説明

難燃性樹脂組成物及びその成形品

【課題】大型の電子機器等への使用に耐えるような高水準の耐衝撃性・難燃性を両立させた、バイオマス由来の樹脂であり、環境保護の観点から注目されているポリアルキレンフランジカルボキシレート(以下、PAFと記す)樹脂の提供。
【解決手段】下記式(1)で表されるポリアルキレンフランジカルボキシレートと、芳香族ポリカーボネートと、特定のホスファゼン系化合物と、フッ素系化合物とを含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物。


(式(1)中のm、nは2以上の整数)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、難燃性ともに優れた難燃性樹脂組成物及びその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、再生可能な生物由来資源(バイオマス)から作られる樹脂が注目を集めている。
フラン系樹脂であるポリアルキレン−2,5−フランジカルボキシレート(以下PAFと記す)は、糖類などから合成することができる熱可塑性樹脂であり、電気機器等への適用が期待されるバイオマス由来樹脂である。しかし、PAF単独では耐衝撃性、難燃性等の物性が低く、使用できる用途が限られている。
【0003】
これらを改善する為に、特許文献1では、PAFの一種であるポリブチレン−2,5−フランジカルボキシレート(以下、PBFと記す)に対して、有機化処理した層状珪酸塩、ドリップ防止剤等を添加することで難燃性を向上させている。しかし、耐衝撃性は低く、電気・電子機器等への使用を想定した場合、耐衝撃性の向上が望まれていた。
一方、特許文献2では、PAFに衝撃強化剤及び層状粘土鉱物剤を添加することで耐衝撃性を向上させているが、電気・電子機器等に使用するには耐衝撃性、難燃性の改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−270011号公報
【特許文献2】特開2008−75068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、バイオマス由来樹脂としてPAFが注目されており、耐衝撃性や難燃性の改善が試みられているが、現在、実用に耐えうる耐衝撃性と難燃性を両立させた例はない。
また、PAFにゴム成分を配合すると耐衝撃性が向上するが、PAFにゴム成分を配合した樹脂組成物は、難燃剤を添加しても高い難燃性(UL−94規格5V)を付与することは困難であった。
さらに、芳香族ポリカーボネートを混合する手段も考えられるが、PAFと芳香族ポリカーボネート樹脂は相溶性が悪く、粘度差も大きいため、混合しても耐衝撃性は向上しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、PAFと芳香族ポリカーボネートとの混合樹脂にホスファゼン系化合物、及びフッ素系化合物を配合することにより、従来のPAF系組成物では達成困難であった高水準の耐衝撃性及び難燃性を有する樹脂が得られることを見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、環境負荷が小さく、高い耐衝撃性及び難燃性を持つ難燃性樹脂組成物であり、上記特徴を生かして、電気・電子機器部品、自動車部品、建築部材等に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、個々に開示する実施形態は、本発明の難燃性樹脂組成物及びその成形品の例であり、これに限定されるものではない。本発明の難燃性樹脂組成物は、PAFと、芳香族ポリカーボネートと、ホスファゼン系化合物と、フッ素系化合物とを含むことを特徴とする。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用するPAFは、下記式(1)で表わすポリアルキレンフランジカルボキシレートである。
【0009】
【化1】

前記式(1)において、m、nは2以上の整数である。
前記式(1)のmは2〜4が好ましく、最も好ましいのは、m=2のポリエチレンフランジカルボキシレート(PEF)である。
【0010】
本発明で使用するPAFの分子量または分子量分布については、PAFを含む本発明の難燃性樹脂組成物の成型加工が可能であれば特に制限されるものではない。ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した数平均分子量は15000以上が望ましく、50000以上がさらに望ましい。上限としては、成形時の流動性の観点から数平均分子量は300000以下であることが望ましい。
