説明

防音壁のパネル取付構造、及び防音壁の構築方法

【課題】パネル取付の作業性が良好であり、支柱に角形鋼管を用いる場合に有効な防音壁のパネル取付構造を提供する。
【解決手段】パネル取付構造15は、角形鋼管である支柱12側のパネル背面受け部と、支柱の前面側に設けられたパネル拘束構造18とからなる。パネル拘束構造18は、支柱前面12aから離間した垂直板状受け部20aを有し支柱前面に固定された受け部材20と、支柱側の前記パネル背面受け部との間に溝状空間を形成する固定金物23とからなる。固定金物23は落下防止部25を一体に備える。受け部材20及び固定金物23にそれぞれ設けた対向するボルト挿通穴20b、24cにボルト27を支柱前面27側から挿入し、ボルト27にナット28を螺合させる。パネルの両端部を、左右両側の支柱のパネル背面受け部と固定金物23との間に形成される溝状空間に上から差し込み、ナット28を締め付けてパネルを固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、角形鋼管からなる支柱に、横長のパネルの横端部を上から差し込み可能な溝状空間を設け、隣接する左右の支柱の前記溝状空間に複数のパネルの両横端部を順次上から差し込み積み重ねてなる防音壁のパネル取付構造、及び、このパネル取付構造を備えた防音壁の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
支柱に横長のパネルの横端部を上から差し込み可能な溝状空間を設け、隣接する左右の支柱の前記溝状空間に複数のパネルの両横端部を順次上から差し込んで(落とし込んで)積み重ねるパネル差込式のパネル取付構造が、防音壁において採用される場合がある。
この種の防音壁では、図14に断面を示すように、H形鋼による支柱1を間隔をあけて立設し、パネル2の両横端部をH形鋼のウエブとフランジとで形成される溝状空間3に差し込んで積み重ねる方式が一般的である。
【0003】
また、図15(イ)に示すように、支柱1’の断面外形が角形である場合に、支柱前面1a’にボルト4を直角に固定し、このボルト4に通すボルト挿通穴をあけたハット形の金物5を用いてパネル2を固定するものがある。この例では、さらに、ボルト挿通穴をあけたZ形の金物6を用いており、このZ形の2つの金物6を左右逆向きに配し、一辺側を重ねて両ボルト挿通穴にボルト4を通し、他辺側を左右のパネル2の端部に当てている。そして、ハット形の金物5のボルト挿通穴にボルト4を通し、ナット7を螺合させ締め付けることで、前記Z形の金物6の他辺の上からパネル2の端部を締め付け固定する(引用文献1)。
【0004】
また、前記Z形の金物6を用いないで、図15(ロ)のように、ハット形の金物5のみでパネル2の端部を支柱1’の前面1a’に押し付け固定する構造も採用されており、むしろ一般的である。
また、図15(ロ)において、ハット形の金物5に代えて、単なる平板状の金物を用いる場合もある。
なお、図15(イ)、(ロ)の構造の場合、通常、パネル2を支柱前面1a’に当てた状態で金物5で締め付け固定する作業方法を採用するが、金物5(又は金物5及び6)を締め付けない状態で形成した溝状空間(支柱前面1a’と金物5(又は金物5及び6)との間の空間)にパネル2を上から差し込んで(落とし込んで)積み重ね、次いでナット6で締め付け固定することも一応可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平53−16806
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図14のように、支柱1がH形鋼の場合は捩れに対する剛性が低いので、パネル2をその溝状空間3に落とし込む構造の場合、防音壁の高さが高くパネル枚数が多数となると、支柱に大きな荷重が作用し、支柱に捻れが生じる恐れがある。
角形鋼管はその断面形状により捻れ剛性が高いので、支柱として角形鋼管を採用することが考えられる。また、支柱を軽量化する目的で、図14のようなH形綱ではなく角形鋼管を適用することがある。その場合に、図15(イ)や(ロ)のようなパネル取付構造が考えられる。しかし、このパネル取付構造で、前述のパネル差し込み方式を採用する場合、パネル2を差し込む段階(ナットを最終的に締め付ける前の段階)での溝状空間を安定して形成することが簡単とは言い難い。ナット7が奥まった位置にありナット操作がしにくい等により、作業性も悪い。
