説明

鋼製梁の貫通孔補強部材及びその貫通孔補強構造

【課題】鋼製梁に対する補強部材の固着作業に関する作業性がよく、しかもより少ない材料で、貫通孔に対する十分な補強作用を確保し得る、効率的な補強技術を提供する。
【解決手段】鋼製梁1に形成される貫通孔5とほぼ同形の開口部7を有し、かつ(1)0.15≦Ar/Aw≦0.7、(2)0.6≦Vr/Vw≦3.3、(3)0.5≦Hr/Tr≦5.0の3つの条件(Arは補強部材の断面積、Awは貫通孔によるウェブの欠損部の断面積、Vrは補強部材の体積、Vwは貫通孔によるウェブの欠損部の体積、Hrは補強部材の高さ、Trは補強部材の肉厚)を満たす矩形断面からなるリング状の補強部材6を用い、該補強部材6を前記貫通孔5の周辺部のウェブ2の片面に溶接して一体化することにより、鋼製梁1に形成する貫通孔5を補強する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨造等において配管などのために鋼製梁のウェブに形成される貫通孔に対する補強技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この鋼製梁に形成した貫通孔の補強手段としては、対象たる貫通孔の周辺部のウェブの片面に対して平板状の補強部材を溶接等により固着するもの(特許文献1中の従来技術参照)や、対象たる貫通孔の周辺部のウェブの両面に対して平板状の補強部材を溶接や高力ボルトにより固着するもの(特許文献2参照)が知られている。また、対象たる貫通孔にスリーブ状の補強部材を貫通させた状態で溶接するものや、菱形リング状の補強部材を対象たる貫通孔の周辺部のウェブに対して溶接等により固着するトラス形式のものも知られている。しかしながら、これらの従来技術のうち、対象たる貫通孔の周辺部のウェブの両面に対して平板状の補強部材を固着するタイプの場合には、大きな補強作用を比較的容易に確保できるものの、使用する補強部材の個数が裏表で倍になり溶接箇所も倍増することから、補強部材の固着作業に関する作業性に問題があった。また、対象たる貫通孔の周辺部のウェブの片面に対して平板状の補強部材や菱形リング状の補強部材を固着するタイプの場合には、固着作業に関する作業性はよいものの、必要な補強作用を確保すべく補強部材の寸法を大きくとろうとすると、梁のフランジ部に干渉して制約を受けるといった問題があった。すなわち、ウェブの両面に対して補強部材を固着するタイプの場合には固着作業の作業性に問題があり、他方のウェブの片面に対して補強部材を固着するタイプの場合には十分な補強作用の確保に問題があった。なお、対象たる貫通孔にスリーブ状の補強部材を貫通させた状態で溶接するタイプの場合には、補強効果が少なく耐力確保に不向きであるだけでなく、スリーブによって配管などの自由度が制約されるという問題があった。また、スリーブの分だけウェブに形成された貫通孔の有効開口面積が縮小されるという問題もあった。
【特許文献1】特開昭63−35946号公報
【特許文献2】実開平5−57149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑みて開発したものであり、鋼製梁に対する補強部材の固着作業に関する作業性がよく、しかもより少ない材料で、貫通孔に対する十分な補強作用を確保し得る、効率的な補強技術を見出して提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、前記課題を解決するため、種々の実験やシミュレーション解析を重ねた結果、鋼製梁に形成される貫通孔とほぼ同形の開口部を有し、かつ(1)0.15≦Ar/Aw≦0.7、(2)0.6≦Vr/Vw≦3.3、(3)0.5≦Hr/Tr≦5.0の3つの条件を満たす矩形断面からなるリング状の補強部材を用い、該補強部材を前記貫通孔の周辺部のウェブの片面に溶接して一体化することにより、鋼製梁に形成する貫通孔を補強するという技術手段を採用した。なお、ここで、Arは補強部材の断面積、Awは貫通孔によるウェブの欠損部の断面積、Vrは補強部材の体積、Vwは貫通孔によるウェブの欠損部の体積、Hrは補強部材の高さ、Trは補強部材の肉厚である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、上述の3つの条件を満たすように形成した矩形断面からなるリング状の補強部材を用いることにより、貫通孔による降伏耐力の低下やウェブの面外座屈を抑制できる十分な補強作用をきわめて容易かつ的確に確保することができる。延いては、鋼製梁に形成される貫通孔に対する補強作業の標準化にもきわめて有効である。しかも、鋼製梁に形成される貫通孔の周辺部のウェブの片面に対して溶接するだけで十分な補強作用を確保できることから作業性の向上にも有効である。また、補強部材の肉厚を抑えることが可能なことから、鋼製梁のフランジ部との干渉も低減されるので、鋼製梁に形成される貫通孔の大きさに関する制約も縮小される。さらに、補強部材は、貫通孔の形状に応じて所定の肉厚を有する円筒形あるいは角形などの筒状素材から、所定の高さあるいは更に仕上げ代を加えた寸法で単に切出すことにより、きわめて簡便に製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明においては鋼製梁のウェブに対する補強部材の固着手段としては溶接を採用することになるが、その溶接箇所に関しては、対象たる貫通孔の周辺部のウェブに対して補強部材を一体化し得る形態であれば、補強部材の外周部あるいは内周部のいずれか一方とウェブとの接触部において溶接する形態でもよいし、それらの双方の接触部において溶接する形態でもよい。補強部材の具体的形状に関しては、鋼製梁の貫通孔の形状に応じて円形リング状だけでなく角形リング状も可能である。ところで、前記(1)に係るAr/Awの値が下限値である0.15を下回ると十分な補強効果が期待できず、所期の耐力(降伏耐力・最大耐力)や初期剛性を満たすことが難しくなり、また早期にウェブの面外座屈が生じて所期の塑性変形性能を満たすことも困難になる。また、上限値0.7を超えると、過剰補強になったり、応力の伝達を阻害する要因となり、延いては補強効率が低下してより大きな断面が必要とされるため不経済である。前記(2)に係るVr/Vwの値が下限値である0.6を下回ると十分な補強効果が期待できず、同様に所期の耐力(降伏耐力・最大耐力)や初期剛性を満たすことが難しくなり、また早期にウェブの面外座屈が生じて所期の塑性変形性能を満たすことも困難になる。また、上限値3.3を超えると、過剰補強になったり、応力の伝達を阻害する要因となり、延いては補強効率が低下してより大きな断面が必要とされるため不経済である。前記(3)に係るHr/Trの値が下限値である0.5を下回ると十分な補強効果が期待できず、同様に所期の耐力(降伏耐力・最大耐力)や初期剛性を満たすことが難しくなり、また早期にウェブの面外座屈が生じて所期の塑性変形性能を満たすことも困難になる。また、上限値5.0を超えると、過剰補強になったり、応力の伝達を阻害する要因となり、延いては補強効率が低下してより大きな断面が必要とされるため不経済である。因みに、以上の(1)〜(3)の条件は、ばらばらに存在するのではなく、それらの条件が有機的に組合わさることによって、鋼製梁に形成される貫通孔の補強に必要な補強部材の各寸法が合理的に絞り込まれることになる。因みに、Hrは100mm程度までとするのが望ましく、それ以上高くすると、配管を通す際に手間がかかり、施工性を低下する原因になりやすい。
【実施例】
【0007】
図1は本発明の実施例を示した縦断面図であり、図2は同実施例を示した正面図、図3は補強部材の断面を示した拡大断面図である。図中1は鋼製梁、2はその鋼製梁1を構成するウェブ、3,4はフランジ部である。また、図中5はウェブ2に形成された貫通孔であり、6はその貫通孔5の周辺部のウェブ2に溶接した補強部材である。本実施例では、鋼製梁1を構成する肉厚がTwのウェブ2に対して直径Dwからなる円形状の貫通孔5を補強する場合を示した。図2に示したように、補強部材6としては、円形状の貫通孔5に対応した内径がDaの開口部7が形成され、外径がDbからなる円形リング状のものを採用した。因みに、本実施例では、補強部材6の開口部7の内径Daが貫通孔5の直径Dwと等しい場合を示したが、補強部材6の開口部7側あるいは貫通孔5側の径Da,Dwを若干小さくして溶接代を形成するようにしてもよい。図1に示したように、補強部材6は、貫通孔5の周辺部のウェブ2の片面に対して溶接される。その溶接の仕方は、前述のように対象たる貫通孔5の周辺部のウェブ2に対して補強部材6を一体化し得るものであれば、補強部材6の外周部あるいは内周部の一方とウェブ2との接触部において溶接するものでもよいし、それらの双方の接触部において溶接するものでもよい。なお、図3に示したように、補強部材6は、肉厚がTrで高さがHrからなる矩形状の断面を有している。
【0008】
次に、前記貫通孔5の直径Dwに対応させて、前述の3つの条件を満たす補強部材6の各寸法に関する一例を表1に示す。ここで、Dwは貫通孔5の直径、Twはウェブ2の肉厚、Tr、Hr、Da、Dbはそれぞれ補強部材6の肉厚、高さ、内径、外径を示し、単位はmmである。因みに、補強部材6の断面積ArはTr×Hrにより、貫通孔5によるウェブの欠損部の断面積AwはDw×Twにより、補強部材の体積Vrは、{(Db/2)−(Da/2)}×π×Hrにより、貫通孔によるウェブの欠損部の体積Vwは、(Dw/2)×π×Twによりそれぞれ求めることができる。
【表1】

