説明

集電体の製造方法及び電極の製造方法並びに集電体の製造装置

【課題】内部抵抗を低くすることが可能な集電体を製造する方法の提供。
【解決手段】薄膜基材を表面に密着させて保持する基台を用い、前記薄膜基材を前記基台の表面に密着保持する工程と、粒径が1μm〜9μmである微粒子材料とキャリヤガスとの混合物を前記基台上に保持された前記薄膜基材にノズルから噴射する噴射工程と、を有する。つまり、導電体層を形成する目的で、導電体層を形成する導電性材料から形成され且つ所定の粒径分布をもつ微粒子材料を高圧にてアルミニウムを主成分とする薄膜基材表面に噴射することで、強固に接合した導電体層を薄膜基材表面に形成できる。ノズルから高速で噴射された微粒子材料は、薄膜基材表面に形成された不動態被膜を突き破って薄膜基材内に進入・拡散して導電性材料からなる導電体層を薄膜基材表面に形成する。形成された導電体層は薄膜基材との間における原子の拡散により強固に接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置に適用したときに内部抵抗を小さくできる集電体及び電極を製造する方法、並びに、この集電体の製造方法を好適に実現できる集電体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の排ガスに由来する環境問題を解決する観点から、排気ガスの排出量を低減させた自動車や排気ガスを出さない自動車の開発が進められている。排気ガスの排出量を低減させた自動車の一つとして、内燃機関と電気モータとを組み合わせたハイブリッド自動車がある。また、排気ガスを出さない自動車の一つとして、電気自動車がある。これらの自動車は、二次電池やキャパシタなどの蓄電装置に蓄電された電気を動力源に採用している。
【0003】
自動車に搭載される蓄電装置に求められる性能としては、小型、軽量でありながら、必要に応じて瞬時に大電流を充放電すること、すなわち、高出力密度であることが要求されている。高出力密度を実現するには、蓄電装置の内部抵抗を低減する必要がある。蓄電装置の内部抵抗を低減するには蓄電装置を構成する電極などの各種材質の抵抗を低減する必要がある。
【0004】
車両に搭載される蓄電装置としては、シート状に形成した正負極をセパレータを間に介して巻回乃至積層した電極体を電解液と共にケース内に収納した形態をもつものが一般的である。
【0005】
シート状の電極は集電体としての金属箔の表面に活物質などを含む電極合材層を形成した構成をもつものが挙げられる。従って、集電体と電極合材層との間における電気の授受が内部抵抗に与える影響は少なくない。
【0006】
蓄電装置における集電体には、アルミニウム箔が用いられることがある(例えばリチウム二次電池の正極の集電体)。一般的にアルミニウムは、表面に酸化アルミニウムよりなる不動態皮膜が形成されている。つまり、通常のアルミニウムよりなる集電体は、電気抵抗が大きい不動態皮膜を有している。また、蓄電装置を駆動させることで、アルミニウムよりなる集電体を高電位に晒すことで、集電体を構成するアルミニウムと周囲の電解液とが反応して集電体の表面に高抵抗な皮膜が形成されることが確認された。
【0007】
このように、蓄電装置は、アルミニウムよりなる集電体の表面に形成される酸化皮膜や高抵抗な皮膜により、内部抵抗が増加するという問題があった。内部抵抗が増加すると、大電流での充放電時における電圧降下を招き、出力が低下する。
【0008】
酸化皮膜や高抵抗な皮膜等の不動態皮膜の問題に対して、特許文献1〜3が開示されている。
【0009】
特許文献1には、アルミニウム箔の表面に、アルミニウム箔の厚みより小さな粒子径の電子導電性粒子が埋め込むことが開示されている。電子導電性粒子をアルミニウム箔に埋め込むことで、内部抵抗の増大を抑えている。
【0010】
特許文献2には、集電体の表面に、メジアン径が0.8μm以下の微粒炭素を塗布することが開示されている。微粒炭素を付着することで、集電体と電極活物質或いは電解液との界面における不動態皮膜の形成を阻止する。
【0011】
特許文献3には、集電体の外部表面を、ハフニウムまたはハフニウム合金によって形成することが開示されている。
【0012】
特許文献4には、インクジェット方式により付着パターンに応じた種類の活物質を多数の粒子として集電体上に付着させることを開示している。
【0013】
特許文献5には、無酸素雰囲気下でアルミニウム箔表面を研磨して不動態皮膜を除去し、無酸素雰囲気下で活物質層を形成することが開示されている。
【0014】
特許文献6には、蓄電装置とは関連はないものの、直圧式ブラスト加工装置により黒鉛潤滑層を形成する技術が開示されている。
【0015】