また、ボルト4を支柱1'に直接固定するためには、固定手段として溶接などの加工が必要となる。
また、ボルト4に金物5(又は5と6)の重量が直接作用するので、例えば道路から伝わる振動と相俟ってボルトに金属疲労が生じ易い。
これらの問題は、防音壁高さがあまり高くなくまたパネルが軽量で支柱に大きな荷重が作用しない場合には問題とならないが、防音壁高さがかなり高くなりまたパネル重量が大である場合には好ましくない問題となる。
【0007】
本発明は上記背景のもとになされたもので、防音壁の支柱として捻れ剛性の高い角形鋼管を用い、かつ横長のパネルの横端部を支柱に設けた溝状空間に差し込んで積み重ねる構造とする場合に、パネル取付の作業性が良好であり、パネル取付に用いるボルトの緩みが生じにくく、また、ボルトに金属疲労が発生する恐れが少なく、支柱に大きな荷重が作用する場合に特に有効な防音壁のパネル取付構造、及び防音壁の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する請求項1の発明は、角形鋼管からなる支柱に、横長のパネルの横端部を上から差し込み可能な溝状空間を設け、隣接する左右の支柱の前記溝状空間に複数のパネルの両横端部を順次上から差し込み積み重ねてなる防音壁のパネル取付構造であって、
支柱に設けられてパネルの横端部の背面側を受けるパネル背面受け部と、支柱の前面側に設けられて、前記パネル背面受け部との間に前記溝状空間を形成してパネルを拘束するパネル拘束構造とからなり、
前記パネル拘束構造は、支柱前面から離間した垂直板状受け部を有する支柱前面に固定された受け部材と、支柱側の前記パネル背面受け部との間に前記溝状空間を形成する垂直平板部を左右両側に有する縦長の固定金物とを備え、該固定金物には前記受け部材の垂直板状受け部の上端縁に載る載置部と前記垂直板状受け部に係止可能な下向き突片とを有する落下防止部が一体に設けられ、前記受け部材及び固定金物にそれぞれ設けられた対向するボルト挿通穴に支柱前面側から支柱と離れる方向へ挿通されるボルトと、前記ボルトに固定金物の外面側から螺合し締着されるナットとを有することを特徴とする。
【0009】
請求項2は、請求項1のパネル取付構造において、固定金物が複数のパネル分の高さを有することを特徴とする。
【0010】
請求項3は、請求項1又は2のパネル取付構造において、支柱側の受け部材と固定金物側の落下防止部との組みを、積み重ねる各パネル毎に設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項4は、請求項1〜3のいずれかのパネル取付構造において、固定金物が、左右両側の前記垂直平板部と幅方向中央部の上から見て支柱前面側が開放のコ字形をなすコ字形部とからなるハット形断面形状をなし、前記コ字形部に前記ボルト挿通穴を有することを特徴とする。
【0012】
請求項5は、請求項1〜4のいずれかのパネル取付構造において、受け部材が、一方の辺が支柱前面から離間した前記垂直板状受け部となるように配した山形鋼からなり、その他方の辺が取付部材を介して支柱前面に固定されたことを特徴とする。
【0013】
請求項6は、請求項1〜5のいずれかのパネル取付構造において、ボルトが、ボルト挿通穴を有する平板部の上端部に、前記受け部材の垂直板状受け部の上端縁に掛けられるフック部を持つ鋼板製の回り止め部材の前記ボルト挿通穴に通され、ボルト頭部が前記平板部に溶接固定されていることを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明は、請求項1記載のパネル取付構造を備えた防音壁の構築方法であって、
