銀ろう材
【課題】超硬合金部材を接合する際に用いる場合においても秀れた接合強度を発揮できる極めて実用性に秀れた銀ろう材の提供。
【解決手段】
銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)及びコバルト(Co)を主成分とする銀ろう材であって、前記各成分の含有量を、Ag:48.0〜54.0質量%、Cu:19.0〜23.0質量%、Zn:13.0〜30.0質量%、Co:0.1〜2.3質量%とする。
【解決手段】
銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)及びコバルト(Co)を主成分とする銀ろう材であって、前記各成分の含有量を、Ag:48.0〜54.0質量%、Cu:19.0〜23.0質量%、Zn:13.0〜30.0質量%、Co:0.1〜2.3質量%とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば超硬合金部材と他部材とのろう付接合(ろう接)に用いられる銀ろう材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は、一般に炭化タングステン(WC)粉末を結合材であるコバルト(Co)を用いて焼結した複合材料であり、高硬度で耐摩耗性に優れ、切削工具などに広く使用されているが、タングステン等の希少金属を主成分としているため、非常に高価である。
【0003】
このため、例えばドリル等の切削工具においては、シャンク部を再利用することによって、超硬合金使用量の節減が行われている。例えば、使用済み工具の摩耗した刃部のみを除去し、残った超硬合金製のシャンク部に新しい刃部をろう付して工具として再利用する等である。
【0004】
ところで、従来、このような刃部とシャンク部とのろう付には、例えば特許文献1に開示されるような銀(Ag)ろう材が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−121288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者等は、種々の検討の結果、従来の銀ろう材による超硬合金のろう付時には、超硬合金中の結合材であるCoがろう層部(ろう材)に拡散することにより、接合界面近傍の超硬合金中のCoが欠乏して、破断が起きやすくなることを見出した。
【0007】
即ち、ろう付継手のろう層部がある程度の強度を有する場合には、超硬合金内(のCoが欠乏したCo欠乏領域)で破断が起き、このCo欠乏領域の大きさが継手の強度に大きく影響することを見出した。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決したものであり、超硬合金部材を接合する際に用いる場合においても秀れた接合強度を発揮できる極めて実用性に秀れた銀ろう材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0010】
銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)及びコバルト(Co)を主成分とする銀ろう材であって、前記各成分の含有量が、Ag:48.0〜54.0質量%、Cu:19.0〜23.0質量%、Zn:13.0〜30.0質量%、Co:0.1〜2.3質量%であることを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【0011】
また、請求項1記載の銀ろう材において、Coを高濃度に含有するCoリッチ相を有し、このCoリッチ相の硬さが280HV以上であることを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【0012】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の銀ろう材において、この銀ろう材は、炭化タングステン(WC)とCoとを主成分とする超硬合金部材と他部材とを接合する際に用いられるものであることを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【0013】
また、請求項3記載の銀ろう材において、前記超硬合金部材同士を接合する際に用いられるものであることを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【0014】
また、請求項3,4いずれか1項に記載の銀ろう材において、この銀ろう材は、前記超硬合金部材と接合した際、前記超硬合金部材の銀ろう材との接合界面に形成されるCo欠乏領域の幅が1μm以下となるものであることを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【0015】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の銀ろう材において、スズ(Sn)を10.0〜12.0質量%含むことを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【0016】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の銀ろう材において、ニッケル(Ni)を2.1〜2.2質量%含むことを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上述のように構成したから、超硬合金部材を接合する際に用いる場合においても秀れた接合強度を発揮できる極めて実用性に秀れた銀ろう材となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】使用したろう材の化学組成及び液相線を示す表である。
【図2】ろう付装置の概略説明図である。
【図3】接合界面近傍の超硬合金中のCo欠乏の様子を示すSEM写真である。
【図4】従来の銀ろう材を使用した継手の曲げ強さを示すグラフである。
【図5】曲げ試験後の破面の様子を示す写真である。
【図6】BAg0へのCoの添加量と曲げ強さとの関係を示すグラフである。
【図7】曲げ試験後の破面の様子を示す写真である。
【図8】接合界面近傍の超硬合金中のCo欠乏の様子を示すSEM写真である。
【図9】ろう層部の組織を示すSEM写真である。
【図10】ろう層部各相の化学組成とビッカース硬さを示す表である。
【図11】BAg0−2Coによる継手のろう層部組織を示すSEM写真である。
【図12】BAg0−2Coによる継手の破断経路を示すSEM写真である。
【図13】BAg−24−0NiへのCoの添加量と曲げ強さとの関係を示すグラフである。
【図14】曲げ試験後の破面の様子を示す写真である。
【図15】接合界面近傍の超硬合金中のCo欠乏の様子を示すSEM写真である。
