説明

集水ボーリング孔の遮水方法とこれに用いる遮水具

【課題】地下水を略恒久的に集水管内に確実に取込むことができ、しかも集水ボーリング孔の崩れ易い区間や著しい漏水のある箇所を遮水部材で補強することができる集水ボーリング孔の遮水具を提供する。
【解決手段】集水ボーリング孔3に挿入される集水管4の所定箇所に吸水膨張性の遮水部材5を取付け、遮水部材5を上流側と下流側の位置に取付けた一対の固定ツバ5aと、前記固定ツバ5aの対向面間に設けた一対の吸水膨張性ゴム系遮水材5b1と5b2及び、この吸水膨張性ゴム系遮水材5b1と5b2間に設けた吸水膨張後は略恒久的に長時間膨張容積を保持する性能の吸水膨張吸水膨張性セメント系遮水材5cとにより形成し、吸水膨張性ゴム系遮水材5b1と5b2の膨張速度を吸水膨張性セメント系遮水材5cの膨張速度よりも速く設定し、下流側吸水膨張性ゴム系遮水材5b1の膨張速度を上流側吸水膨張性ゴム系遮水材5b2の膨張速度よりも速く設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地すべりブロックの深部に存在する有害地下水位の排除に採用及び施工するものであり、帯水層に向けて5〜10°となる仰角のやや傾斜を有する水平方向に滑り面を貫いて掘削した集水ボーリング孔内に、保孔管の上側にストレーナーを設けた集水管を挿入し、この集水管の水平方向で地滑り面を挟んだ上流側と下流側の両側に、略恒久的な長時間遮水材として機能する吸水膨張性セメント系遮水材を装着・設置することにより、地すべりに影響を与える被圧地下水を、自由水などの他の地下水と分離独立させ、各々を完全に集水管内に導入させることができる集水ボーリング孔の遮水方法とこれに用いる遮水具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の工法は、地滑り地帯の地山に水平方向にすべり面を貫いて集水ボーリング孔を掘削後、ストレーナー付きの集水管を挿入して集水ボーリング孔内の地すべりに有害な地下水を地表または集水井まで導くことによって行われている。
【0003】
ここで、集水ボーリング集水管に要求されている条件は、(a)集水効率がよい、(b)構造が簡単・材料費が安価、(c)工程が安全・容易・単純・簡単、(d)掘削径が小さい、(e)耐用年数が長い(地中で腐食しにくい、特に継手部分の機械的強度が十分であること)に要約・整理される。
【0004】
一般的には、上記集水管にストレーナー(集水孔)を加工した硬質塩化ビニール管VP−40を用い、地山の深部に存在する地下水を排除する場合、地下水調査及び調査ボーリングの断面図、柱状図より判断して削孔長を計画し、ケーシングパイプを挿入しながら、集水ボーリング孔を掘進口径φ90mmで地滑り面を貫いて5m程度余掘を見込んで掘削し、ボーリングが終わればこれに集水管を挿入するものである。
【0005】
このような集水管による地下水の取出しにおいて、集水ボーリング孔の途中で、構造的に弱く孔壁の崩れ易い区間や著しい漏水のある箇所、更には、ボーリング孔内の水平方向の地下水面(水位)が集水管にあけたストレーナーよりも低い場合には、集水管と集水ボーリング孔底、孔壁との隙間を流下するうちに、地盤内に浸水したり、地滑り面の奥から集められた地下水を、地すべり面あるいはそれにつながる亀裂に供給し、逆に地すべりを助長してしまうので、地下水を集水管にのせて地表や集水井にまで導くことが困難であるという事態が発生する。
【0006】
更に、地下水と共に土砂が流下して集水管のストレーナーを目詰まりさせるという事態も生じている。
【0007】
このような場合、従来は、著しい漏水区間にケーシングを残置させたり、孔口付近を二重管にしたり、集水管に穿つストレーナーの配列を集水管の水平方向の上半分に集中させて、一度集水管に取り込んだ地下水を外部に逃がさないように加工する程度で、本格的な対応は殆どなされていないのが実情である。
【0008】
このような事態の対処方法としては、集水ボーリング孔内の地下水を集水管内に取り込むため、集水ボーリング孔内で地下水を必要箇所で堰き止め、集水ボーリング孔内の水平方向の地下水位を集水管のストレーナーよりも高く保ち、該当地下水を完全に、かつ、安全に集水管に導入できるようにしてやればよい。