【0009】
なお、表1では貫通孔5の直径Dwに対応させて前述の3つの条件を満たす補強部材6の各寸法に関する一例を示したが、次の表2において例示したように、各直径Dwの下に更に種々の寸法例が可能なことはいうまでもない。要は前述の3つの条件を満たす補強部材であれば、その各寸法に関しては自由な選定が可能である。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例を示した縦断面図である。
【図2】同実施例を示した正面図である。
【図3】補強部材の断面を示した拡大断面図である。
【符号の説明】
【0011】
1…鋼製梁、2…ウェブ、3,4…フランジ部、5…貫通孔、6…補強部材、7…開口部、Dw…貫通孔の直径、Tw…ウェブの肉厚、Tr…補強部材の肉厚、Hr…補強部材の高さ、Da…補強部材の内径、Db…補強部材の外径


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製梁に形成される貫通孔とほぼ同形の開口部を有し、かつ次の3つの条件を満たす矩形断面からなるリング状に形成したことを特徴とする鋼製梁の貫通孔補強部材。
(1)0.15≦Ar/Aw≦0.7
(2)0.6≦Vr/Vw≦3.3
(3)0.5≦Hr/Tr≦5.0
ただし、Arは補強部材の断面積、Awは貫通孔によるウェブの欠損部の断面積、Vrは補強部材の体積、Vwは貫通孔によるウェブの欠損部の体積、Hrは補強部材の高さ、Trは補強部材の肉厚である。
【請求項2】
鋼製梁に形成される貫通孔とほぼ同形の開口部を有し、かつ請求項1の3つの条件を満たす矩形断面からなるリング状の補強部材を用い、該補強部材を前記貫通孔の周辺部のウェブの片面に溶接して一体化することにより、鋼製梁に形成する貫通孔を補強することを特徴とする鋼製梁の貫通孔補強構造。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−162243(P2007−162243A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357044(P2005−357044)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】