長波長電磁波用の位相角制御型固定素子
テラヘルツ周波数範囲における電磁波の反射、透過、集束、焦点ぼけまたは波面補正のための素子。素子は、カルコゲニド相変化物質からなる能動型領域を含む導電性ストリップからなる格子を含む。カルコゲニド物質は、非晶質状態、結晶状態または部分結晶状態になることができる。格子の分散特性(例えば、インピーダンス、アドミタンス、容量、インダクタンス)は、素子の1つ又は1つ以上の方向において、一連の能動型カルコゲニド領域に関して結晶化率勾配を設定することによって形成内蔵された相テーパーの作用によって、入射する電磁波の反射、透過、集束または波面特性の状態のうちの1つ又は1つ以上に影響を与える。格子の分散特性は、格子に含まれる能動型カルコゲニド領域の構造状態によって決まり、また、カルコゲニド物質にエネルギを与えて起こされる1つ又は1つ以上のカルコゲニド領域の1つの構造状態から別の構造状態への変換によって再構成可能である。好ましい実施形態において、個々の能動型カルコゲニド領域は、複数の能動型カルコゲニド領域が波長スケールのドメイン内に含まれるように、素子の作動波長よりもかなり小さい。それらの実施形態において、結晶化率勾配は、1つの素子の1つ又は1つ以上の方向におけるドメインの平均結晶化率の単調な増加または減少によって形成することができ、この場合、個々の能動型領域の結晶化率に対する特定の必要条件は、課す必要はない。これらの実施形態においては、ドメインの結晶化率は、ドメインに含まれる個々のカルコゲニド領域に関する統計的平均であり、また、相テーパーは、多元状態モードまたは2進モードで実現することができる。素子は、独立型とすることができ、誘電体基板上に支持することができ、または、2つ以上の誘電材料の間に配置することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本発明は、2002年8月23日に出願された「電磁波の波面エンジニアリング用の位相角制御型固定素子(“Phase Angle Controlled Stationary Elements for Wavefront Engineering of Electromagnetic Radiation”)という名称の同時係属中の米国特許出願第10/226,828号の一部継続出願であり、出願の開示を本願明細書に引用する。
【0002】
技術分野
この発明は、電磁波の伝播の方向及び集束の度合いを制御する装置に関する。より具体的には、この発明は、長波長の電磁波の反射、透過、集束及び焦点ぼけに関する制御を実行できる固定素子に関する。特に、この発明は、電磁波スペクトルのテラヘルツ周波数の範囲における入射する電磁波の位相を変更する再構成可能な素子に関する。
【0003】
背景技術
テラヘルツ周波数システムへの関心は、その独特な能力が確認され、かつシステムの実現するための技術的障壁が克服されるにつれて、着実に増加してきている。テラヘルツ周波数領域((約1mm以下の波長に相当する)約0.3THz以上の周波数)は、現存するマイクロ波電磁気システムに比して大きな帯域幅及びサイズ及び重量の著しい低減を含む多くの利点をもたらす。テラヘルツ周波数技術に依存する、または、テラヘルツ周波数技術から利益を得ると予想されるいくつかの用途が提案されており、あるいは、開発中である。それらの用途は、大気汚染物質(例えば、オゾン、温室効果ガス)及び化学兵器の分光検出、視界不良環境及び光学的に不明瞭な媒体(例えば、濃霧、煙、夜間、隠れた物体の検知)用の高解像度イメージングシステム、短距離通信システムおよび人工衛星とのクロスリンクを含む。テラヘルツ周波数システムの軍事用途は、航空機誘導システム、携帯用レーダー、ミサイル追尾装置及び戦場通信を含む。可能性のある民間用途は、自動車の衝突回避システム、盲点指示機、高速道路の料金徴収、製品タグ付けおよび無線通信を含む。
【0004】
テラヘルツ周波数システムの実現は、電磁波スペクトルのミリメートルからサブミリメートル波長部における電磁波の透過、取り扱い及び受信のための新しい技術の開発を要する。便宜上、電磁波スペクトルのミリメートルからサブミリメートル波長部は、本願明細書において、ミリメートル波長領域と呼ぶことにする。従来の方法は、高周波(radiofrequency;rf)領域(約3MHz〜約30GHzの周波数、約10m〜約1cmの波長)からテラヘルツ周波数領域に用いられる電子技術の拡張に重点を置いていた。rf領域における電磁波は、長年、レーダー画像構成システムやレーダー追尾システムに利用されており、また、rf波を透過し、操縦し、集束させおよび受信する素子を含む十分に発達した技術基礎を有する。従来のrf技術は、電子回路をもととする技術であり、r f 波を直接生成し、制御しおよび検出するのに用いられる伝送線、導波管及び移相器を構成するために、コンデンサやインダクタ等の個別の電子回路構成部品が用いられて
いる。従来のrfシステムは、一般に、ミリメートル波用途に適合しているが、コスト、出力及び機能性に関連する問題が、特に、サブミリメートル領域において生じる。コストの問題は、r f 波の指向送信または受信に必要な高価な移相器によって生ずる。出力の問題は、固体素子を用いる能動フェーズアレイとの関連で生じる。固体素子の出力操作能力は、周波数に依存し、電磁波の周波数の増加に伴って低下する。例えば、典型的なSiバイポーラ接合トランジスタの出力は、周波数が1GHzから30GHzに変化した場合、3桁以上低下する。また、十分に高い周波数において、個別の電子回路構成部品(例えば、コンデンサやインダクタ)は、その機能性を失う。
【0005】
ミリメートル波システムにおける最近の開発は、空間をベースとするシステムに重点を置いており、電磁波は、回路、導波管または伝送線ではなく、自由空間中を伝播する。空間をベースとするシステムは、ミリメートル波を自由空間ビームとして扱い、かつそれらのビームを、光ビームを制御するのに用いる方法と同様の方法で扱うため、光学類似装置とも呼ばれる。光学類似素子は、ミリメートル波ビームを増幅、混合、スイッチング、反射、透過または位相シフトするのに用いることができる。光学類似素子は、受動型と能動型がある。受動型光学類似素子は、通常は、導電性材料からなる格子からなる。格子は、例えば、周期的に等間隔で穿孔した導電性材料からなる薄い薄板で構成することができる。針金格子であってもよい。格子は、自立型、或いは誘電体基板上に設置された型、あるいは、2つの誘電材料の間に挟まれた型であることもできる。能動型光学類似素子は、能動型(非線形)素子からなる周期的配列をその他の点では受動型である格子中に含む。能動型デバイスは、格子の交差点または交差点の間に配置することができる。PINダイオード、バラクタ・ダイオード、トランジスタ、偏光器、増幅器、変換器及びファラデー回転素子等の能動型デバイスは、能動型光学類似素子に用いられてきている。光学類似素子は、多数の固体素子の出力を合成して高出力を実現する有効な方法を与えることにより、回路をベースとするミリメートル波システムの出力不足を克服する可能性をもたらす。
【0006】
能動型デバイスからなるモノリシック2次元周期配列を形成する方法が改良され、作動の基本原理が解明されてくるにつれて、ミリメートル波システム用の光学類似素子に対する関心は、過去10年間に着実に増加してきた。しかし、光学類似素子が主流になるために克服せねばならないいくつかの障害がまだ残っている。主な障害は、能動型素子の挿入損失、分散損失、能動型素子の出力必要条件、電力損失による熱の影響、および厳密な基板平坦性要件及び大規模格子に対する製造上の課題、例えば厳密な誘電体の厚さ均一性等をを含む。以上以外の性能改良(例えば、位相角のより大きな可変性、固定素子のためのより広い反射角、ビーム集束の強化、低電力要件および/または能動型格子における放熱)も所望されている。電磁波、特に、電磁波スペクトルのテラヘルツ周波数部を制御するのに用いる光学類似装置の将来性を増大させる新たな光学類似構成要素に対する要求がある。
【0007】
発明の概要
本発明は、電磁波に影響を及ぼす固定光学類似素子を提供する。好ましい実施形態において、テラヘルツ周波数の電磁波(電磁スペクトルのミリメートル及びサブミリメートル領域における電磁波)は、この素子によって制御される。この素子は、電磁波の光位相角特性に影響を及ぼすことにより、電磁波の反射および/または透過に影響を及ぼすのに用いることができる。この素子は、誘導性および/または容量性の位相シフトを実行することにより、入射する電磁波の光位相を変更する。
【0008】
本願の素子は、カルコゲニド物質からなる体積を含む能動型領域を含む導電性格子に基づいている。隣接する能動型カルコゲニド領域間の間隔は、素子に作用する入射電磁波の波長以下である。好ましい実施形態において、能動型カルコゲニド領域は、格子内で周期的に配置されている。カルコゲニド物質は、エネルギの追加によって、結晶状態から1つ又は1つ以上の部分的結晶状態を経て、、非晶質状態へ可逆的に変化することができる物質である。カルコゲニド物質の電気的及び光学的特性は、その結晶状態によって変わる。その結果として、カルコゲニド物質の実数部及び虚数部の伝導度の変化は、格子の誘導性及び容量性の光位相角に影響を及ぼし、その結果、入射する電磁波面によって生成される反射したおよび/または透過した電磁波の特性に影響を及ぼす。より具体的には、能動型領域上のカルコゲニド物質の結晶の状態を空間的に制御することにより、ミリメートル、サブミリメートル及び他の波長範囲内の反射したおよび/または透過した電磁波の位相角に影響を及ぼすことが可能である。この空間的制御の結果として、電磁波のテラヘルツ及び他の周波数のビームのビーム・ステアリング、ビーム整形または波面補正が、反射モード及び透過モードの両モードにおいて、広範囲の角度及び空間プロファイルにわたって可能である。
【0009】
上記素子のカルコゲニド領域の結晶化率の空間的変化は、2進モードまたは多元モードで達成することができる。2進モードにおいては、各カルコゲニド領域は、2つの構造状態のうちのどれか一方であり、また、結晶化率の空間的変化は、素子の空間的に別個の部分を平均することによって統計的に実現され、この場合、各空間的に別個の部分は、複数のカルコゲニド領域を含む。好ましい2進実施形態において、2つの構造状態は、カルコゲニド物質の非晶質状態と結晶状態である。多元モードにおいては、カルコゲニド領域は、3つ又は3つ以上の構造状態でカルコゲニド物質を含んでもよい。この実施形態において、各カルコゲニド領域は、非晶質状態、結晶状態、または領域内の体積比に基づいて、部分的に非晶質性でありかつ部分的に結晶性である状態となることができる。この実施形態において、結晶化率の空間的変化は、多くのカルコゲニド領域に関して空間的に平均することによって、または、1つまたは1つ以上の方向における一連のカルコゲニド領域上の個々のカルコゲニド領域の結晶化率の変化によって実現することができる。
【0010】
格子中のカルコゲニド物質からなる領域は、本願の素子を能動状態にし、また、素子の能動型領域に含まれるカルコゲニドからなる一定体積の構造状態は、非晶質状態から結晶状態へ変化する結晶化率を有する2つまたは2つ以上の構造状態の間で可逆的に変化することができるため、再構成可能な光学類似素子を形成する。好ましい実施形態において、カルコゲニド領域は、素子からなる格子内で周期的に離れている。
【0011】
一実施形態においては、反射モードの放射のテラヘルツ及び他の周波数の入射ビームの操縦を実行できる素子が得られる。この実施形態において、入射ビームの反射角は、本願の素子を用いて、反射ビームの位相角を制御することによって制御することができる。この実施形態では、入射ビームの非正反射性の反射を実現できる。
【0012】
別の実施形態においては、透過モードの電磁波のテラヘルツ及び他の周波数の入射ビームの操縦を実行できる素子が得られる。この実施例において、入射ビームの透過角度は、素子を用いて、透過するビームの位相角を制御することによって制御することができる。この実施形態は、入射電磁波の非正屈折性方向の透過を実現できる。
【0013】
また別の実施形態においては、反射モードのテラヘルツまたは他の周波数の電磁波の入射ビームを集束または焦点ぼけさせる素子が得られる。
【0014】
さらに別の実施形態においては、透過モードのテラヘルツまたは他の周波数の入射ビームを集束または焦点ぼけさせる素子が得られる。また、非正反射性または非正屈折性の透過と共に、集束または焦点ぼけが実行できる。
【0015】
また別な実施形態においては、電磁波のテラヘルツまたは他の周波数のビームの波面の歪を補正または除去する素子が得られる。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、電磁波の反射及び透過特性を制御する素子を提供する。本願の素子は、入射する電磁波によって生成される反射または透過電磁波の位相角を制御することにより作動し、また、固定形態で作動することが出来る。従って、この素子は、位相角制御型固定素子(phase angle controlled stationary elements;PACSE)と呼ぶことができる。本願の素子は、自由空間中を伝わる電磁波に対して作動出来るため、本願の素子は、光学類似素子の実施例としてみることもできる。本願の素子は、カルコゲニド物質を能動型コンポーネントとして含み、また、格子からなる1つ以上の能動型領域におけるカルコゲニド物質の構造状態が一部又は一部以上で空間的に変化することによって、電磁波の反射及び透過特性への影響の変動性を実現する。
【0017】
上述した同時係属中の米国特許出願第10/226,828号明細書は、カルコゲニド物質によって、電磁波の位相角を制御することに関する考察を記載しており、また、電磁波の波面エンジニアリングのための素子について記述している。同時係属中の出願のPACSE素子は、1つ又は1つ以上の空間的範囲にわたって一定のパターンで分布されたカルコゲニド物質からなる複数の領域を備える素子を含み、この場合、カルコゲニド物質の結晶化率は、領域ごとに変化し、それによって結晶化率勾配を形成する。空間的に独立したカルコゲニド領域の結晶化率は、結晶性カルコゲニド領域内での非晶質マークの形成によって制御された。非晶質マークのサイズおよび/または数は、結晶化率勾配を規定する2つ又は2つ以上のカルコゲニド領域にわたって、結晶化率の体積比の調節可能な制御に変化を与える。入射する電磁波の位相角に対するカルコゲニド物質の影響は、結晶化率と共に変化するため、上記同時係属中の出願の上記素子の結晶化率勾配は、入射する電磁ビームの位相角特性を変更して、制御された位相角特性を有する反射および/または透過電磁ビームを生成する相テーパーをもたらす。結晶化率勾配が急であればあるほど、位相角に対する影響も大きくなり、かつ正反射性の反射および/または正屈折性の透過からのずれも大きくなる。伝播の角度、反射の角度または電磁ビームの集束の程度を制御する同時係属中の出願の素子の性能を説明するいくつかの実施例は、同時係属中の出願に記載されている。
【0018】
広範囲の波長の電磁波に対して作動するPACSE素子を有することが望ましく、またそれ故に、異なる波長での作動に対する上記同時係属中の米国特許出願第10/226,828号のPACSE素子の適合性を考慮することが望ましい。同時係属中の出願に記載されているPACSE素子の適合性は、テラヘルツ周波数領域における電磁波にとって特に重要であり、この場合、波長範囲は、可視光範囲の2桁程度長い。PACSE素子の作動の波長は、PACSE素子の設計要件に影響を与える。より具体的には、作動波長は、PACSEのある種の特性様相の寸法を考慮する必要がある。全体のデバイスの寸法、マークのサイズ及びマークの間隔などは、作動波長に依存する一連の可能な値をとり得る仕様に属する。
【0019】
PACSE素子の全体のサイズは、反射または透過する電磁波の位相の高度の制御を実現する要求と、回折効果を最小にする要求とを均衡させなければならない。上記同時係属中の特許出願に記載されているように、位相角の最良の制御は、強力な結晶化率勾配を有するPACSE素子で実現され、この場合、強力な結晶化率勾配は、最短距離間において結晶化率の変化が最大の場合である。強力な結晶化率勾配は、正反射性の反射からのより大きなずれおよび/または正屈折性透過からのより大きなずれを可能にするのに必要な位相制御を可能にする。
【0020】
結晶化率の最大の変化は、非晶質(結晶化率0%)から結晶(結晶化率100%)に及ぶ範囲に一定されているため、また非晶質、結晶及び連続する一連の結晶化率状態が実際の作動で実現可能であるため、結晶化率の勾配を最大にするという設計上の目的は、PACSE素子のサイズを最小にする要求に等しい。所定の範囲の結晶化率の場合、より小さなデバイスでは、より強力な結晶化率勾配が得られ、それに相応して、反射および/または透過する電磁波の、広範囲の制御を可能にする。
【0021】
しかし、上記PACSE素子のサイズの低減は、回折効果を強め、かつ位相制御された電磁波の透過または反射の効率を少なくする。PACSE素子が、作動波長に比較して小さくなればなるほど、PACSE素子からの作動電磁波の開口型回折効果は、ますます顕著になる。回折効果が増すにつれて、入射する電磁波の、位相制御された反射および/または透過電磁波への変換効率は減少し、また、PACSE素子の効率もそれに応じて減少する。PACSE素子が小さくなった場合の回折効果の増加は、開口がある場合の入射する電磁波の口径が減少したときの回折効果の増加に似ている。回折は、入射する電磁波の一部の好ましくない損失の原因となり、また、入射電磁波の、位相制御された反射および/または透過した電磁波への変換効率の低減につながる。
【0022】
従って、PACSE素子の寸法を設計することは、競合する効果の間の妥協を意味する。より大きな素子は、好ましくない回折効果を最小にするが、それは、結晶化率の勾配の強度を犠牲にしてである。より小さな素子は、結晶化率の勾配の強度を増加させるが、より大きな回折効果を伴う。本発明者等は、作動波長の約2倍以下のPACSEサイズ(例えば、正方形状のPACSE素子の一辺の長さ)が、有害な過度の回折効果をもたらし、また、作動波長の2〜5倍のPACSEサイズは、多くの用途にとって、回折損失と位相制御の範囲との間の適切な均衡値になるであろうと考える。それでも、この範囲外のPACSEサイズも、本発明の原理に従って位相制御を実行できると予測されるが、それは決して最適ではない条件で作動する。作動波長の2倍以下のサイズを有するPACSE素子は、広範囲で位相制御を実行できるが、はなはだしい回折損失による不十分な変換効率をもたらすことになる。また、作動波長の約5倍以上のサイズを有するPACSE素子も、低い屈折損失という成果を伴って位相制御を実行できるが、それは、用途によっては役に立たない位相角の範囲に限られている。PACSE素子のサイズは、特定の用途の要求に従って選択することができる。高度の位相制御が所望され、かつ変換効率を犠牲にすることができる場合には、より小さなPACSE素子(例えば、作動波長の約2倍以下のサイズを有する素子)が適切となる。高い変換効率が所望され、かつ位相制御の範囲を犠牲にすることができる場合には、より大きなPACSE素子が適切となる。
【0023】
上記同時係属中の出願によるPACSE素子の寸法設計に関連する考察の結果は、テラヘルツ周波数領域におけるPACSE法の適用は、光周波数における作動に適するPACSE素子のサイズと比較して、PACSE素子のサイズの増大を必要とするということである。例えば、1.5μmの作動波長(近赤外線)において、例えば、5μm×5μmの能動型領域を有するPACSE素子は、十分な性能を実現できる。それに比べて、0.15mm(2THz)の作動波長においては、上記同時係属中の出願による類似のPACSE素子は、500μm×500μmの作動領域を有することになる。このようなサイズを有する同時係属中の出願によるPACSE素子は、可能でありかつ作動可能であるが、本発明者等は、カルコゲニド物質から得られる結晶化率の全範囲を利用する結晶化率勾配を得るために必要な非晶質マークに要求される寸法を考慮すると、素子が実用的でないことを明確に理解した。結晶化率の値の小さい範囲では、カルコゲニド物質のかなりの部分おいて、高い非晶質相の体積比率を必要とする。PACSE素子のサイズが増すにつれて、結晶化率勾配を最大化し、かつカルコゲニド物質から利用可能な相制御の程度を高めるのに必要な結晶化率の少ない値をを有する構造状態を達成するためには、カルコゲニド物質のますます多くの部分を非晶質にすとが必要になる。
【0024】
原則として、カルコゲニド物質の広い領域部の結晶状態から非晶質状態への変換は、大きなサイズを有する個々のマークの形成によって達成することができる。しかし、実際には、直径約1μmより大きいマークを形成することは困難である。この限界は、大きなマークを形成するのには多量の熱エネルギを必要とすることの結果である。非晶質マークの形成は、結晶性のカルコゲニド物質を溶解するのに十分なエネルギをカルコゲニド物質に与えた後、非晶質状態を反応速度論的に安定化すると共に、再結晶化を防ぐのに十分な速度で冷却するプロセスによって行われる。急速な冷却は、マークの形成が行われる領域からの熱エネルギの急速な散逸を必要とする。必要なマークの寸法が増加するにつれて、溶解のために与えられる全エネルギが増え、また、大きな領域のいくつかの部分で再結晶化を防ぐために、適切な速度で熱エネルギを散逸させることがますます困難になる。また、逆結晶化等の他の現象も、大きなマークを形成しようとする試みを阻止する。その結果として、約1μm径以上のマークを形成する試みは、基本的な物理的障害に直面する。
【0025】
約1μmというマークサイズの実施上の限界は、上記同時係属中の出願によるPACSE素子をテラヘルツ周波数領域で使用する可能性に障害をもたらす。本願明細書において上述したように、テラヘルツ周波数領域における典型的なPACSE素子は、500μm×500μm程度の寸法を有するものと予想される。例えば、1つのPACSE素子の全域で左から右へ100%の結晶化率から0%の結晶化率の範囲の連続する結晶化率の線形勾配を有することが好ましい場合、平均して素子の50%を非晶質状態にすることが必要になる。500μm×500μmの素子の50%は、125,000μm2の面積に等しい。1μm径のマークの面積を近似してその面積が1μm2であると仮定すると、PACSE素子中に50%の平均結晶化率を実現するには、125,000のマークが必要になる。1つのマークを形成するには、約0.1μsかかるため、125,000のマークを形成するのに要する時間は、12.5msになる。これは可能ではあるが、この時間は、本発明者等には、特に、再構成できることが所望される用途においては、非現実的に長いと思われる。これに比較して、本願明細書において上述したような1.5μmの波長で作動する5μm×5μmのPACSE素子への対応するマークの書込みまたは形成時間は、0.1μsの速度で形成される0.25μm2のマークを用いて、はるかに満足な5μsになる(25μm2の面積の50%のマーク書き込み面積、この場合、より小さなマークサイズが、マーク寸法が作動波長よりも十分に小さいことを確実にするために考慮され、この点に関して補足的考察が本願明細書において以下に示され、また上記同時係属中の出願に記載されている)。従って、マークの寸法に関する実際の制限は、作動波長が増加するにつれて問題となり、また、同時係属中の特許出願に記載されたPACSE素子の長波長に対する拡張において、潜在的な欠点となる。
【0026】
本発明は、上記同時係属中の特許出願に記載された素子と比較して、素子の全領域にわたるカルコゲニド物質の全容積の低減に基づいたPACSE素子を使用することによりこの欠点に対処する。このPACSE素子は、カルコゲニド物質の一部の領域の能力を有効に高めるPACSEデザインを提供し、テラヘルツ周波数領域での実際の実現性を可能にすることにより、大面積上にマークを形成する必要性を不要にする。本願明細書において以下により十分に説明するように、本願の素子は、導電性格子と共に、カルコゲニド物質からなる領域を含む。カルコゲニド能動型領域は、本願の素子の格子内に含まれており、また、素子の入射する電磁波に対する全体の影響は、導電性格子と、格子内に含まれている能動型カルコゲニド領域の構造状態とによって決まる。カルコゲニド領域の構造状態の変化は、本願の素子の挙動の調節性及び再構成能力をもたらす。
【0027】
入射する電磁波は、電磁波の特性である周波数及び波長で振動する直交する電界及び磁界を含む。入射する電磁波は、交流AC結合によって本願の素子と相互に作用して、反射および/または透過出力電磁波を生成する素子内に共振電流振動をもたらす内部電界を誘導する。本願の素子は、誘導性及び容量性の効果を介して、誘導電流の位相角特性に影響を及ぼし、それによって、位相制御された伝播特性を有する反射および/または透過電磁波を生成する。本発明の素子は、反射および/または透過の伝播方向、および入射する電磁波の集束の程度に影響を及ぼす。本願の素子のデザインは、特に、テラヘルツまたは他の長波長の周波数領域における入射電磁波に適している。
【0028】
本発明の素子の電磁波に対する影響の根拠をなす原理のうちのいくつかの理解には、周期平面的導電性格子を示す図1Aに示す従来技術の単純な格子の考察が手助けとなる。典型的な用途において、格子は、屈折率n1及びn2を有する2つの誘電体の間の境界に配置され、この場合、誘電体は、空気または固体物質等の媒質である。格子は、正方形の穴により離間した幅2aを有する導電性ストリップを含む、格子周期gを有する穴あき導電性シートである。格子周期gは、格子が回折格子として作用しないように、格子と相互に作用する入射電磁波の波長と同じくらいの大きさになっている。入射電磁波の波長は、本願明細書においては、格子の作動波長と呼んでもよい。本発明者等は、例証として、直線偏光した入射平面電磁波の図1Aの格子との相互作用を考察する。
【0029】
図1Aに示す上記格子の特性は、伝送線モデルを用いて分析することができる。このモデルは、自由空間を伝送線として扱い、また、回折対象を負荷インピーダンスとして扱う。集中回路素子近似を用いて、図1Aに示す格子の等価回路を図1Bに示す。等価回路は、並列な格子容量C及び格子インダクタンスLと共に格子をはさんで配置されている上記2つの誘電体のインピーダンスZS/n1及びZS/n2を含む。数量ZSは、平面波の場合のマクスウェルの波動方程式に由来し、自由空間の固有インピーダンスである。伝送線モデルにおいて、真空中の直線偏光した平面電磁波の特性インピーダンスは、自由空間の固有インピーダンスであり、下記式によって示される。
【数1】
【0030】
ここで、μ0及びε0は、それぞれ、自由空間の透磁率及び誘電率である。誘電媒質中において、インピーダンスは、屈折率に反比例して換算される。格子インダクタンスLは、上記導電性ストリップの誘導性効果に依存し、格子周期の単調関数である。格子容量Cは、格子の穴のある全域にわたる容量に依存する。
【0031】
図1Aに示す格子の特徴的な機能性は、上記格子に垂直に入射する、垂直に偏光した電磁波の入射を考察することにより、最も容易に説明される。垂直に偏光した入射電磁波の電界は、格子の垂直方向のストリップに対して平行である。これらの条件の下で、入射する電磁波は、格子の垂直方向のストリップに電流を誘導し、それと共に、 関連するインダクタンス及び容量が水平方向のストリップを分離している穴のある全域で垂直方向に生ずる。このインダクタンス及びこの容量は、図1Bの等価回路に示す回路の構成要素に相当する。垂直方向のストリップのインダクタンス及び水平方向のストリップの間の並列容量は、周波数依存性サセプタンスを有するため、入射する電磁波に対する格子の影響は、電磁波の周波数に依存する。
【0032】
LC回路技術においては、(図1Bに示す回路等の)LC回路が、任意の周波数と相互に作用する能力に加えて、インダクタンスL及び容量Cに依存する特有の共振周波数を有することが知られている。図1Bの回路において、上記垂直方向のストリップのインダクタンスのサセプタンスと、水平方向のストリップの間の容量のサセプタンスとは、180°位相が異なっている。その結果として、これらのサセプタンスは、共振として知られている状態を生じる1つ又は1つ以上の周波数で相殺する可能性がある。より具体的には、この場合には、図1Bに示す等価回路は、図1Aの格子が、その周波数で完全に透過性である並列共振周波数を有する。並列共振周波数において、垂直方向のストリップの誘導性サセプタンスは、水平方向のストリップを分離する空間の容量性サセプタンスによって相殺される。その結果として、並列サセプタンスはゼロであり、並列共振周波数における入射電磁波は、反射損失を伴わずに透過する。
【0033】
並列共振周波数は、屈折率n1及びn2、および上記格子のインダクタンス及び容量に依存する。独立した格子(空気に囲まれた格子、n1=n2=1)において、並列共振周波数を有する入射電磁波の波長は、格子の穴あきの形状により、g(格子周期)と2gの間である。例えば、正方形の穴の場合、並列共振周波数は、gに略等しい。矩形状、十字形及び一辺が他辺より短い寸法を有する他の穴の形状の場合、並列共振周波数は、より大きな波長へずれる。1より大きい屈折率を有する周囲の誘電体は、格子の容量を増加させ、並列共振周波数の低下をもたらす。入射する電磁波の周波数が共振周波数から外れるにつれて、格子の透過率は徐々に低下し、かつ反射損失は増加する。全てを考慮すると、格子は、共振周波数または共振周波数近傍を中心として、幅広い透過帯域を実現できる。
【0034】
格子の共振周波数及び帯域特性は、格子間隔、ストリップの幅、(目打ち形状を含む)単位格子のの様相及び周囲の誘電体の屈折率を制御することにより巧みに処理することができる。それが可能な理由は、それらの量が、格子の誘導性及び容量性のサセプタンスに影響を及ぼし、そのため、誘導性サセプタンスと容量性のサセプタンスが等しいかまたは略等しい周波数範囲を決定するからである。
【0035】
図1Aに示す先行技術の格子は、代表的な受動型光学類似素子であり、実用として送信用に利用できる。能動型格子デザインにおける電磁波の透過及び反射特性のより十分な制御は、2つ又は2つ以上の格子を独立形態でまたは1つ又は1つ以上の誘電体基板と共に組合わせることにより実現できる。格子間隔、水平方向及び垂直方向のストリップ幅、および複数の格子の各々の誘電率は、格子の誘導性及び容量性リアクタンス、サセプタンス等を独立して及び一緒に制御して、帯域特性、中心帯域周波数、反射効率、透過効率などに関してより十分な制御を実施するために、独立して変化させることができる。格子間の間隔は、例えば、誘電体によって分離された2つの平行な格子が、光学系で一般に用いられるファブリーペロー発振器と同様に機能する場合、別の自由度をもたらす。能動型格子の異なる組合せまたは特性は、格子の誘導性及び容量性の効果を変化させる方法に実質的に相当する。異なる格子形態は、インダクタとコンデンサの異なる直列及び並列の組合せを含む等価回路を有し、また、誘導性及び容量性の効果によって入射する電磁波に影響を及ぼす異なる方法に相当する。格子パターンは、図1Aのような正方形格子、あるいは、矩形、六角形、三角形等の他の周期的に繰返す格子形状とすることができる。
【0036】
能動型格子素子によって、別の機能性向上を達成することができる。能動型格子においては、能動型電子コンポーネントが格子に含まれ、通常は、格子の1つ又は1つ以上の導電性ストリップ中に挿入されている。能動型コンポーネントは、導電性ストリップ及び誘電体があればそれも含めたにものよってもたらされるリアクタンスに加えて、誘導性および/または容量性のリアクタンスおよび/またはサセプタンスを素子にもたらす。能動型コンポーネントは、通常は、2つ又は2つ以上の状態の間で変換することができ、その各々は、性質の異なる誘導性および/または容量性の効果を有する。従って、素子の全体の機能性は、能動型電子回路素子の状態に依存し、また、機能性(例えば、調節性)を変化することが、能動型格子によって可能になる。入射する電磁波に影響を及ぼすことについては、この可変機能性は、入射する電磁波の反射および/または透過特性が能動型コンポーネントの状態に依存し、異なる特性が異なる状態によってもたらされることを意味する。そのため能動型格子の作動性能を、異なる用途の要求を満たすように変えることができる。
【0037】
