説明

鉄道車両用操舵台車

【課題】地上塗油を行っている曲線区間の通過時のみ、踏面清掃装置を動作させる。
【解決手段】台車の輪軸2を操舵可能に構成した操舵台車11である。操舵台車11の台車枠1の、車輪2aの踏面2aaと相対する位置に、踏面2aaへの接離移動自在に取付けた清掃子12aと、清掃子12aを車輪踏面側に付勢する押し付け荷重付加用ばね12cと、曲線区間通過時に、操舵による輪軸2の車両進行方向の前後動作によって、車輪2aの踏面2aaが近づく内軌側のみ接触し、曲線区間通過時に車輪2aの踏面2aaが遠ざかる外軌側及び直線区間走行時は接触しないように、清掃子12aの車輪踏面への接近移動を拘束するストッパ12dを有する踏面清掃装置を備える。
【効果】曲線通過時の車輪踏面が近づく内軌側の清掃子のみが車輪に接するので、清掃子の摩耗を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車の輪軸を操舵する鉄道車両用操舵台車に関するものであり、特に曲線通過時に、車輪踏面に付着した油分等のごみを清掃可能な操舵台車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の制動装置として、踏面ブレーキとディスクブレーキがある。このうち、踏面ブレーキは、車輪踏面に油分等のごみが付着した場合であっても、制動時に、ブレーキ制輪子自体でごみを取り除いて車輪踏面を適度に清掃するので問題になることはない(例えば特許文献1の段落0007)。
【0003】
しかしながら、ディスクブレーキの場合は、制動時に、踏面ブレーキのような踏面清掃が行われないので、車輪踏面に油分等のごみが一旦付着すると、滑走の原因になるという問題がある。
【0004】
そのため、ディスクブレーキを設置した鉄道車両用台車の場合には、踏面清掃装置を別途設置し、車輪踏面を必要に応じて清掃する必要がある。
【0005】
鉄道車両用台車に別途設置する踏面清掃装置のうち、ディスクブレーキ軸に設置する踏面清掃装置には、定圧ばねによって車輪踏面に常に清掃子を押し当てるタイプと、車両側からの信号により必要時に清掃子を車輪踏面に押し当てる可動タイプがある。
【0006】
このうち、前者は踏面清掃装置が簡素で低コストであるが、清掃子を車輪踏面に常に押し当てているため、清掃子の摩耗が増加する。
【0007】
特に操舵台車に設置した場合は、直線区間走行時(図4(a))、曲線区間通過時(図4(b)(c))の何れの場合でも、清掃子が車輪踏面に押し付けられるように成されている。従って、曲線区間通過時に車輪が台車枠に近づく内軌側(図4(b))は、通常台車の場合よりも清掃子の車輪踏面ヘの押し付け力が大きくなって摩耗がより大きくなる。
【0008】
なお、図4中の1は台車枠、2は車輪2aと車軸2bからなる輪軸、3は台車枠1にリンク4を介して揺動自在に取付けられた清掃子、5は清掃子3を車輪2aの踏面2aaに押付ける定圧ばね、6は軸箱、7は軸ばねを示す。
【0009】
一方、可動タイプの踏面清掃装置は、必要時のみ清掃子を車輪踏面に押し当てるので、清掃子の摩耗を抑制できるが、機構が複雑になって装置自体のコストが高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3516907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、従来のディスクブレーキ軸に設置する踏面清掃装置のうち、定圧ばねによって清掃子を車輪踏面に常に押し当てるタイプは、清掃子の摩耗が増加するという点である。一方、車両側からの信号により必要時に清掃子を車輪踏面に押し当てる可動タイプは、機構が複雑になって装置自体のコストが高くなるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、定圧押し付けタイプの踏面清掃装置において、操舵台車の輪軸の前後方向の動きを活用して、地上塗油を行っている曲線区間の通過時のみ、踏面清掃装置を動作させることで、清掃子の摩耗を抑制することを目的としている。
【0013】
すなわち、本発明の鉄道車両用操舵台車は、
台車の輪軸を操舵可能に構成した操舵台車であって、
前記操舵台車の台車枠の、車輪踏面と相対する位置に、車輪踏面への接離移動自在に取付けた清掃子と、
この清掃子を車輪踏面側に付勢する押し付け荷重付加用ばねと、
曲線区間通過時に、操舵による輪軸の車両進行方向の前後動作によって、車輪踏面が近づく内軌側のみ接触し、曲線区間通過時に車輪踏面が遠ざかる外軌側及び直線区間走行時は接触しないように、前記清掃子の車輪踏面への接近移動を拘束するストッパと、を有する踏面清掃装置を備えたことを最も主要な特徴としている。
【0014】