パネル背面受け部を備え前面に受け部材を固定してなる複数の支柱を間隔をあけて立設し、受け部材の支柱前面に対して離間している垂直板状受け部のボルト挿通穴に支柱前面側から支柱と離れる方向へボルトを挿入し、両側の支柱の前面側にそれぞれ固定金物を垂直に配して、その落下防止部の載置部を受け部材の垂直板状受け部に載せ、固定金物のボルト挿通穴の位置を受け部材の垂直板状受け部のボルト挿通穴の位置に合わせした上で、垂直板状受け部のボルト挿通穴に挿入した前記ボルトをさらに深く挿入して固定金物のボルト挿通穴を貫通させ、次いで、固定金物の外面側に露出したボルトにナットを螺合させて、支柱に受け部材を介して仮保持された固定金物と支柱側のパネル背面受け部との間に溝状空間を形成し、次いで、パネルの両横端部を左右の支柱に形成された前記溝状空間に差し込んだ後、前記ナットをさらに締め付けて、パネルの横端部を最終的に締め付け固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明において、固定金物の落下防止部を支柱前面に固定された受け部材の垂直板状受け部に載せるだけで、パネル取付構造の主たる部材である固定金物が支柱に仮保持されるので、ボルト締め等のその後の作業が容易であり、パネル取付の作業性は良好である。
この場合、落下防止部が、受け部材の垂直板状受け部に係止可能な下向き突片を持つので、施工中に、仮保持された固定金物が落下する恐れはない。また、施工後に仮にナットがボルトから外れたとしても、固定金物が落下する恐れはない。
また、固定金物の重量は落下防止部を介して、支柱に固定された受け部材が受けるので、ボルトには作用しない。したがって、ボルトには締め付け荷重以外の余分な力は作用せず、ボルトに例えば道路から伝わる振動による金属疲労が発生する恐れは少ない。
支柱が角形鋼管でありH形鋼と比べて捻れ剛性が高いので、また、上記の各効果と相俟って、本発明は、支柱に大きな荷重が作用する場合に特に有効である。
また、ナットが固定金物の外側になるので、ナット緩みの有無を容易に確認することができ、また、締め増しも容易であり、メンテナンスを行い易い。
【0016】
請求項2のように、固定金物として複数のパネル分の高さを持つ固定金物を用いると、溝状空間へスムーズにパネルを差し込め、複数のパネルを同時に押えることができるのでパネル取付作業の能率が向上する。
請求項3のように、支柱側の受け部材と固定金物側の落下防止部との組みを、積み重ねる各パネル毎に1つずつ設けるという簡単な構造で、固定金物を支持する機能を良好に果たすことができる。
【0017】
請求項4のように、固定金物の断面形状を幅方向中央部にコ字形部を持つハット形とすることで、固定金物の剛性を高くすることができる。
【0018】
請求項6によれば、受け部材の垂直板状受け部の上端縁に掛けた回り止め部材のフック部の上に固定金物の落下防止部が載り、フック部が固定金物の重量で押さえられるので、回り止め部材に固定されたボルトの回り止めが確実になされる。
また、フック部に固定金物の落下防止部が載っていない状態でも、幅のある板状のフック部が垂直板状受け部の上端縁に載っている状態は、回り止め部材が回転することに対して一定の拘束作用をするので、やはりボルトの回り止めにある程度有効である。
【0019】
請求項7の防音壁の構築方法によれば、本発明のパネル取付構造の特徴を有効に活かして、パネル取付を能率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例の防音壁である吸音壁の断面図である。
【図2】図1の防音壁の一部の正面図である。
【図3】(イ)は図2のA部を拡大した図、(ロ)は(イ)のB−B断面図である。
【図4】図3(ロ)の片側の支柱部分の詳細を示した拡大図である(向きを90°変えて図示)。
【図5】図4の要部拡大図である。
【図6】図5で落下防止材を除いて示した図である。
【図7】図5のC−C断面図である。
【図8】図7の構造を分解して示した図である。
【図9】図3〜図8等における固定金物のみを示すもので、(イ)は要部の背面図(内側から見た図)、(ロ)は(イ)の平面図、(ハ)は(ロ)のD−D断面図である。
【図10】図4〜図8等における受け部材を示すもので、(イ)は正面図、(ロ)は(イ)のE−E断面図である。
【図11】図4〜図8等における回り止め部材付きのボルトを示すもので、(イ)は平面図(ロ)は回り止め部材を断面で示した正面図、(ハ)は右側面図である。
【図12】パネルが吸音パネルである場合における吸音パネルの一例を示すもので、(イ)は正面図、(ロ)は縦断面図である。
【図13】パネル取付構造の他の実施例を示すもので、図4に相当する図である。
【図14】パネル差し込み式の従来の防音壁のパネル取付構造の一例を示すもので、防音壁の断面図である。
