説明

開放循環冷却水系の処理方法

【課題】レジオネラ属を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができ、しかも薬剤耐性菌や薬剤耐性を持った藻類が繁殖しにくい開放循環冷却水系の処理方法を提供する。
【解決手段】開放循環冷却水系の冷却水に対して、ハロゲン系酸化物による処理を24時間に1時間以上行い、かつ、有機系殺菌剤による処理を30日間に1回以上行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジオネラ属を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができ、しかも薬剤耐性菌や薬剤耐性を持った藻類が繁殖しにくい開放循環冷却水系の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系などの循環水系において、バイオフィルムは機器や水系周辺の汚染原因となるとともに、冷却水系においては熱交換効率低下の原因になり、その抑制のために様々な技術的提案が行われている。
【0003】
このような技術のうち、本出願人も特開2009−160505号公報(特許文献1)で水系水におけるスライム抑制方法を提案している。この方法はハロゲン系酸化物を含む薬剤を添加する技術であり、水系の金属材質に対する腐食を防止しながら極めて効果的にバイオフィルムの抑制が可能となる。このように、ハロゲン系酸化物は細菌類の殺菌、バイオフィルの成長抑制には極めて有効である。
【0004】
ここで、開放循環冷却水系では、バイオフィルムの抑制の他に、レジオネラ属菌に対する除菌効果も求められる。
【0005】
上記のようなハロゲン系酸化物は、実験室での試験ではレジオネラ属菌に対して優れた殺菌作用を示すが、実際の開放循環冷却水系をハロゲン系酸化物で処理してみると、十分な殺菌、抑制効果が得られない場合が多く、驚くべきことに、遊離残留塩素濃度として2mg/Lを維持してもレジオネラ属菌を殺菌できない水系も存在する。
【0006】
さらに、ハロゲン系酸化物の水系への添加を長期間継続すると、メチロバクテリウム等の塩素剤に対して強い耐性を持った細菌類が繁殖し、バイオフィルムを形成する恐れがある。
【0007】
一方、有機系の各種の殺菌剤は、レジオネラ属菌の殺菌処理に古くから使われており、高濃度で添加したり、連続的に水系に添加することにより、レジオネラ属菌を効果的に殺菌、抑制することができるとされている。しかし、このような有機系の殺菌剤は、バイオフィルムに対する殺菌、剥離効果が弱いので、間欠的な処理で一時的に水中に浮遊しているレジオネラ属菌が不検出になった場合でも、水系内にバイオフィルムが残存し、これがレジオネラ属菌繁殖の温床となって、比較的短期間でレジオネラ属菌が水中に検出されるようになる。
【0008】
また、ハロゲン系酸化物と比較して有機系の殺菌剤は耐性菌や耐性を持った藻類が繁殖しやすいという欠点がある。
【0009】
従って、レジオネラ属を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができ、しかも薬剤耐性菌や薬剤耐性を持った藻類が繁殖しにくい開放循環冷却水系の処理方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−160505号公報
【特許文献2】特表2003−503323号公報
【特許文献3】特表平11−506139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題を解決する、すなわち、レジオネラ属を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができ、しかも薬剤耐性菌や薬剤耐性を持った藻類が繁殖しにくい開放循環冷却水系の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上記課題を解決するために、請求項1に記載の通り、開放循環冷却水系の冷却水に対して、ハロゲン系酸化物による処理を24時間に1時間以上行い、かつ、有機系殺菌剤による処理を30日間に1回以上行うことを特徴とする開放循環冷却水系の処理方法である。
【0013】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の開放循環冷却水系の処理方法において、前記ハロゲン系酸化物による処理が、水中で遊離塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上5mg/L以下の範囲に維持する処理であることを特徴とする。
【0014】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、請求項3に記載の通り、請求項2に記載の開放循環冷却水系の処理方法において、前記ハロゲン系酸化物による処理が、前記冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上1mg/L以下の範囲に維持する処理であり、かつ、該ハロゲン系酸化物による処理を常時行うことを特徴とする。
【0015】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、請求項4に記載の通り、請求項2または請求項3に記載の開放循環冷却水系の処理方法において、前記水中で遊離塩素を生成する物質が、次亜ハロゲン酸塩、ハロゲン化イソシアヌル酸、及び、ハロゲン化ヒダントインから選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0016】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、請求項5に記載の通り、請求項1に記載の開放循環冷却水系の処理方法において、前記ハロゲン系酸化物による処理が、水中で結合塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上100mg/L以下の範囲に維持する処理であることを特徴とする。
