説明

間葉系幹細胞の誘引剤及び間葉系幹細胞の誘引方法

【課題】間葉系幹細胞を誘引できる間葉系幹細胞の誘引剤などを提供することを課題とする。
【解決手段】ボダイジュ抽出物、ボタンピ抽出物、クスノハガシワ抽出物、アセンヤク抽出物、パシャンベ抽出物、及びサクラ抽出物のうちの少なくとも1種を含む間葉系幹細胞の誘引剤などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞の誘引剤及び間葉系幹細胞の誘引方法に関する。
【背景技術】
【0002】
未だ分化しておらず様々な組織細胞へと分化しうる幹細胞としては、受精卵が分化していない状態の細胞である胚性幹細胞(ES細胞)、分化した組織に含まれ未だ分化していない状態の細胞である体性幹細胞などが知られている。
体性幹細胞は、体内の各種組織に存在するものであり、体性幹細胞としては、例えば、骨髄に存在する間葉系幹細胞が知られている。
【0003】
間葉系幹細胞は、骨、筋肉、脂肪など間葉系に属する細胞に分化し得るが未だ分化していないものであり、また、神経細胞などの外胚葉性の細胞や肝臓細胞などの内胚葉性の細胞へも分化し得るものとして知られている。
また、間葉系幹細胞は、機能が失われた組織においてその組織細胞に分化することにより組織の機能を回復させ得るものとして注目されている。具体的には、例えば、骨髄由来の間葉系幹細胞は、炎症のある組織又は損傷を受けた組織へ血流にのって誘引されて集積し、分化を誘導する分化誘導剤の影響を受けてその組織細胞へ分化し得るものとして注目されている。
【0004】
ところで、従来、間葉系幹細胞を各種の組織細胞に分化させ得る分化誘導剤としては、様々なものが知られており、例えば、血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor)としてのPDGF−BBを含み間葉系幹細胞を筋肉組織細胞に分化させ得るものなどが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/063967号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この種の分化誘導剤は、間葉系幹細胞を特定の組織細胞へと分化させる性能を有するものの、例えば、血流にのって体内を循環している骨髄由来の間葉系幹細胞を体内の特定の組織へ誘引するなどといった、間葉系幹細胞を誘引する性能に関しては、必ずしも満足できるものではないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点等に鑑み、間葉系幹細胞を誘引できる間葉系幹細胞の誘引剤を提供することを課題とする。また、前記誘引剤により間葉系幹細胞を誘引する間葉系幹細胞の誘引方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る間葉系幹細胞の誘引剤は、ボダイジュ抽出物、ボタンピ抽出物、クスノハガシワ抽出物、アセンヤク抽出物、パシャンベ抽出物、及びサクラ抽出物のうちの少なくとも1種を含むことを特徴としている。
【0009】
本発明に係る間葉系幹細胞の誘引方法は、前記誘引剤により間葉系幹細胞を誘引することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の間葉系幹細胞の誘引剤は、間葉系幹細胞を誘引できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】細胞誘引試験における様子を模式的に示した図。
【図2】細胞誘引試験の結果を示すグラフ。
【図3】細胞誘引試験の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の間葉系幹細胞の誘引剤の実施形態について説明する。
本実施形態の間葉系幹細胞の誘引剤は、ボダイジュ抽出物、ボタンピ抽出物、クスノハガシワ抽出物、アセンヤク抽出物、パシャンベ抽出物、及びサクラ抽出物からなる群より選ばれた少なくとも1種を含むものである。
【0013】
