説明

防液堤を備えた貯油設備

【課題】側溝に溜まった雨水等の排水作業中において貯油タンクからの漏油が発生した場合であっても防液堤の外部への漏油の流出を防止し得る貯油設備を提供する。
【解決手段】貯油タンク1と、防液堤2と、側溝13とを有する貯油設備であって、側溝13は、排水口9を含む領域である油分離部10と、油分離部10に隣接する上流側の領域である漏油貯留部11とを有し、さらに油分離部10は、漏油貯留部11との境界で、側溝13の底面と先端面との間に空間が形成されるよう上方から下方に突出する下降堰14と、下降堰14に側溝13の長手方向で隣接され側溝13の底面から上方に伸びるとともに先端面から液体をオーバーフローさせて排出する上昇堰15との少なくとも一組を有するとともに、漏油貯留部11における貯油タンク1側の上縁面11Aよりも高い位置に上縁面16Aが位置するように油分離部10の貯油タンク1側の端部に沿って壁部16が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防液堤を備えた貯油設備に関し、特に防液堤の内側に側溝を有するものに適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
図4は従来技術に係る防液堤を備えた貯油設備の一例を示す構造説明図である。同図において、A−A′線より左側は平面的な構造、右側は側断面を示している。当該貯油設備は、貯油タンク1、防液堤2、側溝3、油分離槽4を有している。ここで、貯油タンク1は、床面5に配設され、石油等の油分を含む液体である燃料を貯留している。防液堤2は貯油タンク1で漏油が発生した場合に、この漏油を外部に流出させないようにするための堤防となるもので、貯油タンク1の周囲を取り囲むように配設してある。側溝3は防液堤2の内周面に沿って床面5に設けてあり、防液堤2内の雨水等を集積するとともに、集積した雨水等を排水口9を介して外部に排出するように構成してある。油分離槽4は排水弁6を介して流入する側溝3からの雨水等から油分を分離処理して防潮堤7の外側の海中8に排出する。
【0003】
ここで、側溝3に溜まる雨水の表面には、一般に貯油タンク1の配管の継ぎ目等から漏れ出る少量の漏油により油膜が形成される。このように油分が浮いた雨水をそのまま防液堤2の外部に排出した場合には、環境汚染の問題が発生する。そこで、側溝3から流出した雨水等の液体を油分離槽4で油分の分離処理を行った後、海中8等の環境に排出している。また、排水弁6は通常は閉めてあり、定期的に開いて側溝3に溜まった雨水等を防液堤2の外部に排出している。
【0004】
なお、屋外に設置された貯油タンクの近傍に配置され、この貯油タンクの基礎に実質的に一体に油分離装置を構築した従来技術として特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−261123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の如き従来技術に係る貯油設備においては、側溝3に溜まった雨水等の排水作業中に貯油タンク1からの漏油(図4中に矢印Iで示す)が発生すると大量の漏油が側溝3に流入し、この側溝3の漏油がそのまま外部に排出され、雨水とともに油分離槽4に流入してしまう。この場合には、油分離槽4での分離処理が間に合わずオーバーフローした油が、そのまま海中8に排出されてしまい、環境汚染の原因になることが懸念される。
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑み、側溝に溜まった雨水等の排水作業中において貯油タンクからの漏油が発生した場合であっても防液堤の外部への漏油の流出を防止し得る貯油設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、
油分を含む液体を貯留している貯油タンクと、該貯油タンクの周囲を取り囲むように配設してある防液堤と、該防液堤の内周面に沿って前記貯油タンクが設置された床面に設けられて前記防液堤内の雨水を含む液体を溜めるとともに、最下流側に形成された排水口に連通する排水弁を介して内部に溜まった前記液体を外部に排出する側溝とを有する防液堤を備えた貯油設備であって、