能動型格子素子の一実施形態の概略図を図2Aに示す。素子100は、能動型コンポーネント110と、垂直方向の導電性ストリップ120と、水平方向の導電性ストリップ140とを含む。図2Aに示す導電性ストリップは線で描かれているが、導電性ストリップが厚み、直径、および/または形状を有すること、厚さ、直径および/または形状を、長さ方向に均一または不均一にすることができること、および厚さ、直径および/または形状を、格子内の異なる導電性ストリップは皆同じにしてもよいまたは同じでなくてもよいことを理解すべきである。上記の記述は、本願明細書で叙述したまたは別に説明した全ての実施形態にあてはまる。この実施形態の能動型コンポーネントは、素子内に周期的に配置され、かつ上記垂直方向のストリップに直列に接続されている。従来技術で説明した能動型格子においては、能動型コンポーネントを、ダイオードにすることができる。従来技術による一実施例においては、PINダイオードが、図2Aに示す格子100内の能動型コンポーネント110として用いられる。この従来技術において、PINダイオードは、垂直方向のストリップのインダクタンスと直列であり、図2Bに示す等価回路が得られ、この場合、格子は、屈折率n1及びn2を有する2つの誘電体の間に配置されていると仮定する。PINダイオードは、2つの状態、すなわち、順方向バイアス状態と逆方向バイアス状態とを有する。順方向バイアス状態において、PINダイオードのインピーダンスは、MHz〜THzの周波数範囲においておもに抵抗性であり、また、等価回路におけるダイオード素子は、単純な抵抗器としてモデル化することができる。逆バイアス状態においては、PINダイオードのインピーダンスは、おもに容量性であり、また、等価回路におけるダイオード素子は、コンデンサとしてモデル化することができる。
【0038】
ダイオードに逆バイアスがかけられた場合の上記等価回路の伝送線解析は、上記能動型格子が、ダイオードの容量性リアクタンスと格子のストリップの誘導性リアクタンスがその周波数で相殺する直列共振周波数を呈することを示している。直列共振周波数において、上記垂直方向のストリップと平行な直線偏光した入射電磁波は、ほぼ完全に反射される。それに伴って、ダイオードの逆バイアス状態は、直列共振周波数で及び直列共振周波数付近で、高反射性格子を形成する。直列共振周波数は、逆バイアス状態で、垂直方向のストリップのインダクタンス及びダイオードの容量を制御することによって変化させることができるため、格子素子は、入射する電磁ビームを広範囲の周波数に関して最適に反射させるように設計することができる。順方向バイアス状態において、ダイオードは抵抗性になり、格子は、より透過性になる。反射及び透過特性に対するさらなる制御は、能動型格子素子を組合わせることにより、あるいは、能動型格子素子と受動型格子素子とを組合わせることにより、実現することができる。ほぼ完全に透過性の素子は、例えば、能動型素子が順方向バイアスダイオードである図2Aに示す能動型格子と、図1Aに示す受動型格子素子及びファブリー・ペロー空洞を形成する介在誘電材料とを組合わせることにより、得ることができる。空洞は、その周波数で(損失がない)完全な透過が生じる共振周波数を有し、この場合、共振周波数は、誘電体の厚さ、屈折率及び格子のインピーダンスに依存する。
【0039】
本願の素子において、カルコゲニド物質の体積は、格子の能動型素子の一部として含まれている。本願の素子は、カルコゲニド物質からなる体積を含む能動型領域を含む。能動型領域は、本願明細書において、カルコゲニド物質からなる領域、カルコゲニド領域、能動型カルコゲニド領域等と呼ぶことができる。好ましい実施形態において、この格子は、周期的であり、また、格子に作用する入射電磁波の波長(作動波長)より小さい周期または特有な反復距離を有する。この必要条件は、本願の素子が回折格子として作用しないことを保障する。カルコゲニド物質は、結晶状態及び非晶質状態を有する相変化物質である。カルコゲニド物質にエネルギを与えることにより、カルコゲニド物質を、その結晶状態と非晶質状態の間で可逆変換することが可能である。本願明細書において以下により十分に説明するように、カルコゲニド物質の複素誘電率は、非晶質状態と結晶状態とで異なる。その上、この違いは、本願の素子の導電性、インダクタンス、容量及び位相シフト特性に対する対応する影響を制御して、透過するおよび/または反射する電磁波の位相角制御を可能にする。能動機能性は、1つ又は1つ以上の能動型領域におけるカルコゲニド物質の構造状態を制御することによって、この格子で達成される。結晶(100%の結晶化率)から非晶質(0%の結晶化率)まで連続的に変動する結晶化率の体積比を有する構造状態は、本願の素子の能動型カルコゲニド領域に利用可能である。
【0040】
好ましい実施形態において、カルコゲニド物質からなる能動型領域は、周期的格子内に周期的に配置されている。導電性ストリップまたは導電性ストリップからなる部分によって分離されている能動型領域は独立領域であり、格子の単位格子の寸法を超えず、かつ好ましくは、単位格子の寸法よりもかなり小さいサイズを有する。本願明細書中で用いる際、格子の単位格子は、格子の基本的な繰返し単位である。周期的格子は、1つまたは1つ以上の方向における単位格子の複製と見ることもできる。単位格子は、格子の2つまたは2つ以上の導電性ストリップに囲まれた繰返し単位に相当する。正方形格子において、単位格子は正方形であり、また、カルコゲニド物質からなる領域は、繰返しの正方形のサイズよりも大きくない。矩形状格子においては、単位格子は矩形であり、カルコゲニド物質からなる領域は、繰返しの矩形のサイズよりも大きくない。三角形状格子においては、単位格子は三角形であり、カルコゲニド物質からなる領域は、繰返しの三角形よりも大きくない。六角形状格子においては、単位格子は六角形であり、カルコゲニド物質からなる領域は、繰返しの六角形のサイズよりも大きくない。他の格子形状におけるカルコゲニド領域の最大サイズは、同様に決めることができる。多くの実施形態において、カルコゲニド領域のサイズは、格子または単位格子の寸法よりも著しく小さくすることができる。
【0041】
本願の素子の上記格子の導電性ストリップは、交差させても交差させなくてもよい。例えば、正方形の単位格子を有する格子は、交差して正方形の穴を形成する水平方向及び垂直方向の導電性ストリップを含む。また、正方形の格子は、その間隔が正方形の穴を形成する交差しない水平方向及び垂直方向のストリップを含んでもよい。交差する及び交差しない導電性ストリップを有する正方形格子の実施例をそれぞれ図2C及び図2Dに示す。図2Cに示す格子は、水平方向の導電性ストリップ150と交差する垂直方向の導電性ストリップ130を含む。図2Dの格子は、水平方向の導電性ストリップ170と交差しない垂直方向の導電性ストリップ160を示す。図2Dに示すストリップは、本願明細書においては、導電性線分または線分化された導電性ストリップと呼んでもよい。交差しないストリップを有する格子においては、容量がストリップ間のギャップに生じて、この容量が、反射および/または透過する電磁波の位相特性に対する格子の全体の効果にさらに寄与する。同様に、非正方形の単位格子を有する格子は、交差するまたは交差しない導電性ストリップ、あるいは、それらの組合せを含んでもよい。
【0042】
本発明の好ましい周期的格子は、1つまたは1つ以上の方向に周期的間隔を有する。周期的間隔は、周期的格子の単位格子の反復距離である。例えば、正方形の格子の周期的間隔は、正方形の辺の長さに相当する。矩形状格子は、矩形状単位格子の長さ及び幅に相当する周期的間隔を有し、この場合、長さ及び幅は、2つの異なる方向において周期的間隔を示し、一組の平行な辺の間の距離に相当する。三角形状格子の周期的間隔は、三角形状の単位格子の辺の長さまたは高さとすることができる。三角形状の単位格子は等辺または非等辺とすることができるため、三角形状格子は、1つまたは1つ以上の方向に周期的間隔を有してもよい。六角形状格子の周期的間隔は、六角形状の単位格子の一組の平行な辺の間の距離とすることができる。その他の単位格子形状に基づく格子の周期的間隔は、同様に定義することができる。本発明の範囲内の単位格子は、周期的間隔を含まなくてもよいし、また1つの周期的間隔または2つの周期的間隔を含んでもよい。
【0043】
本願の格子の能動型領域におけるカルコゲニド物質からなる容積において、カルコゲニド物質は、結晶状態、非晶質状態、または部分的に結晶状態、および部分的に非晶質状態となることが可能である。カルコゲニド物質からなる体積における結晶状態及び非晶質状態の相対的比率は、領域のパーセントまたは結晶化率によって表すことができる。1つの領域の結晶化率は、0%(完全に非晶質)から100%(完全に結晶性)まで連続的に変化することができる。例えば、50%の結晶化率を有するカルコゲニド物質からなる領域は、容積基準で半分が非晶質で半分が結晶性である。入射する電磁波の波長は、カルコゲニド領域のサイズよりも大きいため、入射電磁波は、この素子の能動型領域におけるカルコゲニド物質からなる全体積と相互に作用する。その結果として、入射する電磁波に対する格子の全体の影響に対するカルコゲニドの特定の影響、寄与または変更は、領域におけるカルコゲニドの非晶質状態及び結晶状態の分散特性(例えば、誘導性、容量性及び位相シフト特性)の加重平均によって決まる。
【0044】
格子の能動型領域におけるカルコゲニド物質の結晶化率は連続的に変化可能であるため、能動型カルコゲニド領域は、一連の構造状態を有し、その各々は、格子に対して、性質の異なる分散特性(例えば、誘導性、容量性及び位相シフト特性)を与え、またそのため、入射する電磁波の反射、透過及び伝播特性に対する各々別個の影響を有する格子が得られる。
【0045】
多くの実施形態において、個々のカルコゲニド領域のサイズ及び格子の単位格子のサイズは、格子の作動波長よりもかなり小さい。これらの実施形態において、カルコゲニド領域間の間隔は、作動波長よりもかなり小さい。その結果として、作動波長において入射電磁波によって生じる反射および/または透過放射の位相特性は、多数のカルコゲニド領域に関する平均の結果であり、その各々は、異なる結晶化率を有する。それらの実施形態において、結晶化率の平均化は、特定のカルコゲニド領域内だけではなく、いくつかの別個の空間的に分離されたカルコゲニド領域の全域で行われる。
【0046】
理論に縛れることは望まないが、本発明者等は、平均化を、特定の波長における光の、サブ波長の長さスケールで様相を有する不均一な対象との相互作用の有効媒質近似による記述に照らして、より一般的に見ることができる。有効媒質近似によれば、様相を分析し、検知し、様相に影響を受け、または、様相を“見る”電磁波の能力の対象は、その波長程度のサイズまたはその波長よりも大きいサイズを有する様相にほぼ制限される。波長よりも小さい様相(サブ波長様相)は、電磁波によって別々に分析または検知されず、また、電磁波に別々に影響を及ぼさない。その代わり、入射する電磁波は、サブ波長様相の平均を分析または検知し、この場合、平均は、波長にほぼ相当する長さスケールを超える。有効媒質近似の基本的な結果は、サブ波長の長さスケールでの様相を有する非均一な材料は、波長以上の長さスケールで、サブ波長様相の特性に対する平均に対応する均一な特性を有する同質の材料としてほぼ見ることができるということである。有効媒質近似は、サブ波長の対象の様相サイズが減少するのにつれて、ますます良好な近似となる。
【0047】
本願の素子において、有効媒質近似は、上記作動波長を持つ電磁波電磁波の作動波長よりも短かい(サブ波長寸法)寸法を有するカルコゲニド領域、変域または単位格子との相互作用に適用でき、殊にカルコゲニド領域の1つ又は1つ以上の特性がサブ波長距離にわたって変化する場合に特に適切である。本発明との関連での最大の関心は、数個のサブ波長サイズのカルコゲニド領域にわたる結晶化率の変化である。上述したように、本願の素子の能動型領域の結晶化率の空間的変化が、素子によってもたらされる位相制御の根拠をなす。入射する電磁波が、上記作動波長以下の全体的寸法を有する一連のサブ波長カルコゲニド領域に作用する場合、入射する電磁波によって認知される一連の領域の結晶化率は、個々のサブ波長領域の平均となる。それに応じて、素子の波長スケール部分に関する有効な結晶化率は、素子のその部分に含まれているサブ波長カルコゲニド領域全部にわたる平均と見ることができる。平均化は、各サブ波長素子内で、及び波長スケール部分内の異なるカルコゲニド領域の中で行われる。
【0048】
有効媒質近似からの考察の結果として、本願の素子の多くの実施形態の波長スケール部分の特定の結晶化率は、多くの方法で実現することができる。例えば、50%の結晶化率を有する波長スケール部分を考え、かつ等しい容積のカルコゲニド物質を有する4つのサブ波長カルコゲニド領域が領域内に含まれていると仮定する。50%の結晶化率は、例えば、20%、40%、60%及び80%の結晶化率を有する個々のサブ波長領域を用いて実現することができる。多数の結晶化率がこの実施例で用いられるので、50%の波長スケール平均を得るこのモードは、マルチ状態モードと呼ぶことができる。別法として、50%の結晶化率は、4つのサブ波長カルコゲニド領域のうちの2つを非晶質状態(0%の結晶化率)にすると共に、他の2つの領域を結晶状態(100%の結晶化率)にすることにより、実現することができる。平均化するというこのモードは、カルコゲニド物質の2つの構造状態のみが、カルコゲニド領域のセット中に存在するため、2進モードと呼ぶことができる。50%または上記素子の波長スケール部分に関する他のいずれかの平均的な結晶化率を実現する多くの方法が可能であり、また、本発明の範囲内にある。この素子のカルコゲニド領域のサイズは、上記作動波長よりも著しく小さくすることができるため、有効媒質近似法による平均化は、数十、数百、またはそれ以上の数のカルコゲニド領域にわたって行うことが出来る。
【0049】
本願の素子のカルコゲニド領域の結晶化率のサブ波長領域内の変化に加えて、上記導電性ストリップの伝導性および/またはインダクタンスのサブ波長領域内の変化も存在することがある。例えば、そのような変化は、1つの素子内の1つ又は1つ以上の方向において、導電性ストリップの幅、長さ、間隔、形状または接続性のサブ波長領域内の変化によって生じる可能性がある。例えば、交差する格子ラインと交差しない格子ラインの組合せを含む格子は、伝導性および/またはインダクタンスのサブ波長領域内の変化がある可能性があり、この場合、格子の交差する部分と交差しない部分との間の間隙は、作動波長よりも短い。同様に、1つまたは1つ以上の方向における導電性ストリップの非均一な間隔は、格子ラインにより伝導性および/またはインダクタンスのサブ波長領域内の変化を同様にもたらすこともある、この場合、非均一に離間したストリップの間の間隔は、作動波長よりも短い。導電性ストリップの伝導性および/またはインダクタンスのサブ波長領域内の変化がある場合、有効媒質近似は、波長スケール領域の伝導性および/またはインダクタンスがサブ波長部分に関する平均に相当することを示す。導電性ストリップ及びカルコゲニド領域の特性においてサブ波長領域内の変化がある実施形態において、波長スケール部分に関する平均は、導電性ストリップ及びカルコゲニド領域によって寄与される効果の全体の平均に相当する。
【0050】
本願の格子は、能動型カルコゲニド領域を含み、カルコゲニド物質が格子の伝導性、誘導性、容量及び位相シフト特性に及ぼす影響によって、入射する電磁波の能動制御が達成できる。相変化カルコゲニド物質の多くの特性及び組成は公知であり、例えば、本願明細書にその開示を引用する、本譲受人に対する米国特許第3,271,591号明細書、同第3,530,441号明細書、同第4,653,024号明細書、同第4,710,899号明細書、同第4,737,934号明細書、同第4,820,394号明細書、同第5,128,099号明細書、同第5,166,758号明細書、同第5,296,716号明細書、同第5,534,711号明細書、同第5,536,947号明細書、同第5,596,522号明細書、同第5,825,046号明細書、同第5,687,112号明細書、同第5,912,104号明細書、同第5,912,839号明細書、同第5,935,672号明細書、同第6,011,757号明細書及び同第6,141,241号明細書、および同時係属中の米国特許出願第10/226,828号明細書で既に説明されている。本願の素子に関係する相変化カルコゲニド物質の特性及び組成のうちのいくつかの短い再要約を、以下の数節に示す。
【0051】
相変化カルコゲニド物質からなる体積へのエネルギの印加は、その構造状態間の変換を引き起こす。相変化物質は、それに特有な融解温度及び結晶化温度を有し、構造状態は、それらの温度に対するエネルギの制御された印加によって影響することが出来る。相変化物質をその融解温度以上に加熱するのに十分なエネルギの印加しそれに続いて急冷を行うことにより、非晶相の形成を促進する。一方、徐冷は、相変化物質からなる体積内での結晶化及び結晶性領域の形成を可能にして、部分的結晶性または結晶性物質をもたらすことができる。相変化物質を、その結晶化温度と融解温度との間まで加熱するのに十分な量のエネルギの印加は、非晶質領域から結晶相への部分的または完全な変換を引き起こす。
【0052】
相変化物質からなる体積または領域の選択した部分にエネルギを印加して、領域内の相変化物質からなる周囲の部分を乱すことなく、局所的な構造変換を引き起こすことができる。このような局所的な構造変換は、本願の格子の能動型領域内のカルコゲニド物質からなる体積の結晶化率を変更するのに用いることができる。また、局所的な構造変換は、ある相からなる周囲のマトリクス内の別の相のサイズ、形状または体積を制御するのにも用いることができる。例えば、低量熱消費法を用いた結晶性マトリクス内での非晶相領域(例えば、マーク)の形成は、米国特許出願第10/026,395号明細書に既に記載されており、その開示を本願明細書に引用する。
【0053】
カルコゲニド物質からなる体積の構造状態の変換は、相変化物質または相変化物質の一部に、適切な量のエネルギを適切な速度及で印加することによって達成される。様々な形態のエネルギを、構造状態間の変換を実施するのに用いることができる。エネルギは、単一のエネルギ源または複数のエネルギ源を用いて、(光、紫外線、可視光、赤外線、レーザ及びrf波長源からのエネルギを含む)電磁波、電気エネルギ、熱エネルギ、化学エネルギ、磁気エネルギ、力学的エネルギ、粒子線エネルギ、音響エネルギまたはそれらの組合せのかたちをとることができる。例えば、電気エネルギの供給は、電流または電圧の形とすることができ、また、連続的、または、その高さ及び幅を制御することができるパルスの形とすることもできる。本発明のいくつかの実施形態においては、能動型領域は、1つ又は1つ以上の導電性ストリップ内に直列に接続されている。これらの実施形態においては、導電性ストリップは、1つまたは1つ以上の能動型領域内のカルコゲニド物質からなる体積に電気エネルギを供給する導線として用いて、それにより、1つまたは1つ以上の能動型領域の構造状態の変化を引き起こすことができる。光エネルギは、制御されたビーム特性、波長、エネルギおよび/または出力を有するパルス状または連続ビームの形とすることができる。印加するエネルギの強度、持続時間、パルス特性を制御することにより、この格子内のカルコゲニド物質からなる領域の構造状態または結晶化率を厳密に制御することが可能である。能動型領域は、エネルギを用いて個別にまたは一緒に処理することにより、本願の素子の能動型領域の全域で、カルコゲニドの結晶化率の所望の分布を実現することができる。
【0054】
本発明による用途に適した相変化物質の代表的な例は、元素In、Ag、Te、Se、Ge、Sb、Bi、Pb、Sn、As、S、Si、P、Oの1つ又は1つ以上を含むもの及びこれらの混合物または合金であり、それらの共晶または非共晶組成物を含む。好ましい実施形態において、相変化物質は、カルコゲン元素を含む。もっとも好ましい実施形態においては、相変化物質は、Teをカルコゲン元素として含む。また、Ge2Sb2Te5、Ge22Sb22Te56及び関連する物質(Ge−Sb−Te三元化合物、In−Sb−Te三元化合物、In−Sb−Ge三元化合物、Te−Ge−Sb−S四元化合物等)等のGeおよび/またはSbと共にカルコゲンを含む相変化物質も好ましい。GeTe単独またはCdTeを有する溶液中のGeTeは、別の好ましい実施形態を構成する。他の好ましい実施形態において、相変化物質は、特に、Sbおよび/またはTeと共に、Agおよび/またはInを含む。AgInSbTe系(AIST)及びGeInSbTe系(GIST)は、別の好ましい実施形態である。他の好ましい実施形態において、相変化物質は、カルコゲンと、Cr、Fe、Ni、Nb、Pd、Ptまたはこれらの混合物及び合金等の遷移金属とを含む。本発明による用途に適した相変化物質のいくつかの実施例は、上述した本願明細書に引用する米国特許に記載されている。また、本発明との関連で適している物質は、誘電体と相変化物質との混合物も含んでもよい。このような混合物の実施例は、同一出願人による米国特許第6,087,674号明細書に記載されており、特許の開示を本願明細書に引用する。
【0055】
能動的な機能性は、上記能動型領域に含まれるカルコゲニド物質からなる体積の結晶化率の変化に伴って生じる能動型領域の特性の変化によって本願の格子中に実現される。相変化カルコゲニド物質の光学的特性及び電気的特性は、結晶状態と非晶質状態により異なる。結晶状態と非晶質状態により異なる代表的な特性は、屈折率、吸収率、誘電定数、誘電率、伝導度、インピーダンス、容量、容量性リアクタンス、インダクタンス及び誘導性リアクタンスを含む。部分的に非晶質であり、かつ部分的に結晶性である構造状態のカルコゲニド領域は、通常は、純粋に結晶性状態の特性と、純粋に非晶質状態の特性との中間の値の特性を有する。上述した本願明細書に引用する同時係属中の米国特許出願10/226,828号明細書は、結晶体積比の変化に伴うカルコゲニド物質の反射率特性、透過特性及び吸収特性の変化を説明している。
【0056】
格子の能動型領域に含まれるカルコゲニド物質の異なる構造状態のインピーダンス又は複素伝導度の変化は、本願の格子にとって特に重要である。物質のインピーダンスは、回路要素が交流電流の流れに対して示す抵抗の測定値を示す複素数である。インピーダンスは、抵抗(インピーダンスの実数部)とリアクタンス(インピーダンスの虚数部)とを含む。また、リアクタンスは、容量性寄与(容量性リアクタンス)と誘導性寄与(誘導性リアクタンス)とを含み、容量性及び誘導性リアクタンスは互いに符号が相反しその和がリアクタンスを生成する。リアクタンスの符号により、リアクタンスは、交流電流の位相角に対して容量性または誘導性のいずれかになる。インピーダンスの逆数は、物質のアドミタンスまたは複素伝導度である。アドミタンスは、実数部(コンダクタンス)と虚数部(サセプタンス)とを含む。さらに、サセプタンスは、容量性寄与(容量性サセプタンス)と誘導性寄与(誘導性サセプタンス)とを含み、容量性及び誘導性サセプタンスは、互いに符号が相反しその和がサセプタンスを生成する。
【0057】
インピーダンス及びアドミタンスは、それらに関連する位相角を有し、位相角のタンジェントは、それぞれインピーダンス及び複素伝導度の虚数部と実数部との比によって表される。複素数の位相角は、実数部及び虚数部の符号により正または負になる。インピーダンス及び複素伝導度の実数部は正であるため、インピーダンス及び複素伝導度の位相角の符号は、それらの虚数部の符号によって決まる。インピーダンス及び複素伝導度の虚数部への容量性及び誘導性寄与は、異なる符号を有するため、インピーダンス及び複素伝導度の位相角の符号は、容量性及び誘導性寄与の相対的バランスによって決まる。
【0058】
図3は、電磁波の周波数の関数としての代表的カルコゲニド物質(Ge2Sb2Te5)の複素伝導度の実数部、虚数部及び位相角の変動を示す。図3に示す曲線は、Ge2Sb2Te5の結晶相に対応する。複素伝導度の実数部(greal)及び複素伝導度の虚数部(gimag,を−gimagとしてで示す)は、図3の左側の縦座標軸であらわし、位相角は、図3の右側の縦座標軸であらわす。図3は、結晶性Ge2Sb2Te5のコンダクタンス、サセプタンス及び位相角が周波数依存性であることを示し、また、入射する電磁波電磁波の反射、透過及び位相角に対する結晶性Ge2Sb2Te5の影響もまた周波数依存性であることを示している。結晶性Ge2Sb2Te5の抵抗及びリアクタンスも周波数依存性である。
【0059】
Ge2Sb2Te5の非晶相は、結晶相よりもかなり小さい導電性を持ち、複素伝導度及びインピーダンスの実数部及び虚数部はかなり小さな値を有する。その結果として、Ge2Sb2Te5の結晶相及び非晶相は、入射する電磁波に異なった影響を与える。部分的に結晶性でかつ部分的に非晶質であるGe2Sb2Te5からなる領域は、純粋な結晶相及び純粋な非晶相の値の組合せを反映する抵抗、リアクタンス及びコンダクタンスを有する。部分的に結晶性である領域は、通常は結晶相及び非晶相の値の中間の特性に相当する値を有する。
【0060】
図3に示す全般的な原理は、一般に、相変化カルコゲニド物質に適用できる。カルコゲニド物質からなる体積の結晶化率を変化させることにより、入射する電磁波に対するカルコゲニド物質の影響を変えることが可能である。金属ストリップ、誘電材料及び能動型コンポーネントまたは物質等の全ての構成ユニットを含む本願の格子素子の、入射する電磁波電磁波の反射、透過および/または位相に対する全体の影響は、全体として、格子素子のインピーダンスまたはアドミタンスの点から説明することができる。能動機能性は、能動型コンポーネントとして含まれるカルコゲニド体積の結晶化率を変化することによって本願の素子から得られる。本願の素子の能動型カルコゲニド領域の異なった構造状態は、本願の素子の全体のインピーダンスまたは複素伝導度にそれぞれ異なって寄与し、それにより、入射する電磁波の反射、透過及び位相角特性に対して本願の素子の調整可能な実施成果を実現できる。
【0061】
本願の素子は、ビーム・ステアリング能力を伴うかまたは伴わないで反射かまたは透過素子として用いることができる素子を含む。ビーム・ステアリングを伴わない反射素子は、電磁波の入射ビームを正反射方向へ反射させる素子であり、この場合、反射ビームは、入射ビームとは異なる位相角または異なる集束の程度を持つことも出来る。ビーム・ステアリングを伴う反射素子は、電磁波の入射ビームを非正反射方向へ反射させる素子であり、この場合、反射ビームは、入射ビームとは異なる位相角または異なる集束度を有することが出来る。ビーム・ステアリングを伴わない透過素子は、電磁波の入射ビームを素子中に誘電体がもしあればそれによる屈折効果によって入射方向を修正した方向に透過させる素子であり、この場合、透過ビームは、反射ビームとは異なる位相または異なる集束度を持つことが出来る。例えば、独立型格子においては、格子は、誘電体によって支持されておらず、空気に囲まれている。空気は、1に非常に近い屈折率を有するため、本発明によるビーム・ステアリングを伴わない透過性独立型格子は、電磁波を殆ど入射方向に透過させ、この場合、透過ビームは、入射ビームとは異なる位相または異なる集束度を持つことが出来る。格子が誘電体で支持されている素子においては、本発明によるビーム・ステアリングを伴わない透過性素子は、電磁波を透過させかつ屈折させて、誘電体の屈折率によって入射方向を修正した方向に透過ビームを生成する。電磁波に対する誘電材料の屈折率の影響は、スネルの法則によって通常あらわされる。本発明によるビーム・ステアリングを伴わない透過性素子による入射ビームの透過の方向は、正屈折方向と呼ぶことができる。本発明によるビーム・ステアリングを伴う透過素子は、正屈折方向以外の方向に電磁ビームを透過させる素子であり、この場合、透過ビームは、入射ビームとは異なる位相または集束度を持つことが出来る。ビーム・ステアリングを伴う透過素子においては、ビーム・ステアリングは、入射方向を屈折によっての方向変化に加えて、電磁波にまた別種の方向変化を起こさせる。
【0062】
本願の素子の能動型カルコゲニド領域の位相角特性は、ビーム・ステアリングが実現出来るか否かが決定される。同時係属中の米国特許出願第10/226,828号明細書に記載されているように、ビーム・ステアリング効果(例えば、非正反射性の反射)は、表面または基板上に配置された個別のカルコゲニド領域からなるパターンの分散特性を制御することにより、達成することができる。より具体的には、ビーム・ステアリングは、カルコゲニド領域からなる配列における1つまたは1つ以上の方向の相テーパーの存在によって実現することができ、この場合、相テーパーは、このパターンにおいての1つのカルコゲニド領域から別の領域までのカルコゲニド物質の位相角の変化に相当する。相テーパーの存在は、1つの領域から別の領域までゼロでない位相差、及びカルコゲニド領域のパターンの全域での位相角の非均一な分布を包含する。
【0063】
能動カルコゲニド領域が、作動波長よりも小さい本願の素子の実施形態において、相テーパーの構成は、上述した有効媒質近似の観点から考えることができる。有効媒質近似によれば、入射する電磁波は、作動波長程度のサイズを有する本願の素子の部分に影響される。サブ波長サイズを有する様相は、電磁波に別々にではなく集合的に影響を及ぼし、多数のサブ波長様相に関する平均に相当する有効な特性または影響を呈する。本願の素子において、有効媒質近似は、1つまたは1つ以上の方向にサブ波長寸法を有する能動型カルコゲニド領域の結晶化率及び結晶化率に依存する特性(例えば、インピーダンス、アドミタンス、分散特性)に対して適用可能である。有効媒質近似の考え方によれば、相テーパーは、格子内の特定の方向の一連の隣接する能動型カルコゲニド領域の各々の結晶化率が異ならねばならないという条件には限定されない。その代わり、、結晶化率の変化が、1つの格子の隣接する重なり合っているまたは部分的に重なり合っている波長スケールまたはより小さい部分の間に存在している場合、この場合、各波長スケールまたはより小さい部分が複数のサブ波長の能動型カルコゲニド領域を備え、また、特定の波長スケールまたはより小さい部分内の隣接するサブ波長の能動型カルコゲニド領域間の結晶化率の変化または差が必ずしも存在していない場合に、相テーパーが存在することもできる。換言すれば、平均結晶化率が、1つの格子内の1つ又は1つ以上の方向に並列した異なる波長スケールまたはより小さい部分おいて変化し、各波長スケールまたはより小さい部分が複数のサブ波長の能動型カルコゲニド領域を備える場合にも本発明による相テーパーは存在する。
【0064】
1つの素子の波長スケールまたはより小さい部分は、本願明細書において、ドメインと呼ぶことができる。ドメインは、素子の一部であって、その少なくとも1つの縦か横かの断面寸法が素子の作動波長(素子に入射する電磁波の波長)よりも大きくないものである、。好ましくは、ドメインは、作動波長よりも大きくない2つの断面寸法を含み、最も好ましくは、これら2つの断面寸法は、作動波長よりも小さい。作動波長よりも小さい寸法は、本願明細書において、サブ波長寸法と呼ぶことができる。少なくとも1つのサブ波長断面寸法を有するドメインは、本願明細書において、サブ波長ドメインと呼ぶことができる。サブ波長断面寸法を有しないドメインは、本願明細書において、波長スケールドメインと呼ぶことができる。好ましい実施形態において、1つのドメインの波長スケールまたはサブ波長寸法は、素子の平面内の断面寸法に相当する。本発明によるドメインは、複数のサブ波長の能動型カルコゲニド領域を含む1つの素子の波長スケールまたはサブ波長の部分である。1つのドメインにおいて、サブ波長のカルコゲニド領域の位置設定に関しては、特定の要件は何も課せられない。能動型カルコゲニド領域は、1つのドメイン内で、不規則に、周期的にまたはその他の方式で配置または位置設定することができる。1つのドメイン内での能動型カルコゲニド領域の配置と、その素子内でのドメインの配置との間に相関関係を持たせる必要ない。例えば、周期的に配置されたドメインは、周期的に、非周期的にまたはその他の方式で配置されている能動型サブ波長カルコゲニド領域を含んでもよい。異なるドメイン内のサブ波長カルコゲニド領域の配置の関係、対応または相関関係は、何も要求されない。
【0065】
別の好ましい実施形態において、各素子のドメインは、周期的である。この実施形態においては、素子は、複数の周期的に配置されたドメインからなり、この場合、ドメインは、寸法が殆ど同一であり、また、ドメインは、波長スケールまたはサブ波長の寸法とすることができる。ドメインの周期的配列において、個々のドメインは、回折部位として機能する可能性があるので、ドメインの大きさを適切に調節することにより、回折を最小限にすることが好ましい。個々のドメインからの回折は、サブ波長ドメインよりも波長スケールのドメインにおいてより顕著である。そのため、サブ波長のドメインは、好ましい実施形態であり、特に好ましい実施形態は、ドメインが、回折効果を回避または最小限にするために、波長スケールよりも十分に小さい実施形態である。入射する電磁波の入射角などの作動条件は、ドメインが、回折効果を回避または最小限にするためにどの程度サブ波長でなければならないかに影響を及ぼす。ドメインの回折効果の回避または最小化は、垂直でない角度で入射する電磁波と比べて、垂直に入射する電磁波の場合には、より大きなサブ波長ドメインを用いて実現することができる。入射の方向が、素子に直角の方から次第にそれるにつれて、回折効果を回避または最小限にするには、ますます小さい寸法のサブ波長ドメインが必要である。
【0066】