特許文献7には、ガスデポジションにより電極活物質層を形成し、リチウムが挿入されるときの応力を緩和する技術が開示される。
【特許文献1】特開平7−22606号公報
【特許文献2】特開2002−298853号公報
【特許文献3】特開2004−63156号公報
【特許文献4】特開2005−11657号公報
【特許文献5】特開2000−243383号公報
【特許文献6】特開2005−144566号公報
【特許文献7】特開2006−156248号公報
【特許文献8】特開平11−300619号公報
【特許文献9】特開2000−326229号公報
【特許文献10】特開2001−247979号公報
【特許文献11】特開2005−2461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1〜4に開示された集電体は、表面に酸化皮膜が形成された状態で更なる処理を行っていることから、アルミニウム箔の表面の不動態皮膜が残存しており、内部抵抗を充分に低下させる効果が得られないという問題があった。
【0017】
さらに、特許文献1〜3に開示の技術においては、アルミニウム箔とその表面に形成される導電性の表面層とは、いずれもアルミニウム箔表面の凹凸に由来するアンカー効果により接合されているのみであり、耐久性・信頼性に問題があった。
【0018】
特許文献5に開示された方法では、不動態被膜は除去されているものの活物質層とアルミニウム箔(集電体)との接合が、アンカー効果のみであり、接合力が弱いという問題があった。そして、製造された電極のアルミニウムの露出した部分の酸化が発生し、内部抵抗の増大を招くという問題があった。
【0019】
特許文献6に記載の技術は潤滑層を形成する技術であり、そのまま、薄膜状の集電体に適用する場合には、歪発生、破れなどの集電体に対するダメージが大きく、集電体上への皮膜形成は困難であった。
【0020】
特許文献7に記載の技術は膜の形成時に雰囲気を真空にする必要があって、作業効率が低いという問題があった。
【0021】
本願発明は上記実情に鑑みなされたものであり、電池に適用した場合に内部抵抗を低くすることが可能な集電体及び電極を製造する方法並びにそのような集電体を製造できる装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(1)上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行い、アルミニウム製の集電体の表面に、アルミニウム及び導電性をもつ導電性材料が混在した接合層が形成され、更にその接合層上に導電性材料をもつ導電体層が形成された新規な集電体を採用することにより内部抵抗が低い蓄電装置が提供できることを発見した。本発明者らはこの新規集電体を提供するのに好適な製造方法及び製造装置を案出した。金属の表面には、通常、酸化皮膜が形成されており、この方法及び装置はその酸化皮膜に対しても効果的である。従って、この方法及び装置はアルミニウム以外の金属にも適用できる。
【0023】
すなわち、上記課題を解決する本発明の集電体の製造方法は、金属(特にアルミニウムやアルミニウム合金)製の薄膜基材とその表面に形成された導電性材料を含む導電体層とを有する蓄電装置用の集電体を製造する方法であって、
前記薄膜基材を表面に密着させて保持する基台を用い、
前記薄膜基材を前記基台の表面に密着保持する工程と、
粒径が1μm〜9μmであって前記導電性材料から形成される微粒子材料とキャリヤガスとの混合物を前記基台上に保持された前記薄膜基材にノズルから噴射する噴射工程と、を有することを特徴とする。ここで、前記薄膜基材は厚みが50μm以下であることが望ましい。
【0024】
つまり、導電体層を形成する目的で、導電体層を形成する導電性材料から形成され且つ所定の粒径分布をもつ微粒子材料を高圧にてアルミニウムを主成分とする薄膜基材表面に噴射することで、強固に接合した導電体層を薄膜基材表面に形成できる。
【0025】
ノズルから高速で噴射された微粒子材料は、薄膜基材表面に形成された不動態被膜を突き破って薄膜基材内に進入・拡散して導電性材料からなる導電体層を薄膜基材表面に形成する。形成された導電体層は薄膜基材との間における原子の拡散により強固に接合されている。
【0026】
また、薄膜基材は、強固な基台上に密着保持された状態で微粒子材料が噴射されるので、微粒子材料の衝突に由来する歪みの発生を極力抑制することができる。
【0027】
なお、ノズルから噴射する装置としては特許文献8及び9に開示があるが、特許文献8及び9に開示の技術は膜形成を目指すものではなく異なる技術分野に関するものである。
【0028】
