説明

電動ポンプの吐出流量制御装置

【課題】直流モータで駆動される電動ポンプの吐出流量を、エアの吸い込み時も自動的に、目標通りの流量に補償し得るような回転速度制御を提案する。
【解決手段】t1にクラッチの締結開始でクラッチ入力トルクTcinが立ち上がり、クラッチの発熱でt2に、その冷却が必要になって、ポンプ作動要否信号SopがOFFからONになり、t3に、クラッチの冷却が完了し、信号SopがONからOFFになった場合において、Sop=ONによるポンプの作動中、エアの吸い込みでポンプ回転速度Nopが実線で示すように高くなる場合、この時のNopと、目標ポンプ吐出流量補償用目標ポンプ回転速度tNopとの偏差に応じた電圧補正量ΔVe_0を求め、初期要求電圧Ve_0よりもΔVe_0だけ高い実線図示の電圧Ve(ΔVe_0相当分だけ大きな電力)でポンプを駆動する。これによりポンプ吐出流量Qを実線図示の通り目標ポンプ吐出流量Q1る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスミッションの発進クラッチに、潤滑を含む冷却用のオイルを適宜供給する等のために用いる電動ポンプの吐出流量制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランスミッションは、各変速段で動力伝達を司るよう締結される発進クラッチを具え、この発進クラッチは、アクセル操作による加速要求があったり、湾曲登坂路などで変速段を切り替えながらの低速走行を繰り返す場合に、クラッチ伝達トルクの増大や繰り返し変化に伴って負荷が増し、発熱量が多くなる。
【0003】
かように発進クラッチの発熱量が多くなる場合、または、そのために発進クラッチが温度上昇してしまった場合、該クラッチが焼損するなどの問題を生じないよう、当該クラッチを冷却する必要がある。
【0004】
この冷却に電動オイルポンプからの吐出オイルを用いる場合、例えば特許文献1に記載のごとく、クラッチの温度上昇でその冷却が必要なとき、オイルポンプ吐出流量を増大させるべく、一時的に電動オイルポンプの回転速度を高く設定するのが普通である。
【0005】
つまり、電動オイルポンプを回転速度制御して、その吐出流量を上記のクラッチ発熱量やクラッチ温度に応じた要求通りのものとなし、クラッチの過熱に関する問題解決を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−198438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ポンプを回転速度制御して、目標吐出流量を実現する従来技術では、目標吐出流量の急増などでポンプがエアを吸い込むような場合に、ポンプが容積効率を低下されて目標吐出流量を実現し得ず、クラッチが冷却不足になるという問題を生ずる。
【0008】
かといって電動ポンプの回転速度制御に際し、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下を見込んで、その分だけポンプの回転速度を予め嵩上げして吐出流量制御に用いるのでは、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下を生じない場合に、ポンプ吐出流量が多すぎることとなり、電動ポンプの消費電力が無駄に多くなって、電費の悪化を招くという問題が不可避である。
また当該対策では更に、電動ポンプの強度要求が高くなると共に、これによるポンプ摺動抵抗の増大でポンプ駆動電力が多くなり、コスト上の不利益も避けられない。
【0009】
一方で、電動ポンプが、一定電力に応動する直流モータにより駆動されて目標吐出流量を実現するものである場合、ポンプの制御にインバータが必要でなくてコスト的に有利であることから、直流モータ駆動式の電動ポンプを用いて目標吐出流量を実現するという考え方がある。
【0010】
本発明は、このような考え方に基づき直流モータ駆動式の電動ポンプを用いる場合において、この種電動ポンプがエアの吸い込み等によりポンプ容積効率を低下された場合もポンプ吐出流量が補償され、上記の諸問題が発生することのないようにしたポンプ吐出流量制御装置を提供することを目的とする。
更に付言すると本発明は、上記した諸問題の原因であるエアの吸い込み等によるポンプ容積効率の低下が、ポンプ駆動負荷の低下によりポンプ回転速度の変化となって現れることから、このポンプ回転速度変化に基づき上記一定電力を補正して、目標吐出流量を補償可能にすることにより、上記の諸問題が発生することのないようにした電動ポンプの吐出流量制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のため、本発明による電動ポンプの吐出流量制御装置は、以下のごとくにこれを構成する。