ある種の相テーパーは、本願明細書において、連続型相テーパーと呼ぶことができ、この場合、1つの素子の特定の方向に沿って、一連の連続カルコゲニド領域の各々の結晶化率は単調に増加または減少する。連続型相テーパーを有する、本発明による格子の一部の実施例を図4Aに示し、図は、水平方向に沿って、それぞれ結晶化率f1、f2、f3及びf4を有する能動型カルコゲニド領域105、115、125及び135と、導電性セグメント145とを含む連続型相テーパーを示し、ただし、f1<f2<f3<f4である。この実施例において、結晶化率は、右水平方向に配列した連続する能動型カルコゲニド領域にわたって単調に増加する関数である。或いは結晶化率は、左水平方向に単調に減少する関数と見ることができる。
【0067】
ある種の相テーパーは、本願明細書において、不連続方相テーパーと呼ぶことができ、平均結晶化率は、1つの素子の特定の方向に沿って、一連の連続する重なり合っていないまたは部分的に重なり合っているドメインの各々に対して単調に増加または減少し、この場合、各ドメインは、複数のサブ波長能動型カルコゲニド領域を含み、また、1つのドメイン内の特定の方向における一連の連続する能動型カルコゲニド領域の各々の結晶化率は、単調で連続的に増加または減少してもしなくてもよい。正方形状のドメインの実施例を図4Bに示す。ドメイン205は、上記格子の作動波長のスケールより小さい固有のドメイン寸法を有する。図4Bの実施形態のドメイン205は、正方形状であるため、ドメインは、波長スケールより小さい2つの固有の寸法を含む。それらの寸法は、図4に“λ又はλ以下”で示されている。ドメイン205は結晶化率f1〜f9、(一般表現としてfiと呼ぶことができる)と、垂直方向の導電性ストリップ225と、水平方向の導電性ストリップ235とを有するサブ波長の能動型カルコゲニド領域215を含む。図4Bの実施形態において、ドメインは、9つの能動型カルコゲニド領域を含む。ドメイン205の結晶化率は、個々のカルコゲニド領域にわたって平均することによって得ることができる。個々の能動型カルコゲニド領域の結晶化率は、別々に制御可能であるため、また、ドメインの結晶化率は、いくつかの個々のカルコゲニド領域にわたる平均として得られるため、ドメインの結晶化率の特定の値を多くの方法で実現することができることは明白である。
【0068】
正方形状の波長スケールまたはより小さなドメインから形成される不連続型相テーパーの実施例を図4C及び図4Dに示す。図4Cの実施形態は、水平方向に整列された重なり合っていない正方形状ドメイン245、255及び265を含む1つの素子の一部である。ドメインの各々は、複数のカルコゲニド領域(図示せず)を含む導電性格子(図示せず)を含む。例として、ドメイン245、255及び265の各々は、図4Bに示す9つの能動型カルコゲニド領域を有する導電性格子を含んでもよい。ドメイン245、255及び265は、同じ数または異なる数の個々の能動型カルコゲニド領域と、同じまたは異なる格子形状または構成とを含んでもよい。1つのドメイン内の格子は、他のドメイン内の格子に物理的に接続されていても接続されていなくてもよい。ドメイン245、255及び265は、それぞれ、ドメイン結晶化率F1、F2及びF3を有し、ただし、各結晶化率Fiは、ドメイン内に含まれる個々の能動型カルコゲニド領域の結晶化率fiの平均として得られる。本発明においては、ドメイン245、255及び265は、一連の連続するドメインを示し、各ドメイン内の個々の能動型カルコゲニド領域の結晶化率の特定の値または数値変化傾向にかかわらず、この場合には水平方向に不連続型の相テーパーが存在している。ここで 例えば F1>F2>F3またはF3>F2>F1である。上述したように、特定のドメインの結晶化率Fiは、結晶化率がfiである複数の個々のサブ波長能動型カルコゲニド領域にわたる平均として得る場合にはそれは多くの方法で実現することができる。従って、本発明においては、相テーパーは、1つのドメイン内の連続する一連の個々のカルコゲニド領域が単調に増加または減少しない場合でも存在することができる。
【0069】
本発明においては、重なり合っていないドメインは、隣接的または非隣接的とすることができる。隣接的ドメインは、図4Cの実施形態と同じように、重なり合わないが、互いに接するドメインである。非隣接的ドメインは、隣接するドメイン間にギャップが存在して境界を共有することなく空間的に分離されて非隣接単位としてつながっている、重なり合っていないドメインである。この実施例を見ると、一連の隣接的なまたは非隣接的なドメインに関する平均結晶化率が単調に増加または減少する場合、相テーパーが存在し、かつビーム・ステアリングが可能であり、この場合、各ドメインは、複数のサブ波長の能動型カルコゲニド領域を含む。
【0070】
図4Dは、水平方向に向けられ、重なり合っている正方形状ドメイン275(実線)、285(一点鎖線)及び295(点線)を有し、かつそれぞれ、各ドメイン内に含まれる個々の能動型カルコゲニド領域の結晶化率fiを平均することにより得られるドメイン平均結晶化率F1、F2及びF3を有する1つの格子の一部の実施形態を示す。本発明による不連続型相テーパーがこの実施形態に存在しており、ドメインのF1、F2及びF3は、単調に増加または減少する。
【0071】
上述したように、不連続型相テーパーを形成するドメイン内の能動型カルコゲニド領域の配置または位置決めは制約を受けず、周期的、非周期的またはその他の方式にすることができる。また、1つのドメインまたは複数のドメイン内の能動型カルコゲニド領域の数、サイズまたは形状も制約を受けず、同様にする、異ならせる、相互に関連させる、相互に関連させない等とすることができる。1つのドメイン内で平均した結晶化率は、不連続型相テーパーを達成する際に考慮しなければならない事項である。
【0072】
不連続型相テーパーを含む実施形態では、複数のサブ波長カルコゲニド領域を持つドメイン内で平均した結晶化率ついての結晶化率勾配が得られる。特定のサブ波長領域のまたは特定の一連のカルコゲニド領域にわたる結晶化率は、不連続型相テーパーの場合には、制約を受けない。結晶化率勾配を生成し、かつ相テーパーを得るのに必要な結晶化率の必要条件は、ドメインの寸法スケールに適用されるのみで、、ドメイン内の個々の能動型カルコゲニド領域においては結晶化率は様々な異なる組合が可能である。ドメインの結晶化率について総合的に結晶化率勾配を平均として構成する必要性以外には、ドメイン内の個々の能動型カルコゲニド領域は特定の条件を満たす必要はない。このような必要条件がないことが、不連続型相テーパーの確立における柔軟性をもたらし、また、本発明の場合に、ビーム・ステアリング、集束および/または波面補正を実現するのに必要な位相角制御を達成するための異なるモードを可能にする。
【0073】
特定の結晶化率を有するドメインの形成は、多元状態モードまたは2進モードで達成することができる。多元状態モードにおいては、1つのドメイン内の個々の能動型カルコゲニド領域の結晶化率を制御する際に、3つ又は3つ以上の構造状態が用いられる。各個々のカルコゲニド領域は、3つ又は3つ以上の構造状態からなる予め選択されたセットのうちの1つで存在し、状態の予め選択されたセットのうちのいくつかまたは全ては、1つのドメイン内のサブ波長カルコゲニド領域内に実現されている。3つ又は3つ以上の構造状態は、非晶質状態、結晶状態または部分的結晶状態の中から選択することができ、複数のサブ波長カルコゲニド領域にわたる構造状態の分布は、所望のドメインの結晶化率を得る必要性によってのみ限定される。特定の能動型カルコゲニド領域の結晶化率は、他の能動型カルコゲニド領域の結晶化率と関連性があったり、また何かの形でそれに依存する必要はない。多元状態素子の再構成は、素子に関連する予め選択された構造状態のセットの範囲内での、1つ又は1つ以上の個々の素子の1つの構造状態から別の構造状態への構造変換の誘発を伴う。1つのドメインの結晶化率は、1つのドメインに含まれる全てのカルコゲニド領域または領域の一部を変化させることによって変化させることができる。
【0074】
2進モードにおいては、1つのドメイン内の個々のサブ波長能動型カルコゲニド領域は、2つの構造状態のうちのどちらかの状態に限定されている。複数のサブ波長カルコゲニド領域が1つのドメイン内に存在しているため、2つの構造状態を統計的に平均すると、ドメインの結晶化率として2つの選択された2進状態の結晶化率の間の中間値をとることになる。好ましい2進モードの実施形態においては、2つの2進構造状態は、結晶性状態及び非晶質状態を選択する。複数のサブ波長カルコゲニド領域にわたって、結晶性および/または非晶質状態のパターンを配置することにより、中間値を含み0%〜100%に及ぶ広範囲の結晶化率が可能である。一連のドメインにまたがる不連続型相テーパーは、多元状態モード、2進モードまたはそれらの組合せのいずれかで形成することができる(例えば、2進モードでプログラムされたいくつかのドメイン、多元状態モードでプログラムされたいくつかのドメイン)。
【0075】
ビーム・ステアリング能力を伴わない本発明の実施形態は、その能動型領域が、素子の全域で殆ど均一な結晶化率を有するカルコゲニド体積を含む素子を含む。すなわち、ビーム・ステアリング能力を伴わないそれらの素子においては、複数の能動型カルコゲニド領域またはドメインが存在し、この場合、各能動型領域またはドメインにおけるカルコゲニド体積の結晶化率は、殆ど同じである。その結果として、カルコゲニド領域の位相角特性は、殆ど同じであり、また、素子内において1つのカルコゲニド領域またはドメインから他方へは、位相角差は殆ど生じない。別の視点で見ると、能動型領域またはドメインの全域での結晶化率の均一性は、異なる能動型領域またはドメインの局所インピーダンス、伝導度、リアクタンス、サセプタンス等における同値、または殆どの同値を意味する。その結果として、相テーパーは存在せず、かつビーム・ステアリング効果は得られない。
【0076】
ビーム・ステアリングを伴わない素子のこれらの実施形態は、正反射性の反射または正屈折方向の透過をもたらし、また、入射する電磁波の位相を変更する可能性もある。これらの実施形態において、能動型カルコゲニド領域は、上記素子の全域で均一な結晶化率を有する。しかし、この均一な結晶化率は、可変であり、純粋な非晶質領域と純粋な結晶性領域との間の値を持つ能動型領域のいずれかの構造状態も実現できるように構成または再構成することができる。各構造状態は、別個の位相角を有し、入射する電磁波の位相角に相異なる影響を与える。そのため、ビーム・ステアリング能力を伴わない本発明のこれらの実施形態によって生成される反射または透過ビームの位相角は、入射ビームの位相角とは異なることがある。従って、ビーム・ステアリングを伴はない素子は、入射電磁波の位相角の調節を実行できる。本願明細書において、以下の実施例3でより十分に説明するように、本発明は、入射する電磁ビームの集束の度合いを変更する、ビーム・ステアリングを伴わない素子も含む。
【0077】
ビームステアリング能力を伴う本発明の素子は、相テーパーを持つ能動型カルコゲニド領域またはドメインを含む。相テーパーは、以下に説明するように、本願の素子の能動型カルコゲニド領域またはドメインの全域に分布する位相角特性の非均一な分布に相当する。本発明において、1つの格子の2つ又は2つ以上の能動型領域またはドメインの全域のカルコゲニド体積の結晶化率の変化が、相テーパーをもたらす。上述したように、カルコゲニド相変化物質のインピーダンス、複素伝導度、サセプタンス、リアクタンス等は、複数のサブ波長カルコゲニド領域を含むカルコゲニド領域またはドメインの構造状態及び結晶化率とともに変化する。本願の素子における一連のカルコゲニド領域またはドメインの全域の結晶化率変化を制御することによって、カルコゲニド領域またはドメイン間の位相角のゼロでない差を設定すること、および反射および/または透過におけるビーム・ステアリング能力を実現することが可能である。本願の素子の能動型カルコゲニド領域またはドメインの全域での1つ又は1つ以上の方向における結晶化率の勾配は、ビームステアリング、集束、波面補正等の能力を実現するのに用いることができる相テーパーをもたらす。結晶化率の勾配は、その全域で、少なくとも2つの異なる構造状態または少なくとも2つの異なるドメイン平均の結晶化率が存在する2つ又は2つ以上の能動型領域またはドメインを含む。
【0078】
本願明細書で用いるビーム・ステアリングとは、非正反射性の反射または非正屈折性の透過を指す。また、ビーム・ステアリングは、非正反射方向の反射または非正屈折方向の透過と呼ぶこともできる。ビーム・ステアリングの度合い(例えば、正反射性の反射または正屈折性の透過からのずれ)は、本願の素子の能動型カルコゲニド領域またはドメインの間の位相角の差によって決まる。位相角の差は、素子の能動型領域またはドメインでの1つ又は1つ以上の方向における空間的に変化する結晶化率によるカルコゲニド物質のインピーダンス、複素伝導度、リアクタンス、サセプタンス等の局所的変化の結果である。従って、ビーム・ステアリング(および集束および/または波面補正)の度合いは、本願の素子の能動型カルコゲニド領域の間の間隙と、連続型相テーパーが存在する能動型カルコゲニド領域での結晶化率の変化とに依存し、、また、ドメインの寸法及び不連続型相テーパーが存在する一連のドメインでの結晶化率の変化に依存する。著しい結晶化率の勾配は、より大きな度合いのビーム・ステアリングをもたらし、また、例えば、隣接するカルコゲニド領域またはドメインを1つ又は1つ以上の方向に近接して配置することにより、および/または隣接する領域またはドメインの間の結晶化率を著しく増加させることにより、達成することができる。カルコゲニド領域または小さなドメインを接近した間隔で配置することおよび/または領域間またはドメイン間の結晶化率を大きく変化させることは、著しい結晶化率勾配の生成、素子での大きな相テーパー及びより大きな度合のビーム・ステアリングをもたらす。これと対照して、結晶化率の少ない変化を示す幅広い間隔をおいて配置されたカルコゲニド領域またはドメインは、素子上のより小さな相テーパー及びより小さな度合いのビーム・ステアリングをもたらす。
【0079】
相テーパーにより得られる全体の位相角の差は、相テーパーの原因となる結晶化率の勾配によって決まる。より具体的には、本願の素子における一連のカルコゲニド領域またはドメインの全域に存在する結晶体積比の値の範囲は、本願の素子によってもたらされる全体の位相角の差及びビーム・ステアリングの度合いに影響を及ぼす。カルコゲニド物質の位相(即ちビーム・ステアリング、集束、波面補正等に対するカルコゲニド領域またはドメインの影響)は、その構造状態(または複数の領域の場合は、複数の構造状態)によって規定され、この場合、最も顕著な及び最も少ない効果が結晶状態及び非晶質状態のカルコゲニド物質におこり、中間の結晶化率の状態においては中間の効果をもたらす。
【0080】
一連の能動型カルコゲニド領域または一連のドメインにおいて、純粋に結晶性の状態から純粋に非晶質の状態に及ぶ結晶化率の勾配を有する(連続型または不連続型の)相テーパーは、一般に、一連の領域またはドメイン全域に最大の位相角の差をもたらすことが予測され、そのため、最大の度合いのビーム・ステアリング、集束、波面補正等をもたらす。同じ一連のカルコゲニド領域またはドメインの構造状態にわたっての結晶化率の体積比がより小さく変化する相テーパーは、より小さな度合いのビーム・ステアリング、集束、波面補正等をもたらす。
【0081】
本発明において、結晶化率の勾配は、一連の能動型カルコゲニド領域またはドメインにわたる結晶化率を制御し、それによって、異なる能動型領域の構造状態または異なるドメイン内の構造状態を制御することにより、生成することができる。上述したように、および本願明細書に引用する参考文献において、相変化物質の結晶化率の体積比は、カルコゲニド相変化物質からなる領域内の適当な位置への適当な速度で適当な量のエネルギの慎重巧妙な印加によって、高い精度で容易に制御することができる。0%〜100%に及ぶ一連の結晶化率の体積比が実現可能であり、それにより、一連のカルコゲニド領域またはドメインにわたって実質的にどのような範囲の結晶化率の勾配も生成可能である。その結果として、ビーム・ステアリング、集束、波面補正等の度合いの厳密な制御が本願の素子において実現可能である。
【0082】
さらに、本願の素子は、ビーム・ステアリング、集束及び波面補正等の能力の動的調整を可能にする動的能力をもたらす。動的調整能力は、カルコゲニド物質からなる体積の結晶化率を可逆的に変更する能力に由来する。カルコゲニド物質からなる体積の結晶性、非晶質及び部分的に結晶性、部分的に非晶質の構造状態の間の相互変換は、容易に達成され、また、その結果として、ビーム・ステアリング、集束、波面補正等の性能を修正するための結晶化率の勾配または相テーパーの再構成が、素子において可能である。例えば、正反射性の反射または正屈折性の透過からのずれの程度は、結晶化率の勾配の存在する部分の結晶化率の体積比を変化させることにより変化させることができる。一般に、本願の素子の特定の一連の能動型カルコゲニド領域またはドメインにおいて、狭い範囲の結晶化率の値による結晶化率の勾配は、広い範囲の結晶化率の値による結晶化率勾配よりも小さなずれをもたらす。異なる能動型領域における結晶化率の体積比または素子のドメインの平均結晶化率を変化させることにより、様々な度合いのビーム・ステアリング、集束、波面補正等を実現することができる。特定の結晶化率の勾配(連続型または不連続型相テーパーのいずれの場合においても)は、容易に再構成されて、異なるビーム・ステアリング、集束または波面補正等の能力を有する新たな勾配が形成される。また、カルコゲニド領域の結晶化率の再構成の速度も速い。本発明者等は、急冷による非晶質相の生成が、ナノ秒桁以下のタイムスケールで起き、また、結晶化が、10〜60nsのタイムスケールで起きると推測する。これらのスピードは、MEMS素子等の機械的に再構成可能なシステムの物理的動きに関連する速度よりも何桁も速い。本願の相変化物質はまた、多くの再構成に対して安定的である。例えば、本発明者等は、相変化物質の非晶質状態と結晶状態との間の相互変換の可逆性は、少なくとも3×108サイクルの間維持されると推定する。
【0083】
再構成能力に加えて、カルコゲニド物質の能動型コンポーネントとしての利用は、その複数の状態の各々を、PINダイオード等のデバイスの順方向および/または逆方向バイアス状態を維持するのに必要なバイアスエネルギ等のエネルギを持続的に印加する必要性を伴うことなく、恒久的に維持することができるため、有利である。カルコゲニド物質の異なる状態は、不揮発性であり、電力が取り除かれても持続する。これに反して、ダイオード、トランジスタ及び他の電子デバイスの異なる状態は、揮発性であり、電力の除去時に消える。その結果として、電子デバイスを含む能動型格子のエネルギ要件は、本発明の素子のパワー要件よりもはるかに高度である。本願の素子においては、エネルギは、カルコゲニド物質の状態を変化させることにのみ必要である。エネルギは、素子が一旦、特定の状態に変換されると、格子の機能を維持するのには必要ない。
【0084】
本願の格子は、入射する電磁波の伝播特性を変更する。格子は、入射する電磁波を受け入れて、その位相を変更して、反射および/または透過電磁波を生成する。反射または透過電磁波は、非正反射方向に、または、非正屈折方向に向けることができ、および/または集束または焦点ぼけさせることができる。また、波面補正も可能である。本願の素子の異なる実施形態の入射する電磁波に対する代表的な影響を、以下に示す実施例において説明する。本願の素子は、電磁スペクトルの全範囲の入射電磁波に対して作用する。導電性ストリップまたはセグメントからなる格子の周期的間隔を、入射する電磁波に応じて適切に寸法を調節することにより、本発明による素子を、、電磁スペクトル中の殆すべての部分に属する波長の入射電磁波に影響を及ぼすように構成することができる。本願の素子によってもたらされる位相効果は、その波長が、格子の周期間隔以上である入射電磁波に対して作用可能である。好ましい実施形態において、テラヘルツ周波数範囲の波長を有する入射する電磁波は、本願の素子の影響を受ける。この実施形態は、マイクロ波および/またはrf電磁波の反射および/または透過において、ビーム・ステアリングまたはビーム整形に適用可能な従来技術はこの波長範囲では利用出来ないため、好適である。本発明の素子は、再構成可能なビーム・ステアリング、集束および/または波面補正能力を実現することができるとともに、格子の広い領域において非晶質マークを形成することに関連する実施上の障害を回避することができる。本願の素子は、導電性格子とカルコゲニド物質からなる能動型領域とを組合わせることにより、テラヘルツ周波数用の扱いやすいサイズの能動型領域の利用に有効に影響力を及ぼす。
【0085】
本発明の代表的な実施形態を以下の実施例において示す。これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、また、本発明の全範囲を限定するものではない。
【0086】
実施例1
この実施例においては、ビーム・ステアリングを伴わない固定素子について説明する。この素子を図5Aに示す。素子は、水平方向の導電性ストリップ240、導電性セグメント230、カルコゲニド物質からなる体積を含む能動型領域210及びカルコゲニド領域210と導電性セグメント230との間の接合部250を含む垂直方向の導電性ストリップ220とを含む、格子周期gを有する正方形状格子200を含む。能動型カルコゲニド領域210は、導電性セグメント230と直列に接続されて垂直方向のストリップ220を構成する。能動型カルコゲニド領域210は、導電性セグメント230を相互接続すると考えることもできる。この実施形態においては、各能動型領域210は、2つの導電性セグメント230を相互に接続する。能動型領域210は、円として概略的に描かれているが、能動型領域の、または、その中にあるカルコゲニド物質からなる体積の形状は、円形に限定されない。この実施例及び本願明細書において、以下に説明する実施例に含めて、どのような形状を有するカルコゲニド領域も、本発明の範囲内にある。この実施例の素子は、格子200を、独立型格子、基板または誘電体によって支持された格子、あるいは、2つ又は2つ以上の誘電体の間に挿入された格子を含む。素子の等価回路を図5Bに示し、ここで、Cは、格子の容量であり、Lは格子のインダクタンスであり、ZS/n1及びZS/n2は、上述した図1Bについて説明した格子を囲む2つの誘電体のインピーダンスである。カルコゲニド領域は、格子のインダクタンスLと直列関係で示されている。
【0087】
この実施形態において、カルコゲニド領域210の結晶化率は、格子の全域で均一である。すなわち、格子の異なる能動型領域に含まれるカルコゲニド物質からなる体積の結晶化率は、殆どに同じである。素子の入射する電磁波に対する影響は、能動型カルコゲニド領域の構造状態に依存する。カルコゲニド物質の非晶質相は、垂直方向の導電性ストリップ220中の電流の流れを妨げる低導電性相である。カルコゲニド領域210が非晶質である場合、カルコゲニド領域210と垂直方向のセグメント230との間の接合部250は、主として容量性であり、カルコゲニド領域の格子インピーダンスに対する主な効果は、容量性である。より具体的には、非晶質のカルコゲニド領域は、格子の容量性リアクタンスを高め、また、カルコゲニド領域は、図5Bに示す等価回路における格子のインダクタンスと直列なコンデンサとしてモデル化することができる。
【0088】
この実施形態のカルコゲニド領域が非晶質状態である場合、上記素子は、上記等価回路の直列共振周波数または直列共振周波数近傍での周波数の範囲において透過損失がほとんどない反射性素子として用いることができる。直列共振周波数において、非晶質カルコゲニド領域の容量性リアクタンスは、格子ストリップの誘導性リアクタンスを相殺またはほぼ相殺する。この共振周波数または共振周波数近傍において、格子は、垂直方向のストリップと平行な直線偏光した入射する電磁波に対して、殆ど短絡状態を呈する。高い反射性は、この状態の結果である。原則として、透過損失または他の損失を伴わない反射は、直列共振周波数または直列共振周波数近傍で起きる。実際には、、カルコゲニド領域を介して、または、反射効率を100%以下に低下させる周囲の何らかの誘電体によって、格子中損失がで生じる可能性がある。反射効率は、直列共振周波数に近いまたは等しい最適な周波数で最も高く、入射する電磁波の周波数が、この最適な周波数よりも高くまたは低くなるにつれて低下する。入射する電磁波の周波数が最適な周波数からずれるにつれて、素子は、より透過性になる。
【0089】
直列共振周波数(または、最適な反射の周波数)は、素子の設計パラメータとすることができる。非晶質カルコゲニド領域が、ロスがないという意味で理想的な上記等価回路の理想的なモデルを用いると、直列共振周波数が上記格子のインダクタンスとカルコゲニド領域の容量との積の平方根逆比例して変化する。格子インダクタンスは、上記導電性ストリップ及びセグメントの幅、形状および/または組成によって調節することができる。カルコゲニド領域の容量は、カルコゲニド領域のサイズ、形状、数、間隔および/または組成によって調節することができる。格子及びカルコゲニドのパラメータの適当な選択により、広範囲の入射周波数に対する、共振周波数及び高い反射効率が、この実施例の素子によって実現可能である。
【0090】
この実施例の上記実施形態のカルコゲニド領域がより結晶性になるにつれて、領域は、より導電性になる。カルコゲニドの導電性が増加するにつれて、カルコゲニド領域と上記導電性セグメントとの間の接合部は、容量性がより小さくなり、また、カルコゲニド領域のインピーダンスは、容量性リアクタンスが主要部でなくなり、相当の抵抗または誘導性リアクタンスからの寄与を含む。従って、結晶性または部分的に結晶性のカルコゲニド領域は、誘導性または抵抗性効果、および容量性効果を素子及びその等価回路に与える。
【0091】
カルコゲニド領域の容量性リアクタンスが誘導性リアクタンスまたは抵抗よりも重要でなくなるにつれて、上記素子は、より透過性になる。最適な透過は、容量性リアクタンスが無視できるほど小さくなったときに起きると予測される。透過は、周波数に依存し、入射する電磁波の周波数が、上記等価回路の並列共振周波数またはその近傍である場合に、透過が反射に比してより有効になる。カルコゲニド領域の容量性寄与が無視できるほど小さくなる極限では、並列共振周波数は、上記格子の導電性ストリップの誘導性リアクタンス(及びカルコゲニド領域に関連する、無視できるほど小さい誘導性リアクタンス)がその周波数で導電性ストリップの容量性リアクタンスを相殺する周波数である。
【0092】
また、並列共振周波数は、素子の設計パラメータとすることができ、格子の容量、カルコゲニドの伝導度、格子インダクタンス、誘電材料の選択、導電性ストリップの幅、形状及び間隔、カルコゲニド領域のサイズ等を調節することにより制御することができる。格子及びカルコゲニドのパラメータの適切な選択により、広範囲の入射周波数において、並列共振周波数および/高反射効率が、この実施例の上記素子に対して実現可能である。
【0093】
この実施例による格子の別な実施形態は、導電性ストリップと共に、複数のサブ波長カルコゲニド領域を持つドメインを含んでもよく、この場合、ドメインの平均結晶化率は、1つの素子内の一連のドメインにおいて、一定または殆ど一定である。例えば、図5Aに示す格子の部分は、能動型カルコゲニド領域210が、領域210の全体的寸法がサブ波長である十分に小さいサイズであることもできる。この実施形態において、図5Aに示す格子は、個々の領域210の結晶化率を平均化することにより得られる結晶化率を有するドメインであることも可能である。異なるドメインの平均結晶化率が等しいかまたは殆ど等しい、一連のこのようなドメインを持つ素子の構造は、この実施例において上述したように、反射および/または透過に対する機能性を実現できる。ドメインの寸法の規模における実施形態に関して、ドメインの結晶化率は、機能性を制御し、また、ドメインの平均結晶化率が設計値を満たす限り、特定のドメイン内の特定の能動型領域には結晶化率の必要条件は課されない。ドメインの寸法の規模における実施形態において、異なるドメインも、対応する結晶化率を有する個々の領域で構成される必要はない。特定のドメインでの平均結晶化率を実現するという必要条件を除いて、個々のカルコゲニド領域のレベルにおける結晶化率に対するいかなる相関関係または関係も任意である。所望のドメイン結晶化率の実現は、この発明の上記格子では多元状態または2進モードで実現することができる。
【0094】
実施例2
この実施例においては、ビーム・ステアリング能力を有する代表的な素子について説明する。具体的には、入射する電磁波のビーム・ステアリングを実行できる、実施例1で説明したのと同様の正方形状格子を有する素子を提示する。本願明細書において上述したように、また、同時係属中の米国特許出願第10/226,828号明細書に記述してあるように、ビーム・ステアリングは、連続型または不連続型の相テーパーを含む素子を用いて実現することができる。この実施例のいくつかの実施形態において、相テーパーは、素子の能動型領域での1つ又は1つ以上の方向に配列されたカルコゲニド物質内における結晶化率勾配の形成によって実現される。他の実施形態においては、相テーパーは、一連のドメインにわたる結晶化率勾配の形成によって実現され、各ドメインは、複数のサブ波長能動型カルコゲニド領域を備える。格子での1つ又は1つ以上の方向における能動型カルコゲニド領域の構造状態の非均一性は、連続型相テーパーの効果によりビーム・ステアリング能力をもたらす。多元状態または2進モードに基づく実施形態を含む不連続型の相テーパーを利用する類似の実施形態は、本発明の範囲内にある。
【0095】
本発明によるビーム・ステアリング素子の代表的な実施例を図6に示し、図は、図2Aに示されたのと同様の格子を示し、この場合、能動型領域におけるカルコゲニド物質内の結晶化率の分布は、非均一である。図6における線は、導電性ストリップまたはセグメントを示し、円は、カルコゲニド物質を含む能動型領域を示す。図6に示す実施形態の能動型領域は、垂直方向の導電性ストリップ内に配置されており、2つの導電性セグメントを相互接続する。図6に示す各能動型領域内のカルコゲニド物質の体積の結晶化率は、能動型カルコゲニド領域を表す円内の符号f1、f2またはf3で示されている。符号f1の領域は、全て同じ結晶化率を有し、符号f2の領域及び符号f3の領域も同様であり、ただし、f1、f2及びf3は、異なる結晶化率を指す。従って、図6に示す素子のカルコゲニド物質での水平方向には、結晶化率勾配が存在し、ビーム・ステアリングは、反射モードまたは透過モードにおいて行われる。
【0096】
ビーム・ステアリングは、非正反射方向の反射または非正屈折方向の透過を意味する。反射の正反射方向または透過の正屈折方向からはづれるビーム・ステアリングの特定の方向は、結晶化率f1、f2及びf3の相対的な順序付け及び大きさを調節することにより設定することができる。例えば、f2が、f1とf3との間の中間の値の結晶化率である場合、図6の素子は、正反射方向への反射又は正屈折方向への屈折からの正または負のずれを有するビーム・ステアリングを実現するのに用いることができ、この場合、ずれの方向は、この特定の実施例において、f1>f2>f3またはf1<f2<f3であるかに依存する。
【0097】
以上に相当するドメインの寸法の規模における実施形態も本発明の範囲内にある。ビーム・ステアリングは、不連続型の相テーパーを構成する結晶化率を持つドメインを有する素子を用いて達成することができる。例えば、連続する一連のドメインを含む素子であって、各ドメインが、複数のサブ波長能動型カルコゲニド領域を有し、F1、F2及びF3の平均結晶化率を有し、ここで F1<F2<F3またはF1>F2>F3であるドメインは本発明によるビーム・ステアリングを実現できる。任意の数のドメインを有する類似の実施形態も、ドメインの結晶化率が、多元状態または2進モードによって実現される実施形態と同様に可能である。
【0098】
一連の能動型領域またはドメインでの垂直方向、対角方向またはその他の方向の結晶化率勾配を有する図6の素子の変形例も本発明の範囲内である。例えば、図7は、垂直方向に結晶化率勾配を有する素子を示す。垂直方向、対角方向またはその他の方向に不連続型の相テーパーを有するドメインを用いる類似の実施形態も本発明の範囲内にある。適切な制御、及び1つ又は1つ以上の方向における連続型または不連続型の結晶化率勾配の形成によって、正反射性の反射の方向または正屈折性透過の方向からの広範囲な角度のずれを示す非正反射性の反射または非正屈折性の透過が可能であり、また、各個のずれの角度について円錐状方位角の方向への非正反射性の反射または非正屈折性の透過が可能である。非正反射性の反射または非正屈折性の透過の特定の方向は、結晶化率勾配を形成する上記能動型領域またはドメインの結晶化率の相対的な順序付け(f1>f2>f3かf1<f2<f3、またはF1<F2<F3かF1>F2>F3等)及びその大きさを調整することにより、得ることができる。
【0099】
