説明

電力用高圧コンデンサ素子、および当該素子を用いた電力用高圧コンデンサ

【課題】蒸着金属電極間の放電による蒸着金属が蒸発飛散、蒸着金属電極の周縁部の後退を抑制し、静電容量の変化を小さい電力用高圧フィルムコンデンサを提供する。
【解決手段】幅方向の一方の端縁を端縁絶縁帯とした一対の金属化フィルムを、端縁絶縁帯が互いに幅方向反対側に位置するように対向配置し、各金属化フィルムの長手方向に複数本の第1の絶縁帯を、長手方向に対して交差する方向に複数本の第2の絶縁帯を設け、第1の絶縁帯が重なり合わないように配置して巻回し、一方の金属化フィルムにおいて第1および第2の絶縁帯により形成された島状の蒸着金属電極と、他方の金属化フィルムにおける島状の蒸着金属電極とがいずれか一方の誘電体フィルムを介して対向することにより形成される小コンデンサが直並列接続されて構成され、島状の蒸着金属電極周縁部全ての蒸着金属厚を他の部分の蒸着金属厚よりも厚くしたヘビーエッジ構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高圧、特高圧の電力用、サージ吸収用、接地補償用、フィルタ用などに用いられる電力用高圧コンデンサ素子、および当該素子を用いた電力用高圧コンデンサに関するものである。
【0002】
従来の電力用高圧コンデンサは、誘電体フィルムとして紙または、プラスチックフィルム、あるいは紙とプラスチックフィルムを組み合わせたものを使用し、電極箔としてアルミニウム箔を使用し、前記誘電体フィルムと電極箔を交互に重ね合わせて巻回して、コンデンサ素子を形成し、前記コンデンサ素子を1個または複数個集合して、並列接続または電圧に応じて、直列接続あるいは直並列接続して、必要な耐電圧と静電容量のものを構成していた。また、他の技術として最近ではアルミニウム箔電極の代わりに金属を蒸着した金属化プラスチックフィルムなどを使用して誘電体フィルムを構成していた。
【0003】
コンデンサの誘電体フィルムは、厚さ数μm〜数10μmと薄くかつ面積が大きい。そのために誘電体フィルムはその耐電圧に注意する必要がある。また、誘電体フィルムには欠陥が入りやすく、この欠陥部は面積的には微小であるがコンデンサの設計上においてはこの欠陥部を考慮した設計が必要であった。
【0004】
従来の設計では、薄葉誘電体フィルムを数枚重ね合わせることにより1枚の誘電体フィルムの微小欠陥部を他の誘電体フィルムで吸収する方法がもっぱら採用されてきたが、この方法は薄葉誘電体フィルムを多く重ね合わせる程良好な効果を得ることができるものの、誘電体の重ね合わせ枚数を増すと電極間の厚みが厚くなり、電極の周縁部よりコロナ放電を生じ、電極間の絶縁性の劣化や電極周縁部の劣化など、コンデンサの寿命を短くする欠点があった。
【0005】
また、蒸着金属電極による誘電体フィルム欠陥部周辺の電極金属を絶縁破壊時の放電電流により、蒸発飛散させて、絶縁を回復させる方法もあるが、高圧コンデンサでは絶縁破壊時の電流遮断が困難であることから実用化に到っていなかった。
【0006】
この対策のため、蒸着金属電極を複数個の島状に分割し、島状に分割した蒸着金属電極を直列ならびに並列になるように結線して、外部引出電極であるメタリコン電極に誘電体フィルムの端縁部蒸着金属電極を接続して、網目状の小コンデンサ網を構成し、誘電体フィルムの欠陥部における放電エネルギーを微小化する方法がある。この方法によれば、放電時の破壊部分を小さくできるとともに、もし一部の電極が短絡状態になったとしても、直列に接続された小コンデンサ部の容量を十分小さくしておくことによって、その部分的短絡電流を抑制し、絶縁回復が可能な電流に制限することができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−240336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、このようにしても小コンデンサの電極間の放電が発生した場合、蒸着金属電極が蒸発飛散して電極周縁部が後退し、コンデンサの静電容量が変化してしまう問題があった。
【0009】
