説明

防火用引戸装置及びその戸車装置

【課題】火災時でも防火用引戸が適正に開閉ができるようにする戸車装置を提供する。
【解決手段】この戸車装置(10)は、平常時使用戸車ユニット(16)と、該平常時使用戸車(14)を載置し案内するレール部(12)を備える平常時使用レール(12)と、該レール部(12a)の垂直上方位置で、該レール部(12)に整合されるレール部(18a)を備える火災時使用レール(18)と、該火災時使用レールのレール部(18a)の真上に間隔をあけて引戸(3)の上縁部に取り付けられて、火災時に平常時使用戸車(14)が変形して引戸が全体として下方に変位したときに火災使用時レール(18)のレール部(18a)上に係合して火災使用時レールのレール部(18a)上で回転可能とされる火災使用時戸車(20)を備える火災時使用戸車ユニット(22)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火用引戸装置に関し、特に、防火用引戸装置における戸車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
防火用引戸装置としては、平常時使用の合成樹脂製戸車と、火災時使用の鉄製戸車とを備えたものが知られている(特許文献1及び2参照)。平常時は、合成樹脂製戸車を使用することにより戸車の開閉時に音が余り出ないようにするとともに、火災による高温発生により樹脂製戸車が変形、溶解したりした場合は、この樹脂製戸車に代わって鉄製戸車がレールと係合するようにし、火災時において引戸の開閉が出来、避難口として使用可能となるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平3−4878号
【特許文献2】特許第2887576号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら従来の防火用引戸装置は、単一のレール部材に1本のレール部分が形成され、火災により樹脂製戸車が変形、溶解した場合に、該レール部分に樹脂製戸車に代わって鉄製戸車が係合するようにするか、または単一のレール部材に2本の平行なレール部分が形成され、平常時に樹脂製戸車が一方のレール部分に係合し、火災時には鉄製戸車が他方のレール部分に係合するようになっている。
【0005】
このような従来の防火用引戸装置においては、変形や溶解した樹脂製の戸車が、鉄製戸車のレール上での転動の邪魔になり、引戸の円滑な開閉が出来なくなる可能性がある。
【0006】
また、平常時使用の樹脂製戸車に対してはアルミニューム製のレールが望ましいが、アルミニューム製とした場合には、上述の如くレール部材を単一の部材としているために、火災時の鉄製戸車が係合されるレール部分もアルミニューム製とされることになるが、アルミニューム製のレールは耐火性が低く、変形したりして火災時に引戸の円滑な開閉が出来なくなる可能性がある。
【0007】
更に、平常時使用のレール部分と火災時用のレール部分とを平行に設定した場合には、火災時に鉄製戸車が火災時用レール部分と係合するようになった場合、当該レール部分に対する引戸の重心位置が変わり、引戸の円滑な開閉が出来なくなる可能性もある。
【0008】
本発明は、以上のような従来の防火用の引戸装置における問題を解消する戸車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、
防火用引戸装置における戸車装置(以下に説明する実施形態においては参照番号10で示す)であって、
該引戸の上縁部に回転自在に取り付けられる平常時使用戸車(14)を備える平常時使用戸車ユニット(16)と、
該引戸の開閉方向に沿って設けられ、該平常時使用戸車(14)を載置し、引戸が開閉されるときに転動する平常時使用戸車を該開閉方向で案内するレール部(12a)を備える平常時使用レール(12)と、
該平常時使用レール(12)のレール部(12a)の垂直上方位置で、該レール部(12)に整合されて該開閉方向に沿って設けられるレール部(18a)を備える火災時使用レール(18)と、