前記ボダイジュ抽出物は、シナノキ科(Tiliaceae)の植物を抽出溶媒で抽出することにより得られるものである。シナノキ科(Tiliaceae)の植物としては、ナツボダイジュ(Tilia platyphyllos Scop.)、フユボダイジュ(Tilia.cordata Mill.)、セイヨウシナノキ(Tilia.europaea L.)、又はその他の近縁植物が挙げられる。なかでも、シナノキ科(Tiliaceae)の植物としては、間葉系幹細胞をより誘引できるという点で、フユボダイジュ(Tilia.cordata Mill.)が好ましい。即ち、前記ボダイジュ抽出物としては、フユボダイジュ抽出物が好ましい。
【0014】
前記シナノキ科の植物の抽出部位としては、特に限定されず、例えば、花、果実、樹皮などが挙げられる。なかでも、抽出される部位としては、間葉系幹細胞をより誘引できるという点で、花が好ましい。
【0015】
前記ボタンピ抽出物は、ボタン科ボタン属ボタン(Paeonia suffruticosa Andrews)の根皮を抽出溶媒で抽出することにより得られるものである。
【0016】
前記クスノハガシワ抽出物は、トウダイグサ科に属するクスノハガシワ(Mallotus philippinensis)を抽出溶媒で抽出することにより得られるものである。
【0017】
前記クスノハガシワの抽出部位としては、特に限定されず、例えば、葉、枝、材部、樹皮、根などが挙げられる。なかでも、間葉系幹細胞をより誘引できるという点で、樹皮が好ましい。
【0018】
前記アセンヤク抽出物は、アセンヤク(Uncaria gambir)を抽出溶媒で抽出することにより得られるものである。
【0019】
前記アセンヤクの抽出部位としては、特に限定されず、例えば、葉、若枝などが挙げられる。前記アセンヤク抽出物としては、間葉系幹細胞をより誘引できるという点で、葉及び若枝の両方を抽出溶媒で抽出することにより得られるものが好ましい。
【0020】
前記パシャンベ抽出物は、ユキノシタ科ヒマラヤユキノシタ属に属するパシャンベ(Pashanbheda)の1種又は2種以上を抽出溶媒で抽出することにより得られるものである。パシャンベとしては、Bergenia ligulata(Wall.)Engl.Bergenia stracheyi(Hook.f.&Thoms.)Engl.、又は、Bergenia ciliata(Haw.)Sternb.などが挙げられる。なかでも、間葉系幹細胞をより誘引できるという点で、Bergenia ligulata(Wall.)Engl.を抽出溶媒で抽出することにより得られるものが好ましい。
【0021】
前記パシャンベの抽出部位としては、特に限定されるものではないが、間葉系幹細胞をより誘引できるという点で、根茎が好ましい。
【0022】
前記サクラ抽出物は、バラ科(Roaceae)サクラ属(Prunus)に属する植物を抽出溶媒で抽出することにより得られるものである。サクラ属(Prunus)に属する植物としては、サクラ亜属(Subgen.Cerasus)のオオシマザクラ(Prunus.speciosa)、ヤマザクラ(Prunus.jamasakura)、オオヤマザクラ(Prunus.sargentii)、エドヒガン(Prunus.spachiana)、マメザクラ(Prunus.incisa)、ミヤマザクラ(Prunus.maximowiczii)、ソメイヨシノ(Prunus x yedoensis)、タカネザクラ(Prunus.nipponica)、カスミザクラ(Prunus.leveilleana)、チョウジザクラ(Prunus.apetala)、コヒガン(Prunus.subhirtella)、サトザクラ(Prunus.lannesiana)、カンザクラ(Prunus.kanzakura)などが挙げられる。なかでも、サクラ属(Prunus)に属する植物としては、間葉系幹細胞をより誘引できるという点で、ソメイヨシノ(Prunus x yedoensis)が好ましい。即ち、前記サクラ抽出物としては、ソメイヨシノ抽出物が好ましい。
【0023】
サクラ属(Prunus)に属する植物の抽出部位としては、特に限定されるものではなく、例えば、花、根、葉、果実、種などが挙げられる。なかでも、間葉系幹細胞をより誘引できるという点で、葉が好ましい。
【0024】
