説明

集合光ケーブル及び集合光ケーブルの製造方法

【課題】集合光ケーブルの布設時に光エレメントのばらけを防止すると共に、宅内引き込み工事の際に光エレメントを容易に取り出せるようにした集合光ケーブルを提供する。
【解決手段】集合光ケーブル11は、光ファイバ心線13aを外被13cで覆った光エレメント13の複数本を束ねて、全体を保護被覆層14で覆われ、この保護被覆層14は、生分解プラスチックにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の光ファイバケーブルを集合させ、ケーブル長手方向の任意の位置から引き出し可能とする集合光ケーブル及び該集合光ケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のFTTH(Fiber To The Home)の本格的な導入に伴い、集合住宅のような各戸においても、光ファイバの布設導入が容易に行われることが要望されている。このため、光ファイバを集合住宅の各戸に必要に応じて引き込み導入することができるように、複数本の光ファイバケーブル(光エレメントともいう)を集合した集合光ケーブルを、集合住宅内に予め布設するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような集合光ケーブルとしては、例えば、図6(A)に示すように、抗張力体(テンションメンバともいう)2の外周に複数本の光ファイバケーブル(以下、光エレメントという)3を撚り合わせた集合光ケーブル1aが知られている(例えば、特許文献2参照)。この集合光ケーブル1aの抗張力体2としては、例えば、鋼線等の抗張力線2aの外周を樹脂被覆2bで覆ったものが用いられている。また、光エレメント3は、1又は数心の光ファイバ心線4の両側にテンションメンバ(抗張力体ともいう)5を配し、外被6で一体に被覆したものが用いられている。
【0004】
また、図6(B)に示すように、上記と同様な複数本の光エレメント3を、抗張力体を用いることなく撚り合わせ、または撚り合わせることなく集合して、保護被覆体7内に収納した集合光ケーブル1bも知られている(例えば、特許文献3参照)。なお、保護被覆体7には、内部の光エレメント3が取り出しやすいように長手方向に沿ってスリット8が形成されている。また、複数本の光エレメント3を保護被覆体7で覆うことなく、スパイラルワイヤや結束バンド等を用いて集合結束する構成の集合光ケーブルも知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
上記のような集合光ケーブルを既設の集合住宅に布設する場合、新規の布設ルートを確保することが難しいため、FTTHの需要が見込まれる集合住宅に先行布設することが行われている。そして、FTTHの加入申し込みが発生次第、その加入者宅前にて集合光ケーブル内の引き落とし対象光エレメントを選別・切断し、これを必要に応じて宅内引き込み用のインドアケーブルと接続し、インドアケーブルを引き入れることで、FTTH配線を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−125914号公報
【特許文献2】特開平10−333000号公報
【特許文献3】特開2008−129168号公報
【特許文献4】特開2008−287248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、集合光ケーブルは4〜8本程度の光エレメントを集合したものであるが、FTTHの加入工事を行う場合には、前述したように、引き落とし対象光エレメントを選別し、切断する必要がある。この作業を容易にするためには、集合光ケーブル上に外被や押さえ巻きテープ等を施さないほうが好ましい。この場合、光エレメントを中心の抗張力体に撚り合わせることにより一束のケーブルとしている。
【0008】
この外被無し構造により光エレメントの識別性、取り出し性を良好にしている反面、布設作業において、曲げや引っ張り、ねじり等の外力が加えられると、図7に示すように、光エレメント3がばらばらになってしまう。このばらけが発生した場合、ばらけの両側で作業員が光エレメント3を引っ張り、再度光エレメント3を中心の抗張力体2に撚り合わせて一束化する工程が必要となる。
【0009】
また、集合光ケーブルの布設時におけるばらけを防止するために、集合光ケーブルにポリエチレン等で形成された外被を設けた場合、宅内引き込み工事(FTTHの加入工事)の際に、この外被を除去して、引き落とし対象光エレメントを取り出す必要があり、光エレメントの識別性、取り出し性が悪いという問題があった。
【0010】