本発明の目的は、小コンデンサの電極間に放電が生じた場合にも、蒸着金属電極の蒸発飛散による電極周縁部の後退を抑制して、コンデンサの静電容量変化を小さくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明の電力用高圧コンデンサ素子は、誘電体フィルムの片側の表面に、幅方向の一方の端縁を端縁絶縁帯として残して蒸着金属を形成した一対の金属化フィルムを、前記端縁絶縁帯が互いに幅方向反対側に位置するように対向配置し巻回してなる電力用高圧コンデンサ素子において、それぞれの前記金属化フィルムの長手方向に複数本の第1の絶縁帯を設けると共に、前記長手方向に対して交差する方向に複数本の第2の絶縁帯を設け、前記第1の絶縁帯が重なり合わないように前記一対の金属化フィルムを配置して巻回し、一方の前記金属化フィルムにおいて前記第1の絶縁帯と前記第2の絶縁帯とによって形成された島状の蒸着金属電極と、他方の前記金属化フィルムにおける前記島状の蒸着金属電極とがいずれか一方の前記誘電体フィルムを介して対向することにより形成される小コンデンサが直並列接続されて構成され、前記島状の蒸着金属電極周縁部全ての蒸着金属厚を中央部分の蒸着金属厚よりも厚くしたヘビーエッジ構造を有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、小コンデンサの蒸着金属電極周縁部の蒸着厚を中央部分の蒸着厚より厚くするヘビーエッジ構造とすることで、蒸着金属電極の周縁部に放電が生じて蒸着金属電極の一部が蒸発飛散しても蒸着金属電極の面積の変化が起こりにくいため、コンデンサの静電容量変化を小さくすることができる。
【0012】
また、小コンデンサの蒸着金属電極のうち、電界が集中する周縁部に発生するコロナ放電に対する耐久性を向上でき、電力用高圧コンデンサ素子の動作における信頼性が向上する。さらに、小コンデンサに加えることが可能な許容最大電界強度を向上させることができるので、電力用高圧コンデンサを小形化でき、かつ安価に製造することができる。
【0013】
第2の発明の電力用高圧コンデンサ素子は前記第1の発明において、前記小コンデンサの蓄積エネルギーが、定格電圧のピーク値において0.1J以下であり、かつ前記小コンデンサの定格実効電圧が600VAC以下であることを特徴とする。
【0014】
この第2の発明によれば、例えば1つの小コンデンサに欠陥があって絶縁破壊を起こした場合にも、電荷を放出する時の蓄積エネルギーを0.1J以下としておけば、蒸着金属電極の蒸発飛散部の直径は2mmφ以下に抑制でき、それを超える部分への破壊の波及には到らない。
【0015】
第3の発明の電力用高圧コンデンサ素子は、前記第1または第2の発明において、前記小コンデンサの蒸着金属の抵抗値が、前記蒸着金属電極の周縁部で1〜4Ω/□であり、中央部分で6〜18Ω/□であることを特徴とする。
【0016】
この第3の発明によれば、蒸着金属電極の周縁部の膜抵抗値を1〜4Ω/□の範囲とすることで、隣接する小コンデンサとの間で放電が発生しても蒸着電極の後退を抑えることができる。
【0017】
また、中央部分の蒸着金属の膜抵抗値が18Ω/□を超えると、損失が大きくなるため、熱劣化により信頼性が低下する。逆に、6Ω/□以下の場合は、蒸着金属膜が厚くなるため、絶縁破壊時のエネルギーが大きくなり、金属化フィルムを多層にわたって破壊し、特性が低下するおそれがある。
【0018】
第4の発明は、前記第1〜第3のいずれか1つの発明において、前記蒸着金属電極の周縁部が電極端から幅2〜3mmにわたってヘビーエッジ構造であることを特徴とする。
【0019】
この第4の発明によれば、蒸着金属電極の周縁部におけるヘビーエッジ構造の幅を2〜3mmに設定することで、金属蒸着を安定して行えるとともに、小コンデンサの蒸着金属電極間に放電が生じた場合にも蒸着金属電極の後退を抑えることができる。ヘビーエッジ構造の幅が2mm未満では安定した蒸着が困難であり、また、3mmを超えると絶縁回復効果が損なわれる。
【0020】
第5の発明の電力用高圧コンデンサは前記第1〜第4のいずれか1つの発明である電力用高圧コンデンサ素子を直並列接続したコンデンサユニットを容器に収納し、単独液体絶縁物、混合液体絶縁物、気体絶縁物、固体絶縁物のいずれか一つを含浸・充填したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、小コンデンサの蒸着金属電極周縁部の蒸着厚を中央部分の蒸着厚よりも厚くするヘビーエッジ構造とすることで、電極間に放電が生じて、蒸着金属が飛散した場合にも電極の周縁部の後退を防ぐことができ、コンデンサの静電容量の変化を少なくすることができる。