該火災時使用レールのレール部(18a)の真上に間隔をあけて該引戸(3)の上縁部に取り付けられて、火災時に該平常時使用戸車(14)が変形して当該引戸が全体として下方に変位したときに該火災使用時レール(18)のレール部(18a)上に係合して該火災使用時レールのレール部(18a)上で回転可能とされ、該引戸の開閉を可能とする火災使用時戸車(20)を備える火災時使用戸車ユニット(22)と
を有する防火用引戸装置における戸車装置を提供する。
【0010】
この戸車装置においては、火災時使用戸車を受けるレール部が、平常時使用レールのレール部と垂直方向で整合されているので、火災時の熱により変形したり溶解したりする平常時使用戸車が火災時使用戸車の転動を妨げたりするのを回避することが可能となる。また、火災時使用戸車が火災時使用レールのレール部上に係合するようになっても、レール部に対する引戸の重心の位置は変わらず、傾いたりすることがないので、当該引戸の適正な開閉が妨げられるということも回避することが可能となる。
【0011】
具体的には、該火災時使用レール(18)と該平常時使用レール(12)とを別体とし、それぞれ、引戸の上方位置で水平方向に延びる戸枠の上部枠部に固定されるようにすることができる。火災時使用レールと該平常時使用レールとを別々に用意することで、それぞれ所要の材料で作ることが可能となる。
【0012】
更に具体的には、該平常時使用レール(12)を、樹脂製部材(160)を介して該上部枠部(2a)に固定し、該樹脂製部材が火災時の熱により軟化又は焼失することにより該平常時使用レールが下方に変位可能とすることができる。
【0013】
平常時使用戸車(14)が火災時の熱により溶解して火災時使用戸車が火災時使用レール上に載った状態で当該戸車を動かそうとしても、溶解した平常時使用戸車の材料が平常時使用レール(12)上に堆積し、戸車の動きに伴って動かされる平常時使用戸車(14)(の溶解した後に残された車軸など)の動きの邪魔になることが考えられるので、平常時使用レールをこのように下方に変位可能とすることにより、そのような事態が生じないようにするものである。
【0014】
この場合、上部枠部(2a)に取り付けられ、平常時使用レール(12)が下方に変位されたときに該平常時使用レールと係合して支持する係合支持部材(以下に述べる実施形態におけるネジ123)を有するようにすることができる。
【0015】
更に、平常時使用レール(12)が、平常時使用レールのレール部(12a)を支持し上部枠部(2a)に固定されて該平常時使用レールを上部枠部(2a)に設定するためのレール固定部(12b)を有し、該レール固定部は水平方向に貫通する開口(12c)を有し、該樹脂製部材(160)は該開口(12c)内に取り付けられ、係合支持部材(123)が細長い部材とされて該樹脂製部材の開口の周縁の上方部分から下方に離れた位置を水平方向に通され上部枠部(2a)に挿入固定されることにより、平常時使用レールを上部枠部(2a)に設定すると共に、樹脂製部材(160)が火災時の熱により軟化したときに下方に変位した平常時使用レール(12)の開口の周縁の上方部分と係合して平常時使用レール(12)を上部枠部(2a)に支持するようにすることができる。係合支持部材(123)は、具体的にはネジとして、樹脂部材(160)を通したネジの先端部分を上部枠部(2a)にねじ込むようにすることができる。
【0016】
また、上部枠部(2a)に固定される第2の樹脂製部材(164)を有し、該第2の樹脂製部材が平常時使用レール(12)を係合支持するようにされており、火災時の熱により軟化して、平常時使用レールが下方に変位するのを許容するようにすることができる。第1の樹脂製部材による支持を補助するものであり、必要に応じて取り付けられる。
【0017】
上述した戸車装置においては、
火災時使用戸車ユニット(22)が、
引戸に固定され、火災時使用戸車(20)を回転自在に支持する支持部材(30)を有し、
該支持部材は、火災時使用レール(18)のレール部(18a)に隣接した下側に取り付けられた飛び跳ね防止部材(同実施形態においてはボルト36により構成)を有し、該飛び跳ね防止部材は、該平常時使用戸車(14)が変形して火災時使用戸車(20)が火災時使用レールのレール部(18a)上に落ちて反動で飛び上がったときに、火災時使用レールのレール部(18a)に当たるようにすることができる。火災時使用戸車(20)が大きく飛び跳ねて外れるのを防止するものである。