【図16】ろう層部の組織を示すSEM写真である。
【図17】ろう層部各相の化学組成とビッカース硬さを示す表である。
【図18】BAg−24−0Ni−2Coによる継手のろう層部組織を示すSEM写真である。
【図19】BAg−24へのCoの添加量と曲げ強さとの関係を示すグラフである。
【図20】曲げ試験後の破面の様子を示す写真である。
【図21】接合界面近傍の超硬合金中のCo欠乏の様子を示すSEM写真である。
【図22】ろう層部の組織を示すSEM写真である。
【図23】ろう層部各相の化学組成を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0020】
予め銀ろう材にCoが含有されているため、例えば、(Coを結合材とする)超硬合金部材をろう付する際、超硬合金部材の銀ろう材との接合界面近傍における銀ろう材へのCoの拡散が防止されることになる。従って、超硬合金部材の銀ろう材との接合界面近傍のCo欠乏領域の幅を可及的に狭くすることが可能となり、前記超硬合金部材に対しても、それだけ破断し難く接合強度に秀れたろう付を行えるものとなる。
【実施例】
【0021】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0022】
本実施例は、Ag、Cu、Zn及びCoを主成分とする銀ろう材であって、前記各成分の含有量が、Ag:48.0〜54.0質量%、Cu:19.0〜23.0質量%、Zn:13.0〜30.0質量%、Co:0.1〜2.3質量%に設定されているものである。
【0023】
本実施例における各成分の含有量等の数値限定の範囲は後述する実験例に基づいて導き出されるものであり、まず、本実施例の概略を説明する。
【0024】
本実施例は、例えば、WCとCoを主成分とする超硬合金部材同士とをろう付する際に用いられるものである。尚、超硬合金部材と超硬合金部材以外の部材とをろう付する際に用いても良いし、超硬合金部材以外の部材同士をろう付する際に用いても良い。
【0025】
また、本実施例は、Coを高濃度に含有するCoリッチ相を有し、このCoリッチ相の硬さが280HV以上となるように、更に好ましくは300HV以上となるようにCoの含有量が設定されている。280HV以上の硬度がない場合、Coを含有せしめることによる接合強度向上効果が十分に発揮されないためである。
【0026】
また、本実施例は、銀ろう材と前記超硬合金部材とを接合した際、前記超硬合金部材の銀ろう材との接合界面に形成されるCo欠乏領域の幅が1μm以下となるようにCoの含有量が設定されている。1μmを超えるCo欠乏領域が存在するとCoを含有せしめることによる接合強度向上効果が十分に発揮されないためである。尚、Co欠乏領域とは、超硬合金部材においてCo量が他領域より少ない領域のことであり、本実施例では接合界面に対し直交する方向の長さをCo欠乏領域の幅としている。このCo欠乏領域の幅は例えば、走査電子顕微鏡(SEM)に搭載されたエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いた元素の面分析によって確認することができる。例えば、図3,8,15では夫々の写真の左側に超硬合金部材、右側にろう層部が配置されるように接合界面近傍を観察したものであり、写真中の左右に横断する線はCo量を表しており、夫々の写真中で線が上にあるほどCo量が多いことを示すためこの線によりCo欠乏領域の幅を求める。具体的には、一辺がWC粒径の40倍以上の領域で面分析により超硬合金部材のCo量を測定し、それを平均化した線を接合界面に対し直交する方向で表した時に、接合界面に向かい平均化した線が下がり始める(Co量が減少し始める)所から、接合界面までの領域をCo欠乏領域としてその幅を求める。
【0027】
また、上記構成に、スズ(Sn)を10.0〜12.0質量%添加したり、ニッケル(Ni)を2.1〜2.2質量%添加しても良い。この場合にも、良好な銀ろう材を得ることが可能である。
【0028】
尚、融点(液相線)が700℃以下となるように各成分の含有量を設定すると、ろう付時の加熱温度をそれだけ低くすることが可能となり、ろう付工程における作業性の向上と省エネルギー化が可能となる。
【0029】
本実施例は上述のように構成したから、予め銀ろう材にCoが含有されることで、Coを結合材とする超硬合金部材をろう付する際、超硬合金部材の銀ろう材との接合界面近傍における銀ろう材へのCoの拡散が防止されることになる。従って、超硬合金部材の銀ろう材との接合界面近傍のCo欠乏領域の幅を可及的に狭くすることが可能となり、前記超硬合金部材に対しても、それだけ破断し難く接合強度に秀れたろう付を行えるものとなる。
【0030】
よって、本実施例は、超硬合金部材を接合する際に用いる場合でも秀れた接合強度を発揮できる極めて実用性に秀れたものとなる。
【0031】
以下、本実施例の効果を裏付ける実験例について詳述する。
【0032】
供試材には、直径6mmの超硬合金(WC−9.2mass%Co−0.8mass%Cr−0.4mass%V,抗折力:約3990MPa)丸棒を用いた。なお、含有量を示す単位である「質量%」と「mass%」とは同じ意味であり、本明細書においてはこれらを併用している。WCの平均粒径は約0.2μmである。接合用試験片の長さは50mmであり、接合端面をダイヤモンドペーストによって鏡面に仕上げた(平均表面粗さ:Ra≒0.05μm)後、アセトン中で超音波洗浄して接合に供した。
【0033】
用いたろう材は、超硬合金のろう付に用いられているBAg−24,BAg−24の組成のうちNiを除いた銀ろう材(BAg−24−0Ni)、及び、本発明者等が開発した特許第4093322号に係る銀ろう材(BAg0)と、それぞれにCoを添加した銀ろう材(本実施例)である。用いた銀ろう材の化学組成と液相線を図1に示す。Coの添加量は図1中最左欄の「−0.1Co」,「−1Co」等と表示される通りである(いずれも単位はmass%)。液相線は示差熱分析法(DTA)によって測定した。なお、特開昭63−317290号公報には、Coを添加した銀ろう材が記載されているが、用途やCoを添加する目的が異なっている。また、超硬合金用の銀ろう材には、Znが含有されていないと超硬合金に対して銀ろうが濡れずに接合が困難であるため、特開昭63−317290号公報に記載の銀ろう材は超硬合金のろう付には適用できない。
【0034】
接合に用いたろう付装置の概略を図2(a)に示す。ろう付は大気中で行い、加熱は高周波誘導加熱によって行った。垂直に配置した二本の接合試験片(超硬合金部材)の接合面に市販のフラックスを塗布し、質量約0.05gの薄片状のろうを挿入した後、加熱速度10℃/sで所定の温度(この温度を接合温度と呼ぶ)まで加熱した。接合温度に30s間保持した後、空冷した。接合温度は、使用するろうにより、650℃または750℃とした。試験片の温度は、接合端面から約1mm離れた箇所に取り付けたR熱電対で測定した。なお、図2(b)に示すように,上側試験片の接合面に直径0.1mmのタングステン線を挿入してクリアランスを0.1mmに保持した。接合中は、超硬合金丸棒(接合試験片)の軸方向に約90Nの荷重を加えた。