【0022】
また、小コンデンサの電極のうち電界が集中する電極の周縁部に発生するコロナ放電に対する耐久性を向上でき、電力用高圧コンデンサの動作における信頼性が向上する。
【0023】
さらに、小コンデンサに加えることが可能な許容最大電界強度を向上させることができるので、電力用高圧コンデンサを小形化でき、かつ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態の電力用高圧コンデンサを示す斜視図である。
【図2】図1の電力用高圧コンデンサが備える電力用高圧コンデンサユニットを示す斜視図である。
【図3】(a)は電力用高圧コンデンサ素子の斜視図であり、(b)は巻回された金属化フィルムのA部断面図である。
【図4】(a)は、1対の金属化フィルムの一方の平面図であり、(b)は、そのA−A’方向断面図である。
【図5】(a)は、1対の金属化フィルムのもう一方の平面図であり、(b)は、そのA−A’方向断面図である。
【図6】(a)は、1対の金属化フィルムの蒸着金属電極の位置関係を説明する平面図であり、(b)は、そのA−A’方向断面図である。
【図7】金属化フィルムの表面の蒸着金属電極の断面部分を示す斜視図(模式図)である。
【図8】小コンデンサの電気的接続を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0025】
本発明の実施形態について説明する。
【0026】
図1は、本実施形態の電力用高圧コンデンサ1の外観斜視図である。電力用高圧コンデンサ1は引出電極2、鉄製容器4および電力用高圧コンデンサユニット5を備えている。
【0027】
引出電極2は内部に収納される電力用高圧コンデンサユニット5の電極を外部に引出すためのもので碍子3によって鉄製容器4と電気的に絶縁されている。3つの引出電極2は外部回路のそれぞれの相に接続される。
【0028】
鉄製容器4内の電力用高圧コンデンサユニット5は電気的に絶縁された状態で、鉄製容器4に対して機械的に固定され、鉄製容器4と電力用高圧コンデンサユニット5の間の空間には気体絶縁物が充填されている。
【0029】
図2は、電力用高圧コンデンサユニット5の斜視図である。電力用高圧コンデンサユニット5は電力用高圧コンデンサユニット5全体を固定するための締付板9、電力用高圧コンデンサ素子6および相間の絶縁のための相間絶縁板8を備えている。
【0030】
本実施形態において電力用高圧コンデンサユニット5は12個の電力用高圧コンデンサ素子6から構成されており、各相間の両端に2個、中央部に4個ずつ2段の電力用高圧コンデンサ素子6が並列接続される構成となっている。電力用高圧コンデンサ素子6の両端面(図2の奥行方向)にはメタリコン電極7が形成されている。
【0031】
図3(a)は電力用高圧コンデンサ素子6の斜視図である。図3(b)は図3(a)の点線で示したA部分における巻回された一対の金属化フィルムの断面図である。
【0032】
この電力用高圧コンデンサ素子6は、図3(b)に示すようにポリプロピレンからなる一方の誘電体フィルムD1にアルミニウムを電極金属M1として蒸着した金属化フィルムS1に、ポリプロピレンからなるもう一方の誘電体フィルムD2にアルミニウムを電極金属M2として蒸着した金属化フィルムS2と、蒸着金属M1、M2がそれぞれ金属化フィルムS1、S2に対して同じ方向に位置するようにして重ね合わせた金属化フィルムを巻回して偏平な形状とし、金属化フィルムSの幅方向の両端面に金属を溶射してメタリコン電極7を形成している。
【0033】
図4(a)、(b)を参照しつつ、電力用高圧コンデンサ素子6の巻回された一方の金属化フィルムS1について説明する。なお、図中左右方向がフィルムの長手方向、上下方向が幅方向を示す。
【0034】
図4(a)、(b)に示すように、金属化フィルムS1には、誘電体フィルムD1に蒸着された複数の蒸着金属電極P1(図中ハッチングされた領域)と誘電体フィルムD1における金属が蒸着されていない領域である絶縁帯I1とが形成されている。
【0035】