上記能動型カルコゲニド領域が、垂直方向及び水平方向の導電性ストリップの交差部に配置されている、ビーム・ステアリング能力を有する素子を図8に示す。素子は、センチメートル(cm)程度の長さスケールからミクロン(μm)程度の長さスケールに及ぶ減少する長さスケールで全体像が示されている。センチメートルの長さスケールのグレースケール描写は、素子内での結晶化率の非均一性を示す。より明るい領域は、より低い結晶化率を示し、より暗い領域は、より高い結晶化率を示すとしてもよいし、またその逆でもよい。図7の素子の結晶化率勾配は、水平方向に生じ、連続型相テーパーまたは不連続型の相テーパーを形成する。ミリメートル(mm)の長さスケールでの描写は、水平方向及び垂直方向のストリップの部分、及び選択された能動型カルコゲニド領域の部分を示す拡大図である。結晶化率勾配は水平方向にあるが、mmスケール描写の長さスケールでは、結晶化率の変化が小さく、かつ能動型カルコゲニド領域のグレースケール表示から必ずしも容易に識別できない。mmスケールでの描写は、テラヘルツ周波数範囲の入射する電磁波の波長スケールドメインのサイズに略一致し、テラヘルツ周波数の電磁波用の、本発明による複数のサブ波長能動型カルコゲニド領域を含む正方形状ドメインの一実施例である。図8の実施形態においては、ミリメートルスケールのドメインの結晶化率が水平方向に著しく変化することは明らかである。μmスケールの描写は、上記垂直方向及び水平方向の導電性ストリップのセグメントを有するその接触部と共に、単一の能動型カルコゲニド領域を示すもう一段の拡大図である。この実施形態の能動型領域は、4つの導電性セグメントを相互に接続し、2つは、それぞれ、水平方向及び垂直方向の導電性ストリップである。
【0100】
この実施例の格子は、独立型格子、基板または誘電体によって支持された格子、あるいは、2つ又は2つ以上の誘電体の間に挿入された格子として用いることができる。
【0101】
実施例3
この実施形態においては、ビーム・ステアリング能力を有する別の素子について説明する。より具体的には、入射する電磁波を反射または透過モードで集束または焦点ぼけさせることが可能な素子について説明する。集束及び焦点ぼけ効果は、素子のカルコゲニド領域またはドメインでの1つ又は1つ以上の方向において、結晶化率の変化が非均一である複数のサブ波長カルコゲニド領域を持つ個々の能動型カルコゲニド領域またはドメインにおいて、結晶化率勾配を設定することにより実現することができる。例えば、結晶化率が増加し続ける部分と、結晶化率が減少し続ける他の部分とを有するような特定方向への結晶化度勾配により集束または焦点ぼけを実現できる。
【0102】
図9は、入射する電磁ビームを1つの方向に対称的に集束または焦点ぼけさせるのに用いることができる素子の一実施形態を示す。素子は、垂直方向の導電性ストリップ310と、水平方向の導電性ストリップ320と、水平方向の導電性ストリップと垂直方向の導電性ストリップの交差点に、カルコゲニド物質からなる体積を含む能動型領域330とを含む。能動型カルコゲニド領域の結晶化率は、f1、f2及びf3と標示されている。
【0103】
f1で標示された領域は全て、同じ結晶化率を有し、f2で標示された領域及びf3で標示された領域も同様であり、ただし、f1、f2及びf3は、異なる結晶化率を指し、f2は、f1とf3の中間の値である。従って、素子のカルコゲニド領域での水平方向には、結晶化率の勾配が存在し、結晶化率は、1つの部分で減少し、かつ別の部分で増加する。例えば、f1>f2>f3である場合、結晶化率は、素子の左側から中心へ向かって減少し、かつ素子の中心から右側へ向かって増加する。f1<f2<f3である場合には、結晶化率は、素子の左側から中心へ向かって増加し、かつ中心から素子の右側へ向かって減少する。f1>f2>f3またはf1<f2<f3となるように上記格子を構成することが可能であるため、図9の素子は、入射する電磁ビームを集束または焦点ぼけさせることができる。集束または焦点ぼけは、反射、透過または部分的反射及び部分的透過で生じることが可能であり、この場合、最適な反射または透過に関連する周波数及び帯域は、格子の全体の容量性、誘導性、導電性及びサセプタンス効果によって決まる。これらの特性は、格子の容量、カルコゲニドの伝導度、格子インダクタンス、誘電材料の選択、導電性ストリップまたはセグメントの幅、形状及び間隔、格子内の能動型カルコゲニド領域のサイズ、形状、数、等を調節することにより制御することができる。
【0104】
図9の素子によってもたらされる集束または焦点ぼけは、結晶化率勾配が水平方向にのびているため、水平方向で起きる。垂直方向の集束または焦点ぼけは、結晶化率勾配が垂直方向に発生するように、能動型カルコゲニド領域の構造状態を構成することにより実現することができる。非垂直方向及び非水平方向の結晶化率勾配は、任意の方向で集束または焦点ぼけを実現できるように同様に形成することができる。また、1つ又は1つ以上の方向における集束または焦点ぼけも、1つ又は1つ以上の方向に適切な結晶化率勾配を形成することにより、実現することができる。非正反射性の反射または非正屈折性の透過と同時に集束または焦点ぼけを実現できる結晶化率勾配も形成することができる。
【0105】
結晶化率の多元状態または2進のプログラミングに基づく類似の不連続型相テーパーに基づく図9の実施形態と同様の素子も、本発明の範囲内にある。これらの実施形態は、複数のサブ波長カルコゲニド領域を含むドメインからなる格子を用い、この場合、ドメインからなるセットの平均結晶化率は、例えば、図9のようにパターン化されまたは配列されている。集束及び焦点ぼけは、一般に、一連のドメインを用いて実現することができ、この場合、ドメインの結晶化率は、1つの素子の1つ又は1つ以上の方向において、増加し、その後、減少する(逆もまた同様である)。図9の実施形態は、5つの能動型領域またはドメインからなるセットに対して増減する結晶化率のパターンを示すが、集束及び焦点ぼけの原理が、一般に、図9に示す実施形態に例示されている傾向を示す任意の数の能動型領域またはドメインに適用できることは明らかである。
【0106】
集束、焦点ぼけ、非正反射性の反射及び非正屈折性の透過の根底にある現象は、素子の能動型領域またはドメインの位相角変化である。より具体的には、結晶化率勾配における、隣接する能動型領域またはドメインにおけるカルコゲニド物質からなる体積の間の位相角の差が、集束、焦点ぼけ、非正反射性の反射及び非正屈折性の透過が起きる度合の決定を左右する。正反射性の反射及び正屈折性の透過は、1つの素子の隣接するカルコゲニド領域またはドメインの間に、位相角の差がない場合に起きる。実際には、この条件は、結晶化率が上記格子の全域で均一であり、かつ結晶化率勾配が存在しないように、カルコゲニド領域を同じ構造状態に構成することにより、実現される。(不連続型相テーパーの場合の正反射性の反射及び正屈折性の透過に対する類似の条件は、ドメインの結晶化率の均一性である。)非正反射性の反射及び非正屈折性の透過は、格子のカルコゲニド領域またはドメインでの1つ又は1つ以上の方向に相テーパーがあるように、結晶化率勾配を作ることを必要とする。相テーパーは、結晶化率勾配の方向における隣接するカルコゲニド領域またはドメインの間の位相角に差があることを意味する。結晶化率勾配が存在するところで隣接するカルコゲニド領域またはドメインの間で位相角の差(大きさ及び符号)が一定である場合には、非正反射性の反射および/または非正屈折性の透過が起きる。集束または焦点ぼけは、隣接する素子の間の位相角の差が、結晶化率勾配に関して一定でない場合に起きる。
【0107】
結晶化率が増加する部分と、結晶化率が減少する部分とを有する、図9の実施形態に示す結晶化率勾配やそのドメイン類似物等の結晶化率勾配は、隣接するカルコゲニド領域の間の一定でない位相角の差を有する結晶化率勾配の実施例である。このような勾配は、集束または焦点ぼけをもたらすことがある。集束または焦点ぼけは、結晶化率が単純に増加するまたは単純に減少する結晶化率勾配によって実現することができ、この場合、位相角の差の大きさは、隣接するカルコゲニド領域またはドメインの間で一定ではない。このような結晶化率勾配を有する素子の実施例を図10に示し、素子は、(実線で示す)垂直方向及び水平方向の導電性ストリップと、(円で示しかつ結晶化率により標示された)カルコゲニド領域とを含み、ただし、f1、f2、f3及びf4は、結晶化率の特定の値を示し、結晶化率は、右方向の水平方向の隣接するカルコゲニド領域間の位相角の差が、増加または減少するようになっており、この場合、結晶化率f1及びf2を有する素子間の位相角の差の大きさは、結晶化率f2及びf3を有する素子間の位相角の差の大きさよりも小さく、後者は結晶化率f3及びf4を有する素子間の位相角の差の大きさよりも小さい。同様の原理は、複数のサブ波長カルコゲニド領域を備えるドメインに基づく素子の根拠をなす。ドメインの実施形態において、集束または焦点ぼけは、素子の隣接するドメイン間に、結晶化率の一定でない差がある場合に生じる。結晶化率の一定でない差は、ドメイン内の能動型カルコゲニド領域の多元状態または2進のプログラミングによって実現することもできる。
【0108】
集束または焦点ぼけ素子の別の態様は、ビーム整形、すなわち、集束または焦点ぼけ素子による入射する電磁ビームの断面形状または寸法をへの影響を記述する効果である。例えば、図9の素子は、結晶化率勾配の方向における集束または焦点ぼけによって、入射する電磁波の形状を変更する。例えば、円形の断面を有する図9の素子に入射するビームは、その水平方向に沿って集束または焦点ぼけされ、楕円形の断面を有する反射ビームまたは透過ビームを生成することになる。図9の素子が集束するように構成されている場合、反射または透過ビームの水平方向の径は、垂直方向の径よりも小さくなり、図9の素子が焦点ぼけするように構成されている場合も同様である。垂直方向における類似の集束または焦点ぼけは、垂直方向に図9の素子の結晶化率勾配を有する素子によって得ることができる。1つ又は1つ以上の方向における結晶化率勾配は、1つ又は1つ以上の方向において集束または焦点ぼけ効果をもたらす。1つの素子内の点または線に関して対称的である結晶化率勾配は、1つ又は1つ以上の方向において、対称的な集束または焦点ぼけをもたらす。例えば、図9に示す結晶化率勾配は、結晶化率f3を有するカルコゲニド領域を通る垂直方向の線に関して対称的である。その結果、結果として生じる水平方向の集束または焦点ぼけは対称的である。このため、円形断面を有し、かつ図9の素子に入射する入射電磁波は、垂直方向に対して水平方向に細長く、かつ対称的に圧縮されている楕円形ビームとして反射または透過する。
【0109】
非対称的な集束または焦点ぼけも本発明の範囲内にあり、上記格子中の点または線に関して対称的ではない結晶化率勾配が存在するように、上記カルコゲニド素子の結晶化率を構成することにより、実現することができる。このような素子の実施例として、図6に示す素子を考えることができ、この場合、f1、f2及びf3は等しくなく、また、f2は、f1及びf3の両方よりも大きいか、あるいは、f1及びf3の両方よりも小さい。結晶化率勾配が増加する部分と、結晶化率勾配が減少する部分とを含むこのような素子は、水平方向に結晶化率勾配を有するが、f1とf3とが等しくないため、結晶化率f2を有するカルコゲニド領域を含む中心線に関して対称的ではない。このような素子は、入射する電磁波の水平方向の断面方向に沿って、非対称的な集束をもたらす。例えば、円形断面を有する入射ビームは、左側と右側とで異なる曲率を有する断面を有する丸いビームで反射または透過することができる。複数のサブ波長カルコゲニド領域を備えるドメインを含む非対称的な集束格子の類似の実施形態も、本発明の範囲内にある。集束、焦点ぼけ及びビーム整形のさらなる説明は、同時係属中の米国特許出願第10/226,828号明細書に記載されている。
【0110】
この発明の格子は、独立型格子、基板または誘電体によって支持された格子、あるいは、2つ又は2つ以上の誘電体の間に挿入された格子として用いることができる。
【0111】
実施例4
この実施例においては、1つの格子またはドメイン内の能動型カルコゲニド領域の位置及び分布の範囲を代表する素子の他の実施形態について説明する。実施例1に説明した素子は、1つの格子またはドメイン内で垂直方向の導電性ストリップと直列の能動型カルコゲニド領域を有する正方形状格子を含む。1つの格子またはドメイン内でのカルコゲニド領域の他の配置またはパターンも可能である。カルコゲニド領域が、水平方向の導電性ストリップと直列になっている実施形態、またはカルコゲニド領域が垂直方向及び水平方向の導電性ストリップと直列になっている実施形態(例えば、図9、図10及び図11の実施形態)は、本発明の範囲内にある。カルコゲニド領域が、1つの格子またはドメインの全ての水平方向または垂直方向の導電性ストリップ以下のストリップと直列に選択的に配置されている実施形態も本発明の範囲内である。
【0112】
1つの正方形状格子またはドメイン内のカルコゲニド領域の代表的な配置またはパターンを図11A〜図11Fに示す。図11A〜図11Fにおける実線は、水平方向及び垂直方向の導電性ストリップを示し、また、円は、カルコゲニド物質からなる領域を示す。本発明の全ての実施形態と同様に、カルコゲニド領域の円形としての描写は、この素子におけるカルコゲニド領域の形状を限定しようとするものではない。どのような形状を有するカルコゲニド領域も、本発明によるものである。
【0113】
図11Aは、上記能動型カルコゲニド領域が水平方向の導電性ストリップと直列になっている正方形状格子を示す。この実施形態において、各カルコゲニド領域は、水平方向の導電性ストリップ内の2つの導電性セグメントを相互に接続する。図11Bは、カルコゲニド領域が、水平方向及び垂直方向の導電性ストリップと直列になっている正方形状格子またはドメインを示す。この実施形態において、各カルコゲニド領域は、垂直方向または水平方向のいずれかのストリップ内の2つの導電性セグメントを相互に接続する。図11Cは、カルコゲニド領域が、垂直方向の導電性ストリップ内に選択的に配置されており、各能動型カルコゲニド領域が2つの導電性セグメントを相互に接続する正方形状格子またはドメインを示す。格子またはドメインの水平方向の導電性ストリップでのカルコゲニド領域の同様の配置も可能である。図11Dは、カルコゲニド領域が、水平方向及び垂直方向の導電性ストリップの交差点に配置されている正方形状格子またはドメインを示す。この実施形態において、能動型カルコゲニド領域は、4つの導電性セグメントを相互に接続する。カルコゲニド領域が、垂直方向の導電性ストリップと水平方向の導電性ストリップとの選択された交差点に配置されている同様のパターンも可能である。
【0114】
いくつかの能動型カルコゲニド領域が、2つの導電性セグメントを相互に接続し、他の能動型カルコゲニド領域が、4つの導電性セグメントを相互に接続する実施形態も、本発明の範囲内にある。カルコゲニド領域は、図11E及び図11Fに示すような格子またはドメインの導電性ストリップ間に配置することもできる。図11E及び図11Fの実施形態のカルコゲニド領域は、導電性ストリップ間に配置され、かつ導電性ストリップに直接接続されていないが、それにもかかわらず、カルコゲニド領域は、格子またはドメインの全体の容量性リアクタンスに影響を与える誘電体領域である。ストリップ間に配置したカルコゲニド領域と、直接接続したカルコゲニド領域とを組合わせた実施形態も、本発明の範囲内にある。
【0115】
図11A〜図11Fに示す実施形態の各々は、入射する電磁波への容量性、抵抗及びサセプタンス効果の別個の組合せを実現でき、各々は、格子の分散効果及び反射、透過、波面補正または集束および/または焦点ぼけモードにおける最適なパフォーマンスの周波数を予測するのに用いることができる容量性、誘導性、抵抗性、導電性等のコンポーネントを有する等価回路によってモデル化することができる。実施形態の各々は、実施例1で論じたように、格子の能動型カルコゲニド領域での結晶化率の変化によって再構成可能である。反射モードまたは透過モードの効率の度合いを変化させることは、入射する電磁波の様々な周波数範囲及び偏光の場合について実現可能である。この発明で説明した実施形態の各々は、独立型の格子またはドメイン、1つの誘電体、または2つ又は2つ以上の誘電体の間に挿入された格子によって支持された格子またはドメインとして用いることができる。この実施例で説明した実施形態の各々は、1つ又は1つ以上の方向に、結晶化率勾配を形成したり、または結晶化率勾配が無いように構成された能動型カルコゲニド領域を生成することが出来、また、連続型または不連続型の相テーパーの存在によって、非正反射性の反射、非正屈折性の透過、集束、または焦点ぼけのうちの1つ又は1つ以上を実現できるように構成することもできる。また、この実施例の格子は、複数のサブ波長カルコゲニド領域を持つドメインを形成すること、または、ドメイン内に含まれることも可能である。
【0116】
実施例5
この実施例においては、非正方形状の格子またはドメイン構造について説明する。上記の実施例において示したもの等の導電性ストリップからなる正方形状格子または正方形状ドメインに加えて、本発明は、非正方形状を形成する導電性ストリップを有する格子と非正方形状を有するドメインとを有する素子を含む。代表的な実施例は、矩形状の格子またはドメイン、三角形状の格子またはドメイン、六角形の格子またはドメイン、及び菱形の格子またはドメインを含む。これらの実施形態の各々は、図示の形状からなる単位格子を有し、1つ又は1つ以上の方向における単位格子の反復としてみることができる周期的格子またはドメインを含む。非規則的な、湾曲したまたは任意の形状の単位格子を有する周期的な格子またはドメインを含む素子も、本発明の範囲内である。周期的な格子またはドメインは、周期的な間隔が特徴であり、この場合、周期的間隔は、格子の単位格子の形状またはドメインの形状に特有の反復距離である。周期的間隔は、1つの単位格子またはドメインの辺の長さ、1つの単位格子またはドメインの1組の平行な辺の間の距離等に相当する。交差を伴う、交差を伴わない、または、交差する導電性ストリップと交差しない導電性ストリップとの組合せを伴う、周期的または非周期的格子も、本発明の範囲内である。
【0117】
この発明の正方形状素子の実施形態と同様に、非正方形状素子の実施形態のカルコゲニド領域は、導電性ストリップの1つ又は1つ以上のセットと直列に配置することができ、導電性ストリップの1つ又は1つ以上のセットの交差点に配置することができ、または、導電性ストリップ間に配置することができる。本発明の正方形状実施形態と同様に、非正方形状実施形態の能動型カルコゲニド領域も、正反射性の反射、正屈折性の透過、非正反射性の反射、非正屈折性の透過、集束または焦点ぼけを実現できるように、均一な結晶化率、または1つ又は1つ以上の方向に結晶化率勾配を有するように構成することもできる。
【0118】
実施例6
この実施例においては、様々な形状の導電性ストリップを有する格子を有する素子の実施形態について説明する。本発明の素子の導電性ストリップは、導電性材料で形成することができ、また、丸いまたは平坦なワイヤまたは導線の形で形成することができる。均一な長さ、幅および/または径の寸法を有する導電性ストリップ(例えば、図1A)に加えて、本発明の導電性ストリップまたはセグメントは、その長さに沿って、非均一な幅を有する任意の形状を有してもよい。その長さに沿って均一な幅を有するが、、異なるストリップまたはセグメントにおいてはその幅が異なる導電性ストリップまたはセグメントも本発明の範囲内である。
【0119】
導電性ストリップの形状、サイズ、間隔等は、この格子の容量性リアクタンス及び誘導性リアクタンスに影響を及ぼし、またこれらは、、入射する電磁波の特定の周波数または帯域に対してこの素子の作動特性を調整するのに用いることができる設計パラメータである。導電性ストリップの形状の特殊規格はは、導電性ストリップの格子の容量性リアクタンス及び誘導性リアクタンス全体に対する寄与の微調整を可能にする。導電性ストリップまたはセグメントの接触部の形状、及び上記カルコゲニド領域との空間的重なりの度合いは、格子の全体の容量性リアクタンス及び誘導性リアクタンスのまた別な調整を可能にする。
【0120】
非均一な幅を有する導電性ストリップのいくつかの代表的な実施例を図12A及び図12Bに示す。図12Aは、カルコゲニド領域400と、カルコゲニド領域を有する幅の狭い部分420と先細りの接触部430とを有する導電性セグメント410とを含む。導電性セグメントの幅の狭さは、導電性セグメントを流れる電流を制限し、導電性ストリップのインダクタンスの増加に貢献する。図12Bは、カルコゲニド領域500と、カルコゲニド領域を有する幅の広い部分520と均一な接触部530とを有する導電性セグメントとを含む。導電性ストリップまたはセグメントの一部の幅の広さは、電流を促進し、導電性ストリップのインダクタンスの減少に寄与する。この実施例の導電性セグメントの長さ方向は、2つの能動型カルコゲニド領域を接続する方向である。図12A及び図12Bを見て分かるように、この実施例の導電性セグメントの幅は、長さ方向において非均一である。任意の形状の導電性セグメントまたはストリップは、格子が、導電性ストリップまたはセグメントの1つ以上の形状を含む実施形態と同様に、本発明の範囲内にある。
【0121】
実施例7
この実施例においては、格子の組合せを含む素子について記述する。入射する電磁波の反射または透過に又別な段階の調節自由度を可能にするようにこの発明の範囲内にある個々の格子を多元格子素子を形成するように組合わせることができる。多元格子は、互いに協力して作用し、互いに強化し、相殺し、あるいは別な方法で相互に影響を及ぼすことが出来る。格子は、連続型または不連続型の相テーパーに由来する結晶化率勾配を形成することも出来る。
【0122】
格子の組合せに基づく代表的な素子を図13に示し、図は、水平方向の導電性ストリップ610、垂直方向の導電性ストリップ620及びカルコゲニド領域630を有する格子と、水平方向の導電性ストリップ710、垂直方向の導電性ストリップ720及びカルコゲニド領域730を有する格子700、また格子600と格子700との間に配置された、屈折率n2を有する誘電体800と、屈折率n1及びn3を有する外側をとりまく誘電体810及び誘電体820とを示す。この実施形態の格子の組合せは、入射する電磁波の透過効率を改善するのに用いることができるファブリーペロー型空洞を形成する。より具体的には、上記素子にロスがないと仮定すると、格子のインピーダンス及びリアクタンス及び中間に配置された誘電体の厚さ及び特性に依存する或る周波数において、透過効率が殆ど100%である最適な透過の周波数を有する透過帯域をもたらす空洞共振が起きる。通常の素子においては、ある程度のロスがあるが、透過効率は、100%に近い高さを保つように設計することができる。最低周波数の共振は、2つの格子の間に配置された誘電体が入射する電磁波の波長の約4分の一に等しい厚さを有する時の周波数の近傍で起きる。最適な透過は、格子のカルコゲニド領域が、格子の容量性リアクタンスをゼロにするかまたは最小化するように構成されている場合に期待される。その結果として、最適な透過は、カルコゲニド領域が、導電性で、完全に結晶状態であるときに期待される。
【0123】
図13に示す実施形態の明白な変形例も本発明の範囲内である。非正方形状格子、非正方形状ドメインを含む格子、様々な形状及び厚さの導電性ストリップ、結晶化率勾配を有する格子、導電性ストリップの交差点以外の位置にカルコゲニド領域を有する格子等は、複数の格子の組合せで用いることができる。
【0124】
本願明細書に記載した開示及び説明は、例示的なものであり、本発明の実施を限定するものではない。多数の等価物及びその明白なかつ予測できる変形例は、本発明の範囲内にあるものと想定される。本願発明は、請求の範囲に上記の開示と共に全ての等価物を含むもとのして示される。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1A】周期的導電性格子を示す。
【図1B】図1に示す周期的導電性格子の等価回路を示す。
【図2A】能動型格子を有する素子の一実施形態の概略図を示す。
【図2B】能動型コンポーネントがダイオードである、図2Aに示す能動型格子素子の等価回路を示す。
【図2C】交差する導電性ストリップを有する正方形格子の一部を示す。
【図2D】交差しない導電性ストリップを有する正方形格子の一部を示す。
【図3】カルコゲニド物質(Ge2Sb2Te5)の実数部及び虚数部の伝導度および位相角を示すプロットである。
【図4A】連続型相テーパーを有する格子の一部を示す。
【図4B】複数のカルコゲニド領域を備える領域を示す。
【図4C】一連の3つの非重畳領域を含む素子の一部を示す。
【図4D】一連の3つの重畳領域を含む素子の一部を示す。
【図5A】カルコゲニド物質からなる体積を含む能動型領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図5B】図5Aに示す素子の等価回路を示す。
【図6】水平方向の能動型カルコゲニド領域にわたって結晶化率勾配を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図7】垂直方向の能動型カルコゲニド領域にわたって結晶化率勾配を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図8】水平及び垂直方向の導電性ストリップの交差点に配置された能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図9】結晶化率が増減する水平方向の能動型カルコゲニド領域にわたって結晶化率勾配を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図10】水平方向の能動型カルコゲニド領域にわたって結晶化率勾配を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図11A】水平方向の導電性セグメントを相互接続する能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図11B】水平方向及び垂直方向の導電性セグメントを相互接続する能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図11C】垂直方向の導電性ストリップの選択した位置で導電性セグメントを相互接続する能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図11D】水平方向及び垂直方向の導電性ストリップの交差点に配置された能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図11E】交差する導電性ストリップの間に挿入された能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図11F】交差しない導電性ストリップの間に挿入された能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図12A】非均一な幅を有する導電性セグメントを示す。
【図12B】非均一な幅を有する導電性セグメントを示す。
【図13】電磁波を反射または透過する格子の組合せを示す。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本発明は、2002年8月23日に出願された「電磁波の波面エンジニアリング用の位相角制御型固定素子(“Phase Angle Controlled Stationary Elements for Wavefront Engineering of Electromagnetic Radiation”)という名称の同時係属中の米国特許出願第10/226,828号の一部継続出願であり、出願の開示を本願明細書に引用する。
【0002】
技術分野
この発明は、電磁波の伝播の方向及び集束の度合いを制御する装置に関する。より具体的には、この発明は、長波長の電磁波の反射、透過、集束及び焦点ぼけに関する制御を実行できる固定素子に関する。特に、この発明は、電磁波スペクトルのテラヘルツ周波数の範囲における入射する電磁波の位相を変更する再構成可能な素子に関する。
【0003】
背景技術
テラヘルツ周波数システムへの関心は、その独特な能力が確認され、かつシステムの実現するための技術的障壁が克服されるにつれて、着実に増加してきている。テラヘルツ周波数領域((約1mm以下の波長に相当する)約0.3THz以上の周波数)は、現存するマイクロ波電磁気システムに比して大きな帯域幅及びサイズ及び重量の著しい低減を含む多くの利点をもたらす。テラヘルツ周波数技術に依存する、または、テラヘルツ周波数技術から利益を得ると予想されるいくつかの用途が提案されており、あるいは、開発中である。それらの用途は、大気汚染物質(例えば、オゾン、温室効果ガス)及び化学兵器の分光検出、視界不良環境及び光学的に不明瞭な媒体(例えば、濃霧、煙、夜間、隠れた物体の検知)用の高解像度イメージングシステム、短距離通信システムおよび人工衛星とのクロスリンクを含む。テラヘルツ周波数システムの軍事用途は、航空機誘導システム、携帯用レーダー、ミサイル追尾装置及び戦場通信を含む。可能性のある民間用途は、自動車の衝突回避システム、盲点指示機、高速道路の料金徴収、製品タグ付けおよび無線通信を含む。
【0004】
テラヘルツ周波数システムの実現は、電磁波スペクトルのミリメートルからサブミリメートル波長部における電磁波の透過、取り扱い及び受信のための新しい技術の開発を要する。便宜上、電磁波スペクトルのミリメートルからサブミリメートル波長部は、本願明細書において、ミリメートル波長領域と呼ぶことにする。従来の方法は、高周波(radiofrequency;rf)領域(約3MHz〜約30GHzの周波数、約10m〜約1cmの波長)からテラヘルツ周波数領域に用いられる電子技術の拡張に重点を置いていた。rf領域における電磁波は、長年、レーダー画像構成システムやレーダー追尾システムに利用されており、また、rf波を透過し、操縦し、集束させおよび受信する素子を含む十分に発達した技術基礎を有する。従来のrf技術は、電子回路をもととする技術であり、r f 波を直接生成し、制御しおよび検出するのに用いられる伝送線、導波管及び移相器を構成するために、コンデンサやインダクタ等の個別の電子回路構成部品が用いられて
いる。従来のrfシステムは、一般に、ミリメートル波用途に適合しているが、コスト、出力及び機能性に関連する問題が、特に、サブミリメートル領域において生じる。コストの問題は、r f 波の指向送信または受信に必要な高価な移相器によって生ずる。出力の問題は、固体素子を用いる能動フェーズアレイとの関連で生じる。固体素子の出力操作能力は、周波数に依存し、電磁波の周波数の増加に伴って低下する。例えば、典型的なSiバイポーラ接合トランジスタの出力は、周波数が1GHzから30GHzに変化した場合、3桁以上低下する。また、十分に高い周波数において、個別の電子回路構成部品(例えば、コンデンサやインダクタ)は、その機能性を失う。
【0005】
ミリメートル波システムにおける最近の開発は、空間をベースとするシステムに重点を置いており、電磁波は、回路、導波管または伝送線ではなく、自由空間中を伝播する。空間をベースとするシステムは、ミリメートル波を自由空間ビームとして扱い、かつそれらのビームを、光ビームを制御するのに用いる方法と同様の方法で扱うため、光学類似装置とも呼ばれる。光学類似素子は、ミリメートル波ビームを増幅、混合、スイッチング、反射、透過または位相シフトするのに用いることができる。光学類似素子は、受動型と能動型がある。受動型光学類似素子は、通常は、導電性材料からなる格子からなる。格子は、例えば、周期的に等間隔で穿孔した導電性材料からなる薄い薄板で構成することができる。針金格子であってもよい。格子は、自立型、或いは誘電体基板上に設置された型、あるいは、2つの誘電材料の間に挟まれた型であることもできる。能動型光学類似素子は、能動型(非線形)素子からなる周期的配列をその他の点では受動型である格子中に含む。能動型デバイスは、格子の交差点または交差点の間に配置することができる。PINダイオード、バラクタ・ダイオード、トランジスタ、偏光器、増幅器、変換器及びファラデー回転素子等の能動型デバイスは、能動型光学類似素子に用いられてきている。光学類似素子は、多数の固体素子の出力を合成して高出力を実現する有効な方法を与えることにより、回路をベースとするミリメートル波システムの出力不足を克服する可能性をもたらす。
【0006】
能動型デバイスからなるモノリシック2次元周期配列を形成する方法が改良され、作動の基本原理が解明されてくるにつれて、ミリメートル波システム用の光学類似素子に対する関心は、過去10年間に着実に増加してきた。しかし、光学類似素子が主流になるために克服せねばならないいくつかの障害がまだ残っている。主な障害は、能動型素子の挿入損失、分散損失、能動型素子の出力必要条件、電力損失による熱の影響、および厳密な基板平坦性要件及び大規模格子に対する製造上の課題、例えば厳密な誘電体の厚さ均一性等をを含む。以上以外の性能改良(例えば、位相角のより大きな可変性、固定素子のためのより広い反射角、ビーム集束の強化、低電力要件および/または能動型格子における放熱)も所望されている。電磁波、特に、電磁波スペクトルのテラヘルツ周波数部を制御するのに用いる光学類似装置の将来性を増大させる新たな光学類似構成要素に対する要求がある。