【0035】
ろう付された接合体は、中央部を直径4mmで平行部長さ5mmに加工後、三点曲げ試験(支点間距離:25mm,試験速度:0.1mm/min)を行い、曲げ強さを測定した。この曲げ強さを継手の接合強さとした。また、ろう層部(ろう付した状態のろう材)の組織や破断経路を走査電子顕微鏡(SEM)によって観察し、エネルギー分散型X線分光器(EDS)によって元素分析等を行った。ろう層部組織の硬さ試験は、ダイナミック超微小硬度計を用いて行い、試験時間10sでビッカース硬さを求めた。
【0036】
次に実験結果について説明する。
【0037】
図3に従来から超硬合金のろう付に使用されているBAg−24と、これからNiを除いたBAg−24−0Niと、BAg0を使用してろう付した継手の接合界面近傍の超硬合金中Co欠乏の様子を示す。接合温度は、BAg−24,BAg−24−0Niを使用した場合は750℃で、BAg0を使用した場合は650℃である。従来から超硬合金用のろう付に使用されているBAg−24による継手のCo欠乏領域の幅は比較的広くなっているのがわかる。これは、ろう成分中にCoと全率で固溶するNiが含まれている影響で、超硬合金中のCoがろう層部に拡散しやすくなっていることが原因と考えられる。また、接合温度が低い場合にCo欠乏領域が狭くなっているが、これは接合温度が低いため、Coがろう層中に拡散しにくかったためと考えられる。
【0038】
それぞれの銀ろうを使用してろう付された継手の曲げ強さを図4に示す。BAg−24とBAg−24−0Niを比較すると、超硬合金中Co欠乏領域が狭かったBAg−24−0Niの方が曲げ強さが高かった。しかし、Co欠乏領域が最も狭かったBAg0による継手の曲げ強さは、一番低い値を示した。
【0039】
次に、それぞれの銀ろうによる継手の曲げ試験後の破面の様子を図5に示すが、BAg−24とBAg−24−0Niを使用した継手の破断は、図5(a),(b)に示すようにほとんどが超硬合金内での破断であった。また、図5(c)に示すように、BAg0による継手の破断は主にろう層内で起きていた。このことから、BAg−24よりBAg−24−0Niによる継手の曲げ強さが高くなったのは、超硬合金中Co欠乏領域が狭いことにより、超硬合金内での破断が起きにくかったことが原因と考えられる。また、BAg0による継手の曲げ強さが低かった原因は、ろう層部が弱かったためと考えられる。
【0040】
次に、BAg0へのCo添加の影響について調べた。上述したようにBAg0による継手の破断はろう層部で起きているため、曲げ強さの向上のためにはろう層部の強化が必要である。また、超硬合金中Co欠乏領域についても、接合温度が低いために狭くなってはいるものの、ろう層部の強化によりこの欠乏領域が問題になることも十分に考えられる。そこで、あらかじめ銀ろう中にCoを添加することで、超硬合金からのCoの拡散を抑えると同時に、Coの固溶強化によるろう層部の強化を期待した。図6にBAg0とこれにCoを添加した銀ろうによる継手の曲げ強さを示す。Coを微量添加することにより、それによる継手の曲げ強さが向上し、添加量0.5mass%で最大の曲げ強さを示した。また、さらに添加量を増加させた場合、それによる継手の曲げ強さは低下する傾向を示した。曲げ試験後の破面の様子を図7に示すが、Coを0.5mass%添加した銀ろうを使用した場合には、破断が一部超硬合金内で発生していた。このことから、Coの添加によりろう層部が破断しにくくなったことが予想される。また、Coを2mass%添加した銀ろうを使用した場合には、ろう層部での破断がほとんどであり、過度にCoを添加することで、ろう層部が弱くなっていることが予想される。
【0041】
図8にBAg0とBAg0−0.5Coを使用してろう付した継手の接合界面近傍の超硬合金中Co欠乏の様子を示す。Coを0.5mass%添加したことで、超硬合金中のCo欠乏領域が縮小したことがわかる。このことから、Coを添加することで、それによる継手は超硬合金での破断が起きにくくなることが考えられる。次に、BAg0とBAg0−0.5Coを使用してろう付した継手のろう層部組織を図9に示す。通常の銀ろうの凝固組織は、α−Cu相(Znと少しのAgを含む銅固溶体)の初晶,α1−Ag相(Znと少しのCuを含む銀固溶体)及びこれらの共晶が主体であると言われていて、本実験例においてもこれと同様の組織となっていると考えられる。すなわち、Wで示す相は銀固溶体相、Dで示す相は銅固溶体相、Eで示す部分はWとDの共晶組織と考えられ、いずれのろう層部にもこれらの組織が見られた。また、Coを添加した銀ろうを使用した場合にはBで示すCoリッチ相が見られた。Coリッチ相の定義については後述する。
【0042】
各相の化学組成とビッカース硬さを図10に示す。なお、Coリッチ相は非常に小さく硬さ測定が困難だったため、後述するBAg0−2Coを使用した継手のろう層部に形成されたほぼ同組成の相の硬さをこの相の硬さとしている。銀固溶体相、銅固溶体相ともに、含有するCo量が増加し、それに伴い、硬さも上昇しているのがわかる。以上のことから、BAg0−0.5Coを使用した継手の曲げ強さの向上は、接合界面近傍の超硬合金中Co欠乏領域の縮小と、ろう層部の固溶強化によるものと考えられる。
【0043】
BAg0−2Coを使用した継手のろう層部の組織を図11に示す。ろう層部に形成される相はBAg0−0.5Coによる継手と同じであったが、Bで示すCoリッチ相が多く、粗大になっていた。また、この相のビッカース硬さは390HVと硬くなっていた。この硬さはCoリッチ相の平均硬さであるが、硬さは低いものでも300HV以上であった。図12にBAg0−2Coによる継手の破断経路を示すが、破断は硬いCoリッチ相の周囲で起きていた。このことから、Coの添加量を増加させた場合に曲げ強さが低下したのは、Coリッチ相の増加と粗大化が原因であると考えられる。
【0044】
次に、BAg−24−0NiへのCo添加の影響について調べた。
【0045】
BAg−24−0NiとこれにCoを添加した銀ろうを使用してろう付した継手の曲げ強さを図13に示す。Coを微量添加することにより、それによる継手の曲げ強さが向上し、添加量0.5%で最大の曲げ強さを示した。また、添加量を増加させた場合、それによる継手の曲げ強さは低下する傾向を示した。これは、BAg0にCoを添加した場合と同様の結果であった。曲げ試験後の破面の様子を図14に示すが、BAg−24−0NiとBAg−24−0Ni−0.5Coを使用した継手の破断は、そのほとんどが超硬合金での破断であった。また、BAg−24−0Ni−2Coを使用した継手の場合は、ろう層部での破断が多く見られた。