【図15】従来の防音壁のパネル取付構造の他の例を示す要部の水平断面図であり、(イ)、(ロ)はそれぞれ異なる例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施した防音壁のパネル取付構造、及び防音壁の構築方法について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明の一実施例のパネル取付構造を採用した防音壁11の断面図、図2は図1の防音壁11の一部の正面図である。この実施例の防音壁11は高速道路に沿って設置される吸音壁である。
支柱12として角形鋼管が用いられ、支柱12間に吸音パネルである横長のパネル13が多数積み重ね状態で配置されている。
複数のパネル13を積み重ね状態で支柱12に取り付けるパネル取付構造の詳細を図3〜図11を参照して説明する。
このパネル取付構造は、角形鋼管である支柱12の側面に固定されてパネルの横端部の背面側を受けるパネル背面受け部16と、支柱12の前面12a側に設けられて、前記パネル背面受け部16との間に溝状空間17を形成してパネルを拘束するパネル拘束構造18とからなっている。パネル取付構造を符号15で示す。
実施例ではパネル背面受け材16として、山形鋼を支柱12の側面に支柱12の高さ全体に亘って溶接固定している。
【0023】
前記パネル拘束構造18は、図4〜図8に示すように、支柱前面12aから離間した垂直板状受け部20aを有し支柱前面12aに固定された受け部材20と、この受け部材20で支持される固定金物23と、前記受け部材20及び固定金物23にそれぞれ設けた対向するボルト挿通穴に支柱前面側から支柱と離れる方向へ挿通されるボルト27と、前記ボルト27に固定金物の外面側から螺合し締着されるナット28とを有している。
【0024】
前記受け部材20は、図4〜図8、図10に示すように、一方の辺が支柱前面12aから離間した前記垂直板状受け部20aとなるように配した山形鋼からなり、その他方の辺が取付部材21を介して支柱前面12aに固定されている。垂直板状受け部20aには縦長のボルト挿通穴20bをあけている。図示例では、取付部材として用いた山形鋼21の一辺を支柱前面12aに当てて溶接固定し、この山形鋼21の上面に、前記受け部材20の他方の辺を溶接固定している。取付部材の山形鋼21は同じく山形鋼である受け部材20より短く、受け部材20の中央部を受けている(図10(イ)参照)。ただし、前記受け部材20を支柱12へ直接固定するために、溶接を行い十分な強度を持たせることで前記取付部材21を省くこともできる。また、前記受け部材20は、前記垂直板状受け部20aを有していれば山形鋼に限らず、例えば、溝形鋼を用いて溝を上に向けて支柱に溶接などで固定する配置にしてもよい。このような配置とすることで、溝形鋼の2辺のフランジの支柱から遠い1辺が前記垂直板状受け部20aと同様の役割を果たすし、支柱に接する側の1辺を支柱に溶接などで固定できるので、前記取付部材21が不要となる。
【0025】
前記固定金物23は、図4〜図8、図9に示すように、支柱12側の前記パネル背面受け部16との間に前記溝状空間17を形成する垂直平板部24aを左右両側に有するとともに、左右両側の垂直平板部24a間に上から見て支柱前面側が開放のコ字形をなすコ字形部24bを有するハット形断面形状をなす固定金物本体24と、この固定金物本体24の幅方向中央位置に固定された落下防止部25とからなる。
落下防止部25は、受け部材20の垂直板状受け部20aの上端縁に載る水平な板状の載置部25aと前記垂直板状受け部20aに係止可能な下向き突片25bとを有する下向きL形断面をなしている。前記載置部25aは、図5、図9にも示すように、固定金物本体24のコ字形部24bの内面に合わせた外形を持ち、外形縁部が溶接固定されている。
固定金物本体24のコ字形部24bに縦長のボルト挿通穴24cをあけている。
【0026】
支柱12側の受け部材20及び固定金物23側の落下防止部25との組みは、実施例では、図3(イ)のボルト27及びナット28が示すように、固定金物23の上端部と下端部と中間部との3箇所に設けられている。なお、図1に示すように、最下段の固定金物23’は2つのパネル13に対応する高さなので、受け部材20と落下防止部25との組みは2箇所である。