先ず、本発明の前提となる電動ポンプを説明するに、これは上記した通り、一定電力に応動する直流モータにより駆動されて、目標吐出流量を実現するものである。
【0012】
本発明のポンプ吐出流量制御装置は、上記型式の電動ポンプに対し、以下のような目標ポンプ回転速度演算手段と、ポンプ回転速度情報検出手段と、ポンプ回転速度偏差演算手段と、ポンプ駆動電力補正手段とを設けた構成に特徴づけられる。
【0013】
目標ポンプ回転速度演算手段は、上記一定電力での駆動時に上記目標吐出流量を実現するための電動ポンプの目標ポンプ回転速度を演算するものであり、また、
ポンプ回転速度情報検出手段は、電動ポンプの実ポンプ回転速度に係わるポンプ回転速度情報を検出するものである。
【0014】
ポンプ回転速度偏差演算手段は、上記の目標ポンプ回転速度演算手段およびポンプ回転速度情報検出手段からの信号を基に、上記目標ポンプ回転速度に対する実ポンプ回転速度のポンプ回転速度偏差を演算し、
ポンプ駆動電力補正手段は、この演算したポンプ回転速度偏差を基に上記一定電力を、実ポンプ回転速度が目標ポンプ回転速度に向かうよう補正するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明による電動ポンプの吐出流量制御装置にあっては、
電動ポンプの目標ポンプ回転速度に対する実ポンプ回転速度のポンプ回転速度偏差を基に実ポンプ回転速度が目標ポンプ回転速度に向かうよう、電動ポンプの駆動に供する一定電力を補正するため、
エアの吸い込み等によるポンプ容積効率の低下で目標吐出流量を実現し得なくなると、当該ポンプ容積効率の低下に伴うポンプ駆動力の低下に応じ変化した実ポンプ回転速度を、目標吐出流量が補償される目標ポンプ回転速度に向かわせるよう上記一定のポンプ駆動電力が補正されることとなる。
【0016】
当該一定のポンプ駆動電力の補正で、上記のポンプ回転速度偏差によるポンプ吐出流量変化を相殺して、目標吐出流量を補償することができ、
目標吐出流量の急増などでポンプがエアを吸い込んだ場合のように、ポンプが容積効率を低下された場合においても、目標吐出流量による冷却などの所定機能が得られなくなるということがない。
【0017】
また、ポンプ容積効率の低下を見込んで、その分だけ一定のポンプ駆動電力を常時嵩上げする対策に依ることなく上記の作用効果が得られるため、
ポンプ容積効率の低下を生じない場合に、ポンプ吐出流量が多すぎて、電動ポンプが無駄に電力を消費するようなことがなく、電費の悪化を招くという問題を生ずることもない。
【0018】
更に、一定のポンプ駆動電力を常時嵩上げする対策を採用した場合のように、電動ポンプの強度要求が高くなることがなく、電動ポンプの高強度によるポンプ摺動抵抗の増大でポンプ駆動電力が多くなって、コスト上の不利益をもたらすこともない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例になる電動ポンプの吐出流量制御装置を示す機能別ブロック線図である。
【図2】図1のポンプ吐出流量制御装置における電圧補正量決定部を示す機能別ブロック線図である。
【図3】図2における目標動作点算出部で求めるポンプ動作点を説明するのに用いた、ポンプ回転速度と、ポンプ駆動トルクと、これらポンプ回転速度およびポンプ駆動トルクの組み合わせであるポンプ動作点を実現するポンプ駆動電力との関係を示す特性線図である。
【図4】図1における電動オイルポンプのポンプ回転速度と、ポンプ駆動トルクとの関係が、油温によって異なることを示す特性線図である。
【図5】図2における電圧補正量算出部で電圧補正量を求める時に用いるマップを示すマップ図である。
【図6】図1,2に示すポンプ吐出流量制御装置をマイクロコンピュータで構成した場合の制御プログラムを示すフローチャートである。
【図7】従来のポンプ吐出流量制御装置による動作を示すタイムチャートである。
【図8】図1,2に示すポンプ吐出流量制御装置による動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<実施例の構成>