【0046】
BAg−24−0Ni、BAg−24−0Ni−0.5Co、BAg−24−0Ni−2Coを使用してろう付した継手の接合界面近傍の超硬合金中Co欠乏の様子を図15に示す。Co添加によりCo欠乏領域が縮小しているのがわかる。また、Co添加量が0.5mass%と2.0mass%ではほとんど違いは見られなかった。このことから、前述のBAg0にCoを添加した場合と同様に、Coを添加することで超硬合金での破断が起きにくくなっていると考えられる。
【0047】
BAg−24−0NiとBAg−24−0Ni−0.5Coを使用してろう付した継手のろう層部の組織を図16に示す。図9に示したBAg0による継手のろう層部に形成される組織とは大きく異なるものの、現れる相は同じと考えられ、銀固溶体と銅固溶体とこれらの共晶組織、そして、Coを添加した場合には黒く見えるCoリッチ相が見られた。また、各相の化学組成とビッカース硬さを図17に示す。なお、上述のBAg0の場合と同様にCoリッチ相は非常に小さく硬さ測定が困難だったため、後述するBAg−24−0Ni−2Coを使用した継手のろう層部に形成されたほぼ同組成の相の硬さをこの相の硬さとしている。上述のBAg0にCoを添加した場合と同様に、Coを添加することで各相に固溶されるCo量が増加し、それに伴い硬さも上昇した。このことから、BAg−24−0NiにCoを添加することで、それによる曲げ強さが向上した原因は、接合界面近傍の超硬合金中Co欠乏領域の縮小とCoの固溶強化により、超硬合金とろう層部が破断しにくくなったためと考えられる。BAg−24−0Ni−2Coによる継手のろう層部組織を図18に示す。黒く見えるCoリッチ相が多く粗大になっている。Co添加量を増加すると、それによる継手の曲げ強さが低下した原因は、BAg0にCoを添加した場合と同様に、この硬く粗大なCoリッチ相により、ろう層部が破断しやすくなったためと考えられる。
【0048】
次に、BAg−24へのCo添加の影響について調べた。
【0049】
BAg−24とこれにCoを添加した銀ろうを使用してろう付した継手の曲げ強さを図19に示す。上述したBAg−24−0Niの場合と同様に、Coを添加することでそれによる継手の曲げ強さが向上したが、BAg−24−0NiにCoを添加した銀ろうによる継手の曲げ強さに比べると低い値を示した。また、Co添加量を増加させても曲げ強さの明らかな低下は見られなかった。図20に曲げ試験後の破面の様子を示すが、BAg−24とBAg−24−0.5Coによる継手の破断は、そのほとんどが超硬合金内で起きていた。また、Co添加量が増加すると、それによる継手の破断はろう層内での破断が多くなった。図21にBAg−24とBAg−24−0.5CoとBAg−24−2Coによる継手の接合界面近傍の超硬合金中Co欠乏の様子を示す。BAg0またはBAg−24−0NiにCoを添加した場合は、夫々図8と図15に示すように、その添加量が0.5mass%でCoの欠乏はほとんど見られなくなっていたが(Co欠乏領域の幅が0.5μm未満)、BAg−24にCoを0.5mass%添加した場合は、それによる継手の接合界面近傍の超硬合金Co欠乏領域は、まだ広かった。これは、銀ろうに含まれるNiとCoは全率で固溶する元素であるため、微量のCo添加では超硬合金からろう層部への拡散が起こっていることが考えられる。Coを2mass%添加した場合には、接合界面近傍のCo欠乏領域はほとんど見られなくなっていた。次に、BAg−24、BAg−24−0.5Co、BAg−24−2Coによる継手の接合部組織を図22に示す。それぞれの接合部に銀固溶体と銅固溶体と思われる相が見られた。また、Coを添加した銀ろうを使用した継手のろう層部には黒く見えるCoリッチ相が見られた。各相の化学組成を図23に示すが、このCoリッチ相はBAg0やBAg−24−0NiにCoを添加した場合とは違い、含有するCoの割合が少なく、Niが若干多く含まれていた。Co含有量には多少のばらつきがあったが、一番少ないもので約58at%であった。この結果より、Coリッチ相はCoを55at%以上含有する相と定義した。また、添加量が多くなるにつれ、Co濃度が高くなっていた。このことから、Co添加量が多くなるとろう層部での破断が起きやすくなり、ろう層部での破断が多くなったと考えられる。しかし、NiはCoを全率で固溶する元素であるために、ろう成分中にNiを含んでいる場合は、Niを含んでいない場合に比べて、Coリッチ相のCo濃度が低く、また粗大化も起こりにくいために接合強度の明らかな低下が見られなかったと考えられる。しかし、さらにCo添加量を増加させた場合には徐々に接合強度が低下することが予測される。
【0050】
以上から、BAg−24、BAg−24−0Ni、BAg0のいずれに対しても、適量のCoを添加することで、超硬合金部材同士をろう付した際、曲げ強さ(接合強度)を向上させることが可能であることを確認できた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば超硬合金部材と他部材とのろう付接合(ろう接)に用いられる銀ろう材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は、一般に炭化タングステン(WC)粉末を結合材であるコバルト(Co)を用いて焼結した複合材料であり、高硬度で耐摩耗性に優れ、切削工具などに広く使用されているが、タングステン等の希少金属を主成分としているため、非常に高価である。
【0003】
このため、例えばドリル等の切削工具においては、シャンク部を再利用することによって、超硬合金使用量の節減が行われている。例えば、使用済み工具の摩耗した刃部のみを除去し、残った超硬合金製のシャンク部に新しい刃部をろう付して工具として再利用する等である。
【0004】
ところで、従来、このような刃部とシャンク部とのろう付には、例えば特許文献1に開示されるような銀(Ag)ろう材が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−121288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者等は、種々の検討の結果、従来の銀ろう材による超硬合金のろう付時には、超硬合金中の結合材であるCoがろう層部(ろう材)に拡散することにより、接合界面近傍の超硬合金中のCoが欠乏して、破断が起きやすくなることを見出した。
【0007】