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、集合光ケーブルの布設時に光エレメントのばらけを防止すると共に、宅内引き込み工事の際に光エレメントを容易に取り出せるようにした集合光ケーブル及び該集合光ケーブルの製造方法を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による集合光ケーブルは、光ファイバ心線を外被で覆った光エレメントの複数本を束ねて、全体を保護被覆層で覆った集合光ケーブルであって、保護被覆層は、生分解プラスチックにより形成されている。
【0012】
また、保護被覆層は、生分解プラスチックにより押出成形又はテープ巻きで形成されていてもよい。
また、複数本の光エレメントを束ねた光エレメント束に微生物が塗布されていてもよい。
また、保護被覆層の外面には微生物収納部が形成され、その微生物収納部に微生物を収納するようにしてもよい。
また、保護被覆層の外面は凸凹に加工され、その外面に微生物を塗布するようにしてもよい。
【0013】
本発明による集合光ケーブルの製造方法は、光ファイバ心線を外被で覆った光エレメントの複数本を束ねて、全体を生分解プラスチックの保護被覆層で覆った集合光ケーブルの製造方法であって、保護被覆層を押出成形する際に、保護被覆層の表面の長手方向に沿ってスリットを形成するステップと、押出成形後にスリットから保護被覆層内に微生物を注入するステップとを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、集合光ケーブルに生分解性プラスチックの外被を設けることにより、集合光ケーブルの布設時に光エレメントのばらけを防止すると共に、布設後は外被が自然に分解・消失して、宅内引き込み工事の際に光エレメントを容易に取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の集合光ケーブルを集合住宅に布設する形態の一例を説明する図である。
【図2】本発明による集合光ケーブルの一例を説明する図である。
【図3】本発明による集合光ケーブルの他の例を説明する図である。
【図4】本発明による集合光ケーブルの更に他の例を説明する図である。
【図5】本発明による集合光ケーブルの更に他の例を説明する図である。
【図6】従来の技術を説明する図である。
【図7】従来の技術におけるばらけの問題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の集合光ケーブル及び該集合光ケーブルの製造方法に係る実施の形態について説明する。なお、各図において、同じ構成要素には同じ符号を付し、繰り返しの説明は省略するものとする。
【0017】
図1は、本発明の集合光ケーブルを集合住宅に布設する形態の一例を説明するための図である。図中、10aはドロップ光ケーブル、10bは光スプリッタ、11,11′は集合光ケーブル、12は抗張力体、13は光エレメント、13′は取り出し光エレメント、14は保護被覆層を示す。
【0018】
既設の集合住宅H(例えば、8戸集合)に光ファイバを布設導入しようとする場合、近くの幹線光ケーブルからドロップ光ケーブル10aを用いて、集合住宅Hの軒下まで引き落とす。ドロップ光ケーブル10aは、1心から数心のものが用いられ、光スプリッタ10bを用いて集合光ケーブル11内の複数の光エレメント13に光分岐する。なお、光エレメント13への光分岐は、種々の形態で分岐することができ、例えば、1心のドロップ光ケーブルに対して、1×8で光分岐、あるいは2心のドロップ光ケーブルで2×4で光分岐される。
【0019】
集合光ケーブル11は、例えば、抗張力体12を中心に、その外周に複数本の光エレメント13を撚るように巻き付けてなり、その外周を保護被覆層14で覆って構成される。この集合光ケーブル11は、既設の集合住宅Hの軒下の外壁面等に沿って各戸を横切るように布設され、FTTHの加入申請に応じて、集合光ケーブル11から1本の光エレメントを取り出し、エアコンダクタのような開孔部hを介して室内に引き込む。なお、光エレメントは、戸内に引き込むのに十分な長さが確保できるように集合光ケーブル11から取り出すことが望ましいが、長さが不足する場合には、光エレメントと同種の光ファイバケーブルを継ぎ足すようにすればよい。
【0020】
上記の集合光ケーブル11としては、図2に示すような構成の集合光ケーブル11aを用いることができる。この集合光ケーブル11aは、図1で概略を示したように、抗張力体12の外周に複数本(例えば、8本)の光エレメント13を螺旋状に撚り合わせ、その外側を生分解プラスチックで形成された保護被覆層14で覆って構成される。抗張力体12は、例えば、1.2〜2.6mmφの鋼線12aの外周をポリエチレン等の樹脂被覆12bで覆って形成するか、または、高張力繊維補強プラスチック(FRP)で形成することができる。