そして、本発明の集電体の製造方法において、ガスを吸引する開口部を備えるガス吸引手段を有し、
前記基台は一端が前記基台が密着保持される表面に開口する吸引口を形成し他端が前記ガス吸引手段の前記開口部に内部のガスが吸引されるように接続される接続口を形成するガス吸引路が形成されており、
前記薄膜基材は前記ガス吸引手段によって前記基台表面に開口する前記吸引口からガス吸引を行うことで前記基台表面に吸着されることが望ましい。
【0029】
吸引による薄膜基材の保持は、基台表面に薄膜基材を確実に密着保持できると共に、基台から薄膜基材を除去することも容易である。
【0030】
更に、前記薄膜基材と前記導電体層との間には、前記薄膜基材の表面から前記導電性材料が内部に拡散して形成された接合層を有することで、より強固な結合が実現できるので望ましい。上述した本発明の集電体の製造方法によれば、導電体層と薄膜基材との間は拡散により強固に接合されているが、この接合層が形成される程度にまで拡散を進行させることにより、更に強固な接合が実現できる。
【0031】
前記導電性材料は、炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料及び導電性樹脂材料よりなる群から選択されることが望ましい。前記炭素材料としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック及びカーボンナノチューブよりなる群から選択される材料を含むことが望ましい。前記導電性セラミックスとしては、チタンカーバイト又はチタンナイトライドを含むことが望ましい。前記導電性酸化物としては、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化亜鉛及び酸化タングステンよりなる群から選択される材料を含むことが望ましい。前記金属材料としては、ニッケル、銀、金及び白金よりなる群から選択される材料を含むことが望ましい。
【0032】
そして、形成される導電体層と薄膜基材との間の接合と薄膜基材表面の不動態被膜の除去とを確実に行うには、前記ノズルから噴射する前記微粒子材料の速度は200m/秒〜450m/秒であることが望ましい。
【0033】
(2)上記課題を解決する本発明の電極の製造方法は、薄膜状の集電体と前記集電体の表面に形成された電極活物質層とを有する電極を製造する方法であって、上述した集電体の製造方法により集電体が製造されることを特徴とする。
【0034】
(3)上記課題を解決する本発明の集電体の製造装置は、金属製の薄膜基材とその表面に形成された導電性材料を含む導電体層とを有する蓄電装置用の集電体を製造する装置であって、
前記薄膜基材を表面に密着させて保持する基台と、
粒径が1μm〜9μmであって前記導電性材料から形成される微粒子材料とキャリヤガスとの混合物を前記基台上に保持された前記薄膜基材にノズルから噴射する噴射手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明の集電体の製造方法は上記構成を有することで、薄膜基材の表面に存する不動態被膜をその薄膜基材へのダメージを極力避けながら除去すると同時に導電体層にて覆うことが可能になる。更に、導電体層を構成する導電性材料を適正に選択することにより、製造された集電体の表面における抵抗に由来する内部抵抗の増大を最小限に抑えることが可能になる。
【0036】
すなわち、本発明の集電体の製造方法により製造された集電体は、導電性を備えた導電性材料をもつ導電体層により表面が形成されていることで、有機電解液を用いた蓄電装置の電極を形成したときに、薄膜基材が、直接、電解液に晒されなくなり、高抵抗の皮膜が形成されなくなって、不働態皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられ出力特性が向上する。
【0037】
また、本発明の集電体は、アルミニウムなどからなる薄膜基材表面に導電性材料が混在する接合層を形成するときに、表面の酸化皮膜が除去されている。つまり、本発明の集電体は、薄膜基材表面の酸化皮膜による内部抵抗の上昇が抑えられている。
【0038】
更に、本発明の集電体の製造方法は、基台表面に密着保持された状態で薄膜基材に微粒子材料を噴射しているので、微粒子材料の衝突によっても薄膜基材が変形せず、薄膜基材の歪みの発生を極力低減することが可能になる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
(集電体の製造方法及び製造装置)
以下、本発明の集電体の製造方法(並びに製造装置。製造装置については製造方法の説明をもって省略可能なところは省略する)について実施形態に基づいて詳細に説明を行う。本実施形態の集電体の製造方法により製造可能な集電体としてはリチウム二次電池などの非水電池や電気二重層キャパシタの電極に採用されている集電体を挙げることが可能である。