また、本発明の難燃性樹脂組成物において、機械特性、熱特性、難燃性等を悪化させない限り、式(1)の繰り返し単位中への他の共重合成分の混入、及び架橋剤等による架橋が行われても良い。
本発明で使用する芳香族ポリカーボネートは、芳香族二価フェノール系化合物とホスゲン、または炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる芳香族ホモまたはコポリカーボネートなどの芳香族ポリカーボネートが挙げられる。
【0011】
前記の芳香族二価フェノール系化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等が使用でき、これら単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0012】
芳香族ポリカーボネートの分子量については、難燃性樹脂組成物の成型加工が可能であれば特に制限されるものではないが、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した重量平均分子量は20000以上が望ましく、50000以上がさらに望ましい。分子量が低いと、前記難燃性樹脂組成物の耐衝撃性が低くなる場合がある。上限としては、成形時の流動性の観点から重量平均分子量は500000以下であることが望ましい。
具体的には、パンライトK−1300Y(商品名、帝人化成(株)製)が挙げられる。前記PAFと芳香族ポリカーボネートとの質量比は5/95〜40/60であることが望ましい。PAFの比率が40を超えると充分な難燃性が得られない場合がある。また、PAFの比率が5に達していない場合は、バイオマス由来樹脂の比率が低く、充分な環境負荷の低減効果が得られるとは言えない。上記範囲内の比率でPAFと芳香族ポリカーボネートを混合した場合、バイオマス由来樹脂の比率と難燃性のバランスが取れた特性を得ることができる。
本発明で使用するホスファゼン系化合物は、下記式(2)で表される。
【0013】
【化2】

前記式(2)で、nは2以上の整数、R1及びR2は炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基である。
【0014】
前記式(2)のR1、R2は特に限定されないが、アリール基であることが望ましい。さらに、R1とR2は同じであっても良い。また、機械特性、熱特性、難燃性等を悪化させない限り、架橋可能な成分の共重合、または添加によりポリマー鎖間に架橋構造を形成させても良い。
具体的には、SPS−100(商品名、大塚化学(株)製)またはラビトルFP110(商品名、伏見製薬(株)製)が挙げられる。
【0015】
前記ホスファゼン系化合物の含有量は、PAFと芳香族ポリカーボネートとの総量を100重量部として10〜40重量部が望ましく、10〜25重量部がさらに望ましい。ホスファゼン系化合物の含有量が10重量部未満だと十分な難燃性が得られない可能性があり、40重量部を上回ると耐衝撃性が低下する可能性がある。
本発明のホスファゼン系化合物は、機械特性、熱特性、難燃性等を悪化させない限り、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0016】
本発明で使用するシリコーン・アクリル系コアシェルゴムの種類は特に限定されないが、シェル部分が前記PAF及び前記芳香族ポリカーボネートと高い親和性を有するか、または化学的な結合を形成することが好ましい。具体的には、メタブレンS−2200(商品名、三菱レイヨン株式会社製)が挙げられる。
前記シリコーン・アクリル系コアシェルゴムは、機械特性、熱特性、難燃性等を悪化させない限り、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
前記シリコーン・アクリル系コアシェルゴムの含有量は特に限定されないが、PAFと芳香族ポリカーボネートとの総量を100重量部として5〜40重量部が好ましく、5〜15重量部がさらに好ましい。シリコーン・アクリル系コアシェルゴムが5重量部未満だと耐衝撃性向上の効果が得られない可能性があり、40重量部を超えると難燃性が不十分になる可能性がある。
【0017】
本発明で使用するフッ素化合物の種類は特に限定されないが、ハンドリング、分散性が良いことから、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)や、他樹脂で変性したPTFE、またはPTFE含有混合物が好ましい。具体的には、アクリル樹脂変性PTFEであるメタブレンA−3800(商品名、三菱レイヨン(株)製)が挙げられる。