即ち、ろう付継手のろう層部がある程度の強度を有する場合には、超硬合金内(のCoが欠乏したCo欠乏領域)で破断が起き、このCo欠乏領域の大きさが継手の強度に大きく影響することを見出した。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決したものであり、超硬合金部材を接合する際に用いる場合においても秀れた接合強度を発揮できる極めて実用性に秀れた銀ろう材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0010】
銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)及びコバルト(Co)を主成分とする銀ろう材であって、前記各成分の含有量が、Ag:48.0〜54.0質量%、Cu:19.0〜23.0質量%、Zn:13.0〜30.0質量%、Co:0.1〜2.3質量%であることを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【0011】
また、請求項1記載の銀ろう材において、Coを高濃度に含有するCoリッチ相を有し、このCoリッチ相の硬さが280HV以上であることを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【0012】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の銀ろう材において、この銀ろう材は、炭化タングステン(WC)とCoとを主成分とする超硬合金部材と他部材とを接合する際に用いられるものであることを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【0013】
また、請求項3記載の銀ろう材において、前記超硬合金部材同士を接合する際に用いられるものであることを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【0014】
また、請求項3,4いずれか1項に記載の銀ろう材において、この銀ろう材は、前記超硬合金部材と接合した際、前記超硬合金部材の銀ろう材との接合界面に形成されるCo欠乏領域の幅が1μm以下となるものであることを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【0015】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の銀ろう材において、スズ(Sn)を10.0〜12.0質量%含むことを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【0016】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の銀ろう材において、ニッケル(Ni)を2.1〜2.2質量%含むことを特徴とする銀ろう材に係るものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上述のように構成したから、超硬合金部材を接合する際に用いる場合においても秀れた接合強度を発揮できる極めて実用性に秀れた銀ろう材となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】使用したろう材の化学組成及び液相線を示す表である。
【図2】ろう付装置の概略説明図である。
【図3】接合界面近傍の超硬合金中のCo欠乏の様子を示すSEM写真である。
【図4】従来の銀ろう材を使用した継手の曲げ強さを示すグラフである。
【図5】曲げ試験後の破面の様子を示す写真である。
【図6】BAg0へのCoの添加量と曲げ強さとの関係を示すグラフである。
【図7】曲げ試験後の破面の様子を示す写真である。
【図8】接合界面近傍の超硬合金中のCo欠乏の様子を示すSEM写真である。
【図9】ろう層部の組織を示すSEM写真である。
【図10】ろう層部各相の化学組成とビッカース硬さを示す表である。
【図11】BAg0−2Coによる継手のろう層部組織を示すSEM写真である。
【図12】BAg0−2Coによる継手の破断経路を示すSEM写真である。
【図13】BAg−24−0NiへのCoの添加量と曲げ強さとの関係を示すグラフである。
【図14】曲げ試験後の破面の様子を示す写真である。
【図15】接合界面近傍の超硬合金中のCo欠乏の様子を示すSEM写真である。
【図16】ろう層部の組織を示すSEM写真である。
【図17】ろう層部各相の化学組成とビッカース硬さを示す表である。
【図18】BAg−24−0Ni−2Coによる継手のろう層部組織を示すSEM写真である。
【図19】BAg−24へのCoの添加量と曲げ強さとの関係を示すグラフである。
【図20】曲げ試験後の破面の様子を示す写真である。
【図21】接合界面近傍の超硬合金中のCo欠乏の様子を示すSEM写真である。
【図22】ろう層部の組織を示すSEM写真である。
【図23】ろう層部各相の化学組成を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0020】
予め銀ろう材にCoが含有されているため、例えば、(Coを結合材とする)超硬合金部材をろう付する際、超硬合金部材の銀ろう材との接合界面近傍における銀ろう材へのCoの拡散が防止されることになる。従って、超硬合金部材の銀ろう材との接合界面近傍のCo欠乏領域の幅を可及的に狭くすることが可能となり、前記超硬合金部材に対しても、それだけ破断し難く接合強度に秀れたろう付を行えるものとなる。
【実施例】
【0021】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0022】
本実施例は、Ag、Cu、Zn及びCoを主成分とする銀ろう材であって、前記各成分の含有量が、Ag:48.0〜54.0質量%、Cu:19.0〜23.0質量%、Zn:13.0〜30.0質量%、Co:0.1〜2.3質量%に設定されているものである。
【0023】
本実施例における各成分の含有量等の数値限定の範囲は後述する実験例に基づいて導き出されるものであり、まず、本実施例の概略を説明する。
【0024】
本実施例は、例えば、WCとCoを主成分とする超硬合金部材同士とをろう付する際に用いられるものである。尚、超硬合金部材と超硬合金部材以外の部材とをろう付する際に用いても良いし、超硬合金部材以外の部材同士をろう付する際に用いても良い。
【0025】
また、本実施例は、Coを高濃度に含有するCoリッチ相を有し、このCoリッチ相の硬さが280HV以上となるように、更に好ましくは300HV以上となるようにCoの含有量が設定されている。280HV以上の硬度がない場合、Coを含有せしめることによる接合強度向上効果が十分に発揮されないためである。
【0026】