【0040】
本実施形態の集電体の製造方法は、金属製の薄膜基材とその表面に形成された導電性材料を含む導電体層とを有する蓄電装置用の集電体を製造する方法である。導電体層と薄膜基材との間には接合層が形成されていることが望ましい。接合層は薄膜基材の表面から導電性材料が内部に拡散して形成された層である。接合層は薄膜基材及び導電体層の双方の構成成分をもつことから両者に対して親和性が高く、接合層の存在により両者の間の接合を強固にすることができる。
【0041】
接合層は、0.01μm以上の厚さで形成されたことが好ましい。ここで、接合層の厚さとは、導電性材料が含まれる部分の厚さを示す。接合層が0.01μm以上の厚さで形成されることで、基材と導電体層を接合する高い効果を発揮する。
【0042】
薄膜基材は金属製(例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス合金)の薄膜状の部材である。薄膜基材を形成する金属としては最終的な集電体が適用される蓄電装置に応じて選択される。薄膜基材としては、従来、採用されている集電体をそのまま採用することも可能である。薄膜基材の形態としては薄膜状であること以外、特に限定しないが、適用される蓄電装置における体積エネルギー密度向上の観点からは要求される強度を有する限度において薄いことが望ましい。例えば、50μm以下が望ましく、30μm以下が更に望ましい。本実施形態の製造方法によれば、このように薄い薄膜基材であっても表面に導電体層を形成することができる。
【0043】
導電体層を形成する導電性材料としては、炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料及び導電性樹脂材料よりなる群から選択される材料を含むことが望ましい。炭素材料としては、グラファイト(グラファイトとしては天然黒鉛(特に土状黒鉛、塊状黒鉛など)、人造黒鉛のいずれも採用可能である。)、カーボンブラック、アセチレンブラック及びカーボンナノチューブよりなる群から選択される材料を含むことが望ましい。導電性セラミックスとしては、チタンカーバイト又はチタンナイトライドを含むことが望ましい。導電性酸化物としては、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化亜鉛及び酸化タングステンよりなる群から選択される材料を含むことが望ましい。金属材料は、ニッケル、銀、金及び白金よりなる群から選択される材料を含むことが望ましい。これらの材料は単独又は任意の組み合わせで用いることが可能である。組み合わせて用いる場合には分子レベルで混合した状態であっても一次又は二次粒子レベルの状態で混合したものであっても構わない。なお、薄膜基材を構成する材料と同じ材料を金属材料として採用し、導電性材料とする場合(例えば、ニッケル製の薄膜基材にニッケル製の導電性材料を噴射するなど)も含んでいるが、その場合であっても薄膜基材表面の酸化皮膜除去効果は期待できる。
【0044】
本実施形態の集電体の製造方法は、薄膜基材を基台上に密着保持する工程と導電性材料から形成される微粒子材料を薄膜基材に噴射する噴射工程とを有する。
【0045】
基台は、薄膜基材を表面に密着保持する部材であり、密着保持した状態で噴射工程に供するものである。基台は噴射工程時に薄膜基材を密着保持する面が変形しない材料から構成されることが望ましい。基台が変形すると、密着保持した薄膜基材も変形して歪みが生じる虞があるからである。基台としては例えば金属やセラミックスなどから構成することができる。
【0046】
基台表面に薄膜基材を密着保持する方法としては特に限定しないが、例えば、基台表面と薄膜基材との間のガスを吸引して保持する方法や、基台に電荷を蓄えて静電気の力にて保持する方法などが挙げられる。ガスを吸引して保持する方法としては、吸引路が形成された基台を用いることが望ましい。吸引路は、薄膜基材を密着保持する表面に1つ乃至2以上開口する吸引口を一端にもち、その吸引口に接続され薄膜基材が密着保持される表面以外の表面に開口する開口部を他端部にもち、吸引口及び開口部の間を連通させる貫通孔である。吸引路は1つ以上形成されることで、薄膜基材が密着保持される表面に1つ以上の吸引口を形成することが望ましい。その吸引路の開口部からガスを吸引することで吸引口からガスを吸引して表面に薄膜基材が密着保持される。
【0047】
吸引路が形成された基台としては多孔質材料(セラミックスや樹脂などからなるもの)や網状部材(この網状部材を介してガスを吸引して網状部材に薄膜基材を密着させる)を採用可能である。