1つの固定金物23に対応する受け部材20と落下防止部25との組みの数は、各パネル13ごとに1箇所設けることでパネルをしっかり取り付けることができる。このように、受け部材20と落下防止部25との組みを、積み重ねる各パネル毎に1つずつ設けるという簡単な構造で、固定金物を支持する機能を良好に果たすことができる。
【0027】
実施例のボルト27は、六角ボルトであり、図4〜図8、図11に示すように、単独ではなく、鋼板製の回り止め部材29に固定されて用いられている。
回り止め部材29は、ボルト挿通穴29aを有する平板部29bの上端部に、前記受け部材20の垂直板状受け部20aの上端縁に掛けられるフック部29cを有し、平板部29bの下端にフック部29c側と反対側に折曲した頭部受け片29dを有している。
ボルト27は、回り止め部材29の前記ボルト挿通穴29aに通され、六角のボルト頭部27aの一辺を前記頭部受け片29dで受け、ボルト頭部27aの一辺の両側と、前記一辺に対向する上側の他辺の中央との3点で点付け溶接されている。
【0028】
実施例のパネル13は前述の通り吸音パネルであり、例えば図12に示すように、多数の吸音用開口13aを持つ正面板13bとその背面側の背面板13cと側面の側面板13dとを接合した概ね薄い横長の箱型をなす金属板製外郭13eの内部に吸音材13fを収納した構造である。
【0029】
上記のパネル取付構造15を備えた防音壁を構築する要領を説明すると、
まず、パネル背面受け部16を備え、前面に受け部材20を固定してなる複数の支柱12を間隔をあけて立設する。
次いで、受け部材20の支柱前面12aに対して離間している垂直板状受け部20aのボルト挿通穴20bに支柱前面側から支柱と離れる方向へ挿通ボルト27を挿入する。この場合、ボルト27を図8の支柱前面12aと垂直板状受け部20aとの間の空間から斜めにしてボルト挿通穴20bに挿入する。支柱前面12aと垂直板状受け部20aとの間の空間は狭いので、ボルト27を挿入し易く(ないし挿入可能に)するために、ボルト挿通穴20b(及び固定金物本体24のボルト挿通穴24c)を縦の長穴にしている。
次いで、隣接する左右の支柱12の前面側にそれぞれ固定金物23を垂直に配して、その落下防止部25の水平板状の載置部25aを受け部材の垂直板状受け部20aに載せて、固定金物23を支柱12側に仮保持する。落下防止部25の先端に下向き突片25bがあるので、施工途中で、固定金物23が落下する恐れはない。
【0030】
なお、この実施例では、ボルト27が回り止め部材29に固定されてるので、ボルト27は単独でなく回り止め部材29と一体に使用するが、その際、回り止め部材29のフック部29cを垂直板状受け部20aの上端縁に掛かるようにして、ボルト27をボルト挿通穴20bに挿入する。
この場合、固定金物23の落下防止部25が回り止め部材29のフック部29cの上に載り、フック部29cが固定金物23の重量で押さえられるので、回り止め部材29に固定されたボルト27の回り止めが確実になされる。
なお、仮に、フック部29cに固定金物23の落下防止部25が載っていない状態でも、幅のある板状のフック部29cが垂直板状受け部20aの上端縁に載っている状態は、回り止め部材29が回転することに対して一定の拘束作用をするので、やはりボルト27の回り止めに、ある程度有効である。
また、この実施例では、回り止め部材29に六角のボルト頭部27aを受ける頭部受け片29dを設けて点付け溶接する構造なので、ボルト頭部27aを簡単に回り止め部材29に固定できる。
【0031】
次いで、固定金物23のボルト挿通穴24cの位置を受け部材20の垂直板状受け部20aのボルト挿通穴20bの位置に合わせた上で、垂直板状受け部20aのボルト挿通穴20bに挿入した前記ボルト27をさらに深く挿入して固定金物23のボルト挿通穴24cを貫通させる。
なお、固定金物23を受け部材20の垂直板状受け部20aに掛けた状態でボルト27を両ボルト挿通穴20b、24cに挿入することが可能であれば、そのような手順としてよい(固定金物23を垂直板状受け部20aに掛ける前に予めボルト27を垂直板状受け部20aのボルト挿通穴20bに挿入する手順とせずに)。