【0018】
平常時使用戸車ユニット(16)は、引戸に固定されて平常時使用戸車を回転可能に支持する支持部材(26)を有し、火災時使用戸車ユニットの支持部材(30)が、平常時使用戸車ユニット(16)の支持部材(26)に取り付けられるようにすることができる。
【0019】
平常時使用レールをアルミニューム製とし、平常時使用戸車を樹脂製とし、また、火災時使用レールと火災時使用戸車とを鉄製とすることができる。このようにすることにより、平常時には引戸の開閉を余り大きな音を出さずに静かに行い、更に引戸の開閉の繰り返しにおいても円滑な動作が可能となり、また、火災時には引戸の開閉を確実に行うようにすることを可能とする。
【0020】
本発明はまた、上述の如き戸車装置を備えた防火用引戸装置を提供する。
【0021】
この防火用引戸装置においては、火災時使用レールのレール部(18a)を、引戸の開扉位置から閉扉位置に向かうに従い下方に向かって傾斜するように設定することができる。火災時において引戸が火災時使用レールのレール部(18a)に落ちたときに、自動的に引戸が閉まるようにするものである。
【0022】
また、この防火用引戸装置においては、戸車装置(22)が、引戸の戸先側及び戸尻側にそれぞれ設けられており、火災時使用レール(18)が、引戸(3)の閉扉時において戸先側の戸車装置の火災時使用戸車(20)を載置する戸先側端部(18c)と、該戸先側端部の反対側の戸尻側端部(18d)と、戸先側端部から戸尻側端部側に向かって上方に傾斜する傾斜部(18e)と、該傾斜部に続き戸尻側端部まで水平に延び、引戸の閉扉時における戸尻側の戸車装置の火災時使用戸車(20)を載置するようにした水平部分(20f)とを有し、戸先側の戸車装置の火災時使用戸車が、引戸の閉扉時において当該引戸を垂直に支持するように、戸尻側の戸車装置の火災時使用戸車より大きな直径とされるようにすることができる。傾斜部を設けるのは、火災時の引戸の閉扉を確実にするためである。この場合、戸先側及び戸尻側の戸車の直径を調節するのではなく、戸尻側の戸車の軸心を戸先側の戸車の軸心より高く設定して、引戸が閉扉したときに、当該引戸が垂直なるようにすることもできる。
【0023】
以下、本発明にかかる戸車装置を取り付けた防火用引戸装置の実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る戸車装置を取り付けた防火用引戸装置の要部を示す正面図である。
【図2】図1の戸車装置の正面図である。
【図3】図2の戸車装置の側面図である。
【図4】図2のIV‐IV線断面図である。
【図5】第2の実施形態に係る戸車装置の側面図であり、火災前の平常時使用の状態を示す。
【図6】図5と同じ戸車装置の側面図であり、火災が発生したときの状態を示す。
【図7】図5の戸車装置における平常時使用レールの取付状態を示す正面図である。
【図8】戸先側端部に傾斜をつけた火災時使用レールと火災時使用戸車との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に示す防火用引戸装置1は、戸枠2と、引戸3とを備えており、該引戸3は本発明に係る戸車装置10によって戸枠2の上部枠部2aに吊り下げられている。
【0026】
戸車装置10は、上部枠部2aに、引戸3の開閉方向に沿って設定された平常時使用レール12と、引戸3に取り付けられて、引戸3の開閉に伴い平常時使用レール12上を回転する平常時使用戸車14を備える一対の平常時使用戸車ユニット16と、平常時使用レール12の垂直方向上方位置において上部枠部2aに引戸の開閉方向に沿って設定された火災時使用レール18と、該火災時使用レール18の真上に僅かな間隔を開けて配置された火災時使用戸車20を備える一対の火災時使用戸車ユニット22とを有する。
【0027】