【0048】
ここで、ガスの吸引によって薄膜基材を基台表面に密着保持するときに、そのガスの吸引により薄膜基材は吸引口に入り込むことで歪むことになる。発生する歪みの程度は吸引口の大きさ(開口径)が大きくなるにつれて大きくなるので、基台表面に形成される吸引口の大きさは、薄膜基材を形成する材料や薄膜基材の厚み、ガスの吸引の程度(真空度)などに応じて適正に制御する。具体的には薄膜基材に生起する歪みが許容できる程度(乃至それ以下)の吸引口の大きさを採用する。また、ガス吸引路は複数形成することでガスを吸引する程度(真空度)を低くすることが可能になって、薄膜基材を変形させる虞が少なくできる。
【0049】
吸引路の開口部からガスを吸引する手段であるガス吸引手段はガスが吸引できれば特に限定されず、一般的なポンプ、例えば真空ポンプなどを採用することができる。
【0050】
噴射工程は基台表面に密着保持されている薄膜基材に微粒子材料を噴射する工程である。微粒子材料はキャリアガスにより搬送されており、キャリアガスとの混合物として噴射される。微粒子材料は粒径が1μm〜9μmであって導電性材料から形成されている。微粒子材料の粒径が1μmに満たないものはキャリアガスとの混合物として噴射された際に薄膜基材に対して噴射された微粒子が跳ね返る場合がある。一方、9μmを超えるものは該微粒子の衝突によって薄膜基材が剥がされる場合がある。
【0051】
微粒子材料はノズルから噴射するときの速度が200m/秒〜450m/秒であることが望ましい。また、微粒子材料は、ある一定の範囲に噴射するように制御されており、その範囲を移動させることが望ましい。噴射範囲を移動させる速度としては特に限定しないが1mm/秒〜50mm/秒程度を採用することができる。
【0052】
噴射される微粒子材料の速度としては特に限定しないが、その下限として、100m/s、150m/s、200m/s、250m/s、300m/s、350m/sなどが採用でき、上限として、500m/s、450m/s、400m/s、350m/s、300m/s、250m/sなどが採用できる。
【0053】
キャリヤガスは特に限定しないが、窒素ガス、空気、アルゴンなどの噴射雰囲気下において不活性乃至活性が低いガスを採用することが望ましい。キャリヤガスの圧力としては微粒子材料が前述の好ましい速度になるような圧力を採用することが望ましく、例えば、前述の微粒子の噴射速度を実現するには0.25MPa〜1.00MPa程度を採用することが望ましい。
【0054】
(電極の製造方法)
本発明の電極の製造方法は、薄膜状の集電体とその集電体の表面に形成された電極活物質層とを有する電極の製造方法であって、集電体は前述の集電体の製造方法で製造されることを特徴とする。この電極は、正極と負極のいずれに用いてもよい。例えば、リチウムイオン電池の電極として用いられるときには、正極であることが好ましい。集電体及びその製造方法については前述した構成がそのまま採用可能なので更なる説明は省略する。
【0055】
電極活物質層は活物質をもつ。活物質の他にも導電材や結着材を有することもできる。活物質は、電極を蓄電装置の電極として用いたときに電極反応を生じる物質である。電極反応としては、限定されるものではなく、リチウム電池の電極反応のようにイオンをその結晶構造中に吸蔵・放出する反応や、ラジカル電池のように酸化還元反応に伴う電子の授受を行う反応、電気二重層キャパシタのようにその表面に電気二重層を形成する反応をあげることができる。
【0056】
活物質は、蓄電装置を構成したときに、イオンを吸蔵・放出する電極反応、酸化還元反応に伴う電子の授受を行う電極反応、イオンを可逆的に担持する電極反応の少なくとも一種の電極反応を生じる物質であれば特に限定されるものではない。電極活物質は、金属酸化物系化合物、ラジカル安定化合物の少なくとも一種であることが好ましい。
【0057】
金属酸化物系化合物としては、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な金属酸化物系化合物であればよい。金属酸化物系化合物が、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な化合物よりなることで、本発明の電極を用いてリチウムイオン電池を形成することができる。金属酸化物系化合物としては、例えば、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な金属酸化物系化合物にコバルト系酸化物、ニッケル系酸化物、マンガン系酸化物、鉄オリビン酸系酸化物を含む化合物やこれらの複合酸化物をあげることができる。すなわち、金属酸化物系化合物は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な金属酸化物系化合物にコバルト系酸化物、ニッケル系酸化物、マンガン系酸化物、鉄オリビン酸系酸化物の少なくとも一種あるいはこれらの複合体を含む化合物であることが好ましい。より具体的には、LiCoO,LiNiO,LiMnO,LiMnや、LiNi1−x−yCo(MはAl,Sr,Mg,Laなどの金属元素)のようなリチウム遷移金属酸化物の一種以上、あるいはこれらの複合体をあげることができる。
