説明

鉄道車両用操舵台車

【課題】操舵時における軸箱の回転に追従しつつ、車体の上下方向荷重を適切に支持できるようにする。
【解決手段】台車の輪軸2を操舵可能に構成した操舵台車11である。輪軸2の両端に軸受を介して取り付けられた軸箱1と台車枠5の間に設置されて台車枠5を支持するコイルばね12を、直線区間での最大積載時の縮み量に加えて、操舵時における軸箱の回転時にも密着しない縮み量を確保したものとする。
【効果】操舵時にもコイルばねが密着しないので、操舵時、コイルばねと軸箱部の上下方向荷重の伝達が不均一となることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車の輪軸を操舵する鉄道車両用操舵台車に関するものであり、特にモノリンク式軸箱支持の操舵台車におけるコイルばねに特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
軸箱支持装置は、乗り心地、高速走行安定性、曲線通過性能の観点から、上下に柔らかく、車両前後進方向(以下、前後方向という。)及び車両幅方向(以下、左右方向という。)に適度な剛性で支持する必要がある。
【0003】
この軸箱支持装置の前後方向の支持を行うリンクを活用し、リンク長さ相当分を変化させることで操舵機能を発揮するモノリンク式操舵台車は、台車枠と軸箱間の前後方向の荷重をモノリンクで、左右方向の荷重を台車枠のばね帽部と軸箱部の間のロールゴムで、それぞれ独立して負担するため、軸箱を前後に動かすリンク式操舵台車に適した軸箱支持装置である。
【0004】
しかしながら、モノリンク式ボギー操舵台車の場合、曲線路の通過時、図4に示す頂上ばね式、図5に示すウィング式を問わず、軸箱1が、同図に示す通常時の状態から、輪軸2の軸中心を中心として回転する。
【0005】
そして、この軸箱1の回転によって、台車枠5を上下方向に支持するコイルばね4が、図6に示すように、扇形に変形して、扇の要側はより大きく上下方向に縮み、扇の外側の縮み量は要側の縮み量よりも小さくなる。なお、図4及び図5中の3は車体を示す。
【0006】
すなわち、モノリンク式操舵台車では、曲線路の通過時、車体を上下方向に支持するコイルばねは扇形に変形することになるが、このようなコイルばねの変形態様を考慮した操舵台車はなかった。
【0007】
例えば特許文献1では、操舵台車の軸箱支持に関する技術が開示されているが、この技術は前後方向の支持に関するもので、本発明が解決しようとする操舵時における軸箱の回転に起因するコイルばねの変形態様を考慮したものではない。
【0008】
従って、最大積載時にコイルばねが密着しないように空車時から密着時までの縮み量を設定している通常台車のコイルばねをそのまま操舵台車に採用した場合は、操舵時、コイルばねが密着した場合には、コイルばねと軸箱部の上下方向荷重の伝達が不均一となって操舵量の制御に影響が出る。
【0009】
発明者らの調査によれば、図4に示した頂上ばね式に比べて、操舵時のコイルばねの変形が大きくなる、図5に示したウィング式軸箱支持装置を備えたモノリンク式ボギー操舵台車では、操舵時の変形によりコイルばねが密着する場合があることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−264812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、従来の操舵台車は、操舵時における軸箱の回転に起因するコイルばねの変形態様については考慮されていなかったという点である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、操舵時における軸箱の回転に追従しつつ、車体の上下方向荷重を適切に支持できるようにすることを目的としている。
【0013】
すなわち、本発明の鉄道車両用操舵台車は、
台車の輪軸を操舵可能に構成した操舵台車であって、
輪軸の両端に軸受を介して取り付けられた軸箱と台車枠間に設置されて台車枠を支持するコイルばねを、直線区間での最大積載時の縮み量に加えて、操舵時における軸箱の回転時にも密着しない縮み量を確保したものとすることを最も主要な特徴としている。
【0014】