前記間葉系幹細胞の誘引剤は、前記抽出物の1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
上述した植物の各抽出物は、通常、前記抽出溶媒による抽出液、その希釈液、その濃縮液、又はその抽出溶媒を除去した乾燥物の態様になり得る。具体的には、各抽出物は、例えば、溶液状、ペースト状、ゲル状、粉末状などの態様になり得る。
【0026】
前記抽出溶媒としては、水、又は、メタノール、エタノール、プロパノールなどの脂肪族1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどの脂肪族多価アルコール;アセトンなどのケトン類;ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステルなどのエステル類;キシレン、ベンゼン、トルエンなどの芳香族類;クロロホルムなどハロゲン化アルキル類などの有機溶媒が挙げられる。
これらの抽出溶媒は、1種が単独で、又は2種以上が混合されて用いられ得る。混合されてなる抽出溶媒の混合比は、特に限定されるものではなく、適宜調整される。
【0027】
前記抽出溶媒としては、少なくとも水を含む水含有抽出溶媒が好ましい。
また、前記抽出溶媒としては、間葉系幹細胞をより誘引できるという点で、脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールなどの脂肪族アルコールと水とを含む抽出溶媒がより好ましく、脂肪族1価アルコールと水とを含む抽出溶媒がさらに好ましく、水及びエタノールを含む抽出溶媒が最も好ましい。
【0028】
前記抽出溶媒としては、具体的には、例えば、脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールなどの脂肪族アルコールと水とを、脂肪族アルコール:水=7:3〜3:7の容量比で混合した抽出溶媒が好ましい。
より具体的には、前記抽出溶媒としては、エタノールと水とがエタノール:水=7:3〜3:7の容量比で混合された抽出溶媒が好ましい。
【0029】
前記抽出の方法としては、特に制限されず、従来公知の一般的な抽出方法を採用することができる。抽出においては、抽出原料として各植物の抽出部位をそのまま若しくは乾燥させて用いることができる。また、通常、抽出溶媒量が抽出原料の5〜15倍量(重量比)であり、抽出温度が20℃〜80℃であり、抽出時間が2時間〜3日間である。抽出した後においては、必要に応じて、適宜、ろ過、脱臭、脱色などの精製処理を行うことができる。
【0030】
前記間葉系幹細胞の誘引剤に含まれる上記各抽出物の濃度としては、特に限定されず、例えば、乾燥物換算で0.1〜5.0重量%が挙げられる。
なお、乾燥物換算とは、抽出物から抽出溶媒を除いた残渣である乾燥物の重量に換算することである。
【0031】
なお、前記各抽出物としては、例えば、化粧料用原料、食品添加物などにおいて市販されているものを用いることができる。
【0032】
次に、本発明の間葉系幹細胞の誘引方法の実施形態について説明する。本実施形態の間葉系幹細胞の誘引方法は、前記間葉系幹細胞の誘引剤により間葉系幹細胞を誘引するものである。
【0033】
間葉系幹細胞は、間葉系組織の細胞に含まれているものであり、軟骨、脂肪、筋肉などの中胚葉性組織の細胞に分化するだけでなく、神経などの外胚葉性組織、肝臓などの内胚葉性組織の細胞へも分化し得るものである。また、誘引する間葉系幹細胞としては、骨髄から比較的容易に採取できるという点、血液中にも存在し得ることが既に認識されているという点で、骨髄間葉系幹細胞が好ましい。
【0034】
前記間葉系幹細胞の誘引方法においては、in vitroin vivo、又はin situで前記間葉系幹細胞の誘引剤により間葉系幹細胞を誘引することができる。
【0035】
具体的には、例えばin vitroでの間葉系幹細胞の誘引方法においては、厚み方向に貫通する微細孔を有するメンブレン(膜)を備えた装置を用い、メンブレンの一方側に間葉系幹細胞を配し、他方側に前記間葉系幹細胞の誘引剤を配し、所定時間をおいて間葉系幹細胞をメンブレンの他方側へ誘引する方法などを実施することができる。