【0017】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、請求項6に記載の通り、請求項5に記載の開放循環冷却水系の処理方法において、前記ハロゲン系酸化物による処理が、前記冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上10mg/L以下の範囲に維持する処理であり、かつ、該ハロゲン系酸化物による処理を常時行うことを特徴とする。
【0018】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、請求項7に記載の通り、請求項5または請求項6に記載の開放循環冷却水系の処理方法において、前記水中で結合塩素を生成する物質が、クロラミン類、及び、次亜ハロゲン酸塩とスルファミン酸塩とを反応させて得られる安定化次亜ハロゲン酸塩から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0019】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、請求項8に記載の通り、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の開放循環冷却水系の処理方法において、前記有機系殺菌剤による処理が、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、及び、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンから選択される少なくとも1種のイソチアゾリン系化合物を、前記冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、該イソチアゾリン系化合物の有効成分濃度として1mg/L以上20mg/L以下となるように前記冷却水系に添加する処理であり、かつ、該有機系殺菌剤による処理を、2日間ないし30日間に1回行うことを特徴とする。
【0020】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、請求項9に記載の通り、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の開放循環冷却水系の処理方法において、前記有機系殺菌剤による処理が、グルタルアルデヒドを、前記冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、有効成分濃度として20mg/L以上500mg/L以下となるように前記冷却水系に添加する処理であり、かつ、該有機系殺菌剤による処理を、2日間ないし30日間に1回行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法によれば、ハロゲン系酸化物による処理と有機系殺菌剤による処理を併用することで、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができ、しかも薬剤耐性菌や薬剤耐性を持った藻類が繁殖しにくい開放循環冷却水系とすることができる。
【0022】
このとき、冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上5mg/L以下の範囲に24時間に1時間以上維持することで、レジオネラ属菌繁殖の温床となる水系内のバイオフィルムを効果的に抑制することができ、また、薬剤耐性菌や薬剤耐性を持った藻類の繁殖を有効に抑えることができる。
【0023】
また、冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上1mg/L以下の範囲に常時維持することで、水系で用いられる機器などの軟鋼や銅などの金属に対する腐食性を効果的に防ぎながら、レジオネラ属菌の殺菌と、耐性菌、耐性藻類の繁殖抑制を可能とする。
【0024】
さらに、ハロゲン系酸化物として、水中で結合塩素を生成する物質を使用することで、冷却水中に酸化力を維持することが容易となり、このとき、冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上100mg/L以下の範囲に24時間に1時間以上維持することで、レジオネラ属菌繁殖の温床となる水系内のバイオフィルムを、より効果的に抑制することができる。また、薬剤耐性菌や薬剤耐性を持った藻類の繁殖を、より有効に抑えることができる。
【0025】
加えて、冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上10mg/L以下の範囲に常時維持することで、水系で用いられる機器などの軟鋼や銅などの金属に対する腐食性をより効果的に防ぎながら、レジオネラ属菌の殺菌と、耐性菌、耐性藻類の繁殖抑制を可能とする。
【0026】