本発明の操舵台車は、直線区間での最大積載時の縮み量に加えて、操舵時における軸箱の回転時にも密着しない縮み量を確保したコイルばねとするので、操舵時にもコイルばねが密着しない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、操舵時にもコイルばねが密着しないので、操舵時、コイルばねと軸箱部の上下方向荷重の伝達が不均一となることがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】頂上ばね式軸箱支持装置を備えたモノリンク式操舵台車に本発明を適用した場合の概念図で、(a)は全体を車両側面から見た図、(b)は通常時における軸箱とコイルばね部の拡大図、(c)は操舵時における軸箱とコイルばね部の拡大図である。
【図2】図1の要部を拡大して示した詳細図で、(a)は車両側面から見た後半分の図、(b)は(a)を車両前後方向から見た図である。
【図3】台車枠側と軸箱側の立ち上がり位置が1/4巻位相がずれているコイルばねを車両の上方向から見た図である。
【図4】頂上ばね式軸箱支持装置を備えたモノリンク式操舵台車の概念図である。
【図5】ウィング式軸箱支持装置を備えたモノリンク式操舵台車の概念図である。
【図6】操舵時におけるコイルばねの変形態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明では、操舵時における軸箱の回転に追従しつつ、車体の上下方向荷重を適切に支持できるようにするという目的を、最大積載時の縮み量に加えて、操舵時における軸箱の回転時にも密着しない縮み量を確保したコイルばねとすることで実現した。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態例を、図1〜図3を用いて説明する。
図1及び図2は頂上ばね式軸箱支持装置を備えたモノリンク式操舵台車に本発明を適用した場合の図である。
【0019】
先に説明したように、操舵台車では、操舵時、コイルばねは、輪軸の軸中心を中心とする軸箱の回転により、図5のように扇形に変形するので、扇の要側はより大きく上下方向に縮み、扇の外側の縮み量は要側の縮み量よりも少ない。
【0020】
そこで、本発明の操舵台車11では、最大積載時の縮み量に加えて、操舵時における軸箱1の回転によりコイルばね12に上下縮みが加わっても、図1(c)に示すように、コイルばね12が密着しない縮み量を確保したものとすることを特徴としている。
【0021】
その際、図1に示すように、コイルばね12と並列に前後方向に動くゴム13が設けられている場合には、軸箱1は、ゴム13の中心近傍を中心として操舵による前後方向の動きによる量だけ傾斜する。従って、前記傾斜動作によってコイルばね12に生じる縮み量を前記積載時の縮み量に加える必要がある。
【0022】
このような縮み量を有するコイルばね12を設置した本発明の操舵台車11では、頂上ばね式、ウィング式のどちらの軸箱支持装置を備えたものであっても、操舵時にコイルばね12が密着することがない。従って、操舵時、コイルばね12と軸箱1部の上下方向荷重の伝達が不均一となることがなく、操舵動作への弊害を抑制することができる。
【0023】
ところで、軸箱1と台車枠5の間のスペースは限られているので、操舵による軸箱1の輪軸2の軸中心を中心とする回転と、この回転によって生じるコイルばね12の上下変位を抑制するためには、コイルばね12を軸箱1の上に設置する、頂上ばね式の軸箱支持装置を採用することが望ましい。
【0024】
頂上ばね式の軸箱支持装置を備えた操舵台車11の場合、軸箱1の回転によってコイルばね12が扇形に変形しても、それに伴う上下変位は発生しないので、操舵によって生じるコイルばね12の上下縮みを抑制することができる。
【0025】
ところで、コイルばね12と軸箱1部の荷重伝達に注目すると、コイルばね12と軸箱1部の荷重伝達は、コイルばね12の全面で均等に荷重伝達を行うのではなく、コイルばねの立ち上がり位置近傍で最も荷重負担が大きくなっている。なお、コイルばねの立ち上がり位置とは、本願明細書では、立ち上がり端から巻き始められたコイルの横断面が完全な円形になる位置を言う。
【0026】
また、軸箱1の前記回転の方向によってコイルばね12の縮み量が変化すると、前記回転の方向に拘わらず均等に縮む場合に比べてより多く縮む回転方向のコイルばね12からの軸箱1への荷重伝達が大きくなって、コイルばね12がより劣化しやすくなる。
【0027】