【0009】
更に、集水ボーリング孔内の構造的に弱く崩れ易い箇所や漏水区間及び集水管の継手等の弱い部分を、補強材としても機能する吸水膨張性遮水材で補強すればよい。
【0010】
従来の集水ボーリング孔の遮水具としては、集水管の途中にゴム製のシームレスパッカーを取付け、集水ボーリング孔に集水管を挿入したのち、前記シームレスパッカー内に集水ボーリング孔の外部からセメントミルクによるグラウト材を注入し、このシームレスパッカーを膨らませて固化させることにより、集水ボーリング孔の内周と集水管の隙間を埋めるようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
また、集水ボーリング孔内に挿入した集水管の長さ方向の所定位置における外周に、所定寸法、形状の吸水膨張性のゴム系遮水材を外嵌装着することによって、集水ボーリング孔内を流下・湧出する地下水を集水ボーリング孔内に堰き止め、集水管内に効率よく導入する方法がある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3868222号公報
【特許文献2】特許第3549948号公報
【特許文献3】特許第3550026号公報
【特許文献4】特許第4194617号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】インターネット回線のアドレスwww.ohta-geo.co.jp/reports/others/pipe_negative.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記した前者の遮水具は、集水ボーリング孔に集水管を挿入したあと、集水ボーリング孔の外部からシームレスパッカーを膨らませる必要があるため、施工に手間と時間がかかるだけでなく、シームレスパッカーを膨らませるための複雑な構造となり、その操作も比較的煩雑なものにならざるを得なかった。
【0015】
また、上記した後者の遮水材は、非特許文献1の中の複数の評価にも記載されているように、ゴム系の吸水膨張性遮水材は、吸水による膨張が一時的なものであり、膨張している時間帯は集水管への地下水の収集効率は高くなるが、その寿命は短く、短時間で収集効率は著しく低下すると複数の報告がある。
【0016】
実際の確認実験でも、ゴム系遮水材は吸水によって一時的に大幅な容積の増大が認められるが、比較的短時間内に容積が減少し、特に水が無くなる状態では急激に容積が減少する性質を有している。
【0017】
また、上記集水管に用いる硬質塩化ビニール管は、材料的に安価で加工がし易く、地中でも腐食しないという利点があるが、所定長さの硬質塩化ビニール管を継手で順次接続して必要な長さの集水管としているため、集水管は継手部分での強度が弱いという難点があり、不安定な地滑りや土塊中の微小変形などの影響で継手部分が破断する恐れがあり、集水効率の低下が生じるという問題がある。
【0018】
そこで、この発明の課題は、遮水材の集水管への装着が容易、かつ、安全で、吸水膨張、凝結反応後は略恒久的な長期間にわたって膨張したままの容積を保持し、遮水材としての機能を持ち続ける遮水材を用い、集水ボーリング孔の必要箇所、特に、この集水管の水平方向の地滑り面を挟んだ所定の幅で、上流側と下流側の箇所に前記遮水材を装着、設置し、地滑りに影響を及ぼす地下水、例えば、集水ボーリング孔内の地滑り面から湧出する被圧地下水を優先的に選択して、発生近傍の区間内で直接強制的に集水管内へ確実に取り込んで、地表又は集水井まで誘導する集水ボーリング孔の遮水方法とこれに用いる遮水具を提供することにある。
【0019】
更に、この発明は、被圧地下水以外の地下水も所定の箇所で堰き止め、常に集水ボーリング孔内の水平方向の地下水面を集水管に穿ったストレーナーよりも高くすることで地下水を集水管内に確実に取り込むことで集水効率を高くすることができ、しかも、集水ボーリング孔内の構造的に弱く孔壁の崩れやすい区間や著しい漏水のある箇所の補強だけでなく、集水管の継手部分の補強も実現することができる集水ボーリング孔の遮水方法とこれに用いる遮水具を提供することにある。
