塞ぎ板342によって塞がれ、横梁3内が気密になる。
【0020】
このようにして図1に示す1本の横梁3が製作された後、側梁2の側部に形成された貫通孔を接合部31が貫通し、接合部の溶接によって略H形の台車枠1がつくられる。このとき、気密配管5(5A)は、本管41の開口部41aが側梁2の外側に位置し、縦管43の開口部43aが側梁2内に位置する。外側の開口部41aには、本管41内に図4に示すように案内管47が差し込まれ、本管41と案内管47とが気密配管5(5A)内の気密な状態を保つように溶接される。案内管47は、横梁3の上面から突き出し、その先端部には空気バネ座4が嵌め込まれ、溶接によって接合される。空気バネ座4の一部は側梁2に支持され、その反対側が受板48に支持される。
【0021】
鉄道車両は、この空気バネ座4に空気バネが設置され、その空気バネの内部が気密配管5(5A)を介して側梁2内の補助空気室25と接続される。こうして主空気室となる空気バネに容積の大きな補助空気室25をつないだ状態で空気を封入することにより、空気バネの柔らかいバネ特性を得ることができ、走行中に車体に作用する振動を吸収して乗り心地を良くしている。空気バネと補助空気室25とを接続する流路の途中、具体的には案内管47内には不図示の固定絞りが設置され、それによって粘性減衰特性を発揮させた振動低減を実現している。
【0022】
以上、本実施形態の台車枠1によれば、プレス成形した一対の横梁部材30A,30Bによって横梁3を一つの部材としたため、構造の簡素化によってコストを低減させ、また、側梁2に対する接合部は、2本の横梁に比べて狭いスペースでの溶接作業がなくなり、側梁2内の気密性を保った溶接を容易かつ確実に行うことができる。そして、こうした横梁3上に空気バネを設置した場合、本実施形態では横梁3内に設けた気密配管5(5A)によって空気バネと側梁2内の補助空気室25とを接続するので、横梁3に補助空気室を構成して構造を複雑にする必要がなくなり、前記横梁3本来の効果を得ることができる。
【0023】
また、図5及び図6に示した第1案の気密配管5Aは、3つの鋼管を接続した簡易な構成であるため、その製作が容易であり、コストも安価なものとすることができる。そして、この気密配管5(5A)を使用した流路の構造は、一対の横梁部材30A,30Bを溶接した後の横梁3に対してその内部に容易に取り付けることができ、簡易な構成であるため気密性を確保することもできる。また、気密配管5(5A)が横梁3内にあるため、側梁2に対する横梁3の位置を変更してもその影響を受けない。そして、気密配管5(5A)を使用した内部流路のため、鉄道車両の走行中に飛び石などによって破損するおそれもなく、メンテナンスの手間も省ける。
【0024】
次に、図7は、気密配管5の第2案を示した図6に対応した断面図である。第2案の気密配管5Bは、第1案では3つの鋼管を使用したのに対し、2つの鋼管によって構成されている。気密配管5Bは、上下方向に配置された本管51に対し、横方向に開けられた横孔に曲げ管52が差し込まれ、本管51の下側が塞ぎ板53によって閉じられている。それぞれの接合部は溶接によって一体に接合され、本管51の開口部51aから曲げ管52の開口部52aまでが流路として構成されている。
【0025】
気密配管5Bは、前述した第1案と同様に、横梁3内において上側の横梁部材30Aに溶接される。すなわち、横梁3の上面に形成された嵌合孔35,36に本管51と曲げ管52の先端が嵌め込まれ、本管51と曲げ管52のそれぞれの周縁部に沿って溶接が行われる。気密配管5(5B)を備えた横梁3は、側梁2の側部に形成された貫通孔に通され、接合部の溶接接合によって図1に示すような略H形の台車枠1が構成される。空気バネ座4に設置された空気バネは、その内部が気密配管5(5B)を介して側梁2内の補助空気室25と連結され、容積を大きくすることにより柔らかいバネ特性を得ることができる。
【0026】
こうした気密配管5Bを備えた台車枠1は、気密配管5Bが第1案よりも部品点数を少なくすることができる。また、前記第1案の場合と同様の効果を奏する。すなわち、横梁3上に設置した空気バネを、その横梁3内に設けた気密配管5Bによって側梁2の補助空気室25と連通させることで、構造を複雑にすることなく横梁3本来の効果を得ることができる。また、簡易な構成で溶接箇所も少ないため気密性を高めることもできるなどの効果を奏する。
【0027】
以上、本発明に係る鉄道車両用台車枠について実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、気密配管5の第1案及び第2案として鋼管によって構成したものを説明したが、その他にも鍛造によって製作したものや、削り出しによって加工したものであってもよい。
また、前記実施形態では気密配管5を上側の横梁部材30Aに接合したものを示して説明したが、例えば、第1案の気密配管5Aにおいて、その縦管43を上下逆転させて下側の横梁部材30Bに開けた嵌合孔に差し込んで溶接するようにしてもよい。
また、前記実施形態では、横梁3が側梁2を貫通する構造の台車枠1を示したが、例えば横梁3が側梁2の上に重ねた台車枠であってもよい。その際には、前述したように縦管43下側に設けた気密配管が使用される。
【符号の説明】
【0028】
1 鉄道車両用台車枠
2 側梁
3 横梁
5(5A) 気密配管
30A,30B 横梁部材
35,36 嵌合孔
41 本管
42 横管
43 縦管
45,46 塞ぎ板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール方向に沿って配置された2本の側梁に対し、枕木方向に沿って配置された1本の横梁が交差して接合されたものであり、前記横梁上に空気バネが設置される鉄道車両用台車枠であり、
前記横梁には、上面の前記空気バネの中心に相当する位置と、上面又は下面の前記側梁と重なる位置とに2つの嵌合孔が形成され、内部に前記2つの嵌合孔を接続する気密配管が設けられたものであることを特徴とする鉄道車両用台車枠。
【請求項2】
請求項1に記載する鉄道車両用台車枠において、
前記2つの嵌合孔は前記横梁の上面に形成され、前記気密配管は前記横梁の上側に接合されたものであることを特徴とする鉄道車両用台車枠。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する鉄道車両用台車枠において、
前記気密配管は、複数の管部材を接合して一の流路を形成したものであることを特徴とする鉄道車両用台車枠。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載する鉄道車両用台車枠において、
前記横梁は、上下方向に2分割した一対の横梁部材がプレス成形によって鋼板から形成され、その横梁部材同士が溶接によって接合されて一体になったものであることを特徴とする鉄道車両用台車枠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−176653(P2012−176653A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39953(P2011−39953)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】