絶縁帯I1は、長手方向に延在する複数の絶縁帯I11(第1の絶縁帯)と、上下方向に延在する複数の絶縁帯I12(第2の絶縁帯)と、誘電体フィルムD1の図中上端において長手方向に延在するように形成された端縁絶縁帯I13とを含んでいる。複数の絶縁帯I11と複数の絶縁帯I12が互いに直交するように配置されている。
【0036】
複数の蒸着金属電極P1は、矩形状を有していると共に長手方向及び幅方向に沿ってマトリックス状に配置されている。誘電体フィルムD1の図中下端に形成された蒸着金属電極P1には、電力用高圧コンデンサ素子6の一方の電極端子であるメタリコン電極7aが電気的に接続される。
【0037】
図5(a)、(b)を参照しつつ、電力用高圧コンデンサ素子6の巻回されたもう一方の金属化フィルムS1について説明する。なお、図中左右方向がフィルムの長手方向、上下方向が幅方向を示す。
【0038】
図5(a)、(b)に示すように、金属化フィルムS2には、誘電体フィルムD2に蒸着された複数の蒸着金属電極P2(図中ハッチングされた領域)と誘電体フィルムD2における金属が蒸着されていない領域である絶縁帯I2とが形成されている。
【0039】
絶縁帯I2は、長手方向に延在する複数の絶縁帯I21(第1の絶縁帯)と、上下方向に延在する複数の絶縁帯I22(第2の絶縁帯)と、誘電体フィルムD2の図中下端において長手方向に延在するように形成された端縁絶縁帯I23とを含んでいる。複数の絶縁帯I21と複数の絶縁帯I22が互いに直交するように配置されている。
【0040】
複数の蒸着金属電極P2は、矩形状を有していると共に長手方向及び幅方向に沿ってマトリックス状に配置されている。誘電体フィルムD2の図中上端に形成された蒸着金属電極P2には、電力用高圧コンデンサ素子6の一方の電極端子であるメタリコン電極7bが電気的に接続される。
【0041】
図6(a)、(b)に示すように、端縁絶縁帯I13が上端に、端縁絶縁帯I23が下端に配置されるように金属化フィルムS1、S2を重ね合わせた状態で巻回することで電力用高圧コンデンサ素子6を作製する。
【0042】
図6(a)、(b)に示すように金属化フィルムS1の蒸着金属電極P1と金属化フィルムS2の蒸着金属電極P2とは中心がずれて配置されており、一方の金属化フィルムSの隣り合う4つの蒸着金属電極Pの中心(第1の絶縁帯と第2の絶縁帯との交点)にもう一方の金属化フィルムSの蒸着金属電極Pが位置するようになっている。
【0043】
このように蒸着金属電極Pが配置されることで、一方の金属化フィルムSの1つの蒸着金属電極Pにはもう一方の金属化フィルムSの4つの蒸着金属電極Pが対向しており、4つの小コンデンサCが形成されている。
【0044】
図6(a)では例えば、金属化フィルムS1の蒸着金属電極P11と金属化フィルムS2の蒸着金属電極P21、P22、P23およびP24とが対向してそれぞれ小コンデンサを形成している。
【0045】
そして、本実施形態においては、形成される小コンデンサの蒸着電極金属の対向面積は全て同じとなっている。
【0046】
図7は金属化フィルムSの片面の表面に形成された蒸着金属電極Pの部分断面斜視図(模式図)である。蒸着金属電極Pは、蒸着金属電極Pの中央部に形成された矩形状の島状電極部Pc(薄肉部)と、島状電極部Pcの外形に沿って蒸着金属電極Pの周縁部に形成された島状電極部Pcよりも蒸着金属厚が厚い周縁電極部Pe(ヘビーエッジ部)とを含んでいる。
【0047】
本実施形態ではヘビーエッジ部Peを2段階の金属蒸着により製造した。すなわち、マスクを使用して金属を蒸着して蒸着金属電極Pを形成し、さらに他のマスクを使用して金属を蒸着してヘビーエッジ部Peを形成している。蒸着金属電極Pの内2段階目にマスクによって金属が蒸着されなかった部分が薄肉部Pcとなる。
【0048】
図8は図6に示した一対の金属化フィルムSによって形成されている小コンデンサCの電気的接続を示すものである。
【0049】
図中下端の線は金属化フィルムS1のメタリコン電極7aを示し、上端の線は金属化フィルムS2のメタリコン電極7bを示す。
【0050】
実施例1においてヘビーエッジ部Peは幅2〜3mmにわたって形成されており、薄肉部Pcの蒸着金属のシート抵抗値は6〜18Ω/□、ヘビーエッジ部Peの蒸着金属のシート抵抗値は1〜4Ω/□となっている。
【0051】