図1は、本発明の一実施例になる電動ポンプの吐出流量制御装置を示す機能別ブロック線図で、この吐出流量制御装置は、トランスミッション1内における図示せざる発進クラッチに対し、潤滑を含む冷却用のオイルを必要に応じて適宜供給するための電動オイルポンプ2(本発明における電動ポンプに相当)を吐出流量制御するものとする。
なお電動オイルポンプ2は、一定電力に応動する直流モータにより駆動されて、目標吐出流量を実現する、所謂インバータレスモータ駆動式のポンプである。
【0021】
トランスミッション1内における図示せざる発進クラッチは、各変速段で動力伝達を司るよう締結されるクラッチで、この発進クラッチは、アクセル操作による加速要求があったり、湾曲登坂路などで変速段を切り替えながらの低速走行を繰り返す場合に、クラッチ伝達トルクの増大や繰り返し変化に伴って負荷が増大し、発熱量が多くなる。
【0022】
そして、かように発進クラッチの発熱量が多くなる場合、または、そのために発進クラッチが温度上昇してしまった場合、該クラッチが焼損するなどの問題を生ずることのないよう、当該クラッチは冷却する必要がある。
この場合、電動オイルポンプ2を作動させて、これからの吐出オイルを発進クラッチに供給し、同時に電動オイルポンプ2を、その吐出流量が発進クラッチの冷却必要油量に対応したものとなるよう、一定の直流電力により駆動制御する。
【0023】
そのため図1に示す電動オイルポンプ2の吐出流量制御装置は、オイルポンプ作動要否判定部10と、電圧補正量決定部20と、電動オイルポンプ2の回転速度Nopを検出するポンプ回転速度センサ30(本発明におけるポンプ回転速度情報検出手段に相当)と、ポンプ駆動電力補正部40とにより構成し、これらを以下に順次詳説する。
【0024】
オイルポンプ作動要否判定部10は、トランスミッション1の油温TEMPoil、発進クラッチの入力トルクTcin、発進クラッチの差回転であるクラッチスリップ量ΔNcl、路面勾配θ、および発進クラッチの温度TEMPclを基に、発進クラッチを冷却すべきか否かをチェックして、電動オイルポンプ2を作動させるべきか否かを判定する。
【0025】
クラッチ温度TEMPclや油温TEMPoilが、発進クラッチの冷却を必要とする高温であれば、発進クラッチを冷却すべきであるから、電動オイルポンプ2の作動を指令すべく、オイルポンプ作動要否判定部10はオイルポンプ作動要否信号SopをSop=ONとなす。
クラッチ温度TEMPclや油温TEMPoilが、発進クラッチの冷却を必要としない低温であれば、発進クラッチを冷却する必要がないから、電動オイルポンプ2の非作動を指令すべく、オイルポンプ作動要否判定部10はオイルポンプ作動要否信号SopをSop=OFFとなす。
【0026】
オイルポンプ作動要否判定部10は更に、クラッチ入力トルクTcin、クラッチスリップ量ΔNcl、および路面勾配θから、発進クラッチが近々冷却の必要な高温になるか否かを予測し、
発進クラッチが近々冷却の必要な高温になると予測される条件下であれば、発進クラッチを冷却すべきであるから、電動オイルポンプ2の作動を指令すべく、オイルポンプ作動要否信号SopをSop=ONとなし、
発進クラッチが近々冷却の必要な高温になることはないと予測される条件下であれば、 発進クラッチを冷却する必要がないから、電動オイルポンプ2の非作動を指令すべく、オイルポンプ作動要否信号SopをSop=OFFとなす。
【0027】
なおオイルポンプ作動要否判定部10は、油温TEMPoil、クラッチ入力トルクTcin、クラッチスリップ量ΔNcl、路面勾配θ、および発進クラッチ温度TEMPclのいずれか1つのみに基づいて発進クラッチを冷却すべきか否かをチェックして、電動オイルポンプ2を作動させるべきか否かを判定してもよいし、これら入力情報の任意のものを組み合わせて当該判定を行うようにしてもよい。
【0028】
電動オイルポンプ2は、上記のオイルポンプ作動要否信号Sopにより作動、非作動を制御され、電動オイルポンプ2は、Sop=ONのとき作動され、Sop=OFFのとき非作動にされる。
【0029】
電圧補正量決定部20は、電動オイルポンプ2がエアの吸い込みなどにより容積効率を低下されて目標吐出流量を実現し得なくなる場合において、この目標吐出流量を補償するのに必要な、上記一定直流電力の補正量を実現するための電圧補正量ΔVeを求めるもので、詳しくは図2に基づき後述するごときものとする。
【0030】
ポンプ駆動電力補正部40は、図示せざる直流電源の電力をDC/DCコンバータにより所定電圧に変換してポンプ駆動電力Pw_1となし、これを電動オイルポンプ2に供給することで当該ポンプ2の駆動に供するが、この際ポンプ駆動電力補正部40はポンプ駆動電力Pw_1の電圧を、決定部20で求めた電圧補正量ΔVeだけ補正して、電動オイルポンプ2への供給電力Pw_1を電圧補正量ΔVeによって補正する。