各平常時使用戸車ユニット16は、引戸3の上縁面3aに固定される支持部材26を有し、引戸の開閉方向で間隔のあけられた一対の樹脂製の平常時使用戸車14が該支持部材26に回転可能に支持されている。具体的には、支持部材26は、引戸3の上縁面3aに固定される固定部26aと、該固定部の一側縁から垂直に立ち上がった支持部26bとからなり、該支持部26bの引戸開閉方向中央部分に、ボルト40により矩形状の支持揺動部材26dが揺動可能に取り付けられており、平常時使用戸車14はボルト状のシャフト26cにより該支持揺動部材26dに回転自在に取り付けられている。図示のように、シャフト26cは、支持部材26に形成された該シャフト26cのヘッド状外端部分26eよりも大径とされた円形の穴26fを通されている。このようにすることにより、平常時使用レール12に傾斜などがあったとしても一対の平常時使用戸車14が常に同時に平常時使用レールに係合することができるようにされている。
【0028】
平常時使用レール12は、アルミニューム製で、レール部12a及び断面L字状のレール固定部12bからなり、ネジ23をレール固定部12bに設けた挿通孔25を通して上部枠部2にねじ込むことにより該上部枠部2aに固定されており、引戸の開閉方向で水平に延びるレール部12a上に平常時使用戸車14が、その環状溝14aが嵌合されて転動するようにされている。
【0029】
火災使用時戸車ユニット22は、平常時使用戸車ユニット16の支持部材26の中央部分に固定されて垂直上方に延びる細長い板状の支持部材30と、該支持部材30の上端部分に水平に取り付けられた支持軸30aとを有し、火災時使用戸車20は、該支持軸30aに回転自在に取り付けられている。図3に示すように、火災時使用戸車20は、平常時使用戸車14と垂直方向で整合されている。
【0030】
火災時使用レール18は鉄製とされ、平常時使用レール12のレール部12aと垂直方向で整合された引戸の開閉方向に延びる細長い板状のレール部18aと、該レール部18aを上部枠部2に固定するためのレール固定部18bとから構成され、図示の例では、レール部18aとレール固定部18bとは、別体とされてネジによって連結固定されている。
【0031】
レール部18aは、火災時使用戸車20の環状溝20aと整合され且つ該環状溝20aから下方に間隔をあけて設けられている。図示の例では、火災時使用戸車20は、その両外側面に鍔状部分20bが一体的に形成されており、環状溝20aの深さを深くしている。
【0032】
平常時使用レール12のレール部12a及び火災時使用レールのレール部18aの真下の位置には、それぞれ、ネジ34、36の軸部分34a,36aが延びている。ネジ34は、火災時使用戸車20の支持部材30の下端部分を平常時使用戸車14の支持部材26に固定するために、該支持部材30の下端部分を通して、該平常時使用戸車14の支持部材26に形成されたネジ穴(図示せず)にネジ係合され、軸部分34aがレール部12aの下を通るものである。ネジ36は、火災時使用戸車20の支持部材30のネジ穴(図示せず)にネジ係合されて、その軸部分36aがレール部18の下を延びるものである。
【0033】
図示の例では、図1で見て左側の平常時使用戸車ユニット16の支持部材26には、平常時使用レール12の上縁部に取り付けられたラック42と噛合するピニオン44が取り付けられ、引戸3が開扉位置から閉扉位置に向けて図1で見て左方に動き、閉扉位置に近づくときに該ピニオン44の回転に伴って制動を行って引戸を減速させる減速装置46が設けられている。
【0034】
平常時使用レール12の閉鎖方向側の端部(左端部)には、自動閉扉装置50が設けられている。該自動閉扉装置50内には回転ドラムが設けられており、該回転ドラムの周りに巻回されたワイヤーの一端52が平常時使用戸車の支持部材26に連結されている。引戸が開かれると、回転ドラムが回転され、その内部に設けられたゼンマイバネに、引戸を閉扉方向に引き戻すように作用する付勢力が畜勢される。
【0035】
引戸3を通常開閉するときには、平常時使用戸車ユニット16の樹脂製の平常時使用戸車14がアルミ製のレール部12a上を転動するようになっている。これに対して、火災発生により樹脂製の平常時使用戸車14が溶解したり変形したりした場合には、該平常時使用戸車14とレール部12aとの正常な係合は無くなり、引戸3全体が下方に落ちる。このため、火災時使用戸車ユニット22の鉄製の火災時使用戸車20が鉄製のレール部18aに係合するようになり、該レール部18a上での火災時使用戸車20の転動によって、当該引戸3の開閉が可能となる。引戸が落ちて、火災時使用戸車ユニット22の火災時使用戸車20がレール部18a上に急激に当たった場合には、その反動により、該火災時使用戸車20、従って引戸3が上方に飛び上がる可能性があるが、レール部18aの下にある飛び跳ね防止部材としてのネジ36の軸部分36aが、それぞれ、レール部18aに当たることにより、当該引戸が外れてしまったりするのを防止することができる。このとき火災時使用戸車20の環状溝20aからレール部18a外れない距離にネジ36が設定されている。