次いで、固定金物23の外面側に先端が露出したボルト27にナット28を螺合させる。この段階ではナット28はボルト27に緩く螺合させておく。これにより、支柱12に受け部材20を介して仮保持された固定金物23と支柱12側のパネル背面受け部16との間に上面から見て溝状空間17を形成される。
次いで、パネル13の両端部を左右の支柱12に形成された前記溝状空間17に、図3(イ)の2点鎖線で示すように上から差し込み(落とし込み)、次いで前記ナット28をさらに締め付けて、パネル13の端部を締め付け固定する。
この実施例では固定金物23が3つのパネル13分の高さを持つので、3つのパネル13を溝状空間17に順次上から落とし込んで積み重ねた後に、各ナット28を締め付けるとよい。これにより、パネル取付作業を能率的に行うことができる。
【0032】
上記のパネル取付構造15によれば、固定金物23の落下防止部25を支柱前面に固定された受け部材20の垂直板状受け部20aに載せるだけで、パネル取付構造の主たる部材である固定金物23が支柱12に仮保持されるので、ボルト締め等のその後の作業が容易であり、パネル取付の作業性は良好である。
この場合、落下防止部25が、受け部材20の垂直板状受け部20aに係止可能な下向き突片25bを持つので、施工中に、仮保持された固定金物23が落下する恐れはない。また、施工後に仮にナット28がボルト27から外れたとしても、固定金物23が落下する恐れはない。
【0033】
また、固定金物23の重量は落下防止部25を介して、支柱12に固定された受け部材20が受けるので、ボルト27には作用しない。したがって、ボルト27には締め付け荷重以外の余分な力は作用せず、ボルト27に例えば道路から伝わる振動による金属疲労が発生する恐れは少ない。
支柱12が角形鋼管でありH形鋼と比べて捻れ剛性が高いので、また、上記の各効果と相俟って、このパネル取付構造15は、大形で支柱12に大きな荷重が作用する場合に特に有効である。
また、ナット28が固定金物23の外側になるので、ナット緩みの有無を容易に確認することができ、また、締め増しも容易であり、メンテナンスを行い易い。
【0034】
また、実施例のように固定金物23の断面形状を幅方向中央部にコ字形部24bを持つハット形断面形状とすることで、固定金物23の剛性を高くすることができる。
【0035】
上述の実施例は、パネル13が吸音パネルの場合、すなわち防音壁が吸音壁である場合であるが、吸音壁の場合、壁高さが高くパネルの枚数が多数で支柱に作用する荷重が大となる場合があり、また、支柱が直立部のみでなく上部に湾曲部を持つ場合もあり、風圧荷重により捻り力が作用し易い場合があるので、本発明のパネル取付構造はそのような吸音壁に適用して特に好適である。
【実施例2】
【0036】
図13に示した実施例のパネル取付構造15’のように、固定金物23’の固定金物本体24’をハット形でなく、パネル13を押さえる両側の垂直平板部24a’及びボルト挿通穴24c(図示せず)をあけた中央部24b’の全体を単なる平板とすることもできる。この場合、載置部25a’の先端に下向き突片25b’を持つ落下防止部25’を固定金物本体24’に溶接固定する場合、十分な剛性を持つように補強するとよい。
この場合、パネル13を押さえる両側の垂直平板部24a’が支柱前面12aから離れるので、パネル13の厚みが実施例1のものと同じであれば、支柱12の側面に固定するパネル背面受け部16も、図示の通り位置を支柱前面12a側にずらす。
【実施例3】
【0037】
上述の実施例では、支柱12側に溶接固定したパネル背面受け部16として山形鋼を用いたが、山形鋼に限らず、パネルの背面側を受けることができる適宜の部材を用いることができる。
また、実施例のように支柱12とは別部材を側面に溶接固定する場合に限らず、図15(イ)、(ロ)の構造と同様に、支柱12の前面12a自体をパネル背面受け部として利用することも可能である。
【符号の説明】
【0038】
11 防音壁
12 支柱(角形鋼管)
12a 支柱前面
13 パネル(吸音パネル)
13e 金属板製外郭
13f 吸音材
15 パネル取付構造
16 パネル背面受け部
17 溝状空間
18 パネル拘束構造
20 受け部材
20a 垂直板状受け部
20b ボルト挿通穴
21 取付部材
23 固定金物
24 固定金物本体
24a 垂直平板部
24b コ字形部
24c ボルト挿通穴
25 落下防止部
25a 載置部
25b 下向き突片