本発明のフッ素系化合物の含有量は特に限定されないが、環境への影響を考慮すると、本発明の難燃性樹脂組成物全体を100重量部として、PTFE含量で0.5重量部未満が望ましい。したがって、例えばメタブレンA−3800の場合、100重量部中にPTFEを50重量部含む為、難燃性樹脂組成物全体を100重量部としてA−3800は1重量部まで添加することができる。
【0018】
本発明の難燃性樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限り、さらに顔料、熱安定化剤、酸化防止剤、無機充填剤、植物繊維、耐候剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等を添加することができる。
本発明の難燃性樹脂組成物からなる成形品は、所望の形状に成形することができる。成形方法は特に限定されないが、例としては、押出成形、射出成形などを使用することができる。また、本発明の成形品の好ましい使用例としては、複写機の筐体及び内部部品、プリンターの筐体及び内部部品、複写機及びレーザービームプリンターのトナーカートリッジ部品、ファクシミリの筐体及び内部部品、カメラ部品、パソコン筐体及び内部部品、テレビ筐体及び内部部品などが挙げられる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
(ポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレートの合成)
窒素導入管、分留管-冷却管、SUS製撹拌羽を取り付けた10LのSUS製セパラブルフラスコを用意した。このセパラブルフラスコに、2,5−フランジカルボン酸を2300g(14.7mol)とエチレングリコール2758g(44.2mol)を測り取った。続いて、触媒としてチタニウムブトキシドを4.2g(12.3mmol)、モノブチルスズオキシドを4.1g(19.6mmol)測り取った。
【0020】
窒素を導入しながら撹拌を開始すると同時に、マントルヒーターの電源を入れ内容物を150℃まで昇温させた。内温が150℃に達したあたりから縮合反応にともなう副生水の流出が始まる。内温160℃、165℃で各1時間、170℃、175℃で各0.5時間、210℃で2時間反応させると内容物は透明になった。水の留出が衰えたところで、反応系を真空ポンプにつないで減圧し、約2時間でフルバキューム(133Pa以下)とした。真空を窒素で一度開放し、チタニウムブトキシドを2.1g(6.2mmol)、モノブチルスズオキシドを2.1g(10.1mmol)を追加した。その後、再び減圧を開始し、約30分かけてフルバキューム(133Pa以下)とした。以後、減圧下、230℃で14時間反応を続けた。
こうして得られたポリエチレン−2,5−フランジカルボキシレート(以下、PEF)はゲル浸透クロマトグラフィーで測定した数平均分子量が約63000であった。
得られた樹脂を粉砕してペレット状にし、以下の実施例に使用した。
【0021】
(実施例1〜3、比較例1〜5)
上記の方法で得られたPEFを120℃で6時間真空乾燥させた。また、芳香族ポリカーボネート樹脂のペレットを120℃で6時間熱風乾燥させた。
上記のPEF、芳香族ポリカーボネート、及び表1または表2に示した配合剤を、表1または表2に示した質量比になるよう秤量し、混合した。その後、二軸押出機(ラボプラストミル、商品名、(株)東洋精機製作所製)にて、215〜230℃のシリンダー温度で溶融混練を行った。押出機先端から吐出される樹脂をペレット状にカッティングして樹脂のペレットを得た。得られたペレットを90℃で6時間真空乾燥させた後、射出成形機(SE18DU、商品名、住友重機械工業(株)製)を用い、シリンダー温度210〜235℃、金型温度50℃にて、多目的試験片(80mm×10mm×t(厚み)4mm)及び難燃試験用試験片(125mm×12.5mm×t2mm)を成形した。
【0022】
(実施例4〜5)
溶融混練時のシリンダー温度を240〜245℃、成形時のシリンダー温度を260〜310℃とし、それ以外は実施例1〜3と同様の方法で、樹脂の多目的試験片及び難燃試験片を成形した。
【0023】
(比較例6〜9)
溶融混練時のシリンダー温度を200〜210℃、成形時のシリンダー温度を200〜215℃、金型温度25℃とし、それ以外は実施例1〜3と同様の方法で、樹脂の多目的試験片及び難燃試験片を成形した。
表1または表2に示される各材料は以下のものを使用した。
・芳香族ポリカーボネート「パンライト K−1300Y」:商品名、帝人化成(株)製・ホスファゼン系化合物「SPS−100」:商品名、大塚化学(株)製