【0020】
換言すれば、この発明は、被圧地下水専用の集水区間を設けることによって、地滑りに有害な被圧地下水の湧水箇所近傍で強制的に集水管に取り込み、流下してくる他の地下水もこれを堰き止め、孔内水平方向の地下水位を高くすることにより、集水管内に完全に取り込んで地表又は集水井まで集排水することができるようにすると共に、孔内の奥から地下水と共に流下してくる土砂を堰止め、ストレーナーの目詰まり発生を防ぎ、同時に集水管の強度の弱い継手部分の補強を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、地すべり地帯の帯水層に向けてやや傾斜を有する水平方向にすべり面を貫いて掘削した集水ボーリング孔に、上側にストレーナーを設けた集水管を挿入し、この集水管の水平方向の地すべり面を挟んで上流側と下流側の両側、及び集水効果を向上させるに必要な箇所に、略恒久的な長時間遮水材として機能するセメント系吸水膨張遮水材を装着することによって、地すべりに大きな影響を与える被圧地下水を湧出箇所近傍で強制的にかつ、確実に雌雄水管内に取り込み、他の地下水は孔内の漏水箇所や亀裂などの所要箇所ごとに補強材・遮水材として装着することによって、地すべり地帯の有害な地下水全てを集水管に乗せて地すべりブロック外に排除する機能を有するものである。
【0022】
この発明に採用した上記吸水膨張性セメント系遮水材は、吸水によって軟化・膨張しながら膨張状態のまま凝結するので、概略恒久的な長時間にわたって遮水を行うことができるものである。
【0023】
この吸水膨張性セメント系遮水材の吸水膨張、凝固反応を補助する目的で、膨張速度は速いが一時的な吸水膨張性ゴム層と、膨張速度は相対的に遅いが略恒久的に膨張後の容積を略恒久的に保持する性質の吸水膨張性セメント系遮水材の両者の特性、特徴を組合わせることによって、上記した課題を解決している。
【0024】
この発明に採用した上記吸水膨張性セメント系遮水材は、本出願人が垂直ボーリング孔の遮水材として開発したものであり、この発明は、実績のある前記遮水材を水平方向の集水ボーリング孔に対する遮水材として転用したものである。
【0025】
上記吸水膨張性セメント系遮水材は、セメントを主剤として高分子系混和剤及び減水剤の混練物を、目的に応じて、所定形状及び寸法に成形後、乾燥固化したものであり、吸水によって軟化、膨張しながら膨張状態の容積のまま凝結すると共に、概略恒久的な長期にわたり所定の剪断強度、可撓性を有する遮水材を形成するものである(例えば、特許文献2と3参照)。
【0026】
これに対して、吸水膨張性ゴム系遮水材は、ポリアクリル酸エステルと合成ゴムからなり、吸水すると上記吸水膨張性セメント系遮水材よりも相対的に速い速度で膨張するものであり、例えば、「ナイスシール」等の一般的な商品名で市販されているものである。
【0027】
また、この吸水膨張性ゴム系遮水材は、吸水によって一時的には大幅な容積の膨張があるが、水中に浸漬する時間の経過と共に容積が縮小する性質があり、特に、水が存在しない環境(状態)になると、その傾向が顕著になるため、吸水膨張性ゴム系遮水材の使用範囲は一時的な補助的遮水材としての使用に限定される。
【0028】
次に、請求項2の発明は、請求項1に記載の集水ボーリング孔の遮水具を用いた集水ボーリング孔の遮水方法であって、膨張速度の速い上記吸水膨張性ゴム層の膨張によって集水ボーリング孔内で水槽を形成させ、相対的に膨張速度の遅い上記吸水膨張性セメント系遮水材を水中で吸水により柔らかくなりながら膨張することによって凹凸のある複雑な表面構造の集水ボーリング孔壁と集水管の隙間を完全に充填せしめ、更に、上記の吸水膨張性セメント系遮水材自身の膨張力と上記吸水膨張性ゴム層の膨張圧力の相乗作用によって、上記の吸水膨張性セメント系遮水材を閉じ込められた空間内で加圧された状態で凝結反応を進行させることにより、所定の剪断強度、可撓性を持った遮水層を形成することが可能となり、集水ボーリング孔壁の崩れ易い箇所や漏水箇所の補強と集水管の外周部、特に継手部の破断され易い部分を保護する機能を併せ持ったものである。