【0036】
図1に示すように本実施形態においては、火災時使用レール18が右側(開扉位置側)から左側(閉扉位置側)に向かって下方に傾斜するようにされている。これは、火災時に火災時使用戸車20が火災時使用レール18上に係合したときに、該レールの傾斜により、引戸が自動的に閉扉位置に向かうようにするためである。
【0037】
図5乃至図7は、本発明に係る防火用引戸装置における戸車装置110の第2の実施形態が示している。この戸車装置の基本的構成は上述した第1の実施形態のものと同じであり、同じ構成要素には同じ参照番号を付して示してある。
【0038】
この戸車装置110の特徴とするところは先ず、平常時使用レール12の取付けにある。平常時使用レール12は、第1の実施形態と同様にネジ123により上部枠部2aに固定されるが、ネジ123は、平常時使用レール12のレール固定部12bに設けた円形開口12cを充填するように設けられた樹脂製部材160を通して上部枠部2aにねじ込まれるようになっている。図5及び図7に示すようにネジ123は、円形開口12cの周縁の上方部分から下方に離して設定されている。
【0039】
平常時使用レール12がこのように取り付けられていることにより、火災が発生して、樹脂製部材160が軟化すると、平常時使用レール12は、その自重により該樹脂製部材160を変形しながら下方に変位する。図6は、火災により樹脂製部材160が焼失した状態を示しており、平常時使用レール12は、円形開口12cの周縁の上方部分がネジ123に係合することにより支持されている。
【0040】
この実施形態においては、平常時使用戸車14が、その回転軸に固定された鉄製のコア輪14b(図6)とその周囲に設けられた樹脂製の外周輪14cとからなり、図6に示す状態では、外周輪14cが焼失し、コア輪14bのみが残るようになっている。
【0041】
図5には減速装置46のピニオン44が示されているが、このピニオン44が係合されるラック42は、第1実施形態とは異なり、ピニオン44の下に設定されている。このため、この第2実施形態では、ピニオン44が樹脂製とされており、火災時には図6に示すように焼失するようにされ、平常時使用レール12が下方に変位するのを邪魔しないようにされている。
【0042】
この第2実施形態においては、上部枠部2aに平常時使用レール12の下面と係合して、平常時使用レールを支持するための第2の樹脂製部材164が設けられている。この第2の樹脂製部材164も火災時の熱により焼失するようにされており、平常時使用レールが下方に変位するのを邪魔しないようにされている。この第2の樹脂製部材164は、第1の樹脂製部材160の補助として設けられるものであり、必要に応じ、ネジにより上部枠部2aに取り付けられる。具体的には、平常時使用レール12は、樹脂製部材160が充填された穴12cが所定間隔で設けられ、作業現場において適宜の長さに切断されて設定されるが、切断されたときに、戸尻方向での端部部分が、該端部部分に最も近い穴12c、従ってネジ123により固定される部分から戸尻側に長く延び、このために、同端部部分が下方へたれる虞があるような場合に、その下に接するように取り付ける。
【0043】
更にこの実施形態においては、下方戸枠2bに、戸枠3の下縁部分を水平方向で案内するための(垂直な軸線の周りで回転自在とされた)ガイド輪2cが設けられているが、該ガイド輪2cは、静音効果を図るために、コア輪2c−1の周りに樹脂製の外周輪2c−2を設けて構成されている。火災時には外周輪が熱によって焼失するために、そのときの引戸の案内のために、鉄製ガイド輪2c−3が設けられている。
【0044】