【0031】
電圧補正量決定部20を図2に基づき詳述するに、この電圧補正量決定部20は、目標動作点算出部21と、減算器22と、電圧補正量算出部23と、電圧補正量選択部24とで構成する。
【0032】
目標動作点算出部21は、図1のポンプ駆動電力補正部40で補正する前における補正前ポンプ供給電力Pw_0と、電動オイルポンプ2が送給するオイルの油温TEMPoilとから、目標ポンプ吐出流量を実現する電動オイルポンプ2の目標動作点(ポンプ回転速度Nopおよびポンプ駆動トルクTopの組み合わせ)を演算し、このポンプ目標動作点から、前記一定電力での駆動下で目標ポンプ吐出流量を実現するための目標ポンプ回転速度tNopを求める。
【0033】
ここで上記の補正前ポンプ供給電力Pw_0は、図1のポンプ駆動電力補正部40において設定する電動オイルポンプ2の初期要求電力であり、燃費要求や補機類作動状態などのシステム要求によって決まるもので、電動オイルポンプ2からの要求によって決まるものではない。
【0034】
次に電動オイルポンプ2の上記目標動作点(ポンプ回転速度Nopおよびポンプ駆動トルクTopの組み合わせ)について付言する。
【0035】
電動オイルポンプ2は、油温TEMPoilおよびポンプ回転速度Nopに応じて吐出流量Qopが決まり、この吐出流量Qopに応じてポンプ吐出回路負荷(ポンプ駆動トルクTop)が決まるため、
電動オイルポンプ2を前記した通り一定の直流電力(電圧が決まれば電流が決まる)により駆動する場合、電動オイルポンプ2の動作点(ポンプ回転速度Nopおよびポンプ駆動トルクTopの組み合わせ)は油温TEMPoilごとに、図3の例示に基づき以下に説明するように決まる。
【0036】
図3は、油温TEMPoilが或る値である場合につき、電動オイルポンプ2の回転速度Nopおよび駆動トルクTopの組み合わせ(ポンプ動作点)と、これらポンプ動作点を実現するのに必要なポンプ駆動電力(等ポンプ駆動電力線を太い破線で示す)との関係を、ポンプ回転速度Nopおよびポンプ駆動トルクTopの二次元座標上に示したものである。
【0037】
そして、ポンプ回転速度Nop(吐出流量Qop)とポンプ駆動トルクTop(ポンプ吐出回路負荷)との関係は、同じポンプ回転速度Nop(吐出流量Qop)の基でも、油温TEMPoil(オイル粘度)に応じてポンプ吐出回路負荷(ポンプ駆動トルクTop)が異なることから、図4に細い実線で示す通り油温TEMPoilに応じて異なる。
従って図3のような特性図が油温TEMPoilごとに存在し、電動オイルポンプ2の動作点(ポンプ回転速度Nopおよびポンプ駆動トルクTopの組み合わせ)は、油温TEMPoilごとに異なる。
【0038】
かかる図3上のポンプ動作点A1において、一定電力供給下で目標ポンプ吐出流量が実現されている電動オイルポンプ2の動作中、このポンプ2がエアの吸い込みなどにより容積効率を低下されると、
ポンプ容積の効率低下分だけポンプ吐出流量が低下して、ポンプ吐出回路負荷(ポンプ駆動負荷)が小さくなるため、ポンプ駆動トルクTopの低下によりポンプ動作点がA1から等ポンプ駆動電力線上を例えばA2(低負荷、高回転側)へ移動する。
【0039】
ところで目標ポンプ吐出流量を補償するためには、ポンプ吐出流量が動作点A1の場合と同じポンプ吐出回路負荷(ポンプ駆動負荷)、つまり動作点A1と同じポンプ駆動トルクTopを生起させる量である必要がある。
【0040】
従って、目標ポンプ吐出流量を実現する電動オイルポンプ2の目標動作点は、図3にA3で示すごとく、ポンプ駆動トルクTopが動作点A1と同じで、ポンプ回転数Nopが動作点A1は勿論、動作点A2よりも更に高い動作点となり、この目標動作点A3は、図3にΔPwで示すポンプ駆動電力の増大によって実現可能である。
本実施例においては、当該ポンプ駆動電力の増大ΔPwを、図1のポンプ駆動電力補正部40につき前述したポンプ駆動電力Pw_1の電圧補正ΔVeによって実現することとし、そのための電圧補正量ΔVeを以下のように演算する。
【0041】
つまり図2の目標動作点算出部21は更に、上記のようにして求めた目標動作点A3から、この目標動作点A3における、図3に例示した目標ポンプ回転速度tNopを求める。
従って目標動作点算出部21は、本発明における目標ポンプ回転速度演算手段に相当する。