従って、頂上ばね式の軸箱支持装置を備えた本発明の操舵台車11の場合、コイルばね12の立ち上がり位置を、図2(b)に示すように、操舵の動きの影響の少ない位置、すなわち輪軸2の中心線上にすることで、コイルばね12の劣化をより抑制することができる。また、軸箱1の回転方向が変化した場合の縮み量を均一にすることができ、コイルばね12の劣化を抑制することができる。
【0028】
加えて、操舵動作によって軸箱1が回転しても、操舵機構に与える荷重負担は均等になって操舵動作への弊害を抑制することができる。
【0029】
ところで、荷重伝達は軸箱側だけでなく台車枠側でも発生することから、操舵装置だけでなく、コイルばね12の劣化に対して最適化するには、コイルばね12の立ち上がり位置は、コイルばね12の台車枠側と軸箱側の両方が、輪軸2の中心線上に位置するようにする必要がある。
【0030】
その際、鉄道車両用のコイルばねは、巻き数を1/4巻き単位にするのが一般的であることから、巻き数が整数または0.5刻みの場合は、軸箱側のコイルばね12の立ち上がり位置を輪軸2の中心線上にすると、台車枠側の立ち上がり位置も輪軸2の中心線上になる。
【0031】
しかしながら、巻き数が1/4または3/4刻みの場合、軸箱側の立ち上がり位置を輪軸2の中心線上にすると、台車枠側の立ち上がり位置は輪軸2の中心線上に位置しなくなる。
【0032】
従って、巻き数が1/4または3/4刻みの場合は、台車枠側と軸箱側とも極力輪軸2の中心線上に近づくように、車両の上方向からコイルばね12を見た場合には、図3に示すように、輪軸2の中心線上から45°傾けた位置にコイルばね12の立ち上がり位置がくるようにすることが望ましい。なお、図3は巻き数が1/4刻みの場合の例である。
【0033】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0034】
例えば、頂上ばね式、ウィング式の軸箱支持装置を問わず、操舵時における軸箱1の回転角度は、コイルばね12と並列に設置されたゴム13の上下方向の高さ位置に依存する。つまり、ゴム13の上下方向の設置位置が低くなると、高い位置に設置した場合に比べて、同じ操舵量であっても軸箱1の回転角度が大きくなるので、コイルばね12と並列に設置するゴム13は極力高い位置に設置することが望ましい。
【0035】
また、本発明で適用する操舵台車の操舵方式は、アクティブ強制操舵方式、半強制操舵方式の何れの方式にも適用可能である。なお、アクティブ強制操舵方式とは、空圧、油圧或いは電動方式のアクチュエータを使用し、外部からエネルギーを投入して制御しながら能動的に輪軸を操舵する方式である。一方、半強制操舵方式とは、車体・台車・輪軸をリンクなどの機械的機構で繋いで、曲線通過時に車体・台車間に発生するボギー変位を駆動力とする方式である。
【符号の説明】
【0036】
1 軸箱
2 輪軸
3 車体
5 台車枠
11 操舵台車
12 コイルばね


【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車の輪軸を操舵可能に構成した操舵台車であって、
輪軸の両端に軸受を介して取り付けられた軸箱と台車枠間に設置されて台車枠を支持するコイルばねを、直線区間での最大積載時の縮み量に加えて、操舵時における軸箱の回転時にも密着しない縮み量を確保したものとすることを特徴とする鉄道車両用操舵台車。
【請求項2】
頂上ばね式の軸箱支持装置を備えた鉄道車両用操舵台車であって、
前記コイルばねにおける軸箱側の立ち上がり位置が輪軸の中心線上となるよう、コイルばねを設置したことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用操舵台車。
【請求項3】
頂上ばね式の軸箱支持装置を備えた鉄道車両用操舵台車であって、台車枠側と軸箱側の立ち上がり位置が1/4巻位相がずれているコイルばねを使用し、
前記コイルばねにおける軸箱側の立ち上がり位置が、平面方向から見て輪軸の中心線上から45°傾けた位置となるよう、コイルばねを設置したことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用操舵台車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−23093(P2013−23093A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160277(P2011−160277)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】