また、有機系殺菌剤による処理として、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、及び、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンから選択される少なくとも1種のイソチアゾリン系化合物を、冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、該イソチアゾリン系化合物の有効成分濃度として1mg/L以上20mg/L以下となるように冷却水系に添加する処理を、2日間ないし30日間に1回行うことにより、少ない有機系殺菌剤の添加量で、レジオネラ属菌の殺菌、抑制効果を長期間、確実に得ることができ、さらに、メチロバクテリウム等の塩素耐性菌の繁殖を効果的に抑えることが可能となる。
【0027】
あるいは、有機系殺菌剤による処理として、グルタルアルデヒドを、冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、有効成分濃度として20mg/L以上500mg/L以下となるように冷却水系に添加する処理を、2日間ないし30日間に1回行うことにより、少ない有機系殺菌剤の添加量で、レジオネラ属菌の殺菌、抑制効果を長期間、確実に得ることができ、さらに、メチロバクテリウム等の塩素耐性菌の繁殖を効果的に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の効果(ハロゲン系酸化物による単独処理、イソチアゾリン系化合物を用いた有機系殺菌剤による単独処理と、ハロゲン系酸化物による処理とイソチアゾリン系化合物を用いた有機系殺菌剤による処理とを併用した場合)を示すグラフである。
【図2】本発明の効果(グルタルアルデヒドを用いた有機系殺菌剤による単独処理と、ハロゲン系酸化物による処理とグルタルアルデヒドを用いた有機系殺菌剤による処理とを併用した場合)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、上述のように、開放循環冷却水系の冷却水に対して、ハロゲン系酸化物による処理を24時間に1時間以上行い、かつ、有機系殺菌剤による処理を30日間に1回以上行うことを特徴とする開放循環冷却水系の処理方法である。
【0030】
本発明において、ハロゲン系酸化物としては、水中で酸化力を示すハロゲン系酸化物であれば良く、具体的には、水中で遊離塩素を生成する物質及び水中で結合塩素を生成する物質から選択される少なくとも1種の物質を用いる。
【0031】
水中で遊離塩素を生成する物質とは、その物質を添加した水系水をJIS K0101 28に記載の残留塩素測定法により測定した際に、遊離残留塩素が検出される物質のことであり、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜臭素酸ナトリウム等の次亜ハロゲン酸塩、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、トリクロロイソシアヌル酸等のハロゲン化イソシアヌル酸、1−ブロモ−3−クロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジクロロ−5,5−エチルメチルヒダントイン、及び、1,3−ジクロロ−5,5−ジエチルヒダントイン等のハロゲン化ヒダントイン等を挙げることができる。
【0032】
また、水中で結合塩素を生成する物質とは、その物質を添加した水系水をJIS K0101 28に記載の残留塩素測定法により測定した際に、結合残留塩素が検出される物質のことであり、例えば、モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、クロラミンB(ベンゼンスルホンクロラミドナトリウム塩)、及び、クロラミンT(N−クロロ−p−トルエンスルホンアミドナトリウム塩)等のクロラミン類、及び、安定化次亜ハロゲン酸塩等を挙げることができる。
【0033】
安定化次亜ハロゲン酸塩としては、特表2003−503323公報(特許文献2)や特表平11−506139号公報(特許文献3)に開示されているように、次亜塩素酸塩とスルファミン酸塩とから得られる安定化次亜塩素酸塩、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム等から1種以上選ばれる臭素イオン源、次亜塩素酸塩、及び、スルファミン酸塩から得られる安定化次亜臭素酸塩を用いることができる。
【0034】
また、水中で結合塩素を生成する物質として、予めアンモニアが存在している水系に次亜ハロゲン酸塩を添加して、水系中でクロラミン類を生成させたり、予めスルファミン酸が存在している水系に次亜ハロゲン酸塩を添加して、水系中で安定化次亜ハロゲン酸塩を生成させても良く、この場合も本発明に含まれる。
【0035】
ここで、次亜ハロゲン酸塩などの水中で遊離塩素を生成する物質の場合、冷却水中の有機物などと反応して速やかに分解してしまうため、有効濃度を一定レベルに維持するのが難しく、その結果、濃度低下のために十分な微生物抑制効果が得られなかったり、あるいは、過剰添加により重要な機器に腐食が生じたりするおそれがある。一方、水中で結合塩素を生成する物質、特に、次亜ハロゲン酸塩とスルファミン酸塩とを反応させて得られる安定化次亜ハロゲン酸塩は、冷却水中での分解速度が遅く、その濃度変化が少ないので、有効濃度の維持が容易であり、結果として安定した効果が得られるので好ましい。
【0036】
開放循環冷却水系の冷却水に、これらハロゲン系酸化物を添加するハロゲン系酸化物による処理は、レジオネラ属菌繁殖の温床となる水系内のバイオフィルムを効果的に抑制し、薬剤耐性菌や薬剤耐性を持った藻類の繁殖を有効に抑えるためには、24時間に少なくとも1時間以上行う必要がある。十分な微生物抑制効果を得るためには、高濃度のハロゲン系酸化物による処理が好ましいが、高濃度のハロゲン系酸化物を冷却水系に添加すると、冷却水系を構成する機器、配管等の金属材質が腐食するリスクが高まる。
【0037】