また、本実施例は、銀ろう材と前記超硬合金部材とを接合した際、前記超硬合金部材の銀ろう材との接合界面に形成されるCo欠乏領域の幅が1μm以下となるようにCoの含有量が設定されている。1μmを超えるCo欠乏領域が存在するとCoを含有せしめることによる接合強度向上効果が十分に発揮されないためである。尚、Co欠乏領域とは、超硬合金部材においてCo量が他領域より少ない領域のことであり、本実施例では接合界面に対し直交する方向の長さをCo欠乏領域の幅としている。このCo欠乏領域の幅は例えば、走査電子顕微鏡(SEM)に搭載されたエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いた元素の面分析によって確認することができる。例えば、図3,8,15では夫々の写真の左側に超硬合金部材、右側にろう層部が配置されるように接合界面近傍を観察したものであり、写真中の左右に横断する線はCo量を表しており、夫々の写真中で線が上にあるほどCo量が多いことを示すためこの線によりCo欠乏領域の幅を求める。具体的には、一辺がWC粒径の40倍以上の領域で面分析により超硬合金部材のCo量を測定し、それを平均化した線を接合界面に対し直交する方向で表した時に、接合界面に向かい平均化した線が下がり始める(Co量が減少し始める)所から、接合界面までの領域をCo欠乏領域としてその幅を求める。
【0027】
また、上記構成に、スズ(Sn)を10.0〜12.0質量%添加したり、ニッケル(Ni)を2.1〜2.2質量%添加しても良い。この場合にも、良好な銀ろう材を得ることが可能である。
【0028】
尚、融点(液相線)が700℃以下となるように各成分の含有量を設定すると、ろう付時の加熱温度をそれだけ低くすることが可能となり、ろう付工程における作業性の向上と省エネルギー化が可能となる。
【0029】
本実施例は上述のように構成したから、予め銀ろう材にCoが含有されることで、Coを結合材とする超硬合金部材をろう付する際、超硬合金部材の銀ろう材との接合界面近傍における銀ろう材へのCoの拡散が防止されることになる。従って、超硬合金部材の銀ろう材との接合界面近傍のCo欠乏領域の幅を可及的に狭くすることが可能となり、前記超硬合金部材に対しても、それだけ破断し難く接合強度に秀れたろう付を行えるものとなる。
【0030】
よって、本実施例は、超硬合金部材を接合する際に用いる場合でも秀れた接合強度を発揮できる極めて実用性に秀れたものとなる。
【0031】
以下、本実施例の効果を裏付ける実験例について詳述する。
【0032】
供試材には、直径6mmの超硬合金(WC−9.2mass%Co−0.8mass%Cr−0.4mass%V,抗折力:約3990MPa)丸棒を用いた。なお、含有量を示す単位である「質量%」と「mass%」とは同じ意味であり、本明細書においてはこれらを併用している。WCの平均粒径は約0.2μmである。接合用試験片の長さは50mmであり、接合端面をダイヤモンドペーストによって鏡面に仕上げた(平均表面粗さ:Ra≒0.05μm)後、アセトン中で超音波洗浄して接合に供した。
【0033】
用いたろう材は、超硬合金のろう付に用いられているBAg−24,BAg−24の組成のうちNiを除いた銀ろう材(BAg−24−0Ni)、及び、本発明者等が開発した特許第4093322号に係る銀ろう材(BAg0)と、それぞれにCoを添加した銀ろう材(本実施例)である。用いた銀ろう材の化学組成と液相線を図1に示す。Coの添加量は図1中最左欄の「−0.1Co」,「−1Co」等と表示される通りである(いずれも単位はmass%)。液相線は示差熱分析法(DTA)によって測定した。なお、特開昭63−317290号公報には、Coを添加した銀ろう材が記載されているが、用途やCoを添加する目的が異なっている。また、超硬合金用の銀ろう材には、Znが含有されていないと超硬合金に対して銀ろうが濡れずに接合が困難であるため、特開昭63−317290号公報に記載の銀ろう材は超硬合金のろう付には適用できない。
【0034】
接合に用いたろう付装置の概略を図2(a)に示す。ろう付は大気中で行い、加熱は高周波誘導加熱によって行った。垂直に配置した二本の接合試験片(超硬合金部材)の接合面に市販のフラックスを塗布し、質量約0.05gの薄片状のろうを挿入した後、加熱速度10℃/sで所定の温度(この温度を接合温度と呼ぶ)まで加熱した。接合温度に30s間保持した後、空冷した。接合温度は、使用するろうにより、650℃または750℃とした。試験片の温度は、接合端面から約1mm離れた箇所に取り付けたR熱電対で測定した。なお、図2(b)に示すように,上側試験片の接合面に直径0.1mmのタングステン線を挿入してクリアランスを0.1mmに保持した。接合中は、超硬合金丸棒(接合試験片)の軸方向に約90Nの荷重を加えた。
【0035】
ろう付された接合体は、中央部を直径4mmで平行部長さ5mmに加工後、三点曲げ試験(支点間距離:25mm,試験速度:0.1mm/min)を行い、曲げ強さを測定した。この曲げ強さを継手の接合強さとした。また、ろう層部(ろう付した状態のろう材)の組織や破断経路を走査電子顕微鏡(SEM)によって観察し、エネルギー分散型X線分光器(EDS)によって元素分析等を行った。ろう層部組織の硬さ試験は、ダイナミック超微小硬度計を用いて行い、試験時間10sでビッカース硬さを求めた。
【0036】
次に実験結果について説明する。
【0037】
図3に従来から超硬合金のろう付に使用されているBAg−24と、これからNiを除いたBAg−24−0Niと、BAg0を使用してろう付した継手の接合界面近傍の超硬合金中Co欠乏の様子を示す。接合温度は、BAg−24,BAg−24−0Niを使用した場合は750℃で、BAg0を使用した場合は650℃である。従来から超硬合金用のろう付に使用されているBAg−24による継手のCo欠乏領域の幅は比較的広くなっているのがわかる。これは、ろう成分中にCoと全率で固溶するNiが含まれている影響で、超硬合金中のCoがろう層部に拡散しやすくなっていることが原因と考えられる。また、接合温度が低い場合にCo欠乏領域が狭くなっているが、これは接合温度が低いため、Coがろう層中に拡散しにくかったためと考えられる。
【0038】
それぞれの銀ろうを使用してろう付された継手の曲げ強さを図4に示す。BAg−24とBAg−24−0Niを比較すると、超硬合金中Co欠乏領域が狭かったBAg−24−0Niの方が曲げ強さが高かった。しかし、Co欠乏領域が最も狭かったBAg0による継手の曲げ強さは、一番低い値を示した。
【0039】
次に、それぞれの銀ろうによる継手の曲げ試験後の破面の様子を図5に示すが、BAg−24とBAg−24−0Niを使用した継手の破断は、図5(a),(b)に示すようにほとんどが超硬合金内での破断であった。また、図5(c)に示すように、BAg0による継手の破断は主にろう層内で起きていた。このことから、BAg−24よりBAg−24−0Niによる継手の曲げ強さが高くなったのは、超硬合金中Co欠乏領域が狭いことにより、超硬合金内での破断が起きにくかったことが原因と考えられる。また、BAg0による継手の曲げ強さが低かった原因は、ろう層部が弱かったためと考えられる。