【0042】
減算器22では、エアの吸い込みなどによる容積効率の低下で高くなった実ポンプ回転速度Nop(図3の場合、動作点A2のポンプ回転速度)から、目標ポンプ回転速度tNop(図3の場合、動作点A3のポンプ回転速度)を差し引く演算により、実ポンプ回転速度Nopを目標ポンプ回転速度tNopに一致させて目標動作点A3を実現するのに必要なポンプ回転速度変化量であるポンプ回転速度偏差ΔNop(図3参照)を求める。
従って減算器22は、本発明におけるポンプ回転速度偏差演算手段に相当する。
【0043】
電圧補正量算出部23は、ポンプ回転速度偏差ΔNopおよび油温TEMPoilから、現在の油温用の図5に例示したマップを基に、目標ポンプ吐出流量を実現する目標動作点(図3ではA3)への移行を可能にするための電力補正量である電圧補正量ΔVe_0を求める。
従って電圧補正量算出部23は、本発明におけるポンプ駆動電力補正手段に相当する。
【0044】
この電圧補正量ΔVe_0は図5に示すとおり、ポンプ回転速度偏差ΔNopが大きいほど、大きくなるよう設定する。
その理由は、ポンプ回転速度偏差ΔNopが大きいほどポンプ容積効率の低下が大きくて、ポンプ回転速度が高くなっているため、ポンプ回転速度を一層高くなるよう補正する必要があるためである。
【0045】
また電圧補正量ΔVe_0は図示しなかったが、油温TEMPoilが低いほど、大きくなるよう設定する。
その理由は、油温TEMPoilが低いほど、図4につき前述した通り吐出回路負荷が高くなって、ポンプ駆動トルクが大きくなるためである。
【0046】
電圧補正量選択部24は、前記したオイルポンプ作動要否信号Sop=ON(電動オイルポンプ2の作動要求を示す信号)またはオイルポンプ作動要否信号Sop=OFF(電動オイルポンプ2の作動不要を示す信号)に応答し、算出部23からの電圧補正量ΔVe_0または電圧補正禁止指令ΔVe=0を最終的な電圧補正量ΔVeとして、図1のポンプ駆動電力補正部40に出力する。
【0047】
つまり電圧補正量選択部24は、Sop=ONであれば、算出部23からの電圧補正量ΔVe_0をそのまま最終的な電圧補正量ΔVeとして図1のポンプ駆動電力補正部40に向かわせ、
Sop=OFFであれば、電圧補正禁止指令ΔVe=0を最終的な電圧補正量ΔVeとして図1のポンプ駆動電力補正部40に向かわせる。
【0048】
このポンプ駆動電力補正部40は前記したとおり、図示せざる直流電源の電力をDC/DCコンバータにより所定電圧に変換して、電動オイルポンプ2のポンプ駆動電力Pw_1となすが、この際ポンプ駆動電力Pw_1の電圧を、決定部20で求めた電圧補正量ΔVeだけ補正して、電動オイルポンプ2への供給電力Pw_1を電圧補正量ΔVeによって補正する。
【0049】
かかる電力(電圧)の補正により、エアの吸い込みなどで例えば図3のA1からA2へ移動した(吐出流量が低下した)電動オイルポンプ2の動作点を、同図のA3で示す目標吐出流量補償用の目標ポンプ動作点へと移動させることができ、
エアの吸い込みなどでポンプ容積効率が低下した場合も、電動オイルポンプ2は目標吐出流量を補償し得て、トランスミッション1内における発進クラッチの冷却不足を回避することができる。
【0050】
なおポンプ駆動電力補正部40でポンプ駆動電力Pw_1の電圧を電圧補正量ΔVeだけ補正するに際しては、電動オイルポンプ2の目標動作点(図3ではA3)から求めた目標ポンプ吐出流量に対応する目標ポンプ駆動トルクTop_1が実現されるまで、ポンプ駆動用の一定電力を補正してもよい。
【0051】
<オイルポンプの吐出流量制御>
上記した実施例による一定直流電力駆動式オイルポンプ2の吐出流量制御を、図6のフローチャートに基づき以下に説明する。
ステップS11においては、入力情報であるトランスミッション1の油温TEMPoil、発進クラッチの入力トルクTcin、発進クラッチのスリップ量ΔNcl、路面勾配θ、および発進クラッチの温度TEMPclを読み込む。
【0052】
次のステップS12においては、上記の入力情報を基に、図1のオイルポンプ作動要否判定部10で行ったと同様に電動オイルポンプ2の作動要否判定を行い、発進クラッチが既に高温であったり、近々高温になることが予測され、その冷却用に電動オイルポンプ2を作動すべきであれば、オイルポンプ作動要否信号SopをSop=ONとなし、今のところ発進クラッチの冷却が不要であれば、オイルポンプ作動要否信号SopをSop=OFFとなす。