【0007】
発明の概要
本発明は、電磁波に影響を及ぼす固定光学類似素子を提供する。好ましい実施形態において、テラヘルツ周波数の電磁波(電磁スペクトルのミリメートル及びサブミリメートル領域における電磁波)は、この素子によって制御される。この素子は、電磁波の光位相角特性に影響を及ぼすことにより、電磁波の反射および/または透過に影響を及ぼすのに用いることができる。この素子は、誘導性および/または容量性の位相シフトを実行することにより、入射する電磁波の光位相を変更する。
【0008】
本願の素子は、カルコゲニド物質からなる体積を含む能動型領域を含む導電性格子に基づいている。隣接する能動型カルコゲニド領域間の間隔は、素子に作用する入射電磁波の波長以下である。好ましい実施形態において、能動型カルコゲニド領域は、格子内で周期的に配置されている。カルコゲニド物質は、エネルギの追加によって、結晶状態から1つ又は1つ以上の部分的結晶状態を経て、、非晶質状態へ可逆的に変化することができる物質である。カルコゲニド物質の電気的及び光学的特性は、その結晶状態によって変わる。その結果として、カルコゲニド物質の実数部及び虚数部の伝導度の変化は、格子の誘導性及び容量性の光位相角に影響を及ぼし、その結果、入射する電磁波面によって生成される反射したおよび/または透過した電磁波の特性に影響を及ぼす。より具体的には、能動型領域上のカルコゲニド物質の結晶の状態を空間的に制御することにより、ミリメートル、サブミリメートル及び他の波長範囲内の反射したおよび/または透過した電磁波の位相角に影響を及ぼすことが可能である。この空間的制御の結果として、電磁波のテラヘルツ及び他の周波数のビームのビーム・ステアリング、ビーム整形または波面補正が、反射モード及び透過モードの両モードにおいて、広範囲の角度及び空間プロファイルにわたって可能である。
【0009】
上記素子のカルコゲニド領域の結晶化率の空間的変化は、2進モードまたは多元モードで達成することができる。2進モードにおいては、各カルコゲニド領域は、2つの構造状態のうちのどれか一方であり、また、結晶化率の空間的変化は、素子の空間的に別個の部分を平均することによって統計的に実現され、この場合、各空間的に別個の部分は、複数のカルコゲニド領域を含む。好ましい2進実施形態において、2つの構造状態は、カルコゲニド物質の非晶質状態と結晶状態である。多元モードにおいては、カルコゲニド領域は、3つ又は3つ以上の構造状態でカルコゲニド物質を含んでもよい。この実施形態において、各カルコゲニド領域は、非晶質状態、結晶状態、または領域内の体積比に基づいて、部分的に非晶質性でありかつ部分的に結晶性である状態となることができる。この実施形態において、結晶化率の空間的変化は、多くのカルコゲニド領域に関して空間的に平均することによって、または、1つまたは1つ以上の方向における一連のカルコゲニド領域上の個々のカルコゲニド領域の結晶化率の変化によって実現することができる。
【0010】
格子中のカルコゲニド物質からなる領域は、本願の素子を能動状態にし、また、素子の能動型領域に含まれるカルコゲニドからなる一定体積の構造状態は、非晶質状態から結晶状態へ変化する結晶化率を有する2つまたは2つ以上の構造状態の間で可逆的に変化することができるため、再構成可能な光学類似素子を形成する。好ましい実施形態において、カルコゲニド領域は、素子からなる格子内で周期的に離れている。
【0011】
一実施形態においては、反射モードの放射のテラヘルツ及び他の周波数の入射ビームの操縦を実行できる素子が得られる。この実施形態において、入射ビームの反射角は、本願の素子を用いて、反射ビームの位相角を制御することによって制御することができる。この実施形態では、入射ビームの非正反射性の反射を実現できる。
【0012】
別の実施形態においては、透過モードの電磁波のテラヘルツ及び他の周波数の入射ビームの操縦を実行できる素子が得られる。この実施例において、入射ビームの透過角度は、素子を用いて、透過するビームの位相角を制御することによって制御することができる。この実施形態は、入射電磁波の非正屈折性方向の透過を実現できる。
【0013】
また別の実施形態においては、反射モードのテラヘルツまたは他の周波数の電磁波の入射ビームを集束または焦点ぼけさせる素子が得られる。
【0014】
さらに別の実施形態においては、透過モードのテラヘルツまたは他の周波数の入射ビームを集束または焦点ぼけさせる素子が得られる。また、非正反射性または非正屈折性の透過と共に、集束または焦点ぼけが実行できる。
【0015】
また別な実施形態においては、電磁波のテラヘルツまたは他の周波数のビームの波面の歪を補正または除去する素子が得られる。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、電磁波の反射及び透過特性を制御する素子を提供する。本願の素子は、入射する電磁波によって生成される反射または透過電磁波の位相角を制御することにより作動し、また、固定形態で作動することが出来る。従って、この素子は、位相角制御型固定素子(phase angle controlled stationary elements;PACSE)と呼ぶことができる。本願の素子は、自由空間中を伝わる電磁波に対して作動出来るため、本願の素子は、光学類似素子の実施例としてみることもできる。本願の素子は、カルコゲニド物質を能動型コンポーネントとして含み、また、格子からなる1つ以上の能動型領域におけるカルコゲニド物質の構造状態が一部又は一部以上で空間的に変化することによって、電磁波の反射及び透過特性への影響の変動性を実現する。
【0017】
上述した同時係属中の米国特許出願第10/226,828号明細書は、カルコゲニド物質によって、電磁波の位相角を制御することに関する考察を記載しており、また、電磁波の波面エンジニアリングのための素子について記述している。同時係属中の出願のPACSE素子は、1つ又は1つ以上の空間的範囲にわたって一定のパターンで分布されたカルコゲニド物質からなる複数の領域を備える素子を含み、この場合、カルコゲニド物質の結晶化率は、領域ごとに変化し、それによって結晶化率勾配を形成する。空間的に独立したカルコゲニド領域の結晶化率は、結晶性カルコゲニド領域内での非晶質マークの形成によって制御された。非晶質マークのサイズおよび/または数は、結晶化率勾配を規定する2つ又は2つ以上のカルコゲニド領域にわたって、結晶化率の体積比の調節可能な制御に変化を与える。入射する電磁波の位相角に対するカルコゲニド物質の影響は、結晶化率と共に変化するため、上記同時係属中の出願の上記素子の結晶化率勾配は、入射する電磁ビームの位相角特性を変更して、制御された位相角特性を有する反射および/または透過電磁ビームを生成する相テーパーをもたらす。結晶化率勾配が急であればあるほど、位相角に対する影響も大きくなり、かつ正反射性の反射および/または正屈折性の透過からのずれも大きくなる。伝播の角度、反射の角度または電磁ビームの集束の程度を制御する同時係属中の出願の素子の性能を説明するいくつかの実施例は、同時係属中の出願に記載されている。
【0018】
広範囲の波長の電磁波に対して作動するPACSE素子を有することが望ましく、またそれ故に、異なる波長での作動に対する上記同時係属中の米国特許出願第10/226,828号のPACSE素子の適合性を考慮することが望ましい。同時係属中の出願に記載されているPACSE素子の適合性は、テラヘルツ周波数領域における電磁波にとって特に重要であり、この場合、波長範囲は、可視光範囲の2桁程度長い。PACSE素子の作動の波長は、PACSE素子の設計要件に影響を与える。より具体的には、作動波長は、PACSEのある種の特性様相の寸法を考慮する必要がある。全体のデバイスの寸法、マークのサイズ及びマークの間隔などは、作動波長に依存する一連の可能な値をとり得る仕様に属する。
【0019】
PACSE素子の全体のサイズは、反射または透過する電磁波の位相の高度の制御を実現する要求と、回折効果を最小にする要求とを均衡させなければならない。上記同時係属中の特許出願に記載されているように、位相角の最良の制御は、強力な結晶化率勾配を有するPACSE素子で実現され、この場合、強力な結晶化率勾配は、最短距離間において結晶化率の変化が最大の場合である。強力な結晶化率勾配は、正反射性の反射からのより大きなずれおよび/または正屈折性透過からのより大きなずれを可能にするのに必要な位相制御を可能にする。
【0020】
結晶化率の最大の変化は、非晶質(結晶化率0%)から結晶(結晶化率100%)に及ぶ範囲に一定されているため、また非晶質、結晶及び連続する一連の結晶化率状態が実際の作動で実現可能であるため、結晶化率の勾配を最大にするという設計上の目的は、PACSE素子のサイズを最小にする要求に等しい。所定の範囲の結晶化率の場合、より小さなデバイスでは、より強力な結晶化率勾配が得られ、それに相応して、反射および/または透過する電磁波の、広範囲の制御を可能にする。
【0021】
しかし、上記PACSE素子のサイズの低減は、回折効果を強め、かつ位相制御された電磁波の透過または反射の効率を少なくする。PACSE素子が、作動波長に比較して小さくなればなるほど、PACSE素子からの作動電磁波の開口型回折効果は、ますます顕著になる。回折効果が増すにつれて、入射する電磁波の、位相制御された反射および/または透過電磁波への変換効率は減少し、また、PACSE素子の効率もそれに応じて減少する。PACSE素子が小さくなった場合の回折効果の増加は、開口がある場合の入射する電磁波の口径が減少したときの回折効果の増加に似ている。回折は、入射する電磁波の一部の好ましくない損失の原因となり、また、入射電磁波の、位相制御された反射および/または透過した電磁波への変換効率の低減につながる。
【0022】
従って、PACSE素子の寸法を設計することは、競合する効果の間の妥協を意味する。より大きな素子は、好ましくない回折効果を最小にするが、それは、結晶化率の勾配の強度を犠牲にしてである。より小さな素子は、結晶化率の勾配の強度を増加させるが、より大きな回折効果を伴う。本発明者等は、作動波長の約2倍以下のPACSEサイズ(例えば、正方形状のPACSE素子の一辺の長さ)が、有害な過度の回折効果をもたらし、また、作動波長の2〜5倍のPACSEサイズは、多くの用途にとって、回折損失と位相制御の範囲との間の適切な均衡値になるであろうと考える。それでも、この範囲外のPACSEサイズも、本発明の原理に従って位相制御を実行できると予測されるが、それは決して最適ではない条件で作動する。作動波長の2倍以下のサイズを有するPACSE素子は、広範囲で位相制御を実行できるが、はなはだしい回折損失による不十分な変換効率をもたらすことになる。また、作動波長の約5倍以上のサイズを有するPACSE素子も、低い屈折損失という成果を伴って位相制御を実行できるが、それは、用途によっては役に立たない位相角の範囲に限られている。PACSE素子のサイズは、特定の用途の要求に従って選択することができる。高度の位相制御が所望され、かつ変換効率を犠牲にすることができる場合には、より小さなPACSE素子(例えば、作動波長の約2倍以下のサイズを有する素子)が適切となる。高い変換効率が所望され、かつ位相制御の範囲を犠牲にすることができる場合には、より大きなPACSE素子が適切となる。
【0023】
上記同時係属中の出願によるPACSE素子の寸法設計に関連する考察の結果は、テラヘルツ周波数領域におけるPACSE法の適用は、光周波数における作動に適するPACSE素子のサイズと比較して、PACSE素子のサイズの増大を必要とするということである。例えば、1.5μmの作動波長(近赤外線)において、例えば、5μm×5μmの能動型領域を有するPACSE素子は、十分な性能を実現できる。それに比べて、0.15mm(2THz)の作動波長においては、上記同時係属中の出願による類似のPACSE素子は、500μm×500μmの作動領域を有することになる。このようなサイズを有する同時係属中の出願によるPACSE素子は、可能でありかつ作動可能であるが、本発明者等は、カルコゲニド物質から得られる結晶化率の全範囲を利用する結晶化率勾配を得るために必要な非晶質マークに要求される寸法を考慮すると、素子が実用的でないことを明確に理解した。結晶化率の値の小さい範囲では、カルコゲニド物質のかなりの部分おいて、高い非晶質相の体積比率を必要とする。PACSE素子のサイズが増すにつれて、結晶化率勾配を最大化し、かつカルコゲニド物質から利用可能な相制御の程度を高めるのに必要な結晶化率の少ない値をを有する構造状態を達成するためには、カルコゲニド物質のますます多くの部分を非晶質にすとが必要になる。
【0024】
原則として、カルコゲニド物質の広い領域部の結晶状態から非晶質状態への変換は、大きなサイズを有する個々のマークの形成によって達成することができる。しかし、実際には、直径約1μmより大きいマークを形成することは困難である。この限界は、大きなマークを形成するのには多量の熱エネルギを必要とすることの結果である。非晶質マークの形成は、結晶性のカルコゲニド物質を溶解するのに十分なエネルギをカルコゲニド物質に与えた後、非晶質状態を反応速度論的に安定化すると共に、再結晶化を防ぐのに十分な速度で冷却するプロセスによって行われる。急速な冷却は、マークの形成が行われる領域からの熱エネルギの急速な散逸を必要とする。必要なマークの寸法が増加するにつれて、溶解のために与えられる全エネルギが増え、また、大きな領域のいくつかの部分で再結晶化を防ぐために、適切な速度で熱エネルギを散逸させることがますます困難になる。また、逆結晶化等の他の現象も、大きなマークを形成しようとする試みを阻止する。その結果として、約1μm径以上のマークを形成する試みは、基本的な物理的障害に直面する。
【0025】
約1μmというマークサイズの実施上の限界は、上記同時係属中の出願によるPACSE素子をテラヘルツ周波数領域で使用する可能性に障害をもたらす。本願明細書において上述したように、テラヘルツ周波数領域における典型的なPACSE素子は、500μm×500μm程度の寸法を有するものと予想される。例えば、1つのPACSE素子の全域で左から右へ100%の結晶化率から0%の結晶化率の範囲の連続する結晶化率の線形勾配を有することが好ましい場合、平均して素子の50%を非晶質状態にすることが必要になる。500μm×500μmの素子の50%は、125,000μm2の面積に等しい。1μm径のマークの面積を近似してその面積が1μm2であると仮定すると、PACSE素子中に50%の平均結晶化率を実現するには、125,000のマークが必要になる。1つのマークを形成するには、約0.1μsかかるため、125,000のマークを形成するのに要する時間は、12.5msになる。これは可能ではあるが、この時間は、本発明者等には、特に、再構成できることが所望される用途においては、非現実的に長いと思われる。これに比較して、本願明細書において上述したような1.5μmの波長で作動する5μm×5μmのPACSE素子への対応するマークの書込みまたは形成時間は、0.1μsの速度で形成される0.25μm2のマークを用いて、はるかに満足な5μsになる(25μm2の面積の50%のマーク書き込み面積、この場合、より小さなマークサイズが、マーク寸法が作動波長よりも十分に小さいことを確実にするために考慮され、この点に関して補足的考察が本願明細書において以下に示され、また上記同時係属中の出願に記載されている)。従って、マークの寸法に関する実際の制限は、作動波長が増加するにつれて問題となり、また、同時係属中の特許出願に記載されたPACSE素子の長波長に対する拡張において、潜在的な欠点となる。
【0026】
本発明は、上記同時係属中の特許出願に記載された素子と比較して、素子の全領域にわたるカルコゲニド物質の全容積の低減に基づいたPACSE素子を使用することによりこの欠点に対処する。このPACSE素子は、カルコゲニド物質の一部の領域の能力を有効に高めるPACSEデザインを提供し、テラヘルツ周波数領域での実際の実現性を可能にすることにより、大面積上にマークを形成する必要性を不要にする。本願明細書において以下により十分に説明するように、本願の素子は、導電性格子と共に、カルコゲニド物質からなる領域を含む。カルコゲニド能動型領域は、本願の素子の格子内に含まれており、また、素子の入射する電磁波に対する全体の影響は、導電性格子と、格子内に含まれている能動型カルコゲニド領域の構造状態とによって決まる。カルコゲニド領域の構造状態の変化は、本願の素子の挙動の調節性及び再構成能力をもたらす。
【0027】
入射する電磁波は、電磁波の特性である周波数及び波長で振動する直交する電界及び磁界を含む。入射する電磁波は、交流AC結合によって本願の素子と相互に作用して、反射および/または透過出力電磁波を生成する素子内に共振電流振動をもたらす内部電界を誘導する。本願の素子は、誘導性及び容量性の効果を介して、誘導電流の位相角特性に影響を及ぼし、それによって、位相制御された伝播特性を有する反射および/または透過電磁波を生成する。本発明の素子は、反射および/または透過の伝播方向、および入射する電磁波の集束の程度に影響を及ぼす。本願の素子のデザインは、特に、テラヘルツまたは他の長波長の周波数領域における入射電磁波に適している。
【0028】
本発明の素子の電磁波に対する影響の根拠をなす原理のうちのいくつかの理解には、周期平面的導電性格子を示す図1Aに示す従来技術の単純な格子の考察が手助けとなる。典型的な用途において、格子は、屈折率n1及びn2を有する2つの誘電体の間の境界に配置され、この場合、誘電体は、空気または固体物質等の媒質である。格子は、正方形の穴により離間した幅2aを有する導電性ストリップを含む、格子周期gを有する穴あき導電性シートである。格子周期gは、格子が回折格子として作用しないように、格子と相互に作用する入射電磁波の波長と同じくらいの大きさになっている。入射電磁波の波長は、本願明細書においては、格子の作動波長と呼んでもよい。本発明者等は、例証として、直線偏光した入射平面電磁波の図1Aの格子との相互作用を考察する。
【0029】
図1Aに示す上記格子の特性は、伝送線モデルを用いて分析することができる。このモデルは、自由空間を伝送線として扱い、また、回折対象を負荷インピーダンスとして扱う。集中回路素子近似を用いて、図1Aに示す格子の等価回路を図1Bに示す。等価回路は、並列な格子容量C及び格子インダクタンスLと共に格子をはさんで配置されている上記2つの誘電体のインピーダンスZS/n1及びZS/n2を含む。数量ZSは、平面波の場合のマクスウェルの波動方程式に由来し、自由空間の固有インピーダンスである。伝送線モデルにおいて、真空中の直線偏光した平面電磁波の特性インピーダンスは、自由空間の固有インピーダンスであり、下記式によって示される。
【数1】
【0030】
ここで、μ0及びε0は、それぞれ、自由空間の透磁率及び誘電率である。誘電媒質中において、インピーダンスは、屈折率に反比例して換算される。格子インダクタンスLは、上記導電性ストリップの誘導性効果に依存し、格子周期の単調関数である。格子容量Cは、格子の穴のある全域にわたる容量に依存する。
【0031】
図1Aに示す格子の特徴的な機能性は、上記格子に垂直に入射する、垂直に偏光した電磁波の入射を考察することにより、最も容易に説明される。垂直に偏光した入射電磁波の電界は、格子の垂直方向のストリップに対して平行である。これらの条件の下で、入射する電磁波は、格子の垂直方向のストリップに電流を誘導し、それと共に、 関連するインダクタンス及び容量が水平方向のストリップを分離している穴のある全域で垂直方向に生ずる。このインダクタンス及びこの容量は、図1Bの等価回路に示す回路の構成要素に相当する。垂直方向のストリップのインダクタンス及び水平方向のストリップの間の並列容量は、周波数依存性サセプタンスを有するため、入射する電磁波に対する格子の影響は、電磁波の周波数に依存する。
【0032】
LC回路技術においては、(図1Bに示す回路等の)LC回路が、任意の周波数と相互に作用する能力に加えて、インダクタンスL及び容量Cに依存する特有の共振周波数を有することが知られている。図1Bの回路において、上記垂直方向のストリップのインダクタンスのサセプタンスと、水平方向のストリップの間の容量のサセプタンスとは、180°位相が異なっている。その結果として、これらのサセプタンスは、共振として知られている状態を生じる1つ又は1つ以上の周波数で相殺する可能性がある。より具体的には、この場合には、図1Bに示す等価回路は、図1Aの格子が、その周波数で完全に透過性である並列共振周波数を有する。並列共振周波数において、垂直方向のストリップの誘導性サセプタンスは、水平方向のストリップを分離する空間の容量性サセプタンスによって相殺される。その結果として、並列サセプタンスはゼロであり、並列共振周波数における入射電磁波は、反射損失を伴わずに透過する。
【0033】
並列共振周波数は、屈折率n1及びn2、および上記格子のインダクタンス及び容量に依存する。独立した格子(空気に囲まれた格子、n1=n2=1)において、並列共振周波数を有する入射電磁波の波長は、格子の穴あきの形状により、g(格子周期)と2gの間である。例えば、正方形の穴の場合、並列共振周波数は、gに略等しい。矩形状、十字形及び一辺が他辺より短い寸法を有する他の穴の形状の場合、並列共振周波数は、より大きな波長へずれる。1より大きい屈折率を有する周囲の誘電体は、格子の容量を増加させ、並列共振周波数の低下をもたらす。入射する電磁波の周波数が共振周波数から外れるにつれて、格子の透過率は徐々に低下し、かつ反射損失は増加する。全てを考慮すると、格子は、共振周波数または共振周波数近傍を中心として、幅広い透過帯域を実現できる。
【0034】
格子の共振周波数及び帯域特性は、格子間隔、ストリップの幅、(目打ち形状を含む)単位格子のの様相及び周囲の誘電体の屈折率を制御することにより巧みに処理することができる。それが可能な理由は、それらの量が、格子の誘導性及び容量性のサセプタンスに影響を及ぼし、そのため、誘導性サセプタンスと容量性のサセプタンスが等しいかまたは略等しい周波数範囲を決定するからである。
【0035】
図1Aに示す先行技術の格子は、代表的な受動型光学類似素子であり、実用として送信用に利用できる。能動型格子デザインにおける電磁波の透過及び反射特性のより十分な制御は、2つ又は2つ以上の格子を独立形態でまたは1つ又は1つ以上の誘電体基板と共に組合わせることにより実現できる。格子間隔、水平方向及び垂直方向のストリップ幅、および複数の格子の各々の誘電率は、格子の誘導性及び容量性リアクタンス、サセプタンス等を独立して及び一緒に制御して、帯域特性、中心帯域周波数、反射効率、透過効率などに関してより十分な制御を実施するために、独立して変化させることができる。格子間の間隔は、例えば、誘電体によって分離された2つの平行な格子が、光学系で一般に用いられるファブリーペロー発振器と同様に機能する場合、別の自由度をもたらす。能動型格子の異なる組合せまたは特性は、格子の誘導性及び容量性の効果を変化させる方法に実質的に相当する。異なる格子形態は、インダクタとコンデンサの異なる直列及び並列の組合せを含む等価回路を有し、また、誘導性及び容量性の効果によって入射する電磁波に影響を及ぼす異なる方法に相当する。格子パターンは、図1Aのような正方形格子、あるいは、矩形、六角形、三角形等の他の周期的に繰返す格子形状とすることができる。
【0036】
能動型格子素子によって、別の機能性向上を達成することができる。能動型格子においては、能動型電子コンポーネントが格子に含まれ、通常は、格子の1つ又は1つ以上の導電性ストリップ中に挿入されている。能動型コンポーネントは、導電性ストリップ及び誘電体があればそれも含めたにものよってもたらされるリアクタンスに加えて、誘導性および/または容量性のリアクタンスおよび/またはサセプタンスを素子にもたらす。能動型コンポーネントは、通常は、2つ又は2つ以上の状態の間で変換することができ、その各々は、性質の異なる誘導性および/または容量性の効果を有する。従って、素子の全体の機能性は、能動型電子回路素子の状態に依存し、また、機能性(例えば、調節性)を変化することが、能動型格子によって可能になる。入射する電磁波に影響を及ぼすことについては、この可変機能性は、入射する電磁波の反射および/または透過特性が能動型コンポーネントの状態に依存し、異なる特性が異なる状態によってもたらされることを意味する。そのため能動型格子の作動性能を、異なる用途の要求を満たすように変えることができる。
【0037】
能動型格子素子の一実施形態の概略図を図2Aに示す。素子100は、能動型コンポーネント110と、垂直方向の導電性ストリップ120と、水平方向の導電性ストリップ140とを含む。図2Aに示す導電性ストリップは線で描かれているが、導電性ストリップが厚み、直径、および/または形状を有すること、厚さ、直径および/または形状を、長さ方向に均一または不均一にすることができること、および厚さ、直径および/または形状を、格子内の異なる導電性ストリップは皆同じにしてもよいまたは同じでなくてもよいことを理解すべきである。上記の記述は、本願明細書で叙述したまたは別に説明した全ての実施形態にあてはまる。この実施形態の能動型コンポーネントは、素子内に周期的に配置され、かつ上記垂直方向のストリップに直列に接続されている。従来技術で説明した能動型格子においては、能動型コンポーネントを、ダイオードにすることができる。従来技術による一実施例においては、PINダイオードが、図2Aに示す格子100内の能動型コンポーネント110として用いられる。この従来技術において、PINダイオードは、垂直方向のストリップのインダクタンスと直列であり、図2Bに示す等価回路が得られ、この場合、格子は、屈折率n1及びn2を有する2つの誘電体の間に配置されていると仮定する。PINダイオードは、2つの状態、すなわち、順方向バイアス状態と逆方向バイアス状態とを有する。順方向バイアス状態において、PINダイオードのインピーダンスは、MHz〜THzの周波数範囲においておもに抵抗性であり、また、等価回路におけるダイオード素子は、単純な抵抗器としてモデル化することができる。逆バイアス状態においては、PINダイオードのインピーダンスは、おもに容量性であり、また、等価回路におけるダイオード素子は、コンデンサとしてモデル化することができる。
【0038】
ダイオードに逆バイアスがかけられた場合の上記等価回路の伝送線解析は、上記能動型格子が、ダイオードの容量性リアクタンスと格子のストリップの誘導性リアクタンスがその周波数で相殺する直列共振周波数を呈することを示している。直列共振周波数において、上記垂直方向のストリップと平行な直線偏光した入射電磁波は、ほぼ完全に反射される。それに伴って、ダイオードの逆バイアス状態は、直列共振周波数で及び直列共振周波数付近で、高反射性格子を形成する。直列共振周波数は、逆バイアス状態で、垂直方向のストリップのインダクタンス及びダイオードの容量を制御することによって変化させることができるため、格子素子は、入射する電磁ビームを広範囲の周波数に関して最適に反射させるように設計することができる。順方向バイアス状態において、ダイオードは抵抗性になり、格子は、より透過性になる。反射及び透過特性に対するさらなる制御は、能動型格子素子を組合わせることにより、あるいは、能動型格子素子と受動型格子素子とを組合わせることにより、実現することができる。ほぼ完全に透過性の素子は、例えば、能動型素子が順方向バイアスダイオードである図2Aに示す能動型格子と、図1Aに示す受動型格子素子及びファブリー・ペロー空洞を形成する介在誘電材料とを組合わせることにより、得ることができる。空洞は、その周波数で(損失がない)完全な透過が生じる共振周波数を有し、この場合、共振周波数は、誘電体の厚さ、屈折率及び格子のインピーダンスに依存する。
【0039】
本願の素子において、カルコゲニド物質の体積は、格子の能動型素子の一部として含まれている。本願の素子は、カルコゲニド物質からなる体積を含む能動型領域を含む。能動型領域は、本願明細書において、カルコゲニド物質からなる領域、カルコゲニド領域、能動型カルコゲニド領域等と呼ぶことができる。好ましい実施形態において、この格子は、周期的であり、また、格子に作用する入射電磁波の波長(作動波長)より小さい周期または特有な反復距離を有する。この必要条件は、本願の素子が回折格子として作用しないことを保障する。カルコゲニド物質は、結晶状態及び非晶質状態を有する相変化物質である。カルコゲニド物質にエネルギを与えることにより、カルコゲニド物質を、その結晶状態と非晶質状態の間で可逆変換することが可能である。本願明細書において以下により十分に説明するように、カルコゲニド物質の複素誘電率は、非晶質状態と結晶状態とで異なる。その上、この違いは、本願の素子の導電性、インダクタンス、容量及び位相シフト特性に対する対応する影響を制御して、透過するおよび/または反射する電磁波の位相角制御を可能にする。能動機能性は、1つ又は1つ以上の能動型領域におけるカルコゲニド物質の構造状態を制御することによって、この格子で達成される。結晶(100%の結晶化率)から非晶質(0%の結晶化率)まで連続的に変動する結晶化率の体積比を有する構造状態は、本願の素子の能動型カルコゲニド領域に利用可能である。
【0040】
好ましい実施形態において、カルコゲニド物質からなる能動型領域は、周期的格子内に周期的に配置されている。導電性ストリップまたは導電性ストリップからなる部分によって分離されている能動型領域は独立領域であり、格子の単位格子の寸法を超えず、かつ好ましくは、単位格子の寸法よりもかなり小さいサイズを有する。本願明細書中で用いる際、格子の単位格子は、格子の基本的な繰返し単位である。周期的格子は、1つまたは1つ以上の方向における単位格子の複製と見ることもできる。単位格子は、格子の2つまたは2つ以上の導電性ストリップに囲まれた繰返し単位に相当する。正方形格子において、単位格子は正方形であり、また、カルコゲニド物質からなる領域は、繰返しの正方形のサイズよりも大きくない。矩形状格子においては、単位格子は矩形であり、カルコゲニド物質からなる領域は、繰返しの矩形のサイズよりも大きくない。三角形状格子においては、単位格子は三角形であり、カルコゲニド物質からなる領域は、繰返しの三角形よりも大きくない。六角形状格子においては、単位格子は六角形であり、カルコゲニド物質からなる領域は、繰返しの六角形のサイズよりも大きくない。他の格子形状におけるカルコゲニド領域の最大サイズは、同様に決めることができる。多くの実施形態において、カルコゲニド領域のサイズは、格子または単位格子の寸法よりも著しく小さくすることができる。
【0041】
本願の素子の上記格子の導電性ストリップは、交差させても交差させなくてもよい。例えば、正方形の単位格子を有する格子は、交差して正方形の穴を形成する水平方向及び垂直方向の導電性ストリップを含む。また、正方形の格子は、その間隔が正方形の穴を形成する交差しない水平方向及び垂直方向のストリップを含んでもよい。交差する及び交差しない導電性ストリップを有する正方形格子の実施例をそれぞれ図2C及び図2Dに示す。図2Cに示す格子は、水平方向の導電性ストリップ150と交差する垂直方向の導電性ストリップ130を含む。図2Dの格子は、水平方向の導電性ストリップ170と交差しない垂直方向の導電性ストリップ160を示す。図2Dに示すストリップは、本願明細書においては、導電性線分または線分化された導電性ストリップと呼んでもよい。交差しないストリップを有する格子においては、容量がストリップ間のギャップに生じて、この容量が、反射および/または透過する電磁波の位相特性に対する格子の全体の効果にさらに寄与する。同様に、非正方形の単位格子を有する格子は、交差するまたは交差しない導電性ストリップ、あるいは、それらの組合せを含んでもよい。
【0042】
本発明の好ましい周期的格子は、1つまたは1つ以上の方向に周期的間隔を有する。周期的間隔は、周期的格子の単位格子の反復距離である。例えば、正方形の格子の周期的間隔は、正方形の辺の長さに相当する。矩形状格子は、矩形状単位格子の長さ及び幅に相当する周期的間隔を有し、この場合、長さ及び幅は、2つの異なる方向において周期的間隔を示し、一組の平行な辺の間の距離に相当する。三角形状格子の周期的間隔は、三角形状の単位格子の辺の長さまたは高さとすることができる。三角形状の単位格子は等辺または非等辺とすることができるため、三角形状格子は、1つまたは1つ以上の方向に周期的間隔を有してもよい。六角形状格子の周期的間隔は、六角形状の単位格子の一組の平行な辺の間の距離とすることができる。その他の単位格子形状に基づく格子の周期的間隔は、同様に定義することができる。本発明の範囲内の単位格子は、周期的間隔を含まなくてもよいし、また1つの周期的間隔または2つの周期的間隔を含んでもよい。
【0043】