前記側溝は、前記排水口を含む領域である油分離部と、該油分離部に隣接する上流側の領域である漏油貯留部とを有し、
さらに前記油分離部は、前記漏油貯留部との境界で、前記側溝の底面と先端面との間に空間が形成されるよう上方から下方に突出する下降堰と、該下降堰に前記側溝の長手方向で隣接され前記側溝の底面から上方に伸びるとともに先端面から前記液体をオーバーフローさせて排出する上昇堰との少なくとも一組を有するとともに、
前記漏油貯留部における前記貯油タンク側の上縁面よりも高い位置に上縁面が位置するように前記油分離部の前記貯油タンク側の端部に沿って壁部が設けられていることを特徴とする防液堤を備えた貯油設備にある。
【0009】
本態様によれば、貯油タンクからの漏油は、油分離部の貯油タンク側の端部に沿って壁部が設けられていることとも相俟って側溝の漏油貯留部に集中的に流入する。したがって、排水弁を開いて側溝の液体を外部に排出している最中であっても漏油が排水口を介して防液堤の外部に流出するのを有効に防止することができる。また、油分離部は、最下流の排水口に向けて下降堰と上昇堰が交互に形成されているので、漏油貯留部から油分離部に漏油が流入しても排水口に至るまでの間に油分を有効に分離することができる。この結果、排水口を介した防液堤外への漏油の流出を可及的に防止することができる。
【0010】
本発明の第2の態様は、
第1の態様に記載する防液堤を備えた貯油設備において、
前記床面が前記漏油貯留部の前記上縁面に向けて傾斜させてあることを特徴とする防液堤を備えた貯油設備にある。
【0011】
本態様によれば、貯油タンクの配管部等から漏れでた少量の漏油も含め、床面を流れる漏油を容易に漏油貯留部に流れ込ませることができる。
【0012】
本発明の第3の態様は、
第1または第2の態様に記載する防液堤を備えた貯油設備において、
前記漏油貯留部に貯留されている液体の表面に浮遊する油膜を回収するオイルキャッチャーを前記表面に配設したことを特徴とする防液堤を備えた貯油設備にある。
【0013】
本態様によれば、貯油タンクからの大量の漏油ではなくても、貯油タンクの配管部等から漏れでた少量の漏油により漏油貯留部に貯留されている雨水の表面に油膜が形成される場合があるが、かかる油膜をオイルキャッチャーで有効に回収することができる。
【0014】
本発明の第4の態様は、
第1〜第3の態様のいずれか一つに記載する防液堤を備えた貯油設備において、
前記排水弁を介して前記側溝から流出する液体を受け入れて該液体の表面に浮遊する油分を分離処理して外部に排出する油分離槽を前記防液堤の外部に配設したことを特徴とする防液堤を備えた貯油設備にある。
【0015】
本態様によれば、雨水の表面に形成された油膜をはじめ、排水口から流出した雨水中の油分をさらに油分離槽で分離処理することができるので、さらに確実に油分の環境への排出を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、貯油タンクからの漏油を側溝の漏油貯留部に集中的に流入させることができ、しかも漏油貯留部から油分離部に流入した油を最下流の排水口に向けて下降堰と上昇堰が交互に形成されている油分離部で分離することができるので、排水弁を開いて側溝の液体を外部に排出している場合であっても、排水口を介した防液堤外への漏油の流出を可及的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る防液堤を備えた貯油設備の一例を示す構造説明図(通常の雨水排水時)で、A−A′線より左側が平面的な構造、右側が側断面を示している。
【図2】本発明の実施の形態に係る防液堤を備えた貯油設備の一例を示す構造説明図(雨水排水時に漏油が発生した場合)で、A−A′線より左側が平面的な構造、右側が側断面を示している。
【図3】図1および図2のB−B′線断面を拡大して示す断面図である。