【0029】
請求項3の発明は、上側にストレーナーを設けた集水管に、軸方向に所定の間隔で設けた一対の吸水膨張性ゴム層と、この吸水膨張性ゴム層の間に設けた略恒久的な長時間遮水材として機能するセメント系吸水膨張遮水材を装着し、前記吸水膨張性ゴム層の膨張速度をセメント系吸水膨張遮水材よりも速くなるように設定し、かつ、一対の吸水膨張性ゴム層は、集水管内地下水の流れに対して下流側に位置する吸水膨張性ゴム層を上流側の吸水膨張性ゴム層よりも早く膨張するようにしたものである。
【0030】
ここで、上記集水管に装着する遮水部材は、吸水膨張性セメント系遮水材と吸水膨張性ゴム系遮水材がハイブリッド型の遮水部材となり、この遮水部材の集水管に対する取付け位置は、予め調査によって求めた、地すべりに影響を及ぼす被圧地下水が湧出する地すべり面を挟んだ上流側と下流側の両側に所定の距離間隔で取り付け、この被圧地下水を優先的に選択してその場で直接強制的に集水管内に取り入れて地表又は集水井まで誘導することになる。
【0031】
上記被圧地下水以外の地下水も、遮水部材が集水ボーリング孔の所定の位置・箇所で堰止めて、集水ボーリング孔内水平方向の地下水位を高めることにより、集水管の殆どの部分を地下水中に水没させた状態で地下水を集水管内に取り込むため、基本的には、上記ストレーナーの加工位置を集水管の水平方向より上部のみに集中加工が可能になり、集水管の穿孔工程が大幅に省略されるという利点・長所がある。
【0032】
また、遮水部材は、集水ボーリング孔壁の弱くて崩れやすい箇所、漏水層、地下水層、地すべり層等の補強だけでなく、上記集水管の継手部分の補強材としての効果も併せ持つものである。
【0033】
この吸水膨張性セメント系遮水材と吸水膨張性ゴム系遮水材は、先行技術文献2と3に示されているが、この先行技術文献2と3は、垂直ボーリング孔の遮水であるのに対して、この発明は、地下水を流れやすくするために、多少の勾配(傾斜)を有する水平方向の集・排水ボーリング孔に採用する点において相違する。
【0034】
上記遮水部材は、吸水膨張性セメント系遮水材と吸水膨張性ゴム系遮水材のなかで、吸水により、先ず、吸水膨張性ゴム系遮水材が膨張し、この吸水膨張性ゴム系遮水材のなかでも下流側の遮水材の膨張速度の方が速く設定されているので、下流側の吸水膨張性ゴム系遮水材が先に膨張して集水ボーリング孔内の上流から流下する地下水を堰き止め、これによって一種の水槽を構成させながら上流側の吸水膨張性ゴム系遮水材と吸水膨張性セメント系遮水材を吸水によって軟化・膨張反応させ、更に、吸水膨張性セメント系遮水材と吸水膨張性ゴム系遮水材の相互の膨張圧力の相乗作用(相乗効果)による加圧下で、吸水膨張性セメント系遮水材の凝結反応を促進させることにより、所定の剪断強度と粘性を有する遮水層を形成することが可能になる。
【0035】
集水管に設けた固定ツバは、上記吸水膨張性セメント系遮水材と吸水膨張性ゴム系遮水材の軸方向に対する位置の固定ならびに各遮水材の位置のズレを防ぎ、吸水膨張性セメント系遮水材は、吸水により軟らかくなりながら膨張することによって、ケーシング抜管後の集水ボーリング孔壁の凹凸や複雑な表面構造に沿うよう圧着し、集水ボーリング孔壁と集水管の隙間を完全に埋めることになる。
【0036】
上記のような吸水膨張性セメント系遮水材と吸水膨張性ゴム系遮水材からなる遮水部材を取付けた集水管は、地山に掘削した集水ボーリング孔に挿入するのみで設置工程が完了する。
【0037】
ちなみに、集水ボーリング孔に上記遮水部材を装着した集水管の挿入工程の際に、上記吸水膨張性ゴム系遮水材の外径を他の固定ツバや吸水膨張性セメント系遮水材の外径よりやや大きくして、ボーリング孔やケーシングパイプと直接接触するのは柔らかく弾力性のある吸水膨張性ゴム系遮水材の外周となるように設計することにより、挿入工程ならびにケーシングパイプの抜管工程も、互いに傷つくことが少なくスムースに行えることになる。
【発明の効果】
【0038】