本願の格子の能動型領域におけるカルコゲニド物質からなる容積において、カルコゲニド物質は、結晶状態、非晶質状態、または部分的に結晶状態、および部分的に非晶質状態となることが可能である。カルコゲニド物質からなる体積における結晶状態及び非晶質状態の相対的比率は、領域のパーセントまたは結晶化率によって表すことができる。1つの領域の結晶化率は、0%(完全に非晶質)から100%(完全に結晶性)まで連続的に変化することができる。例えば、50%の結晶化率を有するカルコゲニド物質からなる領域は、容積基準で半分が非晶質で半分が結晶性である。入射する電磁波の波長は、カルコゲニド領域のサイズよりも大きいため、入射電磁波は、この素子の能動型領域におけるカルコゲニド物質からなる全体積と相互に作用する。その結果として、入射する電磁波に対する格子の全体の影響に対するカルコゲニドの特定の影響、寄与または変更は、領域におけるカルコゲニドの非晶質状態及び結晶状態の分散特性(例えば、誘導性、容量性及び位相シフト特性)の加重平均によって決まる。
【0044】
格子の能動型領域におけるカルコゲニド物質の結晶化率は連続的に変化可能であるため、能動型カルコゲニド領域は、一連の構造状態を有し、その各々は、格子に対して、性質の異なる分散特性(例えば、誘導性、容量性及び位相シフト特性)を与え、またそのため、入射する電磁波の反射、透過及び伝播特性に対する各々別個の影響を有する格子が得られる。
【0045】
多くの実施形態において、個々のカルコゲニド領域のサイズ及び格子の単位格子のサイズは、格子の作動波長よりもかなり小さい。これらの実施形態において、カルコゲニド領域間の間隔は、作動波長よりもかなり小さい。その結果として、作動波長において入射電磁波によって生じる反射および/または透過放射の位相特性は、多数のカルコゲニド領域に関する平均の結果であり、その各々は、異なる結晶化率を有する。それらの実施形態において、結晶化率の平均化は、特定のカルコゲニド領域内だけではなく、いくつかの別個の空間的に分離されたカルコゲニド領域の全域で行われる。
【0046】
理論に縛れることは望まないが、本発明者等は、平均化を、特定の波長における光の、サブ波長の長さスケールで様相を有する不均一な対象との相互作用の有効媒質近似による記述に照らして、より一般的に見ることができる。有効媒質近似によれば、様相を分析し、検知し、様相に影響を受け、または、様相を“見る”電磁波の能力の対象は、その波長程度のサイズまたはその波長よりも大きいサイズを有する様相にほぼ制限される。波長よりも小さい様相(サブ波長様相)は、電磁波によって別々に分析または検知されず、また、電磁波に別々に影響を及ぼさない。その代わり、入射する電磁波は、サブ波長様相の平均を分析または検知し、この場合、平均は、波長にほぼ相当する長さスケールを超える。有効媒質近似の基本的な結果は、サブ波長の長さスケールでの様相を有する非均一な材料は、波長以上の長さスケールで、サブ波長様相の特性に対する平均に対応する均一な特性を有する同質の材料としてほぼ見ることができるということである。有効媒質近似は、サブ波長の対象の様相サイズが減少するのにつれて、ますます良好な近似となる。
【0047】
本願の素子において、有効媒質近似は、上記作動波長を持つ電磁波電磁波の作動波長よりも短かい(サブ波長寸法)寸法を有するカルコゲニド領域、変域または単位格子との相互作用に適用でき、殊にカルコゲニド領域の1つ又は1つ以上の特性がサブ波長距離にわたって変化する場合に特に適切である。本発明との関連での最大の関心は、数個のサブ波長サイズのカルコゲニド領域にわたる結晶化率の変化である。上述したように、本願の素子の能動型領域の結晶化率の空間的変化が、素子によってもたらされる位相制御の根拠をなす。入射する電磁波が、上記作動波長以下の全体的寸法を有する一連のサブ波長カルコゲニド領域に作用する場合、入射する電磁波によって認知される一連の領域の結晶化率は、個々のサブ波長領域の平均となる。それに応じて、素子の波長スケール部分に関する有効な結晶化率は、素子のその部分に含まれているサブ波長カルコゲニド領域全部にわたる平均と見ることができる。平均化は、各サブ波長素子内で、及び波長スケール部分内の異なるカルコゲニド領域の中で行われる。
【0048】
有効媒質近似からの考察の結果として、本願の素子の多くの実施形態の波長スケール部分の特定の結晶化率は、多くの方法で実現することができる。例えば、50%の結晶化率を有する波長スケール部分を考え、かつ等しい容積のカルコゲニド物質を有する4つのサブ波長カルコゲニド領域が領域内に含まれていると仮定する。50%の結晶化率は、例えば、20%、40%、60%及び80%の結晶化率を有する個々のサブ波長領域を用いて実現することができる。多数の結晶化率がこの実施例で用いられるので、50%の波長スケール平均を得るこのモードは、マルチ状態モードと呼ぶことができる。別法として、50%の結晶化率は、4つのサブ波長カルコゲニド領域のうちの2つを非晶質状態(0%の結晶化率)にすると共に、他の2つの領域を結晶状態(100%の結晶化率)にすることにより、実現することができる。平均化するというこのモードは、カルコゲニド物質の2つの構造状態のみが、カルコゲニド領域のセット中に存在するため、2進モードと呼ぶことができる。50%または上記素子の波長スケール部分に関する他のいずれかの平均的な結晶化率を実現する多くの方法が可能であり、また、本発明の範囲内にある。この素子のカルコゲニド領域のサイズは、上記作動波長よりも著しく小さくすることができるため、有効媒質近似法による平均化は、数十、数百、またはそれ以上の数のカルコゲニド領域にわたって行うことが出来る。
【0049】
本願の素子のカルコゲニド領域の結晶化率のサブ波長領域内の変化に加えて、上記導電性ストリップの伝導性および/またはインダクタンスのサブ波長領域内の変化も存在することがある。例えば、そのような変化は、1つの素子内の1つ又は1つ以上の方向において、導電性ストリップの幅、長さ、間隔、形状または接続性のサブ波長領域内の変化によって生じる可能性がある。例えば、交差する格子ラインと交差しない格子ラインの組合せを含む格子は、伝導性および/またはインダクタンスのサブ波長領域内の変化がある可能性があり、この場合、格子の交差する部分と交差しない部分との間の間隙は、作動波長よりも短い。同様に、1つまたは1つ以上の方向における導電性ストリップの非均一な間隔は、格子ラインにより伝導性および/またはインダクタンスのサブ波長領域内の変化を同様にもたらすこともある、この場合、非均一に離間したストリップの間の間隔は、作動波長よりも短い。導電性ストリップの伝導性および/またはインダクタンスのサブ波長領域内の変化がある場合、有効媒質近似は、波長スケール領域の伝導性および/またはインダクタンスがサブ波長部分に関する平均に相当することを示す。導電性ストリップ及びカルコゲニド領域の特性においてサブ波長領域内の変化がある実施形態において、波長スケール部分に関する平均は、導電性ストリップ及びカルコゲニド領域によって寄与される効果の全体の平均に相当する。
【0050】
本願の格子は、能動型カルコゲニド領域を含み、カルコゲニド物質が格子の伝導性、誘導性、容量及び位相シフト特性に及ぼす影響によって、入射する電磁波の能動制御が達成できる。相変化カルコゲニド物質の多くの特性及び組成は公知であり、例えば、本願明細書にその開示を引用する、本譲受人に対する米国特許第3,271,591号明細書、同第3,530,441号明細書、同第4,653,024号明細書、同第4,710,899号明細書、同第4,737,934号明細書、同第4,820,394号明細書、同第5,128,099号明細書、同第5,166,758号明細書、同第5,296,716号明細書、同第5,534,711号明細書、同第5,536,947号明細書、同第5,596,522号明細書、同第5,825,046号明細書、同第5,687,112号明細書、同第5,912,104号明細書、同第5,912,839号明細書、同第5,935,672号明細書、同第6,011,757号明細書及び同第6,141,241号明細書、および同時係属中の米国特許出願第10/226,828号明細書で既に説明されている。本願の素子に関係する相変化カルコゲニド物質の特性及び組成のうちのいくつかの短い再要約を、以下の数節に示す。
【0051】
相変化カルコゲニド物質からなる体積へのエネルギの印加は、その構造状態間の変換を引き起こす。相変化物質は、それに特有な融解温度及び結晶化温度を有し、構造状態は、それらの温度に対するエネルギの制御された印加によって影響することが出来る。相変化物質をその融解温度以上に加熱するのに十分なエネルギの印加しそれに続いて急冷を行うことにより、非晶相の形成を促進する。一方、徐冷は、相変化物質からなる体積内での結晶化及び結晶性領域の形成を可能にして、部分的結晶性または結晶性物質をもたらすことができる。相変化物質を、その結晶化温度と融解温度との間まで加熱するのに十分な量のエネルギの印加は、非晶質領域から結晶相への部分的または完全な変換を引き起こす。
【0052】
相変化物質からなる体積または領域の選択した部分にエネルギを印加して、領域内の相変化物質からなる周囲の部分を乱すことなく、局所的な構造変換を引き起こすことができる。このような局所的な構造変換は、本願の格子の能動型領域内のカルコゲニド物質からなる体積の結晶化率を変更するのに用いることができる。また、局所的な構造変換は、ある相からなる周囲のマトリクス内の別の相のサイズ、形状または体積を制御するのにも用いることができる。例えば、低量熱消費法を用いた結晶性マトリクス内での非晶相領域(例えば、マーク)の形成は、米国特許出願第10/026,395号明細書に既に記載されており、その開示を本願明細書に引用する。
【0053】
カルコゲニド物質からなる体積の構造状態の変換は、相変化物質または相変化物質の一部に、適切な量のエネルギを適切な速度及で印加することによって達成される。様々な形態のエネルギを、構造状態間の変換を実施するのに用いることができる。エネルギは、単一のエネルギ源または複数のエネルギ源を用いて、(光、紫外線、可視光、赤外線、レーザ及びrf波長源からのエネルギを含む)電磁波、電気エネルギ、熱エネルギ、化学エネルギ、磁気エネルギ、力学的エネルギ、粒子線エネルギ、音響エネルギまたはそれらの組合せのかたちをとることができる。例えば、電気エネルギの供給は、電流または電圧の形とすることができ、また、連続的、または、その高さ及び幅を制御することができるパルスの形とすることもできる。本発明のいくつかの実施形態においては、能動型領域は、1つ又は1つ以上の導電性ストリップ内に直列に接続されている。これらの実施形態においては、導電性ストリップは、1つまたは1つ以上の能動型領域内のカルコゲニド物質からなる体積に電気エネルギを供給する導線として用いて、それにより、1つまたは1つ以上の能動型領域の構造状態の変化を引き起こすことができる。光エネルギは、制御されたビーム特性、波長、エネルギおよび/または出力を有するパルス状または連続ビームの形とすることができる。印加するエネルギの強度、持続時間、パルス特性を制御することにより、この格子内のカルコゲニド物質からなる領域の構造状態または結晶化率を厳密に制御することが可能である。能動型領域は、エネルギを用いて個別にまたは一緒に処理することにより、本願の素子の能動型領域の全域で、カルコゲニドの結晶化率の所望の分布を実現することができる。
【0054】
本発明による用途に適した相変化物質の代表的な例は、元素In、Ag、Te、Se、Ge、Sb、Bi、Pb、Sn、As、S、Si、P、Oの1つ又は1つ以上を含むもの及びこれらの混合物または合金であり、それらの共晶または非共晶組成物を含む。好ましい実施形態において、相変化物質は、カルコゲン元素を含む。もっとも好ましい実施形態においては、相変化物質は、Teをカルコゲン元素として含む。また、Ge2Sb2Te5、Ge22Sb22Te56及び関連する物質(Ge−Sb−Te三元化合物、In−Sb−Te三元化合物、In−Sb−Ge三元化合物、Te−Ge−Sb−S四元化合物等)等のGeおよび/またはSbと共にカルコゲンを含む相変化物質も好ましい。GeTe単独またはCdTeを有する溶液中のGeTeは、別の好ましい実施形態を構成する。他の好ましい実施形態において、相変化物質は、特に、Sbおよび/またはTeと共に、Agおよび/またはInを含む。AgInSbTe系(AIST)及びGeInSbTe系(GIST)は、別の好ましい実施形態である。他の好ましい実施形態において、相変化物質は、カルコゲンと、Cr、Fe、Ni、Nb、Pd、Ptまたはこれらの混合物及び合金等の遷移金属とを含む。本発明による用途に適した相変化物質のいくつかの実施例は、上述した本願明細書に引用する米国特許に記載されている。また、本発明との関連で適している物質は、誘電体と相変化物質との混合物も含んでもよい。このような混合物の実施例は、同一出願人による米国特許第6,087,674号明細書に記載されており、特許の開示を本願明細書に引用する。
【0055】
能動的な機能性は、上記能動型領域に含まれるカルコゲニド物質からなる体積の結晶化率の変化に伴って生じる能動型領域の特性の変化によって本願の格子中に実現される。相変化カルコゲニド物質の光学的特性及び電気的特性は、結晶状態と非晶質状態により異なる。結晶状態と非晶質状態により異なる代表的な特性は、屈折率、吸収率、誘電定数、誘電率、伝導度、インピーダンス、容量、容量性リアクタンス、インダクタンス及び誘導性リアクタンスを含む。部分的に非晶質であり、かつ部分的に結晶性である構造状態のカルコゲニド領域は、通常は、純粋に結晶性状態の特性と、純粋に非晶質状態の特性との中間の値の特性を有する。上述した本願明細書に引用する同時係属中の米国特許出願10/226,828号明細書は、結晶体積比の変化に伴うカルコゲニド物質の反射率特性、透過特性及び吸収特性の変化を説明している。
【0056】
格子の能動型領域に含まれるカルコゲニド物質の異なる構造状態のインピーダンス又は複素伝導度の変化は、本願の格子にとって特に重要である。物質のインピーダンスは、回路要素が交流電流の流れに対して示す抵抗の測定値を示す複素数である。インピーダンスは、抵抗(インピーダンスの実数部)とリアクタンス(インピーダンスの虚数部)とを含む。また、リアクタンスは、容量性寄与(容量性リアクタンス)と誘導性寄与(誘導性リアクタンス)とを含み、容量性及び誘導性リアクタンスは互いに符号が相反しその和がリアクタンスを生成する。リアクタンスの符号により、リアクタンスは、交流電流の位相角に対して容量性または誘導性のいずれかになる。インピーダンスの逆数は、物質のアドミタンスまたは複素伝導度である。アドミタンスは、実数部(コンダクタンス)と虚数部(サセプタンス)とを含む。さらに、サセプタンスは、容量性寄与(容量性サセプタンス)と誘導性寄与(誘導性サセプタンス)とを含み、容量性及び誘導性サセプタンスは、互いに符号が相反しその和がサセプタンスを生成する。
【0057】
インピーダンス及びアドミタンスは、それらに関連する位相角を有し、位相角のタンジェントは、それぞれインピーダンス及び複素伝導度の虚数部と実数部との比によって表される。複素数の位相角は、実数部及び虚数部の符号により正または負になる。インピーダンス及び複素伝導度の実数部は正であるため、インピーダンス及び複素伝導度の位相角の符号は、それらの虚数部の符号によって決まる。インピーダンス及び複素伝導度の虚数部への容量性及び誘導性寄与は、異なる符号を有するため、インピーダンス及び複素伝導度の位相角の符号は、容量性及び誘導性寄与の相対的バランスによって決まる。
【0058】
図3は、電磁波の周波数の関数としての代表的カルコゲニド物質(Ge2Sb2Te5)の複素伝導度の実数部、虚数部及び位相角の変動を示す。図3に示す曲線は、Ge2Sb2Te5の結晶相に対応する。複素伝導度の実数部(greal)及び複素伝導度の虚数部(gimag,を−gimagとしてで示す)は、図3の左側の縦座標軸であらわし、位相角は、図3の右側の縦座標軸であらわす。図3は、結晶性Ge2Sb2Te5のコンダクタンス、サセプタンス及び位相角が周波数依存性であることを示し、また、入射する電磁波電磁波の反射、透過及び位相角に対する結晶性Ge2Sb2Te5の影響もまた周波数依存性であることを示している。結晶性Ge2Sb2Te5の抵抗及びリアクタンスも周波数依存性である。
【0059】
Ge2Sb2Te5の非晶相は、結晶相よりもかなり小さい導電性を持ち、複素伝導度及びインピーダンスの実数部及び虚数部はかなり小さな値を有する。その結果として、Ge2Sb2Te5の結晶相及び非晶相は、入射する電磁波に異なった影響を与える。部分的に結晶性でかつ部分的に非晶質であるGe2Sb2Te5からなる領域は、純粋な結晶相及び純粋な非晶相の値の組合せを反映する抵抗、リアクタンス及びコンダクタンスを有する。部分的に結晶性である領域は、通常は結晶相及び非晶相の値の中間の特性に相当する値を有する。
【0060】
図3に示す全般的な原理は、一般に、相変化カルコゲニド物質に適用できる。カルコゲニド物質からなる体積の結晶化率を変化させることにより、入射する電磁波に対するカルコゲニド物質の影響を変えることが可能である。金属ストリップ、誘電材料及び能動型コンポーネントまたは物質等の全ての構成ユニットを含む本願の格子素子の、入射する電磁波電磁波の反射、透過および/または位相に対する全体の影響は、全体として、格子素子のインピーダンスまたはアドミタンスの点から説明することができる。能動機能性は、能動型コンポーネントとして含まれるカルコゲニド体積の結晶化率を変化することによって本願の素子から得られる。本願の素子の能動型カルコゲニド領域の異なった構造状態は、本願の素子の全体のインピーダンスまたは複素伝導度にそれぞれ異なって寄与し、それにより、入射する電磁波の反射、透過及び位相角特性に対して本願の素子の調整可能な実施成果を実現できる。
【0061】
本願の素子は、ビーム・ステアリング能力を伴うかまたは伴わないで反射かまたは透過素子として用いることができる素子を含む。ビーム・ステアリングを伴わない反射素子は、電磁波の入射ビームを正反射方向へ反射させる素子であり、この場合、反射ビームは、入射ビームとは異なる位相角または異なる集束の程度を持つことも出来る。ビーム・ステアリングを伴う反射素子は、電磁波の入射ビームを非正反射方向へ反射させる素子であり、この場合、反射ビームは、入射ビームとは異なる位相角または異なる集束度を有することが出来る。ビーム・ステアリングを伴わない透過素子は、電磁波の入射ビームを素子中に誘電体がもしあればそれによる屈折効果によって入射方向を修正した方向に透過させる素子であり、この場合、透過ビームは、反射ビームとは異なる位相または異なる集束度を持つことが出来る。例えば、独立型格子においては、格子は、誘電体によって支持されておらず、空気に囲まれている。空気は、1に非常に近い屈折率を有するため、本発明によるビーム・ステアリングを伴わない透過性独立型格子は、電磁波を殆ど入射方向に透過させ、この場合、透過ビームは、入射ビームとは異なる位相または異なる集束度を持つことが出来る。格子が誘電体で支持されている素子においては、本発明によるビーム・ステアリングを伴わない透過性素子は、電磁波を透過させかつ屈折させて、誘電体の屈折率によって入射方向を修正した方向に透過ビームを生成する。電磁波に対する誘電材料の屈折率の影響は、スネルの法則によって通常あらわされる。本発明によるビーム・ステアリングを伴わない透過性素子による入射ビームの透過の方向は、正屈折方向と呼ぶことができる。本発明によるビーム・ステアリングを伴う透過素子は、正屈折方向以外の方向に電磁ビームを透過させる素子であり、この場合、透過ビームは、入射ビームとは異なる位相または集束度を持つことが出来る。ビーム・ステアリングを伴う透過素子においては、ビーム・ステアリングは、入射方向を屈折によっての方向変化に加えて、電磁波にまた別種の方向変化を起こさせる。
【0062】
本願の素子の能動型カルコゲニド領域の位相角特性は、ビーム・ステアリングが実現出来るか否かが決定される。同時係属中の米国特許出願第10/226,828号明細書に記載されているように、ビーム・ステアリング効果(例えば、非正反射性の反射)は、表面または基板上に配置された個別のカルコゲニド領域からなるパターンの分散特性を制御することにより、達成することができる。より具体的には、ビーム・ステアリングは、カルコゲニド領域からなる配列における1つまたは1つ以上の方向の相テーパーの存在によって実現することができ、この場合、相テーパーは、このパターンにおいての1つのカルコゲニド領域から別の領域までのカルコゲニド物質の位相角の変化に相当する。相テーパーの存在は、1つの領域から別の領域までゼロでない位相差、及びカルコゲニド領域のパターンの全域での位相角の非均一な分布を包含する。
【0063】
能動カルコゲニド領域が、作動波長よりも小さい本願の素子の実施形態において、相テーパーの構成は、上述した有効媒質近似の観点から考えることができる。有効媒質近似によれば、入射する電磁波は、作動波長程度のサイズを有する本願の素子の部分に影響される。サブ波長サイズを有する様相は、電磁波に別々にではなく集合的に影響を及ぼし、多数のサブ波長様相に関する平均に相当する有効な特性または影響を呈する。本願の素子において、有効媒質近似は、1つまたは1つ以上の方向にサブ波長寸法を有する能動型カルコゲニド領域の結晶化率及び結晶化率に依存する特性(例えば、インピーダンス、アドミタンス、分散特性)に対して適用可能である。有効媒質近似の考え方によれば、相テーパーは、格子内の特定の方向の一連の隣接する能動型カルコゲニド領域の各々の結晶化率が異ならねばならないという条件には限定されない。その代わり、、結晶化率の変化が、1つの格子の隣接する重なり合っているまたは部分的に重なり合っている波長スケールまたはより小さい部分の間に存在している場合、この場合、各波長スケールまたはより小さい部分が複数のサブ波長の能動型カルコゲニド領域を備え、また、特定の波長スケールまたはより小さい部分内の隣接するサブ波長の能動型カルコゲニド領域間の結晶化率の変化または差が必ずしも存在していない場合に、相テーパーが存在することもできる。換言すれば、平均結晶化率が、1つの格子内の1つ又は1つ以上の方向に並列した異なる波長スケールまたはより小さい部分おいて変化し、各波長スケールまたはより小さい部分が複数のサブ波長の能動型カルコゲニド領域を備える場合にも本発明による相テーパーは存在する。
【0064】
1つの素子の波長スケールまたはより小さい部分は、本願明細書において、ドメインと呼ぶことができる。ドメインは、素子の一部であって、その少なくとも1つの縦か横かの断面寸法が素子の作動波長(素子に入射する電磁波の波長)よりも大きくないものである、。好ましくは、ドメインは、作動波長よりも大きくない2つの断面寸法を含み、最も好ましくは、これら2つの断面寸法は、作動波長よりも小さい。作動波長よりも小さい寸法は、本願明細書において、サブ波長寸法と呼ぶことができる。少なくとも1つのサブ波長断面寸法を有するドメインは、本願明細書において、サブ波長ドメインと呼ぶことができる。サブ波長断面寸法を有しないドメインは、本願明細書において、波長スケールドメインと呼ぶことができる。好ましい実施形態において、1つのドメインの波長スケールまたはサブ波長寸法は、素子の平面内の断面寸法に相当する。本発明によるドメインは、複数のサブ波長の能動型カルコゲニド領域を含む1つの素子の波長スケールまたはサブ波長の部分である。1つのドメインにおいて、サブ波長のカルコゲニド領域の位置設定に関しては、特定の要件は何も課せられない。能動型カルコゲニド領域は、1つのドメイン内で、不規則に、周期的にまたはその他の方式で配置または位置設定することができる。1つのドメイン内での能動型カルコゲニド領域の配置と、その素子内でのドメインの配置との間に相関関係を持たせる必要ない。例えば、周期的に配置されたドメインは、周期的に、非周期的にまたはその他の方式で配置されている能動型サブ波長カルコゲニド領域を含んでもよい。異なるドメイン内のサブ波長カルコゲニド領域の配置の関係、対応または相関関係は、何も要求されない。
【0065】
別の好ましい実施形態において、各素子のドメインは、周期的である。この実施形態においては、素子は、複数の周期的に配置されたドメインからなり、この場合、ドメインは、寸法が殆ど同一であり、また、ドメインは、波長スケールまたはサブ波長の寸法とすることができる。ドメインの周期的配列において、個々のドメインは、回折部位として機能する可能性があるので、ドメインの大きさを適切に調節することにより、回折を最小限にすることが好ましい。個々のドメインからの回折は、サブ波長ドメインよりも波長スケールのドメインにおいてより顕著である。そのため、サブ波長のドメインは、好ましい実施形態であり、特に好ましい実施形態は、ドメインが、回折効果を回避または最小限にするために、波長スケールよりも十分に小さい実施形態である。入射する電磁波の入射角などの作動条件は、ドメインが、回折効果を回避または最小限にするためにどの程度サブ波長でなければならないかに影響を及ぼす。ドメインの回折効果の回避または最小化は、垂直でない角度で入射する電磁波と比べて、垂直に入射する電磁波の場合には、より大きなサブ波長ドメインを用いて実現することができる。入射の方向が、素子に直角の方から次第にそれるにつれて、回折効果を回避または最小限にするには、ますます小さい寸法のサブ波長ドメインが必要である。
【0066】
ある種の相テーパーは、本願明細書において、連続型相テーパーと呼ぶことができ、この場合、1つの素子の特定の方向に沿って、一連の連続カルコゲニド領域の各々の結晶化率は単調に増加または減少する。連続型相テーパーを有する、本発明による格子の一部の実施例を図4Aに示し、図は、水平方向に沿って、それぞれ結晶化率f1、f2、f3及びf4を有する能動型カルコゲニド領域105、115、125及び135と、導電性セグメント145とを含む連続型相テーパーを示し、ただし、f1<f2<f3<f4である。この実施例において、結晶化率は、右水平方向に配列した連続する能動型カルコゲニド領域にわたって単調に増加する関数である。或いは結晶化率は、左水平方向に単調に減少する関数と見ることができる。
【0067】
ある種の相テーパーは、本願明細書において、不連続方相テーパーと呼ぶことができ、平均結晶化率は、1つの素子の特定の方向に沿って、一連の連続する重なり合っていないまたは部分的に重なり合っているドメインの各々に対して単調に増加または減少し、この場合、各ドメインは、複数のサブ波長能動型カルコゲニド領域を含み、また、1つのドメイン内の特定の方向における一連の連続する能動型カルコゲニド領域の各々の結晶化率は、単調で連続的に増加または減少してもしなくてもよい。正方形状のドメインの実施例を図4Bに示す。ドメイン205は、上記格子の作動波長のスケールより小さい固有のドメイン寸法を有する。図4Bの実施形態のドメイン205は、正方形状であるため、ドメインは、波長スケールより小さい2つの固有の寸法を含む。それらの寸法は、図4に“λ又はλ以下”で示されている。ドメイン205は結晶化率f1〜f9、(一般表現としてfiと呼ぶことができる)と、垂直方向の導電性ストリップ225と、水平方向の導電性ストリップ235とを有するサブ波長の能動型カルコゲニド領域215を含む。図4Bの実施形態において、ドメインは、9つの能動型カルコゲニド領域を含む。ドメイン205の結晶化率は、個々のカルコゲニド領域にわたって平均することによって得ることができる。個々の能動型カルコゲニド領域の結晶化率は、別々に制御可能であるため、また、ドメインの結晶化率は、いくつかの個々のカルコゲニド領域にわたる平均として得られるため、ドメインの結晶化率の特定の値を多くの方法で実現することができることは明白である。
【0068】
正方形状の波長スケールまたはより小さなドメインから形成される不連続型相テーパーの実施例を図4C及び図4Dに示す。図4Cの実施形態は、水平方向に整列された重なり合っていない正方形状ドメイン245、255及び265を含む1つの素子の一部である。ドメインの各々は、複数のカルコゲニド領域(図示せず)を含む導電性格子(図示せず)を含む。例として、ドメイン245、255及び265の各々は、図4Bに示す9つの能動型カルコゲニド領域を有する導電性格子を含んでもよい。ドメイン245、255及び265は、同じ数または異なる数の個々の能動型カルコゲニド領域と、同じまたは異なる格子形状または構成とを含んでもよい。1つのドメイン内の格子は、他のドメイン内の格子に物理的に接続されていても接続されていなくてもよい。ドメイン245、255及び265は、それぞれ、ドメイン結晶化率F1、F2及びF3を有し、ただし、各結晶化率Fiは、ドメイン内に含まれる個々の能動型カルコゲニド領域の結晶化率fiの平均として得られる。本発明においては、ドメイン245、255及び265は、一連の連続するドメインを示し、各ドメイン内の個々の能動型カルコゲニド領域の結晶化率の特定の値または数値変化傾向にかかわらず、この場合には水平方向に不連続型の相テーパーが存在している。ここで 例えば F1>F2>F3またはF3>F2>F1である。上述したように、特定のドメインの結晶化率Fiは、結晶化率がfiである複数の個々のサブ波長能動型カルコゲニド領域にわたる平均として得る場合にはそれは多くの方法で実現することができる。従って、本発明においては、相テーパーは、1つのドメイン内の連続する一連の個々のカルコゲニド領域が単調に増加または減少しない場合でも存在することができる。
【0069】
本発明においては、重なり合っていないドメインは、隣接的または非隣接的とすることができる。隣接的ドメインは、図4Cの実施形態と同じように、重なり合わないが、互いに接するドメインである。非隣接的ドメインは、隣接するドメイン間にギャップが存在して境界を共有することなく空間的に分離されて非隣接単位としてつながっている、重なり合っていないドメインである。この実施例を見ると、一連の隣接的なまたは非隣接的なドメインに関する平均結晶化率が単調に増加または減少する場合、相テーパーが存在し、かつビーム・ステアリングが可能であり、この場合、各ドメインは、複数のサブ波長の能動型カルコゲニド領域を含む。
【0070】
図4Dは、水平方向に向けられ、重なり合っている正方形状ドメイン275(実線)、285(一点鎖線)及び295(点線)を有し、かつそれぞれ、各ドメイン内に含まれる個々の能動型カルコゲニド領域の結晶化率fiを平均することにより得られるドメイン平均結晶化率F1、F2及びF3を有する1つの格子の一部の実施形態を示す。本発明による不連続型相テーパーがこの実施形態に存在しており、ドメインのF1、F2及びF3は、単調に増加または減少する。
【0071】
上述したように、不連続型相テーパーを形成するドメイン内の能動型カルコゲニド領域の配置または位置決めは制約を受けず、周期的、非周期的またはその他の方式にすることができる。また、1つのドメインまたは複数のドメイン内の能動型カルコゲニド領域の数、サイズまたは形状も制約を受けず、同様にする、異ならせる、相互に関連させる、相互に関連させない等とすることができる。1つのドメイン内で平均した結晶化率は、不連続型相テーパーを達成する際に考慮しなければならない事項である。
【0072】
不連続型相テーパーを含む実施形態では、複数のサブ波長カルコゲニド領域を持つドメイン内で平均した結晶化率ついての結晶化率勾配が得られる。特定のサブ波長領域のまたは特定の一連のカルコゲニド領域にわたる結晶化率は、不連続型相テーパーの場合には、制約を受けない。結晶化率勾配を生成し、かつ相テーパーを得るのに必要な結晶化率の必要条件は、ドメインの寸法スケールに適用されるのみで、、ドメイン内の個々の能動型カルコゲニド領域においては結晶化率は様々な異なる組合が可能である。ドメインの結晶化率について総合的に結晶化率勾配を平均として構成する必要性以外には、ドメイン内の個々の能動型カルコゲニド領域は特定の条件を満たす必要はない。このような必要条件がないことが、不連続型相テーパーの確立における柔軟性をもたらし、また、本発明の場合に、ビーム・ステアリング、集束および/または波面補正を実現するのに必要な位相角制御を達成するための異なるモードを可能にする。
【0073】
特定の結晶化率を有するドメインの形成は、多元状態モードまたは2進モードで達成することができる。多元状態モードにおいては、1つのドメイン内の個々の能動型カルコゲニド領域の結晶化率を制御する際に、3つ又は3つ以上の構造状態が用いられる。各個々のカルコゲニド領域は、3つ又は3つ以上の構造状態からなる予め選択されたセットのうちの1つで存在し、状態の予め選択されたセットのうちのいくつかまたは全ては、1つのドメイン内のサブ波長カルコゲニド領域内に実現されている。3つ又は3つ以上の構造状態は、非晶質状態、結晶状態または部分的結晶状態の中から選択することができ、複数のサブ波長カルコゲニド領域にわたる構造状態の分布は、所望のドメインの結晶化率を得る必要性によってのみ限定される。特定の能動型カルコゲニド領域の結晶化率は、他の能動型カルコゲニド領域の結晶化率と関連性があったり、また何かの形でそれに依存する必要はない。多元状態素子の再構成は、素子に関連する予め選択された構造状態のセットの範囲内での、1つ又は1つ以上の個々の素子の1つの構造状態から別の構造状態への構造変換の誘発を伴う。1つのドメインの結晶化率は、1つのドメインに含まれる全てのカルコゲニド領域または領域の一部を変化させることによって変化させることができる。