本発明の操舵台車は、地上塗油を行っている曲線区間通過時の車輪踏面が近づく内軌側の清掃子のみを車輪踏面に押付け、曲線区間通過時の車輪踏面が遠ざかる外軌側及び直線区間走行時の清掃子は車輪踏面に接触しないので、清掃子の摩耗を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、車輪踏面に付着した油の除去を、操舵台車特有の曲線区間での輪軸の車両進行方向の前後動作を考慮して、曲線通過時の車輪踏面が近づく内軌側の清掃子のみが車輪に接するようにすることで、清掃子の摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】直線区間走行時における本発明の操舵台車の要部説明図である。
【図2】曲線区間通過時における本発明の操舵台車の要部説明図で、(a)は車輪が台車枠に近づく内軌側の図、(b)は車輪が台車枠から遠ざかる外軌側の図である。
【図3】清掃子の車輪踏面への接近移動を拘束するストッパの他の例を説明する図である。
【図4】従来の定圧ばね式の踏面清掃装置を備えた操舵台車の要部説明図で、(a)は直線区間走行時、(b)は曲線区間通過時に車輪が台車枠に近づく内軌側の図、(c)は曲線区間走行時に車輪が台車枠から遠ざかる外軌側の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明では、清掃子の摩耗を抑制するという目的を、曲線区間通過時に台車枠に車輪踏面が近づく内軌側の清掃子のみが接触し、曲線区間走行時に車輪が台車枠から遠ざかる外軌側や直線区間走行時は接触しないようにすることで実現した。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態例を、図1及び図2を用いて説明する。
図1は直線区間走行時における本発明の操舵台車の要部説明図、図2は曲線区間通過時における本発明の操舵台車の要部説明図である。
【0019】
11は、曲線通過時、操舵装置によって輪軸2を車両進行方向の前後に移動させる本発明の操舵台車であり、例えば台車枠1の、車輪2aの踏面2aaと相対する位置に、踏面2aaへの接離移動自在に清掃子12aを取付けている。
【0020】
図1及び図2では、清掃子12aは、台車枠1の、車輪2aの踏面2aaと相対する位置のうち、車両進行方向前後における台車中心側の位置に、リンク12bを介して設置したものを示している。
【0021】
12cは、踏面2aaに付着した油分などを除去すべく、前記清掃子12aを車輪2aの踏面2aaに向けて常時付勢する押し付け荷重付加用ばねである。すなわち、本発明では、踏面清掃装置12として、製作コスト上有利な定圧押し付けタイプのものを採用している。
【0022】
しかしながら、ただ単に操舵台車11に定圧押し付けタイプの踏面清掃装置12を設置した場合は、曲線通過時、車輪2aが台車枠1に近づく内軌側の清掃子12aの踏面2aaヘの押し付け力が、通常台車の場合よりも大きくなって、摩耗し易くなる。
【0023】
ところで、車輪2aの踏面2aaを清掃する主な目的は、踏面2aaに付着した油分を除去して滑走を防止することであるため、地上塗油を行っている曲線区間の内軌側の車輪2aの踏面2aaのみを清掃すれば良いことになる。一方、操舵台車11は、曲線区間を通過する時のみ、輪軸2が曲線半径に応じて車両進行方向の前後に動作する。
【0024】
従って、曲線区間通過時、輪軸2が車両進行方向の前後に動作したときのみ、台車枠1に車輪2aが近づく内軌側のみ、清掃子12aを車輪2aの踏面2aaに接触させれば良い。
【0025】
そこで、本発明では、操舵台車特有の、曲線区間での輪軸2の車両進行方向の前後動作を活用することで、曲線区間通過時、台車枠1に近づく内軌側の車輪2aの踏面2aaにのみ清掃子12aを押し付けることとした。
【0026】
すなわち、本発明では、図1に示すように、直線区間走行時に、車輪2aの踏面2aaに前記清掃子12aが接触しないように、清掃子12aの踏面2aaへの接近移動を拘束するストッパ12dを設けるのである。
【0027】
例えば図1及び図2の例では、基端側の位置を固定し、先端に清掃子12aを取付けたばね12cの伸長を、ストッパ12dによってばねの先端側で阻止し、清掃子12aの踏面2aaへの接近移動を拘束するものを示している。
【0028】
ところで、踏面に油を供給する地上塗油装置は、急曲線、すなわち曲線半径が小さな曲線のみに設置されている。
【0029】
従って、本発明では、直線区間走行時における車輪2aの踏面2aaと清掃子12aの隙間dを、例えば地上塗油装置が設置されている最も曲線半径が大きな曲線を操舵台車11が通過するときの、輪軸2の前後動き量よりもわずかに小さくする。
【0030】
このようにすれば、車輪2aの踏面2aaと清掃子12aが接触する期間を、地上塗油装置が設置されている曲線区間通過時のみに限定することができるので、清掃子12aの摩耗を抑制することができる。