この発明によると、地山に掘削した集水ボーリング孔に挿入する集水管の外周で長さ方向の所定箇所に、一対の固定ツバと、前記固定ツバの対向面間で前記集水ボーリング孔内を流下する地下水の流れに対して、上流側と下流側に吸水膨張性ゴム系遮水材と、前記吸水膨張性ゴム系遮水材の間に吸水により膨張状態のまま概略恒久的な長時間凝結する性質を有する吸水膨張性セメント系遮水材を設け、吸水膨張性ゴム系遮水材の膨張速度を吸水膨張性セメント系遮水材の膨張速度よりも速く設定し、更に、この一対の吸水膨張性ゴム系遮水材の中で、下流側の吸水膨張性ゴム系遮水材の膨張速度を上流側の吸水膨張性ゴム系遮水材の膨張速度よりも速く設定してあるので、前記集水管を集水ボーリング孔内に挿入すると、はじめに下流側の吸水膨張性ゴム系遮水材が吸水により膨張し始め、集水ボーリング孔内の上流から流下する地下水を堰き止めることで水槽を形成することになり、こののち、順次、上流側の吸水膨張性ゴム系遮水材と吸水膨張性セメント系遮水材を確実に膨張させることができ、吸水による吸水膨張性セメント系遮水材の軟化・膨張と、吸水膨張性セメント系遮水材と吸水膨張性ゴム系遮水材の相互の膨張力の相乗作用による加圧下で、吸水膨張性セメント系遮水材の凝結反応を進行させることにより、所定の剪断強度と粘性を有する遮水層を形成することが可能となり、集水ボーリング孔壁と集水管の隙間を完全に埋めて遮水すると共に、集水ボーリング孔壁の崩れやすい部分を補強することができる。
【0039】
また、地滑り面を挟んでその上下に遮水部材を取付けることによって、集水ボーリング孔内を流下する地下水を、地滑り面から湧出する被圧地下水とそれ以外の地下水に分離して集水管内に完全に、かつ、安全に取り込むことが可能になり、集水ボーリング孔内の地下水を集水管内へ確実に導いて地表又は集水井に取り出すことができる。
【0040】
更に、集水ボーリング孔内に挿入する集水管の先端部分に遮水部材を取付け、吸水による軟化・膨張・凝固反応により集水ボーリング孔壁・孔底と集水管の隙間を充填させることによって、この遮水部材取付け位置より下流側の、集水管に穿ってあるストレーナーへの土砂流入による目詰まりを防止・減少させることができ、この遮水部材取付け位置より下流側の地下水を完全に、かつ、安全に集水管内に導くことができる。
【0041】
また、集水管に対する遮水部材の装着位置を選ぶことにより、集水管の継手部分を補強材としての機能を有する遮水部材で覆うことができ、不安定な地滑りや土塊中の微小変形などの影響で継手部分が破断するのを防ぐと同時に、集水ボーリング孔内地下水をせき止めて集水管内への誘導を確実にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】地山にケーシングを挿入しながら掘削した集水ボーリング孔に集水管を挿入し、ケーシングの抜管後に遮水部材の下流側に位置する吸水膨張性ゴム層が先に膨張した状態を示す縦断面図
【図2】集水ボーリング孔に挿入した集水管の遮水部材が膨張し、孔内に流下・湧出する地下水を堰き止めて集水効率を向上させると同時に、漏水箇所の補強・修復も行う状態を示す縦断面図
【図3】(a)は地山にケーシングを挿入しながら掘削した集水ボーリング孔に集水管を挿入した状態を示す、集水管の一部における遮水部材の拡大縦断面図、(b)はケーシングの抜管後に遮水部材の吸水膨張性ゴム系遮水材が吸水により先に膨張した状態を示す、集水管の一部における遮水部材の拡大縦断面図、(c)は吸水膨張性ゴム系遮水材と吸水膨張性セメント系遮水材が共に膨張した状態を示す、集水管の一部における遮水部材の拡大縦断面図
【図4】遮水部材に用いる吸水膨張性セメント系遮水材の膨張テストの結果を示し、(a)は吸水膨張前の成形乾燥固化試料を示す正面図、(b)は水中に浸漬させた吸水膨張後の状態を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、この発明の実施の形態を図示例に基づいて説明する。
【0044】