【0074】
2進モードにおいては、1つのドメイン内の個々のサブ波長能動型カルコゲニド領域は、2つの構造状態のうちのどちらかの状態に限定されている。複数のサブ波長カルコゲニド領域が1つのドメイン内に存在しているため、2つの構造状態を統計的に平均すると、ドメインの結晶化率として2つの選択された2進状態の結晶化率の間の中間値をとることになる。好ましい2進モードの実施形態においては、2つの2進構造状態は、結晶性状態及び非晶質状態を選択する。複数のサブ波長カルコゲニド領域にわたって、結晶性および/または非晶質状態のパターンを配置することにより、中間値を含み0%〜100%に及ぶ広範囲の結晶化率が可能である。一連のドメインにまたがる不連続型相テーパーは、多元状態モード、2進モードまたはそれらの組合せのいずれかで形成することができる(例えば、2進モードでプログラムされたいくつかのドメイン、多元状態モードでプログラムされたいくつかのドメイン)。
【0075】
ビーム・ステアリング能力を伴わない本発明の実施形態は、その能動型領域が、素子の全域で殆ど均一な結晶化率を有するカルコゲニド体積を含む素子を含む。すなわち、ビーム・ステアリング能力を伴わないそれらの素子においては、複数の能動型カルコゲニド領域またはドメインが存在し、この場合、各能動型領域またはドメインにおけるカルコゲニド体積の結晶化率は、殆ど同じである。その結果として、カルコゲニド領域の位相角特性は、殆ど同じであり、また、素子内において1つのカルコゲニド領域またはドメインから他方へは、位相角差は殆ど生じない。別の視点で見ると、能動型領域またはドメインの全域での結晶化率の均一性は、異なる能動型領域またはドメインの局所インピーダンス、伝導度、リアクタンス、サセプタンス等における同値、または殆どの同値を意味する。その結果として、相テーパーは存在せず、かつビーム・ステアリング効果は得られない。
【0076】
ビーム・ステアリングを伴わない素子のこれらの実施形態は、正反射性の反射または正屈折方向の透過をもたらし、また、入射する電磁波の位相を変更する可能性もある。これらの実施形態において、能動型カルコゲニド領域は、上記素子の全域で均一な結晶化率を有する。しかし、この均一な結晶化率は、可変であり、純粋な非晶質領域と純粋な結晶性領域との間の値を持つ能動型領域のいずれかの構造状態も実現できるように構成または再構成することができる。各構造状態は、別個の位相角を有し、入射する電磁波の位相角に相異なる影響を与える。そのため、ビーム・ステアリング能力を伴わない本発明のこれらの実施形態によって生成される反射または透過ビームの位相角は、入射ビームの位相角とは異なることがある。従って、ビーム・ステアリングを伴はない素子は、入射電磁波の位相角の調節を実行できる。本願明細書において、以下の実施例3でより十分に説明するように、本発明は、入射する電磁ビームの集束の度合いを変更する、ビーム・ステアリングを伴わない素子も含む。
【0077】
ビームステアリング能力を伴う本発明の素子は、相テーパーを持つ能動型カルコゲニド領域またはドメインを含む。相テーパーは、以下に説明するように、本願の素子の能動型カルコゲニド領域またはドメインの全域に分布する位相角特性の非均一な分布に相当する。本発明において、1つの格子の2つ又は2つ以上の能動型領域またはドメインの全域のカルコゲニド体積の結晶化率の変化が、相テーパーをもたらす。上述したように、カルコゲニド相変化物質のインピーダンス、複素伝導度、サセプタンス、リアクタンス等は、複数のサブ波長カルコゲニド領域を含むカルコゲニド領域またはドメインの構造状態及び結晶化率とともに変化する。本願の素子における一連のカルコゲニド領域またはドメインの全域の結晶化率変化を制御することによって、カルコゲニド領域またはドメイン間の位相角のゼロでない差を設定すること、および反射および/または透過におけるビーム・ステアリング能力を実現することが可能である。本願の素子の能動型カルコゲニド領域またはドメインの全域での1つ又は1つ以上の方向における結晶化率の勾配は、ビームステアリング、集束、波面補正等の能力を実現するのに用いることができる相テーパーをもたらす。結晶化率の勾配は、その全域で、少なくとも2つの異なる構造状態または少なくとも2つの異なるドメイン平均の結晶化率が存在する2つ又は2つ以上の能動型領域またはドメインを含む。
【0078】
本願明細書で用いるビーム・ステアリングとは、非正反射性の反射または非正屈折性の透過を指す。また、ビーム・ステアリングは、非正反射方向の反射または非正屈折方向の透過と呼ぶこともできる。ビーム・ステアリングの度合い(例えば、正反射性の反射または正屈折性の透過からのずれ)は、本願の素子の能動型カルコゲニド領域またはドメインの間の位相角の差によって決まる。位相角の差は、素子の能動型領域またはドメインでの1つ又は1つ以上の方向における空間的に変化する結晶化率によるカルコゲニド物質のインピーダンス、複素伝導度、リアクタンス、サセプタンス等の局所的変化の結果である。従って、ビーム・ステアリング(および集束および/または波面補正)の度合いは、本願の素子の能動型カルコゲニド領域の間の間隙と、連続型相テーパーが存在する能動型カルコゲニド領域での結晶化率の変化とに依存し、、また、ドメインの寸法及び不連続型相テーパーが存在する一連のドメインでの結晶化率の変化に依存する。著しい結晶化率の勾配は、より大きな度合いのビーム・ステアリングをもたらし、また、例えば、隣接するカルコゲニド領域またはドメインを1つ又は1つ以上の方向に近接して配置することにより、および/または隣接する領域またはドメインの間の結晶化率を著しく増加させることにより、達成することができる。カルコゲニド領域または小さなドメインを接近した間隔で配置することおよび/または領域間またはドメイン間の結晶化率を大きく変化させることは、著しい結晶化率勾配の生成、素子での大きな相テーパー及びより大きな度合のビーム・ステアリングをもたらす。これと対照して、結晶化率の少ない変化を示す幅広い間隔をおいて配置されたカルコゲニド領域またはドメインは、素子上のより小さな相テーパー及びより小さな度合いのビーム・ステアリングをもたらす。
【0079】
相テーパーにより得られる全体の位相角の差は、相テーパーの原因となる結晶化率の勾配によって決まる。より具体的には、本願の素子における一連のカルコゲニド領域またはドメインの全域に存在する結晶体積比の値の範囲は、本願の素子によってもたらされる全体の位相角の差及びビーム・ステアリングの度合いに影響を及ぼす。カルコゲニド物質の位相(即ちビーム・ステアリング、集束、波面補正等に対するカルコゲニド領域またはドメインの影響)は、その構造状態(または複数の領域の場合は、複数の構造状態)によって規定され、この場合、最も顕著な及び最も少ない効果が結晶状態及び非晶質状態のカルコゲニド物質におこり、中間の結晶化率の状態においては中間の効果をもたらす。
【0080】
一連の能動型カルコゲニド領域または一連のドメインにおいて、純粋に結晶性の状態から純粋に非晶質の状態に及ぶ結晶化率の勾配を有する(連続型または不連続型の)相テーパーは、一般に、一連の領域またはドメイン全域に最大の位相角の差をもたらすことが予測され、そのため、最大の度合いのビーム・ステアリング、集束、波面補正等をもたらす。同じ一連のカルコゲニド領域またはドメインの構造状態にわたっての結晶化率の体積比がより小さく変化する相テーパーは、より小さな度合いのビーム・ステアリング、集束、波面補正等をもたらす。
【0081】
本発明において、結晶化率の勾配は、一連の能動型カルコゲニド領域またはドメインにわたる結晶化率を制御し、それによって、異なる能動型領域の構造状態または異なるドメイン内の構造状態を制御することにより、生成することができる。上述したように、および本願明細書に引用する参考文献において、相変化物質の結晶化率の体積比は、カルコゲニド相変化物質からなる領域内の適当な位置への適当な速度で適当な量のエネルギの慎重巧妙な印加によって、高い精度で容易に制御することができる。0%〜100%に及ぶ一連の結晶化率の体積比が実現可能であり、それにより、一連のカルコゲニド領域またはドメインにわたって実質的にどのような範囲の結晶化率の勾配も生成可能である。その結果として、ビーム・ステアリング、集束、波面補正等の度合いの厳密な制御が本願の素子において実現可能である。
【0082】
さらに、本願の素子は、ビーム・ステアリング、集束及び波面補正等の能力の動的調整を可能にする動的能力をもたらす。動的調整能力は、カルコゲニド物質からなる体積の結晶化率を可逆的に変更する能力に由来する。カルコゲニド物質からなる体積の結晶性、非晶質及び部分的に結晶性、部分的に非晶質の構造状態の間の相互変換は、容易に達成され、また、その結果として、ビーム・ステアリング、集束、波面補正等の性能を修正するための結晶化率の勾配または相テーパーの再構成が、素子において可能である。例えば、正反射性の反射または正屈折性の透過からのずれの程度は、結晶化率の勾配の存在する部分の結晶化率の体積比を変化させることにより変化させることができる。一般に、本願の素子の特定の一連の能動型カルコゲニド領域またはドメインにおいて、狭い範囲の結晶化率の値による結晶化率の勾配は、広い範囲の結晶化率の値による結晶化率勾配よりも小さなずれをもたらす。異なる能動型領域における結晶化率の体積比または素子のドメインの平均結晶化率を変化させることにより、様々な度合いのビーム・ステアリング、集束、波面補正等を実現することができる。特定の結晶化率の勾配(連続型または不連続型相テーパーのいずれの場合においても)は、容易に再構成されて、異なるビーム・ステアリング、集束または波面補正等の能力を有する新たな勾配が形成される。また、カルコゲニド領域の結晶化率の再構成の速度も速い。本発明者等は、急冷による非晶質相の生成が、ナノ秒桁以下のタイムスケールで起き、また、結晶化が、10〜60nsのタイムスケールで起きると推測する。これらのスピードは、MEMS素子等の機械的に再構成可能なシステムの物理的動きに関連する速度よりも何桁も速い。本願の相変化物質はまた、多くの再構成に対して安定的である。例えば、本発明者等は、相変化物質の非晶質状態と結晶状態との間の相互変換の可逆性は、少なくとも3×108サイクルの間維持されると推定する。
【0083】
再構成能力に加えて、カルコゲニド物質の能動型コンポーネントとしての利用は、その複数の状態の各々を、PINダイオード等のデバイスの順方向および/または逆方向バイアス状態を維持するのに必要なバイアスエネルギ等のエネルギを持続的に印加する必要性を伴うことなく、恒久的に維持することができるため、有利である。カルコゲニド物質の異なる状態は、不揮発性であり、電力が取り除かれても持続する。これに反して、ダイオード、トランジスタ及び他の電子デバイスの異なる状態は、揮発性であり、電力の除去時に消える。その結果として、電子デバイスを含む能動型格子のエネルギ要件は、本発明の素子のパワー要件よりもはるかに高度である。本願の素子においては、エネルギは、カルコゲニド物質の状態を変化させることにのみ必要である。エネルギは、素子が一旦、特定の状態に変換されると、格子の機能を維持するのには必要ない。
【0084】
本願の格子は、入射する電磁波の伝播特性を変更する。格子は、入射する電磁波を受け入れて、その位相を変更して、反射および/または透過電磁波を生成する。反射または透過電磁波は、非正反射方向に、または、非正屈折方向に向けることができ、および/または集束または焦点ぼけさせることができる。また、波面補正も可能である。本願の素子の異なる実施形態の入射する電磁波に対する代表的な影響を、以下に示す実施例において説明する。本願の素子は、電磁スペクトルの全範囲の入射電磁波に対して作用する。導電性ストリップまたはセグメントからなる格子の周期的間隔を、入射する電磁波に応じて適切に寸法を調節することにより、本発明による素子を、、電磁スペクトル中の殆すべての部分に属する波長の入射電磁波に影響を及ぼすように構成することができる。本願の素子によってもたらされる位相効果は、その波長が、格子の周期間隔以上である入射電磁波に対して作用可能である。好ましい実施形態において、テラヘルツ周波数範囲の波長を有する入射する電磁波は、本願の素子の影響を受ける。この実施形態は、マイクロ波および/またはrf電磁波の反射および/または透過において、ビーム・ステアリングまたはビーム整形に適用可能な従来技術はこの波長範囲では利用出来ないため、好適である。本発明の素子は、再構成可能なビーム・ステアリング、集束および/または波面補正能力を実現することができるとともに、格子の広い領域において非晶質マークを形成することに関連する実施上の障害を回避することができる。本願の素子は、導電性格子とカルコゲニド物質からなる能動型領域とを組合わせることにより、テラヘルツ周波数用の扱いやすいサイズの能動型領域の利用に有効に影響力を及ぼす。
【0085】
本発明の代表的な実施形態を以下の実施例において示す。これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、また、本発明の全範囲を限定するものではない。
【0086】
実施例1
この実施例においては、ビーム・ステアリングを伴わない固定素子について説明する。この素子を図5Aに示す。素子は、水平方向の導電性ストリップ240、導電性セグメント230、カルコゲニド物質からなる体積を含む能動型領域210及びカルコゲニド領域210と導電性セグメント230との間の接合部250を含む垂直方向の導電性ストリップ220とを含む、格子周期gを有する正方形状格子200を含む。能動型カルコゲニド領域210は、導電性セグメント230と直列に接続されて垂直方向のストリップ220を構成する。能動型カルコゲニド領域210は、導電性セグメント230を相互接続すると考えることもできる。この実施形態においては、各能動型領域210は、2つの導電性セグメント230を相互に接続する。能動型領域210は、円として概略的に描かれているが、能動型領域の、または、その中にあるカルコゲニド物質からなる体積の形状は、円形に限定されない。この実施例及び本願明細書において、以下に説明する実施例に含めて、どのような形状を有するカルコゲニド領域も、本発明の範囲内にある。この実施例の素子は、格子200を、独立型格子、基板または誘電体によって支持された格子、あるいは、2つ又は2つ以上の誘電体の間に挿入された格子を含む。素子の等価回路を図5Bに示し、ここで、Cは、格子の容量であり、Lは格子のインダクタンスであり、ZS/n1及びZS/n2は、上述した図1Bについて説明した格子を囲む2つの誘電体のインピーダンスである。カルコゲニド領域は、格子のインダクタンスLと直列関係で示されている。
【0087】
この実施形態において、カルコゲニド領域210の結晶化率は、格子の全域で均一である。すなわち、格子の異なる能動型領域に含まれるカルコゲニド物質からなる体積の結晶化率は、殆どに同じである。素子の入射する電磁波に対する影響は、能動型カルコゲニド領域の構造状態に依存する。カルコゲニド物質の非晶質相は、垂直方向の導電性ストリップ220中の電流の流れを妨げる低導電性相である。カルコゲニド領域210が非晶質である場合、カルコゲニド領域210と垂直方向のセグメント230との間の接合部250は、主として容量性であり、カルコゲニド領域の格子インピーダンスに対する主な効果は、容量性である。より具体的には、非晶質のカルコゲニド領域は、格子の容量性リアクタンスを高め、また、カルコゲニド領域は、図5Bに示す等価回路における格子のインダクタンスと直列なコンデンサとしてモデル化することができる。
【0088】
この実施形態のカルコゲニド領域が非晶質状態である場合、上記素子は、上記等価回路の直列共振周波数または直列共振周波数近傍での周波数の範囲において透過損失がほとんどない反射性素子として用いることができる。直列共振周波数において、非晶質カルコゲニド領域の容量性リアクタンスは、格子ストリップの誘導性リアクタンスを相殺またはほぼ相殺する。この共振周波数または共振周波数近傍において、格子は、垂直方向のストリップと平行な直線偏光した入射する電磁波に対して、殆ど短絡状態を呈する。高い反射性は、この状態の結果である。原則として、透過損失または他の損失を伴わない反射は、直列共振周波数または直列共振周波数近傍で起きる。実際には、、カルコゲニド領域を介して、または、反射効率を100%以下に低下させる周囲の何らかの誘電体によって、格子中損失がで生じる可能性がある。反射効率は、直列共振周波数に近いまたは等しい最適な周波数で最も高く、入射する電磁波の周波数が、この最適な周波数よりも高くまたは低くなるにつれて低下する。入射する電磁波の周波数が最適な周波数からずれるにつれて、素子は、より透過性になる。
【0089】
直列共振周波数(または、最適な反射の周波数)は、素子の設計パラメータとすることができる。非晶質カルコゲニド領域が、ロスがないという意味で理想的な上記等価回路の理想的なモデルを用いると、直列共振周波数が上記格子のインダクタンスとカルコゲニド領域の容量との積の平方根逆比例して変化する。格子インダクタンスは、上記導電性ストリップ及びセグメントの幅、形状および/または組成によって調節することができる。カルコゲニド領域の容量は、カルコゲニド領域のサイズ、形状、数、間隔および/または組成によって調節することができる。格子及びカルコゲニドのパラメータの適当な選択により、広範囲の入射周波数に対する、共振周波数及び高い反射効率が、この実施例の素子によって実現可能である。
【0090】
この実施例の上記実施形態のカルコゲニド領域がより結晶性になるにつれて、領域は、より導電性になる。カルコゲニドの導電性が増加するにつれて、カルコゲニド領域と上記導電性セグメントとの間の接合部は、容量性がより小さくなり、また、カルコゲニド領域のインピーダンスは、容量性リアクタンスが主要部でなくなり、相当の抵抗または誘導性リアクタンスからの寄与を含む。従って、結晶性または部分的に結晶性のカルコゲニド領域は、誘導性または抵抗性効果、および容量性効果を素子及びその等価回路に与える。
【0091】
カルコゲニド領域の容量性リアクタンスが誘導性リアクタンスまたは抵抗よりも重要でなくなるにつれて、上記素子は、より透過性になる。最適な透過は、容量性リアクタンスが無視できるほど小さくなったときに起きると予測される。透過は、周波数に依存し、入射する電磁波の周波数が、上記等価回路の並列共振周波数またはその近傍である場合に、透過が反射に比してより有効になる。カルコゲニド領域の容量性寄与が無視できるほど小さくなる極限では、並列共振周波数は、上記格子の導電性ストリップの誘導性リアクタンス(及びカルコゲニド領域に関連する、無視できるほど小さい誘導性リアクタンス)がその周波数で導電性ストリップの容量性リアクタンスを相殺する周波数である。
【0092】
また、並列共振周波数は、素子の設計パラメータとすることができ、格子の容量、カルコゲニドの伝導度、格子インダクタンス、誘電材料の選択、導電性ストリップの幅、形状及び間隔、カルコゲニド領域のサイズ等を調節することにより制御することができる。格子及びカルコゲニドのパラメータの適切な選択により、広範囲の入射周波数において、並列共振周波数および/高反射効率が、この実施例の上記素子に対して実現可能である。
【0093】
この実施例による格子の別な実施形態は、導電性ストリップと共に、複数のサブ波長カルコゲニド領域を持つドメインを含んでもよく、この場合、ドメインの平均結晶化率は、1つの素子内の一連のドメインにおいて、一定または殆ど一定である。例えば、図5Aに示す格子の部分は、能動型カルコゲニド領域210が、領域210の全体的寸法がサブ波長である十分に小さいサイズであることもできる。この実施形態において、図5Aに示す格子は、個々の領域210の結晶化率を平均化することにより得られる結晶化率を有するドメインであることも可能である。異なるドメインの平均結晶化率が等しいかまたは殆ど等しい、一連のこのようなドメインを持つ素子の構造は、この実施例において上述したように、反射および/または透過に対する機能性を実現できる。ドメインの寸法の規模における実施形態に関して、ドメインの結晶化率は、機能性を制御し、また、ドメインの平均結晶化率が設計値を満たす限り、特定のドメイン内の特定の能動型領域には結晶化率の必要条件は課されない。ドメインの寸法の規模における実施形態において、異なるドメインも、対応する結晶化率を有する個々の領域で構成される必要はない。特定のドメインでの平均結晶化率を実現するという必要条件を除いて、個々のカルコゲニド領域のレベルにおける結晶化率に対するいかなる相関関係または関係も任意である。所望のドメイン結晶化率の実現は、この発明の上記格子では多元状態または2進モードで実現することができる。
【0094】
実施例2
この実施例においては、ビーム・ステアリング能力を有する代表的な素子について説明する。具体的には、入射する電磁波のビーム・ステアリングを実行できる、実施例1で説明したのと同様の正方形状格子を有する素子を提示する。本願明細書において上述したように、また、同時係属中の米国特許出願第10/226,828号明細書に記述してあるように、ビーム・ステアリングは、連続型または不連続型の相テーパーを含む素子を用いて実現することができる。この実施例のいくつかの実施形態において、相テーパーは、素子の能動型領域での1つ又は1つ以上の方向に配列されたカルコゲニド物質内における結晶化率勾配の形成によって実現される。他の実施形態においては、相テーパーは、一連のドメインにわたる結晶化率勾配の形成によって実現され、各ドメインは、複数のサブ波長能動型カルコゲニド領域を備える。格子での1つ又は1つ以上の方向における能動型カルコゲニド領域の構造状態の非均一性は、連続型相テーパーの効果によりビーム・ステアリング能力をもたらす。多元状態または2進モードに基づく実施形態を含む不連続型の相テーパーを利用する類似の実施形態は、本発明の範囲内にある。
【0095】
本発明によるビーム・ステアリング素子の代表的な実施例を図6に示し、図は、図2Aに示されたのと同様の格子を示し、この場合、能動型領域におけるカルコゲニド物質内の結晶化率の分布は、非均一である。図6における線は、導電性ストリップまたはセグメントを示し、円は、カルコゲニド物質を含む能動型領域を示す。図6に示す実施形態の能動型領域は、垂直方向の導電性ストリップ内に配置されており、2つの導電性セグメントを相互接続する。図6に示す各能動型領域内のカルコゲニド物質の体積の結晶化率は、能動型カルコゲニド領域を表す円内の符号f1、f2またはf3で示されている。符号f1の領域は、全て同じ結晶化率を有し、符号f2の領域及び符号f3の領域も同様であり、ただし、f1、f2及びf3は、異なる結晶化率を指す。従って、図6に示す素子のカルコゲニド物質での水平方向には、結晶化率勾配が存在し、ビーム・ステアリングは、反射モードまたは透過モードにおいて行われる。
【0096】
ビーム・ステアリングは、非正反射方向の反射または非正屈折方向の透過を意味する。反射の正反射方向または透過の正屈折方向からはづれるビーム・ステアリングの特定の方向は、結晶化率f1、f2及びf3の相対的な順序付け及び大きさを調節することにより設定することができる。例えば、f2が、f1とf3との間の中間の値の結晶化率である場合、図6の素子は、正反射方向への反射又は正屈折方向への屈折からの正または負のずれを有するビーム・ステアリングを実現するのに用いることができ、この場合、ずれの方向は、この特定の実施例において、f1>f2>f3またはf1<f2<f3であるかに依存する。
【0097】
以上に相当するドメインの寸法の規模における実施形態も本発明の範囲内にある。ビーム・ステアリングは、不連続型の相テーパーを構成する結晶化率を持つドメインを有する素子を用いて達成することができる。例えば、連続する一連のドメインを含む素子であって、各ドメインが、複数のサブ波長能動型カルコゲニド領域を有し、F1、F2及びF3の平均結晶化率を有し、ここで F1<F2<F3またはF1>F2>F3であるドメインは本発明によるビーム・ステアリングを実現できる。任意の数のドメインを有する類似の実施形態も、ドメインの結晶化率が、多元状態または2進モードによって実現される実施形態と同様に可能である。
【0098】
一連の能動型領域またはドメインでの垂直方向、対角方向またはその他の方向の結晶化率勾配を有する図6の素子の変形例も本発明の範囲内である。例えば、図7は、垂直方向に結晶化率勾配を有する素子を示す。垂直方向、対角方向またはその他の方向に不連続型の相テーパーを有するドメインを用いる類似の実施形態も本発明の範囲内にある。適切な制御、及び1つ又は1つ以上の方向における連続型または不連続型の結晶化率勾配の形成によって、正反射性の反射の方向または正屈折性透過の方向からの広範囲な角度のずれを示す非正反射性の反射または非正屈折性の透過が可能であり、また、各個のずれの角度について円錐状方位角の方向への非正反射性の反射または非正屈折性の透過が可能である。非正反射性の反射または非正屈折性の透過の特定の方向は、結晶化率勾配を形成する上記能動型領域またはドメインの結晶化率の相対的な順序付け(f1>f2>f3かf1<f2<f3、またはF1<F2<F3かF1>F2>F3等)及びその大きさを調整することにより、得ることができる。
【0099】
上記能動型カルコゲニド領域が、垂直方向及び水平方向の導電性ストリップの交差部に配置されている、ビーム・ステアリング能力を有する素子を図8に示す。素子は、センチメートル(cm)程度の長さスケールからミクロン(μm)程度の長さスケールに及ぶ減少する長さスケールで全体像が示されている。センチメートルの長さスケールのグレースケール描写は、素子内での結晶化率の非均一性を示す。より明るい領域は、より低い結晶化率を示し、より暗い領域は、より高い結晶化率を示すとしてもよいし、またその逆でもよい。図7の素子の結晶化率勾配は、水平方向に生じ、連続型相テーパーまたは不連続型の相テーパーを形成する。ミリメートル(mm)の長さスケールでの描写は、水平方向及び垂直方向のストリップの部分、及び選択された能動型カルコゲニド領域の部分を示す拡大図である。結晶化率勾配は水平方向にあるが、mmスケール描写の長さスケールでは、結晶化率の変化が小さく、かつ能動型カルコゲニド領域のグレースケール表示から必ずしも容易に識別できない。mmスケールでの描写は、テラヘルツ周波数範囲の入射する電磁波の波長スケールドメインのサイズに略一致し、テラヘルツ周波数の電磁波用の、本発明による複数のサブ波長能動型カルコゲニド領域を含む正方形状ドメインの一実施例である。図8の実施形態においては、ミリメートルスケールのドメインの結晶化率が水平方向に著しく変化することは明らかである。μmスケールの描写は、上記垂直方向及び水平方向の導電性ストリップのセグメントを有するその接触部と共に、単一の能動型カルコゲニド領域を示すもう一段の拡大図である。この実施形態の能動型領域は、4つの導電性セグメントを相互に接続し、2つは、それぞれ、水平方向及び垂直方向の導電性ストリップである。
【0100】
この実施例の格子は、独立型格子、基板または誘電体によって支持された格子、あるいは、2つ又は2つ以上の誘電体の間に挿入された格子として用いることができる。
【0101】
実施例3
この実施形態においては、ビーム・ステアリング能力を有する別の素子について説明する。より具体的には、入射する電磁波を反射または透過モードで集束または焦点ぼけさせることが可能な素子について説明する。集束及び焦点ぼけ効果は、素子のカルコゲニド領域またはドメインでの1つ又は1つ以上の方向において、結晶化率の変化が非均一である複数のサブ波長カルコゲニド領域を持つ個々の能動型カルコゲニド領域またはドメインにおいて、結晶化率勾配を設定することにより実現することができる。例えば、結晶化率が増加し続ける部分と、結晶化率が減少し続ける他の部分とを有するような特定方向への結晶化度勾配により集束または焦点ぼけを実現できる。
【0102】
図9は、入射する電磁ビームを1つの方向に対称的に集束または焦点ぼけさせるのに用いることができる素子の一実施形態を示す。素子は、垂直方向の導電性ストリップ310と、水平方向の導電性ストリップ320と、水平方向の導電性ストリップと垂直方向の導電性ストリップの交差点に、カルコゲニド物質からなる体積を含む能動型領域330とを含む。能動型カルコゲニド領域の結晶化率は、f1、f2及びf3と標示されている。
【0103】
f1で標示された領域は全て、同じ結晶化率を有し、f2で標示された領域及びf3で標示された領域も同様であり、ただし、f1、f2及びf3は、異なる結晶化率を指し、f2は、f1とf3の中間の値である。従って、素子のカルコゲニド領域での水平方向には、結晶化率の勾配が存在し、結晶化率は、1つの部分で減少し、かつ別の部分で増加する。例えば、f1>f2>f3である場合、結晶化率は、素子の左側から中心へ向かって減少し、かつ素子の中心から右側へ向かって増加する。f1<f2<f3である場合には、結晶化率は、素子の左側から中心へ向かって増加し、かつ中心から素子の右側へ向かって減少する。f1>f2>f3またはf1<f2<f3となるように上記格子を構成することが可能であるため、図9の素子は、入射する電磁ビームを集束または焦点ぼけさせることができる。集束または焦点ぼけは、反射、透過または部分的反射及び部分的透過で生じることが可能であり、この場合、最適な反射または透過に関連する周波数及び帯域は、格子の全体の容量性、誘導性、導電性及びサセプタンス効果によって決まる。これらの特性は、格子の容量、カルコゲニドの伝導度、格子インダクタンス、誘電材料の選択、導電性ストリップまたはセグメントの幅、形状及び間隔、格子内の能動型カルコゲニド領域のサイズ、形状、数、等を調節することにより制御することができる。
【0104】
図9の素子によってもたらされる集束または焦点ぼけは、結晶化率勾配が水平方向にのびているため、水平方向で起きる。垂直方向の集束または焦点ぼけは、結晶化率勾配が垂直方向に発生するように、能動型カルコゲニド領域の構造状態を構成することにより実現することができる。非垂直方向及び非水平方向の結晶化率勾配は、任意の方向で集束または焦点ぼけを実現できるように同様に形成することができる。また、1つ又は1つ以上の方向における集束または焦点ぼけも、1つ又は1つ以上の方向に適切な結晶化率勾配を形成することにより、実現することができる。非正反射性の反射または非正屈折性の透過と同時に集束または焦点ぼけを実現できる結晶化率勾配も形成することができる。
【0105】
結晶化率の多元状態または2進のプログラミングに基づく類似の不連続型相テーパーに基づく図9の実施形態と同様の素子も、本発明の範囲内にある。これらの実施形態は、複数のサブ波長カルコゲニド領域を含むドメインからなる格子を用い、この場合、ドメインからなるセットの平均結晶化率は、例えば、図9のようにパターン化されまたは配列されている。集束及び焦点ぼけは、一般に、一連のドメインを用いて実現することができ、この場合、ドメインの結晶化率は、1つの素子の1つ又は1つ以上の方向において、増加し、その後、減少する(逆もまた同様である)。図9の実施形態は、5つの能動型領域またはドメインからなるセットに対して増減する結晶化率のパターンを示すが、集束及び焦点ぼけの原理が、一般に、図9に示す実施形態に例示されている傾向を示す任意の数の能動型領域またはドメインに適用できることは明らかである。
【0106】
集束、焦点ぼけ、非正反射性の反射及び非正屈折性の透過の根底にある現象は、素子の能動型領域またはドメインの位相角変化である。より具体的には、結晶化率勾配における、隣接する能動型領域またはドメインにおけるカルコゲニド物質からなる体積の間の位相角の差が、集束、焦点ぼけ、非正反射性の反射及び非正屈折性の透過が起きる度合の決定を左右する。正反射性の反射及び正屈折性の透過は、1つの素子の隣接するカルコゲニド領域またはドメインの間に、位相角の差がない場合に起きる。実際には、この条件は、結晶化率が上記格子の全域で均一であり、かつ結晶化率勾配が存在しないように、カルコゲニド領域を同じ構造状態に構成することにより、実現される。(不連続型相テーパーの場合の正反射性の反射及び正屈折性の透過に対する類似の条件は、ドメインの結晶化率の均一性である。)非正反射性の反射及び非正屈折性の透過は、格子のカルコゲニド領域またはドメインでの1つ又は1つ以上の方向に相テーパーがあるように、結晶化率勾配を作ることを必要とする。相テーパーは、結晶化率勾配の方向における隣接するカルコゲニド領域またはドメインの間の位相角に差があることを意味する。結晶化率勾配が存在するところで隣接するカルコゲニド領域またはドメインの間で位相角の差(大きさ及び符号)が一定である場合には、非正反射性の反射および/または非正屈折性の透過が起きる。集束または焦点ぼけは、隣接する素子の間の位相角の差が、結晶化率勾配に関して一定でない場合に起きる。
【0107】