ステップS12においては更に、この判定結果であるオイルポンプ作動要否信号SopのON, OFFをチェックする。
【0053】
ステップS12でSop=ONと判定する(電動オイルポンプ2の作動が要求される)場合は、ステップS13において、図2の目標動作点算出部21で行ったと同様な要領により、油温TEMPoilおよび補正前供給電力Pw_0から、目標ポンプ吐出流量を実現する電動オイルポンプ2の目標動作点(図3の場合A3)を演算し、このポンプ目標動作点から、一定電力での駆動下で目標ポンプ吐出流量を実現するための目標ポンプ回転速度tNopを求める。
【0054】
次のステップS14においては、図2の減算器22および電圧補正量算出部23で行ったと同様な演算により、、目標ポンプ吐出流量を実現する目標動作点(図3ではA3)への移行を可能にするための電力補正量である電圧補正量ΔVe_0を求める。
【0055】
つまり、先ず実ポンプ回転速度Nop(図3の場合、動作点A2のポンプ回転速度)から、目標ポンプ回転速度tNop(図3の場合、動作点A3のポンプ回転速度)を差し引く演算により、実ポンプ回転速度Nopを目標ポンプ回転速度tNopに一致させて目標動作点A3を実現するのに必要なポンプ回転速度変化量であるポンプ回転速度偏差ΔNop(図3参照)を求める。
次に、当該ポンプ回転速度偏差ΔNopおよび油温TEMPoilから、現在の油温用の図5に例示したマップを基に、目標ポンプ吐出流量を実現する目標動作点(図3ではA3)への移行を可能にするための電力補正量である電圧補正量ΔVe_0を求める。
【0056】
次のステップS15においては、図1のポンプ駆動電力補正部40で行ったと同様な要領で、補正済供給電力Pw_1を実現するための電圧Veを、初期要求電圧Ve_0と上記電圧補正量ΔVe_0との合算により求めて電動オイルポンプ2に指令する。
初期要求電圧Ve_0は、電動オイルポンプ2の初期要求電力として前記した通り、燃費要求や補機類作動状態などのシステム要求によって決まるものであり、電動オイルポンプ2からの要求によって決まるものではない。
【0057】
ステップS12でSop=OFFと判定する(電動オイルポンプ2の作動が要求されない)場合は、ステップS16において、図2の電圧補正量選択部24で行ったと同様にして、つまりステップS12でのSop=OFF判定に呼応して、電圧補正量ΔVe=0とし、これを基に、補正済供給電力Pw_1を実現するための電圧Veを、Ve=Ve_0+ΔVe=Ve_0により求めて電動オイルポンプ2に指令する。
【0058】
<実施例の効果>
上記した実施例の吐出流量制御による効果を以下に説明する。
この説明に先立って、図2の算出部23で求めた電圧補正量ΔVe_0だけポンプ駆動電力の電圧Veを補正しないまま(一定のポンプ駆動電力を補正しないまま)、つまりこの電圧Veを初期要求電圧Ve_0に保って電動オイルポンプ2を駆動した場合(従来)の動作および問題点を、図7のタイムチャートに基づき説明する。
【0059】
図7は、瞬時t1に発進クラッチが締結を開始して、クラッチ入力トルクTcinが図示のごとく立ち上がると共に、クラッチ出力回転速度Ncoutが0から図示のごとくクラッチ入力回転速度Ncinに向け上昇し、
発進クラッチの発熱で瞬時t2に、発進クラッチの冷却(電動オイルポンプ2の作動)が必要になって、オイルポンプ作動要否信号SopがOFFからONに切り替わり、
電動オイルポンプ2からの吐出オイルによる発進クラッチの冷却で瞬時t3に、発進クラッチの冷却(電動オイルポンプ2の作動)が不要になって、オイルポンプ作動要否信号SopがONからOFFに切り替わった場合の動作タイムチャートである。
【0060】
図7の瞬時t2〜t3におけるSop=ONに呼応した電動オイルポンプ2の作動中、ポンプ駆動電力の電圧Veを補正しないで、電圧VeがVe=Ve_0の一定電力により電動オイルポンプ2を駆動する場合、
電動オイルポンプ2が、エアを吸い込まない(容積効率を低下されない)作動条件下であれば、ポンプ回転速度Nopは図7に破線で示す規定通りの速度となり、ポンプ吐出流量Qも図7に破線で示すごとく、発進クラッチの冷却を行うのに過不足のない狙い通りの目標流量Q1となる。
【0061】
よって、電動オイルポンプ2から発進クラッチへ、クラッチの冷却に必要な所定量のオイルが向かい、発進クラッチの冷却を狙い通りに行うことができることから、
発進クラッチ温度TEMPclを図7に破線で示すごとく保証温度TEMPcl_s以下にすることができる。
【0062】