図1と図2のように、この発明の集水ボーリング孔の遮水具1は、地山2に掘削した集水ボーリング孔3に挿入される集水管4と、この集水管4の外周で長さ方向の所定箇所に取付けた吸水膨張性の遮水部材5とからなり、前記集水管4は例えば所定長さを有する硬質塩化ビニール管を用い、これを継手で接続することにより必要とする長さに形成するものであり、この集水管4にはストレーナー6が設けられている。
【0045】
この発明の上記遮水部材5は、図3(a)と(b)で示すように、集水管4の長さ方向に所定の間隔をおいて、集水ボーリング孔3の地下水7の流れに対して上流側と下流側の位置に取付けた一対の固定ツバ5aと、前記固定ツバ5aの対向面間で上流側と下流側に設けた吸水膨張性ゴム系遮水材5b1及び5b2と、前記吸水膨張性ゴム系遮水材5b1と5b2間に設けられ、吸水による膨張状態のままで凝結する性質を有する吸水膨張性セメント系遮水材5cとにより形成されている。
【0046】
集水管4に対する遮水部材5の取付け位置は、集水ボーリング孔3を掘削する地山2などの施工場所に対して予め調査を行い、この調査によって求めた、構造的に弱く孔壁の崩れ易い層、漏水層、地下水層、地滑り層等の中で必要と考えられる位置に設定する。
【0047】
上記固定ツバ5aを形成する材料は、硬質塩化ビニル等の比較的柔らかく滑り易い材質でできており、集水ボーリング孔壁やこの集水ボーリング孔3に挿入したケーシング8及びそのカップリング等に接触しても互いに傷つきにくく、スムースに挿入しやすくなるように工夫してある。
【0048】
この固定ツバ5a間で集水ボーリング孔3内の地下水7の流れに対して上流側とか下流側に設けた吸水膨張性ゴム系遮水材5b1と5b2は、ポリアクリル酸エステルと合成ゴムからなり、吸水すると吸水膨張性セメント系遮水材5cよりも早い速度で膨張するものであり、例えば、「ナイスシール」等の一般的な商品名で市販されているものである。
【0049】
上記吸水膨張性ゴム系遮水材5b1と5b2は、その膨張速度を吸水膨張性セメント系遮水材5cの膨張速度よりも速く設定し、かつ、この吸水膨張性ゴム系遮水材5b1と5b2において、地下水7の流れに対して下流側の吸水膨張性ゴム系遮水材5b1は、上流側の吸水膨張性ゴム系遮水材5b2よりも膨張速度を速く設定してある。
【0050】
また、上記吸水膨張性セメント系遮水材5cは、上記特許文献2と3に示すように、セメントを主材として、これに用途に応じて所定の比率で高分子混和剤と減水剤を添加して混練し、これを成形金型を用いて所定の形状に成形した後、乾燥、固化させたものである。
【0051】
図4(a)と(b)は、遮水部材5に用いる吸水膨張性セメント系遮水材5cの膨張テストの結果を示し、図4(a)のように、セメント700gに高分子混和剤300gを添加して混合したのち、減水剤200ccを添加して混練し、これを外径60mm、内径48mm、長さ80mmの円筒状に成形した後乾燥固化した吸水膨張性セメント系遮水材5cを、長さ12cm程度の上記集水管4に採用している硬質塩化ビニール製の集水管(保孔管)(VP−40)4に装着し、その両端を集水管4に設けた固定ツバ5aで保持して試料を作成し、この試料全体を水中に7日間浸漬させた。その結果、吸水膨張後の吸水膨張性セメント系遮水材5cは、図4(b)のように、最大外径が120mm以上に膨張した。
【0052】
このような膨張率を示す吸水膨張性セメント系遮水材5cは、集水管4と集水ボーリング孔3の間に生じた隙間を完全に埋めることができると共に、集水ボーリング孔3の内壁に生じた凹凸形状にも沿い、略恒久的な遮水が得られるだけでなく、集水ボーリング孔3の崩れやすい部分を補強することができる。
【0053】
集水ボーリング孔3の掘削後、この集水ボーリング孔3に集水管4を挿入するとき、遮水部材5を形成する固定ツバ5a及び吸水膨張性ゴム系遮水材5bが、集水ボーリング孔3の壁又はケーシング8の内面及びそのカップリングと擦れることで抵抗となる場合は、必要に応じてこの抵抗を和らげるための機能を付加する場合がある。
【0054】
上記吸水膨張性ゴム系遮水材5bならびに吸水膨張性セメント系遮水材5cは、吸水によって軟化・膨張工程が開始する時間帯の制御も可能であるが、通常、作業・施工時間を考慮して、遮水部材5を装着した集水管4を集水ボーリング孔3の所定の深度まで挿入・設置後、約10時間程度経過後に容積の膨張が開始するように調整・設定してある。