【0040】
次に、BAg0へのCo添加の影響について調べた。上述したようにBAg0による継手の破断はろう層部で起きているため、曲げ強さの向上のためにはろう層部の強化が必要である。また、超硬合金中Co欠乏領域についても、接合温度が低いために狭くなってはいるものの、ろう層部の強化によりこの欠乏領域が問題になることも十分に考えられる。そこで、あらかじめ銀ろう中にCoを添加することで、超硬合金からのCoの拡散を抑えると同時に、Coの固溶強化によるろう層部の強化を期待した。図6にBAg0とこれにCoを添加した銀ろうによる継手の曲げ強さを示す。Coを微量添加することにより、それによる継手の曲げ強さが向上し、添加量0.5mass%で最大の曲げ強さを示した。また、さらに添加量を増加させた場合、それによる継手の曲げ強さは低下する傾向を示した。曲げ試験後の破面の様子を図7に示すが、Coを0.5mass%添加した銀ろうを使用した場合には、破断が一部超硬合金内で発生していた。このことから、Coの添加によりろう層部が破断しにくくなったことが予想される。また、Coを2mass%添加した銀ろうを使用した場合には、ろう層部での破断がほとんどであり、過度にCoを添加することで、ろう層部が弱くなっていることが予想される。
【0041】
図8にBAg0とBAg0−0.5Coを使用してろう付した継手の接合界面近傍の超硬合金中Co欠乏の様子を示す。Coを0.5mass%添加したことで、超硬合金中のCo欠乏領域が縮小したことがわかる。このことから、Coを添加することで、それによる継手は超硬合金での破断が起きにくくなることが考えられる。次に、BAg0とBAg0−0.5Coを使用してろう付した継手のろう層部組織を図9に示す。通常の銀ろうの凝固組織は、α−Cu相(Znと少しのAgを含む銅固溶体)の初晶,α1−Ag相(Znと少しのCuを含む銀固溶体)及びこれらの共晶が主体であると言われていて、本実験例においてもこれと同様の組織となっていると考えられる。すなわち、Wで示す相は銀固溶体相、Dで示す相は銅固溶体相、Eで示す部分はWとDの共晶組織と考えられ、いずれのろう層部にもこれらの組織が見られた。また、Coを添加した銀ろうを使用した場合にはBで示すCoリッチ相が見られた。Coリッチ相の定義については後述する。
【0042】
各相の化学組成とビッカース硬さを図10に示す。なお、Coリッチ相は非常に小さく硬さ測定が困難だったため、後述するBAg0−2Coを使用した継手のろう層部に形成されたほぼ同組成の相の硬さをこの相の硬さとしている。銀固溶体相、銅固溶体相ともに、含有するCo量が増加し、それに伴い、硬さも上昇しているのがわかる。以上のことから、BAg0−0.5Coを使用した継手の曲げ強さの向上は、接合界面近傍の超硬合金中Co欠乏領域の縮小と、ろう層部の固溶強化によるものと考えられる。
【0043】
BAg0−2Coを使用した継手のろう層部の組織を図11に示す。ろう層部に形成される相はBAg0−0.5Coによる継手と同じであったが、Bで示すCoリッチ相が多く、粗大になっていた。また、この相のビッカース硬さは390HVと硬くなっていた。この硬さはCoリッチ相の平均硬さであるが、硬さは低いものでも300HV以上であった。図12にBAg0−2Coによる継手の破断経路を示すが、破断は硬いCoリッチ相の周囲で起きていた。このことから、Coの添加量を増加させた場合に曲げ強さが低下したのは、Coリッチ相の増加と粗大化が原因であると考えられる。
【0044】
次に、BAg−24−0NiへのCo添加の影響について調べた。
【0045】
BAg−24−0NiとこれにCoを添加した銀ろうを使用してろう付した継手の曲げ強さを図13に示す。Coを微量添加することにより、それによる継手の曲げ強さが向上し、添加量0.5%で最大の曲げ強さを示した。また、添加量を増加させた場合、それによる継手の曲げ強さは低下する傾向を示した。これは、BAg0にCoを添加した場合と同様の結果であった。曲げ試験後の破面の様子を図14に示すが、BAg−24−0NiとBAg−24−0Ni−0.5Coを使用した継手の破断は、そのほとんどが超硬合金での破断であった。また、BAg−24−0Ni−2Coを使用した継手の場合は、ろう層部での破断が多く見られた。
【0046】
BAg−24−0Ni、BAg−24−0Ni−0.5Co、BAg−24−0Ni−2Coを使用してろう付した継手の接合界面近傍の超硬合金中Co欠乏の様子を図15に示す。Co添加によりCo欠乏領域が縮小しているのがわかる。また、Co添加量が0.5mass%と2.0mass%ではほとんど違いは見られなかった。このことから、前述のBAg0にCoを添加した場合と同様に、Coを添加することで超硬合金での破断が起きにくくなっていると考えられる。
【0047】
BAg−24−0NiとBAg−24−0Ni−0.5Coを使用してろう付した継手のろう層部の組織を図16に示す。図9に示したBAg0による継手のろう層部に形成される組織とは大きく異なるものの、現れる相は同じと考えられ、銀固溶体と銅固溶体とこれらの共晶組織、そして、Coを添加した場合には黒く見えるCoリッチ相が見られた。また、各相の化学組成とビッカース硬さを図17に示す。なお、上述のBAg0の場合と同様にCoリッチ相は非常に小さく硬さ測定が困難だったため、後述するBAg−24−0Ni−2Coを使用した継手のろう層部に形成されたほぼ同組成の相の硬さをこの相の硬さとしている。上述のBAg0にCoを添加した場合と同様に、Coを添加することで各相に固溶されるCo量が増加し、それに伴い硬さも上昇した。このことから、BAg−24−0NiにCoを添加することで、それによる曲げ強さが向上した原因は、接合界面近傍の超硬合金中Co欠乏領域の縮小とCoの固溶強化により、超硬合金とろう層部が破断しにくくなったためと考えられる。BAg−24−0Ni−2Coによる継手のろう層部組織を図18に示す。黒く見えるCoリッチ相が多く粗大になっている。Co添加量を増加すると、それによる継手の曲げ強さが低下した原因は、BAg0にCoを添加した場合と同様に、この硬く粗大なCoリッチ相により、ろう層部が破断しやすくなったためと考えられる。
【0048】
次に、BAg−24へのCo添加の影響について調べた。
【0049】