しかし、電動オイルポンプ2が目標吐出流量の急増などによりエアを吸い込み、容積効率を低下されるような場合は、電動オイルポンプ2が容積効率の低下により吐出流量Qを実線で示すごとくに低下され、目標吐出流量Q1を実現し得ない。
なおこの時、ポンプ回転速度Nopが実線で示すごとくに上昇されるが、かかるポンプ回転速度Nopの上昇は、エアの吸い込みによる容積効率の低下に起因するもので、ポンプ吐出流量Qの増量をもたらすものでない。
このため、発進クラッチが冷却不足に陥って、発進クラッチ温度TEMPclが図7に実線で示すように保証温度TEMPcl_sを超えるという問題を生ずる。
【0063】
前記した実施例による電動オイルポンプ2の吐出流量制御にあっては、以下のように上記の問題を解消することができる。
図8に基づき説明するに、この図8は、図7と同じ条件で、電動オイルポンプ2がエアを吸い込むときの動作タイムチャートを示す。
【0064】
瞬時t2〜t3におけるオイルポンプ作動要否信号Sop=ONに呼応した電動オイルポンプ2の作動は、図8に実線で示す一定電圧Ve(一定電力)で行われるが、
本実施例においては、エアの吸い込み(ポンプ容積効率の低下)に起因して図3につき前述したごとくポンプ動作点がA1からA2移動したことで図2の算出部23が求めた目標ポンプ吐出流量補償用の目標ポンプ動作点A3を実現するための電圧補正量ΔVe_0だけ初期要求電圧Ve_0よりも高い電圧Ve(=Ve_0+ΔVe_0)をポンプ駆動電圧とする。
【0065】
つまり、図8の破線で示す従来のポンプ駆動電圧Ve_0(駆動電力)よりもΔVe_0だけ高い、同図に実線で示す電圧Ve(=Ve_0+ΔVe_0)で電動オイルポンプ2を駆動する。
これにより電圧上昇分ΔVe_0(電力増大分)だけポンプ回転速度Nopが、図8の破線で示す従来レベルから実線図示の目標ポンプ回転速度tNop(図3参照)へと上昇され、ポンプ吐出流量Qを、従来はエアの吸い込みにより破線レベル(図7の実線レベルと同じ)まで低下していたところ、本実施例では実線レベル(図7の破線レベルと同じ)Q1に保つことができる。
【0066】
このため、発進クラッチ温度TEMPclを破線レベル(図7に実線で示すと同じ)から実線レベル(図7に破線で示すと同じ)へと低下させて、保証温度TEMPcl_s以下にすることができ、図7につき上述した、エア吸い込み時における発進クラッチの冷却不足に関した問題を解消することができる。
【0067】
なお、この効果を達成するのに、電動オイルポンプ2の駆動電力(駆動電圧Ve)を常に初期要求電圧Ve_0から、エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下分ΔVe_0だけ嵩上げするのではなく、ポンプ容積効率の低下を生じたときのみ、電動オイルポンプ2の駆動電圧Ve(ポンプ駆動電力)をポンプ容積効率低下分ΔVe_0だけ嵩上げするため、
エアの吸い込みなどによるポンプ容積効率の低下が発生しない場合に、ポンプ吐出流量が多すぎて、電動オイルポンプ2が無駄に電力を消費することがなく、電費の悪化を招くという問題を生ずることもない。
【0068】
更に、電動オイルポンプ2の駆動電圧Ve(ポンプ駆動電力)を常に嵩上げする対策を採用した場合のように、電動ポンプの強度要求が高くなることがなく、電動ポンプの高強度によるポンプ摺動抵抗の増大でポンプ駆動電力が多くなって、コスト上の不利益をもたらすこともない。
【0069】
また、本実施例のポンプ吐出流量制御は、電動オイルポンプ2が、一定電力をエネルギー源とする直流モータにより駆動される電動ポンプである場合のポンプ吐出流量制御であるため、電動オイルポンプが駆動制御にインバータを必要とせず、その分だけコスト低減を図ることができる。
【0070】
加えて本実施例では、ポンプ駆動電圧Veを初期要求電圧Ve_0よりも電圧補正量ΔVe_0だけ高くする電力増大補正を、オイルポンプ作動要否信号SopがSop=ONである(電動オイルポンプ2の作動が要求される)場合のみ行うこととしたから、電力増大補正が無駄に行われる愚をさけることができる。
【0071】
そして、電圧補正量ΔVe_0を決定するに際して必要な、一定電力での駆動下で目標ポンプ吐出流量を実現するための目標ポンプ回転速度tNopを求めるに当たり(目標動作点算出部21)、
油温TEMPoilおよび補正前供給電力Pw_0から、目標ポンプ吐出流量を実現する電動オイルポンプ2の目標動作点(図3の場合A3)を演算し、このポンプ目標動作点から図3につき前述したように目標ポンプ回転速度tNopを求めるため、