そこで、水中で遊離塩素を生成する物質で処理するときのハロゲン系酸化物の濃度は、24時間に1時間、あるいはそれよりも長く、間欠的に処理を行う場合には冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上5mg/L以下の範囲に維持するように、また、常時連続的に処理を行う場合には冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上1mg/L以下の範囲に維持するように、添加量を調整することが好ましい。なお、遊離残留塩素の測定は、JIS K0101 28に準拠した方法で実施する。また、JIS K0101 28に記載の方法と同様の測定結果が得られる方法であれば、遊離残留塩素濃度測定電極や、その他の測定機器を用いて測定しても構わない。
【0038】
水中で遊離塩素を生成する物質を用いてハロゲン系酸化物による処理を行う場合の、より好ましい処理方法は、冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上0.1mg/L以下の範囲に常時維持する方法であり、この方法によると、レジオネラ属菌繁殖の温床となるバイオフィルムを効果的に抑制し、薬剤耐性菌や薬剤耐性を持った藻類の繁殖を有効に抑えるとともに、冷却水系を構成する機器、配管等の腐食リスクを極めて低レベルに抑えることができる。
【0039】
一方、水中で結合塩素を生成する物質で処理するときのハロゲン系酸化物の濃度は、24時間に1時間あるいはそれよりも長く間欠的に処理を行う場合には冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上100mg/L以下の範囲に維持するように、また、常時連続的に処理を行う場合には冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上10mg/L以下の範囲に維持するように、添加量を調整することが好ましい。なお、全残留塩素の測定は、JIS K0101 28に準拠した方法で実施する。また、JIS K0101 28に記載の方法と同様の測定結果が得られる方法であれば、全残留塩素濃度測定電極や、その他の測定機器を用いて測定しても構わない。
【0040】
水中で結合塩素を生成する物質を用いてハロゲン系酸化物による処理を行う場合の、より好ましい処理方法は、水中で結合塩素を生成する物質として次亜ハロゲン酸塩とスルファミン酸塩とを反応させて得られる安定化次亜ハロゲン酸塩を用いる方法であり、このとき、冷却水中の全残留塩素濃度を1mg/L以上2mg/L以下の範囲に常時維持することがさらに好ましい。安定化次亜ハロゲン酸塩は、他のハロゲン系酸化物と比較して冷却水中で安定であり、冷却水中の酸化力を低濃度レベルに維持するのに適している。従って、この方法によると、レジオネラ属菌繁殖の温床となるバイオフィルムを効果的に抑制し、薬剤耐性菌や薬剤耐性を持った藻類の繁殖を有効に抑えるとともに、冷却水系を構成する機器、配管等の腐食リスクを極めて低レベルに抑えるという効果を、より確実に発揮させることができる。
【0041】
本発明における有機系殺菌剤による処理はレジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制するために、30日間に1回以上行うことが必要である。このとき、2日間よりも短い期間に1回の割合での有機系殺菌剤による処理、あるいは、継続した有機系殺菌剤による処理を行うことは、薬剤を多量に消費するにもかかわらず、その消費量の増加に見合った効果の増大は得られないので好ましくない。
【0042】
有機系殺菌剤による処理において用いる薬剤は、レジオネラ属菌を確実に殺菌できる物質であれば特に限定されず、例えば、イソチアゾリン系化合物、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、ジンクピリチオン、4,5−ジクロロ−1,2−ジチオラン−3−オン、メチレンビスチオシアネート、N−デシル−N−イソノニル−N,N−ジメチルアンモニウムクロライド、ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]、ポリ(2−ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)、N,N'−ヘキサメチレンビス(4−カルバモイル−1−デシルピリジニウムブロマイド)、1,4−ビス(3,3'−(1−デシルピリジニウムメチルオキシ))ブタンジブロマイド、トリn−ブチル−n−ヘキサデシルホスホニウムクロライド、トリn−ブチル−n−ドデシルホスホニウムクロライド、テトラキス(ヒドロキシメチルホスホニウム)硫酸塩、N,N−ビス(3−アミノプロピル)ドデシルアミンなどが挙げられ、これらから1種以上選択して用いることができる。このうち、ハロゲン系酸化剤と併用することで、少ない添加量で確実にレジオネラ属菌を殺菌、抑制することができ、しかもメチロバクテリウム等の強い塩素耐性を示す細菌類の繁殖も有効に抑えられる点で、イソチアゾリン系化合物、あるいは、グルタルアルデヒドを用いるのが好ましい。
【0043】
イソチアゾリン系化合物としては、たとえば5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、及び、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンが挙げられ、これらから少なくとも1種を選択して開放循環冷却水系の保有水量に対するイソチアゾリン系化合物の有効成分濃度が1mg/L以上20mg/L以下となるように冷却水系に添加する。このとき、イソチアゾリン系化合物による処理を2日間ないし30日間に1回行うことにより、確実かつ効果的にレジオネラ属菌を殺菌、抑制することができる。