【0058】
ラジカル化合物は、不対電子を備えており、この不対電子が電極反応に関与する化合物である。つまり、この不対電子が電流として集電体を介して取り出される。この結果、酸化還元反応に伴う電子の授受を行う電極反応が進行する。この電極反応を用いた蓄電装置は、電子の授受の容易さから、高出力が得られる効果を発揮する。ラジカル化合物は、電極反応に寄与する不対電子をもつ化合物であれば特に限定されるものではない。ラジカル化合物は、ニトロキシルラジカルを有する化合物、オキシラジカルを有する化合物、窒素ラジカルを有する化合物の少なくとも一種であることが好ましい。
【0059】
電荷を可逆的に蓄えることが可能な電極反応としては、例えば、キャパシタの電極において生じる反応を挙げることができる。電荷を可逆的に蓄えることが可能な活物質としては、従来公知のキャパシタにおいて用いられている活物質を挙げることができ、例えば、活性炭などの炭素質材料をあげることができる。
【0060】
上述した電極を用いて製造される蓄電装置としては特に限定されない。例えば電極の他に電解液、ケース、セパレータなどの一般的な構成が採用できる。
【実施例】
【0061】
・試験1
チタンカーバイド粒子(平均粒径1μm)、グラファイト粒子(平均粒径2.0μm)及び窒化チタン粒子(平均粒径1.0μm)をそれぞれ微粒子材料として採用した場合のキャリアガスと噴射速度との関係を検討した。
【0062】
キャリアガスとして窒素を用い、その圧力を0.25MPa、0.50MPa、0.75MPa及び1.00MPaとした場合の各微粒子材料の噴射速度を測定した。噴射条件はとしては、使用ノズルとして内径1mm、先端が平らでストレート形状の管を採用し、その先端からの距離が1mmになるように基板を配置した状態で各微粒子材料を噴射するときの噴射速度を測定した。噴射速度の測定はノズルから噴射された微粒子材料に対して、100ns間隔にてパルスレーザを照射しながら、同期した高解像度カメラにて撮影することで行った。噴射速度は測定した微粒子材料のうち噴射速度が上位10%に入るものの速度の平均値を採用した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から明らかなように、キャリアガス圧力を0.25MPa〜1.00MPaの範囲に制御することで、噴射速度を200m/s弱から450m/s程度にまで制御することができた。
【0065】
そして、試験後、基板の断面を観察したところ、それぞれ噴射した微粒子材料の種類に応じた材料から形成された導電体層が基板の表面に形成されていることが分かった。導電体層の厚みは微粒子材料を構成する材料の種類にはあまり影響されず、同程度の噴射速度では同程度の厚みに形成されていた。
【0066】
・試験2
本発明の実施例として薄膜基材としてのアルミニウム箔の表面に導電性材料としてのチタンカーバイトからなる導電体層を形成する方法について種々の条件下、検討を行った。
【0067】
・アルミニウム箔表面への導電体層の形成(基本操作)
アルミニウム箔(厚さ15μm)を基台(表面に吸引口をもつ吸引路が形成されている)の裏面より真空吸引し表面に固定した(密着保持工程)。固定したアルミニウム表面に平均粒子径が1.0μmの微粒子材料としてのチタンカーバイト粒子を圧力0.50MPaの窒素ガスを使った気流中に流して加速させ、ノズルより噴射させてアルミニウム箔上に高密度で衝突させてチタンカーバイトを含む皮膜である導電体層を形成させた(噴射工程)。噴射時のチタンカーバイトの平均流速は280m/秒、ノズルとアルミニウム箔表面の距離は1mmにした。アルミニウム箔の被処理領域の一端から他端までノズルを走査させた後、走査方向に対して垂直方向にノズルを1.0mmずつずらすことを順次繰り返しながら連続的に走査させることで70mm四方の領域に導電体層を形成した。
【0068】
ノズルから噴射されたチタンカーバイド粒子は直径が約1.2mmの円として均等に拡がってアルミニウム箔上に衝突した。走査毎にノズルをずらす大きさは1.0mmなので、一回の走査毎に約0.1mmずつチタンカーバイド粒子が衝突する領域が重なることになった。