【0055】
次に、この発明の集水ボーリング孔の遮水具を用いた遮水方法を説明する。
地山2などの施工場所に、集水管4を挿入するための集水ボーリング孔3を水平よりも少し上向きに傾斜して掘削する。
【0056】
この集水ボーリング孔3に挿入する集水管4には、予め地山2に対して行った調査によって求めた、構造的に弱く孔壁の崩れ易い層、漏水層、地下水層、地すべり層等の中で必要と考えられる位置に吸水膨張性の遮水部材5を取付ける。
【0057】
地すべりブロックの深部に存在する有害地下水を排除するための集水ボーリングは標準仕様・工法では掘削口径がφ90mmでケーシング8を挿入しながら地すべり面を貫いて5m程度の余掘を見込んで掘削した後、その中にストレーナー6の加工を施した、外径φ48mm、内径φ40mmの硬質塩化ビニール製の保孔管(VP−40)の必要箇所に、標準仕上がり外径φ63mmの上記セメント系遮水部材5を装着した集水管4を挿入した後ケーシング8を抜管する。その後略10時間後から、遮水上記遮水部材が吸水軟化・膨張・凝結反応を開始する。
【0058】
上記のように、外径φ90mm、内径φ70mmのケーシング8を使用する場合、集水ボーリング孔3は長尺となるため、クリアランスに余裕をみて、遮水部材5の標準仕上がり外径をφ63mmに設定してあるが、必要に応じて、遮水部材5の仕上がりが外径をφ60mm、φ63mm、φ66mmの中から選択可能であるし、長さも用途に応じて概略15cm、25cm、50cm、100cm、200cmの中から選択するように設定してある。
【0059】
オプションとして適用口径は、コアボーリングφ66mmの裸孔からロータリーパッションドリルの直径φ135mm程度まで対応できるように設定することができる。
【0060】
上記集水管4を集水ボーリング孔3内に挿入すると、この集水管4に取付けた各遮水部材5の装着位置が、集水ボーリング3孔内の構造的に弱く孔壁の崩れ易い層、漏水層、地下水層、地滑り層等の部分に対応した位置に、集水管4に装着された遮水部材5が位置することになり、集水ボーリング孔3内に湧出、流下してくる地下水7を遮水部材5の吸水膨張性ゴム系遮水材5b1及び5b2とその間に位置する吸水膨張性セメント系遮水材5cが吸水することにより膨張を開始する。
【0061】
図1に示すように、遮水部材5は、先ず、固定ツバ5a間の下流側に位置する吸水膨張性ゴム系遮水材5b1が速く膨張し、その外周が集水ボーリング孔3の壁に接触することで、遮水部材5の下流側の位置において集水ボーリング孔3内の地下水7を堰き止め、一種の水槽を形成することにより、集水ボーリング孔3内に地下水7を徐々に充満していき、上流側の吸水膨張性ゴム系遮水材5b2及び吸水膨張性セメント系遮水材5cを水中に浸漬させることで膨張を促進させ、集水ボーリング孔3の地下水7を堰き止めてストレーナー6から集水管4流入させることになる。
【0062】
次に、固定ツバ5a間の上流側に位置する吸水膨張性ゴム層5b2が膨張し、吸水膨張性セメント系遮水材5cも膨張することになるが、この際、吸水膨張性セメント系遮水材5cは、上流側と下流側の吸水膨張中の吸水膨張性ゴム系遮水材5b1と5b2に挟まれ、この吸水膨張性ゴム層5b1と5b2自身の容積膨張に伴う膨張圧力と吸水膨張性セメント系遮水材5c自身の吸水による軟化・膨張による容積の膨張に伴う膨張圧力によって、ケーシング8の抜管後の、凹凸の多い複雑な表面構造の集水ボーリング孔3や孔壁と集水管の間隙を完全に充填せしめ、更に、吸水膨張性セメント系遮水材5c自身の吸水、膨張による膨張圧力と吸水膨張性ゴム系遮水材5b1と5b2の膨張圧力の相乗作用によって、吸水膨張性セメント系遮水材5cを、上記の閉じ込められた空間内で強く加圧された状態で凝結反応を進行させることにより、図2に示すように、所定の剪断強度及び所定の可撓性を有した遮水層を形成することにより、集水管4に地下水7を確実に取り込んで地表又は集水井に対する集・排水11として導くと同時に、構造的に弱く孔壁が崩れ易い箇所や漏水箇所の補強を行うことができる。