【0021】
光エレメント13は、例えば、光ファイバ心線13aの両側にテンションメンバ13bを配し、外被13cで一体に被覆した形状で形成される。光ファイバ心線13aは、標準外径0.125mmのガラスファイバに、1層または多層で外径が0.25mm、0.5mm、または、0.9mmとなる保護被覆を施したものが用いられる。テンションメンバ13bは、鋼線(0.4〜0.5mmφ程度)またはFRP(0.4〜0.6mmφ程度)が用いられる。外被13cは、例えば、黒色ポリエチレン等で形成され、外形が2mm×4mm程度の断面矩形状で、光ファイバ心線取り出し用のノッチが設けられている。
【0022】
保護被覆層14は、生分解プラスチックにより形成される。この保護被覆層14の形成方法としては、例えば、生分解プラスチックを押し出し成形してチューブ状に形成する方法、または、生分解プラスチックのテープ巻きにより形成する方法のいずれであってもよい。このように生分解プラスチックで保護被覆層14を形成することで、集合光ケーブル11の布設作業時には光エレメント13のばらけを防止し、布設後には保護被覆層14が微生物により分解され、光エレメント13が露出した状態となる。このため、FTTH加入工事(宅内引き込み工事)の際、保護被覆層14を除去する必要がなく、対象の光エレメント13を簡単に識別し、取り出すことができる。図1に示す集合光ケーブル11′は、集合光ケーブル11の保護被覆層14が微生物により分解され、対象の光エレメント13′が取り出された状態を示す。
【0023】
生分解プラスチックとしては多種多様なものが市販されているが、例えば、ポリ乳酸等を用いることができる。保護被覆層14は集合光ケーブル11の布設後速やかに分解されるように、例えば、厚みを0.1〜0.2mm程度と薄くした方が望ましい。保護被覆層14の形成は、上記のように、生分解プラスチックを押し出し成形する方法の他に、例えば、厚さ0.1mm、幅20mm程度の生分解プラスチックテープを重ね巻き(1/5〜1/10重ね巻き)してもよく、あるいは、開き巻きしてもよい。テープ巻きは集合光ケーブル11の製造工場で加工してもよいし、集合光ケーブル11を集合住宅Hに布設する際に現場作業員が実施してもよい。
【0024】
なお、集合光ケーブル11を集合住宅Hに布設した後に、比較的短期間の間にFTTH加入工事が発生した場合には、保護被覆層14が完全に分解されていない可能性がある。しかし、保護被覆層14の分解がある程度進行していれば、布設時に比べ劣化しているため被覆の除去は容易になっている。このため、従来のポリエチレン製の被覆に比べて光エレメントの取り出し性が格段に向上する。
【0025】
図2において、集合光ケーブル11の保護被覆層14の分解を促進させるために、微生物を含む泥状の土や混和物等(以下、単に微生物という)を集合光ケーブル11内に保持することが望ましい。例えば、図3に示すように、保護被覆層14の長手方向に沿って形成されたスリット15から微生物を注入することにより、微生物を保護被覆層14内に収納・保持することが考えられる。このスリット15は生分解プラスチックをチューブ状に押し出し成形する際に加工することができる。
【0026】
ここで、生分解プラスチックを押し出し成形する際の温度は、150〜300℃程度となるため、押し出し前に生分解プラスチックに微生物を塗布しておくと、熱により微生物が死滅してしまう可能性がある。これを回避するための集合光ケーブルの製造方法として、まず、生分解プラスチックを押し出し成形して図3に示す集合光ケーブル11を製造した後に、この集合光ケーブル11を十分に冷却し、冷却後の集合光ケーブル11のスリット15から微生物を注入することで、微生物の死滅を防止することができる。
【0027】
上記の微生物の注入工程は、集合光ケーブル11の製造後速やかに布設する場合には、工場で実施してもよいが、ケーブル製造後布設までにある程度の時間放置されてしまう場合には、ケーブル布設前に保護被覆層14が分解されてしまう恐れがあるため、布設現場で実施したほうが好ましい。
【0028】
また、生分解プラスチックのテープで重ね巻きあるいは開き巻きして集合光ケーブル11を製造する場合には、複数本の光エレメント13を抗張力体12に撚り合わせた光エレメント束に予め微生物を塗布しておき、その上から保護被覆層14として生分解プラスチックテープでテープ巻きしてもよい。この微生物の塗布工程及びテープ巻き工程は、集合光ケーブル11の布設スケジュールに応じて、工場で実施しても良いし、布設現場で実施してもよい。
【0029】