また、例えば、in vitroでの間葉系幹細胞の誘引方法においては、スライドグラス上に播種した間葉系細胞の一部を掻き取り、掻き取った部分に前記間葉系幹細胞の誘引剤を含む培地を加えて培養することにより、掻き取った部分へ間葉系幹細胞を誘引する方法などを実施することができる。骨髄間葉系幹細胞の誘引の程度は、掻き取った部分における間葉系幹細胞の増殖を確認することにより評価できる。
【0036】
また、例えばin vivoでの間葉系幹細胞の誘引方法においては、前記間葉系幹細胞の誘引剤を含む水性ゲルを通常のマウスの皮下に埋め込み、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein,以下GFPともいう)を発現させたマウスの骨髄間葉系幹細胞をこのマウスの静脈に注入し、所定期間マウスを飼育することにより、骨髄間葉系幹細胞をゲルに誘引する方法などを実施することができる。骨髄間葉系幹細胞の誘引の程度は、ゲルにおける蛍光の強度を測定することにより評価できる。
また、例えばin vivoでの間葉系幹細胞の誘引方法においては、GFPを発現させたマウスの骨髄間葉系幹細胞を、創傷モデルマウスの骨髄に移植するとともに、該マウスの創傷部に前記間葉系幹細胞の誘引剤を塗布することにより、創傷部にGFPマウス由来の骨髄間葉系幹細胞を誘引する方法などを実施することができる。骨髄間葉系幹細胞の誘引の程度は、創傷部における蛍光の強度を測定することにより評価できる。
【0037】
また、例えばin situでの間葉系幹細胞の誘引方法においては、特定組織に間葉系幹細胞の誘引剤を適用し、その組織に骨髄間葉系幹細胞を誘引する方法などを実施することができる。より具体的には、例えば、皮膚の表皮組織に前記間葉系幹細胞の誘引剤を適用し、血液中に存在する骨髄間葉系幹細胞を表皮組織に誘引する方法などを実施することができる。
【0038】
前記間葉系幹細胞の誘引方法は、in situにおいては、ヒト以外の動物に適用することができる。また、ヒトにおいて非治療的に適用することができる。
なお、in situでの誘引方法における特定組織としては、上述した表皮組織だけではなく、筋肉組織、軟骨組織、肝臓組織などの各種組織が挙げられる。
【0039】
前記間葉系幹細胞の誘引方法においては、前記間葉系幹細胞の誘引剤を希釈して使用することができる。希釈するための液としては、特に限定されるものではなく、例えば、水、生理食塩水、間葉系細胞の培地液などを用いることができる。間葉系幹細胞の誘引剤を使用するときに該誘引剤を希釈してなる希釈液における抽出物の濃度は、特に限定されるものではないが、乾燥物換算で0.00001〜0.05重量%であることが好ましい。抽出物の濃度が乾燥物換算で0.00001重量%以上であることにより、より間葉系幹細胞を誘引する性能に優れるという利点がある。また、間葉系幹細胞への毒性がより低いものになり得るという点で、抽出物の濃度が乾燥物換算で0.05重量%以下であることが好ましい。
【0040】
本実施形態の間葉系幹細胞の誘引剤及び間葉系幹細胞の誘引方法は、上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の間葉系幹細胞の誘引剤及び間葉系幹細胞の誘引方法に限定されるものではない。また、本発明では、一般の間葉系幹細胞の誘引剤及び間葉系幹細胞の誘引方法において採用される種々の形態を、本発明の効果を損ねない範囲で採用することができる。
【実施例】
【0041】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
まず、以下に示すようにして、各抽出物を調製することにより各抽出物のみからなる間葉系幹細胞の誘引剤を製造した。その詳細について、説明する。
【0043】
(実施例1)
実施例1のボダイジュ抽出物として、フユボダイジュ抽出液を調製した。詳しくは、フユボダイジュ(Tilia.cordata Mill)の花を乾燥して細かく砕いたもの100gに50容量%エタノール水溶液1Lを加え、室温(20℃)にて3日間抽出操作をおこない、さらにろ過処理を行った。そして、ろ過した液から減圧乾燥により乾燥物を得て、この乾燥物を1,3−ブチレングリコールで希釈してフユボダイジュ抽出液を調製した。このボダイジュ抽出液は、減圧乾燥によって抽出溶媒を除去したあとの乾燥物重量から計算すると、乾燥物を0.45重量%含むものであった。