【0044】
一方、有機系殺菌剤による処理が、グルタルアルデヒドを冷却水系に添加する処理であるときには、開放循環冷却水系の保有水量に対するグルタルアルデヒドの有効成分濃度が20mg/L以上500mg/L以下となるようにグルタルアルデヒドを冷却水に添加する処理を、2日間ないし30日間に1回行うことにより、確実かつ効果的にレジオネラ属菌を殺菌、抑制することができる。
【0045】
上記したハロゲン系酸化物による処理と、有機系殺菌剤による処理を併用することで、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができ、その効果を長期間持続させることができる。しかも、薬剤耐性菌や薬剤耐性を持った藻類、あるいは、メチロバクテリウム等の強い塩素耐性を示す細菌類の繁殖等も効果的に抑えることができるので、開放循環冷却水系の微生物制御方法として非常に有用である。
【0046】
本発明の開放循環冷却水系の処理方法は、さらにその特性を改良するなどの目的で、本発明の効果が損なわれない限り、例えばアクリル酸系、マレイン酸系、メタクリル酸系、スルホン酸系、イタコン酸系、または、イソブチレン系の各重合体やこれらの共重合体、燐酸系重合体、有機ホスホン酸、有機ホスフィン酸、あるいはこれらの水溶性塩などのスケール防止剤、例えばベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール等のアゾール類、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系化合物、例えばニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等のアミノカルボン酸系化合物、例えばグルコン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、酒石酸、フィチン酸、琥珀酸、乳酸等の有機カルボン酸など、各種の水処理剤を併用することができ、その場合も本発明に含まれる。
【0047】
特に、アゾール類等の防食剤を併用することにより、ハロゲン系酸化物の使用による銅管の腐食を効果的に抑制することができるので、好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の開放循環冷却水系の処理方法の実施例について具体的に説明する。
【0049】
茨城県内某所のビル空調用冷却塔(冷凍能力500RT、保有水量10m3)で以下の試験を実施した。
【0050】
<処理条件1(ハロゲン系酸化物による単独処理)>
次亜塩素酸ナトリウム7重量%とスルファミン酸ナトリウム20重量%とを含有する安定化次亜塩素酸ナトリウム製剤を、冷却水中の酸化力が全残留塩素濃度として1〜2mg/Lを常時維持するように添加した。その後、1週間に1回、この冷却水中のレジオネラ属菌数を測定した。結果を図1に示す。
【0051】
<処理条件2(有機系殺菌剤(イソチアゾリン系化合物)による単独処理)>
5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを10重量%、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを3重量%それぞれ含有するイソチアゾリン製剤を、7日ごとに1回、冷却水系の保有水量に対する添加濃度が30mg/L(有効成分の合計濃度として3.9mg/L)となるように添加し、薬剤添加直前、薬剤添加1日後、及び、薬剤添加4日後の週3回、冷却水中のレジオネラ属菌数を測定した。結果を図1に示す。
【0052】
<処理条件3(ハロゲン系酸化物による処理と有機系殺菌剤(イソチアゾリン系化合物)による処理とを併用)>
次亜塩素酸ナトリウム7重量%とスルファミン酸ナトリウム20重量%とを含有する安定化次亜塩素酸ナトリウム製剤を、冷却水中の酸化力が全残留塩素濃度として1〜2mg/Lを常時維持するように添加し、かつ、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを10重量%、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを3重量%それぞれ含有するイソチアゾリン製剤を、7日ごとに1回、冷却水系の保有水量に対する添加濃度が30mg/L(有効成分の合計濃度として3.9mg/L)となるように添加した。このとき、イソチアゾリン製剤添加直前、イソチアゾリン製剤添加1日後、及び、イソチアゾリン製剤添加4日後の週3回、冷却水中のレジオネラ属菌数を測定した。結果を図1に示す。
【0053】
<処理条件4(有機系殺菌剤(グルタルアルデヒド)による単独処理)>
グルタルアルデヒドを、7日ごとに1回、冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、有効成分濃度として50mg/Lとなるように添加した。このとき、薬剤添加直前、薬剤添加1日後、及び、薬剤添加4日後の週3回、冷却水中のレジオネラ属菌数を測定した。結果を図2に示す。
【0054】
<処理条件5(ハロゲン系酸化物による処理と有機系殺菌剤(グルタルアルデヒド)による処理とを併用)>
次亜塩素酸ナトリウム7重量%とスルファミン酸ナトリウム20重量%とを含有する安定化次亜塩素酸ナトリウム製剤を、冷却水中の酸化力が全残留塩素濃度として1〜2mg/Lを常時維持するように添加し、かつ、グルタルアルデヒドを、7日ごとに1回、冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、有効成分濃度として50mg/Lとなるように添加した。このとき、グルタルアルデヒド添加直前、グルタルアルデヒド添加1日後、及び、グルタルアルデヒド添加4日後の週3回、冷却水中のレジオネラ属菌数を測定した。結果を図2に示す。