また、図4に示すように、保護被覆層14の外面に、断面凹状の微生物収納部16を形成するようにしてもよい。この微生物収納部16は、例えば、生分解プラスチックの押し出し成形時に加工することができる。そして、図4に示す集合光ケーブル11を布設した後に、微生物収納部16に微生物を含む土等を盛り付けることで、保護被覆層14に微生物を収納・保持することができる。ここで、微生物を保持した状態で集合光ケーブル11の布設作業を行うと、保持した微生物が微生物収納部16から脱落してしまう恐れがある。このため上記の微生物の収納工程は、集合光ケーブル11を布設した後に行うことが望ましい。
【0030】
また、図5に示すように、保護被覆層14の外面に、断面L字状の微生物収納部17を形成することもできる。この微生物収納部17の場合、凹部に対して略直交する向きに突出した突出部を有するため、上記図4の微生物収納部16と比較して、この突出部に微生物が留まり保護被覆層14から脱落し難くなる。これにより、より多くの微生物を保護被覆層14に留まらせることが可能となり、微生物による分解をより速く進行させることができる。なお、微生物収納部17の断面形状はL字状に限らず、T字状であってもよい。
【0031】
上記の図4、図5の例では、生分解プラスチックを押し出し成形する際に、微生物収納部を加工する場合について示したが、この微生物収納部を生分解プラスチックテープに加工すれば、テープ巻きにより保護被覆層14を形成した場合にも同様の効果を得ることができる。
【0032】
さらに、このような微生物収納部を形成する代わりに、保護被覆層14の外面を、凸凹に加工するようにしてもよい。この凸凹に加工された外面に、微生物を塗布することで、微生物が保護被覆層14に固着し易くなる。表面の凸凹加工は、例えば、サンドブラストなどの加工技術を用いることができる。この場合の微生物の塗布工程は、上記図4、図5の例と同様に、集合光ケーブル11を布設した後に行うことが望ましい。なお、生分解プラスチックテープの外面を凸凹に加工すれば、テープ巻きにより保護被覆層14を形成した場合にも同様の効果を得ることができる。
【0033】
また、生分解プラスチックの保護被覆層14にスリットを形成すると共に、保護被覆層14の外面に微生物収容部を形成する、あるいは、保護被覆層14の外面を凸凹に加工するようにしてもよい。これにより、保護被覆層14内に微生物を注入・保持すると共に、保護被覆層14の外面でも微生物を保持することができるため、保護被覆層14の分解をより速く進行させることが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
10a…ドロップ光ケーブル、10b…光スプリッタ、11…集合光ケーブル、12…抗張力体、12a…鋼線、12b…樹脂被膜、13…光エレメント、13′…取り出し光エレメント、13a…光ファイバ心線、13b…テンションメンバ、13c…外被、14…保護被覆層、15…スリット、16,17…微生物収納部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線を外被で覆った光エレメントの複数本を束ねて、全体を保護被覆層で覆った集合光ケーブルであって、
前記保護被覆層は、生分解プラスチックにより形成されていることを特徴とする集合光ケーブル。
【請求項2】
前記保護被覆層は、前記生分解プラスチックにより押出成形又はテープ巻きで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の集合光ケーブル。
【請求項3】
前記複数本の光エレメントを束ねた光エレメント束に微生物が塗布されていることを特徴とする請求項2に記載の集合光ケーブル。
【請求項4】
前記保護被覆層の外面には微生物収納部が形成され、該微生物収納部に微生物を収納したことを特徴とする請求項2又は3に記載の集合光ケーブル。
【請求項5】
前記保護被覆層の外面は凸凹に加工され、該外面に微生物が塗布されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の集合光ケーブル。
【請求項6】
光ファイバ心線を外被で覆った光エレメントの複数本を束ねて、全体を生分解プラスチックの保護被覆層で覆った集合光ケーブルの製造方法であって、
前記保護被覆層を押出成形する際に、該保護被覆層の長手方向に沿ってスリットを形成するステップと、前記押出成形後に前記スリットから前記保護被覆層内に微生物を注入するステップとを備えたことを特徴とする集合光ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−2629(P2011−2629A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145173(P2009−145173)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】