【図4】従来技術に係る防液堤を備えた貯油設備の一例を示す構造説明図で、A−A′線より左側が平面的な構造、右側が側断面を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1は、通常の雨水排水時の態様で示す本発明の実施の形態に係る貯油設備の構造説明図で、A−A′線より左側が平面的な構造、右側が側断面を示している。図2は、雨水排水時に貯油タンク1からの漏油が発生した場合の態様で示す図1と同様の構造図である。両図に示すように、本形態に係る貯油設備は、貯油タンク1、防液堤2、側溝13、油分離槽4を有している。ここで、貯油タンク1は、床面5に配設され、石油等の油分を含む液体である燃料を貯留している。防液堤2は貯油タンク1で漏油19(図2中に矢印でも示す。以下、同じ。)が発生した場合に、この漏油19を外部に流出させないようにするための堤防となるもので、貯油タンク1の周囲を取り囲むように配設してある。ここで、防液堤2と床面5とで形成する空間の容積が貯油タンク1に貯留される液体の体積よりも大きくなるように設計されている。貯油タンク1内の液体が全て漏出されても全量が防液堤2内に止まり外部に排出されるのを防止するためである。
【0020】
側溝13は防液堤2の内周面に沿って床面5に設けてあり、防液堤2内の雨水等(雨水とその表面に浮遊している油膜等を含む。以下同じ。)18を集積するとともに、集積した雨水等18を排水口9および排水弁6を介して外部に排出する。油分離槽4は排水弁6を介して流入する側溝13からの雨水等18から油分を分離処理して防潮堤7の外側の海中8に排出する。
【0021】
本形態における側溝13は、排水口9を含む領域である油分離部10と、油分離部10に隣接する上流側の領域である漏油貯留部11とを有している。ここで、油分離部10は油分離槽4と同様の油分離機能を有するように構成してある。すなわち、複数組(本形態では2組)の下降堰14および上昇堰15を有するが、この点に関しては後に詳述する。
【0022】
また、油分離部10の貯油タンク1側の端部に沿って壁部16が設けてあり、この結果壁部16の上縁面16Aが漏油貯留部11の貯油タンク1側の上縁面11Aよりも高い位置に位置するようになっている。すなわち、床面5に漏洩した漏油19は壁部16に阻止される結果、油分離部10に流入することはなく、すべてが漏油貯留部11に流入するように構成してある。ここで、床面5を漏油貯留部11の上縁面11Aに向けて傾斜させるのが望ましい。傾斜させた場合には貯油タンク1の配管部等から漏れでた少量の漏油も含め、床面5を流れる漏油19を容易に漏油貯留部11に導入させることができるからである。
【0023】
図3は図1および図2のB−B′線断面を拡大して示す断面図である。同図に示すように、油分離部10には、漏油貯留部11との境界で、側溝13の底面13Aと先端面14Aとの間に空間が形成されるよう上方から下方に突出する下降堰14と、下降堰14に側溝13の長手方向(図3の左右方向)で隣接されて側溝13の底面13Aから上方に伸びるとともに先端面15Aから雨水等18をオーバーフローさせて排出する上昇堰15とが2組形成されている。
【0024】
かかる本形態の貯油設備においては、排水弁6を開くことにより、側溝13の最下流の上昇堰15と防液堤2の内周面との間に貯留されている雨水等18が排水口9を介して外部に排出され、油分離槽4で油分がさらに分離されて海中8に排出される。この状態が図1に示す状態である。したがって、この場合には、排水口9が設けられた側溝13の上昇堰15で区画された領域にオーバーフローして流入する雨水等18がなければ、当該領域の雨水等18を排出した時点で所定の排出作業を終了する。図3はこの状態を示している。
【0025】
一方、図2に示すように、上述の如き雨水等18の排水作業中に貯油タンク1からの漏油19が発生すると大量の漏油19が側溝13に流入するが、この漏油19は壁部16に流れを阻害され、また床面5が漏油貯留部11に向かって傾斜しているので、上縁面11Aを介してすべてが漏油貯留部11に流入する。この漏油貯留部11は側溝13において最下流の排水口9から最も離れた最上流部にあり、また漏油貯留部11から油分離部10の排水口9までには、流れ方向で隣接する下降堰14と上昇堰15の二組を超えなければならないので、油分離部10で油分が可及的に分離され、排水口9を介して外部に流出する油分を可及的に低減することができる。そして、万一油分が外部に流出しても油分離槽4の処理能力で十分対応することができるよう設計することが容易に可能になるので、雨水等18の排出作業と、貯油タンク1から漏油19が重なった場合でも海中8に油分が排出されるのを未然に防止することができる。