・ホスファゼン系化合物「FP110」:商品名、伏見製薬(株)製
・リン系難燃剤「PX−200」:商品名、大八化学工業(株)製
・シリコーン・アクリル系コアシェルゴム「メタブレン S−2200」:商品名、三菱レイヨン(株)製
・フッ素系化合物「メタブレン A−3800」:商品名、三菱レイヨン(株)製
・加工安定化剤「IRGANOX B220」:商品名、チバ・ジャパン(株)製
・加工安定化剤「IRGANOX 1010」:商品名、チバ・ジャパン(株)製
【0024】
なお、評価としては、以下の項目について実施した。
(1)難燃性
試験方法:UL94規格準拠V試験(20mm垂直燃焼試験)及び5V試験(125mm垂直燃焼試験)
サンプル形状:難燃試験用試験片(125mm×12.5mm×t2mm)
(2)シャルピー衝撃値
試験方法:JIS K 7111準拠
サンプル形状:多目的試験片(80×10×t4mm)
ノッチ加工:ノッチングツールA−3(商品名、(株)東洋精機製作所製)使用。タイプAノッチ。
測定装置:デジタル衝撃試験機DG−UB(商品名、(株)東洋精機製作所製)
【0025】
(3)荷重たわみ温度
試験方法:JIS K 7191−2準拠
サンプル形状:多目的試験片(80mm×10mm×t4mm)
置き方:フラットワイズ 曲げ応力:1.80MPa
支点間距離:64mm 昇温速度:120℃/h
熱媒体:シリコーンオイル
測定装置:HDT/VSPT試験装置TM−4126(商品名、(株)上島製作所製)(4)曲げ強度、曲げ弾性率
試験方法:JIS K 7171準拠
サンプル形状:多目的試験片(80mm×10mm×t4mm)
測定装置:オートグラフAG−IS(商品名、(株)島津製作所製)
【0026】
実施例1〜5、比較例1〜9の配合比及び、難燃性(5V試験、V試験結果)・シャルピー衝撃値・荷重たわみ温度・曲げ強度・曲げ弾性率の測定結果を表1または表2に示した。
表1から分かるように、PAFと芳香族ポリカーボネートに対し、ホスファゼン、フッ素系化合物を配合した場合には、5V試験合格、シャルピー衝撃値5kJ/m以上の結果が得られている。
一方、表2から分かるように、芳香族ポリカーボネートやホスファゼン化合物を配合しなかった場合、ホスファゼン化合物の代わりにリン系難燃剤を配合した場合、またはフッ素系化合物を配合しなかった場合には、5V試験に合格しない、もしくは5V試験に合格してもシャルピー衝撃値は5kJ/m以上にならない結果となっている。
また、実施例1〜5により、PAFと芳香族ポリカーボネートとの重量比を5/95〜40/60にした場合、難燃性等を向上させることができた。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0029】
環境負荷が小さく、高い耐衝撃性及び難燃性を持つ本発明の難燃性樹脂組成物は、電気・電子機器部品、自動車部品、建築部材等に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるポリアルキレンフランジカルボキシレートと、芳香族ポリカーボネートと、下記式(2)で表されるホスファゼン系化合物と、フッ素系化合物とを含むことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中のm、nは2以上の整数)
【化2】

(式(2)中のnは2以上の整数、R1及びR2は炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基)
【請求項2】
前記ポリアルキレンフランジカルボキシレートと前記芳香族ポリカーボネートとの重量比が5/95〜40/60である請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアルキレンフランジカルボキシレートと前記芳香族ポリカーボネートとの総量を100重量部として、ホスファゼン系化合物の含有量が10〜40重量部であることを特徴とする、請求項1または2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
シリコーン・アクリル系コアシェルゴムを含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2011−132506(P2011−132506A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261832(P2010−261832)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】