結晶化率が増加する部分と、結晶化率が減少する部分とを有する、図9の実施形態に示す結晶化率勾配やそのドメイン類似物等の結晶化率勾配は、隣接するカルコゲニド領域の間の一定でない位相角の差を有する結晶化率勾配の実施例である。このような勾配は、集束または焦点ぼけをもたらすことがある。集束または焦点ぼけは、結晶化率が単純に増加するまたは単純に減少する結晶化率勾配によって実現することができ、この場合、位相角の差の大きさは、隣接するカルコゲニド領域またはドメインの間で一定ではない。このような結晶化率勾配を有する素子の実施例を図10に示し、素子は、(実線で示す)垂直方向及び水平方向の導電性ストリップと、(円で示しかつ結晶化率により標示された)カルコゲニド領域とを含み、ただし、f1、f2、f3及びf4は、結晶化率の特定の値を示し、結晶化率は、右方向の水平方向の隣接するカルコゲニド領域間の位相角の差が、増加または減少するようになっており、この場合、結晶化率f1及びf2を有する素子間の位相角の差の大きさは、結晶化率f2及びf3を有する素子間の位相角の差の大きさよりも小さく、後者は結晶化率f3及びf4を有する素子間の位相角の差の大きさよりも小さい。同様の原理は、複数のサブ波長カルコゲニド領域を備えるドメインに基づく素子の根拠をなす。ドメインの実施形態において、集束または焦点ぼけは、素子の隣接するドメイン間に、結晶化率の一定でない差がある場合に生じる。結晶化率の一定でない差は、ドメイン内の能動型カルコゲニド領域の多元状態または2進のプログラミングによって実現することもできる。
【0108】
集束または焦点ぼけ素子の別の態様は、ビーム整形、すなわち、集束または焦点ぼけ素子による入射する電磁ビームの断面形状または寸法をへの影響を記述する効果である。例えば、図9の素子は、結晶化率勾配の方向における集束または焦点ぼけによって、入射する電磁波の形状を変更する。例えば、円形の断面を有する図9の素子に入射するビームは、その水平方向に沿って集束または焦点ぼけされ、楕円形の断面を有する反射ビームまたは透過ビームを生成することになる。図9の素子が集束するように構成されている場合、反射または透過ビームの水平方向の径は、垂直方向の径よりも小さくなり、図9の素子が焦点ぼけするように構成されている場合も同様である。垂直方向における類似の集束または焦点ぼけは、垂直方向に図9の素子の結晶化率勾配を有する素子によって得ることができる。1つ又は1つ以上の方向における結晶化率勾配は、1つ又は1つ以上の方向において集束または焦点ぼけ効果をもたらす。1つの素子内の点または線に関して対称的である結晶化率勾配は、1つ又は1つ以上の方向において、対称的な集束または焦点ぼけをもたらす。例えば、図9に示す結晶化率勾配は、結晶化率f3を有するカルコゲニド領域を通る垂直方向の線に関して対称的である。その結果、結果として生じる水平方向の集束または焦点ぼけは対称的である。このため、円形断面を有し、かつ図9の素子に入射する入射電磁波は、垂直方向に対して水平方向に細長く、かつ対称的に圧縮されている楕円形ビームとして反射または透過する。
【0109】
非対称的な集束または焦点ぼけも本発明の範囲内にあり、上記格子中の点または線に関して対称的ではない結晶化率勾配が存在するように、上記カルコゲニド素子の結晶化率を構成することにより、実現することができる。このような素子の実施例として、図6に示す素子を考えることができ、この場合、f1、f2及びf3は等しくなく、また、f2は、f1及びf3の両方よりも大きいか、あるいは、f1及びf3の両方よりも小さい。結晶化率勾配が増加する部分と、結晶化率勾配が減少する部分とを含むこのような素子は、水平方向に結晶化率勾配を有するが、f1とf3とが等しくないため、結晶化率f2を有するカルコゲニド領域を含む中心線に関して対称的ではない。このような素子は、入射する電磁波の水平方向の断面方向に沿って、非対称的な集束をもたらす。例えば、円形断面を有する入射ビームは、左側と右側とで異なる曲率を有する断面を有する丸いビームで反射または透過することができる。複数のサブ波長カルコゲニド領域を備えるドメインを含む非対称的な集束格子の類似の実施形態も、本発明の範囲内にある。集束、焦点ぼけ及びビーム整形のさらなる説明は、同時係属中の米国特許出願第10/226,828号明細書に記載されている。
【0110】
この発明の格子は、独立型格子、基板または誘電体によって支持された格子、あるいは、2つ又は2つ以上の誘電体の間に挿入された格子として用いることができる。
【0111】
実施例4
この実施例においては、1つの格子またはドメイン内の能動型カルコゲニド領域の位置及び分布の範囲を代表する素子の他の実施形態について説明する。実施例1に説明した素子は、1つの格子またはドメイン内で垂直方向の導電性ストリップと直列の能動型カルコゲニド領域を有する正方形状格子を含む。1つの格子またはドメイン内でのカルコゲニド領域の他の配置またはパターンも可能である。カルコゲニド領域が、水平方向の導電性ストリップと直列になっている実施形態、またはカルコゲニド領域が垂直方向及び水平方向の導電性ストリップと直列になっている実施形態(例えば、図9、図10及び図11の実施形態)は、本発明の範囲内にある。カルコゲニド領域が、1つの格子またはドメインの全ての水平方向または垂直方向の導電性ストリップ以下のストリップと直列に選択的に配置されている実施形態も本発明の範囲内である。
【0112】
1つの正方形状格子またはドメイン内のカルコゲニド領域の代表的な配置またはパターンを図11A〜図11Fに示す。図11A〜図11Fにおける実線は、水平方向及び垂直方向の導電性ストリップを示し、また、円は、カルコゲニド物質からなる領域を示す。本発明の全ての実施形態と同様に、カルコゲニド領域の円形としての描写は、この素子におけるカルコゲニド領域の形状を限定しようとするものではない。どのような形状を有するカルコゲニド領域も、本発明によるものである。
【0113】
図11Aは、上記能動型カルコゲニド領域が水平方向の導電性ストリップと直列になっている正方形状格子を示す。この実施形態において、各カルコゲニド領域は、水平方向の導電性ストリップ内の2つの導電性セグメントを相互に接続する。図11Bは、カルコゲニド領域が、水平方向及び垂直方向の導電性ストリップと直列になっている正方形状格子またはドメインを示す。この実施形態において、各カルコゲニド領域は、垂直方向または水平方向のいずれかのストリップ内の2つの導電性セグメントを相互に接続する。図11Cは、カルコゲニド領域が、垂直方向の導電性ストリップ内に選択的に配置されており、各能動型カルコゲニド領域が2つの導電性セグメントを相互に接続する正方形状格子またはドメインを示す。格子またはドメインの水平方向の導電性ストリップでのカルコゲニド領域の同様の配置も可能である。図11Dは、カルコゲニド領域が、水平方向及び垂直方向の導電性ストリップの交差点に配置されている正方形状格子またはドメインを示す。この実施形態において、能動型カルコゲニド領域は、4つの導電性セグメントを相互に接続する。カルコゲニド領域が、垂直方向の導電性ストリップと水平方向の導電性ストリップとの選択された交差点に配置されている同様のパターンも可能である。
【0114】
いくつかの能動型カルコゲニド領域が、2つの導電性セグメントを相互に接続し、他の能動型カルコゲニド領域が、4つの導電性セグメントを相互に接続する実施形態も、本発明の範囲内にある。カルコゲニド領域は、図11E及び図11Fに示すような格子またはドメインの導電性ストリップ間に配置することもできる。図11E及び図11Fの実施形態のカルコゲニド領域は、導電性ストリップ間に配置され、かつ導電性ストリップに直接接続されていないが、それにもかかわらず、カルコゲニド領域は、格子またはドメインの全体の容量性リアクタンスに影響を与える誘電体領域である。ストリップ間に配置したカルコゲニド領域と、直接接続したカルコゲニド領域とを組合わせた実施形態も、本発明の範囲内にある。
【0115】
図11A〜図11Fに示す実施形態の各々は、入射する電磁波への容量性、抵抗及びサセプタンス効果の別個の組合せを実現でき、各々は、格子の分散効果及び反射、透過、波面補正または集束および/または焦点ぼけモードにおける最適なパフォーマンスの周波数を予測するのに用いることができる容量性、誘導性、抵抗性、導電性等のコンポーネントを有する等価回路によってモデル化することができる。実施形態の各々は、実施例1で論じたように、格子の能動型カルコゲニド領域での結晶化率の変化によって再構成可能である。反射モードまたは透過モードの効率の度合いを変化させることは、入射する電磁波の様々な周波数範囲及び偏光の場合について実現可能である。この発明で説明した実施形態の各々は、独立型の格子またはドメイン、1つの誘電体、または2つ又は2つ以上の誘電体の間に挿入された格子によって支持された格子またはドメインとして用いることができる。この実施例で説明した実施形態の各々は、1つ又は1つ以上の方向に、結晶化率勾配を形成したり、または結晶化率勾配が無いように構成された能動型カルコゲニド領域を生成することが出来、また、連続型または不連続型の相テーパーの存在によって、非正反射性の反射、非正屈折性の透過、集束、または焦点ぼけのうちの1つ又は1つ以上を実現できるように構成することもできる。また、この実施例の格子は、複数のサブ波長カルコゲニド領域を持つドメインを形成すること、または、ドメイン内に含まれることも可能である。
【0116】
実施例5
この実施例においては、非正方形状の格子またはドメイン構造について説明する。上記の実施例において示したもの等の導電性ストリップからなる正方形状格子または正方形状ドメインに加えて、本発明は、非正方形状を形成する導電性ストリップを有する格子と非正方形状を有するドメインとを有する素子を含む。代表的な実施例は、矩形状の格子またはドメイン、三角形状の格子またはドメイン、六角形の格子またはドメイン、及び菱形の格子またはドメインを含む。これらの実施形態の各々は、図示の形状からなる単位格子を有し、1つ又は1つ以上の方向における単位格子の反復としてみることができる周期的格子またはドメインを含む。非規則的な、湾曲したまたは任意の形状の単位格子を有する周期的な格子またはドメインを含む素子も、本発明の範囲内である。周期的な格子またはドメインは、周期的な間隔が特徴であり、この場合、周期的間隔は、格子の単位格子の形状またはドメインの形状に特有の反復距離である。周期的間隔は、1つの単位格子またはドメインの辺の長さ、1つの単位格子またはドメインの1組の平行な辺の間の距離等に相当する。交差を伴う、交差を伴わない、または、交差する導電性ストリップと交差しない導電性ストリップとの組合せを伴う、周期的または非周期的格子も、本発明の範囲内である。
【0117】
この発明の正方形状素子の実施形態と同様に、非正方形状素子の実施形態のカルコゲニド領域は、導電性ストリップの1つ又は1つ以上のセットと直列に配置することができ、導電性ストリップの1つ又は1つ以上のセットの交差点に配置することができ、または、導電性ストリップ間に配置することができる。本発明の正方形状実施形態と同様に、非正方形状実施形態の能動型カルコゲニド領域も、正反射性の反射、正屈折性の透過、非正反射性の反射、非正屈折性の透過、集束または焦点ぼけを実現できるように、均一な結晶化率、または1つ又は1つ以上の方向に結晶化率勾配を有するように構成することもできる。
【0118】
実施例6
この実施例においては、様々な形状の導電性ストリップを有する格子を有する素子の実施形態について説明する。本発明の素子の導電性ストリップは、導電性材料で形成することができ、また、丸いまたは平坦なワイヤまたは導線の形で形成することができる。均一な長さ、幅および/または径の寸法を有する導電性ストリップ(例えば、図1A)に加えて、本発明の導電性ストリップまたはセグメントは、その長さに沿って、非均一な幅を有する任意の形状を有してもよい。その長さに沿って均一な幅を有するが、、異なるストリップまたはセグメントにおいてはその幅が異なる導電性ストリップまたはセグメントも本発明の範囲内である。
【0119】
導電性ストリップの形状、サイズ、間隔等は、この格子の容量性リアクタンス及び誘導性リアクタンスに影響を及ぼし、またこれらは、、入射する電磁波の特定の周波数または帯域に対してこの素子の作動特性を調整するのに用いることができる設計パラメータである。導電性ストリップの形状の特殊規格はは、導電性ストリップの格子の容量性リアクタンス及び誘導性リアクタンス全体に対する寄与の微調整を可能にする。導電性ストリップまたはセグメントの接触部の形状、及び上記カルコゲニド領域との空間的重なりの度合いは、格子の全体の容量性リアクタンス及び誘導性リアクタンスのまた別な調整を可能にする。
【0120】
非均一な幅を有する導電性ストリップのいくつかの代表的な実施例を図12A及び図12Bに示す。図12Aは、カルコゲニド領域400と、カルコゲニド領域を有する幅の狭い部分420と先細りの接触部430とを有する導電性セグメント410とを含む。導電性セグメントの幅の狭さは、導電性セグメントを流れる電流を制限し、導電性ストリップのインダクタンスの増加に貢献する。図12Bは、カルコゲニド領域500と、カルコゲニド領域を有する幅の広い部分520と均一な接触部530とを有する導電性セグメントとを含む。導電性ストリップまたはセグメントの一部の幅の広さは、電流を促進し、導電性ストリップのインダクタンスの減少に寄与する。この実施例の導電性セグメントの長さ方向は、2つの能動型カルコゲニド領域を接続する方向である。図12A及び図12Bを見て分かるように、この実施例の導電性セグメントの幅は、長さ方向において非均一である。任意の形状の導電性セグメントまたはストリップは、格子が、導電性ストリップまたはセグメントの1つ以上の形状を含む実施形態と同様に、本発明の範囲内にある。
【0121】
実施例7
この実施例においては、格子の組合せを含む素子について記述する。入射する電磁波の反射または透過に又別な段階の調節自由度を可能にするようにこの発明の範囲内にある個々の格子を多元格子素子を形成するように組合わせることができる。多元格子は、互いに協力して作用し、互いに強化し、相殺し、あるいは別な方法で相互に影響を及ぼすことが出来る。格子は、連続型または不連続型の相テーパーに由来する結晶化率勾配を形成することも出来る。
【0122】
格子の組合せに基づく代表的な素子を図13に示し、図は、水平方向の導電性ストリップ610、垂直方向の導電性ストリップ620及びカルコゲニド領域630を有する格子と、水平方向の導電性ストリップ710、垂直方向の導電性ストリップ720及びカルコゲニド領域730を有する格子700、また格子600と格子700との間に配置された、屈折率n2を有する誘電体800と、屈折率n1及びn3を有する外側をとりまく誘電体810及び誘電体820とを示す。この実施形態の格子の組合せは、入射する電磁波の透過効率を改善するのに用いることができるファブリーペロー型空洞を形成する。より具体的には、上記素子にロスがないと仮定すると、格子のインピーダンス及びリアクタンス及び中間に配置された誘電体の厚さ及び特性に依存する或る周波数において、透過効率が殆ど100%である最適な透過の周波数を有する透過帯域をもたらす空洞共振が起きる。通常の素子においては、ある程度のロスがあるが、透過効率は、100%に近い高さを保つように設計することができる。最低周波数の共振は、2つの格子の間に配置された誘電体が入射する電磁波の波長の約4分の一に等しい厚さを有する時の周波数の近傍で起きる。最適な透過は、格子のカルコゲニド領域が、格子の容量性リアクタンスをゼロにするかまたは最小化するように構成されている場合に期待される。その結果として、最適な透過は、カルコゲニド領域が、導電性で、完全に結晶状態であるときに期待される。
【0123】
図13に示す実施形態の明白な変形例も本発明の範囲内である。非正方形状格子、非正方形状ドメインを含む格子、様々な形状及び厚さの導電性ストリップ、結晶化率勾配を有する格子、導電性ストリップの交差点以外の位置にカルコゲニド領域を有する格子等は、複数の格子の組合せで用いることができる。
【0124】
本願明細書に記載した開示及び説明は、例示的なものであり、本発明の実施を限定するものではない。多数の等価物及びその明白なかつ予測できる変形例は、本発明の範囲内にあるものと想定される。本願発明は、請求の範囲に上記の開示と共に全ての等価物を含むもとのして示される。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1A】周期的導電性格子を示す。
【図1B】図1に示す周期的導電性格子の等価回路を示す。
【図2A】能動型格子を有する素子の一実施形態の概略図を示す。
【図2B】能動型コンポーネントがダイオードである、図2Aに示す能動型格子素子の等価回路を示す。
【図2C】交差する導電性ストリップを有する正方形格子の一部を示す。
【図2D】交差しない導電性ストリップを有する正方形格子の一部を示す。
【図3】カルコゲニド物質(Ge2Sb2Te5)の実数部及び虚数部の伝導度および位相角を示すプロットである。
【図4A】連続型相テーパーを有する格子の一部を示す。
【図4B】複数のカルコゲニド領域を備える領域を示す。
【図4C】一連の3つの非重畳領域を含む素子の一部を示す。
【図4D】一連の3つの重畳領域を含む素子の一部を示す。
【図5A】カルコゲニド物質からなる体積を含む能動型領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図5B】図5Aに示す素子の等価回路を示す。
【図6】水平方向の能動型カルコゲニド領域にわたって結晶化率勾配を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図7】垂直方向の能動型カルコゲニド領域にわたって結晶化率勾配を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図8】水平及び垂直方向の導電性ストリップの交差点に配置された能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図9】結晶化率が増減する水平方向の能動型カルコゲニド領域にわたって結晶化率勾配を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図10】水平方向の能動型カルコゲニド領域にわたって結晶化率勾配を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図11A】水平方向の導電性セグメントを相互接続する能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図11B】水平方向及び垂直方向の導電性セグメントを相互接続する能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図11C】垂直方向の導電性ストリップの選択した位置で導電性セグメントを相互接続する能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図11D】水平方向及び垂直方向の導電性ストリップの交差点に配置された能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図11E】交差する導電性ストリップの間に挿入された能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図11F】交差しない導電性ストリップの間に挿入された能動型カルコゲニド領域を含む、電磁波を反射または透過する素子を示す。
【図12A】非均一な幅を有する導電性セグメントを示す。
【図12B】非均一な幅を有する導電性セグメントを示す。
【図13】電磁波を反射または透過する格子の組合せを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を反射または透過させる素子であって、
導電性ストリップからなる格子と、
複数の能動型領域であって、前記複数の能動型領域の各々が、カルコゲニド物質の体積を備え、前記カルコゲニド物質が、非晶質状態と結晶状態とを有し、前記能動型領域の各々が、複数の構造状態を有し、前記構造状態が、前記カルコゲニド物質の体積の結晶化率の点で異なる複数の能動型領域とを備え、
前記素子が、入射する電磁波を受け入れて、その相を変更して、反射または透過電磁波を生成する、素子。
【請求項2】
前記導電性ストリップからなる格子が、交差する導電性ストリップを含む、請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記能動型領域が、前記交差する導電性ストリップの交差点に配置されている、請求項2に記載の素子。
【請求項4】
前記導電性ストリップからなる格子が周期的であり、前記周期的格子が、1つ又は1つ以上の方向に周期的間隔を有する、請求項1に記載の素子。
【請求項5】
前記周期的格子が、正方形状または矩形状の格子である、請求項4に記載の素子。
【請求項6】
前記周期的格子が、三角形状、六角形状または菱形の格子である、請求項4に記載の素子。
【請求項7】
前記周期的間隔が、前記入射する電磁波の波長よりも大きくない、請求項4に記載の素子。
【請求項8】
前記導電性ストリップが導電性セグメントを含み、前記能動型領域が、前記導電性セグメントを相互接続し、前記相互接続する能動型領域の各々が、少なくとも2つの前記導電性セグメントを相互接続する、請求項1に記載の素子。
【請求項9】
前記相互接続する能動型領域の各々が、少なくとも3つの前記導電性セグメントを相互接続する、請求項8に記載の素子。
【請求項10】
前記導電性ストリップの各々の幅が非均一である、請求項1に記載の素子。
【請求項11】
前記非均一な導電性ストリップが、前記能動型領域によって相互接続された導電性セグメントを含み、前記非均一な幅が、前記導電性セグメント内に生じている、請求項10に記載の素子。
【請求項12】
前記導電性ストリップの各々の幅が均一であり、前記格子が、2つ又は2つ以上の幅を有する導電性ストリップを含む、請求項1に記載の素子。
【請求項13】
前記能動型領域が、2つ又は2つ以上の前記導電性ストリップの間に配置されている、請求項1に記載の素子。
【請求項14】
前記能動型領域が、前記素子内に周期的に配置されている、請求項1に記載の素子。
【請求項15】
前記能動型領域がサブ波長であり、前記サブ波長の能動型領域が、前記入射する電磁波の波長よりも小さい少なくとも1つの断面寸法を有する、請求項1に記載の素子。
【請求項16】
前記複数の能動型領域が、少なくとも3つの前記構造状態を含む、請求項1に記載の素子。
【請求項17】
前記能動型領域のうちの少なくとも1つが部分的に結晶状態である、請求項1に記載の素子。
【請求項18】
前記複数の能動型領域が結晶化率勾配を含み、前記結晶化率勾配が、少なくとも2つの前記個別の能動型領域に及んでおり、前記結晶化率勾配内の前記能動型領域が、少なくとも2つの前記構造状態を含む、請求項1に記載の素子。
【請求項19】
前記素子が、少なくとも2つの前記結晶化率勾配を含む、請求項18に記載の素子。
【請求項20】
前記結晶化率勾配が、少なくとも2つの非平行方向に及んでいる、請求項19に記載の素子。
【請求項21】
前記素子がドメインを含み、前記ドメインの各々が、2つ又は2つ以上の前記能動型領域を備え、前記ドメインが不連続型の相テーパを形成する、請求項1に記載の素子。
【請求項22】
前記ドメインが、2つ又は2つ以上の方向に、不連続型の相テーパを形成する、請求項21に記載の素子。
【請求項23】
前記ドメインがサブ波長のドメインである、請求項21に記載の素子。
【請求項24】
前記サブ波長のドメインが、実質的に非正屈折性である、請求項21に記載の素子。
【請求項25】
前記ドメインが、実質的に同じサイズである、請求項21に記載の素子。
【請求項26】
前記ドメインが正方形状である、請求項21に記載の素子。
【請求項27】
前記ドメインが連続的である、請求項21に記載の素子。
【請求項28】
前記ドメインが、前記素子内に周期的に配列されている、請求項21に記載の素子。
【請求項29】
前記ドメイン内の前記2つ又は2つ以上の前記能動型領域が、前記ドメイン内に周期的に配列されている、請求項21に記載の素子。
【請求項30】
前記素子が、前記入射する電磁波の波長の少なくとも2倍である寸法を有する、請求項1に記載の素子。
【請求項31】
前記素子の前記寸法が、前記入射する電磁波の波長の5倍よりも大きくない、請求項30に記載の素子。
【請求項32】
前記入射する電磁波が、テラヘルツ範囲の周波数を有する、請求項1に記載の素子。
【請求項33】
前記反射したまたは透過した電磁波が、非正反射方向または非正屈折性方向に向けられる、請求項1に記載の素子。
【請求項34】
前記反射または透過した電磁波が、集束または焦点ぼけされる、請求項1に記載の素子。
【請求項35】
前記カルコゲニド物質が、TeまたはSeを含む、請求項1に記載の素子。
【請求項36】
前記カルコゲニド物質がさらに、In、Ag、Sb及びGeからなる群から選択された化学元素を含む、請求項35に記載の素子。
【請求項37】
誘電体基板をさらに備え、前記素子が前記誘電体基板によって支持されている、請求項1に記載の素子。
【請求項38】
第1及び第2の誘電体基板をさらに備え、前記素子が、前記第1の誘電材料と前記第2の誘電材料との間に配置されている、請求項1に記載の素子。
【請求項39】
電磁波を反射または透過させる格子の組合せであって、
電磁波を反射または透過させる第1の素子と、
電磁波を反射または透過させる第2の素子と、
誘電材料とを備え、
前記第1及び第2の素子が、請求項1による素子であり、前記誘電材料が、前記第1の素子と前記第2の素子との間に配置されている、格子の組合せ。
【請求項1】
電磁波を反射または透過させる素子であって、
導電性ストリップからなる格子と、
複数の能動型領域であって、前記複数の能動型領域の各々が、カルコゲニド物質の体積を備え、前記カルコゲニド物質が、非晶質状態と結晶状態とを有し、前記能動型領域の各々が、複数の構造状態を有し、前記構造状態が、前記カルコゲニド物質の体積の結晶化率の点で異なる複数の能動型領域とを備え、
前記素子が、入射する電磁波を受け入れて、その相を変更して、反射または透過電磁波を生成する、素子。
【請求項2】
前記導電性ストリップからなる格子が、交差する導電性ストリップを含む、請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記能動型領域が、前記交差する導電性ストリップの交差点に配置されている、請求項2に記載の素子。
【請求項4】
前記導電性ストリップからなる格子が周期的であり、前記周期的格子が、1つ又は1つ以上の方向に周期的間隔を有する、請求項1に記載の素子。
【請求項5】
前記周期的格子が、正方形状または矩形状の格子である、請求項4に記載の素子。
【請求項6】
前記周期的格子が、三角形状、六角形状または菱形の格子である、請求項4に記載の素子。
【請求項7】
前記周期的間隔が、前記入射する電磁波の波長よりも大きくない、請求項4に記載の素子。
【請求項8】
前記導電性ストリップが導電性セグメントを含み、前記能動型領域が、前記導電性セグメントを相互接続し、前記相互接続する能動型領域の各々が、少なくとも2つの前記導電性セグメントを相互接続する、請求項1に記載の素子。
【請求項9】
前記相互接続する能動型領域の各々が、少なくとも3つの前記導電性セグメントを相互接続する、請求項8に記載の素子。
【請求項10】
前記導電性ストリップの各々の幅が非均一である、請求項1に記載の素子。
【請求項11】
前記非均一な導電性ストリップが、前記能動型領域によって相互接続された導電性セグメントを含み、前記非均一な幅が、前記導電性セグメント内に生じている、請求項10に記載の素子。
【請求項12】
前記導電性ストリップの各々の幅が均一であり、前記格子が、2つ又は2つ以上の幅を有する導電性ストリップを含む、請求項1に記載の素子。
【請求項13】
前記能動型領域が、2つ又は2つ以上の前記導電性ストリップの間に配置されている、請求項1に記載の素子。
【請求項14】
前記能動型領域が、前記素子内に周期的に配置されている、請求項1に記載の素子。
【請求項15】
前記能動型領域がサブ波長であり、前記サブ波長の能動型領域が、前記入射する電磁波の波長よりも小さい少なくとも1つの断面寸法を有する、請求項1に記載の素子。
【請求項16】
前記複数の能動型領域が、少なくとも3つの前記構造状態を含む、請求項1に記載の素子。
【請求項17】
前記能動型領域のうちの少なくとも1つが部分的に結晶状態である、請求項1に記載の素子。
【請求項18】
前記複数の能動型領域が結晶化率勾配を含み、前記結晶化率勾配が、少なくとも2つの前記個別の能動型領域に及んでおり、前記結晶化率勾配内の前記能動型領域が、少なくとも2つの前記構造状態を含む、請求項1に記載の素子。
【請求項19】
前記素子が、少なくとも2つの前記結晶化率勾配を含む、請求項18に記載の素子。
【請求項20】
前記結晶化率勾配が、少なくとも2つの非平行方向に及んでいる、請求項19に記載の素子。
【請求項21】
前記素子がドメインを含み、前記ドメインの各々が、2つ又は2つ以上の前記能動型領域を備え、前記ドメインが不連続型の相テーパを形成する、請求項1に記載の素子。
【請求項22】
前記ドメインが、2つ又は2つ以上の方向に、不連続型の相テーパを形成する、請求項21に記載の素子。
【請求項23】
前記ドメインがサブ波長のドメインである、請求項21に記載の素子。
【請求項24】
前記サブ波長のドメインが、実質的に非正屈折性である、請求項21に記載の素子。
【請求項25】
前記ドメインが、実質的に同じサイズである、請求項21に記載の素子。
【請求項26】
前記ドメインが正方形状である、請求項21に記載の素子。
【請求項27】
前記ドメインが連続的である、請求項21に記載の素子。
【請求項28】
前記ドメインが、前記素子内に周期的に配列されている、請求項21に記載の素子。
【請求項29】
前記ドメイン内の前記2つ又は2つ以上の前記能動型領域が、前記ドメイン内に周期的に配列されている、請求項21に記載の素子。
【請求項30】
前記素子が、前記入射する電磁波の波長の少なくとも2倍である寸法を有する、請求項1に記載の素子。
【請求項31】
前記素子の前記寸法が、前記入射する電磁波の波長の5倍よりも大きくない、請求項30に記載の素子。
【請求項32】
前記入射する電磁波が、テラヘルツ範囲の周波数を有する、請求項1に記載の素子。
【請求項33】
前記反射したまたは透過した電磁波が、非正反射方向または非正屈折性方向に向けられる、請求項1に記載の素子。
【請求項34】
前記反射または透過した電磁波が、集束または焦点ぼけされる、請求項1に記載の素子。
【請求項35】
前記カルコゲニド物質が、TeまたはSeを含む、請求項1に記載の素子。
【請求項36】
前記カルコゲニド物質がさらに、In、Ag、Sb及びGeからなる群から選択された化学元素を含む、請求項35に記載の素子。
【請求項37】
誘電体基板をさらに備え、前記素子が前記誘電体基板によって支持されている、請求項1に記載の素子。
【請求項38】
第1及び第2の誘電体基板をさらに備え、前記素子が、前記第1の誘電材料と前記第2の誘電材料との間に配置されている、請求項1に記載の素子。
【請求項39】
電磁波を反射または透過させる格子の組合せであって、
電磁波を反射または透過させる第1の素子と、
電磁波を反射または透過させる第2の素子と、
誘電材料とを備え、
前記第1及び第2の素子が、請求項1による素子であり、前記誘電材料が、前記第1の素子と前記第2の素子との間に配置されている、格子の組合せ。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【公表番号】特表2007−509361(P2007−509361A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−528236(P2006−528236)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/031427
【国際公開番号】WO2005/031307
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(500147735)エナージー コンバーション デバイセス インコーポレイテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】ENERGY CONVERSION DEVICES, INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/031427
【国際公開番号】WO2005/031307
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(500147735)エナージー コンバーション デバイセス インコーポレイテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】ENERGY CONVERSION DEVICES, INC.
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]