【0044】
(実施例2)
実施例2のボタンピ抽出物として、ボタンピ抽出液を調製した。詳しくは、ボタン(Paeonia suffruticosa Andrews)の根皮を乾燥して細かく砕いたもの100gに50容量%エタノール水溶液1Lを加え、室温(20℃)にて3日間抽出操作をおこない、さらにろ過処理を行った。そして、ろ過した液から減圧乾燥により乾燥物を得て、この乾燥物を1,3−ブチレングリコールで希釈してボタンピ抽出液を調製した。このボタンピ抽出液は、減圧乾燥によって抽出溶媒を除去したあとの乾燥物重量から計算すると、乾燥物を0.90重量%含むものであった。
【0045】
(実施例3)
実施例3のクスノハガシワ抽出物として、クスノハガシワ抽出液を調製した。詳しくは、クスノハガシワ(Mallotus philippinensis Mueller-Argoviensis)の樹皮を乾燥して細かく砕いたもの200gに50容量%エタノール水溶液2Lを加え、60〜80℃を保ちつつ2日間抽出操作をおこない、さらにろ過処理を行った。そして、ろ過した液から減圧乾燥により乾燥物を得て、この乾燥物を1,3−ブチレングリコールで希釈してクスノハガシワ抽出液を調製した。このクスノハガシワ抽出液は、減圧乾燥によって抽出溶媒を除去したあとの乾燥物重量から計算すると、乾燥物を0.20重量%含むものであった。
【0046】
(実施例4)
実施例4のアセンヤク抽出物として、アセンヤク抽出液を調製した。詳しくは、アセンヤク(Uncaria gambir Roxburgh)の葉及び若枝を乾燥して細かく砕いたもの100gに50容量%エタノール水溶液2Lを加え、撹拌しながら50〜70℃を保ちつつ3時間抽出操作をおこない、さらにろ過処理を行った。そして、ろ過した液から減圧乾燥により乾燥物を得て、この乾燥物を1,3−ブチレングリコールで希釈してアセンヤク抽出液を調製した。このアセンヤク抽出液は、減圧乾燥によって抽出溶媒を除去したあとの乾燥物重量から計算すると、乾燥物を4.10重量%含むものであった。
【0047】
(実施例5)
実施例5のパシャンベ抽出物として、パシャンベ抽出液を調製した。詳しくは、パシャンベ(Bergenia ligulata(Wall.)Engl.)の根茎を乾燥して細かく砕いたもの200gに50容量%エタノール水溶液3kgを加え、撹拌しながら50℃にて8時間抽出操作を行った。粗抽出物を冷却、ろ過操作した後、濃縮し、合成吸着体(商品名「ダイヤイオンHP−20」 三菱化学社製)を充填したカラムに通液した。そして、水洗を行い、30容量%エタノール水溶液にて溶出させた溶出液を減圧乾燥後、1,3−ブチレングリコールに再溶解してパシャンベ抽出液を調製した。このパシャンベ抽出液は、減圧乾燥によって抽出溶媒を除去したあとの乾燥物重量から計算すると、乾燥物を0.50重量%含むものであった。
【0048】
(実施例6)
実施例6サクラ抽出物として、ソメイヨシノ抽出液を調製した。詳しくは、ソメイヨシノ(Prunus x yedoensis)の葉を乾燥して細かく砕いたもの100gに50容量%エタノール水溶液1Lを加え、撹拌しながら室温(20℃)にて3日間抽出操作をおこない、さらにろ過処理を行った。そして、ろ過した液から減圧乾燥により乾燥物を得て、この乾燥物を1,3−ブチレングリコールで希釈してソメイヨシノ抽出液を調製した。このソメイヨシノ抽出液は、減圧乾燥によって抽出溶媒を除去したあとの乾燥物重量から計算すると、乾燥物を2.00重量%含むものであった。
【0049】
次に、調製した各抽出物を間葉系幹細胞の誘引剤として使用し、細胞誘引試験による評価を行った。図1は、該評価方法の様子を模式的に示したものである。以下、図1を参照しながら評価方法の詳細を説明する。
【0050】
<細胞誘引試験>
各実施例の抽出液が0.01容量%、0.1容量%、又は1容量%になるように希釈し、試験用サンプルを調製した。希釈には、ダルベッコ変法イーグル培地[DMEM「FBS(−)、P/S(−)」]を用いた。なお、FBSは、10%ウシ胎児血清を示し、P/Sは、100ユニットペニシリン及び0.1mg/mLストレプトマイシンを示している。また(−)の記号は、配合していないことを示している。