図8は、火災時使用レール18が、引戸3の閉扉時において戸先側の戸車装置の火災時使用戸車20を載置する戸先側端部18cと、該戸先側端部の反対側の戸尻側端部18d(図1)と、戸先側端部から戸尻側端部側に向かって上方に傾斜する傾斜部18eと、傾斜部に続き戸尻側端部18dまで水平に延び、引戸の閉扉時における戸尻側の戸車装置の火災時使用戸車20を載置するようにした水平部分18fとを有する例が示してある。これは引戸3を確実に閉扉位置にするためのものである。この場合、この傾斜部18eによって、引戸3が傾いて引戸3と(戸先側の)戸枠2との間に隙間ができるのを防ぐために戸先側の戸車20aの径(火災時使用レール18の戸先側端部18cに係合する径)を戸尻側の戸車20bより大きくすることにより、閉扉時おいて、両戸車の回転軸が同じ高さになるようにする。または、図示はしないが、戸先側及び戸尻側の戸車20a,20bの直径を同じとして、戸尻側の戸車20bの軸心の位置を、戸先側の戸車20aの軸芯の位置よりも高い位置に設定することにより、引戸3が閉止位置となり戸先側の戸車20aが傾斜部18eに載り、戸尻側の戸車20bが水平部に載った状態で、当該引戸が傾かないようにすることもできる。
【0045】
以上、本発明に係る防火用引戸の戸車装置の一実施形態につき説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、火災時使用戸車ユニット22は、平常時使用戸車ユニット16とは別に引戸に直接設定することができる。また、平常時使用戸車14を支持する支持部材26と火災時使用戸車20を支持する支持部材30とを一体に形成しても良い。
【符号の説明】
【0046】
引戸装置1;戸枠2;上部枠部2a;ガイド輪2c;コア輪2c−1;外周輪2c−2;鉄製ガイド輪2c−3;引戸3;上縁面3a;戸車装置10;平常時使用レール12;レール部12a;レール固定部12b;円形開口12c;平常時使用戸車14;環状溝14a;コア輪14b;外周輪14c;平常時使用戸車ユニット16;火災時使用レール18;レール部18a;レール固定部18b;戸先側端部18c;と尻側端部18d;傾斜部18e;水平部18f;火災使用時戸車20;環状溝20a;ディスク20b;火災時使用戸車ユニット22;支持部材26;固定部26a;支持部26b;シャフト26c;支持揺動部材26d;シャフトの外端部分26e;穴26f;支持部材30;支持軸30a;ネジ34;軸部分34a;ネジ36;軸部分36a;ネジ40;ラック42;ピニオン44;減速装置46;自動閉鎖装置50;ワイヤーの一端52;戸車装置110;ネジ123;樹脂製部材160;第2の樹脂製部材164

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防火用引戸装置における戸車装置であって、
引戸の上縁部に回転自在に取り付けられる平常時使用戸車を備える平常時使用戸車ユニットと、
該引戸の開閉方向に沿って設けられ、該平常時使用戸車を載置し、引戸が開閉されるときに転動する平常時使用戸車を該開閉方向で案内するレール部を備える平常時使用レールと、
該平常時使用レールのレール部の垂直上方位置で、該レール部に整合されて該開閉方向に沿って設けられるレール部を備える火災時使用レールと、
該火災時使用レールのレール部の真上に間隔をあけて該引戸の上縁部に取り付けられて、火災時に該平常時使用戸車が変形して当該引戸が全体として下方に変位したときに該火災使用時レールのレール部上に係合して該火災使用時レールのレール部上で回転可能とされ、該引戸の開閉を可能とする火災使用時戸車を備える火災時使用戸車ユニットと
を有する防火用引戸装置における戸車装置。
【請求項2】
該火災時使用レールと該平常時使用レールとが別体とされ、それぞれ、引戸の上方位置で水平方向に延びる戸枠の上部枠部に固定されるようになされている請求項1に戸車装置。
【請求項3】
該平常時使用レールが、樹脂製部材を介して該上部枠部に固定され、該樹脂製部材が火災時の熱により軟化又は焼失することにより該平常時使用レールが下方に変位可能とされている請求項2に記載の戸車装置。
【請求項4】
該上部枠部に取り付けられ、該平常時使用レールが下方に変位されたときに該平常時使用レールと係合して支持する係合支持部材を有する請求項3に記載の戸車装置。