実施例1では、例えば1つの小コンデンサCに欠陥があって絶縁破壊を起こした場合にも、電荷を放出する時の蓄積エネルギーを0.1J以下としており、蒸着金属電極Pの蒸発飛散部の直径は2mmφ以下に抑制でき、それを超える部分への破壊の波及には到らない。
【0052】
また、ヘビーエッジ部Peの膜抵抗値を1〜4Ω/□の範囲とすることで、隣接する小コンデンサとの間で放電が発生しても蒸着金属の後退を抑えることができる。
【0053】
さらに、中央部分の蒸着金属の膜抵抗値が18Ω/□を超えると、損失が大きくなるため、熱劣化により信頼性が低下する。逆に、6Ω/□以下の場合は、蒸着金属膜が厚くなるため、絶縁破壊時のエネルギーが大きくなり、金属化フィルムを多層にわたって破壊し、特性が低下するおそれがある。
【0054】
ヘビーエッジ部Peにおけるヘビーエッジ構造の幅を2〜3mmに設定することで、金属蒸着を安定して行えるとともに、小コンデンサCの蒸着金属電極間に放電が生じた場合にも蒸着金属電極Pの後退を抑えることができる。ヘビーエッジ構造の幅が2mm未満では安定した蒸着が困難であり、また、3mmを超えると絶縁回復効果が損なわれる。
【0055】
実施例1では、このような小コンデンサ網を有する1個のコンデンサ素子6の定格は6600VAC、2.03μF、8.34kVAで、このコンデンサ素子6を12個並列に集合してコンデンサユニット5を構成している。1個のコンデンサ素子6は約1万個の小コンデンサ網からなり、これを12個集合して合計約12万個の小コンデンサ網で構成されたコンデンサユニット5を形成し、これを鉄製容器4に収納して真空乾燥の後、気体絶縁物を充填し、本実施形態の電力用高圧コンデンサを製作した。
【0056】
上記コンデンサは使用中に安定した自己回復性を得るとともに、連続耐用性試験において試験電圧8840VAC(定格電圧×1.34倍)、試験時間1200h後の容量変化率は、初期値に対して−0.48%と、極めて良好な電気特性を示した。
【0057】
(比較例1)
次に、本発明の効果を示すために小コンデンサの蒸着金属電極周縁部の蒸着金属厚が他の部分の蒸着金属厚と同じである他は本実施形態と同じ定格で、同じ製造方法によって作成した比較例1の連続耐用性試験の結果を示すと、試験電圧8840VAC(定格電圧×1.34倍)、試験時間1200h後の容量変化率は初期値に対して−0.98%であった。
【実施例2】
【0058】
また、実施例2として前記金属化フィルムの蒸着電極金属を亜鉛とし、前記充填材として植物油と芳香族炭化水素の混合物からなる混合液体絶縁物を用いて、本実施形態と同じ定格、同じ製法で変更形態の電力用高圧コンデンサを製作した。
上記電力用高圧コンデンサは使用中に安定した自己回復性を得るとともに、連続耐用性試験において試験電圧8840VAC(定格電圧×1.34倍)、試験時間3000h後の容量変化率は初期値に対して−0.43%と、極めて良好な電気特性を示した。
【0059】
(比較例2)
なお、実施例2との比較のため、小コンデンサの電極周縁部の蒸着金属厚が他の部分の蒸着金属厚と同じである他は変更形態と同じ定格で、同じ製造方法によって作成した比較例2の連続耐用性試験の結果を示すと、試験電圧8840VAC(定格電圧×1.34倍)、試験時間3000h後の容量変化率は初期値に対して−0.86%であった。
【0060】
このように実施例1および実施例2の電力用高圧コンデンサは、それぞれ比較例1および比較例2の電力用高圧コンデンサと比較して連続耐用性試験において容量変化率が優れた結果を示した。
【0061】
また、実施例1および実施例2では誘電体フィルムDの材質はいずれもポリプロピレンフィルムとしたが、ポリエチレンなどの他のポリオレフィンフィルムでもよく、またこれらの誘電体フィルムを有する金属化フィルムの相互間にポリオレフィンフィルムを介挿配置しても同様に良好な結果が得られた。
【0062】
また、含浸・充填する絶縁物についても前記のほか、エポキシ樹脂などの固体絶縁物、鉱物油、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどの芳香族炭化水素系絶縁油、なたね油、ヒマシ油、大豆油などの植物油、フタル酸エステル、セバチン酸エステルなどのエステル系絶縁油、シリコーン油などの絶縁油、またはこれらの混合液体絶縁物によっても良好なコンデンサの電気特性を得ることができた。