また、陰性対照サンプル(以下、N.C.ともいう)として、DMEM「FBS(−)、P/S(−)」を用意し、一方、陽性対照サンプル(以下、P.C.ともいう)として、20ng/mL PDGF−BB(血小板由来成長因子 PEPRO TECH社製)を用意した。
また、マウス骨髄間葉系幹細胞(以下、mMSCともいう)をコンフルエントまで培養して回収し、10% FBS/DMEM「P/S(−)」で1×107cells/mlとなるように懸濁し、細胞懸濁液を用意した。
次に、複数のウェルを備え、図1(a)に示すように上部ウェルPと下部ウェルQとがメンブレンMで仕切られてなるボイデンチャンバー(Neuro Probe社製)を用い、各試験用サンプルのいずれか1種と陰性対照サンプル及び陽性対照サンプルとが同一のボイデンチャンバーにおいて試験できるように設定し、該チャンバーの各下部ウェルに各サンプルをそれぞれ28μlずつアプライした。なお、ボイデンチャンバーのメンブレンとしては、商品名「Polycarbonate Membranes」(Neuro Probe社製 細孔サイズ8μm)を採用した。
続いて、メンブレンMで仕切られた上記ボイデンチャンバーの上部ウェルPに上記細胞懸濁液を50μlずつ播種し、37℃、5%CO2の条件下で4時間培養した(図1(b)を参照)。
4時間培養後、図1(c)に示すように、移動していないmMSCを付属のフィルターワイパーRではぎ取り、メンブレンの下側へ移動したmMSCのみをディフ・クイック染色(Sysmex社製キットを使用)により染色した。
そして、染色像をデジタル化してコンピュータに取り込み、画像を黒と白に2値化したうえで青色部分を白色に変換し、各ウェル範囲内の輝度の平均値をソフトウェア「フォトショップ」によって測定し、陰性対照サンプルおよび陽性対照サンプルでの輝度と比較することにより、各実施例の間葉系幹細胞の誘引剤のmMSC誘引活性を評価した。
【0051】
各実施例における評価結果を図2(a)〜(f)に示す。
また、参考実験として、陽性対照サンプルにおいて用いたPDGF−BBの濃度を変えて上記と同様の方法で細胞誘引試験を行った。その結果を図3に示す。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の間葉系幹細胞の誘引剤及び間葉系幹細胞の誘引方法は、例えば、様々な組織の各間葉系幹細胞において、遊走を経て集積する(誘引される)性能の差を評価するために好適に使用され得る。
また、本発明の間葉系幹細胞の誘引剤及び間葉系幹細胞の誘引方法は、例えば、体内の特定の組織に誘引剤を注入することなどにより体内の組織に適用することで、その組織で間葉系幹細胞を特定の組織へと分化させるべく、血流により体内を循環している血液内の間葉系幹細胞をその特定組織に誘引して集積させる方法などにおいて好適に使用され得る。
【符号の説明】
【0053】
P:上部ウェル、 Q:下部ウェル、 M:メンブレン、 R:フィルターワイパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボダイジュ抽出物、ボタンピ抽出物、クスノハガシワ抽出物、アセンヤク抽出物、パシャンベ抽出物、及びサクラ抽出物のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする間葉系幹細胞の誘引剤。
【請求項2】
請求項1に記載の間葉系幹細胞の誘引剤により間葉系幹細胞を誘引することを特徴とする間葉系幹細胞の誘引方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−251925(P2011−251925A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125905(P2010−125905)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000112266)ピアス株式会社 (49)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】