BAg−24とこれにCoを添加した銀ろうを使用してろう付した継手の曲げ強さを図19に示す。上述したBAg−24−0Niの場合と同様に、Coを添加することでそれによる継手の曲げ強さが向上したが、BAg−24−0NiにCoを添加した銀ろうによる継手の曲げ強さに比べると低い値を示した。また、Co添加量を増加させても曲げ強さの明らかな低下は見られなかった。図20に曲げ試験後の破面の様子を示すが、BAg−24とBAg−24−0.5Coによる継手の破断は、そのほとんどが超硬合金内で起きていた。また、Co添加量が増加すると、それによる継手の破断はろう層内での破断が多くなった。図21にBAg−24とBAg−24−0.5CoとBAg−24−2Coによる継手の接合界面近傍の超硬合金中Co欠乏の様子を示す。BAg0またはBAg−24−0NiにCoを添加した場合は、夫々図8と図15に示すように、その添加量が0.5mass%でCoの欠乏はほとんど見られなくなっていたが(Co欠乏領域の幅が0.5μm未満)、BAg−24にCoを0.5mass%添加した場合は、それによる継手の接合界面近傍の超硬合金Co欠乏領域は、まだ広かった。これは、銀ろうに含まれるNiとCoは全率で固溶する元素であるため、微量のCo添加では超硬合金からろう層部への拡散が起こっていることが考えられる。Coを2mass%添加した場合には、接合界面近傍のCo欠乏領域はほとんど見られなくなっていた。次に、BAg−24、BAg−24−0.5Co、BAg−24−2Coによる継手の接合部組織を図22に示す。それぞれの接合部に銀固溶体と銅固溶体と思われる相が見られた。また、Coを添加した銀ろうを使用した継手のろう層部には黒く見えるCoリッチ相が見られた。各相の化学組成を図23に示すが、このCoリッチ相はBAg0やBAg−24−0NiにCoを添加した場合とは違い、含有するCoの割合が少なく、Niが若干多く含まれていた。Co含有量には多少のばらつきがあったが、一番少ないもので約58at%であった。この結果より、Coリッチ相はCoを55at%以上含有する相と定義した。また、添加量が多くなるにつれ、Co濃度が高くなっていた。このことから、Co添加量が多くなるとろう層部での破断が起きやすくなり、ろう層部での破断が多くなったと考えられる。しかし、NiはCoを全率で固溶する元素であるために、ろう成分中にNiを含んでいる場合は、Niを含んでいない場合に比べて、Coリッチ相のCo濃度が低く、また粗大化も起こりにくいために接合強度の明らかな低下が見られなかったと考えられる。しかし、さらにCo添加量を増加させた場合には徐々に接合強度が低下することが予測される。
【0050】
以上から、BAg−24、BAg−24−0Ni、BAg0のいずれに対しても、適量のCoを添加することで、超硬合金部材同士をろう付した際、曲げ強さ(接合強度)を向上させることが可能であることを確認できた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)及びコバルト(Co)を主成分とする銀ろう材であって、前記各成分の含有量が、Ag:48.0〜54.0質量%、Cu:19.0〜23.0質量%、Zn:13.0〜30.0質量%、Co:0.1〜2.3質量%であることを特徴とする銀ろう材。
【請求項2】
請求項1記載の銀ろう材において、Coを高濃度に含有するCoリッチ相を有し、このCoリッチ相の硬さが280HV以上であることを特徴とする銀ろう材。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の銀ろう材において、この銀ろう材は、炭化タングステン(WC)とCoとを主成分とする超硬合金部材と他部材とを接合する際に用いられるものであることを特徴とする銀ろう材。
【請求項4】
請求項3記載の銀ろう材において、前記超硬合金部材同士を接合する際に用いられるものであることを特徴とする銀ろう材。
【請求項5】
請求項3,4いずれか1項に記載の銀ろう材において、この銀ろう材は、前記超硬合金部材と接合した際、前記超硬合金部材の銀ろう材との接合界面に形成されるCo欠乏領域の幅が1μm以下となるものであることを特徴とする銀ろう材。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の銀ろう材において、スズ(Sn)を10.0〜12.0質量%含むことを特徴とする銀ろう材。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか1項に記載の銀ろう材において、ニッケル(Ni)を2.1〜2.2質量%含むことを特徴とする銀ろう材。
【請求項1】
銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)及びコバルト(Co)を主成分とする銀ろう材であって、前記各成分の含有量が、Ag:48.0〜54.0質量%、Cu:19.0〜23.0質量%、Zn:13.0〜30.0質量%、Co:0.1〜2.3質量%であることを特徴とする銀ろう材。
【請求項2】
請求項1記載の銀ろう材において、Coを高濃度に含有するCoリッチ相を有し、このCoリッチ相の硬さが280HV以上であることを特徴とする銀ろう材。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の銀ろう材において、この銀ろう材は、炭化タングステン(WC)とCoとを主成分とする超硬合金部材と他部材とを接合する際に用いられるものであることを特徴とする銀ろう材。
【請求項4】
請求項3記載の銀ろう材において、前記超硬合金部材同士を接合する際に用いられるものであることを特徴とする銀ろう材。
【請求項5】
請求項3,4いずれか1項に記載の銀ろう材において、この銀ろう材は、前記超硬合金部材と接合した際、前記超硬合金部材の銀ろう材との接合界面に形成されるCo欠乏領域の幅が1μm以下となるものであることを特徴とする銀ろう材。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の銀ろう材において、スズ(Sn)を10.0〜12.0質量%含むことを特徴とする銀ろう材。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか1項に記載の銀ろう材において、ニッケル(Ni)を2.1〜2.2質量%含むことを特徴とする銀ろう材。
【図1】
【図10】
【図17】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図10】
【図17】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2013−27916(P2013−27916A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167367(P2011−167367)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000115120)ユニオンツール株式会社 (44)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000115120)ユニオンツール株式会社 (44)
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