【0026】
なお、図3に示すように、漏油貯留部11に貯留されている雨水等18の表面に浮遊する油膜を回収するオイルキャッチャー17を前記表面に配設しても良い。貯油タンク1からの大量の漏油19ではなくても、貯油タンク1の配管部等から漏れでた少量の漏油により漏油貯留部11に貯留されている雨水等18の表面に油膜が形成される場合があるが、かかる油膜をオイルキャッチャー17で有効に回収することができるからである。
【0027】
上記実施の形態においては、防液堤2の外部に油分離槽4を設けたが、これは必ずしも必要なものではない。側溝13の漏油貯留部11で十分な量の漏油19を貯留することができ、また油分離部10で十分な量の油分離を行うことができるように構成した場合には、油分離槽4を省略することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、例えば大容量の石油を貯留する貯油タンクが防液堤の内部に配設されている貯油設備を所有する電力業界等の産業分野において有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 貯油タンク
2 防液堤
3 側溝
4 油分離槽
5 床面
6 排水弁
7 防潮堤
8 海中
9 排水口
10 油分離部
11 漏油貯留部
11A 上縁面
13 側溝
13A 底面
14 下降堰
14A 先端面
15 上昇堰
15A 先端面
16 壁部
16A 上縁面
17 オイルキャッチャー
18 雨水等
19 漏油


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分を含む液体を貯留している貯油タンクと、該貯油タンクの周囲を取り囲むように配設してある防液堤と、該防液堤の内周面に沿って前記貯油タンクが設置された床面に設けられて前記防液堤内の雨水を含む液体を溜めるとともに、最下流側に形成された排水口に連通する排水弁を介して内部に溜まった前記液体を外部に排出する側溝とを有する防液堤を備えた貯油設備であって、
前記側溝は、前記排水口を含む領域である油分離部と、該油分離部に隣接する上流側の領域である漏油貯留部とを有し、
さらに前記油分離部は、前記漏油貯留部との境界で、前記側溝の底面と先端面との間に空間が形成されるよう上方から下方に突出する下降堰と、該下降堰に前記側溝の長手方向で隣接され前記側溝の底面から上方に伸びるとともに先端面から前記液体をオーバーフローさせて排出する上昇堰との少なくとも一組を有するとともに、
前記漏油貯留部における前記貯油タンク側の上縁面よりも高い位置に上縁面が位置するように前記油分離部の前記貯油タンク側の端部に沿って壁部が設けられていることを特徴とする防液堤を備えた貯油設備。
【請求項2】
請求項1に記載する防液堤を備えた貯油設備において、
前記床面が前記漏油貯留部の前記上縁面に向けて傾斜させてあることを特徴とする防液堤を備えた貯油設備。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する防液堤を備えた貯油設備において、
前記漏油貯留部に貯留されている液体の表面に浮遊する油膜を回収するオイルキャッチャーを前記表面に配設したことを特徴とする防液堤を備えた貯油設備。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載する防液堤を備えた貯油設備において、
前記排水弁を介して前記側溝から流出する液体を受け入れて該液体の表面に浮遊する油分を分離処理して外部に排出する油分離槽を前記防液堤の外部に配設したことを特徴とする防液堤を備えた貯油設備。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−76237(P2013−76237A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215497(P2011−215497)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】