【0063】
以上、本発明の実施形態および変更形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施形態に記載された、作用および効果は、本発明から生じる最も好適な作用および効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用および効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0064】
例えば、金属化フィルムに設けられた絶縁帯は本実施形態のように直線でなくてもよく、長さ方向に形成された曲線、屈曲線等であってもよい。
【0065】
また、誘電体フィルムに蒸着する金属も本実施形態および変更形態のようにアルミニウム、亜鉛に限らず、導電性を有する他の金属を使用することができる。
【0066】
また、蒸着金属電極の面積も本実施形態および変更形態では全て同じであるが、蒸着金属電極の電位に応じて高電位部ほど蒸着金属電極の面積を小さくするなど、蒸着金属電極の面積を変化させることもできる。
【符号の説明】
【0067】
1 電力用高圧コンデンサ
2 引出電極
3 碍子
4 鉄製容器
5 電力用高圧コンデンサユニット
6 電力用高圧コンデンサ素子
7、7a、7b メタリコン電極
8 相間絶縁板
9 締付板
C 小コンデンサ
D、D1、D2 誘電体フィルム
I1、I11、I12、I2、I21、I22 絶縁帯
I13、I23 端縁絶縁帯
M1、M2 蒸着金属
P、P1、P11、P2、P21、P22、P23、P24 蒸着金属電極
Pc 島状電極部(薄肉部)
Pe 周縁電極部(ヘビーエッジ部)
S1、S2 金属化フィルム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルムの片側の表面に、幅方向の一方の端縁を端縁絶縁帯として残して蒸着金属を形成した一対の金属化フィルムを、前記端縁絶縁帯が互いに幅方向反対側に位置するように対向配置し巻回してなる電力用高圧コンデンサ素子において、
それぞれの前記金属化フィルムの長手方向に複数本の第1の絶縁帯を設けると共に、前記長手方向に対して交差する方向に複数本の第2の絶縁帯を設け、前記第1の絶縁帯が重なり合わないように前記一対の金属化フィルムを配置して巻回し、
一方の前記金属化フィルムにおいて前記第1の絶縁帯と前記第2の絶縁帯とによって形成された島状の蒸着金属電極と、他方の前記金属化フィルムにおける前記島状の蒸着金属電極とがいずれか一方の前記誘電体フィルムを介して対向することにより形成される小コンデンサが直並列接続されて構成され、
前記島状の蒸着金属電極周縁部全ての蒸着金属厚を中央部分の蒸着金属厚よりも厚くしたヘビーエッジ構造を有することを特徴とする電力用高圧コンデンサ素子。
【請求項2】
前記小コンデンサの蓄積エネルギーが、定格電圧のピーク値において0.1J以下であり、かつ前記小コンデンサの定格実効電圧が600VAC以下であることを特徴とする請求項1記載の電力用高圧コンデンサ素子。
【請求項3】
前記小コンデンサの蒸着金属の抵抗値が、前記蒸着金属電極の周縁部で1〜4Ω/□であり、その他の部分で6〜18Ω/□であることを特徴とする請求項1または2に記載の電力用高圧コンデンサ素子。
【請求項4】
前記蒸着金属電極の周縁部が電極端から幅2〜3mmにわたってヘビーエッジ構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電力用高圧コンデンサ素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電力用高圧コンデンサ素子を直並列接続したコンデンサユニットを容器に収納し、単独液体絶縁物、混合液体絶縁物、気体絶縁物、固体絶縁物のいずれか一つを含浸・充填したことを特徴とする電力用高圧コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−191045(P2012−191045A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54235(P2011−54235)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】