27 ボルト
28 ナット
29 回り止め部材
29a ボルト挿通穴
29b 平板部
29c フック部
29d 頭部受け片


【特許請求の範囲】
【請求項1】
角形鋼管からなる支柱に、横長のパネルの横端部を上から差し込み可能な溝状空間を設け、隣接する左右の支柱の前記溝状空間に複数のパネルの両横端部を順次上から差し込み積み重ねてなる防音壁のパネル取付構造であって、
支柱に設けられてパネルの横端部の背面側を受けるパネル背面受け部と、支柱の前面側に設けられて、前記パネル背面受け部との間に前記溝状空間を形成してパネルを拘束するパネル拘束構造とからなり、
前記パネル拘束構造は、
支柱前面から離間した垂直板状受け部を有する支柱前面に固定された受け部材と、
支柱側の前記パネル背面受け部との間に前記溝状空間を形成する垂直平板部を左右両側に有する縦長の固定金物とを備え、該固定金物には前記受け部材の垂直板状受け部の上端縁に載る載置部と前記垂直板状受け部に係止可能な下向き突片とを有する落下防止部が一体に設けられ、
前記受け部材及び固定金物にそれぞれ設けられた対向するボルト挿通穴に支柱前面側から支柱と離れる方向へ挿通されるボルトと、
前記ボルトに固定金物の外面側から螺合し締着されるナットとを有することを特徴とする防音壁のパネル取付構造。
【請求項2】
前記固定金物が複数のパネル分の高さを有することを特徴とする請求項1に記載の防音壁のパネル取付構造。
【請求項3】
支柱側の受け部材と固定金物側の落下防止部との組みを、積み重ねる各パネル毎に設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のパネル拘束構造。
【請求項4】
前記固定金物は、左右両側の前記垂直平板部と幅方向中央部の上から見て支柱前面側が開放のコ字形をなすコ字形部とからなるハット形断面形状をなし、前記コ字形部に前記ボルト挿通穴を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の防音壁のパネル取付構造。
【請求項5】
前記受け部材は、一方の辺が支柱前面から離間した前記垂直板状受け部となるように配した山形鋼からなり、その他方の辺が取付部材を介して支柱前面に固定されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の防音壁のパネル取付構造。
【請求項6】
前記ボルトは、ボルト挿通穴を有する平板部の上端部に、前記受け部材の垂直板状受け部の上端縁に掛けられるフック部を持つ鋼板製の回り止め部材の前記ボルト挿通穴に通され、ボルト頭部が前記平板部に溶接固定されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の防音壁のパネル取付構造。
【請求項7】
請求項1記載のパネル取付構造を備えた防音壁の構築方法であって、
パネル背面受け部を備え前面に受け部材を固定してなる複数の支柱を間隔をあけて立設し、
受け部材の支柱前面に対して離間している垂直板状受け部のボルト挿通穴に支柱前面側から支柱と離れる方向へボルトを挿入し、
両側の支柱の前面側にそれぞれ固定金物を垂直に配して、その落下防止部の載置部を受け部材の垂直板状受け部に載せ、
固定金物のボルト挿通穴の位置を受け部材の垂直板状受け部のボルト挿通穴の位置に合わせした上で、垂直板状受け部のボルト挿通穴に挿入した前記ボルトをさらに深く挿入して固定金物のボルト挿通穴を貫通させ、次いで、固定金物の外面側に露出したボルトにナットを螺合させて、支柱に受け部材を介して仮保持された固定金物と支柱側のパネル背面受け部との間に溝状空間を形成し、
次いで、パネルの両横端部を左右の支柱に形成された前記溝状空間に差し込んだ後、前記ナットをさらに締め付けて、パネルの横端部を最終的に締め付け固定することを特徴とする防音壁の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−214220(P2011−214220A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80325(P2010−80325)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【Fターム(参考)】