【0069】
・ノズルの走査速度
チタンカーバイド粒子を噴射するノズルをアルミニウム箔との距離を一定(1mm)に保ちながら、アルミニウム箔の広がり方向に対して平行に移動させる速度(走査速度)を種々変化させて処理したときに形成される導電体層の様子を評価した。走査速度は1秒あたり、4mm、10mm、20mm、そして30mmの4通りで評価した。導電体層の様子は断面をTEMにて観察することで評価した。結果を図1に示す。
【0070】
図1より明らかなように、走査速度が速くなるにつれて、処理後のアルミニウム箔の表面が滑らかになることが分かった。これは、単位面積あたりで考えると、走査速度が速くなるにつれてチタンカーバイド粒子が噴射される時間(量)が少なくなることに起因するものと推測される。つまり、チタンカーバイド粒子が噴射される時間が短いと、チタンカーバイド粒子が衝突することによる表面の変形が少なくなるものと考えられる。また、図1より明らかなように、走査速度を変化させても(例えば本実施例におけるように30mm/秒以下の範囲)形成される導電体層の厚みは大差ないことが分かった。
【0071】
従って、表面の凹凸の形成を望まない場合には走査速度を速くし、反対に表面に凹凸を形成したい場合には走査速度を遅くすることが有効である。例えば、走査速度を10mm/秒以下、更には4mm/秒以下にすることで表面に凹凸を形成できることが分かった。また、走査速度を20mm/秒以上、更には30mm/秒以上にすることで表面を滑らかにできることが分かった。
【0072】
・充電前後における皮膜抵抗
30mm/秒の走査速度でアルミニウム箔の表面にチタンカーバイド粒子を噴射することにより、表面に導電体層が形成された実施例の集電体を製造した。表面に導電体層を形成していないアルミニウム箔を比較例の集電体とした。実施例及び比較例の集電体を用いて製造したリチウム二次電池の正極に相当する電極について充電前後の皮膜抵抗を測定した。
【0073】
試験に供する電極は、実施例及び比較例のそれぞれの集電体を用い、その集電体の両面に正極合材ペーストを塗布・乾燥した後、プレスすることで集電体の両面に正極合材層が形成された電極が完成した。正極合材ペーストは、正極活物質としてのニッケル酸リチウム(LiNiO)と導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業製、デンカブラックHS100)と結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを分散媒としてのN−メチルピロリドンに分散することで調製した。LiNiO:HS100:PVDFは85:10:5とした。
【0074】
充電操作及び皮膜抵抗の測定は図2に示す装置を用いて以下のように行った。図2に示す試験用電極1として実施例及び比較例の電極を採用した。試験用電極1を作用極とし、金属リチウムからなる対極2及び参照極5を用いて皮膜抵抗の測定を行った。皮膜抵抗の測定は種々の電圧を印加した場合における電流値を測定することにより行い、測定した電圧及び電流値から皮膜に由来する抵抗の値を算出した。
【0075】
皮膜抵抗の測定はそれぞれの試験用電極について充電操作を行う前と後との2回測定した。充電条件としては、試験用電極及び対極の間に4.1Vの電圧を2時間印加することにて行った。
【0076】
電解質3としてはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比3:7に混合した非水溶媒中に、支持電解質としてのLiPFを1mol/Lの濃度で溶解したものを採用した。結果を図3に示す。
【0077】
図3から明らかなように、比較例の集電体を採用した試験用電極は、充電を行うことによって、皮膜抵抗の値が増加した。これは集電体を構成するアルミニウム箔の表面に対して電解質が反応して電気抵抗が大きな皮膜が形成されたことに由来するものと推測される。
【0078】
そして、実施例の集電体を採用した試験用電極は、充電の前後で皮膜抵抗の大きさに変化はほとんど認められなかった。更に、比較例の試験電極と比較して充電前の皮膜抵抗の値も極めて小さいことが明らかになった。これは比較例の試験電極における集電体を構成するアルミニウム箔の表面には、電気抵抗が大きい不動態からなる層が形成されているのに対して、実施例の試験電極における集電体を構成するアルミニウム箔の表面には、チタンカーバイドから形成された導電体層があることに由来するものと考えられる。つまり、チタンカーバイドはアルミニウム箔の表面に形成される不動態よりも電気抵抗が低く且つ電解質との反応性が低く、チタンカーバイドからなる導電体層が形成された集電体を採用した実施例の試験電極は充電の前後にかかわらず低い皮膜抵抗を保つことができるものと推測できる。