エアの吸い込みなどによる容積効率の低下に係わるパラメータに応じて電圧補正量ΔVe_0を決定することとなり、この電圧補正量ΔVe_0が、容積効率の低下によるポンプ吐出流量の低下を過不足なく正確に補い得て、上記の効果を更に顕著なものにすることができる。
【0072】
なお、図1におけるポンプ駆動電力補正部40でポンプ駆動電力Pw_1の電圧を電圧補正量ΔVeだけ補正するに際し、前記した通り、電動オイルポンプ2の目標動作点(図3ではA3)から求めた目標ポンプ吐出流量に対応する目標ポンプ駆動トルクTop_1が実現されるまで、ポンプ駆動用の一定電力を補正する場合も、
電圧補正量ΔVe_0が、容積効率の低下によるポンプ吐出流量の低下を過不足なく正確に補うものとなり、上記の効果を顕著なものにすることができる。
【0073】
<その他の実施例>
上記した実施例では、電動オイルポンプ2がトランスミッション1内の発進クラッチを冷却するためのものであることとして説明したが、電動オイルポンプ2は、トランスミッション1内の他のクラッチを冷却するためのものであってもよいし、トランスミッションに限らず、任意の対象物を冷却するためのものであってもよい。
また、吐出流量制御の対象である電動ポンプは、電動オイルポンプに限られず、オイル以外の液体を吐出するものであってもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 トランスミッション
2 電動オイルポンプ(電動ポンプ)
10 オイルポンプ作動要否判定部
20 電圧補正量決定
21 目標動作点算出部(目標ポンプ回転速度演算手段)
22 減算器(ポンプ回転速度偏差演算手段)
23 電圧補正量算出部(ポンプ駆動電力補正手段)
24 電圧補正量選択部
30 ポンプ回転速度センサ(ポンプ回転速度情報検出手段)
40 ポンプ駆動電力補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定電力に応動する直流モータにより駆動され、目標吐出流量を実現するようにした電動ポンプにおいて、
前記一定電力での駆動時に前記目標吐出流量を実現するための前記電動ポンプの目標ポンプ回転速度を演算する目標ポンプ回転速度演算手段と、
前記電動ポンプの実ポンプ回転速度に係わるポンプ回転速度情報を検出するポンプ回転速度情報検出手段と、
これら手段からの信号を基に、前記目標ポンプ回転速度に対する実ポンプ回転速度のポンプ回転速度偏差を演算するポンプ回転速度偏差演算手段と、
該手段で演算したポンプ回転速度偏差を基に前記一定電力を、実ポンプ回転速度が目標ポンプ回転速度に向かうよう補正するポンプ駆動電力補正手段と
を具備してなることを特徴とする電動ポンプの吐出流量制御装置。
【請求項2】
前記電動ポンプの吐出液が冷却に用いられるものである、請求項1に記載された、電動ポンプの吐出流量制御装置において、
前記ポンプ駆動電力補正手段は、前記冷却すべき対象物の実温度および/または温度変化要件から前記電動ポンプの作動要否判定を行って、電動ポンプの作動不要判定時は前記一定電力の補正を禁止するものであることを特徴とする電動ポンプの吐出流量制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された、電動ポンプの吐出流量制御装置において、
前記目標ポンプ回転速度演算手段は、前記補正が行われる前のポンプ駆動電力と、電動ポンプが送給する液体の温度とから、目標ポンプ吐出流量を実現するための電動ポンプ目標動作点を求め、この電動ポンプ目標動作点から前記目標ポンプ回転速度を求めるものであることを特徴とする電動ポンプの吐出流量制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載された、電動ポンプの吐出流量制御装置において、
前記ポンプ駆動電力補正手段は、前記電動ポンプ目標動作点から求めた、目標ポンプ吐出流量に対応する目標ポンプ駆動トルクが実現されるまで、前記一定電力を補正するものであることを特徴とする電動ポンプの吐出流量制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−113289(P2013−113289A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263349(P2011−263349)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】