【0063】
なお、図1と図2は、地山2に掘削する集水ボーリング孔3を、地山2に存在する地すべり面9に対して貫通させると共に、地すべり面9よりも奥に5m程度の余掘りを設けた深さに掘削し、この集水ボーリング孔3に挿入する集水管4に、前記地すべり面9に対して上流側と下流側の二箇所の位置に所定の距離をおいて短めの遮水部材5を取付け、また、集水ボーリング孔3の途中に生じた漏水箇所10に該当する位置に遮水部材5を取付け、更に、集水ボーリング孔3の出口に近い位置にも長い遮水部材5を取付けた例を示している。
【0064】
なお、図1と図2では、集水管4を一本の連続したものとして図示しているが、実際には所定の長さを有する硬質塩化ビニール管を継手で接続して長尺の集水管4とするものであり、従って、必要とする継手部分の位置に遮水部材5を取付けるようにすれば、吸水膨張性セメント系遮水材5cの凝固により継手部分の補強材としての役目を果たすことになり、不安定な地滑りや土塊中の微小変形などの影響で継手部分が破断するのを防ぐことで、集水管の集水効率の低下を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0065】
1 遮水具
2 地山
3 集水ボーリング孔
4 集水管
5 遮水部材
5a 固定ツバ
5b1 下流側吸水膨張性ゴム系遮水材
5b2 上流側吸水膨張性ゴム系遮水材
5c 吸水膨張性セメント系遮水材
6 ストレーナー
7 地下水
8 ケーシング
9 地滑り面
10 漏水箇所
11 集・排水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地すべり地帯の帯水層に向けてやや傾斜を有する水平方向にすべり面を貫いて掘削した集水ボーリング孔に、上側にストレーナーを設けた集水管を挿入し、この集水管の水平方向の地すべり面を挟んで上流側と下流側の両側、及び集水効果を向上させるに必要な箇所に、略恒久的な長時間遮水材として機能するセメント系吸水膨張遮水材を装着することによって、地すべりに大きな影響を与える被圧地下水を湧出箇所近傍で強制的にかつ、確実に雌雄水管内に取り込み、他の地下水は孔内の漏水箇所や亀裂などの所要箇所ごとに補強材・遮水材として装着することによって、地すべり地帯の有害な地下水全てを集水管に乗せて地すべりブロック外に排除する機能を有する吸水膨張性遮水具を用いた集水ボーリング孔の遮水方法。
【請求項2】
請求項1に記載の集水ボーリング孔の遮水具を用いた集水ボーリング孔の遮水方法であって、膨張速度の速い上記吸水膨張性ゴム層の膨張によって集水ボーリング孔内で水槽を形成させ、相対的に膨張速度の遅い上記吸水膨張性セメント系遮水材を水中で吸水により柔らかくなりながら膨張することによって凹凸のある複雑な表面構造の集水ボーリング孔壁と集水管の隙間を完全に充填せしめ、更に、上記の吸水膨張性セメント系遮水材自身の膨張力と上記吸水膨張性ゴム層の膨張圧力の相乗作用によって、上記の吸水膨張性セメント系遮水材を閉じ込められた空間内で加圧された状態で凝結反応を進行させることにより、所定の剪断強度、可撓性を持った遮水層を形成することが可能となり、集水ボーリング孔壁の崩れ易い箇所や漏水箇所の補強と集水管の外周部、特に継手部の破断され易い部分を保護する機能を併せ持ったことを特徴とする集水ボーリング孔の遮水方法。
【請求項3】
上側にストレーナーを設けた集水管に、軸方向に所定の間隔で設けた一対の吸水膨張性ゴム層と、この吸水膨張性ゴム層の間に設けた略恒久的な長時間遮水材として機能するセメント系吸水膨張遮水材を装着し、前記吸水膨張性ゴム層の膨張速度をセメント系吸水膨張遮水材よりも速くなるように設定し、かつ、一対の吸水膨張性ゴム層は、集水管内地下水の流れに対して下流側に位置する吸水膨張性ゴム層を上流側の吸水膨張性ゴム層よりも早く膨張するようにした集水ボーリング孔の遮水具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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