【0079】
出力特性を常法により測定した結果、実施例の試験電池の出力上限電流は70mAであり、比較例の試験電池の出力上限電流よりも約1.16倍大きいことが分かった。すなわち、集電体の表面に導電体層を形成することで出力密度の向上が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例においてノズルの走査速度を変化させたときに形成される導電体層の断面を観察したSEM写真である。
【図2】実施例において電極の皮膜抵抗の測定に用いた測定装置の概略図である。
【図3】実施例及び比較例の試験電極の充放電前後の皮膜抵抗を測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の薄膜基材とその表面に形成された導電性材料を含む導電体層とを有する蓄電装置用の集電体を製造する方法であって、
前記薄膜基材を表面に密着させて保持する基台を用い、
前記薄膜基材を前記基台の表面に密着保持する工程と、
粒径が1μm〜9μmであって前記導電性材料から形成される微粒子材料とキャリヤガスとの混合物を前記基台上に保持された前記薄膜基材にノズルから噴射する噴射工程と、を有することを特徴とする集電体の製造方法。
【請求項2】
ガスを吸引する開口部を備えるガス吸引手段を有し、
前記基台は一端が前記基台が密着保持される表面に開口する吸引口を形成し他端が前記ガス吸引手段の前記開口部に内部のガスが吸引されるように接続される接続口を形成するガス吸引路が形成されており、
前記薄膜基材は前記ガス吸引手段によって前記基台表面に開口する前記吸引口からガス吸引を行うことで前記基台表面に吸着される請求項1に記載の集電体の製造方法。
【請求項3】
前記薄膜基材は厚みが50μm以下である請求項1又は2に記載の集電体の製造方法。
【請求項4】
前記薄膜基材と前記導電体層との間には、前記薄膜基材の表面から前記導電性材料が内部に拡散して形成された接合層を有する請求項1〜3のいずれかに記載の集電体の製造方法。
【請求項5】
前記薄膜基材はアルミニウム又はアルミニウム合金からなる請求項1〜4のいずれかに記載の集電体の製造方法。
【請求項6】
前記導電性材料は、炭素材料、導電性セラミックス、導電性酸化物、金属材料及び導電性樹脂材料よりなる群から選択される材料を含む請求項1〜5のいずれかに記載の集電体の製造方法。
【請求項7】
前記炭素材料は、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック及びカーボンナノチューブよりなる群から選択される材料を含む請求項6記載の集電体の製造方法。
【請求項8】
前記導電性セラミックスは、チタンカーバイト又はチタンナイトライドを含む請求項6又は7記載の集電体の製造方法。
【請求項9】
前記導電性酸化物は、酸化バナジウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化亜鉛及び酸化タングステンよりなる群から選択される材料を含む請求項6〜8のいずれかに記載の集電体の製造方法。
【請求項10】
前記金属材料は、ニッケル、銀、金及び白金よりなる群から選択される材料を含む請求項6〜9のいずれかに記載の集電体の製造方法。
【請求項11】
前記ノズルから噴射する前記微粒子材料の速度は200m/秒〜450m/秒である請求項1〜10のいずれかに記載の集電体の製造方法。
【請求項12】
薄膜状の集電体と前記集電体の表面に形成された電極活物質層とを有する電極の製造方法であって、
前記集電体は請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法で製造されることを特徴とする電極の製造方法。
【請求項13】
金属製の薄膜基材とその表面に形成された導電性材料を含む導電体層とを有する蓄電装置用の集電体を製造する装置であって、
前記薄膜基材を表面に密着させて保持する基台と、
粒径が1μm〜9μmであって前記導電性材料から形成される微粒子材料とキャリヤガスとの混合物を前記基台上に保持された前記薄膜基材にノズルから噴射する噴射手段と、を有することを特徴とする集電体の製造装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−43667(P2009−43667A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−210006(P2007−210006)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】