【0055】
これら図1及び図2より本発明に係る開放循環冷却水系の処理方法によれば、レジオネラ属菌を効果的に抑制し、不検出とすることができることが判る。なお、各処理条件による試験終了時(試験開始から1ヶ月後)に冷却塔を観察したところ、上記処理条件1では、冷却塔下部水槽にピンク色のバイオフィルム(メチロバクテリウムと推定)の付着が、処理条件2では、冷却塔上部水槽に粒状緑藻の付着が、処理条件4では、冷却塔充填材にカビを主体とするバイオフィルムの付着がそれぞれ認められた。一方、処理条件3及び処理条件5では、各処理条件で処理した1ヶ月間、冷却塔は清浄な状態が保たれた。
【0056】
以上の結果から、本発明の開放循環冷却水系の処理方法によれば、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができ、その効果を長期間持続させることができること、薬剤耐性菌や薬剤耐性を持った藻類、あるいは、メチロバクテリウム等の強い塩素耐性を示す細菌類の繁殖等も効果的に抑えることができることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放循環冷却水系の冷却水に対して、ハロゲン系酸化物による処理を24時間に1時間以上行い、かつ、
有機系殺菌剤による処理を30日間に1回以上行う
ことを特徴とする開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項2】
前記ハロゲン系酸化物による処理が、水中で遊離塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上5mg/L以下の範囲に維持する処理であることを特徴とする請求項1に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項3】
前記ハロゲン系酸化物による処理が、前記冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上1mg/L以下の範囲に維持する処理であり、かつ、該ハロゲン系酸化物による処理を常時行うことを特徴とする請求項2に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項4】
前記水中で遊離塩素を生成する物質が、次亜ハロゲン酸塩、ハロゲン化イソシアヌル酸、ハロゲン化ヒダントインから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項5】
前記ハロゲン系酸化物による処理が、水中で結合塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上100mg/L以下の範囲に維持する処理であることを特徴とする請求項1に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項6】
前記ハロゲン系酸化物による処理が、前記冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上10mg/L以下の範囲に維持する処理であり、かつ、該ハロゲン系酸化物による処理を常時行うことを特徴とする請求項5に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項7】
前記水中で結合塩素を生成する物質が、クロラミン類、及び、次亜ハロゲン酸塩とスルファミン酸塩とを反応させて得られる安定化次亜ハロゲン酸塩から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項8】
前記有機系殺菌剤による処理が、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、及び、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンから選択される少なくとも1種のイソチアゾリン系化合物を、前記冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、該イソチアゾリン系化合物の有効成分濃度として1mg/L以上20mg/L以下となるように前記冷却水系に添加する処理であり、かつ、
該有機系殺菌剤による処理を、2日間ないし30日間に1回行う
ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項9】
前記有機系殺菌剤による処理が、グルタルアルデヒドを、前記冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、有効成分濃度として20mg/L以上500mg/L以下となるように前記冷却水系に添加する処理であり、かつ、
該有機系殺菌剤による処理を、2日間ないし30日間に1回行う
ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の開放循環冷却水系の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−36108(P2012−36108A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175274(P2010−175274)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000101042)アクアス株式会社 (66)
【Fターム(参考)】