【0031】
また、前記清掃子12aの設置位置は、踏面2aaへの接離移動が自在であれば、どのような位置でも良いが、可能な限り、軌道Rと高さ方向に平行な水平状で、車軸2bの中心高さ位置付近に設置することが、メンテナンスの観点からは望ましい。
【0032】
上記の構成の本発明の操舵台車11では、地上塗油装置が設置されていない直線区間を走行する時には、図1に示すように、清掃子12aと車輪2aの踏面2aaの間には隙間dが存在し、清掃子12aと踏面2aaは接触していない。
【0033】
一方、地上塗油装置が設置された曲線区間を走行する時には、操舵による輪軸2の車両進行方向の前後動作によって、車輪2aの踏面2aaが近づく内軌側のみ接触して(図2(a))、踏面2aaに付着した油分等のごみを清掃する。この時、車輪2aの踏面2aaが遠ざかる外軌側は接触しない(図2(b))。
【0034】
つまり、本発明の操舵台車11では、地上塗油装置が設置された曲線区間通過時の、内軌側に位置する車輪2aの踏面2aaのみを清掃子12aで清掃し、曲線区間通過時の外軌側や、直線区間走行時は接触しないので、清掃子12aの摩耗を効果的に抑制することができる。
【0035】
そして、前記地上塗油装置が設置された曲線区間通過時に、内軌側に位置する車輪2aの踏面2aaのみに清掃子12aを押し付ける作用も、操舵台車特有の輪軸2の動きを活用して行い、別途シリンダ等を使用しないので、装置自体の構成も簡易でメンテナンスも容易である。
【0036】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0037】
例えば、図1及び図2に示した例では、清掃子12aの踏面2aaへの接近移動の拘束を、基端側の位置を固定したばね12cの先端側で、ばね12cの伸長を阻止することで行うものを示している。
【0038】
しかしながら、図3に示すように、基端側の位置を固定したばね12cを貫通し、先端に清掃子12aを取付けたロッド12eの先端側にばね12cの先端を拘束する鍔12fを設け、ロッド12eの基端側のナット12gの締付けによりばね12cの長さを調整して清掃子12aの踏面2aaへの接近移動を拘束するものでも良い。
【0039】
また、本発明で適用する操舵台車の操舵方式は、アクティブ強制操舵方式、半強制操舵方式の何れの方式にも適用可能である。なお、アクティブ強制操舵方式とは、空圧、油圧或いは電動方式のアクチュエータを使用し、外部からエネルギーを投入して制御しながら能動的に輪軸を操舵する方式である。一方、半強制操舵方式とは、車体・台車・輪軸をリンクなどの機械的機構で繋いで、曲線通過時に車体・台車間に発生するボギー変位を駆動力とする方式である。
【符号の説明】
【0040】
1 台車枠
2 輪軸
2a 車輪
2aa 踏面
2b 車軸
11 操舵台車
12 踏面清掃装置
12a 清掃子
12c ばね
12d ストッパ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車の輪軸を操舵可能に構成した操舵台車であって、
前記操舵台車の台車枠の、車輪踏面と相対する位置に、車輪踏面への接離移動自在に取付けた清掃子と、
この清掃子を車輪踏面側に付勢する押し付け荷重付加用ばねと、
曲線区間通過時に、操舵による輪軸の車両進行方向の前後動作によって、車輪踏面が近づく内軌側のみ接触し、曲線区間通過時に車輪踏面が遠ざかる外軌側及び直線区間走行時は接触しないように、前記清掃子の車輪踏面への接近移動を拘束するストッパと、を有する踏面清掃装置を備えたことを特徴とする鉄道車両用操舵台車。
【請求項2】
前記清掃子は、可能な限り、軌道と高さ方向に平行な水平状で、車軸の中心に近い高さ位置に設置したことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用操舵台車。
【請求項3】
前記清掃子は、車両進行方向前後における台車中心側に設置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両用操舵台車。
【請求項4】
直線区間走行時における前記清掃子と車輪踏面の隙間は、地上塗油装置が設置されている曲線のうち、最も曲線半径の大きい曲線を操舵台車が通過するときの、輪軸の前後動き量よりも小さいことを特徴とする請求項3に記載の鉄道車両用操舵台車。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−103689(P2013−103689A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250891(P2011−250891)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)