【請求項5】
該平常時使用レールが、該平常時使用レールのレール部を支持し上部枠部に固定されて該平常時使用レールを該上部枠部に設定するためのレール固定部を有し、該レール固定部は水平方向に貫通する開口を有し、該樹脂製部材は該開口内に取り付けられ、該係合支持部材が細長い部材とされて該樹脂製部材の該開口の周縁の上方部分から下方に離れた位置を水平方向に通され該上部枠部に挿入固定されることにより、該平常時使用レールを該上部枠部に設定すると共に、該樹脂製部材が火災時の熱により軟化したときに下方に変位した該平常時使用レールの開口の周縁の上方部分と係合して該平常時使用レールを該上部枠部に支持するようにした請求項4に記載の戸車装置。
【請求項6】
該上部枠部に固定される第2の樹脂製部材を有し、該第2の樹脂製部材が該平常時使用レールに係合して支持するようにされており、火災時の熱により軟化して、該平常時使用レールが下方に変位するのを許容するようにされている請求項4又は5に記載の戸車装置。
【請求項7】
該火災時使用戸車ユニットが、
引戸に固定され、該火災時使用戸車を回転自在に支持する支持部材を有し、
該支持部材は、該火災時使用レールのレール部に隣接した下側に取り付けられた飛び跳ね防止部材を有し、該飛び跳ね防止部材は、該平常時使用戸車が変形して火災時使用戸車が該火災時使用レールのレール部上に落ちて反動で飛び上がったときに、該火災時使用レールに当たるようにした請求項1乃至6に記載の戸車装置。
【請求項8】
該平常時使用戸車ユニットが、引戸に固定されて該平常時使用戸車を回転可能に支持する支持部材を有し、
該火災時使用戸車ユニットの支持部材が、該平常時使用戸車ユニットの支持部材に取り付けられるようにした請求項7に記載の戸車装置。
【請求項9】
該平常時使用レールがアルミニューム製とされ、該平常時使用戸車が樹脂製とされ、
該火災時使用レールと該火災時使用戸車とが鉄製とされている請求項1乃至8のいずれかに記載の戸車装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の戸車装置を備えた防火用引戸装置。
【請求項11】
火災時使用レールのレール部が、引戸の開扉位置から閉扉位置に向かうに従い下方に向かって傾斜するように設定されている請求項10に記載の防火用引戸装置。
【請求項12】
該戸車装置が、引戸の戸先側及び戸尻側にそれぞれ設けられており、該火災時使用レールが、引戸の閉扉時において戸先側の戸車装置の火災時使用戸車を載置する戸先側端部と、該戸先側端部の反対側の戸尻側端部と、戸先側端部から戸尻側端部側に向かって上方に傾斜する傾斜部と、該傾斜部に続き該戸尻側端部まで水平に延び、引戸の閉扉時における戸尻側の戸車装置の火災時使用戸車を載置するようにした水平部分とを有し、該戸先側の戸車装置の火災時使用戸車が、引戸の閉扉時において当該引戸を垂直に支持するように、戸尻側の戸車装置の火災時使用戸車より大きな直径とされている請求項10又は11に記載の防火用引戸装置。
【請求項13】
該戸車装置が、引戸の戸先側及び戸尻側にそれぞれ設けられており、該火災時使用レールが、引戸の閉扉時において戸先側の戸車装置の火災時使用戸車を載置する戸先側端部と、該戸先側端部の反対側の戸尻側端部と、戸先側端部から戸尻側端部側に向かって上方に傾斜する傾斜部と、該傾斜部に続き該戸尻側端部まで水平に延び、引戸の閉扉時における戸尻側の戸車装置の火災時使用戸車を載置するようにした水平部分とを有し、該戸先側の戸車装置の火災時使用戸車が、引戸の閉扉時において当該引戸を垂直に支持するように、戸尻側の火災時使用戸車の軸心が戸先側の火災時使用戸車の軸心よりも高く設定されている請求項10又は11に記載の防火用引戸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−1810(P2011−1810A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244940(P2009−244940)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000227386)日東工器株式会社 (158)
【Fターム(参考)】